条約・航空協定の歴史

はじめに

20世紀初頭に登場した航空機が、第一次世界大戦を経てその有用性(主として高速性)が広く認識されるようになり、軍事用のみならず商用にも広く利用されるようになってきました。その後、第二次世界大戦前後の急速な技術的進歩(高速性+大量輸送能力)によって国境を越えた商用目的の輸送にも極めて有用であることが一般的な認識となりました(詳しくは「1_航空機の発達と規制の歴史」参照)

しかし、国境を越えた旅客・貨物の輸送を行うには、まず主権(裁判権、関税自主権、国内法の適用、etc)の及ぶ範囲外国機が自国の領土内で飛行することに伴う安全性の担保(航空機本体の安全性、操縦する人の技量、etc)、自国機が外国の領土を飛行することに伴う安全性の担保(飛行ルートの安全性、使用する飛行場の安全性、各種飛行援助施設の整備、etc)、などについてしっかりした取り決めが必須となります。従って、国際間の航空輸送を行うには、他の輸送システムとは違って、上記に係る共通の取り決めを多国間の条約によって保障する必要があります

また、航空輸送をビジネスの面で捉えた場合、ビジネスの機会は基本的に国家間で平等であるべきことは自明のことです。しかし航空輸送を行うためのインフラ(航空輸送ビジネスの規模、国自体の経済規模、etc)は、国により格段の差があり平等なビジネスの機会を保証するには自由競争に任せることは必ずしも適切ではありません。特に第二次世界大戦が終わった時点では、航空輸送ビジネスの主役になるべき先進国は、米国を除き戦災で経済が破綻状態になっていました。こうした背景から、国際間の航空輸送ビジネスは、他の輸送ビジネスとは違って、二国間の条約や国際協定によって幾つかの規制を行ってバランスを取る必要がありました

以下に、航空に係る条約や国際協定について、具体的な事例を基に説明をしていきたいと思います

シカゴ条約

1944年11月、シカゴで第二次大戦の戦勝国を中心として、52ヶ国が参加して開催された国際民間航空会議(Convention on International Civil Aviation)で合意に至った多国間の民間航空輸送の基本的な取り決めを「シカゴ条約」と呼んでいます。正式名称は「国際民間航空条約」といいます

条約の骨子
輸送権領空主権空港使用関税航空機の国籍事故調査、などに係る国際間の共通ルールの設定
* 上記を管理・運用する国連の専門機関として「国際民間航空機関ICAO/International Civil Aviation Organization)の設立 ⇒ 1947年4月に設立されました
日本は、サンフランシスコ条約で独立を果たした後、1953年10月に加盟しました。現在192ヶ国がこの条約の締約国(1918年4月19日現在のICAO締約国リスト)となっています。ICAOの中心的な意思決定・執行機関は理事会で、選挙で選ばれた36の加盟国から構成され、現在日本は理事国として活動しています

条約の狙い
航空機の管理システムを確立し、運航の安全確保、航空機の技術的な問題に関する締約国家間の協力を図ること
② 航空運送に関わる以下の2種類の協定の制定を締約国に促すこと
国際航空運送協定路線、輸送力に関する協定の締結)
国際航空業務通過協定(上空通過と技術着陸のみを行う場合の協定 ⇒ この協定を選択する場合は別途二国間協定が必要

条約の効果
締約国の航空法は基本的にほぼ同じ内容となり、自国の航空法で規制できない外国航空機の領空内の運航(領空通過、離着陸)について安全が保障されることになりました。因みに、日本の航空法には以下の通りこの条約を遵守する義務が掛かれています;
航空法・第一条:この法律は、国際民間航空条約の規定、並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め、並びに航空機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して輸送の安全を確保するとともにその利用者の利便の増進を図ること等により、航空の発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする

シカゴ条約の主な内容
Chapter-1一般原則と条約の適用範囲);
① 条約締約国の領空の主権を認める
② 条約締約国の領空通過、着陸は協定の締結、又は許可取得が必要
<参考>
第一の自由:他の当事国の領域を無着陸で横断飛行する特権
第二の自由:運輸以外の目的のため、他の当事国の領域に着陸する特権
第三の自由:航空機の国籍のある国の領域で積み込んだ旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み卸す特権
第四の自由:航空機の国籍のある国の領域に向かう旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み込む特権
2国間の旅客・貨物の輸送を行うには上記の第三、第四の自由が必要になります

