高齢者スキー技術の実践_その2

前回の投稿(高齢者の為のスキー技術を実践してみました!)で、生意気な理論を振りかざし、“ほぼ理論通りの滑りが出来た!”かの様な報告を致しましたが、証拠になるものは何も提示できませんでした
今回、私のスキー仲間(上の写真:ほぼ全員が私よりスキー歴が長く、技術レベルも遥かに上を行っているスキーヤーです)と一緒に北海道のルスツスキー場で滑ることができ、私の滑降中の動画を撮ってもらうことができました。以下の連続写真は、動画から起こした写真をターンに合わせて並べてみたものです;

谷回りターンの分解写真
谷回りターンの分解写真

これまでの投稿で申し上げてきた通り、この滑降スタイルの狙いは、筋力が無くバランス感覚が衰えた高齢スキーヤーが、安全にスキーを楽しむ為のものです。このスタイルのポイントとして挙げたことは;
 腿を立てて滑ることによって脚部の負担を減らすこと( ⇔ 歩くときの姿勢に近く、比較的高い姿勢になります)
スキーをズラすことによって、スキーの速度を一定に保つこと
でした

また、この滑りを実現するためには、以下のポイントが重要になります;
回転を始める前に必ずニュートラル・ポジション(斜面に垂直に立つ)をとること
回転は山側にスキーをズラすことから始めること
最大傾斜線を越える前後は、しっかりとスキーをズラし、速度をコントロールすること
山回りの回転に入ったあとは、徐々にスキーをズラす量を減らし、一定速度を維持すること

上記のポイントを分解写真と比べていただくと、ほぼ狙い通りの滑りになっており、また結果としてターンしている間は“外向・外傾”の姿勢が保たれていると思いますが、如何でしょうか?

名残惜しいのですが、今シーズンの私のスキーはこれで終わりになります。来シーズンの課題としては、ターン後半の山回りの部分をもう少し美しく見せる為に、ターン前半部で軸となっていた山足を、山回りになって軸としての役割を終えた後、どう操作すればいいのかについて研究してみたいと思っています

以上

MRJの開発、また遅れるんですか?

-はじめに-

世界の航空関係者で購読している人が多い“Aviation Week & Space Technology”の最新号(2月6~19日号)の表紙に上記写真の様な衝撃的なタイトル!が踊りました。“YS-11”が1964年に初飛行して以来絶えて無かった国産旅客機の再登場で航空関係者のみならず、国民の多くが期待をかけている“MRJ” が2015年に初飛行してから既に一年以上が経過しているにも関わらず先が見通せない状況に陥っているのでしょうか、航空ファンとしては心配なところです
国内の新聞報道(“また延期・引き渡し20年に”;“導入延期・パイロット採用にも影”)では引き渡しが遅れる理由はよく分からなかったのですが、上記雑誌の記事(“A&W記事”)には過去の遅延(今回が5回目)も含め、遅延の理由とその評価が解説してありましたので、本件に興味を持っている皆様にご紹介したいと思います

-MRJとは-

“MRJ”という名称は“Mitsubishi Regional Jet”の頭文字を取っています。読んで字の如く、大型機を飛ばすだけの需要が期待できないものの旅客単価の高い相応の需要が期待できる路線に特化することを狙った60席~100席クラスの小型ジェット機です。今後20年間の世界の需要は5千機にも上ると言われており、カナダのボンバルディア社、ブラジルのエンブラエル社などこのクラスの航空機製造に実績のある航空機メーカーも経済性の高い新型機の開発にしのぎを削っています。中国も開発を進めておりますが、米国で耐空証明を取る気配が見えないので、当面は国内需要が狙いであると思われます

“MRJ”の最大のセールスポイントは、その高い経済性にありますが、これはプラットアンドホイットニー社が新しく開発した燃費の良い新型エンジンを装備していること、日本の得意分野であるCFRP(炭素繊維複合材料)をふんだん使った軽量化を行うこと、などによって実現しようとしています
現在開発している機種は、76席の“MRJ70”と90席の“MRJ90”です。この2機種に加え、近い将来100席の“MRJ100”の開発も視野に入れています

また、最先端技術の粋を集めている航空機の開発は、産業の裾野も広く“技術立国”日本としてはどうしても実現したい夢でもあります。因みに、国の規制機関である経済産業省や国土交通省も、補助金の交付や開発環境の整備などで開発当初からバックアップを行っています
国産機とは言っても、使用する部品の約7割が外国製であると言われており“どうして国産機と言えるんだ!”という意見もありますが、実は民間航空機の製造で一番ノーハウが詰まっている部分は、耐空証明取得のプロセス(詳しくは“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”をご覧ください)です。因みにボーイング社の最新鋭機である787は日本で約3分の1が製造されていますが、米国産の航空機であるということに異議をとなえる人はいないと思います。最新の航空機は、航空機メーカーが世界の優良企業を選んで国境を越えたサプライチェーンを作って製造しているのが実態で、エアバス機も例外ではありません
<参考> “MRJ”の主要なサプライヤー:“Parker Aerospace”、“UTC Aerospace Systems”、“Rockwell Collins”、“ナブテスコ”、“住友精密工業(株)”

“MRJ”は現在まで航空会社や、航空機リース会社から約400機の契約(オプション契約も含む)を取得しており、日本においてもANAは25機、JALは32機導入の契約を結んでいます

“MRJ”についてさらに詳しく知りたい方は、“MRJ”開発の主体となっている三菱航空機(三菱重工の100%子会社)の2014年のプレゼンテーション資料(“MRJの開発状況”)をご覧ください

-これまでの開発の足どり-

開発の足どり
開発の足どり

1.開発開始:2008年
“MRJ”の本格的な開発が始まった(業界用語で“ローンチ/launch”といいます)のは2008年です。この時、顧客への引き渡し時期は2013年に設定されていました。つまり開発期間は5年間だったことになります。航空機の開発には莫大な投資が伴いますので、通常ペーパープランの段階で確定契約を行って開発リスクをシェアしてくれる顧客が必要になりますが、“MRJ”ではANAがその役割を担いました。この顧客の事を“ローンチ・カスタマー/Launch Customer”といいます

2.1回目の遅延:2009年
最初の遅延は開発開始後17ヶ月後の2009年に行われました。これは主翼の構造をCFRP(炭素繊維製)から金属製に変更すること、胴体の断面積を増加させること、及び電子装備品と貨物のスペース配分の変更することという大きな設計変更になりましたが、これに伴う開発期間の延伸は僅か3ヶ月であったため大きな議論は呼びませんでした。

3.2回目の遅延:2012年
2012年に三菱航空機は、“製造過程、及び技術的な解析に係る書類が規則通りに揃っていなかった”という理由で引き渡しを2年遅らせるという発表を行いました。ここで三菱航空機は、“この遅延は技術的な問題ではない”と説明しておりますが、実は遅延の本当の理由は“型式証明取得に係る経験の不足”であり、ここから“型式証明取得という“困難で不愉快な挑戦”が始りました。型式証明取得とはどんなことを行うのかについては、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”をご覧になれば概要を理解することができると思います

4.3回目の遅延:2013年
2013年には、型式証明を取得するのに必要となる新しい組織監視の仕組みである“ODA/Organization Delegation Authorityを導入するために1年の遅延が必要になった”と発表致しました。ただ、この発表のタイミングはやや奇異なことでした。何故ならODA導入の義務化については2009年に既に公となっており、本来なら2012年の遅延に反映されているべきものだったからです
私は、“ODA”の仕組みについて詳しくはありませんが、考え方としては、規制当局が人的なリソースに限界があるために規制作業の一部(と言っても業務量の90%程度:“FAA’s ODA Program Announcement Lette”)を被験者に行わせ、且つ責任を持たせる仕組みであり、パイロットの技量管理の仕組みや認定事業場の仕組みなど(“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”)にも取り入れられています。“ODA”の仕組みを全体として俯瞰してみたい方は“ODAに係るルール_Order 8100-15”の目次だけでもざっとご覧いただくことをお勧めします。このルールに適合させることがいかに大変か分かるのではないでしょうか

5.4回目の遅延:2015年
2015年末には、“試験飛行を実施する為に更なる時間が必要”となり、引き渡し時期が更に1年延期されました
試験飛行に関しては、開始時期が半年ほど遅れていたことと、試験飛行計画のプロセスで地上での準備作業の時間をもっと確保すべきであったこと(この件は、米国の専門家/“U.S. expert”が三菱航空機に対して既にサジェスチョンしていたことでした)が原因があったようです

6.今回の遅延(5回目):2017年
今回の遅延の理由は、“異常事態/extreme events(例えば床下への水漏れ、爆発/explosionなど)が発生した時の電子・電気機器類/the avionics and electrics)の回復性/resiliencyの問題”であり、この問題を解決するには、“ワイヤリングのルートを変更し、電子・電気装備品収納スペース/avionics bay内の装備品の再配置が必要”となったことです。この設計変更を行うために更に2年の引き渡し時期の延伸が必要になると発表されました

また、発表の際の追加的な説明は以下の通りです;
今回の遅延は新しい要求項目(certification requirement)が出てきた為でなく、これまでの要求項目(“Electrical Wiring Interconnection Systemsに係る耐空性要求項目”)理解不足にあった
<参考>  通常航空機の開発期間は極めて長期に亘る為、新型式の耐空証明を取得する際に適用される耐空性基準(certification basis)は5年以上前のものが使われることになっています。2008年に開発が始まった“MRJ”については、2013年以前に型式証明を受けるとすれば、2008年の“certification basis”に従えばいいのですが、引き渡しが2020年(耐空証明の取得は2019年)になった場合、“certification basis”は2014年のものが適用されることになります。しかし、2008年と2014年の耐空性基準の違いは全体として僅かであり、且つ今回の設計変更に係る基準は2008年以前に既に存在していたものでした

今回の設計変更の準備は既に始めており、今後数ヶ月の内に詳細設計に入る予定
今回の設計変更に伴って1~2回の追加試験飛行が必要と想定
製作された5機のプロトタイプの内4機は今回の設計変更をしない機体のままで試験飛行を継続する
2015年11月の初飛行から、日本の航空当局の監督下で実施してきた400時間の試験飛行は型式証明試験として有効
今回の設計変更に伴う耐空性の検証は、主として熱や電磁的な評価を行うことになり、これまで行ってきた検証作業と重複は無い
今回の設計変更に伴う構造設計の変更は不要。機体の構造強度に関わる検証は既に完了している
静強度試験に投入されている2機の内の1機で実施された主翼の究極荷重試験で運用上の最大荷重の150%で破壊が起こらないことは昨年11月に確認されている(今後この試験は破壊が起こるまで継続)

この遅延によって、ANAの初号機の引き渡しは2020年の後半となり当初5年を想定していた開発期間は12年以上となりました。これに伴って開発に必要な資金は膨大(“開発費5000億円に”)となりますが、三菱航空機は、“苦労して手に入れた経験は次の航空機開発に役立てたい思っている。また投資回収期間は伸びるかもしれないが、各会計年度の収支へのインパクトは極小化できる”と語っています
また併せて、“商用航空機生産のビジネスは参入障壁が高く長期間に亘る取り組みが必要であるものの、三菱重工はこれに適した企業であり、今後“MRJ”を越える優れた航空機の生産を目指し、MRJプロジェクトとは別に“Future Advanced Technology Development Team”を立ち上げ、次世代航空機のコンセプトに係る戦略とこれに不可欠な先端技術の開発を行うことにしている”とも語っています

-Aviation Week & Space Technologyのコメント-

2016年8月31に“Aerolease Aviation” と2018年に引き渡す契約を結んでいたにもかかわらず、その後4週間もたたないうちに購入契約を結んだ全ての顧客に対して引渡し遅延の可能性(2018年には引き渡しが無く、引き渡しは1年以上遅れる旨の内容)を通告していることを勘案すると。この設計変更の問題は突然発生したのではないかと考えられる。その後、4ヶ月に亘って技術的な分析が行なわれ今回の発表になったものと考えられる
設計変更作業を行った最初の機体は、恐らく2018年の第二四半期までに完成し、その後新しく追加された試験飛行が始まると考えられる
発表された新しいスケジュールから判断すると、少なくとも試験飛行用に2機目の設計変更作業済みの機体が準備されると思われる
追加的に必要となる試験飛行の機体は、恐らく顧客に引き渡す予定の機材から流用されると思われるが、これらが最終的にどの顧客に引き渡される機体になるかは決まっていない
三菱航空機が発表した新しいスケジュールでは、型式証明の取得から顧客への最初の引渡しまでに6ヶ月のバッファーを設けており、他の航空機メーカーのバッファー(せいぜい数週間しか設けない)に比べると余裕があると考えられる

“MRJ”の最大市場と考えられている米国の顧客は、これらの引渡し遅延に対してそれ程苛立ってはいない。何故なら、パイロット組合(ALPA:日本と違って職種別の組合であり、米国大手航空会社のパイロットはこの組合に加盟している)と航空会社との労働協約(“scope clause”)によりパイロットをアウトソース(委託)できる航空機は、76席以下最大離陸重量が86,020ポンド以下となっており、“MRJ90”の運航には賃金の高い自社のパイロットを配置せざるを得ず、経済性に欠ける機材となるからです。因みに、“MRJ90”の強力なライバルであるエンブラエル社の新型機“E175-E2”は、この労働協約を念頭に引き渡し時期を2021年に延伸している
MRJ”の顧客である“SkyWest Airlines”と“Trans States Airlines”は、それぞれ100機と50機の発注を行っているが、これらの航空会社は米国大手の航空会社と運航の委託契約を行っていることがあり、“MRJ70”か、は“MRJ90”かの選択を未だ行っていない

Follow_Up:2023年2月:スペースジェット撤退に関わる泉沢清次・三菱重工業社長の記者会見

以上

高齢者の為のスキー技術を実践してみました!

-はじめに-

昨年はスキーの下手な私が、無謀にも!高齢スキーヤーの為の技術の解説をしてしまいました(→“高齢スキーヤーが安全なターンを行うには”;“高齢スキーヤーが疲れないスキーを行うには”)。語ってしまった手前、自身でその有効性を確認しなければ全くの空論に終わってしまうと思い、とにかく実践を試みてみました
実践に選んだスキー場は長い歴史を持つ「菅平スキー場」です。長いコースは取れませんが、リフト1本分の色々なコースを選ぶことができ、コース整備も毎日完璧に行われていますので高齢スキーヤーにとっては格好のスキー場だと思います
4泊5日のスキー行の前半は昔全日本のデモンストレーターに選ばれたことのあるコーチによる最新技術の指導(“スキー指導員”を対象とした本格的なものです)があり、後半はポール(柔軟なプラスティック製の筒を使った当たっても痛くないポール)で制限されたコースを滑るという、正にスキー技術の実践(実験?)には願ってもないスキー行となりました。 以下はその報告です;

-安全な谷回りターンの実践について-

高齢スキーヤーにとって最も大切な技術は、「腿を立てて滑ること」、「スキーをズラせて一定の速度で滑ること」であること、またこの技術が試されるのは「谷回りターン」である事は既に前2回の投稿で説明したところです
「谷回りターン」が難しいのは ①進行方向がほぼ逆になる(⇒進行方向の“慣性力”をどう手なずけるか!)、最大傾斜線を越えるために何もしないと重力で加速する(⇒“重力加速度”ををどう手なずけるか!)ためであると思います。指導員クラスの名人は、この技術の壁を自動化された重心の前後左右の巧みな移動で難無く、美しく!乗り越えてしまいます。我々高齢スキーヤーは、この技術の壁を“頼りない筋力”と“衰えたバランス感覚”で乗り越えなければなりません

今回の実践で、高齢スキーヤーにとって最も難しい「谷回りターン」でカギとなる部分はターン直前の「ニュートラル・ポジション」にあることが実感できました。「ニュートラル・ポジション」とは、ターンを終えた後、次のターンに入る前の「斜面に対して垂直に立つ」ポジションのことです。このポジション前後のスキー操作で大切に感じたポイントは;
. ニュートラル・ポジションに入る前にスキーが急に加速しない程度まで十分にスキーを回し込むこと(⇒落ち着いて以下のやや難しいターンの操作に入ることができる)
.回し始める前にしっかりと2本の足で雪面を踏みしめること(⇔“加速防止”の意味もあると実感できました)
.その後内足を軸にして(⇒回転の軸にできる程度に内足に荷重を残す)外足を回し込むこと(⇒回し込む時のズレの量でターンのスピードをコントロール出来る感覚が得られました)

.回し込む外足は、内足より必ず後ろ(⇔ターンを押しズラしてリードするということは必然的に押す外足が後ろになる)になり、この時にできた内足と外足の前後の位置関係が身体の向き(骨盤の向きと同じ)を決定します。この向きが“外向姿勢”になります。また、回転中に横のバランスを取るために下半身をターンのやや内側に置き、これとバランスするように上半身をターンの外側に倒す姿勢を取れば、これが“外傾姿勢”になります。外傾姿勢を作らない場合、横のバランスを取るために手やストックを広げる姿勢を取る人もゲレンデで見受けられましたが、どちらを選択するかはその人個人の美意識によると言えるのかもしれません!
.上記 1~4 のプロセスで、“腿は常に立てた状態”でスキーを操作し、上半身は過度に前に倒さず、腿の上でできるだけ安定させるようにします。こうすることで上下方向の擾乱に対して可動できるのは足首だけになりますので、高速で大きなこぶに遭遇すると上下の高低差を吸収できずに“飛んで”しまいますが、高齢者はそういう斜面には行かないということで整理したい?と思います

元デモンストレーターのご指導では、「ターンの後半はやや“かかと荷重”、次のターンの始動期以降は“重心をやや前方に移す”」ことが美しい回転弧を作るということでしたが、私の様に筋力の無い高齢スキーヤーには前後方向の意識的な重心の移動は、急斜面になると「後傾→暴走」のリスクを高めるのではないかと感じました。また;
ニュートラル・ポジションからターンを始動する方法として、「伸ばし押し出し」と「曲げ押し出し」を練習しましたが、初心者の頃に習った「抜重」の要素が入ってしまうと、斜度がきつくなった時に“スキーが走り出し”てしまう感覚があること、また“曲げ”や“伸ばし”の動作を必要以上に大きく取ることは、筋力の無駄遣いに通じる様に感じました

今回のスキーツアーの後半では、ポールで制限されたコースを自身が安全だと思う速度で滑り降りる練習が思う存分できました。ここで得られた技術のポイントは;
.先の状況を把握し、ポールに入るかなり手前からズレを使った方向と速度の制御を行うことにより、高齢者でもポール近傍に出来た不整地を安全に滑ることができる感覚を得ることができました

また、今回は寒波の襲来と重なった為、せっかく整地された斜面も午後には10~20センチ程度積もった新雪が荒らされた斜面となりました。こうした荒れた斜面では、開脚で滑るとスキーが取られてバランスを崩してしまう場面が度々あり、元デモンストレーターのコーチのご指導では;
.新雪や荒れた雪には“密脚”(2本のスキーを密着させて滑るという意味の造語!のようです)で滑り、内足を遊ばせない(内足の加重をゼロにすると雪に取られる)ことが必要とのことでした。実践の結果うまくいったとは言えませんでしたが、“密脚”させる為には内足の加重が重要であることはある程度体感することができました。高齢スキーヤーにとってはちょっとハードルが高いのですが、適切な斜面(急斜面でも緩斜面でもない)を選べば、恰好なチャレンジ目標になるのではないでしょうか。ただ、整地された斜面に比べバランスのズレが大きい事は否めないので、相応の疲労があることは言うまでもありません!

