B737MAXの墜落事故について

はじめに

昨年10月29日、インドネシアのLCCであるライオン航空のB737MAXが離陸後すぐに墜落しました。また、今年3月10日にはエチオピア航空の同型機がやはり離陸後すぐに墜落いたしました。この二つの事故の原因に類似性があることが分かり、3月13日には全世界で飛行中の約370機が、各国の航空当局から飛行禁止の命令が下されるという、近年には稀な事態となりました
このB737MAXという航空機は、2017年5月に引き渡しを開始した後、既にデリバリーされている機体を含め百社以上から約5,000機の発注を受けているベストセラー機であり、現在ボーイング社で月産52機のペース(⇒今年末には月産57機となる予定)で生産されています。因みに、この最新鋭機の技術的な仕様は以下の通りです;

737MAX Technical Specs
737MAX Technical Specs

多くの航空会社が導入しつつあり、導入する各社は今後の路線便数、航空機材計画の中心的な役割を果たすことが予定されており、今回の飛行禁止命令は全世界で注目されています。また、日本国内でも2020年からANAが30機の導入を計画しています。新聞等での報道もありますが、最近入手したAviation Weekの記事に現在までの事故の解析及びボーイング社が考えている対策が載っていましたので概略ご紹介をいたします(詳しく知りたい方は”B737MAX Accidento Chaos_25MAR’2019 Aviqtion Week & Space TechnologyB737MAX Accidento Chaos_25MAR’2019 Aviqtion Week & Space Technology”をご覧ください。尚、上表”Technical Specs”を含め、ボーイング社のウェッブサイトからも必要な情報を転載しています

事故の概要

1.ライオンエア610便墜落事故;

http://toboe.onenote.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/Lion-Airの事故機と墜落までの飛行ルート
ライオンエアの事故機と墜落までの飛行ルート

2018年10月29日午前6時20分、ジャカルタ郊外のスカルノ・ハッタ空港を離陸したB737MAX(2018年8月受領)は、離陸後約10分で消息を絶ちジャカルタ北部の海上に墜落、乗員・乗客189名全員が死亡しました。墜落付近の海域で、Flight Data Recorder(パイロットによる航空機の操作や機体の位置、気圧高度、速度、など機体の運動状態、その他多くのデータを記録しています)Cockpit Voice Recorder (操縦室内の会話を記録しています)が回収されています。インドネシア航空当局から、「Flight Data Recorder からの情報で機体のAOA(迎え角:以下 AOAと表記します;Angle of Attack)センサーのデータが左右で20度食い違っていたこと、副操縦士から管制官に飛行高度を確認するように要請があり、飛行制御に問題があるとの報告があったこと」が発表されています

AOA(迎え角)とは・センサーの位置
AOA(迎え角)とは・センサーの位置

2.エチオピア航空302便墜落事故;

エチオピア航空機と事故現場
エチオピア航空機と事故現場

2019年3月10日午前8時38分、アジスアベバのボレ国際空港を離陸したB737MAX(2018年11月受領)は約6分後に墜落し、乗員・乗客157名全員が死亡しました。墜落機のパイロットは、墜落数分前に管制官に対して運航上のトラブルを報告し、空港に引き返す許可を求めていました。墜落現場付近で、Flight Data Recorder と Cockpit Voice Recorder が回収されており、エチオピア航空当局からの依頼でフランスが解析を実施しています

事故機の飛行記録から事故原因を推定する
両事故機の対地速度と上昇・沈下速度の比較
両事故機の対地速度と上昇・沈下速度の比較

上表は、ライオンエアの事故については、回収されたFlight Data Recorder から得られたデータを使用していますが、右のエチオピア航空の事故については、ADS-B(下記”参考1”参照)というシステムから得られるデータを使用しています。尚、上表で比較を行う場合、縦軸のスケールが違うことに注意してください
上表で明らかなように、墜落前の両機の飛行状況は非常に似通っています。また離陸直後の速度が低い状況下で短周期で上昇・沈下を繰り返しており、極めて不安定な飛行状態であったことが分かります

<参考1> ADS-Bとは
ADS-Bという名称は、”Automatic Dependent Surveillance-Broadcast”の頭文字を取っています。このシステムを使って、ATC Transponder(航空機に対して質問電波を発信すると航空機が持っている今の情報を返信してきます)を装備した航空機について以下の様な情報が入手できます;
①飛行機の登録番号、②飛行機の位置情報(経度、緯度)、③飛行機の速度(水平速度、上昇・下降速度)、④飛行機の高度(GPSからの情報と気圧高度計情報)、⑤飛行機の進行方向、⑥その他

FAAのADS-Bシステム概念図
FAAのADS-Bシステム概念図

また、ライオンエアのFlight Data Recorder から、事故前日と、事故当日(⇒墜落)の機体の水平尾翼の操作状況と水平尾翼のPositionの記録を読み取ったものが以下のグラフです;

水平尾翼の操作、動きの記録
水平尾翼の操作、Positionの記録(Aviation Week 2018年12月10-23 Editionから転載)

ライオンエアでは事故前日に、同じ機体で水平尾翼の異常な動きが一時的に発生し、すぐに正常な飛行に戻ったことが読み取れます。この情報はパイロットから地上整備士に報告され、事故当日出発前に点検・整備が行なわれたことがエチオピア航空から発表されています。ただ、適切な整備が行われたかどうかは現在までのところ分かりません
事故機は出発後すぐに、水平尾翼が MCAS(下記”参考2”参照)というシステムで自動的に小刻みに”Nose Up”側に動かされているのに対し、パイロットは適宜手動で”Nose Down、Nose Up”側に動かしています。その後、MCASが自動的に”Nose Down”側のみの動きを続けパイロットはその動きを止めようと”Nose Up”側にトリムを行っていますが、最終的に墜落前には水平尾翼の”Nose Down”側のトリム量は相当大きな値になっています(⇒地上に向かって急降下?)

737MAX Cockpit内の水平尾翼マニュアル・トリム関連装備
737MAX Cockpit内の水平尾翼マニュアル・トリム関連装備

こうした情報から、MCASによって水平尾翼が”Nose Down”側へ異常なトリムを繰り返し、パイロットの手動操作(水平尾翼の手動トリム+昇降舵)ではこれをコントロールできなかったことが事故の一つの原因ではなかったかと推測できます

<参考2> MCASとは
MCASという名称は、”the Maneuvering Characteristics Augmentation System “の頭文字をとっています。B737MAXから装備されているソフトウェア(B737NG以前のB737シリーズには装備されていません)で、名称の意味から判断すると、パイロットの操縦操作をサポートするシステムの様です
MCASは、フラップを出していない状態でマニュアル操縦で上昇を行っている(自動操縦を行っていない)時に、ピッチングの安定性を向上させるためのシステムです。因みに、機体のAOAの情報は、機体の両サイドにあるAOAセンサーの一つから得ており、一フライト毎に信号を受け取るセンサーを左右入れ替えています。

ボーイング社は多くの737シリーズを販売しており、これらのシリーズ間でパイロットが同じ様な感覚で操縦できるようにするため(例えば、航空会社によっては、B737NGを操縦した人が、翌日B737MAXを操縦することは頻繁に起こると考えられます)であり、B737MAXの型式証明(型式証明に係る詳しいことは「3_耐空証明制度・型式証明制度の概要」を参照してください)を取得するときにFAAからも要求されていたものです
同じB737シリーズでこの様な追加的なシステムが必要になった原因は、B737MAXから装備されることになった新しい高性能エンジン(CFM Leatp1)が、迎え角が大きい時にそれまでのエンジン(CFM56シリーズ)より大きな”Nose Up”のモーメントを発生させるからであると説明しています

737NGと737MAXのエンジン位置比較
737NGと737MAXのエンジン位置比較

こういう新しいシステムを導入しているからには、このシステムに誤動作が発生した場合、パイロットがどの様な操作を行えば正常な飛行状態に戻せるかに関して十分な訓練を行なう必要があると考えられます

現在検討されている対策

ライオンエアの事故以降、ボーイング社は事故の解析を行い、以下の様な対策を行う準備を進めています;
1.MCASの改修について
新しいソフトウェア・パッケージ(EDFCS:Enhanced Digital Flight-Control System)を開発し、B737-7をテストベッド機としてテストを行っています。従前のシステムからの変更のポイントは以下の3点です;①MCASを自動起動するときのロジックの変更、②AOA情報の入力方法改善、③水平尾翼のトリム・コマンドの制限
この変更によって;㋑システム全体の冗長性(Redundancy/想定外事象に対する対応力)の向上、㋺AOAセンサーからの間違った信号入力に対する水平尾翼トリム量の制限、㋩MCASによるトリム量を制限することによって水平尾翼の本来の機能を維持することが可能になると説明しています

ボーイング社としては方針は定まったものの、上記方針全体を完全に具体化するに至っていません。例えば、上記㋺のAOAセンサーの件については、追加的なセンサーを設ける方法以外に、現有の2台のFlight Control Computerに入力されている左右のAOAセンサーの信号をMCASに入力する方法も検討されています
また、上記㋩の水平尾翼のトリム量については、MCASからの新しいトリム入力に対して、水平尾翼のトリム量は1ユニットのみに制限すること、などを考えています。因みに現在のMCAS(事故機に装備)では、AOAセンサーが決められた”Nose Up”の範囲(専門用語で”閾値”といいます)を超えると、1秒当たり0.27° “Nose Down”方向に動かし、9.3秒間で、最大トリム量は2.5ユニットまで動かせるように設計されています

2.パイロット、整備士が使用するマニュアルの変更について
ボーイング社は、現在以下のマニュアル類の変更を検討しています;
①Flight Crew Training Manual(パイロットの訓練に使用するマニュアル)
②Airplane Flight Manual(パイロットが操縦するときに何時でも参照できるようにしている操縦時必携のマニュアル)
③Flight Crew Operation Manual(パイロットが操縦するときに何時でも参照できるようにしている操縦時必携のマニュアル)
④Quick Reference Handbookのspeed trim check list に新しい”注”を加える(出発時、飛行中のトラブル発生時にパイロットが参照するマニュアル)
⑤Airplane Maintenance Manual(整備士が整備を行う際に使用するマニュアル)
⑥Interactive Fault Isolation Manual(トラブルの修理を行う際、トラブルの原因を迅速に特定する為に使用するマニュアル)

3.AOAセンサーの不具合に対する対策
左右のAOAセンサーの情報が食い違っていた場合に、コックピットの最も重要な計器にその表示を行うこと( DISAGREE primary flight-display alert:参考3)
尚、この機能はB737NGでは標準装備になっていましたが、B737MAXではオプションとなっており、事故を起こしたライオンエアのB737MAXでは、このオプションは採用されていませんでした

<参考3> この警告表示を表示する条件
左右のAOAセンサーの値が10°以上ズレて、且つそれが10秒以上続いた場合に警告が表示されます

今後の推移

“はじめに”でも述べた様に、既に370機のB737MAXが航空会社に引き渡され、3月10日までは飛行を行っていた訳ですから、航空会社によってはこの機材が支えていた航空路線を維持するのは大変な負担になっていいるはずです。また、パイロットの資格は殆どの国で型式限定になっているため、他の型式の航空機で路線運営を代替することは簡単にはできません
一方ボーイング社としても、今のところ月産52機の生産を維持していますので、次々と完成していく機体を置いておく場所にいずれ困ってしまうはずです

こうしたことから、この原稿を書いている時点で、ボーイング社は可能な範囲で既に改修の提案(SB:Service Bulletine/SBに関する詳しい説明は7_Hardware に係る信頼性管理をご覧ください)を始めています(MCASの改修提案 by Boing
また、B737MAXの型式証明を行った米国のFAA(Federal Aviation Administration:連邦航空局)も面子にかけて運航許可に向けてボーイング社と協力作業を行っていると思われます

従って、かなり早期(1~3ヶ月?)にボーイング社のSBがFAAによってAD化(改修命令)され、この改修が済み次第、米国での運航が再開されるのではないかと思われます。続いてFAAとの協力関連が強いカナダ(ボンバルディア社がある為)、やEU諸国(エアバス社がある為)でも運航許可を出すものと思われますが、中国や事故のあった国であるインドネシアやエチオピアは、そう簡単にはいかないような気がします

また、今回の事故によって痛手を受けた航空会社は、B737MAXのオプション契約分をエアバス機(A320neoなど)に切り替える動きが出てくる可能性は高いものと思われ、今後の航空機商戦は予断を許さない状況が続くと思われます

A320neo vs B737MAX
A320neo vs B737MAX

今後、AD(Airworthiness Directives@米国;耐空性改善通報@日本)が発行され次第このブログに追加的に情報を記載していきたいと思っています。また、運航再開以降になると思われますが、ライオンエアの事故機に関してはインドネシア航空当局から、エチオピア航空の事故機に関してはエチオピア航空当局から正式な「事故報告書」が発行されるはずです。これらの事故報告書の内容についても適宜追加的にブログに記載していこうと思っています

Follow-Up:2019年4月6日、737MAXを2割減産発表 ⻑期停⽌に備え

Follow-Up:2019年4月12日、190412_737 MAX SOFTWARE UPDATE

・・・その後の進展状況_①・・・

2019年4月15日、Aviation Week_April08-21_Fixing the MAXにエチオピア航空、ET302便のFlight Data Recorderの解析が出ていましたので、その要約を報告します;

ET302 Preliminary FDR Data_説明用
ET302 Preliminary FDR Data_説明用(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

上のデータには19個のパラメータ(①~⑲)について、出発から墜落に至るまでの時系列の推移がグラフになっています。尚、時系列の単位は、UTC(世界標準時/日本はUTC+9時間)で表示されています;
凡例:05:37:00:5時37分:0秒;横軸1目盛で3秒の間隔

ET302便のFlight Data Recorder の解析;

05:37:45:正常に出発;10秒後位からエンジンンの出力UP(②参照)
05:38:39:離陸(⑨参照)
05:38:45:左右のAOAセンサーの値が乖離(⑫参照/左74.5°Nose Up、右15.0°Nose Up)
<参考> エチオピア航空当局による事故後の調査で異物が当った形跡は無かった
05:38:45:左のAOAの過大なNose Upの信号により、左の操縦桿のStick Shakerが起動(③参照;その後ずっと起動したまま)
<参考> 起動したStick Shakerの動画(ネット情報):https://youtu.be/NtQqb7rstrQ

05:38:49~05:39:18:手動によるNose Up、Nose Dowmのトリムを繰り返す(④参照)
05:39:21:Auto Pilot “ON”(⑯参照)
05:39:24~:Auto Pilotによる自動トリム(⑬参照;ほぼNose Down側)
05:39:45:離陸を継続しフラップ引き込み開始、15秒後に引き込み完了(⑲参照)

