ステルス戦闘機とは

先端技術実証機の初飛行

-はじめに-

上記の写真は、今年4月22日に初飛行を果たした国産の“先端技術実証機”が名古屋空港を離陸する時の姿です。航空自衛隊の主力戦闘機であるF15JやF2支援戦闘機(地上及び海上支援)の後継機としてステルス性の高い(敵レーダーに発見されにくい)航空機が求められていることから、日本のこの分野での技術基盤を確立する為に開発されてきた航空機です。機体は三菱重工、エンジンは石川島播磨重工が開発を担当しました。
新聞等に登場する第?世代の戦闘機という表現は、定義がやや曖昧ですが、ステルス性電子装備、戦闘能力などの面で、どれだけ能力が高いかでランク付けがされています。現在、米軍や航空自衛隊で主力の戦闘機として活躍している、F15、F/A18、などは第4世代、F2やF15改良型、F/A18改良型は第4.5世代、米軍しか保有していないF22、自由主義陣営の航空先進国で共同開発したF35第5世代の航空機とされています。因みに今年から日本にが導入されるF35は、ベトナム戦争のころ大活躍したF4(ファントム)を更新す機材として導入されます

F35A_自衛隊
F35A_自衛隊

先週の新聞に、ボーイング社が航空自衛隊の次期戦闘機の共同開発を提案してきたという記事が出ていました。F35の例でも分かる様に、第5世代戦闘機の開発には巨額の投資が必要で、米国ですら共同開発を選択せざるをえなかったほどです。ご存知の方も多いと思いますが、日本はF35導入を決める前に、今もなお最強の戦闘機であるF22の導入を打診したことがありましたが、米国議会の反対にあって導入ができませんでした。基幹技術の海外流出には、国の生存が関わっているのでやむを得ない事かな、というのが私の感想です。因みに、現在韓国が戦闘機の開発を行っていますが、要となる装備品の提供を米国に拒否され、当初目指していた性能は出せなくなっている様です

振り返ってみれば、自衛隊のF1支援戦闘機の後継機で日本は自主開発を目指しましたが、日米の貿易摩擦の影響で、要となるエンジンの提供が得られず、F16をベースとした日米共同開発となってしまった歴史があります。今回の“先端技術実証機”の開発では、機体とエンジンを全て自主開発しているので、量産型機の自主開発が可能かとも考えられますが、巨額の投資が必要なこと(特に日本では自主開発しても輸出することが極めて難しい事情も重なります)、電子装備品で一部米国に頼らねばならない可能性もあり、米国との共同開発が最適の選択だと私は考えます。尚、“先端技術実証機”のステルス性、エンジンの先端性が、F22と同レベルか凌いでいれば、F22の導入が米国議会で承認される可能性も考えられます。ロシアが開発中の第5世代戦闘機“T50”の開発配備状況、米国の主力戦闘機であるF15,F/A18の後継機の検討状況によっては、F22の導入に道が開けるかもしれません

第5世代の戦闘機の導入は、自主開発にしろ、F22の導入にしろ巨額の資金が必要となることは言うまでもありません。今後この計画が具体化するにつれ、導入資金額を単純に福祉予算や災害復旧予算と比較する議論も昔と同様盛んになると思われます。しかし私は、「専守防衛」を国是にしている日本には絶対に必要な防衛装備であると考えています。何故なら、装備の劣る仮想敵の侵略の意図を挫くことができると同時に、仮に理不尽な敵の侵略があった場合でも、数で劣る自衛隊員の命の損耗を回避することによって戦力の維持が可能になるためです

最近は少しましになりましたが、日本で防衛に関する議論をする時に、具体的な数字の議論を避ける傾向があります。確かに防衛装備というものは、如何に敵に勝る攻撃力があるか(⇔殺傷能力が高いか)議論するわけですから、70年以上平和に暮らしてきた日本人にとっては相当違和感のある話である事は確かです。しかし、巨額の税金を投じる以上、その投資効果について国民一人一人が避けずに議論することが必要であると考えます