-話は脇道にそれますが!-

技術論からちょっと離れて、今シーズン滑った朝里温泉スキー場(北海道)と菅平スキー場で、高齢スキーヤーが感じているストレス(ひょっとして私だけかもしれませんが)についていくつか勝手な意見を開陳したいと思います;
スキー場へのアクセスについて
高齢スキーヤーにとって、凍え死なない!様に目一杯厚着をして、重いスキー靴を履き、重いスキーを担ぐのは相当な重労働です。できればリフトのそばまで車で行けたら幸せなのに、というのが本音だと思います。菅平スキー場では宿がスキー場のすぐそばにあるのであまりストレスを感じなかったのですが、浅利温泉スキー場では酷い目にあいました;

駐車場からスキー場へのアクセス
駐車場からスキー場へのアクセス

上の写真でお分かりの様に、駐車場からスキー場までは車道を長い距離歩かされ、更に急な階段を昇って行かねば到達できません。70歳を超えた私の様な高齢スキーヤーにとっては地獄!の様なアクセスです

従業員用の駐車場とスキー場下部のデッドスペース
従業員用の駐車場とスキー場下部のデッドスペース

一方、このスキー場の従業員用の駐車場は上の左の写真の様に、スキー場との高低差があまり無いように作られています。スキー客を“お客様”とは思っていないのかもしれませんね!
また、右の写真で想像できると思いますが、スキー場の下部にはかなり広いデッドスペース(滑走エリアではない)があります。このスペースに、車が一時停止して人、スキー用具を降せるロータリーを作れば、運転手を除き駐車場との距離や高低差は問題にならなくなります。また、駐車場には車を整列駐車させるための要員が数人居ました。この内の一人がマイクロバスで人員輸送を担当すれば全ての問題をクリアーできると思ったのですが、、、

2.スキー場の施設
殆どの高齢者は“頻尿”という重荷を背負っています。トイレの回数を減らすために水を控えれば恐ろしい脳梗塞のリスクが高まりますのでそれは絶対にできません!その結果、トイレ探しと、一緒に滑る仲間との暫しの“別離”とが、スキーを快適に楽しむ為の障害になっています。通常休憩を取る時にトイレを済ませますが、吹雪の時などはもっと簡単に用が足せればというのが高齢スキーヤーの切なる願いです
以前、どこかのスキー場でケーブルか高速リフトの乗り場(降り場?)にトイレを利用できるところがありました。ケーブルや高速リフトは施設が大掛かりなのでトイレを作るのが容易であるということでしょうか。考えてみればリフト要員は何処でトイレを使用するのでしょうか? もしリフト要員用のトイレがあるならスキー客にも使わせることを考えてみたら如何でしょうか

若いスキーヤーはあまり感じないかもしれませんが、リフトの座席の高さが低いと脚力が衰えた高齢スキーヤーには結構厳しいものがあります。リフトの座席で足をさらわれた後、座面にドシンとおしりをぶつける結果となり、貧弱となった尻筋肉のクッションなしに尾骶骨に衝撃が加わることになります
勿論、緩斜面に設置された幼児・小学校低学年用のリフトであれば低い座席はやむを得ないと思いますが、大人用のリフトで雪掻きをサボった結果、座席の実質的な高さが低くなっているケースなどは、思わずリフトの介助要員を睨みつけてしまいます!

3.宿の食事
菅平に限らず最近の民宿を利用して感じるのは、旅館や会席料理の真似をしているのではないかと思える程におかずの種類が多いことです。ただ、宿泊料金から考えて旅館や料亭の様に腕利きの料理人が沢山いる訳でもなく、また材料も吟味されているとは思われませんので、恐らくは冷凍食品を多用しているものと想像しています。結果として料理を残す人も多く、昨今話題となっている“食品ロス”の観点からも好ましいとは思えません。品数を揃える為にコストをかけてしまった結果として和食のベースとなる御飯みそ汁漬け物などには余りお金をかけていない様に感じます。スキーを始めた頃の民宿では、御飯、みそ汁、漬け物(例えば食べ放題の野沢菜など)の三点セットは頗る美味しく、それだけで十分に食欲を満たしてくれたことを思い出します

外人スキーヤーの方が多くなったニセコなどでは、夕食はスキー場地域に進出してきた各種レストランで取ることが多く、宿は所謂“B & B”(Bed とBreakfast/朝食を提供するだけ)に変化しつつあるとか。宿泊客にとっても自分の好きな食事を選ぶことができ、また若いスキーヤーなどはそこでの出会いを楽しんでいるようでもあります。菅平の宿でそんな話をしたら、菅平は国立公園内にあるので、そうしたレストランは開業できないのだそうです。残念!
であれば、民宿は民宿らしく自家栽培、あるいは地元のおいしい御飯、みそ汁、漬け物の三点セットと、手間のかからない大皿料理いくつかで勝負したらと思いますが、如何でしょうか。これに持ち込み酒を許可して貰えれば完璧だと思います

以上

8_Humanwareに係る信頼性管理

―はじめに-

航空機の事故発生率は航空機、エンジン、その他の装備品などのHardwareの信頼性向上(設計の高度化、材料の進歩、Hardware に関わる信頼性管理技術の進歩、など)と法規制の高度化によって飛躍的に低下してきました。しかし1970年代半ばを境に事故発生率は横ばいとなり、このまま放置すると経済の急成長に伴う運航機数の増加に比例して事故数の増加は避けられなくなることが予見されました。そこで、事故の原因として相対的に大きな要素を占めるようになった人間が犯すミス(以下“ヒューマンエラー”/Human Error と呼びます)を抑止する為に官民一体となった取り組みが始まりました
航空機を運航するという事は、航空機という高度な機械システムを、人間が維持管理(整備など)を行い、人間が操縦することと言い換えることができます。ここでは、この高度な機械システムに人間がかかわる部分の信頼性管理の在り方を総称して“Humanware に係る信頼性管理”と呼ぶことに致します
この取り組みが始まってから40年以上が経過しておりますが、現在までの足取りについて以下に説明をしたいと思います

-Humanware に係る信頼性管理システムの歴史-

戦後、物作り日本が高度成長を続けている時期、生産現場では不良品が発生する主な原因となるミス作業を減らすために“ZD(Zero Defect)運動”が導入されました。その後、更に製品品質の向上と生産性の向上とを同時に達成するために、現場での自発的改善活動に重きを置いた“小集団活動”が盛んになり、目覚しい成果を挙げました
航空ビジネスの分野でも現場を中心とする多くの部門にいち早くこの小集団活動が導入され、ミス作業の防止による安全性の向上生産性の向上に大きく寄与することになりました。

その後、高品質の製品を生み出し続ける日本に倣って欧米先進国の優良企業が、それまで現場中心であった小集団活動に目を付け、これを現場以外の部門にも広げ、更にこの活動に経営が積極的に関与するという、謂わば“経営改善活動”として進化を遂げるに至りました。“TQC(Total Quality Control)活動”、“QMS(Quality Management System)活動”、“シックス・シグマ(6σ)活動等は、個々に手法の違いはあれ全てこの範疇に入る取り組みと考えられます
シックス・シグマ(6σ:注)活動については、米国の電子機器・通信機メーカーであるモトローラ社が1980年代に初めて開発致しましたが、これをジェネラル・エレクトリック社が全社的に導入し成果を上げたことから、日本航空の整備部門などにも取り入れられることとなりました
(注)シックスシグマのシグマ(σとは、統計用語で標準偏差(バラツキの度合い)を意味します。シックスシグマ活動とは、品質のバラツキを標準偏差で測定し、分布の平均からプラス・マイナス6シグマ(σ)を上限・下限の管理限界として不良品の率を減らしていく経営手法です。シグマの数が大きくなるほど(6σ > σ )指数関数的にバラツキが減少してゆきます

また、技術的に高度な製品を生み出す企業は、国境を超えた “Supply Chain(連鎖的な供給体制:必要なタイミングで必要な部品を供給する仕組み、例えばトヨタの“かんばん方式”など)”を築くことが一般的となり、結果として末端の部品供給を担う企業に対しても高度なレベルの品質管理を導入する必要性に迫られました。こうした環境の中で生まれたのが“ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)”という組織です。ISOでは国際的に共通な基準を設定すると共に、この基準を満たしているかどうかを認証する中立的な専門機関を設ける仕組を構築しました。そして部品供給を担う企業に対しても、ISOの認証を受けることを求める様になりました。

ISOが要求する基準とは、極言すれば“業務を行う為のルールの可視化”、“PDCA(Plan Do Check Action)サイクルの徹底”、“記録の保持”であるということができます。航空ビジネスの分野でも、国際分業が定着した航空機、エンジン、その他の装備品の製造の受託を行う為には、ISOの認証(ISO9000)を受けることが必須となっています。また、航空機の保守整備の分野に関しても、基準やマニュアルの整備が急速に進み、ISO基準と実質的に同等な業務の仕組みが無ければ自律的で効率的な業務が実施できない状況になっています(“6_認定事業場制度”参照)

-ヒューマンエラーを抑止するための規制-

ヒューマンエラーに焦点を当て、これを科学的に分析して極限まで減らす試みは、ミスが死に直結する航空宇宙の分野が先行していたことは言うまでもありません
航空宇宙の分野では軽量化が経済性に直結するため、Hardware を設計する際に基準となる安全率が低く(一般に1.5程度)設定されています。従ってパイロットの操縦室における操作や、機体の構造やシステムに対する整備作業において、ヒューマンエラーを抑止するために極めて厳格なルールが定められました。一方、単にルール厳守という掛け声だけではミスを抑止することは困難であることが分り、人間工学行動科学の側面から研究を進め、操作ミスや判断ミス、手順や作業のミス、等を防ぐための設計手法の開発や教育・訓練システムが考案され、積極的に導入されるようになってきました

1.パイロットのヒューマンエラーを抑止する為の操縦室設計に係る基準
操縦室の設計に関するヒューマンエラーを防止する為の基準は航空法施行規則・附属書に具体的に規定されています
先行する米国においては法規制全般に係るヒューマンファクターの方針(FAA Order 9550.8A)を受け、極めて具体的、且つ詳細にわたるガイド“Human Factors Design Guide”が設定されています。また同時に、米軍の規格(MILSTD1472F)も並行して存在しており、米国での航空機の設計・製造の審査の際はこれらの基準が厳格に適用されています。また、外国製の航空機に米国の耐空証明を付与する場合でもこの基準が適用されており、日本の民間航空機の設計・製造に当たっては、欧米先進国への輸出を前提とする場合、実質的に世界で最も厳しい米国の基準がデファクトスタンダードとなっています

2.パイロットのヒューマンエラーを抑止するための訓練基準
航空分野において日米欧は、ほぼ“CRM/Crew Resource(注) Management”訓練に統一されています。パイロットとしての資格取得や資格維持の為の必須要件としてこのCRM訓練が規制の中に明確に位置付けられています
米国の規制では、CRM訓練で実施すべき標準的な内容を“AC120-51e”で提示しておりますが、この通り実施する義務は課していません(⇔“This AC presents one way, but not necessarily the only way”)が、大手の航空会社はこの訓練内容に自社の経験を付加するなどを行って積極的に実施しています。更に、最近ではヒューマンエラーを起こしやすい状況を模した訓練(LOFT/Line Oriented Flight Training、Threat & Error Management Training<参考-1>)なども積極的に取り入れています

(注)“Resource”の意味:通常“資源”とか“源”と翻訳しますが、ヒューマンエラー関連の文脈では、“情報源”という翻訳が一番合っていると思われます。上記CRM訓練では、“Resource”となるものは“パイロット自身の五感”、“操縦室内の各種計器の表示”、“他の乗務員からの情報”、“デスパッチャーや整備士など地上要員からの情報”、“管制官からの情報”、その他利用し得るあらゆる情報源です
従ってCRM訓練とは、「パイロットが利用し得るあらゆる情報を総合して安全運航の為の判断を行っていく」為の訓練ということになるかと思います

3.整備要員のヒューマンエラーを抑止するための訓練基準
日本においては、整備規程審査要領細則の中で「他の整備従事者及び航空機乗員との連携を含むヒューマン・パフォーマンスに関する知識及び技能について教育訓練がなされることになっていること」と規定されています。事業者はパイロットのCRM訓練と概ね同等の内容を持つMRM(Maintenance Resource Management<参考-2>)訓練を、委託先事業者を含む全整備要員に対して定期的に実施してます

米国においても、法規制全般に係るヒューマンファクターの方針(FAA Order 9550.8A)を受けて“AC 120-72”でMRM訓練で実施すべき標準的な内容を提示しおり、事業者もこの訓練を積極的に取り入れています

<参考-1> Threat & Error Management Training

運航乗務員を取り巻くスレット
パイロットを取り巻くスレット_友人から入手した資料

パイロットは常に上表の様なスレット(“threat”/安全運航にとって脅威となるもの)に晒されていますが、以下の“”を守ることによって安全な運航を実現しています;
掟1:どんなに優秀な人間でも時には最悪のエラーをおこすことがある ⇔ 進んで自身のエラーを報告する
掟2多重防御を心がける ⇔ 一人のパイロットが監視を怠ることは多重防護ができなくなることを意味する
掟3SOP(Standard Operation Procedure/一般にはマニュアルという理解でいいと思います)を遵守する ⇔ SOPを遵守することによって共通の認識ができ、エラーを容易に検知することができる
掟4コミュニケーションの活用で脅威を共有し予防策を立てる ⇔ 全ての情報を総合して、予想できる脅威を特定する
掟5PDCAのサイクルを意識する ⇔ 計画を実行し、それが状況に相応いかどうか絶えず自分に問い掛け確認する

<参考-2> MRM訓練
MRMにほぼ共通して取り入れられている“Dirty Dozen”という言葉がありますが、これは多くの事故事例を研究した結果として得られた以下の「12の事故を起こす要因」のことを意味しています。全ての整備要員は、こうしたヒューマンエラーの引き金となる要因を熟知した上で作業に当たることで、ミスのない整備を実現しています;
① コミュニケーションの不足(Lack of Communication)
② 警戒心の低下(Complacency)
③ 知識不足(Lack of Knowledge)
④ 作業の中断(Distraction)
⑤ チームワークの欠如(Lack of Teamwork)
⑥ 疲労(Fatigue)
⑦ リソースの欠如(Lack of Resource)
⑧ プレッシャー(Pressure)
⑨ 自己主張の欠如(Lack of Assertiveness)
⑩ ストレス(Stress)
⑪ 認識不足(Lack of Awareness)
⑫ 職場風土や慣習(Norms)

<参考-3> ヒューマンエラーを防止する為に規制当局、メーカー、事業者、国際機関は、以下の様に役割を分担しています
a) 規制当局の役割
①   法律、基準、等の制定;専門の統括組織の設置(Human Factors Coordinatorの設置など )
②   試験・研究の実施、支援、統制 (FAA Human Factors Research & Engineering Division /  Reportを公表しています)
③   事業者の防止体制に係る審査、認可(マネージメント、組織、訓練、規定、マニュアル類)
④   事業者に対する指針の設定(CRM/AC120-51e、MRM/ AC 120-72
⑤   中・小事業者に対するバックアップ(例: HF Operation Manual_Maintenance
⑥   事故発生後の原因の究明と対策の立案(事故調査委員会/NTSB)

b) メーカー(航空機メーカー、エンジンメーカー)の役割
① ヒューマンエラーに強い設計“Human Error Tolerant Design”、改修の実施(例:“Fool Safe Design”)
②   販売している航空機に係わる Human Error 関連情報の発信
③   ヒューマンファクターに関する試験・研究の実施、及び事業者へのフィードバック(例:MEDA_form/Maintenance Error Decision Aid;MEDA_guide)
④   事故調査委員会(NTSB)への協力

c) 事業者(航空会社、整備会社、パイロットリース会社、他)の役割
①   ヒューマンエラー防止体制の整備(マネージメント、組織、訓練、規定、マニュアル類)
②   現場要員に対する継続的な訓練の実施(CRM、MRM)
③   事故発生後の原因の究明に対する協力
④   事故、及び事故に繋がる可能性のある軽微なミスの当事者に対するインタビューの実施、及び規制当局、メーカーへの情報提供

d) 国際機関(ICAO/International Civil Aviation Organization)の役割
①   国際間の情報の共有化
②   加盟国に対する情報(ベストプラクティス)の発信