05:39:57:Auto Pilot “OFF”(⑯参照)⇒ MCASが自動的に起動し、MCASによるトリムがが始まる(⑬参照)
05:40:00~05:40:09:左のAOAセンサーの誤った入力信号によりNose Down方向にトリムが行われ、水平尾翼のPitch角が4.6ユニットから2.1ユニットに変化し(⑭参照)、機体は上昇から降下に変わった(①参照)
 05:40:09:パイロットの操縦桿にあるトリムスイッチによりNose Up側に操作され(④参照)、水平尾翼のPitch角が2.4ユニットに戻した
05:40:20:左のAOAセンサーの誤った入力信号(⑫参照)で、再びMCASによりNose Down方向にトリムが行われ(⑬参照)、水平尾翼のPitch角が0.4ユニットまでNose Downまで下がった(⑭参照)
05:40:27~05:40:37:パイロットの操縦桿にあるトリムスイッチによりNose Up側に操作され(④参照)、再び水平尾翼のPitch角が2.4ユニットに戻った(⑭参照)
05:40:42~15:40:51:MCASによりNose Down方向にトリムが行われ(⑬参照)たものの、Pitch角は変わらなかった(⑭参照)

15:40:51:パイロットがMCASの電源を切った(MCAS電源のON/OFFは上表のパラメーターには入っていません。記事後半にON/OFFした事が書いてありますので、④のデータの推移から筆者がタイミングを判断しました)

05:41:46:Voice Recorderより)機長が副操縦士に対してマニュアル操作でNose Upにできるか?」と聞いたところ、副操縦士はできない」と答えた
05:41:46:この時点の左の対気速度は340kt(ノット;時速630キロ)、右はそれより20~25kt速かった(⑪参照)。(Voice Recorderより)Over Speed Warning が鳴り、パイロットは管制官に空港への引き返しを要請し、許可を得た
05:43:11:水平尾翼のPitch角が2.1ユニットまでNose Down方向に下がり(⑭参照)、パイロットが2度トリムスイッチによりNose Up側に操作した(⑬参照)結果、水平尾翼のPitch角が2.3ユニットに戻った(⑭参照)

05:43:21:再びMCASの電源を入れた(MCAS電源のON/OFFは上表のパラメーターには入っていません。記事後半にON/OFFした事が書いてありますので、④のデータの推移から筆者がタイミングを判断しました)

05:43:22:水平尾翼が自動的にNose Down方向に動き、5秒でPitch角が1.0ユニットに下がった。その後急激に速度を上げつつ(⑪参照)、高度が下がり(⑩参照)、約25秒後に地上に激突

関係者の現時点でのコメント抜粋;

1.Flight Data Recorder、Voice Recorder の解析を担当しているエチオピア航空当局(ボーイング社、FAA/連邦航空局、NTSB/連邦事故調査委員会、EUの航空当局、フランスの航空当局も協力して事故調査を行っています)は、事故機のパイロットはボーイング社のマニュアル通りの操作を行っていたと述べています(⇔この件は、ボーイング社による事故の賠償金額に大きく影響するはず)

2.ボーイング社では;
A)パイロットがMCASの異常事態に際し、操縦桿にある手動トリムでの対応を継続し、迅速なMCASの停止操作を行わなかったために事故に至ったと考えている
B)ボーイング社の「水平尾翼が暴走した時に行うべきチェックリスト(「Runaway Stabilizer Procedure」/B737NGと同じ!)」では、「MCASの電源」を切ってからマニュアルトリムを行うことになっている

3.FAAは、一連のB737MAXの事故のケースを見ると、Part121エアライン(大型の商用機を運航するエアライン)のパイロットは異常な飛行状態失速、背面飛行からの回復、対気速度の計器が信頼できなくなった時、など)から回復する訓練をシミュレーターで行う必要があると考えている。しかし、現在ではエアラインが保有しているシミュレーターの能力には問題があると考えている。因みに、米国のエアラインは、こうした異常飛行の訓練に対応できるB737MAXのシミュレーターを持っていない

Follow-Up:2019年4月25日、ボーイング機運航停⽌の影響広がる 再開めど⽴たず

Follow-Up:2019年4月27日、⽶航空⼤⼿、ボーイング機運航停⽌で⽋航コストかさむ

Follow-Up:2019年5月4日、ボーイング、開発でパイロットの意見求めず_米紙報道

・・・その後の進展状況_②・・・

2019年5月5日、Aviation Week_April22-May05に以下の様な記事が出ていましたのでご紹介します;

MCAS改修の内容がかなり明確になってきました

MCASのソフトウェアの新旧を比較したものが以下の図になります;

MCASソフトウェア_新旧比較
MCASソフトウェア_新旧比較(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

改修のポイントは;
1.左右のAOAセンサーの、① 左右の迎え角にで5.5°以上の乖離があった場合、② 突然迎え角の値が跳ね上がった(spike)場合、③ 迎え角の変化が尋常でなかった(unreasonable)場合、MCASによるコントロールを停止する
2.パイロットによるピッチ・コントロール(Nose-Up、Nose-Down の操作)は、MCASのコントロールに優先する。またMCASによる水平尾翼のコントロールは、閾値(しきい値:予め設定された値)を超えれば停止する
3. MCASは、AOAの迎え角が変わった時、一回だけ水平尾翼のコントロールを行う。また、パイロットが手動でトリムを行った場合、5秒後にMCASがコントロールを再開する最初のソフトウェアのルールを廃止した

4.パイロットが操縦する際、最も重要な表示装置であるPFD(Primary Flight Display)のイメージは、改修実施後に以下の様になります;

New PFD Image
New PFD Image(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

上記のイメージの説明;
* 左側のPFDのイメージはノーマルなケース、右側のPFDのイメージはAOAの情報が異常であった場合の表示です
* 両方のイメージで、左の帯状のスケールは対気速度(kt:マイル/時間)を表し、右側の帯状のスケールは気圧高度を表しています。対気速度の帯の右側にある赤と白のまだらの細い帯状の表示は失速の警告が出る大気速度の範囲を表しています
* AOAの迎え角が大きく乖離した場合(右側のPFDイメージを参照)、右下に「AOA Disgree」の表示が出ていることが見て取れます。また、機体の速度は169ktで失速速度145ktよりも十分速いにも拘わらず、左の失速の警告が出る範囲になっているのが分かります(⇔失速の警告が出ても失速する心配が無いのが分かる)

5.FAAの当局者によれば、上記改修は5月下旬~6月初旬に承認される見込みとのこと。ただし、この承認後米国のエアラインは早期に運航再開することが考えられますが、米国外のエアラインの運航再開は見通せません(←各国の航空当局の判断)

ボーイング社の今後の新機種開発計画に対する影響(識者の意見)

ボーイング社は、米国で多く使われているB757/B767の後継機種の開発計画(NMA:New Midmarket Airplane)を持っていましたが、今回のB737MAXの事故によって、計画の進捗は明らかに遅れています
今回の事故で明らかになったように、B737MAXの機体設計は明らかに新しい高性能のエンジンを搭載する条件を満たしていません(バイパス比の大きいエンジンを搭載するには機体と地上とのクリアランスが小さすぎる)。また、既にこのクラスの受注競争においてもA320NEOに遅れを取っていることも明らかになっています。従って、ボーイング社としては、2025年~26年にはNMBの投入が是非とも必要となると思われます(⇔B737MAX8、9、10の差し換え需要を含めて/筆者の意見)

Follow-Up:2019年7月15日、ボーイング機の運航再開、20年に延びる可能性 米報道

Follow-Up:2019年7月19日、ボーイング、運航停止で補償費用5200億円 年間利益の約半分

以上

 

災害のリスクについて考えてみました

はじめに

毎年3月11日近くになると、新聞やテレビ、等のマスメディアは2011年に発生した「東日本大震災」の特集が組まれます。この未曽有の大災害は、地震による「建物の倒壊」の人的被害もさることながら、多くの死者、行方不明者を出した「大津波と、放射性物資が飛散したことに伴う広範囲且つ長期にわたる住民避難をもたらした福島第一原子力発電所の「原子力事故による被災者の生活に焦点を当てて報道されるものが多い様です

1995年に起こった阪神淡路大震災では6千人以上の死者を出しましたが、これは「建物倒壊」による死傷者の他に、倒壊した建物の中に閉じ込められた状態のまま地震によって発生した「大火災」によって亡くなった方も多かったと聞いています
また、雲仙普賢岳の噴火(1991年)、御嶽山の噴火(2014年)など、「火山の噴火」に伴う大災害も、歴史を辿れば枚挙にいとまがありません

これらの大災害の第一原因となる地震や噴火は、いずれも地球規模の地殻の変動によってもたらされることはわかっており、日本に住む以上、避けることができないことは明らかです。20世紀中頃に提唱されたプレートテクトニクス/Plate Tectonicsという理論によって発生のメカニズムは説明できる様になったものの、緻密な地質調査や、最新のセンサー、GPSを駆使した観測によっても地震や噴火の予測は人的災害を大幅に防ぐレベルには達していません

そこで、自然災害に関しては全くの素人である私ですが、学生時代から40年以上にわたって航空機に関わってきたこと、またサラリーマン人生最後の10年ほどは原子力ビジネスに関わってきたことことで得た知識を何とか生かせないかと、無い!知恵を絞ってみることにしました
因みに、航空機の場合、1903年にライト兄弟が最初に動力飛行を成功させてから凡そ100年しか経っていませんが、現在安全な交通機関として大量輸送の役割を担っていることはご存知の通りです。もともと空気より重い航空機やそれに乗っている人間は、空中を飛んでいる訳ですから、事故が起きた場合は、地上や水上の乗り物よりは遥かに死亡のリスクが高いことは明らかです。約100年の歴史の中で多くの航空機事故を経験し、これを乗り越えて現在があります。詳しくは(1_航空機の発達と規制の歴史)をご覧ください。勿論、現在でも事故に遭って死亡するリスクはゼロではありません。しかし、航空機を利用するお客様はこのリスクを許容しているからこそご利用になっている訳です。地震や噴火という自然現象は制御はできませんが、これらに伴う人的被害を極小化する手段については、航空安全に関わる知見を応用できる可能性はあると思います

リスクとは

リスク(Risk)という言葉は最近よくメディアに登場します。曰く『大地震のリスク』、『放射線被ばくのリスク』、『肥満によって重篤な病気に罹るリスク』、『噴火のリスク』、『戦争のリスク』、‥など
広辞苑によればリスクとは、あっさりと「危険」としか書いてありません。しかし何となくしっくりいかないので、ネットで調べてみると「ある行動に伴って(あるいは行動しないことによって)、危険に遭う可能性や損をする可能性を意味する概念」と書いてありました。最近多摩川で入水自殺して話題となった西部邁の最後の著書:「保守の真髄—老酔狂で語る文明の紊乱」を読んでいたら、リスクとは「確率的に予測できる不確実性』と書いてありました。私にはこの定義が災害の死亡リスクの問題を論ずるときにはもっとも当てはまると思われます

つまり、リスクを語る時は、リスクの大きさもさることながら、そリスクが起こる確率を把握しなければ意味がありません。例えば、およそ6千5百万年前の白亜紀末の小惑星の衝突によって恐竜が死滅した(最近は、恐竜は死滅せず鳥類に進化して生き延びたという説が有力になっています)ことはよく知られていますが、太陽系の小惑星自体は無数に存在しているものの、地球に衝突するリスク(参考:小惑星衝突防止の研究)を心配している人は殆どいません。つまり、発生確率が極めて低いからです
これに対して地震や噴火は、少なくとも数十年から数百年の間には、ある特定の場所で発生する確率は公表されています。しかも、東南海地震など大津波の伴う巨大地震や、地域が限定されるものの発生確率の高い直下型地震はいつ起こってもおかしく無い状況にあると言われています。こうしたリスクに対しては、何時、何処でという正確な予測が不可能である以上、不意に襲われたときに人が生き残れる確率をどう高めるかという研究が最も重要であると思われます

現在、大津波対策として、高台への移転防潮堤の建設(復興)、逃げ道や逃げ場所の確保緊急通報体制の整備、などがマスメディアに登場していますが、これらはいずれも今回被害にあった東北各県では大なり小なりすでに行われていた対策ではなかったかでしょうか? それでもなお、どうしてあれだけ尊い命が失われてしまったのでしょうか? 科学技術先進国である日本としては、少し努力、工夫が足りないような気がしてなりません

航空機の深刻な事故を減らすために、設計精度の向上、機器の信頼性の向上、地上及び航空機搭載の安全装備の向上、操縦技術のレベル管理の厳格化、ヒューマンエラーを防止するための装備や訓練の充実、などが絶えず行われて事故の確率は相当程度減ってきました。1990年代以降、これらに加えて事故が起きても乗客・乗員が生存する確率を増やすために、客室内装備の耐火性の向上と、椅子の強度向上(現在の基準は重力の11倍の衝撃加重に耐えることが求められたいます)が行われました。これらの基準は、事故によって亡くなられた方の死亡原因を調べた結果、機体火災による焼死と事故の衝撃で椅子ごと飛ばされてしまった事による激突死であることがわかり、基準が強化されました。この基準のお陰で最近の航空機の全損事故では、全員死亡のケースは減ってきています

そんな訳で、以下に思いつくままに私の稚拙な!アイデアを披露してみたいと思います

大津波から生還するには

2011年3月11日の大災害が発生してから5ヶ月ほど経ち災害救援が一段落し、公的・私的な復興支援もある程度整ってきた8月初旬、3泊4日の日程で個人的に被害・復興状況の調査に行ってきました。東北高速道「花巻」経由で太平洋沿岸を走る国道45号線に出て以下のルートを辿りました(残念ながら旅程の関係で久慈市、宮古市、大槌町は割愛);
釜石市」⇒「大船渡市」⇒「陸前高田市」⇒「気仙沼市」⇒「南三陸町」⇒「石巻市」⇒「松島町」⇒「塩竃市」⇒「多賀城市」⇒「仙台市」⇒(長い海岸線の部分)⇒「南相馬市」⇒通行止(福島第一原子力発電所周辺)避難指示が出た「浪江町」を経由して常磐高速道経由「いわき市」⇒「千葉県浦安市の埋立地

浦安市を除き、殆どの海岸近傍の平地部分は、夏草が生い茂る中に流された船や自動車の残骸が転々と残る所謂「荒蕪地」となり、市外地域の空き地は「瓦礫の山」が連なっていました;

荒蕪地・船の残骸・瓦礫の山
荒蕪地・船の残骸・瓦礫の山

陸前高田市では、津波災害の特徴が良くわかる写真を撮ることができました;

東日本大震災_2棟のアパートの被害状況
東日本大震災_2棟のアパートの被害状況

この写真にあるアパートの前面は海岸に向いており(海岸付近のホテルやアパートは景観を重んずるために所謂「オーシャンビュー」の立地が多い)一棟目は4階まで津波の被害に会ったことが分かります。一方その後ろの二棟目は1階と2階の一部が被害を受けているのみであることがわかります。アパートの1階分が仮に3メートル程度とすれば、1棟目は12メートルの高さの津波を受けたことになりますが、その後ろにある2棟目は3~5メートル程度の津波であったことがわかります。この現象は、海岸すぐ近くに立地していた「キャピトルホテル1000」でも客室レベル(恐らく10~15メートル以上)は被害を受けていない事が分かります;

東日本大震災_海沿いのホテルの被害状況
東日本大震災_海沿いのホテルの被害状況

津波被害を受けたすぐあと(4月1日)にこのホテルの被害状況を調査した記録がネットに残っていましたので詳しくは(地震直後のキャピタルホテル)をご覧ください

また今回の調査旅行の全行程で、大小多くの川の河口を通過してきましたが、河口付近の被害が比較的少ないことに気が付きました。後でニュースなどで知った事ですが、大きな川ではかなり上流まで津波が遡り、死亡を含む被害が発生していましたが、動画などから見る限り海岸付近の津波の様な破壊的なものではなく、堤防の低い所から水が溢れ沿岸の住宅地に浸水していくというプロセスを辿っていました