先の大戦の初めの頃、「ゼロ戦」は無敵を誇り、パイロットの損耗率は殆どゼロだったと言われています。これは「ゼロ戦」の速度航続距離旋回性能が卓越していたからです。日本が無残な敗戦に至る過程で、米軍のレーダーによる索敵能力の向上、米軍戦闘機の性能向上があったことで、「ゼロ戦」の卓越性が失われ、“優秀なパイロットの損耗制空権の喪失”という負の連鎖がありました
現在の戦闘機にこれを当て嵌めれば、「ステルス性能」と「飛行性能」が卓越性のカギを握っています。偶々、現役時代から愛読している“Aviationweek & Space Technology” の“7月4~7日号”に、「ステルス性能」と「飛行性能」について、F22とF35の比較が出ていましたので紹介いたします。尚、出来るだけ平易な日本語にするため、若干の意訳を交えたことを予めお許し頂ければ幸いです

-ステルス性能の基礎知識- 

ステルス性能とは;
ステルス性能とは:敵レーダーに発見されにくい性能
レーダーによる探知とは:電波を発射し、目標物から反射してくる電波をキャッチして、目標物の速度、進行方向、大きさ、などを探知すること
レーダーからの反射波は、レーダーの送信機や受信機の内部で発生するノイズやクラッターの影響を受けるので、反射波の信号強度がこれらよりも大きくないと目標物を発見できません
レーダーのクラッター(Clutter)とは:目標物以外の地面、海面、雲、雨などからのの反射波

ステルス性能を表す尺度  : 「“RCS”/Radar Cross Section」といい、形、大きさ、電波の反射率、などに違いがある目標物を、標準となる金属製の球の断面の反射波と比較して標準化した指数です
RCSによるステルス性能の比較
**人間のDCSは1㎡
**第4世代航空機:10~15㎡
**第4.5世代航空機:1~3㎡
**第5世代航空機:ゴルフボールの断面(0.0014㎡)以下

*2014年から配備を始めたロシアの最新鋭機(SU35)が装備しているレーダーは400km先のRCS:3㎡の目標物を探知できるとされており、これを上記に当てはめると、SU35が探知可能となる距離は概略以下の通りです;
**第4世代航空機:540~600km先から探知可能
**第4.5世代航空機:300~400km先から探知可能
**第5世代航空機/F35:58km先から探知可能
**第5世代航空機/F22:36km先から探知可能

従って、F35、F22が装備している空対空ミサイルAIM120は100km以上の距離から発射できるので、SU35に発見されない間に発見し撃墜することが可能となります。また、ロシアの最新鋭の地対空ミサイル(S-400;射程380km)とセットになっているレーダーの能力はRCS:4㎡の目標を250km先から探知可能とされており、F35、F22は地上からの攻撃に対しても十分なステルス性能を持っているという事が出来ます(ロシアのデータはいずれも米軍専門家による推定値)

RCSの値は、レーダー波の周波数、目標物は形状、見る角度などで異なります。
**レーダー波の周波数については、現在の火器管制レーダー(索敵、ミサイルの目標追尾、など)で使用されている周波数がXバンド(8~12ギガヘルツ)帯なのでこの周波数帯が一番重要となりますが、他の周波数帯でのステルス性も重要です
**目標物を見る角度は、実際の航空機の飛行高度、レーダーの運用条件などを考えると、水平方向:±45°、上下方向:±15°が重要になります

-ステルス性能を向上させる手段-

ステルス性能を向上させるには、 レーダー波の反射波を敵レーダーに向かわせない形状にすることと、 レーダー波を吸収させること の二つの方法があります。通常①の方法の寄与率が90%、②の方法の寄与率が10%と言われています

レーダー波の反射波を敵レーダーに向かわせない形状
レーダー波が入射する方向と反射する方向との関係は、ビリヤードのボールが、縁で撥ねかえる様子(入射角と反射角が等しい)を想像すればいいと思います。つまり直角に当たらない限り入射した方向には反射しないということです
従って、エンジンの空気取り入れ口コックピットレーダー波が反射を繰り返す様な複雑な構造は、レーダー波の入射方向に反射してしまう可能性が高くなります
エンジンの空気取り入れ口の反射を防ぐ方法には、網状のシールドの設置取り入れ口内部にブロッカー設置蛇の様に曲がりくねった空気取り入れ口の構造などがあります
第4世代機までは、装備されている武器類(爆弾、ミサイル)、補助燃料タンクなどはパイロンと言われる構造で主翼や胴体に吊るされていますが、これらはステルス性能に悪影響を与えますので、第5世代機では胴体内に格納することにしています(→結果として機体のサイズが大きくなる)。
ミサイルは丸い胴体で、尾部に十字型の安定翼があり且つ前部には目標を追尾するレーダーが装備されている為、レーダーを反射しやすい形状になっています
翼の前縁(Leading Edge)や後縁(Trailing Edge)、翼端(Wing Tip)はどうしてもレーダーの入射方向に反射してしまう部分ができるので、空気力学的な性能を犠牲にしても可能な限りナイフのように鋭い形状にします