第五の自由:第三国の領域に向かう旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み込み、または第三国の領域からの旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み降ろす特権(以遠権例えば、日米間の航空協定の中で、日本の航空企業が、ニューヨークからサンパウロ(ブラジル)間の運航を行い、米国からの旅客、郵便物及び貨物をニューヨークからサンパウロに運ぶこと、また逆に、ブラジルからの旅客、郵便物及び貨物をサンパウロからニューヨークに運ぶ権利のことを以遠権といいます

Chapter-2条約締約国の領空における飛行);
条約締約国同士では定期便以外の領空通過、技術着陸を事前の許可無く行うことができます
定期便については、「国際航空運送協定」、あるいは「2国間協定」がない限り領空通過、着陸を行うことができません
*国際航空業務通過協定:第1及び第2の自由についての取り決め
*国際航空運送協定:第1~第5の自由についての取り決め
③ 各条約締約国は、他の締約国による自国内地点間の運航、運送(カボタージュ/Cabotage ⇔ 国内運航の権利を行うことを拒否することができます。但し、全ての締約国に対し等しい例外許可条件を設ければ許可することが可能
使用する空港を指定することができます
⑤ 貨物・旅客の出入国管理・通関・権益に関する法規は当該国のものを遵守しなければなりません
⑥ 航空に適用される法規も、航空機の国籍の如何に関わらず当該国のものを遵守しなければなりません
⑦ 料金については自国機と差別することはできません

Chapter-3航空機の国籍);
航空機は登録国の法規に従って登録を受けた国の国籍をもっています
② 締約国全てに対して、航空機の登録情報の開示、及び航空機に登録国の表示を義務付けています
<参考> 航空機登録番号の割当て

航空機登録番号
航空機登録番号

Chapter-4航空輸送を促進する手段);
① 締約国は、航空機で使用する燃料、潤滑油、予備部品、貯蔵品、装備品については免税措置を行う義務があります
② 締約国は、航空機の国籍に係らず、遭難した航空機の救援措置を行う義務があります。また、遭難したと思われる航空機の捜索活動に協力する義務があります
③ 締約国は、重大事故(死傷者を伴うもの、航空機、施設に欠陥を示唆するものがあるもの)が発生した場合、ICAOが勧告する方式(ICAO Annex 13:Accident and Incident Investigation)に従って事故の調査を行う義務があります
尚、重大事故が発生した場合、航空機の登録国にも調査に立ち会う権利を付与されると共に、随時調査内容の報告を受ける権利があります
④ 締約国は、ICAOの勧告に従って、国内に空港・無線施設・気象施設・他、の航空施設を作る義務があります
⑤ 締約国は、通信手段・符号・信号・証明、その他運航上の実施方式や規則に関わるICAOの標準様式を採用する義務があります
⑥ 締約国は、航空地図、チャート(例:Aeronautical Charts_USAICAO EN-ROUTE CHART_日本の刊行に際し、国際的な取り決めに協力する義務があります

Chapter-5航空機が備えるべき要件);
締約国は、航空機を運航する際、以下の書類を常に搭載している義務があります;
① 航空機の登録証明書、② 航空機の耐空証明書、③ 各乗務員のライセンス、④ 航空日誌(ログブック)、⑤ 航空機局免許状
② 搭乗している旅客の氏名乗機地目的地を記載したもの
③ 搭載している貨物の積荷目録及び細目申告書(軍需品、軍用機材は搭載してはなりません)
Chapter-6国際標準
① 航空運送を容易にする為に統一が有用と考えられる事項は最大限の協力を図ること(例:航空機、航空従事者、航空路、等)
耐空証明については国際標準に一致しない場合は、その差異の詳細が裏書されること
航空従事者についても国際標準に一致しない場合は、その差異の詳細が裏書されること
Chapter-7 ~22 省略