松島町では、被害を受けたホテルに泊まりましたが、被害は一階のホール部分のみであった様です。恐らく松島町は地図(松島町の地図)をみれば分かる様に、湾の入り口に大きな島があること、湾内にも小さな島々がある事により、津波の破壊力が減殺されたものと思われます

今回の地震は、千年以上前の西暦869年(平安時代)に東北地方を襲い甚大な被害を与えた貞観地震(少なくともマグニチュード8.3以上と推定されています)と並ぶ巨大地震です。貞観地震の際の津波は、百人一首に選ばれている『後拾遺和歌集(西暦1086年)』の清原元輔作成の一首;
  契りきな かたみに袖をしぼりつつ すゑの松山 波越さじとは
にも読み込まれていますが、今回は仙台に向かう途中、多賀城市にあるその『すゑの松山』も訪ねてきました

末の松山
末の松山

今回の地震でもちょっと高台になっているこの『すゑの松山』のすぐそばまで津波の水が押し寄せて来たそうです

仙台では、海岸近くにある『仙台空港』にも立ち寄って被害状況を見聞してきました;

仙台空港の被害状況
仙台空港の被害状況

この空港は、長い海岸線(仙台空港の立地)近くに立地しており、到底防波堤などで空港を守ることはできません。しかし、津波は一階のホールの浸水にとどまっています;

浸水した高さの標識
浸水した高さの標識

仙台から相馬に続く長い海岸線は、仙台空港周辺と同じ様な津波の爪痕が残っていました。特に海岸に設置されていたはずの「消波ブロック」が津波に流されて転々と転がっている光景は印象的でした;

仙台⇒相馬への長い海岸線の被害の様子
仙台⇒相馬への長い海岸線の被害の様子

仙台空港と同様、それ程高い津波に襲われた訳ではなかったにも拘わらず、逃げ場所となる高台が無い中で、車で避難しようとして命を失った人が多かったと言われています

千葉県・浦安市を訪ねた理由は、地震によって生じた液状化現象の被害状況を確認する為で、今回のブログの趣旨には合致しませんので、被害状況、等は割愛します

<津波被害の分析>

この調査旅行で私が強く印象付けられた津波の特徴は;
A.津波は、突然現れる大河の様なものである
B.津波の破壊力は津波が押し寄せる『速度』と波長が極めて長いことからくる膨大な『水の量』で決まる

津波の簡単なモデル
津波の簡単なモデル

例えば、ある湾(入江)に侵入する水の量は、上図の簡単なモデルで説明すると、「押し波の部分の面積」「湾(入江)の入り口の幅」に相当します。気象庁のネット情報によれば、津波の波長は数キロ~数百キロとされており、押し寄せる水の量が膨大になることが感覚的に理解できると思います。沖合における津波の波高がそれ程でなくても、被害が大きくなるのは、こうした理屈によるものです

また、津波は水であることから、基本的に「粘性流体力学」に従うと考えてよいと思われます。しかし、その精密な解析は、地震発生地点における津波の波高や波長、津波の進行する方向、到達する陸地近辺の海底の形状や、海岸線の形状、到達したあとの陸地の高低、傾斜、障害物などによって大きく影響を受けるために、適切なモデル化を行って数値計算を行うにしても、到達する場所ごとの精密な津波の規模を算出することは極めて困難と予想されます(⇔実際に津波の規模の予想は概ね外れますね!)

ただ、津波の挙動に係る定性的な説明をすることは可能であり、これに基づいて津波が起こす幾つかの現象を素人なりに説明してみることにします;
湾(入江)の入り口が広く、奥が狭まっている場合、入り口の長さで決まる大量の水が湾(入江)内に侵入(上記B項参照)し、更に、湾(入江)の両側の岸から反射した津波が重畳するため、湾(入江)の奥に到達する時には極めて波高の高い津波となります
逆に半島や、島などで実質的に入り口が狭くなっている湾(入江)は、入り込む水量が少ないこと、湾内で津波の運動エネルギーが拡散し波高が低くなります。また、島などがあれば、津波の運動エネルギーが島との衝突によって失われ、津波の破壊力は減殺されることになります(松島湾のケース)
防潮堤に必要な高さは、侵入してくる津波の水の量速度で決ります。津波の運動エネルギーは「水の量(=質量)」x「速度の2乗」に比例するので、防波堤にぶつかった時は、この運動エネルギーは、防波堤に沿ってせり上がることによるポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)の増加で相殺せねばならず、想像以上に津波は高くなると考えなければなりません(前掲の「2棟のアパートの被害状況」の写真)。万里の長城と言われた宮古市田老地区の10メートルの防潮堤(世界最強の防波堤)を津波が軽く超え、簡単に破壊されてしまったのはこの理屈によるものと思われます。一旦防波堤の一部が破壊されると、寄せ波だけでなく、引き波で重い船や破壊された家屋の残骸、倒木などが防波堤に激突し、その集中荷重で防波堤は簡単に破壊されてしまったはずです

<参考> 宮古市田老地区の現在の堤防復興状況:防波堤・海閉ざす壁

海岸線の長い平野では、海岸付近でせり上がった高い波(←海底が駆け上がりとなっている為)が崩れ落ちた後、川幅の広い大河の流れのようになって陸地の奥深くに侵入していきます。この大河は表面は平らであっても、この水流は多くの障害物を飲み込んだり、建物を破壊した後の水流なので水中は激しく渦巻く乱流となっており、人間が泳ぐことは不可能です。どんなに泳ぎの達者な大人でも大雨の時の河川の濁流に飛び込めば簡単に水死する理屈(濁流に流された子供を助けようとした親が水死する状況はこれ!)と同じです。車ごと流されて水死してしまう事例の多くは、この乱流が原因と考えられます
大きな川の河口に押し寄せた津波は、陸地を駆け上るよりも抵抗の少ない川を上流に向かって逆流していきます。これによって津波の運動エネルギーは吸収されるため河口付近の被害が少なくなっているものと考えられます。逆に、津波が遡上した上流部では、堤防が低いところから浸水し、被害を発生させることにもなります
海岸から少し離れ大河の流れのようになっている状況では、津波の進行を妨げる様な壁は、流れが比較的緩いと言っても大きな力をうけます。因みに。水は1立法メートルで1トンも重さがあり、相当強度が無ければ直ぐに破壊されてしまいます。通常の住宅が簡単に流される理屈はここにあります。高層アパートなどが流されずに残っているのは頑強な基礎と、その重さにあります。一方、一階部分が鉄骨で出来ており、壁が簡単に破壊されるものであれば、鉄骨の間を津波が抵抗を受けずに流れ破壊されません。調査旅行の道中で、平野の中でポツンと残っている家は概ねこうした構造の家でした

<生き残る方法>

上記の分析から、構築物の被害を未来永劫に亘って防ぐ方策は、津波の規模に不確実性があること、膨大なコストが伴うことで現実的ではありません。また、東南海巨大地震による大津波がいつ発生するかもわからない現在、大津波が来ても生き残る確率を如何に向上させるかを考える方が現実的です。以下は、私の考えた幾つかのアイデアです;
1.大きな川の周辺では、津波の運動エネルギーをできるだけ吸収し、大量の海水を、川を逆流させて逃がすために積極的に活用する。このため、河口付近で溢水しないように堤防を整備するとともに、遊水池が設けられる場所があれば積極的に整備する。また、住宅密集地から外れた耕作地など人口密度が低い所があれば、ここで意図的に溢水させて大量の海水を逃がすようにする
<参考:信玄堤>

*武田信玄の時代に、荒れ川として有名な笛吹川と釜無川の治水のために作られた堤防で、意図的に増水した水を堤防外に逃がして堤防の決壊を避ける様になっています(大雨で決壊すると大被害となる:下の鬼怒川決壊の写真をご覧ください)。増水が収まると逃がした水が川に戻っていく様に設計されています

信玄堤
信玄堤
2015年・鬼怒川決壊の被害状況
2015年・鬼怒川決壊の被害状況

2.広い平野部で津波に襲われたときは、車で逃げるのは渋滞することが目に見えているので愚の骨頂です。大河の様に流れてゆく津波に飲み込まれたときは、溺れないようにすることが生還するための唯一の方法となります。その方法は航空機では非常用装備品として当たり前になっている「ライフジャケット」と「ライフラフト(救命ボート)」を予め準備しておくことです;

ライフジャケット
ライフジャケット
ライフラフト
ライフラフト

航空機の場合、ELT(Emergency Locator Transmitter)という装備が義務付けられており、墜落の様な大きな衝撃を受けると救難信号が自動的に発信される様になっており、広い海洋に墜落しても遭難機、遭難者の位置を確認できる仕組みになっています
津波用のライフジャケットやライフラフトに、水に漬かると救難信号が発信される装置や夜間用のLEDライトを装備するようにすれば、引き波で沖合に流された遭難者も発見が容易になると思います。東日本大地震の津波では、逃げ足の遅い多くの子供や老人が犠牲になりました。是非こうした非常用装備で、生還の可能性を高めてほしいと思います

尚、ライフラフトであれば、救助を待つ間に「低体温症」で死亡することも防ぐことができます。家族単位での行動が可能となり、一層生存率が高まることも期待できます。
<参考:輪中>
昔から洪水に見舞われてきた濃尾平野の揖斐川、木曽川、長良川の下流域では、「輪中」によって水害から命を守ってきました。大河の様な津波に対しては、この知恵から学ぶところが多いと思われます;

輪中・自家用の船
輪中・自家用の船・輪中・自家用の船
輪中の中の家屋の工夫
輪中の中の家屋の工夫

<Follow-up>
*2018年9月19日の朝日新聞DIGITALに(スーッと近づいてきた無人の「神様のボート」住民救った_西日本豪雨災害)という記事が出ていました

3.建物自体を、圧倒的な破壊力を持つ津波に破壊されないようにするのは、以下の様に極めて限定的な方法しかありません
鉄筋コンクリート製の高層建築物であれば前掲の「2棟のアパートの被害状況」、「海沿いのホテルの被害状況」の写真を見れば分かる様に、その重量と基礎の堅牢さで建物の崩壊は免れることが可能であると思われます。更に、建物の向きを「オーシャンビュー」ではなく、海岸線に直角の方向にすれば、津波の立ち上がり方も少なく、より低層部分も冠水しないで済むと考えられます
長い海岸線の平野であれば、津波の高さはそれほどではない(今回の大津波でも1階~2階の高さ)と考えられますので、普通の個人用の邸宅でも、1階部分の柱を鉄骨で作り、壁を壊れやすく!して、津波が来た時には簡単に壊れて水流が容易にすり抜けられるようにすれば(上の輪中の絵の「母屋の1階部分」をご覧ください)、家自体は守れる可能性があると思われます。尚、この時、引き波も大河の様に水が流れますので、流されてきた重量物の衝突で柱の鉄骨が破壊されないようにしたほうがより良いと考えられます。この為には大きな川の橋桁の上流側に設置されている流木などが橋桁に激突するのを防止する構造物を海と反対側に設置することが有効であると考えられます

京都嵐山・渡月橋_流木除けの効果
京都嵐山・渡月橋_流木除けの効果

その他の災害から身を守るには

1.大地震による家屋の倒壊や大火災から身を守るには

大地震による建物の倒壊は、建物自体の耐震性で決まります。現に最新の建築基準法に基づいて建てられている建物に住んでいる人はそれ程心配する必要はないと思いますが、そうでない場合は、耐震診断を予め受け、必要な補強を行うことによって安心して住める状態になると思います。家全体では改修費の負担が大きすぎる場合は、寝室や、居間など居る時間が長い所のみを改修することでも、倒壊した家屋の下敷きとなってしまうリスクを相当程度下げることが可能です

大地震による火災で命を失わないようにするには、まず倒壊しない安全な家に住み、地震が収まったと同時に安全な避難場所に即刻退避することが肝要です。しかし、阪神淡路大震災の被害地域の様に木造家屋が密集する地域に住んでいる場合;

阪神淡路大震災
阪神淡路大震災

倒壊した建物によって狭い路地が塞がれると同時に、地域のあちこちから出火し逃げ道を失う恐れもあります。また、火災の規模が大きくなると「火災旋風」(関東大震災や東京大空襲でもその発生が死傷者を増やしたと言われています)が起きる可能性も考えられ著しく危険な状態になります
一旦火災があちこちで発生した場合、個々の家の耐火性の向上や地上の消火活動などで延焼を防ぐことなどできません。消火するのであれば大規模な森林火災に使われる様な航空機による空からの消火活動が一番効果が大きいと思われます。

日本ではこうした航空機による消火活動は、今でもヘリコプターを利用する事は可能と思われますが、大型の固定翼機による方がより効率的です。日本にはUS2という飛行艇があり;

US2飛行艇
US2飛行艇

この機材を大規模火災の消火用に改修(US2・消防用に改修)し、人口密集地近くの基地に配置する施策も検討する価値があると思われます

また、地域全体で家が倒壊しても絶対に火災を発生させない様にする方法も考えられます。発火の原因は、その殆どが調理・炊事、暖房用の電気、ガスです。最近のガス、電気設備には個々に地震による遮断装置は付いていますが、古い設備には、この遮断装置が付いていない場合もあります
従って、住宅密集地域では、電気、ガス以外のエネルギー源(例えば炭火を使う店舗などが考えられる)を行政レベルで禁止すると同時に、震度があるレベル(その地域で最も耐震性の無い住宅が倒壊するレベル)を越えたら、直ちに地域全体の電気、ガスの供給を遮断することが有効れあると考えられます。勿論、一旦電気、ガスの供給を止めてしまうと復旧は個別の家ごとにおこなう必要があるので、電気、ガスの会社はやりたがらないとは思いますが、、、

2.大規模噴火から生還するには

噴火による死亡事故の殆どは、「噴石の直撃」を受けることと、「火砕流」に巻き込まれることです。噴火予知が正確にできればこんな心配はしないで済むのですが、今の知見だけでは予測はかなり難しい様です

噴石による事故は、防ぐことが難しく、今年1月の草津スキー場のケースでは思いもよらぬところから噴火し、自衛隊員の死傷事故が発生しました。2014年には御嶽山の突然の噴火で、登山者58名が死亡(他に行方不明者5名)しました。噴石は、噴き上げられたものが、ほぼ垂直に落ちてくるのでヘルメットを被っていても被害を避けることは不可能です。丈夫なコンクリート製の待避壕に避難するか、丈夫な屋根をもつ山小屋などに避難するしかありません。ただ、致死性の高い大きい噴石は火口近くに落ちるので、登山者の多い火山の自治体は、火口近くに待避壕を設置する対策を行う努力をしてほしいと思います。また、登山者は待避壕、山小屋などの位置を常に確認しておく習慣を持つことが自身の命を守る上で必要であると考えられます。

火砕流による事故は、噴石に比べるとより大規模で深刻な事故に繋がります。有名なベスビオス火山による火砕流は、ポンペイの町を一瞬の内に消滅させました。最近の日本でも、1991年の雲仙普賢岳の火砕流では報道関係者を含む44名が死亡しました;