F22:ナイフの様な翼前縁部
F22:ナイフの様な翼前縁部

胴体の面、動翼の面、翼の前縁・後縁、割れ目、などからの反射波が出来るだけ限られた角度に集中するように全体のデザインを調整します

② レーダー波を吸収させる方法;
レーダー波は電磁波(一般的には“電波”と呼んでいます)なので、金属などの導電体に当たるとそこに高周波電流が流れます(←ラジオやテレビのアンテナはこの原理で電波の信号を受け取っています)。この電気エネルギーを熱に変えてレーダー波のエネルギーを吸収させる導電体のことを“RAM(Radar Absorbent Material)”と言います
コックピットのキャノピー(操縦席を覆う風防)には極薄(数ナノメートル程度)の導電性の金属膜(金、または“酸化インジウム・スス”)で覆われています。“酸化インジウム・スズ”とは、酸化インジウムに数パーセントの酸化スズを混ぜたもので、液晶パネルや有機ELパネルに使われている材料です
機体の外装面上をレーダー波が通過すると、外装面に高周波電流が流れます。この電流が外装面(RAMで覆われている)の材料の繋ぎ目などで遮断されると、これが電波として再び放射されます(高周波電流の流れる距離が長ければ熱になって減衰する為に電波の再放出を防ぐことができます)。従って、こうした場所(例えば武器庫や膠着装置のドア類、アアクセスパネルなど外板との繋ぎめ)には導電性のテープを張る、あるいは導電性物質の詰め物をして高周波電流が長い距離流れるようにする必要があります

上:F22 下:F35
上:F22 下:F35

-F35とF22の性能の比較-

*F35A:日本が今年導入するタイプ。他にF35B(垂直離着陸可能)、F35C(航空母艦の艦載機)のタイプがあります
*F22A:実戦配備済みのタイプ
F35はF22と比べてコストを下げる為に設計上かなりの妥協を行っています

両機のステルス性能、戦闘能力、価格の違いは以下の通りです;
① 有視界を超える遠距離での戦闘能力
**RCS:F22A/0.0002㎡ ⇔ F35A/0.0013㎡
**装備レーダーRCS 1.0㎡ の目標物を探知できる距離:F22A/240km ⇔ F35A/207km

② 有視界での戦闘能力;
**翼面荷重(小さい程俊敏に動ける):F22A/317kg/㎡ ⇔ F35A/420kg/㎡
**エンジン推力の方向制御(可能であれば予測が難しい運動が可能):F22A/可能 ⇔ F35A/不可能
**迎え角の限界(大きい程運動能力が高い):F22A/限界無し(垂直に上昇できる⇔機体重量より推力が大きい) ⇔ F35A/50°まで
**Distributed Aperture System(最新の電子工学分散開口システム;6つの赤外線カメラで捉えた映像を合成して前後・左右・上下の死角をなくすことができる):F22A/無し ⇔ F35A/有り

③ 空対空ミサイルの内臓数(機体内に内蔵);
**AIM120(長距離用):F22A/6基 ⇔ F35A/4基(6基に増が可能)
**AIM9(短距離用/サイドワインダー):F22A/2基 ⇔ F35A/無し

④ 地上攻撃用兵器の搭載能力
**大型爆弾搭載能力;F22A/1,000ポンド爆弾2基 ⇔ F35A/2,000ポンド爆弾2基)
**電子光学照準システム:F22A/無し ⇔ F35A/有り

⑤ 飛行性能
**最高速度(アフターバーナー無し):F22A/マッハ1.7 ⇔ F35A/マッハ1未満
**最高速度(アフターバーナー):F22A/マッハ2以上 ⇔ F35A/マッハ1.6
**最高到達高度:F22A/65,000フィート ⇔ F35A/50,000フィート
**作戦遂行半径:F22A/約1,200km ⇔ F35A/1,300km

⑥ コスト
**1機当り調達コスト(110円/USD):F22A/250億円 ⇔ F35A/110億円(自衛隊機の場合、日本で生産される為ライセンス料が加算されてかなり高額になる)
**飛行時間当たりの運航コスト(110円/USD):F22A/600万円 ⇔ F35A/350万円

以上