以上

7_Hardware に係る信頼性管理

-はじめに-

航空機を運用する段階で、航空機の機体やエンジン、その他の装備品などの機械装置(以下“Hardware”と呼びます)の耐空性のレベルを維持・向上させるためには、メーカー、航空会社、及び規制当局がそれぞれの役割を完璧に果たしていく必要があります
メーカー及び航空会社は、航空機の運航状況を常にモニターし、何らかのトラブルが発生した場合、航空機、エンジン、その他の装備品に対し必要な対策を自主的、且つ迅速に行える体制(“信頼性管理体制”)を取ることが義務付けられています
また規制当局は、航空会社及びメーカーの取り組み状況を常時監視すると共に、トラブルの発生状況に応じ、以下の対応を行う仕組みになっています;

事故、及び重大なインシデントが発生した場合、事故調査委員会(米国:NTSB/National Transportation Safety Board)が調査、原因究明と対策の勧告を行います。規制当局の役割は、規制当局自らに対する勧告(法改正、規制基準の変更や改修指示などの要求)があればこれを速やかに実施すると共に、メーカー、航空会社に対する勧告の実行状況を監視し適宜必要な指導を行うと共に、必要に応じAD(Airworthiness Directives/耐空性改善通報)を発行して実施を強制する義務があります
例:787就航開始直後のバッテリー火災に対する措置(耐空性改善通報・AD

日常運航において安全上重要な事象が発生した場合、メーカー、航空会社から報告( 6_認定事業場制度の「10.認定事業場の国への報告義務」の項を参照)を受けることになっており、規制当局の役割はその対策の実施状況をフォローし、必要により指導を行うことにあります

メーカー及び航空会社が行う“信頼性管理体制”については、以下に詳述致します

-メーカーが行う信頼性管理-

メーカーは Hardware の信頼性管理に係る最も重要な役割を担うことになりますが、それはメーカーが設計、製造、及び型式証明等(追加型型式証明、仕様承認)の取得に係る唯一の主体であることに起因致します。 尚、型式証明、追加型型式証明、仕様承認については、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”を参照してください
何故なら;
設計、製造、型式証明取得、等を行うには Hardware の信頼性に係る膨大なデータの裏付けが必要であり、その殆どは航空機を購入した航空会社に対しても公表されません(これらのデータはメーカーの存立にかかわる知的財産になっています)。従って、Hardware に起因するトラブルを設計レベルで検証し、対策を立てることはメーカー以外ではほぼ不可能になっています
メーカーは型式証明取得に際し、CMR(Certification Maintenance Requirement)による整備要目、MSG(Maintenance Steering Group)による整備要目、等を決定する際に裏づけに必要な膨大なデータを管理しています。従って品質を維持向上させる為にこれらの要目の変更(実施内容の変更、実施期限の変更、等)あるいは新設を主導し、管理していくことはメーカー以外では実質的に不可能と思われます。尚、CMR、MSGについての詳しい説明は、“4_整備プログラム”の項を参照してください
一般に商用航空機の場合、航空機を購入する顧客は多くの国、多くの航空会社にまたがっており、型式等に固有で頻度の少ないトラブルの原因を把握するのは航空会社単独では非常に難しいと思われます。ただ、例えば1機種で100機以上保有しているような大手で、且つ技術部門の人材を多く抱えている航空会社は、トラブルの自主的な原因究明もある程度可能であり、メーカーに対して多くのデータの提供が可能となります。この結果、トラブル対応に関してメーカーへの発言権が強くなる事は当然の事と言えます

航空会社は、自社の運航中に得られた Hardware の信頼性に係る多くの情報をメーカーに対して提供しています。またメーカーは上記で述べた通り、当該型式に係る全ユーザーの信頼性に係るデータを分析し、型式固有の問題点とその解決策を迅速に提供する義務があります。この情報はSB(Service Bulletin)やSI(Service Information)というかたちで航空会社、及び当該型式機材が登録されている各国の規制当局にも日々提供されています
また、安全上重要で緊急を要する情報は“Alert SB”というかたちで提供され、規制当局は必要によりこのSBの実施を強制するAD(Airworthiness Directives/米国;耐空性改善通報/日本)を発行することになります

事故、及び重大なインシデントが発生した場合には、事故調査委員会が調査及び原因究明と対策の勧告を行うことになりますが、調査・原因究明にはメーカーに蓄積された膨大な信頼性に係る情報と、設計・製造、型式証明取得、等に係る詳細なデータが不可欠となります。また、原因究明が終わって再発防止対策を勧告する(⇒ 規制当局やメーカー、航空会社に実施を強制する)際、経済性を含めた実行可能性の検証が不可欠であり、メーカーの果たす役割はきわめて大きいという事が出来ます。一方、メーカーにとっても再発防止対策を確実に実施することで顧客に対する信頼が得られるというメリットがあり、事故調査委員会による調査、原因究明活動には極めて協力的であることが普通です。30年以上に亘るベストセラーの機種は、ある意味数多くの事故、重大なインシデントによって信頼性を向上させてきた結果であるとも言うこともできるのではないでしょうか

メーカーと航空会社が連携して行う情報収集には以下の様なものがあります;
航空機メーカーは一次構造部材の信頼性をその機種が世界のどこかで運航している限り確認し、必要な対策を講ずる義務があり、設計時に予期していなかった故障の兆しが発見された場合には予防的な改修や検査等の整備プログラムを即座に発動できるようにしておかねばなりません。こうした仕組みの代表的なものとして以下があります。その機種を運用している航空会社は収集したデータを全て航空機メーカーに送ることになっています;
*Structure Sampling Inspection Program:販売した航空機の一部(Sampling)に適用する機体構造の検査プログラム
*SSI(Significant Structure Inspection):重要構造物に対する全機体を対照にした検査プログラム

エンジンメーカーは、Redundancy(冗長性)が無く一部の破損がエンジンの全損(航空会社に大きな経済的負担を強いる結果となります)に繋がるようなディスク類(注1)、及びタービンブレード・コンプレッサーブレード類(注2)などの重要な部品について、その型式のエンジンを採用している全世界の航空会社から検査結果や整備記録を入手すると共に、型式証明取得後も続けているエンジンの耐久試験のデータと併せて、その型式のエンジンのライフタイムに亘っての信頼性管理を行っています。これらの信頼性管理の結果として、優れた型式のエンジンは使い込まれるうちに種々の改修が実施され、徐々にディスクやブレード、等の検査間隔が延長され整備負担も軽減されてゆきます。逆に設計が良くないエンジンは短期間で姿を消していく結果になります(例えばジェネラル・エレクトリック社のCJ805というエンジン:/コンベア880という飛行機に装着されていました)。
(注1)タービンブレードやコンプレッサーブレードを取付けるディスクは極めて重く、且つ高速で回転するため、破壊が起こると破片がエンジンのケースを突き破り(“Uncontained Fracture”)、燃料タンクのある翼や旅客の乗っている胴体を破壊し、深刻な事故に繋がる恐れがあります

A380・TRENTエンジンの-“Uncontained-Fracture”とタービンの破片
A380・TRENTエンジンの-“Uncontained-Fracture”とタービン・ディスクの破片

(注2)タービンやコンプレッサーのブレードが一枚欠損すると、その欠損したブレードが下流にある全てのブレードを破壊してしまいます。因みにこれらのブレードは1枚数十万円から百万円を超える高価な部品です

-航空会社が行う信頼性管理-

航空会社は、自社の運航に係る安全性経済性定時性快適性を高める為に日常の運航を通じて得られる故障情報を分析し、必要な対策を実施しています;
安全性に係る情報収集、分析、対策立案
自社の安全性に係る情報は、パイロットからのレポート(機長報告)及び日常の整備記録から得られます。これらの情報は全て品質管理部門のスクリーンを経て技術部門で検討されます。トラブルの発生頻度が高いもの、及びトラブルの安全運航に与える影響の大きいものはメーカーとのディスカッションを行い、必要な場合改修が計画・実施されます。通常安全に係る改修はメーカーから発行されるSB(Service Bulletin)、SI(Service Information)を基にして作成されます
また、メーカーは安全に係る情報を、その機種を販売した全ての航空会社から得ており、それらを基にメーカーは安全性向上の為の改修をSBまたはSIのかたちで提案を行っています。航空会社の技術部門は、これらの情報を常にウォッチし、自社に経験の無いトラブルに対しても予防的に改修等で対応できる仕組みになっています

経済性に係る情報収集、分析、対策立案
一般に航空機は極めて高額であり、出来るだけその稼動を高めることが航空会社経営の必須条件であることは言うまでもありません。航空機の稼動を高めるには、突発的な整備によって航空機が運航に供せなくなる事態を出来るだけ回避することが重要です。 “Accidental Damage”(注)の様な予測不能なトラブルを除けば、下記に様に信頼性管理を適切に行うことにより概ね管理可能な状態にすることが出来ます
エンジン及びその他の重要な装備品の故障による突発的な整備を回避する為には、個別に故障原因を特定し、改修による品質の向上、検査間隔の短縮による故障発見確率の向上、定期交換の実施、等を行うことが有効となります(→下記の“ エンジンの信頼性向上”、“エンジンの劣化監視活動”を参照)
(注)Accidental Damage:偶発的な損傷(詳しくは“4_整備プログラム”を参照してください)
機体構造や配管(油圧、気圧)類、配線類の故障による突発的な整備を回避するには、機体重整備(C整備:1回/年程度、M整備:1回/4~5年程度)の際の整備要目を適切にすること(点検を行う箇所、点検の基準、等)が有効です。
自社による故障情報の収集、分析(次項以降で述べます)のほかに、メーカーによって提供される情報(SB、SI)を検討することも重要です

一方、突発的な整備を回避する為に過剰な整備を行うことは徒に整備コストを押し上げることとなり経済性の面で得策とは言えません。従って、故障頻度の低いものは交換頻度を下げるか、又は“On Conditionによる交換”(チェックをして不具合が無ければそのまま使用を継続する)に切り替えるとともに、点検しても不具合が無いものは、その整備要目の実施間隔を延長することなどを適時、適切に行うことが必要になります。このため、航空会社では部品毎の信頼性管理と併せ、整備要目毎の故障情報の収集、分析も行っています

定時性に係る情報収集、分析、対策立案
定時性に係る指標は、旅客の航空会社選好の極めて重要な項目であるため、殆どの航空会社は主要な指標である遅延実績を記録し、その改善に取り組んでいます。通常これらの遅延記録は理由別にコード化され、それぞれ関連部門で検討され改善が行われる仕組みが作られています
遅延理由のうち“Technical Trouble”(技術的な原因によるトラブル)に分類されるもの、及び潜在的な遅延と看做される“MEL適用”(注)による修理持ち越しの情報については、品質管理部門のスクリーンを経て技術部門で検討されます。技術部門では、遅延等の原因となった部品の信頼性向上策(改修の実施、代替品の使用、整備プログラムの変更、等)、スペア部品の買い増し、等々を経済性を勘案しつつ行っています
(注)MEL(Minimum Equipment List)については、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”及び“4_整備プログラム”を参照してください

快適性に係る情報収集、分析、対策立案
快適性に関しても、最近は旅客の航空会社選好の極めて重要な項目となります。この情報は、主に旅客からのクレームと客室乗務員からのレポートを基に収集し、技術部門を中心に経済性を加味しつつ改善策の検討が行われる仕組みになっています

エンジンの信頼性向上;
エンジンは交換可能な装備品の中では格段に高額(数十億円/1台)であり、且つ整備にかかるコストも航空機全体のコストの半分近くを占めます。従ってその信頼性の向上は航空会社の経営にとって常に極めて重要なテーマとなります。
エンジンの信頼性を表す最も重要な指標は、“1,000飛行時間当りの飛行中でのエンジン停止の確率です。この指標の数値を航空会社間で比較することでエンジンの信頼性管理の優劣を比較することが可能であるといっても過言ではありません。整備部門のしっかりした大手航空会社では、この数値は、0.01~0.02(5万~10万飛行時間に1回の飛行中でのエンジン停止 ⇔ 1日当り10時間飛行するとして、13年から27年に一回の飛行中でのエンジン停止)のレベルを維持しています。
この数値を高いレベルに維持するには、技術部門だけでなく整備現場も一体になった信頼性管理の取組みが必要となります。具体的には、技術部門における劣化監視活動(下記)に基づく劣化エンジンの故障前の計画的取りおろしや現業における提案活動、ヒューマンエラー防止活動、などの取り組みです
また、この数値が一定以上の水準にない場合、最新の双発機による長距離洋上飛行(3エンジン、4エンジンの航空機よりも経済性に優れています)が出来なくなり、経営上の不利を蒙る事になります

(参考)長距離洋上飛行ETOPS/Extended Range Twin Engine Operation):双発機で洋上飛行を行う場合、非常事態(例えば1台のエンジンが故障で停止するなど)を想定して、航路上に目的空港以外の代替飛行場を準備しなければなりませんが、予定航路からこの代替飛行場までの飛行時間の制限を通常の1時間から緩和することを言います。これが認められれば、結果として双発機が最短距離の航路を飛行することが可能となり、飛行時間の短縮と燃料の節約が実現できます。現在、品質管理活動の優れた大手航空会社では代替飛行場までの飛行時間を4時間まで延長させており、殆どの洋上の長距離路線で大圏コース(最短距離の航路)の飛行が可能となっています。勿論、この方式による洋上飛行を行うには規制当局による厳しい審査と認可が必要になることは言うまでもありません。詳しくは“ETOPS承認審査基準の要旨”を参照してください

エンジン劣化監視活動;
一般にエンジンの劣化状態は以下の指標を常時モニタリングすることによって把握可能です;
① エンジンの運航中の各種パラメーターの監視振動強度(低圧コンプレッサー部分、高圧コンプレッサー部分)、エンジンオイルの圧力・温度、ローターの回転数、排気ガス温度
② SOAP(Spectrometric Oil Analysis Program)の実施:高速回転体であるエンジンは、ベアリングの磨耗が上記の指標に大きく影響します。この摩耗の程度を把握する為、適切な間隔でエンジンオイルのサンプル採取を行い、オイルに含まれている金属の成分、量を分析します
③ Bore Scope Inspectionの実施タービンやコンプレッサーのブレードの損傷状況を破壊に至る前に把握するため、内視鏡(Bore Scope)を使った直接検査が定期的に行われています。またパイロットから鳥の衝突等の報告があった場合には次の飛行前に損傷の有無の検査を行うことになっています

Bore Scope Inspection
Bore Scope Inspection

④ エンジン分解検査時の検査データの活用:損傷状況(熱変形、磨耗、亀裂、等)の把握を行っています

エンジン以外の装備品の信頼性向上;
エンジン以外の装備品は極めて種類が多く(油圧機器気圧機器電装機器Avionics機器計器類、等々)、またメーカーも多岐に亘っており、自社で整備を実施するよりは、品目ごとのメーカーへの委託が一般化してきています。装備品の信頼性管理体制は概略以下の通りとなっています;
装備品の信頼性を表す最も重要な指標は“MTBF(Mean Time between Failure/装備品の故障取降しまでの平均飛行時間)”です
この指標の数値は航空会社間で大きな違いが出ることが多いと言われています。また、殆どの装備品は“On Condition”(チェックをして不具合が無ければそのまま使用を継続する)で整備、取り卸しが行われているため、この指標の数値が小さい(つまり度々故障取降しが行われる)と、スペアのレベルを上げる必要があり航空会社の財務負担が大きくなります

初期故障に対する対応
一般に、新設計や設計変更のあった装備品は初期故障が必ずといっていいほど発生します。新機種を他航空会社に先駆けて導入すると、装備品の数多くは新設計か在来機種の装備品の設計変更のものであり、就航直後から暫くの間トラブルに悩まされます(787のバッテリー火災は従来機種のニッケルカドミウム電池から、性能の良いリチウムイオン電池の変えたことによる初期故障です)。また最近は装備品に組み込まれているソフトウェアのバグによる初期故障にも悩まされます。 装備品の初期故障への対策は、主としてメーカーからのSBに基づく改修になります。装備品の改修を行う場合には、スペアを購入(但し、メーカーに相当の瑕疵がある場合に限ってスペアを一時的に貸与してもらうこともある)し、順次航空機から取り降ろして改修作業を行うことになりますが、スペアのレベルを上げた後、品質向上による取り卸し減で過剰在庫を抱える結果となることもあります

整備士の熟練度、ミス性向に対する対応
初期故障が収束した後に残る航空会社間のMTBFの違いは、整備士の熟練度、ミス性向が原因であることが多いと考えられます。修理を委託している装備品については、委託先の品質審査を厳格に行い、必要に応じ指導を行いますが、それでも改善されない場合は委託先変更を行うか、自社整備に切り替えることが検討されます。
自社整備は信頼性向上の切札となり得ますが、整備士の人件費、教育・訓練費、等の負担、施設・設備投資の負担が発生するため、最近は MTBF値 が高く故障台数が多い為、スペア部品の財務負担が重い場合、あるいは受託が期待できる場合以外は選択されない傾向となっています。更に最近は、修理方法の“ブラックボックス化”(修理方法の開示がないか、修理に関わるライセンス料が発生する)や修理完了後の最終検査に必要となる試験装置が高額化してきた為にこの傾向に拍車がかかっています