雲仙普賢岳の火砕流
雲仙普賢岳の火砕流

ネット情報によれば;火砕流の実体は、「火山砕屑物(さいせつぶつ/岩石が壊れてできた破片や粒子を指す地質学用語)と噴出物の火山ガスや水蒸気が混合して流動化したもの。ガスは、マグマに含まれていた火山ガスと、火山噴出物中および流走中に取り込んだ空気からなる。温度は、マグマに近い高温のものから100℃程度まで幅がある。水蒸気噴火とマグマ噴火では水蒸気噴火の方が発生頻度が高い」であり、上の写真を見れば分かる様に、走っても逃げられないような相当な速度で襲来し、巻き込まれればその高温の環境により確実に死に至る恐ろしい現象です
最近は、噴火活動の結果生じた火口近傍の堆積物の量や、斜面の形状、方向、過去の火砕流の記録、などを勘案して、火砕流の危険性を警告する情報が流れるようになりました。ゆめゆめ好奇心から危険地域に近寄らない様にすることは勿論、避難勧告が出たら早めに非難することが、命を守る唯一の方法です

3.核兵器の攻撃を受けた時に生き延びるには

日本は、中国、ロシア、北朝鮮という核保有国に囲まれ、しかも中国とは尖閣列島帰属問題、北朝鮮とは拉致問題を抱えています。勿論、米国の核の傘で守られている為、簡単には攻撃されることないとは思いますが、仮に日本が最初に核攻撃された場合、米国が自国民を核攻撃の危機に晒さす反撃を行うかどうかは疑問が残ります。だからといって、日本も核武装すべきだという主張に私は組しません。核攻撃を受けても多くの人が生還できる方策を予め考えておくことが大切であると考えます

昔台湾に駐在した時、最初に奇異に感じたことは、台北市内の主要道路の交差点は頑丈なコンクリート製の地下歩道が整備されいることでした。現地の人に聞いたところ、これは大陸から攻撃を受けた時の防空壕の役割を果たすのだそうです
大国に囲まれた国、隣国から侵略を受けた歴史を持つ国は、防衛の第一の目標は最初に攻撃されたときに如何に生き残るかです。因みに、フィンランドの核シェルターをご覧ください;

フィンランドのシェルター
フィンランドのシェルター

戦後、唯一の被爆国として非核三原則を堅持してきた日本であっても、核攻撃されないという保証はありません。日本にとって非核三原則を遵守すると同時に、核攻撃をされても生き残る方法を、科学技術先進国である日本の総力を挙げて取り組むべきであると私は考えています。因みに、米国では数百万円~数千万円で個人用の核シェルターを販売している会社がありますが、最近の最大の顧客は日本人だそうです

日本には、核攻撃を受けると必ず死に至る(即死しなくても、後遺症で死ぬ)と思っている人が少なくありません。その結果、シェルターなど意味の無いものだという人も多い様に思います。その背景には、下記写真のような原爆の惨状を小学校時代からずっと頭に叩き込まれてきたことがあります。また、マスコミや著名な作家による恐怖を煽る記事も多くの人々に影響を与えたに違いありません。私も学生時代に読んだ「広島ノート;大江健三郎著」には多大な影響を受けました。このブログを書く前にもう一度読み返してみましたが、当時としてはやむを得ないにして、もあらゆる病気、あらゆる死が原爆、放射能と結びつけられており、現在の知見を基に判断すると驚くばかり間違いの多い内容です。これによって被曝したものの健康を取り戻した多くの人たちが、結果として差別を受けたことは忘れてはいけないと思います。この本にも引用してありますが、興味のある方は(広島で被爆した医師が大江健三郎に書いて寄こした手紙)読んでみてください;

ヒロシマ被曝直後の惨状
ヒロシマ被曝直後の惨状

核攻撃を受けても生き延びる手段はあります。冷戦時代、米国、ソ連、中国は核攻撃の危機を現実のものとして受け止め、核攻撃から自国民を守る手段を必死に研究してきました。フィンランドの核シェルターも、米国で個人宛に販売している核シェルターも、そうした研究の成果を取込んだものと考えられます

そもそも、核攻撃による死のリスクとはどんなものでしょうか;
① 致死量の放射線を爆心から直接浴びることによる死;
放射線はアルファー線、ベータ線、ガンマ線(波長の短い電磁波)、紫外線・光線・赤外線(波長の長い電磁波)、中性子線、その他の粒子線に分けられます。それぞれの放射線の性質、リスクなどについて詳しく知りたい方は私のブログ(原子力の安全_放射能の恐怖?)をご覧になってください。いずれも爆心地近くで直接浴びれば即死します。しかし、頑丈な遮蔽物に身を隠していれば防御することが可能です。ただ、中性子線だけは透過力が極めて強いので、あるいは水を含んでいるコンクリート、水分を含んだなどで防御することが有効です(原子炉が水やコンクリートで遮蔽されているのはこの理由によります)
また、こうした放射線は爆心から球状に広がると考えれば、爆心からの距離の2乗に反比例して強度は弱まります。例えば、爆心から1キロの地点の放射線強度に比べ、10キロ離れた地点の強度は百分の一になります。基本的に直進することを考えれば、山などの陰に隠れていれば安全ということになります

② 爆風(正体は衝撃波=強烈な音波)を爆心から直接浴びることによる死;
爆心地近くであれば、強烈な爆風で人間を含む重い物体が吹き飛び、何かと衝突して死亡する可能性が高いと思われます。ビル街などでは、爆風で飛び散ったガラスが突き刺さり死に至るケースも多く発生します。爆風も基本的に爆心地から直進するので、頑丈な遮蔽物に身を隠すか、地面より低い所(戦場で爆弾が降りそそぐ環境で塹壕に隠れるのはこの爆風を避ける為です)に潜り込むことで安全を確保できます
よく原爆が炸裂した時の表現で「ピカドン」という言葉が」使われますが、これは「ピカ」で光速あるいは光速に近い速度の放射線が爆裂と同時に到達し、やや遅れた「ドン」で爆風が到達する状況を表現しています(遠くから花火を見た場合を想像してください)。従って、爆心から離れたところであれば、「ピカ」を見てから待避しても間に合う可能性があります(10キロ離れていれば30秒ほどの猶予時間があります)。爆風も、放射線と同じく球状に広がるので、距離の2乗に反比例して強度は弱まります。

③ 爆発後降り注ぐ放射性廃棄物から出る放射線(二次放射線)を浴びることによる死;
核爆発すると巨大な「きのこ雲」が発生することはよく知られています。このきのこ雲は放射性廃棄物を沢山含んでいます。これが爆発後ある程度の時間をかけて地上に降り注ぎます(所謂「死の灰」)。地上に降り積もった放射性廃棄物に近づけばと同様被曝することは明らかです。しかし、放射線の強度は①に比べて桁違いに弱いので直ちに死に至ることはありませんが、長時間に亘ってその環境にいれば放射線障害になる恐れがあります。広島、長崎ではこの二次放射線で放射線障害となった人も多いと言われています。1954年ビキニ環礁でマグロはえ縄漁を行っていた第五福竜丸の23名の船員が被曝したのは、この「死の灰」によるものです詳しくは私のブログ(原子力の安全_放射能の恐怖?)をご覧になってください。ただ、きのこ雲は風向、風速によってはかなり遠方まで届くので、爆心地から離れていても注意が必要です

④ 爆発後降り積もった放射性廃棄物を体内に取り込む事による死;
これは上記私のブログをご覧になって頂ければ分かるのですが、放射性廃棄物で汚染されたほこりや食物を体内に取り込むと、体の内部から継続的に被曝する結果となり、少量であっても非常に危険です。この対策はマスクなどによって肺に取り込むことを防ぐほか、汚染された食べ物を食べてしまうことを防ぐ必要があります。尚、体内に取り込まれた放射性物質の量は、ホールボディーカウンターで測定することが可能です
いずれにしても、放射性廃棄物がある所に入らないことで確実に防ぐことが可能です

以上を踏まえると、堅牢な防護壁、乃至地下に設置された核シェルターは、爆心地近くでない限り①、②の脅威から生還できる可能性が高いことが分かります。また、シェルター内の空気は放射性廃棄物を通さないフィルターを通じて換気されているとともに、相当期間必要な食料は備蓄されているので、③、④の二次放射線の脅威からも免れることが可能です

山間部は直接攻撃されない限り山が守ってくれますが、極度に人口が集中している大都市では、こうした自然の防壁もなく、新たにシェルターなどを設置しようにも場所が確保できません。しかし、大都市では地下鉄網や広い地下街がありますので、ここに多くの人を退避させることによって少なくとも①、②の脅威からは命を守ることが可能だと考えられます
ただ、ミサイルの緊急速報が入ってからの時間の猶予はそんなにありません(北朝鮮からの発射であれば5~10分でしょうか)。また、避難スペースを広く確保するためには地下鉄を直ちに停止させ、地下鉄のトンネルの中も避難スペースとして使わなければなりません。更に、現在は、地下鉄や地下街への入り口が狭く、数も少ないので、核シェルターの代役をさせるのは入り口を増やし、ある程度の食糧の備蓄なども必要になると思います
総理府では(国民保護ポータルサイト)でミサイルが発射されたときの連絡体制や、地下街などの地下施設に避難するなどの注意事項が書いてありますが、地下施設をシェルターとして利用するために必要な改修工事は未だ計画もありません。また、地下への人の誘導の訓練もやっていません。このままでは、実際に核攻撃の脅威が現実のものになった時にどうなるかとても心配です
終戦間際の米軍による都市爆撃で、あれだけ多くの民間人が亡くなってしまった事の反省が未だにできていないのではないでしょうか、、、

<Follow-up>
*2018年12月25日の日経新聞に、Jアラートシステムが変更されるとの記事が掲載されていました:181225_北朝鮮のミサイル発射情報・Jアラート見直し_伝達を都道府県単位

以上

MRJの開発、また遅れるんですか?

-はじめに-

世界の航空関係者で購読している人が多い“Aviation Week & Space Technology”の最新号(2月6~19日号)の表紙に上記写真の様な衝撃的なタイトル!が踊りました。“YS-11”が1964年に初飛行して以来絶えて無かった国産旅客機の再登場で航空関係者のみならず、国民の多くが期待をかけている“MRJ” が2015年に初飛行してから既に一年以上が経過しているにも関わらず先が見通せない状況に陥っているのでしょうか、航空ファンとしては心配なところです
国内の新聞報道(“また延期・引き渡し20年に”;“導入延期・パイロット採用にも影”)では引き渡しが遅れる理由はよく分からなかったのですが、上記雑誌の記事(“A&W記事”)には過去の遅延(今回が5回目)も含め、遅延の理由とその評価が解説してありましたので、本件に興味を持っている皆様にご紹介したいと思います

-MRJとは-

“MRJ”という名称は“Mitsubishi Regional Jet”の頭文字を取っています。読んで字の如く、大型機を飛ばすだけの需要が期待できないものの旅客単価の高い相応の需要が期待できる路線に特化することを狙った60席~100席クラスの小型ジェット機です。今後20年間の世界の需要は5千機にも上ると言われており、カナダのボンバルディア社、ブラジルのエンブラエル社などこのクラスの航空機製造に実績のある航空機メーカーも経済性の高い新型機の開発にしのぎを削っています。中国も開発を進めておりますが、米国で耐空証明を取る気配が見えないので、当面は国内需要が狙いであると思われます

“MRJ”の最大のセールスポイントは、その高い経済性にありますが、これはプラットアンドホイットニー社が新しく開発した燃費の良い新型エンジンを装備していること、日本の得意分野であるCFRP(炭素繊維複合材料)をふんだん使った軽量化を行うこと、などによって実現しようとしています
現在開発している機種は、76席の“MRJ70”と90席の“MRJ90”です。この2機種に加え、近い将来100席の“MRJ100”の開発も視野に入れています

また、最先端技術の粋を集めている航空機の開発は、産業の裾野も広く“技術立国”日本としてはどうしても実現したい夢でもあります。因みに、国の規制機関である経済産業省や国土交通省も、補助金の交付や開発環境の整備などで開発当初からバックアップを行っています
国産機とは言っても、使用する部品の約7割が外国製であると言われており“どうして国産機と言えるんだ!”という意見もありますが、実は民間航空機の製造で一番ノーハウが詰まっている部分は、耐空証明取得のプロセス(詳しくは“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”をご覧ください)です。因みにボーイング社の最新鋭機である787は日本で約3分の1が製造されていますが、米国産の航空機であるということに異議をとなえる人はいないと思います。最新の航空機は、航空機メーカーが世界の優良企業を選んで国境を越えたサプライチェーンを作って製造しているのが実態で、エアバス機も例外ではありません
<参考> “MRJ”の主要なサプライヤー:“Parker Aerospace”、“UTC Aerospace Systems”、“Rockwell Collins”、“ナブテスコ”、“住友精密工業(株)”

“MRJ”は現在まで航空会社や、航空機リース会社から約400機の契約(オプション契約も含む)を取得しており、日本においてもANAは25機、JALは32機導入の契約を結んでいます

“MRJ”についてさらに詳しく知りたい方は、“MRJ”開発の主体となっている三菱航空機(三菱重工の100%子会社)の2014年のプレゼンテーション資料(“MRJの開発状況”)をご覧ください

-これまでの開発の足どり-

開発の足どり
開発の足どり

1.開発開始:2008年
“MRJ”の本格的な開発が始まった(業界用語で“ローンチ/launch”といいます)のは2008年です。この時、顧客への引き渡し時期は2013年に設定されていました。つまり開発期間は5年間だったことになります。航空機の開発には莫大な投資が伴いますので、通常ペーパープランの段階で確定契約を行って開発リスクをシェアしてくれる顧客が必要になりますが、“MRJ”ではANAがその役割を担いました。この顧客の事を“ローンチ・カスタマー/Launch Customer”といいます

2.1回目の遅延:2009年
最初の遅延は開発開始後17ヶ月後の2009年に行われました。これは主翼の構造をCFRP(炭素繊維製)から金属製に変更すること、胴体の断面積を増加させること、及び電子装備品と貨物のスペース配分の変更することという大きな設計変更になりましたが、これに伴う開発期間の延伸は僅か3ヶ月であったため大きな議論は呼びませんでした。

3.2回目の遅延:2012年
2012年に三菱航空機は、“製造過程、及び技術的な解析に係る書類が規則通りに揃っていなかった”という理由で引き渡しを2年遅らせるという発表を行いました。ここで三菱航空機は、“この遅延は技術的な問題ではない”と説明しておりますが、実は遅延の本当の理由は“型式証明取得に係る経験の不足”であり、ここから“型式証明取得という“困難で不愉快な挑戦”が始りました。型式証明取得とはどんなことを行うのかについては、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”をご覧になれば概要を理解することができると思います

4.3回目の遅延:2013年
2013年には、型式証明を取得するのに必要となる新しい組織監視の仕組みである“ODA/Organization Delegation Authorityを導入するために1年の遅延が必要になった”と発表致しました。ただ、この発表のタイミングはやや奇異なことでした。何故ならODA導入の義務化については2009年に既に公となっており、本来なら2012年の遅延に反映されているべきものだったからです
私は、“ODA”の仕組みについて詳しくはありませんが、考え方としては、規制当局が人的なリソースに限界があるために規制作業の一部(と言っても業務量の90%程度:“FAA’s ODA Program Announcement Lette”)を被験者に行わせ、且つ責任を持たせる仕組みであり、パイロットの技量管理の仕組みや認定事業場の仕組みなど(“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”)にも取り入れられています。“ODA”の仕組みを全体として俯瞰してみたい方は“ODAに係るルール_Order 8100-15”の目次だけでもざっとご覧いただくことをお勧めします。このルールに適合させることがいかに大変か分かるのではないでしょうか

