B737MAXの墜落事故について

はじめに

昨年10月29日、インドネシアのLCCであるライオン航空のB737MAXが離陸後すぐに墜落しました。また、今年3月10日にはエチオピア航空の同型機がやはり離陸後すぐに墜落いたしました。この二つの事故の原因に類似性があることが分かり、3月13日には全世界で飛行中の約370機が、各国の航空当局から飛行禁止の命令が下されるという、近年には稀な事態となりました
このB737MAXという航空機は、2017年5月に引き渡しを開始した後、既にデリバリーされている機体を含め百社以上から約5,000機の発注を受けているベストセラー機であり、現在ボーイング社で月産52機のペース(⇒今年末には月産57機となる予定)で生産されています。因みに、この最新鋭機の技術的な仕様は以下の通りです;

737MAX Technical Specs
737MAX Technical Specs

多くの航空会社が導入しつつあり、導入する各社は今後の路線便数、航空機材計画の中心的な役割を果たすことが予定されており、今回の飛行禁止命令は全世界で注目されています。また、日本国内でも2020年からANAが30機の導入を計画しています。新聞等での報道もありますが、最近入手したAviation Weekの記事に現在までの事故の解析及びボーイング社が考えている対策が載っていましたので概略ご紹介をいたします(詳しく知りたい方は”B737MAX Accidento Chaos_25MAR’2019 Aviqtion Week & Space TechnologyB737MAX Accidento Chaos_25MAR’2019 Aviqtion Week & Space Technology”をご覧ください。尚、上表”Technical Specs”を含め、ボーイング社のウェッブサイトからも必要な情報を転載しています

事故の概要

1.ライオンエア610便墜落事故;

http://toboe.onenote.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/Lion-Airの事故機と墜落までの飛行ルート
ライオンエアの事故機と墜落までの飛行ルート

2018年10月29日午前6時20分、ジャカルタ郊外のスカルノ・ハッタ空港を離陸したB737MAX(2018年8月受領)は、離陸後約10分で消息を絶ちジャカルタ北部の海上に墜落、乗員・乗客189名全員が死亡しました。墜落付近の海域で、Flight Data Recorder(パイロットによる航空機の操作や機体の位置、気圧高度、速度、など機体の運動状態、その他多くのデータを記録しています)Cockpit Voice Recorder (操縦室内の会話を記録しています)が回収されています。インドネシア航空当局から、「Flight Data Recorder からの情報で機体のAOA(迎え角:以下 AOAと表記します;Angle of Attack)センサーのデータが左右で20度食い違っていたこと、副操縦士から管制官に飛行高度を確認するように要請があり、飛行制御に問題があるとの報告があったこと」が発表されています

AOA(迎え角)とは・センサーの位置
AOA(迎え角)とは・センサーの位置

2.エチオピア航空302便墜落事故;

エチオピア航空機と事故現場
エチオピア航空機と事故現場

2019年3月10日午前8時38分、アジスアベバのボレ国際空港を離陸したB737MAX(2018年11月受領)は約6分後に墜落し、乗員・乗客157名全員が死亡しました。墜落機のパイロットは、墜落数分前に管制官に対して運航上のトラブルを報告し、空港に引き返す許可を求めていました。墜落現場付近で、Flight Data Recorder と Cockpit Voice Recorder が回収されており、エチオピア航空当局からの依頼でフランスが解析を実施しています

事故機の飛行記録から事故原因を推定する
両事故機の対地速度と上昇・沈下速度の比較
両事故機の対地速度と上昇・沈下速度の比較

上表は、ライオンエアの事故については、回収されたFlight Data Recorder から得られたデータを使用していますが、右のエチオピア航空の事故については、ADS-B(下記”参考1”参照)というシステムから得られるデータを使用しています。尚、上表で比較を行う場合、縦軸のスケールが違うことに注意してください
上表で明らかなように、墜落前の両機の飛行状況は非常に似通っています。また離陸直後の速度が低い状況下で短周期で上昇・沈下を繰り返しており、極めて不安定な飛行状態であったことが分かります

<参考1> ADS-Bとは
ADS-Bという名称は、”Automatic Dependent Surveillance-Broadcast”の頭文字を取っています。このシステムを使って、ATC Transponder(航空機に対して質問電波を発信すると航空機が持っている今の情報を返信してきます)を装備した航空機について以下の様な情報が入手できます;
①飛行機の登録番号、②飛行機の位置情報(経度、緯度)、③飛行機の速度(水平速度、上昇・下降速度)、④飛行機の高度(GPSからの情報と気圧高度計情報)、⑤飛行機の進行方向、⑥その他