以上

冬野菜の収穫

前回の投稿では、9~10月の悪天候の影響で、冬野菜の種蒔き、苗の育成、植え付けが大幅に遅れ、セロリ、ネギを除く収穫が期待できない事態になってしまった事をご報告しました。11月に入って、あまり効果は期待できぬと承知しつつ、不織布や透明ごみ袋を使った保温措置を行って来ましたが、12月に入って幸運にもやや暖かい日が続き、生育は十分ではないものの上の写真にある様に食べられる程度にまで回復してきました。昨日初めて収穫した白菜は下の写真の通りです;

収穫した白菜
収穫した白菜

冬の鍋や生野菜サラダに使う野菜として、拙宅では寒さに強い水菜を優先的に栽培していますが、この野菜は9~10月の悪天候の影響は少なく、12月に入ってから必要に応じて収穫しています。今年は白菜の保温処置を実施するついでに、この水菜にも一部保温措置を実施し、従来通り保温しないものと比較してみました;

水菜・保温と非保温の比較
水菜・保温と非保温の比較

水菜は寒さに強いといっても、やはり保温した方が生育がいいことが分かります。また、保温しないと葉の先端がやや黄色に変色するという違いがある事が分かりました

鍋の野菜として欠かせないものの一つに春菊がありますが、これも下の写真でわかる様に透明ゴミ袋による保温で立派に生育しました;

ゴミ袋で保温した春菊
ゴミ袋で保温した春菊

冬の漬物、サラダ、煮物などで欠かせない大根については、9月に種まきができたものもありますが、大半が10月下旬にずれ込んでしまいました。一部透明ゴミ袋による保温も試みましたが、生育の面では大きな改善は得られませんでした。昨日9月に種まきした大根を収穫いたしました;

大根
大根

生育の遅れた大根は、今後葉っぱも含めて3月まで有効活用したいと思います;

大根の生育状況
大根の生育状況

冬になると一層美味しくなるほうれん草も9~10月の天候不順の影響を受けましたが、これも透明ゴミ袋による保温で種まき時期の遅れをある程度取り戻すことができました;

ホウレン草
ホウレン草

拙宅の冬野菜で最も重要なネギの栽培については、前のブログでも述べましたように9~10月の天候不順の影響は余り受けませんでした。
一方、ネギ栽培に関わるこの一年の私の課題は、普通サイズのコンテナを使って、如何に白い軸の部分を長くすることができるかということでした。その為に最初に試みた方法は、下の写真の様に牛乳パックとガムテ―プを使ってコンテナの実質的な高さを確保し、軸が伸びるにのに応じてこの中に栽培用土を追加していく方法です;

ネギ栽培法_牛乳パック&ガムテープ
ネギ栽培法_牛乳パック&ガムテープ

この方法で、そこそこうまくいったのですが、なんといってもガムテープの継ぎ足しが面倒くさいのと、栽培用土を追加していく内にテープが伸びてだらしなく膨らむことでした。
そこで、以下の様なポリカーボネートの板を加工した補助器具を自作してみました;

ネギ栽培用補助器具
ネギ栽培用補助器具

ネギがある程度成長した後、コンテナの上にこの補助器具を被せ、ネギの成長に合わせて栽培用土を追加してゆくことになります。この補助器具は透明なので成長途中に日射を十分に確保できることがミソです。この器具を使った11月下旬における生育状況は下の写真の通りです;

ネギの栽培状況
ネギの栽培状況

下の写真は、昨日収穫したネギ(コンテナ1ヶ分)ですが、ほぼ所期の目標は達成できたと思っています;

収穫したネギ
収穫したネギ

また前回のブログで紹介しましたが、サラダ用のレタス類は、居間のベランダ(高い室温)で LED による夜間の補助灯で促成栽培しておりますが、生育は問題ないものの春野菜の最強の害虫であるアブラムシがつき困っております。この害虫をなんとかしないと屋上で保温育成中のレタスの苗を居間のベランダに持ってくることができません!どうしたものか、、、

保温育成中のレタスの苗
保温育成中のレタスの苗

尚、以下の野菜類は、放っておいても健気!に育っています;

野沢菜・セロリ・パセリ・イタリアンパセリ
野沢菜・セロリ・パセリ・イタリアンパセリ

最後に、屋上野菜栽培の宿命である鳥害について一言、キャベツとチンゲンサイは鳥が大好きの様です;

鳥による食害_キャベツ・チンゲンサイ
鳥による食害_キャベツ・チンゲンサイ

以上

 

エネルギーと環境と原子力と暮らし方

、-はじめに-

私はサラリーマン生活の最後の10年間ほどは縁あって原子力業界で仕事をしておりました。2011年には東日本大震災に伴う深刻な原子力事故を内側から体験し、事故後の全原発の停止と、これに伴うエネルギー危機を経験する中で、エネルギー問題が将来の日本の最大の政治課題であることを痛感いたしました

人類はその長い歴史の中で“火”というエネルギーの活用を始めたことで、全生物の頂点に立つことができました。産業革命以降の人類の歴史は、水力という形を変えた太陽エネルギーの活用の他に、化石燃料という有史以前の太陽エネルギーの蓄積を消費しつつ、先進国を中心に経済規模の飛躍的な発展を実現してきました。第二次大戦以降は、これに原子の“火”という巨大なエネルギー源が加わりました

しかし、核分裂反応を利用する現在の原子力発電については、米国に於ける1979年の“スリーマイル島の原子力事故”、欧州に於ける1986年の“チェルノブイリ原子力事故”、また日本に於ける2011年の福島原子力事故があり、原子力発電の安全性にについて疑問を呈する人が増えてきました

一方、こうした現状の中で、本年11月には米中を含む主要先進国が参加したパリ協定が発効し、日本も遅ればせながらこの協定に参加することが決まりました。この協定に参加することにより、今後化石燃料によるエネルギーの使用には厳しい制約が課せられることになります

温暖化の主因が炭酸ガス放出量の増大にあることには多少の議論はあるものの、海水面の上昇により水没の危機に瀕している島嶼国が現実に存在していること、乾燥地帯では砂漠化の進行が早まっていること、また異常気象(スーパー台風、異常高温、異常低温、水害、など)の多発という地球規模の環境の変化の主因が、炭酸ガスを中心とする温暖化ガス放出によるものであることは、多くの国々が認めることとなり、その削減について協力していくことになったという事でしょう

この結果、GDPの規模で世界第3位、炭酸ガスの排出量で世界の4%を占めている日本としては、好むと好まざるとに関わらず温暖化の問題について自国の事だけでなく世界をリードしていく責任があるのではないでしょうか

従って、福島原子力事故以降、原子力発電の停止に伴うエネルギーの不足分を化石燃料による発電に切り替えて凌いできた日本は、今後他の国以上にエネルギー問題に正面から取り組んでいかねばならない状況になっていることは間違いないと思われます(日経記事:震災後LNG輸入量急増

以下に日本が直面するエネルギーの問題を俯瞰してみたいと思います。尚、如上より明らかな様に、原子力発電に関わる議論を抜きにしてこのテーマを扱うことはできませんので、「とにかく原子力は嫌だ」という方は、この辺で読むのを止めた方がいいかもしれません!

―エネルギーと暮らし-

エネルギーの問題は、近・現代史において国家の重大な意思決定に深く関わってきました;
ご承知の方が多いと思いますが、太平洋戦争に突入する直接の引き金になったのは米国の禁油通告でした。石油を絶たれた日本が、日中戦争を継続しつつ生き残るためにはオランダ領インドシナの石油(パレンバン)を確保する必要があり、ハワイ奇襲作戦とインドシナ電撃侵攻作戦によって先の大戦の口火を切ってしまいました

第二次大戦後、英仏に代わって米国が中東政治に深く関わったのは、石油を大量に消費する米国が中東の石油を必要としたためです。最近になって自国のシェール石油産出量が増加し自給できる体制になった途端、中東への関与が抑制的になってきたのはご承知の通りです。

日本が徐々に憲法解釈を変更して自衛隊の海外派遣をする様になった主たる原因は、中東の石油が日本のエネルギー需要の大半を賄っており、その生産維持と輸送ルートの確保を全面的に他国任せにすることができなかったからにあります

エネルギーの問題は、歴史的に日本の産業構造の大きな変革に関わってきました;
戦後の日本は、重厚長大型の産業を育てることによって驚異的な復興を果たしてきました。この間、必要となる膨大なエネルギー需要を賄う為に、最初は水力と石炭という自前のエネルギー源を求めて、日本各地で大規模な電源開発(佐久間ダム、黒部第四ダムなど)と炭鉱開発を行ってきました。

その後、更に成長を継続していく過程で、更なる水力電源や炭鉱の開発が限界を迎えたことから、水力や石炭に代わるエネルギー源として石油輸入を急速に拡大して行きました。こうしたエネルギー革命が進行する中で、効率の悪い石炭産業が衰退して行き、日本各地の炭鉱閉鎖に伴う痛みを伴う労働市場の大変革を余儀なくされてきました。

1973年、第四次中東戦争を契機として石油価格が急騰しました。これを第一次オイルショックといいますが、この時は消費者物価が23%も急上昇(狂乱物価)し、国民の生活に大きな影響を与えることになりました

狂乱物価・トイレットペーパー騒動
狂乱物価・トイレットペーパー騒動

また1979年にはイラン革命を契機として再び石油価格が急騰しました(第二次オイルショック)。特に日本はイランにから相当量の輸入を行っており非常に影響が大きいものでした

こうした厳しい試練を経て、日本の産業は世界最先端の省エネ技術を磨くこととなりましたが、一方に於いて、国策として石油備蓄の充実と、国際情勢に左右されない安定的なエネルギー源となる原子力発電の充実を図っていくことになりました;

<参考> 日本の電源構成_経産省エネルギ-庁
<Follow-up>
* 2018年7月3日に第5次エネルギー基本計画が閣議決定されました。詳しい内容は第5次エネルギー基本計画(案)をご覧ください。

“モノづくり日本”を続けるには、安定的なエネルギー確保が必要です;
日本人はモノ作りを得意とし、作ったものを海外に売ることによって繁栄してきた国です。如何に省エネ技術に長けたとしても、物を作るにはやはり沢山のエネルギーが必要となります。エネルギー供給の危機は、直ちに工業生産額の減少に繋がります。また、供給不安が無くてもエネルギー価格の上昇は直ちに製品価格の上昇、輸出競争力の減退に繋がります。日本が今後も繫栄していく為には、エネルギーを、量的にも価格的にも安定的に確保する体制が必要なことは言うまでもありません

エネルギーの問題は我々の暮らしに直接関わっています;
照明、冷暖房、炊事・洗濯・掃除などの家事は、今や殆どの家庭で電化製品が使われています。
エピソード:戦後10年位までは、殆どの家庭で蝋燭を買い置きしていたのではないでしょうか。当時、停電は日常的に経験できることでした。停電しても照明以外は電気を必要としていなかったということもできます!

輸送機関(航空機、鉄道、バス、自家用車、等)は殆ど全て(徒歩の移動や昔ながらのリアカーによる輸送は別ですが!)エネルギー無くして稼働させることはできません。またこれら輸送機関は人の移動だけでなく、毎日の生活に直結している物流を担っており、エネルギー不足により物流が滞れば毎日の生活が、即危機に見舞われます
これらは何となくエネルギーに依存していることは実感できますが、これ以外にも、温室栽培の農産物利用、水産品の利用(漁船は石油無くして動かせません)、加工食品の利用、プラスティック等の石油由来の加工品利用、これらは全てエネルギーが途切れれば利用はできません。

今や、交通安全のインフラの一つである交差点の信号機やスマホで代表されるネットワークのシステムもエネルギー無くして利用は不可能です(災害発生時の一時的な停電で実感は出来ますが!)

こうしてみると、所謂文化的な生活や都市での生活は、好むと好まざるとに関わらず多くのエネルギーを消費することが前提となっている事がわかると思います。従って、エネルギー需給の問題は、誰かに任せておいてよい問題ではなく、国民一人一人が自分の問題として考えるべき問題ではないでしょうか

-エネルギーと温暖化-

パリ協定の内容は概略以下の通りとなっています;
目標:産業革命前からの気温情報を2℃よりも十分低く抑える(努力目標は1.5℃以内)
② 21世紀後半に人為的な温暖化ガスの排出量と森林などの吸収量を均衡させる
③ 全ての国に温暖化ガスの削減目標の作成と国連への提出、5年毎の見直しを義務付けると共に、世界全体で進捗を5年毎に検証する
④ 被害を軽減させる為に世界全体の目標を設定する
⑤ 先進国には途上国への資金の拠出を義務付けると共に、それ以外の国には自主的な拠出を推奨する
⑥ 日本はEUや、島嶼国、アフリカなど約百ヶ国からなる「野心連合」に加わりました。同連合は産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えることを協定に盛り込むよう働きかけました

日本の目標;
2015年6月:サミットに於いて「国内の温暖化ガス排出量を2030年までに2013年対比26%削減する」という目標を表明(日経記事:サミットで温暖化ガス26%削減を表明)しました
目標値の内訳:電源構成の見直しと省エネルギーの強化で21.9%削減、二酸化炭素を吸収する森林整備などで2.6%削減、代替フロン対策で1.5%削減
2030年度の望ましい電源構成;
①古くなった原発の活用を延伸し、原子力の比率を20~22%とする
②再生可能エネルギーの比率:22%~24%
③石炭火力発電の比率:30% ⇒ 26%
③LNG火力発電の比率:43% ⇒ 26%

2016年5月:閣議で「2050年までに温暖化ガスの排出量を、現在に比べ80%とする」と決定

日本は、他の国々に比べ足元で既に省エネ技術が織り込まれているエネルギー消費量であり、省エネによる削減の余地が少ないという事に注意をする必要があります。また、日本が国際的に約束した削減量を実現する為に、国としては原子力発電の比率を20%以上としていますので、原子力発電を認めない人々はこれをどう捉えればいいのでしょうか?

<参考>
*米国の目標:「2025年までに2005年対比26%~28%削減」
*EUの目標:「2030年までに1990年対比40%削減」
*温暖化についてはアメリカ元副大統領の“アル・ゴア”の著書「不都合な真実」(2007年日本語翻訳版出版)と、これを基にした映画で生々しい現状が世界的に知られるようになりました。現在最新の温暖化に関する情報をご覧になりたい方はWWFジャパンのサイトをご覧ください

-日本における再生可能エネルギー利用の現状-

経産省・資源エネルギー庁の「エネルギー白書2016」をご覧になると分かるのですが、2011年の福島原子力事故以降、再生可能エネルギーに転換すべく補助金や、電力料金・燃料料金などの上乗せなどの施策を取ってきましたが、未だエネルギー供給に占める割合は水力発電を除けば微々たるものです(2014年度時点で4.4%)。2030年までに達成しなければならない再生可能エネルギーの比率(22%~24%)を達成するには、以下の様な問題点を着実に克服していかねばなりません(日経記事:経産省が想定した電源構成);

Follow_Up;2022年9月_再生エネ廃棄・砂上の送電網_停電リスク軽視のツケ
*太陽光発電・風力発電の開発が急ピッチで進められる一方で、地域電力会社で発生した余剰電力を、電力不足が発生した他地域電力会社に融通できないで廃棄する事態が発生する様になってきました。地域電力会社間の送電網の整備を加速する必要が出てきました
Follow_Up;2022年9月_カリフォルニア州の熱波・再生エネ拡大の限界露呈

1.水力発電;
既に適地は開発済みであること、地質調査、環境調査、用地買収、水没地域住民に対する保証、長期に亘る工事期間、膨大な投資額、などを勘案すると新しい立地はほぼ不可能な状況にあります
因みに、発電用ダムの建設は1963年に完成した黒部第四ダムが最後となりました。また、八ッ場ダム(発電用ではない)に至っては1967年に建設を決定してから現在に至る(50年経過!)も完成していません
Follow_Up:八ッ場ダムは、2020年4月1日より運用を開始しました

八ッ場ダム

ただ、農業用水路などを利用する小規模の発電は、地産地消のレベルで今後導入が進む可能性があり、地方創生などの施策を進める中で着実に浸透を図っていく必要があると思われます(日経記事:安積疎水で水車発電

2.地熱発電;
地熱発電は火山国である我が国にとって地の利を得たエネルギー資源です。水力発電と同じく規模が大きく24時間一定の電力を発生させることができ、ベース電源として可能な範囲で開発を進める必要があります

地熱発電の仕組み
八丁原地熱発電所と地熱発電の仕組み

ただ、立地地域が国立公園や温泉地などに偏るため、規制緩和と併せ、景観維持や温泉湧出量への影響の評価が必要であり、建設開始までにかなりの時間がかかることを考慮しなければなりません

地熱発電立地地域
地熱発電立地地域

因みに、我が国における地熱資源量は約2000万KWと言われておりますが、そのうち80%以上(1600万KW)が国立公園の特別保護区域・特別地域内にあり、現在は開発出来ないことになっています。残りの400万KWの資源量の内53万KWは既に開発済みになっています

Follow_Up:2020年2月16日の日経新聞の記事/開発進まぬ日本の地熱 発電能力、10年で1%増 長期の環境アセスなど壁

3.風力発電;
風力発電は欧州などでは急速に開発が進んでいます。これに刺激されたものか、わが国でも近頃開発計画が目白押しです(日経記事:風力増強・原発10基分に

風力発電・石油備蓄@青森県
風力発電・石油備蓄@青森県

しかし、風力発電が我が国においてベース電源になり得るかどうかについては私は疑問に思っています。高校時代の地理で学んだことですが、西ヨーロッパは“西岸海洋性気候帯”に属しています。この気候帯では海からの穏やかな偏西風が地上付近で常に吹いており、風力の利用に適しています(オランダなどは昔からこの風を使って沢山の風車で干拓地の排水などを行っていました)。一方、日本ではアジア大陸の山岳地帯を越えた偏西風は高空のジェット気流となる為に地上近くの安定した西風にはなりません、また日本は“モンスーン気候帯”に属しており、台風の襲来など気象の変動が激しく風も一定しません。従って、発電機の数や能力を増強させても、利用可能な電力量は欧州などと比べて少なくなり、経済性も劣る可能性が考えられます
Follow_Up:2022年1月17日_日経新聞:洋上風力入札・三菱商事が圧勝_AmazonやGEが後押し