5.4回目の遅延:2015年
2015年末には、“試験飛行を実施する為に更なる時間が必要”となり、引き渡し時期が更に1年延期されました
試験飛行に関しては、開始時期が半年ほど遅れていたことと、試験飛行計画のプロセスで地上での準備作業の時間をもっと確保すべきであったこと(この件は、米国の専門家/“U.S. expert”が三菱航空機に対して既にサジェスチョンしていたことでした)が原因があったようです

6.今回の遅延(5回目):2017年
今回の遅延の理由は、“異常事態/extreme events(例えば床下への水漏れ、爆発/explosionなど)が発生した時の電子・電気機器類/the avionics and electrics)の回復性/resiliencyの問題”であり、この問題を解決するには、“ワイヤリングのルートを変更し、電子・電気装備品収納スペース/avionics bay内の装備品の再配置が必要”となったことです。この設計変更を行うために更に2年の引き渡し時期の延伸が必要になると発表されました

また、発表の際の追加的な説明は以下の通りです;
今回の遅延は新しい要求項目(certification requirement)が出てきた為でなく、これまでの要求項目(“Electrical Wiring Interconnection Systemsに係る耐空性要求項目”)理解不足にあった
<参考>  通常航空機の開発期間は極めて長期に亘る為、新型式の耐空証明を取得する際に適用される耐空性基準(certification basis)は5年以上前のものが使われることになっています。2008年に開発が始まった“MRJ”については、2013年以前に型式証明を受けるとすれば、2008年の“certification basis”に従えばいいのですが、引き渡しが2020年(耐空証明の取得は2019年)になった場合、“certification basis”は2014年のものが適用されることになります。しかし、2008年と2014年の耐空性基準の違いは全体として僅かであり、且つ今回の設計変更に係る基準は2008年以前に既に存在していたものでした

今回の設計変更の準備は既に始めており、今後数ヶ月の内に詳細設計に入る予定
今回の設計変更に伴って1~2回の追加試験飛行が必要と想定
製作された5機のプロトタイプの内4機は今回の設計変更をしない機体のままで試験飛行を継続する
2015年11月の初飛行から、日本の航空当局の監督下で実施してきた400時間の試験飛行は型式証明試験として有効
今回の設計変更に伴う耐空性の検証は、主として熱や電磁的な評価を行うことになり、これまで行ってきた検証作業と重複は無い
今回の設計変更に伴う構造設計の変更は不要。機体の構造強度に関わる検証は既に完了している
静強度試験に投入されている2機の内の1機で実施された主翼の究極荷重試験で運用上の最大荷重の150%で破壊が起こらないことは昨年11月に確認されている(今後この試験は破壊が起こるまで継続)

この遅延によって、ANAの初号機の引き渡しは2020年の後半となり当初5年を想定していた開発期間は12年以上となりました。これに伴って開発に必要な資金は膨大(“開発費5000億円に”)となりますが、三菱航空機は、“苦労して手に入れた経験は次の航空機開発に役立てたい思っている。また投資回収期間は伸びるかもしれないが、各会計年度の収支へのインパクトは極小化できる”と語っています
また併せて、“商用航空機生産のビジネスは参入障壁が高く長期間に亘る取り組みが必要であるものの、三菱重工はこれに適した企業であり、今後“MRJ”を越える優れた航空機の生産を目指し、MRJプロジェクトとは別に“Future Advanced Technology Development Team”を立ち上げ、次世代航空機のコンセプトに係る戦略とこれに不可欠な先端技術の開発を行うことにしている”とも語っています

-Aviation Week & Space Technologyのコメント-

2016年8月31に“Aerolease Aviation” と2018年に引き渡す契約を結んでいたにもかかわらず、その後4週間もたたないうちに購入契約を結んだ全ての顧客に対して引渡し遅延の可能性(2018年には引き渡しが無く、引き渡しは1年以上遅れる旨の内容)を通告していることを勘案すると。この設計変更の問題は突然発生したのではないかと考えられる。その後、4ヶ月に亘って技術的な分析が行なわれ今回の発表になったものと考えられる
設計変更作業を行った最初の機体は、恐らく2018年の第二四半期までに完成し、その後新しく追加された試験飛行が始まると考えられる
発表された新しいスケジュールから判断すると、少なくとも試験飛行用に2機目の設計変更作業済みの機体が準備されると思われる
追加的に必要となる試験飛行の機体は、恐らく顧客に引き渡す予定の機材から流用されると思われるが、これらが最終的にどの顧客に引き渡される機体になるかは決まっていない
三菱航空機が発表した新しいスケジュールでは、型式証明の取得から顧客への最初の引渡しまでに6ヶ月のバッファーを設けており、他の航空機メーカーのバッファー(せいぜい数週間しか設けない)に比べると余裕があると考えられる

“MRJ”の最大市場と考えられている米国の顧客は、これらの引渡し遅延に対してそれ程苛立ってはいない。何故なら、パイロット組合(ALPA:日本と違って職種別の組合であり、米国大手航空会社のパイロットはこの組合に加盟している)と航空会社との労働協約(“scope clause”)によりパイロットをアウトソース(委託)できる航空機は、76席以下最大離陸重量が86,020ポンド以下となっており、“MRJ90”の運航には賃金の高い自社のパイロットを配置せざるを得ず、経済性に欠ける機材となるからです。因みに、“MRJ90”の強力なライバルであるエンブラエル社の新型機“E175-E2”は、この労働協約を念頭に引き渡し時期を2021年に延伸している
MRJ”の顧客である“SkyWest Airlines”と“Trans States Airlines”は、それぞれ100機と50機の発注を行っているが、これらの航空会社は米国大手の航空会社と運航の委託契約を行っていることがあり、“MRJ70”か、は“MRJ90”かの選択を未だ行っていない

以上

8_Humanwareに係る信頼性管理

―はじめに-

航空機の事故発生率は航空機、エンジン、その他の装備品などのHardwareの信頼性向上(設計の高度化、材料の進歩、Hardware に関わる信頼性管理技術の進歩、など)と法規制の高度化によって飛躍的に低下してきました。しかし1970年代半ばを境に事故発生率は横ばいとなり、このまま放置すると経済の急成長に伴う運航機数の増加に比例して事故数の増加は避けられなくなることが予見されました。そこで、事故の原因として相対的に大きな要素を占めるようになった人間が犯すミス(以下“ヒューマンエラー”/Human Error と呼びます)を抑止する為に官民一体となった取り組みが始まりました
航空機を運航するという事は、航空機という高度な機械システムを、人間が維持管理(整備など)を行い、人間が操縦することと言い換えることができます。ここでは、この高度な機械システムに人間がかかわる部分の信頼性管理の在り方を総称して“Humanware に係る信頼性管理”と呼ぶことに致します
この取り組みが始まってから40年以上が経過しておりますが、現在までの足取りについて以下に説明をしたいと思います

-Humanware に係る信頼性管理システムの歴史-

戦後、物作り日本が高度成長を続けている時期、生産現場では不良品が発生する主な原因となるミス作業を減らすために“ZD(Zero Defect)運動”が導入されました。その後、更に製品品質の向上と生産性の向上とを同時に達成するために、現場での自発的改善活動に重きを置いた“小集団活動”が盛んになり、目覚しい成果を挙げました
航空ビジネスの分野でも現場を中心とする多くの部門にいち早くこの小集団活動が導入され、ミス作業の防止による安全性の向上生産性の向上に大きく寄与することになりました。

その後、高品質の製品を生み出し続ける日本に倣って欧米先進国の優良企業が、それまで現場中心であった小集団活動に目を付け、これを現場以外の部門にも広げ、更にこの活動に経営が積極的に関与するという、謂わば“経営改善活動”として進化を遂げるに至りました。“TQC(Total Quality Control)活動”、“QMS(Quality Management System)活動”、“シックス・シグマ(6σ)活動等は、個々に手法の違いはあれ全てこの範疇に入る取り組みと考えられます
シックス・シグマ(6σ:注)活動については、米国の電子機器・通信機メーカーであるモトローラ社が1980年代に初めて開発致しましたが、これをジェネラル・エレクトリック社が全社的に導入し成果を上げたことから、日本航空の整備部門などにも取り入れられることとなりました
(注)シックスシグマのシグマ(σとは、統計用語で標準偏差(バラツキの度合い)を意味します。シックスシグマ活動とは、品質のバラツキを標準偏差で測定し、分布の平均からプラス・マイナス6シグマ(σ)を上限・下限の管理限界として不良品の率を減らしていく経営手法です。シグマの数が大きくなるほど(6σ > σ )指数関数的にバラツキが減少してゆきます

また、技術的に高度な製品を生み出す企業は、国境を超えた “Supply Chain(連鎖的な供給体制:必要なタイミングで必要な部品を供給する仕組み、例えばトヨタの“かんばん方式”など)”を築くことが一般的となり、結果として末端の部品供給を担う企業に対しても高度なレベルの品質管理を導入する必要性に迫られました。こうした環境の中で生まれたのが“ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)”という組織です。ISOでは国際的に共通な基準を設定すると共に、この基準を満たしているかどうかを認証する中立的な専門機関を設ける仕組を構築しました。そして部品供給を担う企業に対しても、ISOの認証を受けることを求める様になりました。

ISOが要求する基準とは、極言すれば“業務を行う為のルールの可視化”、“PDCA(Plan Do Check Action)サイクルの徹底”、“記録の保持”であるということができます。航空ビジネスの分野でも、国際分業が定着した航空機、エンジン、その他の装備品の製造の受託を行う為には、ISOの認証(ISO9000)を受けることが必須となっています。また、航空機の保守整備の分野に関しても、基準やマニュアルの整備が急速に進み、ISO基準と実質的に同等な業務の仕組みが無ければ自律的で効率的な業務が実施できない状況になっています(“6_認定事業場制度”参照)

-ヒューマンエラーを抑止するための規制-

ヒューマンエラーに焦点を当て、これを科学的に分析して極限まで減らす試みは、ミスが死に直結する航空宇宙の分野が先行していたことは言うまでもありません
航空宇宙の分野では軽量化が経済性に直結するため、Hardware を設計する際に基準となる安全率が低く(一般に1.5程度)設定されています。従ってパイロットの操縦室における操作や、機体の構造やシステムに対する整備作業において、ヒューマンエラーを抑止するために極めて厳格なルールが定められました。一方、単にルール厳守という掛け声だけではミスを抑止することは困難であることが分り、人間工学行動科学の側面から研究を進め、操作ミスや判断ミス、手順や作業のミス、等を防ぐための設計手法の開発や教育・訓練システムが考案され、積極的に導入されるようになってきました

1.パイロットのヒューマンエラーを抑止する為の操縦室設計に係る基準
操縦室の設計に関するヒューマンエラーを防止する為の基準は航空法施行規則・附属書に具体的に規定されています
先行する米国においては法規制全般に係るヒューマンファクターの方針(FAA Order 9550.8A)を受け、極めて具体的、且つ詳細にわたるガイド“Human Factors Design Guide”が設定されています。また同時に、米軍の規格(MILSTD1472F)も並行して存在しており、米国での航空機の設計・製造の審査の際はこれらの基準が厳格に適用されています。また、外国製の航空機に米国の耐空証明を付与する場合でもこの基準が適用されており、日本の民間航空機の設計・製造に当たっては、欧米先進国への輸出を前提とする場合、実質的に世界で最も厳しい米国の基準がデファクトスタンダードとなっています

2.パイロットのヒューマンエラーを抑止するための訓練基準
航空分野において日米欧は、ほぼ“CRM/Crew Resource(注) Management”訓練に統一されています。パイロットとしての資格取得や資格維持の為の必須要件としてこのCRM訓練が規制の中に明確に位置付けられています
米国の規制では、CRM訓練で実施すべき標準的な内容を“AC120-51e”で提示しておりますが、この通り実施する義務は課していません(⇔“This AC presents one way, but not necessarily the only way”)が、大手の航空会社はこの訓練内容に自社の経験を付加するなどを行って積極的に実施しています。更に、最近ではヒューマンエラーを起こしやすい状況を模した訓練(LOFT/Line Oriented Flight Training、Threat & Error Management Training<参考-1>)なども積極的に取り入れています

(注)“Resource”の意味:通常“資源”とか“源”と翻訳しますが、ヒューマンエラー関連の文脈では、“情報源”という翻訳が一番合っていると思われます。上記CRM訓練では、“Resource”となるものは“パイロット自身の五感”、“操縦室内の各種計器の表示”、“他の乗務員からの情報”、“デスパッチャーや整備士など地上要員からの情報”、“管制官からの情報”、その他利用し得るあらゆる情報源です
従ってCRM訓練とは、「パイロットが利用し得るあらゆる情報を総合して安全運航の為の判断を行っていく」為の訓練ということになるかと思います

3.整備要員のヒューマンエラーを抑止するための訓練基準
日本においては、整備規程審査要領細則の中で「他の整備従事者及び航空機乗員との連携を含むヒューマン・パフォーマンスに関する知識及び技能について教育訓練がなされることになっていること」と規定されています。事業者はパイロットのCRM訓練と概ね同等の内容を持つMRM(Maintenance Resource Management<参考-2>)訓練を、委託先事業者を含む全整備要員に対して定期的に実施してます

米国においても、法規制全般に係るヒューマンファクターの方針(FAA Order 9550.8A)を受けて“AC 120-72”でMRM訓練で実施すべき標準的な内容を提示しおり、事業者もこの訓練を積極的に取り入れています

<参考-1> Threat & Error Management Training

運航乗務員を取り巻くスレット
パイロットを取り巻くスレット_友人から入手した資料

パイロットは常に上表の様なスレット(“threat”/安全運航にとって脅威となるもの)に晒されていますが、以下の“”を守ることによって安全な運航を実現しています;
掟1:どんなに優秀な人間でも時には最悪のエラーをおこすことがある ⇔ 進んで自身のエラーを報告する
掟2多重防御を心がける ⇔ 一人のパイロットが監視を怠ることは多重防護ができなくなることを意味する
掟3SOP(Standard Operation Procedure/一般にはマニュアルという理解でいいと思います)を遵守する ⇔ SOPを遵守することによって共通の認識ができ、エラーを容易に検知することができる
掟4コミュニケーションの活用で脅威を共有し予防策を立てる ⇔ 全ての情報を総合して、予想できる脅威を特定する
掟5PDCAのサイクルを意識する ⇔ 計画を実行し、それが状況に相応いかどうか絶えず自分に問い掛け確認する