国際民間航空条約・付属書(ICAO ANNEX) の構成
以下は、ICAO理事会で採択された基準や推奨手順のタイトルです。それぞれのタイトルの意味に係る詳しい説明は「ICAO ANNEX_各タイトルの説明」(英語)をご覧ください。尚、それぞれのタイトル毎の内容は相当量あり、ICAOのサイトで出版されています(下記①の例:ICAO ANNEX1 Personal Licensing  );
Personnel Licensing(航空従事者技能証明)
Rules of the Air(運航上の規則)
Meteorological Service for International Air Navigation(航空気象)
Aeronautical Chart(航空地図、チャート)
Units of Measurement to be used in Air and Ground Operation(航空機の運航に必要となる情報の単位)
Operation of Aircraft(航空機の運航:商業輸送、ジェネラルエイヴィエイション、ヘリコプター)
Aircraft Nationality and Registration Marks(航空機の国籍及び登録記号)
Airworthiness of Aircraft(航空機の耐空性)
Facilitation(国際空港に必要とされる施設、機能)
Aeronautical Telecommunications(航空通信)
Air Traffic Service(航空管制)
Search and Rescue(行方不明機の捜索・救難業務)
Aircraft Accident and Incident Investigation(航空機事故調査)
Aerodromes(飛行場)
Aeronautical Information Services(航空情報業務)
Environmental Protection(環境保護)
Security-Safeguarding International Civil Aviation Against Acts of   Unlawful Interference(セキュリティー対策)
Safety Management(安全管理)

二国間航空協定_一般

「はじめに」で述べた通り、国によって航空輸送を行うためのインフラに大きな差があり、結果として全ての国が同じ条件で協定を結ぶには無理があります。因みに;
商用航空輸送の先進国では、巨大な航空会社が既に存在し、高いビジネス上の競争力を持っているため自由化を求めます(例:米国)
中継貿易を国策としている国は一般に、自由化によってのみ他の政策との調和が図れるため自由化を求めます(例:シンガポール、アラブ首長国連邦、など)
* 一方、空輸送の後進国では、自国の航空会社が発展途上にあり、ビジネス上の競争力が脆弱であるため、自由化には消極的になるのが普通です

バミューダ協定
第二次世界大戦終了後の1946年、戦勝国であるものの戦災で経済が破綻状態となってしまったイギリスと、戦勝国で唯一実質的に戦災が無く、経済が絶好調であった米国との間で、シカゴ条約の下で最初の航空交渉が行われ、両国の間で二国間航空協定が締結されました。交渉が大西洋上のイギリス領バミューダで行われた為、通称「バミューダ協定」呼ばれています
この協定は、以下の基本的な権利関係をベースとしているため、以後の二国間航空協定の見本となりました;
互恵平等の原則
運航路線、便数の相互指定
運航する航空企業の特定(指定航空企業)

協定の中で取り決めが行われる主な内容;
参入路線、便数:経済力や国土の大小、人口の多寡に関わりなく均衡が図られることが普通です
運賃:両国の認可が必要な場合が多い(基本的に発地国建てであるため、為替の変動により内外価格差ができます)。また、IATAの協定運賃(詳しくは「エアラインの営業とは」をご覧ください)を採用する場合もあります
路線運営を行う航空会社:両国で同数の航空会社を指定する(“指定航空企業”)ことが多い
 航空自由化(オープンスカイとは、上記の参入路線・便数、運賃、路線運営を行う航空会社、などの制限を撤廃することです

以下、日本に係る典型的な二国間航空協定を取り上げ、それぞれの協定の特徴、歴史的変遷について概略を述べてみたいと思います

日米航空協定

1951年にサンフランシスコ平和条約が締結された後、日本も国際線の運航が可能となり、まず最初に最も重要な日米間の運航を行うために日米間の航空交渉が行われました。その結果、1953年に日米航空協定(正式名称:日本とアメリカ合衆国との間の民間航空運送協定)が締結されました。主な内容は以下の通りです;
第1条:シカゴ条約の遵守
第4条:1又は2以上の指定航空企業の指定
第5条:相互に第1~第4の自由を認める(一部路線で以遠権を認めている)
第7条:相互に運航する航空機の耐空証明を認める
第13条:運賃は両国の認可が必要

付表(参入路線・便数)
<日本側の権益>
日本=(中部太平洋の中間地点)=ホノルル=サンフランシスコ=以遠地点
日本=(北太平洋及びカナダの中間地点)=シアトル
日本=沖縄=以遠地点 ⇔ 敗戦後施政権は米国にあった
<米国側の権益>
米国=(カナダ、アラスカ、及び千島列島の中間地点)=東京=以遠地点
米国(属領を含む)=(中部太平洋の中間地点)=東京=以遠地点
那覇=東京(←沖縄は米国の施政権下にありました)