また、風力発電の立地が増えるにつれ、超低周波の音波(耳では聞こえないものの、ガラス窓の振動や健康への影響が考えられる)の被害や、野性鳥類の衝突といった環境問題も無視できくなる可能性があります。また、風車が林立する景観は自然景観の保護の観点から如何か、という考え方もあります

発電量の変動が大きい問題については、“エネルギーを溜めることの問題点”の項で詳しく説明します

4.太陽エネルギーの直接利用
①太陽光発電
大規模太陽光発電の立地を促進するためには、電力事業者の買取価格を高く設定する必要があります。しかし先行するドイツなどで問題となっている様に、買取価格を高くすると発電量が大きくなるにつれて国民負担の増大と、産業競争力の低下を招くことになります。現在日本でも一時ほど普及が進まないのは、電力会社の買取価格が下がっている為です(日経記事:太陽光パネル底なし不況);

大規模な太陽光発電
大規模な太陽光発電

また、太陽光エネルギーはエネルギー密度が低い為に広大な面積を必要とします。緑豊かな日本の景観にマッチするかどうかに疑問がのこります。因みに、1キロワットの発電能力を持つ太陽光発電素子を設置するために必要となる土地面積は約10㎡と言われておりますので、1万キロワットの太陽光発電を行うには約千㎡の土地面積が必要となります。この発電能力は晴れた日の日中の発電能力ですから、実際に利用できる電力量はもっとずっと小さくなります(一般に太陽光発電の稼働率は年間千時間程度であり、24時間常に稼働できるベース電源に比べれば10%程度の稼働しか達成できないことになります)
日本は中緯度にあって水も豊かであり植物の生育には適しているものの、晴天率はそれほど高くはありません。肥沃な農地や豊かな森林を伐採してまで事業用として太陽光発電設備の設置を推進することには私は疑問を持っています

発電量の変動が大きい問題については、、“エネルギーを溜めることの問題点”の項で詳しく説明しますが、個人の住居で太陽光発電を導入し、冷暖房や温水のエネルギー源として使用することの他、電力余剰がある時にエネルギー使用を集中させるなど、個人個人のエネルギーマネージメントを促す効果があることを勘案すると、今後も補助金等により普及を促進することは理にかなっていると思われます
また、企業単位で導入しエネルギーマネージメントを行なえば、事業用電力の効率的利用に繋がる可能性があります
Follow_Up:2019年11月18日日経記事:太陽光発電買い取り終了、通知遅れ家庭混乱 大手電力に批判の声

②人工光合成
植物の行う光合成は極めて効率がいいことは確かですが、光を人間が利用できるエネルギー生産のみに着目すると1%程度の効率といわれています。最近研究が進んでいる“人工光合成”は未だ実験室レベルではありますが技術開発が進みつつあり、植物の光合成よりも効率よくエネルギーに変換できる物質を作り出すことに成功しています(日経記事:人工光合成の研究)。この技術が、政府が約束している温暖化対策に間に合うかと言えば、もうちょっと先の話の様に思われます

5.バイオマスの活用
①バイオマス発電、等
既に日本各地の主として森林地帯で林業の副産物である間伐材、廃材、などを燃焼させて発電や地域暖房に活用され始めておりますが、大規模化を測ろうとすると製紙業との競合が起こりうまくいきません。地方創生との関連で林業との調和を図っていくことが理に適っていると思われます
最近、薪ストーブやおがくずチップによる暖房が、豊かで快適な生活のシンボルとしてメディアにも登場しますが、これも林業との調和を図ってこそ意味のあるエネルギー活用の方法なのかなと思われます
Follow_Up:北海道河東郡鹿追町・バイオマスタウン構想

②バイオマス燃料(アルコール発酵)
既にトウモロコシなどの穀物のアルコール発酵で量的にも価格面でも実用化されており、環境問題が大きく取り沙汰された時期にガソリンやジェット燃料に混ぜての利用が進みました。しかし食物生産との競合関係が明らかとなり(トウモロコシを主食とする貧しい国々の食費の高騰、結果としての飢餓の発生)、大規模化には限界があると考えられています

③藻類、微生物などの活用
倫理的な問題が発生する可能性のある食用穀物のエネルギー利用に代わって、最近は成長が早く、高密度の生産が可能な藻類や微生物などによるエネルギー生産の研究が盛んになっています。未だ実験段階で生産コストもかなり高いのですが、温暖化に関わる企業責任を果たす為、航空機メーカー、航空会社などはこうした燃料の導入(現在のままで推移すると、2050年には航空機のエンジンが排出する炭酸ガスが、全世界の排出量の3%に達すると言われています)に積極的に関わっています;
航空機メーカー:航空機メーカー3社・バイオ燃料開発協力
日本航空:ゴミ由来の燃料実用化へ実証設備
全日空:バイオ燃料を実用化_ユーグレナ
Jパワー:藻から燃料油一貫生産

―エネルギーを溜めることの問題点-

既に述べてきた様に、水力発電、地熱発電、火力発電、原子力発電などは24時間稼働が可能であり、極めて安定的な電力供給が可能ですが、これから再生可能エネルギーの主役となるべき風力発電、太陽光発電は、電力供給能力が大きく変動します。一方、電力需要も季節により、時間帯により大きく変動します;

1日の電力需要_概念図
1日の電力需要_概念図

上図を見れば、現在はベース電力にもなり得る化石燃料によって発電の出力を調整して需要の変動に対応していることが分かります。この部分を供給側で変動の大きい風力発電、太陽光発電に振り替えると、どの様な事が起こるか想像できると思います。化石燃料の設備稼働を極端に犠牲にして余力を持たせるか、あるいは風力発電、太陽光発電の電気を一時的に溜めておくか、しか方法がありません

<Follow-up>
* 2018年10月13日の日経新聞に以下の様な記事が出ていました:181013_九電・きょう太陽光制御_発電業者に停止要請181013_太陽光普及・壁浮き彫り 送電網や蓄電池_対策急務

揚水発電とその仕組み
揚水発電とその仕組み

現在ピーク供給力の一部を担っている“揚水式発電”、“調整池式水力発電”、“貯水池式水力発電”の能力を拡充することも考えられますが、これが可能であれば現在でも化石燃料による供給調整にとって代わることができるはずですが、発電効率が極めて低いこと(約10%程度にしかならない←発電ロスに加え、揚水時のエネルギーロスが大きい)、立地に適した場所が少ないこと(調整池、貯水池の為に広大な面積が必要)、漏水等の環境破壊の恐れがあること、などの問題があり現在以上の立地は相当困難であると考えられています

Follow_Up:2023年1月:揚水発電維持へ経産省が投資支援_再エネ安定供給狙う

蓄電器で電気を溜める方法
しからば、リチウムイオン電池など最新のバッテリー技術を使えば大量の電力を保存できるのではないかと考え付きますが、実は大量の電気エネルギーを溜めるという事は性能が良ければよい程危険が大きいものです。最近突然発火して発売停止になったサムスンの最新スマホを例にとると、内蔵されているリチウムイオン電池の電気容量は3.5アンペア・アワー(3.5アンペアの電流を1時間流すことができる能力があります)、出力電圧は3.7ボルト程度のものでした。しかし、リチウムイオン電池は内部抵抗が低い(性能がいい!と同義です)のでプラスとマイナスの電極が短絡すると、この電気エネルギーが一気に放出されて熱に代わることになります。このエネルギーの大きさは;

3.5アンペア x 3.7ボルト = 約13ワット・アワー ⇒ 約11キロカロリー

となります。これは1リットルの水を沸騰させることができるエネルギーで、金属などであれば比熱が小さいので、一瞬の内に高温になり発火することになります

現在、最も大きい電力量を溜めることができる事業用のバッテリーは、日本ガイシ(株)が開発したNAS電池です。この電池の容量は300万キロワット・アワーに達します(NAS電池の性能)。このエネルギーの大きさを、ちょっと例えは悪いのですが、TNT火薬の発生するエネルギーに換算してみると、なんと2581トンに相当します。勿論火薬ではないので爆発的にはならないとは思いますが、何らかの理由でプラス極とマイナス極が短絡すると、大きなエネルギーが一気に放出され災害に結びつく可能性を否定できません

いずれにしても大規模な電池で、大きな需要の変動を埋めることは当面可能性が低いと考えねばなりません。勿論家庭で太陽光発電と併せて使う電池として、また企業単位で風力発電や太陽光発電と組み合わせて使う分には十分実用に足る性能が実現しており、多くのメーカーが参入しています(日経記事:企業の温暖化対策

Follow_Up:2022年になって、再生エネルギーを貯める手段については色々なアイデアが出てきました;詳しくは以下の日経記事をご覧になって下さい:再エネ蓄電を低コストに_住友重機出資の英新興など実用化へ、空気や重力使い半減

-原子力エネルギーの未来―

現在原子力発電の安全性に疑問を持っている国民が多い中で、国として原子力発電の稼働を前提としてパリ条約に対応していくことを決断した理由は理解して頂けたと思いますが、可能であればできるだけ早く将来持続可能なエネルギーに切り替えていく必要があることは言うまでもありまません。40年を超える原発の再稼働は、新しい持続可能なエネルギーが実用可能になるまでの時間稼ぎという事もできると私は思っています

一方、膨大な温暖化ガスの排出国である中国インドがパリ条約に参加しましたが、この国々は目標達成の為に多くの原子力発電所の建設を計画していることはご承知の通りです。日本は米国やフランスと並んで原子力発電所の建設や運用に関しては間違いなく先進国です。先進国の責任として事故の教訓を生かし、これらの国々の技術面のリーダーとして活躍することはむしろ義務であると考えられます。事故が起これば放射線の被害は軽々と国境を越えてゆきます。日本だけが脱原発を実現すればよいという考えは間違いだと思います

尚、当面原子力発電を継続することとなれば、放射性廃棄物処理の問題が気になると思っておられる方が多いと思います。現在、高レベル放射性廃棄物を地下深く埋設することを、場所を含めて決めている国はフィンランドのみです。フランスは実験段階ですが取り組みを強化しているようです。米国では一旦ユッカマウンテンに埋設することに決めたのですが、住民の反対により取り止めとなりました。日本も北海道で研究は進めているものの、埋設実現までは未だ長い道のりがあると思われます。また、六ヶ所村の廃棄物処理施設でのガラス固化の技術も未だ確立されていません。お先真っ暗の様ですが原子力発電所の再稼働が、持続可能なエネルギーが実用可能になるまでの時間稼ぎという位置づけであれば、当面現在の技術で原子炉施設内に廃棄物を格納することも可能だと考えられます。近い将来の実現は難しいのですが、私個人としては高速炉などを使って半減期の長い放射性廃棄物を減らす研究に期待することにしたいと思っています

持続可能なエネルギーの本命は、核融合炉の開発だと思いますが、これは今世紀中に実現することは難しいと言われています。既存の技術の延長で比較的近い将来可能と考えられるものに、高温ガス炉活用による水素社会の実現があります。水素をエネルギー源とする社会はすぐそこまで来ていますが、現在は水素を作り出すには炭酸ガスも発生させてしまいます。高温ガス炉が実用化すれば、温暖化ガスの発生無しに直接水素を取り出すことが可能になります

原子力発電に依存しない社会を築くためには、国家や企業だけでなく個人個人のレベルでも省エネ化の取り組みを強化することも大変重要なことです。太陽光発電と電池の組み合わせによる電力の自給化は、お金はかかるものの、技術上のハードルは殆どありません。私はお金がないのでこのシステムは、多分死ぬまで導入できませんが、せめて自分が輩出している温暖化ガスを把握しその排出量の削減に地道に取り組んでみたいと思っています。因みに、拙宅での昨年一年間の炭酸ガス排出量を計算してみました;

ガソリン消費量:810リットル、都市ガス:1,654㎥、電気:11,633KWH ⇒ なんと拙宅の炭酸ガス放出量は11.9トンでした!

私も温暖化ガス排出に関しては加害者であると実感できました。皆さんも炭酸ガス排出量計算サイトで自宅で排出している炭酸ガスを計算してみたら如何でしょうか?

以上

 

ネズミとお天気には勝てません!

ネズミには勝てません!

夏野菜の収穫も終わりに近づいた8月末、キュウリ、ナスが何者かに齧られているのを発見しました。最初は以前にもあった鳥の被害かと思っていたら、どうやら5~6年前に経験したことのあるネズミの仕業であることが判明しました

ネズミの齧り跡
ネズミの齧り跡

その後、ネズミは枝の先端に生った実(ネズミがアクセスできない!)を除き、旺盛な食欲で食べ続けた為、キュウリ、ナス、トマトはほぼ8月一杯で収穫ゼロとなってしまいました。トホホ!
その後、9月末頃に2段重ねで保管していた栽培用コンテナの隙間に“ネズミのお宿?”とその中に居る6匹の赤子を発見しました。動物愛護家の私としては断腸の思いで、涙と共に“処分”を断行しました。その後、親ネズミの捕獲を目指してネズミ取り器をセットしたのですが、餌だけ取られてネズミの知恵に勝てずにネズミとの戦いは終わらざるを得ませんでした;
エピソード_1;
ネズミの赤子を処分した後、巣の周辺を親ネズミがくまなく捜索した形跡があり、涙を禁じえませんでした!
エピソード_2;
拙宅では、生ごみや出汁を取った後の煮干し、精米後の副産物の米糠を、肥料を兼ねて土の再生に使っていますが、キュウリ、ナス、トマトの実が食べられなくなった後、飢えた?親ネズミがこの僅かな餌を求めて土を掘り返した跡がそこここにあり、これまた涙を禁じえませんでした!

ネズミが屋上に侵入ルートについての考察;
ルート_1;
まず1階に侵入し、2階を経由して屋上に侵入するルート。5~6年前のケースでは、夜間一階での食害が観測されており、今回のケースでも否定は出来ませんが、今回は一階での食害は無かったこと、また屋上に出るペントハウスのドアは前回のネズミ事件以降、通常閉めていることを徹底していますので、可能性としては低いと考えられます
ルート_2;
拙宅には、通常の電力線の他、ケーブルテレビの同軸ケーブルとインターネットの光ファイバーの3本のケーブルが屋上に繋がっており、このケーブルを伝って直接屋上に侵入するルート。都市部では電線をネズミが伝って移動する姿が目撃されていますが、拙宅付近ではこのルートを使うには、まず電信柱を登る必要があり足がかり?の無い電柱の表面を勘案すると、中々困難なルートと考えられます
ルート_3;
拙宅は以下の写真の様に、軽量コンクリートの垂直の壁に囲まれています;

家の壁:垂直
家の壁:垂直

まさかこの壁は登れまいと思っていたのですが、有識者の見解を聞いたところ、決して登れないことは無いとのこと。今このルートの可能性が一番高いと思っていますが、防ぎようがありません。さてどうしたものか、、、

いずれにしましても、寒さが本格化してきた最近はネズミの気配!が無くなりました。死んだことは考えられないので、上記三つのルートのどれかで引越ししたものと考えています。来年の春以降、ネズミの侵入がない事を祈っています

お天気には勝てません!