<参考-2> MRM訓練
MRMにほぼ共通して取り入れられている“Dirty Dozen”という言葉がありますが、これは多くの事故事例を研究した結果として得られた以下の「12の事故を起こす要因」のことを意味しています。全ての整備要員は、こうしたヒューマンエラーの引き金となる要因を熟知した上で作業に当たることで、ミスのない整備を実現しています;
① コミュニケーションの不足(Lack of Communication)
② 警戒心の低下(Complacency)
③ 知識不足(Lack of Knowledge)
④ 作業の中断(Distraction)
⑤ チームワークの欠如(Lack of Teamwork)
⑥ 疲労(Fatigue)
⑦ リソースの欠如(Lack of Resource)
⑧ プレッシャー(Pressure)
⑨ 自己主張の欠如(Lack of Assertiveness)
⑩ ストレス(Stress)
⑪ 認識不足(Lack of Awareness)
⑫ 職場風土や慣習(Norms)

<参考-3> ヒューマンエラーを防止する為に規制当局、メーカー、事業者、国際機関は、以下の様に役割を分担しています
a) 規制当局の役割
①   法律、基準、等の制定;専門の統括組織の設置(Human Factors Coordinatorの設置など )
②   試験・研究の実施、支援、統制 (FAA Human Factors Research & Engineering Division /  Reportを公表しています)
③   事業者の防止体制に係る審査、認可(マネージメント、組織、訓練、規定、マニュアル類)
④   事業者に対する指針の設定(CRM/AC120-51e、MRM/ AC 120-72
⑤   中・小事業者に対するバックアップ(例: HF Operation Manual_Maintenance
⑥   事故発生後の原因の究明と対策の立案(事故調査委員会/NTSB)

b) メーカー(航空機メーカー、エンジンメーカー)の役割
① ヒューマンエラーに強い設計“Human Error Tolerant Design”、改修の実施(例:“Fool Safe Design”)
②   販売している航空機に係わる Human Error 関連情報の発信
③   ヒューマンファクターに関する試験・研究の実施、及び事業者へのフィードバック(例:MEDA_form/Maintenance Error Decision Aid;MEDA_guide)
④   事故調査委員会(NTSB)への協力

c) 事業者(航空会社、整備会社、パイロットリース会社、他)の役割
①   ヒューマンエラー防止体制の整備(マネージメント、組織、訓練、規定、マニュアル類)
②   現場要員に対する継続的な訓練の実施(CRM、MRM)
③   事故発生後の原因の究明に対する協力
④   事故、及び事故に繋がる可能性のある軽微なミスの当事者に対するインタビューの実施、及び規制当局、メーカーへの情報提供

d) 国際機関(ICAO/International Civil Aviation Organization)の役割
①   国際間の情報の共有化
②   加盟国に対する情報(ベストプラクティス)の発信

以上

7_Hardware に係る信頼性管理

-はじめに-

航空機を運用する段階で、航空機の機体やエンジン、その他の装備品などの機械装置(以下“Hardware”と呼びます)の耐空性のレベルを維持・向上させるためには、メーカー、航空会社、及び規制当局がそれぞれの役割を完璧に果たしていく必要があります
メーカー及び航空会社は、航空機の運航状況を常にモニターし、何らかのトラブルが発生した場合、航空機、エンジン、その他の装備品に対し必要な対策を自主的、且つ迅速に行える体制(“信頼性管理体制”)を取ることが義務付けられています
また規制当局は、航空会社及びメーカーの取り組み状況を常時監視すると共に、トラブルの発生状況に応じ、以下の対応を行う仕組みになっています;

事故、及び重大なインシデントが発生した場合、事故調査委員会(米国:NTSB/National Transportation Safety Board)が調査、原因究明と対策の勧告を行います。規制当局の役割は、規制当局自らに対する勧告(法改正、規制基準の変更や改修指示などの要求)があればこれを速やかに実施すると共に、メーカー、航空会社に対する勧告の実行状況を監視し適宜必要な指導を行うと共に、必要に応じAD(Airworthiness Directives/耐空性改善通報)を発行して実施を強制する義務があります
例:787就航開始直後のバッテリー火災に対する措置(耐空性改善通報・AD

日常運航において安全上重要な事象が発生した場合、メーカー、航空会社から報告( 6_認定事業場制度の「10.認定事業場の国への報告義務」の項を参照)を受けることになっており、規制当局の役割はその対策の実施状況をフォローし、必要により指導を行うことにあります

メーカー及び航空会社が行う“信頼性管理体制”については、以下に詳述致します

-メーカーが行う信頼性管理-

メーカーは Hardware の信頼性管理に係る最も重要な役割を担うことになりますが、それはメーカーが設計、製造、及び型式証明等(追加型型式証明、仕様承認)の取得に係る唯一の主体であることに起因致します。 尚、型式証明、追加型型式証明、仕様承認については、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”を参照してください
何故なら;
設計、製造、型式証明取得、等を行うには Hardware の信頼性に係る膨大なデータの裏付けが必要であり、その殆どは航空機を購入した航空会社に対しても公表されません(これらのデータはメーカーの存立にかかわる知的財産になっています)。従って、Hardware に起因するトラブルを設計レベルで検証し、対策を立てることはメーカー以外ではほぼ不可能になっています
メーカーは型式証明取得に際し、CMR(Certification Maintenance Requirement)による整備要目、MSG(Maintenance Steering Group)による整備要目、等を決定する際に裏づけに必要な膨大なデータを管理しています。従って品質を維持向上させる為にこれらの要目の変更(実施内容の変更、実施期限の変更、等)あるいは新設を主導し、管理していくことはメーカー以外では実質的に不可能と思われます。尚、CMR、MSGについての詳しい説明は、“4_整備プログラム”の項を参照してください
一般に商用航空機の場合、航空機を購入する顧客は多くの国、多くの航空会社にまたがっており、型式等に固有で頻度の少ないトラブルの原因を把握するのは航空会社単独では非常に難しいと思われます。ただ、例えば1機種で100機以上保有しているような大手で、且つ技術部門の人材を多く抱えている航空会社は、トラブルの自主的な原因究明もある程度可能であり、メーカーに対して多くのデータの提供が可能となります。この結果、トラブル対応に関してメーカーへの発言権が強くなる事は当然の事と言えます

航空会社は、自社の運航中に得られた Hardware の信頼性に係る多くの情報をメーカーに対して提供しています。またメーカーは上記で述べた通り、当該型式に係る全ユーザーの信頼性に係るデータを分析し、型式固有の問題点とその解決策を迅速に提供する義務があります。この情報はSB(Service Bulletin)やSI(Service Information)というかたちで航空会社、及び当該型式機材が登録されている各国の規制当局にも日々提供されています
また、安全上重要で緊急を要する情報は“Alert SB”というかたちで提供され、規制当局は必要によりこのSBの実施を強制するAD(Airworthiness Directives/米国;耐空性改善通報/日本)を発行することになります

事故、及び重大なインシデントが発生した場合には、事故調査委員会が調査及び原因究明と対策の勧告を行うことになりますが、調査・原因究明にはメーカーに蓄積された膨大な信頼性に係る情報と、設計・製造、型式証明取得、等に係る詳細なデータが不可欠となります。また、原因究明が終わって再発防止対策を勧告する(⇒ 規制当局やメーカー、航空会社に実施を強制する)際、経済性を含めた実行可能性の検証が不可欠であり、メーカーの果たす役割はきわめて大きいという事が出来ます。一方、メーカーにとっても再発防止対策を確実に実施することで顧客に対する信頼が得られるというメリットがあり、事故調査委員会による調査、原因究明活動には極めて協力的であることが普通です。30年以上に亘るベストセラーの機種は、ある意味数多くの事故、重大なインシデントによって信頼性を向上させてきた結果であるとも言うこともできるのではないでしょうか

メーカーと航空会社が連携して行う情報収集には以下の様なものがあります;
航空機メーカーは一次構造部材の信頼性をその機種が世界のどこかで運航している限り確認し、必要な対策を講ずる義務があり、設計時に予期していなかった故障の兆しが発見された場合には予防的な改修や検査等の整備プログラムを即座に発動できるようにしておかねばなりません。こうした仕組みの代表的なものとして以下があります。その機種を運用している航空会社は収集したデータを全て航空機メーカーに送ることになっています;
*Structure Sampling Inspection Program:販売した航空機の一部(Sampling)に適用する機体構造の検査プログラム
*SSI(Significant Structure Inspection):重要構造物に対する全機体を対照にした検査プログラム

エンジンメーカーは、Redundancy(冗長性)が無く一部の破損がエンジンの全損(航空会社に大きな経済的負担を強いる結果となります)に繋がるようなディスク類(注1)、及びタービンブレード・コンプレッサーブレード類(注2)などの重要な部品について、その型式のエンジンを採用している全世界の航空会社から検査結果や整備記録を入手すると共に、型式証明取得後も続けているエンジンの耐久試験のデータと併せて、その型式のエンジンのライフタイムに亘っての信頼性管理を行っています。これらの信頼性管理の結果として、優れた型式のエンジンは使い込まれるうちに種々の改修が実施され、徐々にディスクやブレード、等の検査間隔が延長され整備負担も軽減されてゆきます。逆に設計が良くないエンジンは短期間で姿を消していく結果になります(例えばジェネラル・エレクトリック社のCJ805というエンジン:/コンベア880という飛行機に装着されていました)。
(注1)タービンブレードやコンプレッサーブレードを取付けるディスクは極めて重く、且つ高速で回転するため、破壊が起こると破片がエンジンのケースを突き破り(“Uncontained Fracture”)、燃料タンクのある翼や旅客の乗っている胴体を破壊し、深刻な事故に繋がる恐れがあります

A380・TRENTエンジンの-“Uncontained-Fracture”とタービンの破片
A380・TRENTエンジンの-“Uncontained-Fracture”とタービン・ディスクの破片

(注2)タービンやコンプレッサーのブレードが一枚欠損すると、その欠損したブレードが下流にある全てのブレードを破壊してしまいます。因みにこれらのブレードは1枚数十万円から百万円を超える高価な部品です

-航空会社が行う信頼性管理-

航空会社は、自社の運航に係る安全性経済性定時性快適性を高める為に日常の運航を通じて得られる故障情報を分析し、必要な対策を実施しています;
安全性に係る情報収集、分析、対策立案
自社の安全性に係る情報は、パイロットからのレポート(機長報告)及び日常の整備記録から得られます。これらの情報は全て品質管理部門のスクリーンを経て技術部門で検討されます。トラブルの発生頻度が高いもの、及びトラブルの安全運航に与える影響の大きいものはメーカーとのディスカッションを行い、必要な場合改修が計画・実施されます。通常安全に係る改修はメーカーから発行されるSB(Service Bulletin)、SI(Service Information)を基にして作成されます
また、メーカーは安全に係る情報を、その機種を販売した全ての航空会社から得ており、それらを基にメーカーは安全性向上の為の改修をSBまたはSIのかたちで提案を行っています。航空会社の技術部門は、これらの情報を常にウォッチし、自社に経験の無いトラブルに対しても予防的に改修等で対応できる仕組みになっています

経済性に係る情報収集、分析、対策立案
一般に航空機は極めて高額であり、出来るだけその稼動を高めることが航空会社経営の必須条件であることは言うまでもありません。航空機の稼動を高めるには、突発的な整備によって航空機が運航に供せなくなる事態を出来るだけ回避することが重要です。 “Accidental Damage”(注)の様な予測不能なトラブルを除けば、下記に様に信頼性管理を適切に行うことにより概ね管理可能な状態にすることが出来ます
エンジン及びその他の重要な装備品の故障による突発的な整備を回避する為には、個別に故障原因を特定し、改修による品質の向上、検査間隔の短縮による故障発見確率の向上、定期交換の実施、等を行うことが有効となります(→下記の“ エンジンの信頼性向上”、“エンジンの劣化監視活動”を参照)
(注)Accidental Damage:偶発的な損傷(詳しくは“4_整備プログラム”を参照してください)
機体構造や配管(油圧、気圧)類、配線類の故障による突発的な整備を回避するには、機体重整備(C整備:1回/年程度、M整備:1回/4~5年程度)の際の整備要目を適切にすること(点検を行う箇所、点検の基準、等)が有効です。
自社による故障情報の収集、分析(次項以降で述べます)のほかに、メーカーによって提供される情報(SB、SI)を検討することも重要です

一方、突発的な整備を回避する為に過剰な整備を行うことは徒に整備コストを押し上げることとなり経済性の面で得策とは言えません。従って、故障頻度の低いものは交換頻度を下げるか、又は“On Conditionによる交換”(チェックをして不具合が無ければそのまま使用を継続する)に切り替えるとともに、点検しても不具合が無いものは、その整備要目の実施間隔を延長することなどを適時、適切に行うことが必要になります。このため、航空会社では部品毎の信頼性管理と併せ、整備要目毎の故障情報の収集、分析も行っています

定時性に係る情報収集、分析、対策立案
定時性に係る指標は、旅客の航空会社選好の極めて重要な項目であるため、殆どの航空会社は主要な指標である遅延実績を記録し、その改善に取り組んでいます。通常これらの遅延記録は理由別にコード化され、それぞれ関連部門で検討され改善が行われる仕組みが作られています
遅延理由のうち“Technical Trouble”(技術的な原因によるトラブル)に分類されるもの、及び潜在的な遅延と看做される“MEL適用”(注)による修理持ち越しの情報については、品質管理部門のスクリーンを経て技術部門で検討されます。技術部門では、遅延等の原因となった部品の信頼性向上策(改修の実施、代替品の使用、整備プログラムの変更、等)、スペア部品の買い増し、等々を経済性を勘案しつつ行っています
(注)MEL(Minimum Equipment List)については、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”及び“4_整備プログラム”を参照してください

快適性に係る情報収集、分析、対策立案
快適性に関しても、最近は旅客の航空会社選好の極めて重要な項目となります。この情報は、主に旅客からのクレームと客室乗務員からのレポートを基に収集し、技術部門を中心に経済性を加味しつつ改善策の検討が行われる仕組みになっています

エンジンの信頼性向上;
エンジンは交換可能な装備品の中では格段に高額(数十億円/1台)であり、且つ整備にかかるコストも航空機全体のコストの半分近くを占めます。従ってその信頼性の向上は航空会社の経営にとって常に極めて重要なテーマとなります。
エンジンの信頼性を表す最も重要な指標は、“1,000飛行時間当りの飛行中でのエンジン停止の確率です。この指標の数値を航空会社間で比較することでエンジンの信頼性管理の優劣を比較することが可能であるといっても過言ではありません。整備部門のしっかりした大手航空会社では、この数値は、0.01~0.02(5万~10万飛行時間に1回の飛行中でのエンジン停止 ⇔ 1日当り10時間飛行するとして、13年から27年に一回の飛行中でのエンジン停止)のレベルを維持しています。
この数値を高いレベルに維持するには、技術部門だけでなく整備現場も一体になった信頼性管理の取組みが必要となります。具体的には、技術部門における劣化監視活動(下記)に基づく劣化エンジンの故障前の計画的取りおろしや現業における提案活動、ヒューマンエラー防止活動、などの取り組みです
また、この数値が一定以上の水準にない場合、最新の双発機による長距離洋上飛行(3エンジン、4エンジンの航空機よりも経済性に優れています)が出来なくなり、経営上の不利を蒙る事になります