1954年国際線初就航時のタイムテーブル

上記を見ればわかる通り、敗戦国日本の実力を反映して、以遠権(第5の自由)について米国に有利な協定になっています。その後、日本経済の成長に合わせ11回の修正(詳しくは日米航空交渉の歴史(1959年~1998年)参照)が行われた後、2009年12月に至り、オープンスカイ協定日米オープンスカイ合意の概要参照)が結ばれました

内容を要約すると以下の通りです;
1.自国内地点、中間地点、相手国内地点及び以遠地点 のいずれについても制限なく選択が可能であり、自由 にルートを設定することができる
2.便数の制限は行わない(ただし、航空企業は通常の 手続きにより希望する空港の発着枠を確保する必要があります
3.参入企業数の制限は行わない
4.コードシェア同一国・相手国・第三国の航空企業とコードシェア 等の企業間協力を行うことができる
5.航空運賃の設定については、差別的運賃等一定の要 件に該当するものを除き、企業の商業上の判断を最大 限尊重するとともに、可能な限り迅速な審査を行う

日露(日ソ)航空協定

日本にとってロシアとの航空交渉(ソ連邦崩壊前はソ連との航空交渉)は、2国間の輸送量の取り決めと言うよりは、大圏コース(最短距離の空路)に近いロシア領空(シベリア上空~モスクワ上空)を通過して日本とヨーロッパ各国との間の路線運営を行う権益の取り決めを行うということでした。
ロシア領空を通らないルートは、アンカレッジを経由して北極上空を通過することとなりますが、このルートは距離が長くなるため、時間がかかり(片道数時間の差がでます)燃料費も増加することになります。また、飛行時間が延びるということは高価な航空機の路線占有時間が長くなるために航空機材効率が悪くなります。戦後、日本とヨーロッパ諸国との経済関係は飛躍的に発展し、それに伴って旅客・貨物需要も急速に増加してゆきました。こうした背景から、日露間(ソ連邦崩壊前は日ソ間)の航空交渉は以下の通り頻繁に改正を繰り返しました

尚、日露(日ソ)航空協定で特徴的なことの一つに、通常の航空協定で外国航空会社に課せられる着陸料、駐機料、航行援助施設使用料、等の他に、シベリア上空通過に高額の料金が課せられることです。これは上記の飛行時間の短縮に伴う燃料費減等のコスト削減、旅客利便性の向上、航空機材効率の向上、などに見合うものと考えられますが、シカゴ条約の精神に反するとも考えられます。尚、この上空通過料金は、航空協定とは別の商務協定で決められています

日本とソ連との間で最初に日ソ航空協定が締結されたのは1967年3月3日です。この航空協定の主な内容は以下の通りです
第2条:第1~第4の自由を相互に認める
第3条:日ソ間の運航を行う航空企業の指定
第7条:運航回数、機種、輸送力に係る合意の必要性
第8条:米ドルによる送金の自由
第9条:航空施設利用に関わる互恵主義、燃油費等の非課税
第12条:駐在員数の合意の必要性
* 運賃に関わる取り決めは、この協定に含まれていません

付属書 Ⅰ ;
*日本の就航路線:東京=モスクワ=第三国内の諸地点
*ソ連の就航路線:モスクワ=東京=第三国内の諸地点
*指定航空企業:(日本/日本航空ソ連/アエロフロート
付属書 Ⅱ ;
*安全運航に必要な情報の提供義務
*ICAO、WMO(世界気象機関)の標準方式、手続きを出来る限り採用すること(但し、ソ連邦内の航空管制に使われる高度の指示はメートル法を使用)
*情報の提供、機長との情報交換、等における英語使用の義務

以後、1969年~1994年の間、主として「付属書Ⅰ」に関して多くの交渉と改正が行われました。また、ソ連邦崩壊に伴い、1994年からは名称が日露航空協定に変わっています。詳しくは日露(日ソ)航空協定の歴史(1969年~1994年)をご覧ください