今年は、8月は例年通りだったのですが、9月に入ってからは異常気象が続きました。たび重なる台風の襲来(特に東北・北海道)と長雨(東京の9月の晴天日はたった4日!のみ)が続き、10月に入ってからも一日晴天が続く日は数えるほどしかありませんでした
この異常気象が、北海道からの供給に頼っているジャガイモやタマネギなど基幹野菜の不足と、東京近郊での供給が主となる葉物野菜の不足を招いたことはご承知のことと思います。

一方、我が屋上野菜栽培も、この異常気象には大きな影響を受けました。8月末から9月一杯は、春・夏野菜で使ったコンテナの土の再生と、秋・冬野菜の種蒔き、苗の育成で一番重要な時期に当たります。土の再生は水浸しの土では手間ばかり掛かってうまく行かなっかった為、結局11月まで掛かってしまいました。
また、苗の育成も日照不足による生育遅れ、害虫の発生、などで壊滅的な影響を受けました。白菜、キャベツの苗の植付は11月半ばまでずれ込み、ブロッコリー、玉ねぎの苗は仕方なく不足する分をファミリーセンターで購入しました
更に、11月24日には時ならぬ大雪(拙宅付近では20㎝位積もった)に見舞われ、芽が出てきたばかりの種を直播した野菜がかなり潰れてしまいました

我が家の冬の夕食のメインは“鍋”です。従って、鍋に必要な野菜類(白菜、キャベツ、ネギ、水菜、春菊、)は何としても確保しなければなりません。また、朝食のサラダ、夕食の漬物、お浸しの材料となる野菜類(レタス類、白菜、大根、ほうれん草)も何とかしなければなりません
悩んだ挙句12月に入ってから行った施策は以下の通りです;

白菜・キャベツ類の保温対策
白菜・キャベツ類の保温対策
大根の保温対策
大根の保温対策(ゴミ袋利用)、奥にあるのはセロリ
種を直播した野菜の保温
種を直播した野菜の保温対策(ゴミ袋利用)_1
種を
種を直播した野菜の保温対策(ゴミ袋利用)_2

こうした対策を取らなくても問題ないと思われる野菜は、来春収穫する予定のタマネギ、既に収穫しつつある長ネギと夏から育てているセロリです。因みに、セロリについては我が家では巨大に!育てた白い茎(通常売っている姿)を食べるのではなく、細い緑色の茎と葉を刻んでサラダに入れたり、餃子の具(中国東北地方の旅で学びました)、パスタソースの具、などにして食べています。昨年からこの様にして利用していますが、セロリは我が家付近の寒さでは全く影響を受けずに育つので、冬野菜の優等生と思っています

今のベランダでのLED栽培
居間のベランダでのLED栽培

レタス類については、居間のベランダにあるLED栽培装置(上の写真参照)で育てることによって、寒さの影響を受けずに朝食のサラダ分の量を確保できそうです

例年であれば、今頃は白菜、キャベツが結球して食べごろを迎えているのですが、残念ながら未だ収穫できる状況にありません。来月になっても結局結球しないかもしれませんが、そうした失敗談を含めていずれ報告したいと思います

以上

6_認定事業場制度

-はじめに-

航空機を設計する段階、それを基に航空機を製造する段階、完成した航空機の耐空性(安全性)を保証する段階、最終的に航空会社がその航空機を購入してお客様を乗せて運航に供する段階、これら全てのプロセスで規制当局がきちんと審査・検査を行なって安全を担保していることは、“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”の所で説明いたしました。
その中で、規制当局が全ての審査・検査に関わると言いつつも、人的リソースが限られていること、及びそれぞれのプロセスの中で行われている作業の専門性を考慮することから、審査、認可等の合理化の一環として事業場認定制度ができていることを説明いたしました。勿論、この制度は航空先進国の米国、欧州諸国のみならず世界中で殆ど同じ制度が取り入れられています。この制度はパイロットの資格制度と併せ航空輸送の安全を守る仕組みの中でも要の一つとなっているものなので、以下にこの制度をもう少し詳しく、分かり易く説明したいと思います

事業場認定制度に係る法規制は、航空法第20条及びこれに基づく航空法施行規則(→認定事業場に関わる法規制)に定められています。また、法に基づいて審査、確認、検査、証明、承認、などを行うに当たっての具体的な手順、基準等については、航空局からサーキュラーが発行されています。以下はこのサーキュラーの重要と思われる部分を整理したものです

-全体の枠組み-

1.事業場認定の区分は、以下の様に7つに分けられています;
 航空機の設計及び設計後の検査の能力 —– 設計の段階
 航空機の製造及び製造後の検査の能力 —– 製造の段階
 航空機の整備及び整備後の検査の能力 —– 運用の段階
 航空機の整備又は改造の能力     —– 運用の段階
 装備品の設計及び設計後の検査の能力 —– 設計の段階
 装備品の製造及び完成後の検査の能力 —– 製造の段階
 装備品の修理又は改造の能力     —– 運用の段階

2.認定は上記7つの区分を、更に航空機は型式別装備品の場合は型式及び種類別に認定を行なう仕組みになっています
<参考> 認定事業場取得の例
* 三菱航空機(株)の例:三菱航空機・航空機設計検査の追加認定を取得
* 機体整備に関わる事業場認定書の例:事業場認定書
* 現在の認定事業場一覧(国土交通省):現在の認定事業場一覧

3.国土交通大臣は事業者の申請に基づいて、技術上の基準に適合することを審査した上で事業場ごとに認定を行います

4.認定事業場は、認定を受ける前に“業務規定”を定め、国土交通大臣の認可を受けなければなりません。これは、事業場自らが自律的に法規制、及びその精神に基づいて作業を実施することを約束する意味があります

5.事業者に“業務規定”に対する違反行為があった場合、又は認定に係る能力が技術上の基準に適合しなくなった場合、国土交通大臣は認定の取消し、是正措置などを命ずることができることになっています

6.認定の有効期間は2年とし、継続するためには再審査が必要となっています

以下に規制当局が、申請のあった事業場を審査するポイントを説明していきますが、内容は相当専門的、且つ複雑、多岐に亘っています。その背景には、パイロットの技量管理などと違って、認定の対象となる事業場では実に多くの人々が組織として業務を行なっていることにあります。業務に携わる多くの人がそれぞれ間違いなく業務を行っていかなければ安全な運航は実現できません。一方、航空輸送が始まってから100年以上の歴史が積み重ねられた中で、個人や組織の犯すミスに起因する悲惨な事故が沢山発生しました。複雑、多岐に亘る仕組みには、この事故の教訓が沢山詰め込まれていることを理解することも必要だと思います

ただ複雑な様に見えても全体を貫く考え方は意外にシンプルかも知れません。私なりに基本的な仕組みを要約すれば、事業所の営利的な目的から独立して規制の立場で判断を行うキーマンとしての「確認主任者」の存在とその責任の証としての「署名、捺印」の行為、業務に必要となる技量レベルを担保するための「資格制度」や「教育・訓練制度」、人間である以上避けられないヒューマンエラーを阻止するための「二重確認」や「ルールの可視化(文書化)」、「実施記録の義務化」、「委託との接点業務のルール化」の仕組み、自律的に組織としての“安全度”を高めていく為の「監査」や「経営の関与」の仕組み、ということになるかと思います

尚、全体をご覧になる時間の無い方は、関心のある項目のみクリックして参照して頂ければ結構です(参照した後に元に戻る時は、ブラウザの左上にある“”をクリックしてください)

1.施設・設備の条件
2.組織の権限及び責任分担
3.組織ごとの人員の能力及び配置数
4.確認主任者の配置
5.作業の実施方法
6.品質管理制度
7.検査の実施方法
8.安全管理体制
安全管理体制は、他の交通システムや原子力の安全管理にも共通する部分が多いので、ちょっと覗いてみることをお勧めします
9.業場認定を受けた者の責務
10.認定事業場の国への報告義務
マスコミに記事として登場する事象は、この報告内容がベースになっています

-技術上の基準に係る具体的審査内容-

1.施設・設備の条件;
 認定に係る作業場所の面積、照明、空調、部品・材料の保管場所が適切なものであること
㋺ 航空機の設計検査、装備品の設計・検査(1-)については、認定業務に繰返し使われる強度試験・燃焼試験設備、計測機器、試験機器、工具が適切なものであること
 上記㋺以外の認定業務(1-)については、航空機、及び装備品の設計者、製造者が指定する計測機器、試験機器、工具を使用していること
 審査の対象となる事務所には、作業者の控室の他、工程管理、技術部門の事務室、技術資料の管理室、等が含まれます

2.組織の権限及び責任分担
 航空機の設計検査、装備品の設計・検査(1-①、⑤)については、専門性が高いこともあり、国と事業場の間で設計後の検査に係る業務の進め方等について認識が一致していることが重要です。従って国との連絡・調整の組織、人員が、各設計プロジェクトにおいて設定されていることが必要です
 下記第4項の確認主任者”が国との連携・調整に関与する体制であること

3.組織ごとの人員の能力及び配置数
 人員の能力:各組織の業務を遂行する為に必要な能力については、国家資格社内資格、業務経験、教育訓練の受講暦などで保証する仕組みとなっていること。特殊工程に従事する者については、最新の公的規格(注)に準拠した資格制度で承認されていること;
(注)例えば、非破壊検査員資格の技量認定基準としては、JIS W-0905(日本)、NAS-410(米国)、EN4179(欧州)などがあります
 人員の配置数:業務を遂行するに必要な数を満たしていると同時に、業務が拡大する場合には人員数が問題となる例が多いことから、必要な人員を業務量に応じて定量的に把握することできるようになっていること(定員計画)

4.確認主任者の配置
 確認主任者選任基準必要な資格及び業務経験年数
下記a)~e)または国土交通大臣が同等と認めた者(防衛大学卒業者、または外国の大学卒業者、理学部卒業者、等は、業務規定で定めた同等認定を受けるための教育・訓練を受けた者が対象);
a) 航空機及び装備品の設計検査(1-
資格工学系の学卒、短大卒、高専卒
経験:学卒者/6年以上、短大卒・高専卒/8年以上
b) 航空機及び装備品の製造検査(1-
資格航空又は機械学科の学卒、短大卒、高専卒
経験:学卒者/3年以上、短大卒・高専卒/5年以上
c)  航空機の整備検査(1-
資格:認定業務に対応した等級整備士(機種別)、航空工場整備士(作業の種類別)
経験:3年以上
d) 航空機の整備・改造(1-
資格:認定業務に対応した等級整備士(機種別)、航空工場整備士(作業の種類別)
経験:3年以上
e) 装備品の修理・改造(1-
資格:認定業務に対応した航空工場整備士(作業の種類別)、又は工学系の学卒、短大卒、高専卒
経験:航空工場整備士・工学系の学卒者/3年以上、短大卒・高専卒/5年以上

 日本国内の事業所における確認主任者選任基準
a) 航空法規:航空法、航空法施行令、航空法施行規則、サーキュラー、等に関わる教育、訓練
b) 品質管理制度に係る教育・訓練:下記“6.品質管理制度の運用”にある各制度について教育・訓練を行う。またこれらの制度に変更があった場合は、最新の内容について周知する体制が必要となります

 海外の事業所における確認主任者選任基準
1990年代以降の規制緩和の流れの中で、日本国籍機の整備や改造を海外の航空会社や整備会社に委託することが多くなりました。こうした事業所に対しては、国内の事業所における選任基準(上記㋺)に係らず、当該国の整備士制度またはそれと同等の制度について国土交通大臣が日本と同等以上と判断した場合は、資格、経験、教育・訓練等の要件について同等と認定することができます

 確認主任者の業務の指定
整備、改造に関わる確認主任者を選任・任命する場合、確認を行うことができる業務の能力、範囲、航空機・装備品の型式、作業の内容(小修理、大修理、改造)等について指定する必要があります
設計検査認定に係る確認主任者選任・任命する場合、専門性が高いことに鑑み、事業場認定の業務の範囲を細分化(機体構造、システム、エンジン、電気・電子、試験の立会い検査、等)し、業務の実態に応じて各事業場が独自に指定することができます。一方、設計に係る確認主任者は、設計の妥当性を判断する責任を有していることから、コンサルタントや短期雇用契約の者を任命・選任することはできません

5.作業の実施方法
 設計・検査に係る事業場においては、設計作業の実施方法(試験供試体の作成、試験のセットアップ、試験の実施を含む)について文書化して確実に維持管理を行うとともに、この方針につき業務規程で定められていることが必要です

㋺ 製造・整備・改造等に係る事業場においては、作業の実施方法は、航空機・装備品の設計者が指定する最新の方式(マニュアル類、SBService Bulletin、設計者のファックス等も含む)に準拠して文書化することが原則であり、この方法に従わない場合は、業務規程に定めて予め国の認可を得ておくことが必要です
尚、航空会社が整備又は改造を実施する場合は、業務規程において整備規程に従って実施することを規定し、且つ業務規定に規定する品質管理体制に従って作業を実施することが必要です

6.品質管理制度
㋑ 施設・設備の維持管理に係る品質管理の仕組み;
維持管理に係る組織の責任及び分担が明確であり、且つ設計者が指定した方法で行なうことが必要です。もし他の類似の方法で独自に設定する場合は、その適切性を検証し、点検検査結果につき文書による記録を残すことが必要になります。
精度管理が必要な設備・工具等については、基準原器へのトレーサビリティーが明確であり、且つ校正の間隔・方法がその設備・工具等の設計者が指定する方法で行われることが必要です。校正の際に許容値から外れていることが判明した場合には、これらを使用して実施された全ての作業が適切であったかどうか確認する方法を予め定めていることが必要です
計測機器等については、校正の間隔、有効期間などが使用者に判るように機器に表示されていることが必要となります
設備・工具等の保有数については、文書等により管理されるとともに定期的な照合が行われていることが必要です

㋺ 人員の教育及び訓練に係る品質管理の仕組み;
教育・訓練には、業務に従事しながら行う“On the Job Training”も含まれます。また教育・訓練を委託することも可能ですが、委託側との間で責任と権限の分担、訓練内容、及び教育・訓練を担当する者の要件が明確であることが必要です
また、教育・訓練は以下の要件を満たす必要があります;
*整備従事者間、及び整備従事者と乗務員とのヒューマンファクターに関する教育が含まれていること
*教育・訓練資料は最新で、且つ組織として認知されたものであること
*教育訓練は「初期訓練」の他「定期訓練」も行うこと
*「定期訓練」の対象には確認主任者、検査員、監査員のほか整備員も含めること
*確認主任者や社内資格等の要件と教育・訓練の関係が明確であること
*実施された教育・訓練は各人毎に評価が行われること

㋩ 作業の実施方法の改訂に係る品質管理の仕組み;
作業の実施方法を改定するには、改定に関わる組織の責任及び権限の分担が行われていることが必要になります。また、変更する内容は最新のものはもとより、変更により無効になった実施方法が業務に適用されないことが保証されなければなりません

 技術資料の入手、管理及び運用に係る品質管理の仕組み;
以下に掲げる技術資料は、常に最新の状態に維持することが必要です
*航空法、及び関連する政令、省令、通達、告示(耐空性改善命令)等
*型式証明、型式設計変更承認、追加型型式設計承認、型式承認、仕様承認、耐空性審査要領、その他これに準ずる資料
*設計国又は製造国の航空当局から発行される耐空性改善命令(AD等)
*設計者又は製造者の資料:製造図面、試験方法、Flight Manual、Maintenance Manual、Component Overhaul Manual、Service Bulletin 、Service Information、等
*航空運送事業者の整備規程、等
*航空機、装備品等のメーカーからの技術情報
*関連する規格(JIS、NAS、MIL、ISO、TSO、等)に関する技術資料

また、技術資料の管理業務は煩雑、且つ膨大な作業量となるので、最近は委託されるケースが多いのですが、この場合、委託先が以下の基準を満足していることが必要になります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*最新の技術資料が入手できる体制にあること
*資料を使用する人員全てに最新のものが提供される(勿論、資料が改定され無効となったものは業務に使われないこと)ように、配布先の明確化を行うと共に、配布先の管理担当者を定め、改訂に伴う差替えを遅滞無く行うこと。また事業場が管理していない資料は作業現場に持込まないこと

㋭ 材料、部品、装備品等の管理に係る品質管理の仕組み;
材料、部品、装備品等の管理の管理業務は、上記技術資料同様、煩雑、且つ膨大な作業量となるので、最近は委託されるケースが多いのですが、この場合、委託先が以下の基準を満足していることが必要になります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
設計者の指定する保管方法に従っていること。保管方法が特別なものについては当該品またはその容器に保管方法が表示されていること
*使用できない材料、部品、装備品等が流用されることが無いように明確に分離され、且つ使用できない旨当該品に明示すること
*在庫管理は文書またはコンピューターで行われ、定期的な在庫照合が行われること
*保管期限が設定されている品目については、保管期限管理の方法を設定すると共に当該品またはその容器に有効期限が表示されていること
*航空会社から材料、部品、装備品等が支給される場合、その取扱にについて明確にすると共に、混同を防ぐ方法が講じられていること。また、支給品を認定業務に使用する場合の品質管理は事業場の責任で実施すること

㋬_1 材料・部品・装備品等の領収検査(設計・検査認定以外)係る品質管理の仕組み;
領収検査は以下の規準に従って、原則として認定事業者が自ら実施しなければなりません(委託する場合は、下記“㋠委託管理に関する制度”基づく管理を厳格に行わなければなりません)。また、同一組織内の認定事業場以外の部門から材料・部品・装備品等を受領する場合にも領収検査は必要となります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*領収検査の基準は、“5.作業の実施方法”で指定されているものとし、材料・部品・装備品等については、必要となる証明等(FAA Form8130-3JAA Form One、材料検査の証明書類、等)を確認すること。尚、航空機の整備・改造の認定を受けている事業場については、原則として予備品証明が必要となります
*領収検査を行う者はその能力を有していること。尚、領収検査を行う者と、作業を行う者は兼務であっても許されます
*領収検査を行った結果“不適合”と判定されたものは適合品から明確に分離し、明確な表示を行った上で絶対に流用されることの無いようにすること

㋬_2 航空機又は装備品の受領検査、中間検査及び完成検査(必要な場合、機能検査、飛行検査、等を含む)に係る品質管理の仕組み;
認定業務における航空機、又は装備品等の受領検査(受入れ検査)、中間検査、完成検査の以下の基準に従って行うことが必要です;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*受領検査においては、作業対象の履歴(不具合の内容、処置状況、使用時間、耐空性改善通報の実施状況、等)を使用者から入手すること*検査の基準は、“5.作業の実施方法”で指定されているものとします。損傷等のあるものの受領検査の際は、損傷周辺についても充分な検査を行うこと。
*作業の中で実施される各検査については、ワークシート等により検査の時期を含めて明確に指示され、且つ限界値等の判定基準が示されていることが必要です。
*領収検査を行う者はその能力を有していること。尚、領収検査を行う者と、作業を行う者は兼務であっても許されます
*検査結果は記録し、関連する人員に提供されること。また、検査の結果“不適合”となったものは、必要な修正処置を行うか、不適合として明確に分離されること
*航空機製造検査認定を受けた事業場における装備品等の検査は、認定事業場自らが製造するものについては、自らの検査制度の中で適切な検査を行い、認定事業場以外の製造者が製造するものについては、認定事業場からの委託として取扱い、適切な領収検査を行うこと

㋣ 工程管理に係る品質管理の仕組み;
設計検査認定においては、検査・確認を含めた設計業務全体の工程が適切に設定され、且つその進捗管理が適切に管理されることが必要です。特に特定分野の作業に遅れが発生した場合に他の工程に与える影響も含めて適切に管理されることが必要となります;
設計検査認定以外の工程管理については、“5.作業の実施方法”で規定している方法に従うこと。尚、工程間の作業の引継ぎ、あるいは同じ工程内の作業人員の交替時の取り扱いについてはミスの発生しない方法をとること