(参考)長距離洋上飛行ETOPS/Extended Range Twin Engine Operation):双発機で洋上飛行を行う場合、非常事態(例えば1台のエンジンが故障で停止するなど)を想定して、航路上に目的空港以外の代替飛行場を準備しなければなりませんが、予定航路からこの代替飛行場までの飛行時間の制限を通常の1時間から緩和することを言います。これが認められれば、結果として双発機が最短距離の航路を飛行することが可能となり、飛行時間の短縮と燃料の節約が実現できます。現在、品質管理活動の優れた大手航空会社では代替飛行場までの飛行時間を4時間まで延長させており、殆どの洋上の長距離路線で大圏コース(最短距離の航路)の飛行が可能となっています。勿論、この方式による洋上飛行を行うには規制当局による厳しい審査と認可が必要になることは言うまでもありません。詳しくは“ETOPS承認審査基準の要旨”を参照してください

エンジン劣化監視活動;
一般にエンジンの劣化状態は以下の指標を常時モニタリングすることによって把握可能です;
① エンジンの運航中の各種パラメーターの監視振動強度(低圧コンプレッサー部分、高圧コンプレッサー部分)、エンジンオイルの圧力・温度、ローターの回転数、排気ガス温度
② SOAP(Spectrometric Oil Analysis Program)の実施:高速回転体であるエンジンは、ベアリングの磨耗が上記の指標に大きく影響します。この摩耗の程度を把握する為、適切な間隔でエンジンオイルのサンプル採取を行い、オイルに含まれている金属の成分、量を分析します
③ Bore Scope Inspectionの実施タービンやコンプレッサーのブレードの損傷状況を破壊に至る前に把握するため、内視鏡(Bore Scope)を使った直接検査が定期的に行われています。またパイロットから鳥の衝突等の報告があった場合には次の飛行前に損傷の有無の検査を行うことになっています

Bore Scope Inspection
Bore Scope Inspection

④ エンジン分解検査時の検査データの活用:損傷状況(熱変形、磨耗、亀裂、等)の把握を行っています

エンジン以外の装備品の信頼性向上;
エンジン以外の装備品は極めて種類が多く(油圧機器気圧機器電装機器Avionics機器計器類、等々)、またメーカーも多岐に亘っており、自社で整備を実施するよりは、品目ごとのメーカーへの委託が一般化してきています。装備品の信頼性管理体制は概略以下の通りとなっています;
装備品の信頼性を表す最も重要な指標は“MTBF(Mean Time between Failure/装備品の故障取降しまでの平均飛行時間)”です
この指標の数値は航空会社間で大きな違いが出ることが多いと言われています。また、殆どの装備品は“On Condition”(チェックをして不具合が無ければそのまま使用を継続する)で整備、取り卸しが行われているため、この指標の数値が小さい(つまり度々故障取降しが行われる)と、スペアのレベルを上げる必要があり航空会社の財務負担が大きくなります

初期故障に対する対応
一般に、新設計や設計変更のあった装備品は初期故障が必ずといっていいほど発生します。新機種を他航空会社に先駆けて導入すると、装備品の数多くは新設計か在来機種の装備品の設計変更のものであり、就航直後から暫くの間トラブルに悩まされます(787のバッテリー火災は従来機種のニッケルカドミウム電池から、性能の良いリチウムイオン電池の変えたことによる初期故障です)。また最近は装備品に組み込まれているソフトウェアのバグによる初期故障にも悩まされます。 装備品の初期故障への対策は、主としてメーカーからのSBに基づく改修になります。装備品の改修を行う場合には、スペアを購入(但し、メーカーに相当の瑕疵がある場合に限ってスペアを一時的に貸与してもらうこともある)し、順次航空機から取り降ろして改修作業を行うことになりますが、スペアのレベルを上げた後、品質向上による取り卸し減で過剰在庫を抱える結果となることもあります

整備士の熟練度、ミス性向に対する対応
初期故障が収束した後に残る航空会社間のMTBFの違いは、整備士の熟練度、ミス性向が原因であることが多いと考えられます。修理を委託している装備品については、委託先の品質審査を厳格に行い、必要に応じ指導を行いますが、それでも改善されない場合は委託先変更を行うか、自社整備に切り替えることが検討されます。
自社整備は信頼性向上の切札となり得ますが、整備士の人件費、教育・訓練費、等の負担、施設・設備投資の負担が発生するため、最近は MTBF値 が高く故障台数が多い為、スペア部品の財務負担が重い場合、あるいは受託が期待できる場合以外は選択されない傾向となっています。更に最近は、修理方法の“ブラックボックス化”(修理方法の開示がないか、修理に関わるライセンス料が発生する)や修理完了後の最終検査に必要となる試験装置が高額化してきた為にこの傾向に拍車がかかっています

以上

エネルギーと環境と原子力と暮らし方

、-はじめに-

私はサラリーマン生活の最後の10年間ほどは縁あって原子力業界で仕事をしておりました。2011年には東日本大震災に伴う深刻な原子力事故を内側から体験し、事故後の全原発の停止と、これに伴うエネルギー危機を経験する中で、エネルギー問題が将来の日本の最大の政治課題であることを痛感いたしました

人類はその長い歴史の中で“火”というエネルギーの活用を始めたことで、全生物の頂点に立つことができました。産業革命以降の人類の歴史は、水力という形を変えた太陽エネルギーの活用の他に、化石燃料という有史以前の太陽エネルギーの蓄積を消費しつつ、先進国を中心に経済規模の飛躍的な発展を実現してきました。第二次大戦以降は、これに原子の“火”という巨大なエネルギー源が加わりました

しかし、核分裂反応を利用する現在の原子力発電については、米国に於ける1979年の“スリーマイル島の原子力事故”、欧州に於ける1986年の“チェルノブイリ原子力事故”、また日本に於ける2011年の福島原子力事故があり、原子力発電の安全性にについて疑問を呈する人が増えてきました

一方、こうした現状の中で、本年11月には米中を含む主要先進国が参加したパリ協定が発効し、日本も遅ればせながらこの協定に参加することが決まりました。この協定に参加することにより、今後化石燃料によるエネルギーの使用には厳しい制約が課せられることになります

温暖化の主因が炭酸ガス放出量の増大にあることには多少の議論はあるものの、海水面の上昇により水没の危機に瀕している島嶼国が現実に存在していること、乾燥地帯では砂漠化の進行が早まっていること、また異常気象(スーパー台風、異常高温、異常低温、水害、など)の多発という地球規模の環境の変化の主因が、炭酸ガスを中心とする温暖化ガス放出によるものであることは、多くの国々が認めることとなり、その削減について協力していくことになったという事でしょう

この結果、GDPの規模で世界第3位、炭酸ガスの排出量で世界の4%を占めている日本としては、好むと好まざるとに関わらず温暖化の問題について自国の事だけでなく世界をリードしていく責任があるのではないでしょうか

従って、福島原子力事故以降、原子力発電の停止に伴うエネルギーの不足分を化石燃料による発電に切り替えて凌いできた日本は、今後他の国以上にエネルギー問題に正面から取り組んでいかねばならない状況になっていることは間違いないと思われます(日経記事:震災後LNG輸入量急増

以下に日本が直面するエネルギーの問題を俯瞰してみたいと思います。尚、如上より明らかな様に、原子力発電に関わる議論を抜きにしてこのテーマを扱うことはできませんので、「とにかく原子力は嫌だ」という方は、この辺で読むのを止めた方がいいかもしれません!

―エネルギーと暮らし-

エネルギーの問題は、近・現代史において国家の重大な意思決定に深く関わってきました;
ご承知の方が多いと思いますが、太平洋戦争に突入する直接の引き金になったのは米国の禁油通告でした。石油を絶たれた日本が、日中戦争を継続しつつ生き残るためにはオランダ領インドシナの石油(パレンバン)を確保する必要があり、ハワイ奇襲作戦とインドシナ電撃侵攻作戦によって先の大戦の口火を切ってしまいました

第二次大戦後、英仏に代わって米国が中東政治に深く関わったのは、石油を大量に消費する米国が中東の石油を必要としたためです。最近になって自国のシェール石油産出量が増加し自給できる体制になった途端、中東への関与が抑制的になってきたのはご承知の通りです。

日本が徐々に憲法解釈を変更して自衛隊の海外派遣をする様になった主たる原因は、中東の石油が日本のエネルギー需要の大半を賄っており、その生産維持と輸送ルートの確保を全面的に人任せにすることができなかったからにあります

エネルギーの問題は、歴史的に日本の産業構造の大きな変革に関わってきました;
戦後の日本は、重厚長大型の産業を育てることによって驚異的な復興を果たしてきました。この間、必要となる膨大なエネルギー需要を賄う為に、最初は水力と石炭という自前のエネルギー源を求めて、日本各地で大規模な電源開発(佐久間ダム、黒部第四ダムなど)と炭鉱開発を行ってきました。

その後、更に成長を継続していく過程で、更なる水力電源や炭鉱の開発が限界を迎えたことから、水力や石炭に代わるエネルギー源として石油輸入を急速に拡大して行きました。こうしたエネルギー革命が進行する中で、効率の悪い石炭産業が衰退して行き、日本各地の炭鉱閉鎖に伴う痛みを伴う労働市場の大変革を余儀なくされてきました。

1973年、第四次中東戦争を契機として石油価格が急騰しました。これを第一次オイルショックといいますが、この時は消費者物価が23%も急上昇(狂乱物価)し、国民の生活に大きな影響を与えることになりました

狂乱物価・トイレットペーパー騒動
狂乱物価・トイレットペーパー騒動

また1979年にはイラン革命を契機として再び石油価格が急騰しました(第二次オイルショック)。特に日本はイランにから相当量の輸入を行っており非常に影響が大きいものでした

こうした厳しい試練を経て、日本の産業は世界最先端の省エネ技術を磨くこととなりましたが、一方に於いて、国策として石油備蓄の充実と、国際情勢に左右されない安定的なエネルギー源となる原子力発電の充実を図っていくことになりました;

<参考> 日本の電源構成_経産省エネルギ-庁
<Follow-up>
* 2018年7月3日に第5次エネルギー基本計画が閣議決定されました。詳しい内容は第5次エネルギー基本計画(案)をご覧ください。

“モノづくり日本”を続けるには、安定的なエネルギー確保が必要です;
日本人はモノ作りを得意とし、作ったものを海外に売ることによって繁栄してきた国です。如何に省エネ技術に長けたとしても、物を作るにはやはり沢山のエネルギーが必要となります。エネルギー供給の危機は、直ちに工業生産額の減少に繋がります。また、供給不安が無くてもエネルギー価格の上昇は直ちに製品価格の上昇、輸出競争力の減退に繋がります。日本が今後も繫栄していく為には、エネルギーを、量的にも価格的にも安定的に確保する体制が必要なことは言うまでもありません

エネルギーの問題は我々の暮らしに直接関わっています;
照明、冷暖房、炊事・洗濯・掃除などの家事は、今や殆どの家庭で電化製品が使われています。
エピソード:戦後10年位までは、殆どの家庭で蝋燭を買い置きしていたのではないでしょうか。当時、停電は日常的に経験できることでした。停電しても照明以外は電気を必要としていなかったということもできます!

輸送機関(航空機、鉄道、バス、自家用車、等)は殆ど全て(徒歩の移動や昔ながらのリアカーによる輸送は別ですが!)エネルギー無くして稼働させることはできません。またこれら輸送機関は人の移動だけでなく、毎日の生活に直結している物流を担っており、エネルギー不足により物流が滞れば毎日の生活が、即危機に見舞われます
これらは何となくエネルギーに依存していることは実感できますが、これ以外にも、温室栽培の農産物利用、水産品の利用(漁船は石油無くして動かせません)、加工食品の利用、プラスティック等の石油由来の加工品利用、これらは全てエネルギーが途切れれば利用はできません。

今や、交通安全のインフラの一つである交差点の信号機やスマホで代表されるネットワークのシステムもエネルギー無くして利用は不可能です(災害発生時の一時的な停電で実感は出来ますが!)

こうしてみると、所謂文化的な生活や都市での生活は、好むと好まざるとに関わらず多くのエネルギーを消費することが前提となっている事がわかると思います。従って、エネルギーの需給の問題は、誰かに任せておいてよい問題ではなく、国民一人一人が自分の問題として考えるべき問題ではないでしょうか

-エネルギーと温暖化-

パリ協定の内容は概略以下の通りとなっています;
目標:産業革命前からの気温情報を2℃よりも十分低く抑える(努力目標は1.5℃以内)
② 21世紀後半に人為的な温暖化ガスの排出量と森林などの吸収量を均衡させる
③ 全ての国に温暖化ガスの削減目標の作成と国連への提出、5年毎の見直しを義務付けると共に、世界全体で進捗を5年毎に検証する
④ 被害を軽減させる為に世界全体の目標を設定する
⑤ 先進国には途上国への資金の拠出を義務付けると共に、それ以外の国には自主的な拠出を推奨する
⑥ 日本はEUや、島嶼国、アフリカなど約百ヶ国からなる「野心連合」に加わりました。同連合は産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えることを協定に盛り込むよう働きかけました

日本の目標;
2015年6月:サミットに於いて「国内の温暖化ガス排出量を2030年までに2013年対比26%削減する」という目標を表明(日経記事:サミットで温暖化ガス26%削減を表明)しました
目標値の内訳:電源構成の見直しと省エネルギーの強化で21.9%削減、二酸化炭素を吸収する森林整備などで2.6%削減、代替フロン対策で1.5%削減
2030年度の望ましい電源構成;
①古くなった原発の活用を延伸し、原子力の比率を20~22%とする
②再生可能エネルギーの比率:22%~24%
③石炭火力発電の比率:30% ⇒ 26%
③LNG火力発電の比率:43% ⇒ 26%

2016年5月:閣議で「2050年までに温暖化ガスの排出量を、現在に比べ80%とする」と決定

日本は、他の国々に比べ足元で既に省エネ技術が織り込まれているエネルギー消費量であり、省エネによる削減の余地が少ないという事に注意をする必要があります。また、日本が国際的に約束した削減量を実現する為に、国としては原子力発電の比率を20%以上としていますので、原子力発電を認めない人々はこれをどう捉えればいいのでしょうか

<参考>
*米国の目標:「2025年までに2005年対比26%~28%削減」
*EUの目標:「2030年までに1990年対比40%削減」
*温暖化についてはアメリカ元副大統領の“アル・ゴア”の著書「不都合な真実」(2007年日本語翻訳版出版)と、これを基にした映画で生々しい現状が世界的に知られるようになりました。現在最新の温暖化に関する情報をご覧になりたい方はWWFジャパンのサイトをご覧ください

-日本における再生可能エネルギー利用の現状-

経産省・資源エネルギー庁の「エネルギー白書2016」をご覧になると分かるのですが、2011年の福島原子力事故以降、再生可能エネルギーに転換すべく補助金や、電力料金・燃料料金などの上乗せなどの施策を取ってきましたが、未だエネルギー供給に占める割合は水力発電を除けば微々たるものです(2014年度時点で4.4%)。2030年までに達成しなければならない再生可能エネルギーの比率(22%~24%)を達成するには、以下の様な問題点を着実に克服していかねばなりません(日経記事:経産省が想定した電源構成);

1.水力発電;
既に適地は開発済みであること、地質調査、環境調査、用地買収、水没地域住民に対する保証、長期に亘る工事期間、膨大な投資額、などを勘案すると新しい立地はほぼ不可能な状況にあります
因みに、発電用ダムの建設は1963年に完成した黒部第四ダムが最後となりました。また、八ッ場ダム(発電用ではない)に至っては1967年に建設を決定してから現在に至る(50年経過!)も完成していません