その後、2011年12月1日に、翌年3月末日からの夏季スケジュール以降、以下の内容で合意し、大幅な自由化が図られました;
1.日本側企業に係る運航の枠組み;
シベリア上空通過便に係る制約の大幅緩和通過便数の大幅拡大など)
コードシェアの大幅拡大(あらゆる種類のコードシェアを可能とする;コードシェア便数の上限撤廃)
③ 日本・ロシア間の中間地点の設定(ロシア内の経由地)
2.ロシア側企業に係る運航の枠組み;
① 成田路線のロシア側輸送力の拡大
② 日本側の①~③をロシア側にも設定

日中航空協定

日本と中国との航空協定は、第二次大戦後中国を代表することとなった中華民国(台湾)と1949年に台湾を除く中国全土を掌握して誕生した中華人民共和国(以下“中国”と呼びます)との間の国際政治における地位の変遷によって大きな影響を受けました
日本と中華民国は、1955年3月15日に航空業務に関する日本国と中華民国との間の交換公文を交わし、日本と台湾、香港、ベトナム、韓国などの都市を結ぶ路線運営について協定を結び、相互に運航を開始しました。この路線を運営する航空企業として日本側は日本航空、 中華民国(台湾)側は中華航空が指定されました

1971年10月、国連総会で、アルバニア(当時は共産圏)が提案した「中華人民共和国に中国代表権を認め、中華民国(台湾)を国連から追放する決議」が採択されました
また、1972年2月21日のニクソン大統領の電撃的中国訪問に始まる米中国交回復の流れに沿って、日本も1972年9月29日に田中角栄首相が中国を訪問し、日中共同声明(日中戦争の戦後処理についても言及していますのでちょっとご覧になることをお勧めします)に調印しました。この声明の中で、日本は中華人民共和国を中国の唯一の合法政府であることを認めています。また、貿易、海運、航空、漁業等の事項に関する協定の締結を目的として、交渉を行うことに合意しています

1974年4月20日、日中共同声明を受けて概略下記内容の日中航空協定が締結されました;
第2条:第1~第4の自由を相互に認める
第3条:日中間の運航を行う航空企業の指定(1~2社)
第10条:運賃の認可制
第11条:日本円、人民元による送金を認める

付属書;
*日本の就航路線:東京=上海 AND/OR 北京=(南回りヨーロッパ線の寄港地)
*中国の就航路線:北京=東京=太平洋線

この条約発効に伴い日本航空による日本=台湾路線は運休。替わって日本アジア航空(日本航空の100%出資子会社;乗員を含む主だった社員は日本航空から移籍しました)により、1975年8月から日台路線の運営が行われるようになりました。また、中国民航(中国側の指定航空企業)と中華航空が主要空港(成田空港)で“鉢合わせ”をすることが無いように、日本アジア航空と中華航空は、例外的に羽田空港を使用することになりました

その後、日中間の経済関係が強まることに合わせて、寄港地点の増加、指定航空企業にANAを追加(1992年、福岡=大連線就航)が行われました。また、日台路線にはANAの子会社エアニッポンが参入(1994年、福岡=台北線就航)しました。

2007年になって、日本航空による日台路線の直接運航が認められることとなり、2008年4月に日本アジア航空は日本航空に統合され、日本航空が日台路線の運営を継承しました。尚、エアニッポンは2012年4月にANAに吸収合併され、路線運営もANAが継承しています

日中路線については、その後数次にわたる付属書の改正を行った結果、2012年8月8日の国土交通省の報道発表によれば、以下の内容で日中が合意しています;

【合意の概要】
1.日中間の段階的なオープンスカイの実現
① 北京及び上海、成田及び羽田を除く、日中間輸送のオープンスカイ(航空自由化)の実現(合意時に直ちに実施)。
② 上記4空港に係る航空自由化については引き続き検討。
③ 北京、上海、成田関連路線の増便に適切に対応できるよう枠組みを拡大(合意後直ちに実施)する。

2.羽田路線の増便
(1)羽田空港の昼間時間帯
① 2013年3月末から下記を実施
・羽田=上海(浦東空港/上海中心部に近い空港):日中双方2便/日ずつ。但し、将来的に上海(虹橋空港)の国際枠が増加する場合には、上海(浦東空港)から上海(虹橋空港)への振替が可能
・羽田=広州:日中双方2便/日ずつ