㋠ 委託管理にに係る品質管理の仕組み;
規制緩和の流れの中で広範に行われるようになった委託については、自社と委託の境界領域においてミスが発生する可能性が高い事から、以下の様な厳しい基準が設けられています;
設計検査認定係る航空法規上の責任は全て委託元が負うことになります。従って、認定事業場としての検査・確認を実施できるのは原則として委託元のみとなり、確認主任者は確認実施後に設計基準適合証、適合性判定書、適合検査記録書、試験立会記録書に署名、押印を行うことになります。認定事業場間で共同開発を行う場合、様々な状況が想定されるため事例毎に判断することになっています。尚、型式証明対象の装備品については、委託管理制度の対象として取り扱う必要はありません
設計検査認定に関わる委託管理の基準は以下の通りです;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*委託先を選定するに当たっては、委託先の施設、組織・人員、資材、制度、等が委託業務実施に充分であることを審査する基準が明確であること。また、委託先が認定事業場であっても、委託元の定める選定基準と委託先の技術上の基準との相違部分の審査を行うこと
*委託業務の内容が明確に規定されていること
*委託する個々の業務の内容が委託先に正しく通知される体制にあること(例:作業発注書、委託業務指定書/SB等の指定)
領収検査は委託元が自ら実施し、検査の基準、及び検査の方法が明確であること。
*委託先の能力が適切であることを監査するに当たって、審査基準を明確に規定すると共に、審査方法及び審査の頻度を適切に設定すること
*委託先の監査及び領収検査を行う者について、その能力を保証する仕組みがあること

設計検査認定以外であっても委託に係る航空法規上の責任は全て委託元が負うことになります。従って、認定事業場としての検査・確認を実施できるのは原則として委託元のみとなりとなり、確認主任者は確認実施後に航空機基準適合証、装備品基準適合証、搭載用航空日誌に署名、押印することになります。海外事業場に委託を行う場合も同様です。尚、予備品証明を有する装備品及び認定事業場で確認され基準適合証が発行された装備品はこの基準の対象外である

設計検査認定以外の委託管理に係る基準は以下の通りです;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*委託先を選定するに当たっては、委託先の施設、組織・人員、資材、制度、等が委託業務に実施に充分であることを審査する基準が明確であること。また、委託先が認定事業場の場合、委託業務が委託先の認定の範囲、限定に含まれていることを審査すること。また委託元の定める選定基準と委託先の技術上の基準との相違部分の審査を行うこと
*委託業務の内容が明確に規定されていること
*委託する個々の業務の内容が委託先に正しく通知される体制にあること。例えば、作業発注書、委託業務指定書/SB等を指定すること
領収検査は委託元が自ら実施し、検査の基準、及び検査の方法が明確であること。認定事業場に委託する場合は確認に係る検査の基準、検査の方法が明確であること。
*委託先が航空機の整備・改造に係る認定事業場であり、ここに定例整備等における一部の作業を委託した場合、委託先は作業完了後の出発確認(航空機が全体として耐空性を有していることの確認)を行うことはできません。尚、領収検査は委託先認定事業場以外の場所で実施することが可能です
*委託先の能力が適切であることを監査するに当たって、審査基準が明確であること、審査方法及び審査の頻度が適切であることが必要です
委託先が認定事業場であって委託先の認定の範囲、限定に含まれている業務を委託する場合は監査を省略することができます。但し、委託元の基準と委託先の基準に相違があり、その相違点について委託先の内部監査が行われていない場合は委託元による監査が必要となります
*委託先の監査及び領収検査を行う者について、その能力を保証する仕組みがあること

㋷ 業務の記録の管理に関する品質管理の仕組み;
業務の記録に管理に係る適切性の基準は以下の通りです。尚、委託を行う場合は委託先が以下の基準を満たしていることを確認する必要があります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*記録の範囲、内容は認定業務が適切に行われていることを保証するものであること
*記録の提示が求められた時に速やかに提示できる体制である事
*確認主任者による確認の記録については、確認の日から2年間保管する事
*航空機の大修理、改造に係る記録は、当該航空機の登録抹消まで保管すること(永久保存)
設計検査認定における設計に係る記録は、当該型式の航空機または装備品が使用されている期間保管すること。但し、航空機使用者や型式証明・型式承認保持者の記録は対象外となります
*記録の保管は電子媒体も可能です

㋦ 独立した組織による監査の制度
航空機関連分野は技術進歩が急速な為、当局による検査だけでは認定業務の法令等への適合性を維持するのは難しいため、認定事業場自らが繰返し監査を行うことによって安全性が担保されています。
監査実施体制に係る基準は以下の通りです;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること。監査を行う組織は常設でなくてもいいが、監査計画については当該組織の下で常時管理されていること
*監査の範囲は認定を受けている業務全てをカバーすること
*監査は計画的かつ定期的に実施されること。主要施設にあっては1年の間に、その他の施設にあっては2年以内に監査が行われること。また、認定業務の変更等、必要な場合は上記以外でも臨時に監査を行うこと
*監査の要点は関係法令に対する適合性です。監査する事項を具体的に記載したチェックリスト、等を作成することが必要となります
*監査を行う者は監査の対象となる組織から独立した組織に所属し、対象業務について充分な知識・経験を有すると共に、品質保証制度、監査手法について教育・訓練を受けていること
*監査の結果は記録し、報告は監査の責任者に直接行なうこと
*監査において発見された不適合事項については、認定事業場の最高責任者の責任で是正処置をとること。是正処置の効果について、必要により再度監査を行うこと
*監査結果、是正処置については記録し、国から要求があった場合は提供すること
*監査業務の実務を認定事業場外の人員に委託する場合、これらの人員の能力の審査、及び監査の方法の指定は認定事業場の責任で実施すること

㋸ 航空機及び装備品の設計検査認定に於ける以下の制度の適切性の基準;
設計書類(試験方案、試験報告等を含む)の管理については、以下の基準を守る必要があります。尚、管理を委託する場合は委託先が以下の基準を満たしていることを委託元が保証する必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*保管方法が明確であること
*使用しない設計書類は明確に分離され、誤って使用されること無いようにすること。また使用できない旨設計書類に明示する方法を設定すること。特に設計書類の改訂管理に注意を払い、最新版のみが使用される様に管理すること
*保管期限が設定されている書類については、保管期限管理を行う方法を設定すると共に、当該書類には保管期限を表示する

また、設計書類の検査については、以下の基準を守る必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*“5.作業の実施法”で述べた基準( 設計・検査に係る事業場においては、設計作業の実施方法/試験供試体の作成、試験のセットアップ、試験の実施を含む)について文書化し、維持管理を行うとともに、この方針につき業務規程で定められていることに沿って検査を行うこと
*検査を行う者の能力を保証する仕組みを有すること。また検査に係る点検・承認等を行う場合は、作成者とは異なる者がこれを行うこと
*検査の結果は明瞭に記録されること。不適合となったものに対しては、修正処置等を指示すること

㋾ 設計検査認定に於ける、供試体の維持・管理を図る仕組みの適切性の基準;
試験に使用する供試体の管理ついては、以下の基準を守る必要があります。尚、管理を委託する場合は委託先が以下の基準を満たしていることを委託元が保証する必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*保管の方法が明確であること。保管温度、湿度等が規定されている品目については、その品目または容器等にその旨記入すること
*使用しない供試体は明確に分離され、誤って使用されることの無いように当該品に明示する方法を設定すること
*保管期限が設定されている品目については、保管期限管理を行う方法を設定すると共に、当該品、又はその容器などに保管期限を表示すること
*航空機使用者からの供試体の支給がある場合、取扱を明確化すると共に、混同を防止する方法が講じられていること。また、これらを認定事業場で使用する際の品質管理は当該事業場の責任で実施すること

また、試験に使用する供試体及び試験セットアップの検査ついては、以下の基準を守る必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*“5.作業の実施法”で述べた基準( 設計・検査に係る事業場においては、設計作業の実施方法(試験供試体の作成、試験のセットアップ、試験の実施を含む)について文書化し、維持管理を行うとともに、この方針につき業務規程で定められていること)に沿って作成されていることの検査を行うこと。また検査の基準、方法については、“㋸ 航空機及び装備品の設計検査認定に於ける制度の適切性の基準”で定めた検査を受けた設計書類の指示するものであること
*検査を行う者の能力を保証する仕組みを有すること
*検査の結果は明瞭に記録されること。不適合となったものにたいしては、修正処置等を指示すること

7.検査の実施方法
設計、製造、整備後に行う検査の具体的実施方法については、以下の基準を守る必要があります;
㋑ 航空機の設計検査・装備品の設計検査
設計検査認定においては、国と事業場が役割分担を行うことになりますので、事業場が行う検査も国と同等の役割を果たすことになることを認識する必要があります(⇔事業者の都合によって検査結果が左右されることがあってはなりません)。
検査の対象となる項目は適合性証明計画における要検査項目とし、項目・証明の方法(設計書類・実証試験・その他の方法)、検査の担当(国または事業場)につき、必要により国の承認を得る必要があります。尚、検査の方法は国、事業場いずれが検査を行う場合でも同一であるべきことは言うまでもないことですこと(具体的には“サーキュラーNo.1-003、004”に書かれてあります)。尚、事業場が行う検査は確認主任者が直接行うことになっています

㋺ 航空機の製造検査
航空機の製造後の検査の項目及びその実施方法は、設計者が新規製造時に指定した地上試験及び飛行試験と同一のものであることが求められています。
設計者以外の者による追加型設計変更(STC:詳しくは、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”を参照してください)がある場合は、必要により設計変更を行った者が指定する地上試験及び飛行試験を実施することが必要となります。
尚、この内容は、型式証明、あるいは設計変更で定められた“飛行試験手順書”、“Production Flight Test Procedure(PFTP)”等で設定されています

㋩ 装備品の製造検査
装備品の製造後の検査の項目及びその実施方法は、設計者が新規製造時に指定した機能試験等と同一のものであることが求められています。尚、装備品の製造検査認定を受けることができる装備品は、日本の型式証明を受けた航空機に装備されている装備品、または装備品単独で型式・仕様承認を受けた装備品に限定されます。
型式証明を受けた航空機の装備品については、型式証明の際に設定された完成検査の項目を実施する必要があり、具体的には“装備品等型式(仕様)承認書”に指定された「認定検査の種類」に規定された項目を実施することになっています。
仕様承認(詳しくは、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”を参照してください)を受けた装備品については、承認書及びその附属書に「認定検査の種類」は規定されていませんが、設計者の指定する項目を法定検査として設定することが求められています(内容的には装備品の完成検査の項目に該当します)
設計者以外の者による設計変更(STC等による変更)がある場合は、必要により設計変更を行った者が指定する方法で実施する必要があります。

㋥ 航空機整備検査
航空機整備後の検査の項目及びその実施方法は、設計者が新規製造時に適応すべく指定した地上試験及び飛行試験に準拠した方法であることが求められています(これらの項目には、“サーキュラーTCI-2-002に設定されている項目を含んでいなければなりません)。
設計者以外の者による設計変更(STC等による変更)がある場合は、必要により設計変更を行った者が指定する地上試験及び飛行試験を実施する必要があります。

8.安全管理体制
㋑ 安全管理体制の概要
航空機の安全性を高めるには、法令順守を柱とし事故・トラブルが発生した場合に原因を究明し再発を防止するという謂わば“Reactive”の対応に加え、事故・トラブルの予兆となるハザード(不安全要因)を把握し、そのリスクを低減させるという“Proactive”な対応をシステマティックに行う必要があります

因みに、“ICAO(国際民間航空機関)Safety Management Manual  (Doc.9859, 1st Edition 2006)”によれば;
安全管理体制とは、以下の様な仕組みを作ることと同義であると言っています;
*業務運営方針の組織内徹底
*組織の責任分担の明確化
*経営・現場・各部門間の意思疎通の円滑化
*経営トップから現場まで一丸となった取り組み体制の構築

㋺ 認定事業場の安全管理体制
認定事業場は以下に掲げる事項を文書により適切に定め、これに従って業務を行うことが求められています(安全管理に定める事項は“業務規定”には含まれていません)。
業務の運営方針;
認定事業場の運営責任者(最高責任者)は、以下を周知・徹底させること;
*安全に関する基本方針
*全員一丸となって安全管理体制を有効に機能させること
*認定業務遂行に当たっては関係法令を遵守するとともに、不適合が発見された場合は速やかに報告、是正措置を取ること
*安全目標の設定、達成度の評価、これに基づく目標の再設定を行うこと

業務の実施、管理体制;
責任体制
認定事業場の運営責任者(最高責任者)は、安全管理体制を適切に実施することに関する最終責任を持つとともに、安全に関する権限・責任の明確化、報告系統や指揮命令系統の明確化、リスク管理体制の整備につき責務を負う
安全管理に責任を有する者の選任
認定事業場は、認定事業場の運営責任者(最高責任者)に直接助言・報告を行う責任者を選任すること。尚、この認定事業場の運営責任者(最高責任者)がこれを兼務してもよいことになっています。航空会社にあっては、その会社の整備部門が認定事業場の場合、“安全統括管理者”を安全管理に責任を持つ者として選任する必要があります

業務の実施、管理の具体的方法;
緊急事態への対応計画
認定事業場の認定業務(設計、製造、整備、等)に係る航空事故、重大インシデント等が発生した場合、必要な認定業務を継続しながら通常の業務体制から緊急体制に速やかに移行できる計画を予め確立しておくこと(例えば、緊急連絡体制、応急措置手順、原因究明体制、訓練・演習手順、等
ハザード(不安全要因)の特定:
認定業務全般に係る安全情報を基に、ハザード(例えば、人的要因、技術要因、組織要因、環境要因、等)の特定を行う手順を定める。ハザードの特定は“Reactive”な方法と“Proactive”な方法を組み合わせて行うこと。安全情報は、ヒヤリハット情報の報告、安全ミーティングでの報告、事故・トラブルの原因探求報告、内部監査報告、他航空会社からの報告、等から収集可能です
リスクの評価とその対策:
特定したハザードについてのリスクの分析(発生頻度、影響度、等)、及びこれに伴う施策の実施、実施後の妥当性評価、等のリスク管理の手順を定めること
認定業務の実施、管理状況の確認:
認定業務が定められた手順に従って実施されているかどうかを定期的にチェックし、継続的に監視すること(内部監査、等)。尚、内部監査については認定事業場の業務規定に実施を義務付けられており、安全管理体制について定めた文書の中でこれを明らかにしておくこと必要があります
認定業務に実施及びその管理の改善:
安全管理体制を構築する要素につき、有効に機能しているかどうかの評価を定期的に行い、必要により改善措置を講ずる手順を定めておくこと
教育・訓練に関する事項:
安全管理体制を社内に浸透させるために、教育、安全啓発セミナー、ヒューマンファクター訓練、等を行うこと。もって組織内の安全文化の醸成を図ること

9.事業場認定を受けた者の責務
認定を受けた者は、技術上の基準に適合性を維持すると共に、公正且つ業務規程に従って業務が実施されるよう運営しなければなりません。基準に適合していることが充分に確認されていないにも拘らず、進捗管理・納期管理等の理由で確認主任者に指示・強要する等、不当な圧力かけないよう業務規程に定めなければなりません

Follow_Up:2,019ねん9月、国交省は相次ぐ検査不正を受け、監督方法の見直しを行った(国交省・相次ぐ検査不正で航空機整備の監督強化

確認主任者の確認の方法
㋑ 設計検査認定における検査の確認の方法
国の検査官または確認主任者によって予め承認された“適合性証明計画”で検査の確認を要求している事項(図面・設計書・試験方案・試験供試体・試験報告書、等)については、確認主任者自らが検査を実施する必要があります。全ての検査が終了した後、検査結果を記録している書類に署名または記名・押印します。尚、以下の証明、承認については国の検査の一部を行わないことがあります;
*耐空証明
*型式証明及びその変更
*追加型式証明の承認及びその変更
*修理改造検査
*予備品証明
*型式・仕様承認に係る設計の変更

また、確認主任者が確認すべき事項と、必要事項の記入、及び署名または記名・押印する書類は以下の通り;
図面・設計書の検査:航空機、装備品が所要の基準に適合していることを当該図面・設計書が示していることの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合性判定書”となります
試験方案の検査:内容が試験の目的に適っていることの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合性判定書”となります
試験供試体の検査:設計書類通りに製作されたことの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合検査記録書”となります
試験セットアップの検査:試験方案通りにセットアップされたことの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合検査記録書”となります
試験の立会:試験方案通りに試験を実施して場に立会い、試験結果及び試験中に発生した事象が正確に既得されたことを確認します。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“試験立会記録書”となります
試験報告書の検査:航空機、装備品が所要の基準に適合していることを当該試験報告書が示していることの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合性判定書”となります

尚、確認を行う者は以下の重複条件を満たさなければなりません
*設計書類の検査・確認を実施する者は、検査・確認の対象となる設計を担当した者であってはならない
*試験供試体、試験セットアップを行う者は、その検査・確認を行う者であってはならない
*試験を実施する者は、その検査・確認を行う者であってはならない
*確認を行う確認主任者は、航空機、装備品の設計検査を担当した者でなければなりません

㋺ 耐空性の基準に適合することの確認の方法;
航空機製造検査認定:製造過程及び完成後の現状が基準に適合することを以下の方法で確認します;
<製造過程>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って製造されていること
*航空機及び装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って検査が実施されていること
<完成後の現状>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法に従て検査され、これに合格していること。
*完成後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
*航空機基準適合証
*搭載用航空日誌