FAAのADS-Bシステム概念図
FAAのADS-Bシステム概念図

また、ライオンエアのFlight Data Recorder から、事故前日と、事故当日(⇒墜落)の機体の水平尾翼の操作状況と水平尾翼のPositionの記録を読み取ったものが以下のグラフです;

水平尾翼の操作、動きの記録
水平尾翼の操作、Positionの記録(Aviation Week 2018年12月10-23 Editionから転載)

ライオンエアでは事故前日に、同じ機体で水平尾翼の異常な動きが一時的に発生し、すぐに正常な飛行に戻ったことが読み取れます。この情報はパイロットから地上整備士に報告され、事故当日出発前に点検・整備が行なわれたことがエチオピア航空から発表されています。ただ、適切な整備が行われたかどうかは現在までのところ分かりません
事故機は出発後すぐに、水平尾翼が MCAS(下記”参考2”参照)というシステムで自動的に小刻みに”Nose Up”側に動かされているのに対し、パイロットは適宜手動で”Nose Down、Nose Up”側に動かしています。その後、MCASが自動的に”Nose Down”側のみの動きを続けパイロットはその動きを止めようと”Nose Up”側にトリムを行っていますが、最終的に墜落前には水平尾翼の”Nose Down”側のトリム量は相当大きな値になっています(⇒地上に向かって急降下?)

737MAX Cockpit内の水平尾翼マニュアル・トリム関連装備
737MAX Cockpit内の水平尾翼マニュアル・トリム関連装備

こうした情報から、MCASによって水平尾翼が”Nose Down”側へ異常なトリムを繰り返し、パイロットの手動操作(水平尾翼の手動トリム+昇降舵)ではこれをコントロールできなかったことが事故の一つの原因ではなかったかと推測できます

<参考2> MCASとは
MCASという名称は、”the Maneuvering Characteristics Augmentation System “の頭文字をとっています。B737MAXから装備されているソフトウェア(B737NG以前のB737シリーズには装備されていません)で、名称の意味から判断すると、パイロットの操縦操作をサポートするシステムの様です
MCASは、フラップを出していない状態でマニュアル操縦で上昇を行っている(自動操縦を行っていない)時に、ピッチングの安定性を向上させるためのシステムです。因みに、機体のAOAの情報は、機体の両サイドにあるAOAセンサーの一つから得ており、一フライト毎に信号を受け取るセンサーを左右入れ替えています。

ボーイング社は多くの737シリーズを販売しており、これらのシリーズ間でパイロットが同じ様な感覚で操縦できるようにするため(例えば、航空会社によっては、B737NGを操縦した人が、翌日B737MAXを操縦することは頻繁に起こると考えられます)であり、B737MAXの型式証明(型式証明に係る詳しいことは「3_耐空証明制度・型式証明制度の概要」を参照してください)を取得するときにFAAからも要求されていたものです
同じB737シリーズでこの様な追加的なシステムが必要になった原因は、B737MAXから装備されることになった新しい高性能エンジン(CFM Leatp1)が、迎え角が大きい時にそれまでのエンジン(CFM56シリーズ)より大きな”Nose Up”のモーメントを発生させるからであると説明しています

737NGと737MAXのエンジン位置比較
737NGと737MAXのエンジン位置比較

こういう新しいシステムを導入しているからには、このシステムに誤動作が発生した場合、パイロットがどの様な操作を行えば正常な飛行状態に戻せるかに関して十分な訓練を行なう必要があると考えられます

現在検討されている対策

ライオンエアの事故以降、ボーイング社は事故の解析を行い、以下の様な対策を行う準備を進めています;
1.MCASの改修について
新しいソフトウェア・パッケージ(EDFCS:Enhanced Digital Flight-Control System)を開発し、B737-7をテストベッド機としてテストを行っています。従前のシステムからの変更のポイントは以下の3点です;①MCASを自動起動するときのロジックの変更、②AOA情報の入力方法改善、③水平尾翼のトリム・コマンドの制限
この変更によって;㋑システム全体の冗長性(Redundancy/想定外事象に対する対応力)の向上、㋺AOAセンサーからの間違った信号入力に対する水平尾翼トリム量の制限、㋩MCASによるトリム量を制限することによって水平尾翼の本来の機能を維持することが可能になると説明しています