② 国際線の発着枠が3万回から6万回に増加する段階から下記を実施
・羽田=北京:日中双方2便/日ずつ

(2)羽田空港の深夜早朝時間帯
2013年3月末から下記を実現
・羽田=中国内地点:日中双方2便/日ずつ

尚、2012年 年7 月30 日時点における日中双方の乗入れ地点、参入している航空企業についてはを日中路線の運航状況ご覧ください。日中両国にとって巨大な市場に育っていることが分かると思います

日本サウジアラビア航空協定

サウジアラビアは、日本にとって最大の原油供給国であり、また政治・宗教面で中東地域の盟主的存在でもあるものの、航空需要の観点からはそれ程重要な路線では無い為、極めて標準的な航空協定となっています
協定の交渉は、2006年11月に第1回交渉を行い、2007年2月に第2回交渉で概要が固まり、その後文言調整等を経て2008年年8月には協定が署名されました。協定の重要なポイントは以下の通りです;

航空協定の主な内容;
第3条:航空企業の指定(企業の名称は協定、付属書には明記されていません)
第4条:第1~第4の自由
第12条:運賃の認可制;運賃調整に関わる国際的な仕組の利用(IATA運賃:詳しくはエアラインの営業とはを参照)
第14条:送金の自由(交換可能な通貨で)
第16条:ICAO標準の遵守義務

付属書の内容;
日本の路線
日本国内の地点=中間地点=ジェッダ(イスラム教の聖地)、リヤド(首都)、ダンマン
サウジアラビアの路線
サウジアラビア王国内の地点=中間地点=大阪、名古屋
両国の指定航空企業は路線運営に当り、起点は自国内、他の地点は省略することが可能

おわりに

これまで述べてきたように航空協定とは、安全運航互恵平等の原則を基に国際間の商用航空輸送を円滑に行うために考え出された仕組みです。經濟先進国と発展途上国との間では、自ずと自由競争を制限する幾つかの制約(乗入れ地点、運航便数、運賃、第1~第5の自由、他)を設ける必要があります。国際商用航空輸送のルールの起点となったシカゴ条約の締結から70年以上が経過し、多くの先進国間では程度の差はありますが既にオープンスカイ協定が結ばれ(オープンスカイ協定の進捗について_国土交通省)、制約の多くが撤廃されました。しかし、二国間の航空需要が未成熟である国と日本との間では、未だに航空協定が結ばれていない国も少なからず存在します
* 参考:2018年11月19日・20日、 外務省において,日本・クロアチア航空協定に関する第1回政府間交渉が開催されました

一方、オープンスカイ協定を結んだ国同士でも、第5の自由(以遠権)については、自国の航空企業を守るためにある程度制限があることが普通です。また、カボタージュを認めている国はEU域内の国同士を除き殆どありません。因みに、EU域内の国々の国内線はカボタージュを認めたために弱肉強食の世界となり、Ryan Airや easyJetという大規模なLCCに国内線の輸送がとって代わられました。ただ、外国からの旅客の国内区間の輸送に関してはコードシェアを活用することにより国内航空企業を生かした運送が可能となっています

日本の航空企業にとっては、多くの旅客・貨物需要のある国々とはオープンスカイ協定によって国際線の運営が経営上極めて厳しい状況になってきつつあります。これまで空港発着枠の制約から外国社の乗り入れを謂わば合法的?に制限することができましたが、関西空港、中部空港の24時間運用、成田空港の運用時間帯の拡大(早朝、深夜)、羽田空港の新たな着陸ルートの運用開始、などにより受け入れ便数枠が年々拡大してきています(参考:国際線直行便運航状況_2018年冬ダイア)。日本の航空企業の国際線運営にとって、「High Yield(高単価)旅客の積み取りを優先」し、「搭乗率を高めるためのLow  Yield(低単価)旅客の積み取り」という単純なイールド・マネージメント(詳しくはエアラインの営業とは参照)だけでは、供給シェアがじり貧となり外国社を含めた相対的な地位の低下が避けられません。こうした経営環境の中で、日本航空の新たな国際線LCC(ZIPAIR Tokyo/ジップエア・トーキョー;2021年運航開始)設立という戦略が生まれたのではないかと推測しています。日本航空のOBとして密かに?応援したいと思っています

以上