航空機整備検査認定:整備及び整備後の現状が基準に適合することを以下の方法で確認します;
<整備>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って検査前整備、またはそれに代わる整備が実施されていること
*航空機及び装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って実施されていること
*不具合が発見された場合には、是正措置が適切に実施され耐空性の確認が行われていること
<整備後の検査>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法に従って検査され、これに合格していること。
*検査によって発見された不具合の是正措置が適切に実施されていること
*前回耐空検査を受けた以後に実施された整備、改造について適切に行われていることを航空日誌により確認すること
*航空機及び装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って実施されていることを航空日誌により確認すること
*整備及び整備後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されている
こと
<署名または記名・押印する書類>
*航空機基準適合証
搭載用航空日誌

航空機設計検査認定、装備品設計検査認定:型式証明又は追加型式設計の承認を受けた航空機の設計変更について基準に適合することを以下の方法で確認します;
<作業の実施方法>
*設計変更の作業が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法に従って適切に検査されていること
<検査の実施方法・確認の方法>
*設計変更に係る図面・解説書・試験供試体・試験方案・試験報告書等につき、“業務規定”に規定されている検査の実施方法、検査の確認の方法に従い検査を行い、これに合格していること
*最終的な結果を総合し、耐空性の基準(騒音、排出物を含む)を満たしていること
*設計及び設計後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されている
こと
<署名または記名・押印する書類>
設計基準適合証

装備品製造検査認定・航空機製造検査認定:装備品の製造過程及び完成後の現状が基準に適合することを以下の方法で確認します;
<製造過程>
*装備品が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って製造されていること
*当該装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って実施されていること
<完成後の現状>
*当該装備品が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法
に従って検査され、これに合格していること。
*完成後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
*装備品基準適合証
*搭載用航空日誌

装備品修理改造認定:修理または改造の計画、過程、完了後の現状について基準に適合することを以下の方法で確認します;
<計画・過程>
*装備品の修理、改造が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って計画され、実施されていること
<現状>
*計画通り実施され、修理、改造に係る記録が“業務規定”に沿って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
装備品基準適合証

航空機整備改造認定:整備または改造の計画、過程、完了後の現状について耐空性の基準(騒音、排出物を含む)に適合することを以下の方法で確認します;
<計画・過程>
*以下の作業の実施方法に従い、“業務規定”に規定されている品質管理制度に基づき実施されていること;
具体的には、認定事業場(航空機の整備又は改造の能力)における作業の実施方法、または設計者が指定する方法(SB/Service Bulletin、等)に基づき作成された作業書等に従って作業を行うこと。但し、実施する作業の内容が簡潔かつ明確であり、記録が適切に残される場合はこの限りでありません。当該作業書等を作成する場合は、事業場において承認されたものでなければならりません。
改造の実施方法は、以下のいずれかでなければなりません;
(a) 型式設計の変更の承認を受けた改造(一般にSB等により改造の方法が示される)
(b) 追加型型式設計承認(STC)を受けた改造(一般に改造指示書等により改造の方法が示される)
(c) 日本の型式証明を受けていない航空機についての同等追加型型式設計承認を受けた改造(一般に改造指示書等により改造の方法が示される)
<現状>
*計画通り実施され、修理、改造に係る記録が“業務規定”に沿って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
搭載用航空日誌

既に承認を受けている装備品部品の型式、仕様の設計変更について適合性の確認
<署名または記名・押印する書類>
装備品基準適合証

㋩ 確認主任者の確認の手法
認定事業場は選任した確認主任者に現物確認か書類確認のどちらか、又はその組合せについて明確に規定しておかねばなりません。但し、設計検査認定については現物確認に限ることになっています
現物確認とは
確認主任者が現物確認を実施する場合、確認を行う項目、確認の手法、確認の基準を明確にしておくこと、及び当該業務に必要な能力を有していることが必要です
書類確認とは
個々の作業及び検査が、その業務を行うに足る充分な能力を有している者により“業務規定”に沿って行われていることを書類において確認することです

10.認定事業場の国への報告義務
安全性に大きな影響を与える以下の不具合事象については、認定事業場の主たる所在地を管轄する地方航空局航空機検査官室に報告を行わなければなりません;
a) システム又は装備の不具合による火災
b) エンジン、機体、装備品等に被害が生じたエンジン排出システムの不具合
c) 操縦室又は客室への有害ガスの発生
d) プロペラコントロールシステムの不具合
e) プロペラ、又はローターのハブ、又はブレードの不具合
f) 火花が発生する場所への可燃性液体の流失
g) 使用中に発生した構造又は材料の不具合によるブレーキの故障
h) 機体の一次構造における重大な不具合(疲労亀裂、コロージョン等)
i) 構造又はシステムの不具合に起因する異常振動、バフェット
j) エンジンフェイル
k) 航空機の飛行性能に影響するような構造やシステムの不具合
l) 使用中における2以上の電気又は油圧系統の喪失
m) 使用中における2以上の姿勢、速度、高度計の不具合
n) 上記事象に結びつく可能性のある装備品等の重大な不具合
o) 上記事象に結びつく可能性のある設計上の不具合(設計検査認定のみ)
p) 認定業務実施中に発生した“業務規定”違反の事例

以上

高齢スキーヤーが疲れないスキーを行うには

はじめに

再びスキーシーズンが巡ってまいりました。雪が消えると共に萎んでしまったスキーへの情熱が、雪の便りと共に再びムクムクと頭をもたげてきました。前回の投稿は昨シーズンが終った頃、“高齢スキーヤーが安全なターンを行うには”というテーマで以下の様な持論を展開いたしました;
① スピードを一定にして滑ること。また、スピードをコントロールするにはスキーのズレをうまく使うこと
② 筋力とバランス感覚が衰えた高齢スキーヤーには、腿を立てた滑降姿勢に合理性があること
③ スキーの性能を生かした所謂‟カービングスキー”のテクニックは緩斜面のみ!で駆使すること
④ 上記を理解して頂くために、滑降中のスキーヤーに働く力(重力雪面からの抵抗力遠心力)の説明をしました。尚、‟遠心力”とはスキーヤーが方向を変えることによって体感する架空の力で、物体の運動は力を加えない限り同じ方向・速度で進むという、高校時代に習ったニュートンの「慣性の法則」から来ているものです

これらを踏まえた上で、今回のテーマは怪我の原因の一つとなる“疲れ”の原因と、その対策について、簡単なシミュレーションを行ないながら論じてみたいと思います

疲れの原因

滑降中に姿勢を維持するだけで疲れてしまうことを防ぐ為に、前回の投稿では“腿を立てて滑る”ことの必要性を述べました。これから述べるテーマは、腿を立てた状態で滑ることを前提として、滑走中にどういう力が加わって、疲れに繋がるかを検証してみたいと思います

当たり前の事ですが、筋力が同じであれば体重が重い程疲れも増します。若い人はちょっと鍛えるだけで筋力を増強させることができるためにあまり問題とはなりませんが、高齢者にあっては筋力は年々衰えることはあっても、増すことは考えられませんので、筋力をあまり使わないで済む滑りを目指すことが重要であることは自明のことです
一方筋力は、最低限  体重を支えるため、及び ② バランスを維持するために必要となります。乏しい筋力で疲れない滑りを行うには、この①、②を地面を歩く、あるいはジョギングする程度に抑えることが必要になります

① については、静止していれば体重そのものですが、滑走していれば、体重プラス動的な力が加わります
② については、前後方向のバランスのズレ滑走速度の変化で発生し、これを修正するには,主として体の前面の大きな筋肉(脛の前の筋肉、大腿四頭筋、腹筋)を使う必要があります。バランスを取れないまま(後傾したまま)滑走を続けると、疲れの大きな原因になります。バランスのズレを早く感知できれば何のことは無いのですが、残念ながら高齢者はこの能力もかなり衰えてます
また、左右のバランスのズレは、スキーの横方向から擾乱を受けた時に発生します。ズレた結果、片側の足に加重が偏り、片足で体重を支え切れない(椅子に座った状態から片足で立てない)高齢者は、そのままズレた側に大木が倒れていくようにくずおれてゆきます。チョット見っとも無いですね!倒れる前に何とか堪えようとする時に脚はもとより、全身の筋肉が緊張し非常に疲れます。高齢者がバランスのズレを早目に感知できないのは前後方向のズレの場合と同じです

①、②がどの程度のものか、またこれを減らすにはどうしたらいいかについて、以下にシミュレーションを交え、簡単な説明を試みたいと思います

カービングターンの力学と疲れ

カービングターン
カービングターン

カービングターンのカービングとは、“曲がる”という意味の“Curve”ではなく、“彫るまたは彫刻する”という意味の“Carve”のことです。従ってカービングターンとは、読んで字のごとく、雪をスキーで彫りながら(スキーを雪に食い込ませながら)、極めてズレの少ない回転をすることを意味します。綺麗なカービングターンを行っているスキーヤーの滑ったうしろにはくっきりとした二本のレール状の軌跡が残っているのですぐに分かります

カービングターンは、スキー板の性能向上、具体的にはスキーの長手方向の捩り剛性の向上(航空機の翼に求められるの性能と原理的には同じ)とサイドカーブ(スキー板の横幅の部分の曲線)の強調によって可能となりました。しかし、一方においてこの性能を極限まで使う上級スキーヤーの肉体には過酷な荷重が加わることとなりました。因みに、ワールドカップクラスのスキーヤーにも過大な捩り荷重に伴う怪我が多発した時期もありました。また一般スキーヤーも、最も視界が狭まるターン途中に於いて高速滑降が実現できる(⇔上級スキーヤーにとっての快感の源泉!)こととなった為、最大傾斜線を越えた直後に突然視界に入ってくる一般スキーヤーやボーダーとの衝突事故が多発することとなりました

勿論、高齢スキーヤーは無謀にスピードを出すことは無いでしょうから、ここでは“疲れ”に関連するカービングスキーの性能について、大胆な!前提を置いて解析してみたいと思います

カービングターンを行った時の見かけの体重増=“脚にかかる荷重”についての計算;
前提;
① ターンに入る前の滑走速度:20キロ/時
② スキーヤーの質量:M
③ ターンの回転半径:r
ケース_: r =20メートル( ⇔ 普通に売られているオールラウンドのスキーでカービングターンを行った時の回転半径)
ケース_B : r =10メートル( ⇔ 回転競技用で売られているスキーでカービングターンを行った時の回転半径)

仮定(シミュレーションを簡単にするため)
④ ターンに入ると最大傾斜線を越えるまで重力の作用で加速し、その後減速して20キロ/時でターンを終了することとし、最大傾斜線付近の最大速度を30キロ/時と想定する(勿論、この速度は斜度及び雪面の状況により大きく変化しますので、あくまで仮定です)
30キロ/時 ⇒ 30x1000メートル ÷ 60分 ÷ 60秒 = 8.3メートル/秒
<参考> 徒歩:4キロ/時、ジョギング:7~10キロ/時、自転車:10~20キロ/時
⑤ 比較的緩やかな斜度を想定 ⇔ 雪面にかかる荷重がほぼ体重と同じと見做し得る

スキーヤーにかかる遠心力:C の計算;
遠心力:C=(質量:M)x(速度の2乗)÷(回転半径:r
ケース_:C = Mx8.3x8.3 ÷ 20 = Mx3.4
ケース_B :C = Mx8.3x8.3 ÷ 10 = Mx6.9
一方、スキーヤーにかかる重力:w は、
=(質量)x(重力加速度)= M x 9.8
重力、遠心力、脚にかかる荷重:W との関係は下図をご覧ください;

重力・遠心力・見かけの重力
重力・遠心力・見かけの重力の関係

重力遠心力脚にかかる荷重との間の関係は、ピタゴラスの定理を使えば;
W の2乗) =(w の2乗)+(C の2乗
となり、見かけの重力は、重力の2乗と遠心力の2乗の和の平方根の値になります

上記を基に、見脚にかかる荷重と、体を倒す角度:θ を計算すると;
ケース_A :W={(3.4x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x 10.4
重力脚にかかる荷重の比は:(M x 10.4) ÷( Mx9.8)= 1.06 ⇒ 体重が6%増えたと同じ
体を倒す角度:θ = arccos(1÷1.06)= 19° ( ← 三角関数の逆関数)

ケース_B :W={(6.9x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x 12.0
重力脚にかかる荷重の比は:(M x 12.0) ÷( Mx9.8)= 1.22 ⇒ 体重が22%増えたと同じ
体を倒す角度 : θ = arccos(1÷1.22)= 35°( ← 三角関数の逆関数)

上記のシミュレーションにより、カービングターンを行うと、次の様な高齢スキーヤーにとっては過酷な!状況が発生することが分かります;
* ターンを始めると最大傾斜線まで一気に加速します。高齢スキーヤーにとっては、この速度変化に伴う前後のバランスのズレを感知してから、筋肉が修正行動を起こすまでのタイムラグが大きいので、破綻する可能性が大きくなります
* ターンを始めて速度が変わっていくのに合わせて左右のバランスを維持するためには、体の傾き(上記の“θ”)を変化させていく必要があります。この傾きの補正が適正でなければ、左右の足にかかる荷重がアンバランスとなり、荷重が多くかかる足の負担が大きくなります。片足で自分の全体重を支えられなくなった高齢スキーヤーにとっては相当過酷な状況が現出します
* また左右の荷重バランスが崩れると、荷重が多くかかったスキーが雪に大きく食い込み(逆に荷重が減ったスキーの雪への食い込みが浅くなり)、結果として左右のスキーの回転半径を協調させることが困難 となり破綻するリスクが高まります(過去、私が高速で転倒して怪我を負ったのはこのケースだったと思っています)

展示用!カービングターン
展示用!カービングターン

上写真は、高速のカービングターンですが、上記のシミュレーションでわかる通り、速度を上げるか、回転半径を小さくするかで実現します。また、シミュレーションでは斜面の斜度を無視しましたが、急斜面で滑れば雪面に直角な方向の重力の分力は小さくなりますので、同じ速度、同じ回転半径でも体の傾き(“θ”)は大きくなります。
これほど体を傾けられれば、見た目は格好いいとは思いますが、足には体重の倍近い荷重がかかってくると共に、速度が早いのでバランスのズレに伴う破綻のリスクが相当高くなりますので、高齢者にはとても薦められないスキースタイルだと思われます

外向・外傾ーンの力学と疲れ

外向・外傾ターン
外向・外傾ターン

上の写真は、今から丁度30年前に撮影された私のスキー仲間の集団滑降写真です。この頃はカービングスキーが市場に登場する前で、上級者と言えばスキーのズレを自在に操り、所謂“外向・外傾”のターンを完璧に体現している人々でした。“外向”とは、スキーの進行方向に対してやや外側に向く姿勢の事です、また“外傾”とは、チョット分かり難いかもしれませんが、雪面に対して身体全体がバランスを保っている“軸”よりも上半身(あるいは“膝より上”⇔ショートターンをしている場合)を回転の外側に傾けているということを意味します。これは、スキーヤーの前方、乃至後方から見ると、平仮名の“く”の字に見えることから、“くの字姿勢”とも呼ばれていました。上の写真(外向・外傾ターン)でもターンの途中で“くの字姿勢”が良く見て取れると思います。因みに、展示用!カービングターンの写真には、全くこの姿勢が入っていません

外向”の姿勢は、ターンする方向に予め体が向いているので、結果としてターンの先行動作となっていること、また、ターンのスピードをコントロールする為にスキーをズラす時、体がスキーの進行方向を向くためにズレをコントロールすることが容易になると考えられます。一方、“外傾”の姿勢は、“くの字”姿勢の“く”の角度を変えることによって横からの擾乱に対するバランスが容易になると考えられます

次に外向・外傾ターンについて以下に簡単なシミュレーションを試みてみようと思います;
カービングターンのシミュレーションの時に使った前提の ①~③、及び仮定の ④ は外向・外傾ターンも同じとします
仮定のは、スキーをズラすことによって回転している間は速度を変えないこととしますので、ターンに入る前の20キロ/時をターンの終わりまで維持することとします。従って、
④’ 20キロ/時 ⇒ 20x1000メートル ÷ 60分 ÷ 60秒 = 5.6メートル/秒

遠心力:C’は、
ケース_A’ : C’ = Mx5.6x5.6 ÷ 20 = Mx1.6
ケース_B’ : C’ = Mx5.6x5.6 ÷ 10 = Mx3.0

以上より脚にかかる荷重 :W’ と体を倒す角度:θ を計算すると;
ケース_A’ : W’={(1.6x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x9.9
重力との比は:(M x 9.9) ÷( Mx9.8)= 1.01 ⇒ 体重が1%増えたと同じ
体を倒す角度:θ’ = arccos(1÷1.01)= 8° ( ← 三角関数の逆関数)

ケース_B’ :W’={(3.0x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x 10.2
重力との比は:(M x 10.2) ÷( Mx9.8)= 1.04 ⇒ 体重が4%増えたと同じ
体を倒す角度:θ’ = arccos(1÷1.04)= 16°( ← 三角関数の逆関数)

簡略化したシミュレーションにより、外向・外傾ーンはカービングターンに比べて、足にかかる荷重:W’と、体の傾き:θ’が、高齢スキーヤーにとっては優しいことが分かります。また、“くの字”姿勢の“く”の角度を変えることによって横からの擾乱に対するバランスが容易になり、結果としてターン中の転倒のリスクを低減させることが可能と考えられる点も高齢スキーヤーに優しいのではないでしょうか、、、

高齢者の皆さん、昔すいすい滑っていた外向・外傾ターンで颯爽とゲレンデを闊歩しましょう。また緩斜面では、習い覚えたカービングターンを駆使して若い女性ボーダーを追い越していきましょう!

以上