ボーイング社としては方針は定まったものの、上記方針全体を完全に具体化するに至っていません。例えば、上記㋺のAOAセンサーの件については、追加的なセンサーを設ける方法以外に、現有の2台のFlight Control Computerに入力されている左右のAOAセンサーの信号をMCASに入力する方法も検討されています
また、上記㋩の水平尾翼のトリム量については、MCASからの新しいトリム入力に対して、水平尾翼のトリム量は1ユニットのみに制限すること、などを考えています。因みに現在のMCAS(事故機に装備)では、AOAセンサーが決められた”Nose Up”の範囲(専門用語で”閾値”といいます)を超えると、1秒当たり0.27° “Nose Down”方向に動かし、9.3秒間で、最大トリム量は2.5ユニットまで動かせるように設計されています

2.パイロット、整備士が使用するマニュアルの変更について
ボーイング社は、現在以下のマニュアル類の変更を検討しています;
①Flight Crew Training Manual(パイロットの訓練に使用するマニュアル)
②Airplane Flight Manual(パイロットが操縦するときに何時でも参照できるようにしている操縦時必携のマニュアル)
③Flight Crew Operation Manual(パイロットが操縦するときに何時でも参照できるようにしている操縦時必携のマニュアル)
④Quick Reference Handbookのspeed trim check list に新しい”注”を加える(出発時、飛行中のトラブル発生時にパイロットが参照するマニュアル)
⑤Airplane Maintenance Manual(整備士が整備を行う際に使用するマニュアル)
⑥Interactive Fault Isolation Manual(トラブルの修理を行う際、トラブルの原因を迅速に特定する為に使用するマニュアル)

3.AOAセンサーの不具合に対する対策
左右のAOAセンサーの情報が食い違っていた場合に、コックピットの最も重要な計器にその表示を行うこと( DISAGREE primary flight-display alert:参考3)
尚、この機能はB737NGでは標準装備になっていましたが、B737MAXではオプションとなっており、事故を起こしたライオンエアのB737MAXでは、このオプションは採用されていませんでした

<参考3> この警告表示を表示する条件
左右のAOAセンサーの値が10°以上ズレて、且つそれが10秒以上続いた場合に警告が表示されます

今後の推移

“はじめに”でも述べた様に、既に370機のB737MAXが航空会社に引き渡され、3月10日までは飛行を行っていた訳ですから、航空会社によってはこの機材が支えていた航空路線を維持するのは大変な負担になっていいるはずです。また、パイロットの資格は殆どの国で型式限定になっているため、他の型式の航空機で路線運営を代替することは簡単にはできません
一方ボーイング社としても、今のところ月産52機の生産を維持していますので、次々と完成していく機体を置いておく場所にいずれ困ってしまうはずです

こうしたことから、この原稿を書いている時点で、ボーイング社は可能な範囲で既に改修の提案(SB:Service Bulletine/SBに関する詳しい説明は7_Hardware に係る信頼性管理をご覧ください)を始めています(MCASの改修提案 by Boing
また、B737MAXの型式証明を行った米国のFAA(Federal Aviation Administration:連邦航空局)も面子にかけて運航許可に向けてボーイング社と協力作業を行っていると思われます

従って、かなり早期(1~3ヶ月?)にボーイング社のSBがFAAによってAD化(改修命令)され、この改修が済み次第、米国での運航が再開されるのではないかと思われます。続いてFAAとの協力関連が強いカナダ(ボンバルディア社がある為)、やEU諸国(エアバス社がある為)でも運航許可を出すものと思われますが、中国や事故のあった国であるインドネシアやエチオピアは、そう簡単にはいかないような気がします

また、今回の事故によって痛手を受けた航空会社は、B737MAXのオプション契約分をエアバス機(A320neoなど)に切り替える動きが出てくる可能性は高いものと思われ、今後の航空機商戦は予断を許さない状況が続くと思われます

A320neo vs B737MAX
A320neo vs B737MAX

今後、AD(Airworthiness Directives@米国;耐空性改善通報@日本)が発行され次第このブログに追加的に情報を記載していきたいと思っています。また、運航再開以降になると思われますが、ライオンエアの事故機に関してはインドネシア航空当局から、エチオピア航空の事故機に関してはエチオピア航空当局から正式な「事故報告書」が発行されるはずです。これらの事故報告書の内容についても適宜追加的にブログに記載していこうと思っています

Follow-Up:2019年4月6日、737MAXを2割減産発表 ⻑期停⽌に備え

Follow-Up:2019年4月12日、190412_737 MAX SOFTWARE UPDATE

・・・その後の進展状況_①・・・

2019年4月15日、Aviation Week_April08-21_Fixing the MAXにエチオピア航空、ET302便のFlight Data Recorderの解析が出ていましたので、その要約を報告します;

ET302 Preliminary FDR Data_説明用
ET302 Preliminary FDR Data_説明用(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

上のデータには19個のパラメータ(①~⑲)について、出発から墜落に至るまでの時系列の推移がグラフになっています。尚、時系列の単位は、UTC(世界標準時/日本はUTC+9時間)で表示されています;
凡例:05:37:00:5時37分:0秒;横軸1目盛で3秒の間隔

ET302便のFlight Data Recorder の解析;

05:37:45:正常に出発;10秒後位からエンジンンの出力UP(②参照)
05:38:39:離陸(⑨参照)
05:38:45:左右のAOAセンサーの値が乖離(⑫参照/左74.5°Nose Up、右15.0°Nose Up)
<参考> エチオピア航空当局による事故後の調査で異物が当った形跡は無かった
05:38:45:左のAOAの過大なNose Upの信号により、左の操縦桿のStick Shakerが起動(③参照;その後ずっと起動したまま)
<参考> 起動したStick Shakerの動画(ネット情報):https://youtu.be/NtQqb7rstrQ

05:38:49~05:39:18:手動によるNose Up、Nose Dowmのトリムを繰り返す(④参照)
05:39:21:Auto Pilot “ON”(⑯参照)
05:39:24~:Auto Pilotによる自動トリム(⑬参照;ほぼNose Down側)
05:39:45:離陸を継続しフラップ引き込み開始、15秒後に引き込み完了(⑲参照)

05:39:57:Auto Pilot “OFF”(⑯参照)⇒ MCASが自動的に起動し、MCASによるトリムがが始まる(⑬参照)
05:40:00~05:40:09:左のAOAセンサーの誤った入力信号によりNose Down方向にトリムが行われ、水平尾翼のPitch角が4.6ユニットから2.1ユニットに変化し(⑭参照)、機体は上昇から降下に変わった(①参照)
 05:40:09:パイロットの操縦桿にあるトリムスイッチによりNose Up側に操作され(④参照)、水平尾翼のPitch角が2.4ユニットに戻した
05:40:20:左のAOAセンサーの誤った入力信号(⑫参照)で、再びMCASによりNose Down方向にトリムが行われ(⑬参照)、水平尾翼のPitch角が0.4ユニットまでNose Downまで下がった(⑭参照)
05:40:27~05:40:37:パイロットの操縦桿にあるトリムスイッチによりNose Up側に操作され(④参照)、再び水平尾翼のPitch角が2.4ユニットに戻った(⑭参照)
05:40:42~15:40:51:MCASによりNose Down方向にトリムが行われ(⑬参照)たものの、Pitch角は変わらなかった(⑭参照)

15:40:51:パイロットがMCASの電源を切った(MCAS電源のON/OFFは上表のパラメーターには入っていません。記事後半にON/OFFした事が書いてありますので、④のデータの推移から筆者がタイミングを判断しました)

05:41:46:Voice Recorderより)機長が副操縦士に対してマニュアル操作でNose Upにできるか?」と聞いたところ、副操縦士はできない」と答えた
05:41:46:この時点の左の対気速度は340kt(ノット;時速630キロ)、右はそれより20~25kt速かった(⑪参照)。(Voice Recorderより)Over Speed Warning が鳴り、パイロットは管制官に空港への引き返しを要請し、許可を得た
05:43:11:水平尾翼のPitch角が2.1ユニットまでNose Down方向に下がり(⑭参照)、パイロットが2度トリムスイッチによりNose Up側に操作した(⑬参照)結果、水平尾翼のPitch角が2.3ユニットに戻った(⑭参照)

05:43:21:再びMCASの電源を入れた(MCAS電源のON/OFFは上表のパラメーターには入っていません。記事後半にON/OFFした事が書いてありますので、④のデータの推移から筆者がタイミングを判断しました)

05:43:22:水平尾翼が自動的にNose Down方向に動き、5秒でPitch角が1.0ユニットに下がった。その後急激に速度を上げつつ(⑪参照)、高度が下がり(⑩参照)、約25秒後に地上に激突

関係者の現時点でのコメント抜粋;

1.Flight Data Recorder、Voice Recorder の解析を担当しているエチオピア航空当局(ボーイング社、FAA/連邦航空局、NTSB/連邦事故調査委員会、EUの航空当局、フランスの航空当局も協力して事故調査を行っています)は、事故機のパイロットはボーイング社のマニュアル通りの操作を行っていたと述べています(⇔この件は、ボーイング社による事故の賠償金額に大きく影響するはず)

2.ボーイング社では;
A)パイロットがMCASの異常事態に際し、操縦桿にある手動トリムでの対応を継続し、迅速なMCASの停止操作を行わなかったために事故に至ったと考えている
B)ボーイング社の「水平尾翼が暴走した時に行うべきチェックリスト(「Runaway Stabilizer Procedure」/B737NGと同じ!)」では、「MCASの電源」を切ってからマニュアルトリムを行うことになっている

3.FAAは、一連のB737MAXの事故のケースを見ると、Part121エアライン(大型の商用機を運航するエアライン)のパイロットは異常な飛行状態失速、背面飛行からの回復、対気速度の計器が信頼できなくなった時、など)から回復する訓練をシミュレーターで行う必要があると考えている。しかし、現在ではエアラインが保有しているシミュレーターの能力には問題があると考えている。因みに、米国のエアラインは、こうした異常飛行の訓練に対応できるB737MAXのシミュレーターを持っていない

Follow-Up:2019年4月25日、ボーイング機運航停⽌の影響広がる 再開めど⽴たず

Follow-Up:2019年4月27日、⽶航空⼤⼿、ボーイング機運航停⽌で⽋航コストかさむ

Follow-Up:2019年5月4日、ボーイング、開発でパイロットの意見求めず_米紙報道

・・・その後の進展状況_②・・・

2019年5月5日、Aviation Week_April22-May05に以下の様な記事が出ていましたのでご紹介します;

MCAS改修の内容がかなり明確になってきました

MCASのソフトウェアの新旧を比較したものが以下の図になります;

MCASソフトウェア_新旧比較
MCASソフトウェア_新旧比較(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

改修のポイントは;
1.左右のAOAセンサーの、① 左右の迎え角にで5.5°以上の乖離があった場合、② 突然迎え角の値が跳ね上がった(spike)場合、③ 迎え角の変化が尋常でなかった(unreasonable)場合、MCASによるコントロールを停止する
2.パイロットによるピッチ・コントロール(Nose-Up、Nose-Down の操作)は、MCASのコントロールに優先する。またMCASによる水平尾翼のコントロールは、閾値(しきい値:予め設定された値)を超えれば停止する
3. MCASは、AOAの迎え角が変わった時、一回だけ水平尾翼のコントロールを行う。また、パイロットが手動でトリムを行った場合、5秒後にMCASがコントロールを再開する最初のソフトウェアのルールを廃止した

4.パイロットが操縦する際、最も重要な表示装置であるPFD(Primary Flight Display)のイメージは、改修実施後に以下の様になります;

New PFD Image
New PFD Image(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

上記のイメージの説明;
* 左側のPFDのイメージはノーマルなケース、右側のPFDのイメージはAOAの情報が異常であった場合の表示です
* 両方のイメージで、左の帯状のスケールは対気速度(kt:マイル/時間)を表し、右側の帯状のスケールは気圧高度を表しています。対気速度の帯の右側にある赤と白のまだらの細い帯状の表示は失速の警告が出る大気速度の範囲を表しています
* AOAの迎え角が大きく乖離した場合(右側のPFDイメージを参照)、右下に「AOA Disgree」の表示が出ていることが見て取れます。また、機体の速度は169ktで失速速度145ktよりも十分速いにも拘わらず、左の失速の警告が出る範囲になっているのが分かります(⇔失速の警告が出ても失速する心配が無いのが分かる)

5.FAAの当局者によれば、上記改修は5月下旬~6月初旬に承認される見込みとのこと。ただし、この承認後米国のエアラインは早期に運航再開することが考えられますが、米国外のエアラインの運航再開は見通せません(←各国の航空当局の判断)

ボーイング社の今後の新機種開発計画に対する影響(識者の意見)

ボーイング社は、米国で多く使われているB757/B767の後継機種の開発計画(NMA:New Midmarket Airplane)を持っていましたが、今回のB737MAXの事故によって、計画の進捗は明らかに遅れています
今回の事故で明らかになったように、B737MAXの機体設計は明らかに新しい高性能のエンジンを搭載する条件を満たしていません(バイパス比の大きいエンジンを搭載するには機体と地上とのクリアランスが小さすぎる)。また、既にこのクラスの受注競争においてもA320NEOに遅れを取っていることも明らかになっています。従って、ボーイング社としては、2025年~26年にはNMBの投入が是非とも必要となると思われます(⇔B737MAX8、9、10の差し換え需要を含めて/筆者の意見)

Follow-Up:2019年7月15日、ボーイング機の運航再開、20年に延びる可能性 米報道

Follow-Up:2019年7月19日、ボーイング、運航停止で補償費用5200億円 年間利益の約半分

Follow-Up:2023年3月23日、JAL、ボーイング737-8型機 21機の購入契約を締結

以上