ただ、農業用水路などを利用する小規模の発電は、地産地消のレベルで今後導入が進む可能性があり、地方創生などの施策を進める中で着実に浸透を図っていく必要があると思われます(日経記事:安積疎水で水車発電

2.地熱発電;
地熱発電は火山国である我が国にとって地の利を得たエネルギー資源です。水力発電と同じく規模が大きく24時間一定の電力を発生させることができ、ベース電源として可能な範囲で開発を進める必要があります

地熱発電の仕組み
八丁原地熱発電所と地熱発電の仕組み

ただ、立地地域が国立公園や温泉地などに偏るため、規制緩和と併せ、景観維持や温泉湧出量への影響の評価が必要であり、建設開始までにかなりの時間がかかることを考慮しなければなりません

地熱発電立地地域
地熱発電立地地域

因みに、我が国における地熱資源量は約2000万KWと言われておりますが、そのうち80%以上(1600万KW)が国立公園の特別保護区域・特別地域内にあり、現在は開発出来ないことになっています。残りの400万KWの資源量の内53万KWは既に開発済みになっています。詳しくは産業技術総合研究所の報告書をご覧ください

3.風力発電;
風力発電は欧州などでは急速に開発が進んでいます。これに刺激されたものか、わが国でも近頃開発計画が目白押しです(日経記事:風力増強・原発10基分に

風力発電・石油備蓄@青森県
風力発電・石油備蓄@青森県

しかし、風力発電が我が国においてベース電源になり得るかどうかについては私は疑問に思っています。高校時代の地理で学んだことですが、西ヨーロッパは“西岸海洋性気候帯”に属しています。この気候帯では海からの穏やかな偏西風が地上付近で常に吹いており、風力の利用に適しています(オランダなどは昔からこの風を使って沢山の風車で干拓地の排水などを行っていました)。一方、日本ではアジア大陸の山岳地帯を越えた偏西風は高空のジェット気流となる為に地上近くの安定した西風にはなりません、また日本は“モンスーン気候帯”に属しており、台風の襲来など気象の変動が激しく風も一定しません。従って、発電機の数や能力を増強させても、利用可能な電力量は欧州などと比べて少なくなり、経済性も劣る可能性が考えられます

また、風力発電の立地が増えるにつれ、超低周波の音波(耳では聞こえないものの、ガラス窓の振動や健康への影響が考えられる)の被害や、野性鳥類の衝突といった環境問題も無視できくなる可能性があります。また、風車が林立する景観は自然景観の保護の観点から如何か、という考え方もあります

発電量の変動が大きい問題については、“エネルギーを溜めることの問題点”の項で詳しく説明します

4.太陽エネルギーの直接利用
①太陽光発電
大規模太陽光発電の立地を促進するためには、電力事業者の買取価格を高く設定する必要があります。しかし先行するドイツなどで問題となっている様に、買取価格を高くすると発電量が大きくなるにつれて国民負担の増大と、産業競争力の低下を招くことになります。現在日本でも一時ほど普及が進まないのは、電力会社の買取価格が下がっている為です(日経記事:太陽光パネル底なし不況);

大規模な太陽光発電
大規模な太陽光発電

また、太陽光エネルギーはエネルギー密度が低い為に広大な面積を必要とします。緑豊かな日本の景観にマッチするかどうかに疑問がのこります。因みに、1キロワットの発電能力を持つ太陽光発電素子を設置するために必要となる土地面積は約10㎡と言われておりますので、1万キロワットの太陽光発電を行うには約千㎡の土地面積が必要となります。この発電能力は晴れた日の日中の発電能力ですから、実際に利用できる電力量はもっとずっと小さくなります(一般に太陽光発電の稼働率は年間千時間程度であり、24時間常に稼働できるベース電源に比べれば10%程度の稼働しか達成できないことになります)
日本は中緯度にあって水も豊かであり植物の生育には適しているものの、晴天率はそれほど高くはありません。肥沃な農地や豊かな森林を伐採してまで事業用として太陽光発電設備の設置を推進することには私は疑問を持っています

発電量の変動が大きい問題については、、“エネルギーを溜めることの問題点”の項で詳しく説明しますが、個人の住居で太陽光発電を導入し、冷暖房や温水のエネルギー源として使用することの他、電力余剰がある時にエネルギー使用を集中させるなど、個人個人のエネルギーマネージメントを促す効果があることを勘案すると、今後も補助金等により普及を促進することは理にかなっていると思われます
また、企業単位で導入しエネルギーマネージメントを行なえば、事業用電力の効率的利用に繋がる可能性があります

②人工光合成
植物の行う光合成は極めて効率がいいことは確かですが、光を人間が利用できるエネルギー生産のみに着目すると1%程度の効率といわれています。最近研究が進んでいる“人工光合成”は未だ実験室レベルではありますが技術開発が進みつつあり、植物の光合成よりも効率よくエネルギーに変換できる物質を作り出すことに成功しています(日経記事:人工光合成の研究)。この技術が、政府が約束している温暖化対策に間に合うかと言えば、もうちょっと先の話の様に思われます

5.バイオマスの活用
①バイオマス発電、等
既に日本各地の主として森林地帯で林業の副産物である間伐材、廃材、などを燃焼させて発電や地域暖房に活用され始めておりますが、大規模化を測ろうとすると製紙業との競合が起こりうまくいきません。地方創生との関連で林業との調和を図っていくことが理に適っていると思われます
最近、薪ストーブやおがくずチップによる暖房が、豊かで快適な生活のシンボルとしてメディアにも登場しますが、これも林業との調和を図ってこそ意味のあるエネルギー活用の方法なのかなと思われます

②バイオマス燃料(アルコール発酵)
既にトウモロコシなどの穀物のアルコール発酵で量的にも価格面でも実用化されており、環境問題が大きく取り沙汰された時期にガソリンやジェット燃料に混ぜての利用が進みました。しかし食物生産との競合関係が明らかとなり(トウモロコシを主食とする貧しい国々の食費の高騰、結果としての飢餓の発生)、大規模化には限界があると考えられています

③藻類、微生物などの活用
倫理的な問題が発生する可能性のある食用穀物のエネルギー利用に代わって、最近は成長が早く、高密度の生産が可能な藻類や微生物などによるエネルギー生産の研究が盛んになっています。未だ実験段階で生産コストもかなり高いのですが、温暖化に関わる企業責任を果たす為、航空機メーカー、航空会社などはこうした燃料の導入(現在のままで推移すると、2050年には航空機のエンジンが排出する炭酸ガスが、全世界の排出量の3%に達すると言われています)に積極的に関わっています;
航空機メーカー:航空機メーカー3社・バイオ燃料開発協力
日本航空:ゴミ由来の燃料実用化へ実証設備
全日空:バイオ燃料を実用化_ユーグレナ
Jパワー:藻から燃料油一貫生産

―エネルギーを溜めることの問題点-

既に述べてきた様に、水力発電、地熱発電、火力発電、原子力発電などは24時間稼働が可能であり、極めて安定的な電力供給が可能ですが、これから再生可能エネルギーの主役となるべき風力発電、太陽光発電は、電力供給能力が大きく変動します。一方、電力需要も季節により、時間帯により大きく変動します;

1日の電力需要_概念図
1日の電力需要_概念図

上図を見れば、現在はベース電力にもなり得る化石燃料によって発電の出力を調整して需要の変動に対応していることが分かります。この部分を供給側で変動の大きい風力発電、太陽光発電に振り替えると、どの様な事が起こるか想像できると思います。化石燃料の設備稼働を極端に犠牲にして余力を持たせるか、あるいは風力発電、太陽光発電の電気を一時的に溜めておくか、しか方法がありません

<Follow-up>
* 2018年10月13日の日経新聞に以下の様な記事が出ていました:181013_九電・きょう太陽光制御_発電業者に停止要請181013_太陽光普及・壁浮き彫り 送電網や蓄電池_対策急務

揚水発電とその仕組み
揚水発電とその仕組み

現在ピーク供給力の一部を担っている“揚水式発電”、“調整池式水力発電”、“貯水池式水力発電”の能力を拡充することも考えられますが、これが可能であれば現在でも化石燃料による供給調整にとって代わることができるはずですが、①発電効率が極めて低いこと(約10%程度にしかならない←発電ロスに加え、揚水時のエネルギーロスが大きい)、②立地に適した場所が少ないこと(調整池、貯水池の為に広大な面積が必要)、③漏水等の環境破壊の恐れがあること、などの問題があり現在以上の立地は相当困難であると考えられています

蓄電器で電気を溜める方法
しからば、リチウムイオン電池など最新のバッテリー技術を使えば大量の電力を保存できるのではないかと考え付きますが、実は大量の電気エネルギーを溜めるという事は性能が良ければよい程危険が大きいものです。最近突然発火して発売停止になったサムスンの最新スマホを例にとると、内蔵されているリチウムイオン電池の電気容量は3.5アンペア・アワー(3.5アンペアの電流を1時間流すことができる能力があります)、出力電圧は3.7ボルト程度のものでした。しかし、リチウムイオン電池は内部抵抗が低い(性能がいいと同義です)のでプラスとマイナスの電極が短絡すると、この電気エネルギーが一気に放出されて熱に代わることになります。このエネルギーの大きさは;

3.5アンペア x 3.7ボルト = 約13ワット・アワー ⇒ 約11キロカロリー

となります。これは1リットルの水を沸騰させることができるエネルギーで、金属などであれば比熱が小さいので、一瞬の内に高温になり発火することになります

現在、最も大きい電力量を溜めることができる事業用のバッテリーは、日本ガイシ(株)が開発したNAS電池です。この電池の容量は300万キロワット・アワーに達します(NAS電池の性能)。このエネルギーの大きさを、ちょっと例えは悪いのですが、TNT火薬の発生するエネルギーに換算してみると、なんと2581トンに相当します。勿論火薬ではないので爆発的にはならないとは思いますが、何らかの理由でプラス極とマイナス極が短絡すると、大きなエネルギーが一気に放出され災害に結びつく可能性を否定できません

いずれにしても大規模な電池で、大きな需要の変動を埋めることは当面可能性が低いと考えねばなりません。勿論家庭で太陽光発電と併せて使う電池として、また企業単位で風力発電や太陽光発電と組み合わせて使う分には十分実用に足る性能が実現しており、多くのメーカーが参入しています(日経記事:企業の温暖化対策

-原子力エネルギーの未来―

現在原子力発電の安全性に疑問を持っている国民が多い中で、国として原子力発電の稼働を前提としてパリ条約に対応していくことを決断した理由は理解して頂けたと思いますが、可能であればできるだけ早く将来持続可能なエネルギーに切り替えていく必要があることは言うまでもありまません。40年を超える原発の再稼働は、新しい持続可能なエネルギーが実用可能になるまでの時間稼ぎという事もできると私は思っています

一方、膨大な温暖化ガスの排出国である中国やインドがパリ条約に参加しましたが、この国々は目標達成の為に多くの原子力発電所の建設を計画していることはご承知の通りです。日本は米国やフランスと並んで原子力発電所の建設や運用に関しては間違いなく先進国です。先進国の責任として事故の教訓を生かし、これらの国々の技術面のリーダーとして活躍することはむしろ義務であると考えられます。事故が起これば放射線の被害は軽々と国境を越えてゆきます。日本だけが脱原発を実現すればよいという考えは間違いだと思います

尚、当面原子力発電を継続することとなれば、放射性廃棄物処理の問題が気になると思っておられる方が多いと思います。現在、高レベル放射性廃棄物を地下深く埋設することを、場所を含めて決めている国はフィンランドのみです。フランスは実験段階ですが取り組みを強化しているようです。米国では一旦ユッカマウンテンに埋設することに決めたのですが、住民の反対により取り止めとなりました。日本も北海道で研究は進めているものの、埋設実現までは未だ長い道のりがあると思われます。また、六ヶ所村の廃棄物処理施設でのガラス固化の技術も未だ確立されていません。お先真っ暗の様ですが原子力発電所の再稼働が、持続可能なエネルギーが実用可能になるまでの時間稼ぎという位置づけであれば、当面現在の技術で原子炉施設内に廃棄物を格納することも可能だと考えられます。近い将来の実現は難しいのですが、私個人としては高速炉などを使って半減期の長い放射性廃棄物を減らす研究(参考:放射性廃棄物の核変換技術への挑戦)に期待することにしたいと思っています

持続可能なエネルギーの本命は、核融合炉の開発だと思いますが、これは今世紀中に実現することは難しいと言われています。既存の技術の延長で比較的近い将来可能と考えられるものに、高温ガス炉活用による水素社会の実現があります。水素をエネルギー源とする社会はすぐそこまで来ていますが、現在は水素を作り出すには炭酸ガスも発生させてしまいます。高温ガス炉が実用化すれば、温暖化ガスの発生無しに直接水素を取り出すことが可能になります

原子力発電に依存しない社会を築くためには、国家や企業だけでなく個人個人のレベルでも省エネ化の取り組みを強化することも大変重要なことです。太陽光発電と電池の組み合わせによる電力の自給化は、お金はかかるものの、技術上のハードルは殆どありません。私はお金がないのでこのシステムは、多分死ぬまで導入できませんが、せめて自分が輩出している温暖化ガスを把握しその排出量の削減に地道に取り組んでみたいと思っています。因みに、拙宅での昨年一年間の炭酸ガス排出量を計算してみました;

ガソリン消費量:810リットル、都市ガス:1,654㎥、電気:11,633KWH ⇒ なんと拙宅の炭酸ガス放出量は11.9トンでした!

私も温暖化ガス排出に関しては加害者であると実感できました。皆さんも炭酸ガス排出量計算サイトで自宅で排出している炭酸ガスを計算してみたら如何でしょうか?

以上

 

6_認定事業場制度

-はじめに-

航空機を設計する段階、それを基に航空機を製造する段階、完成した航空機の耐空性(安全性)を保証する段階、最終的に航空会社がその航空機を購入してお客様を乗せて運航に供する段階、これら全てのプロセスで規制当局がきちんと審査・検査を行なって安全を担保していることは、“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”の所で説明いたしました。
その中で、規制当局が全ての審査・検査に関わると言いつつも、人的リソースが限られていること、及びそれぞれのプロセスの中で行われている作業の専門性を考慮することから、審査、認可等の合理化の一環として事業場認定制度ができていることを説明いたしました。勿論、この制度は航空先進国の米国、欧州諸国のみならず世界中で殆ど同じ制度が取り入れられています。この制度はパイロットの資格制度と併せ航空輸送の安全を守る仕組みの中でも要の一つとなっているものなので、以下にこの制度をもう少し詳しく、分かり易く説明したいと思います

事業場認定制度に係る法規制は、航空法第20条及びこれに基づく航空法施行規則(→認定事業場に関わる法規制)に定められています。また、法に基づいて審査、確認、検査、証明、承認、などを行うに当たっての具体的な手順、基準等については、航空局からサーキュラーが発行されています。以下はこのサーキュラーの重要と思われる部分を整理したものです

-全体の枠組み-

1.事業場認定の区分は、以下の様に7つに分けられています;
 航空機の設計及び設計後の検査の能力 —– 設計の段階
 航空機の製造及び製造後の検査の能力 —– 製造の段階
 航空機の整備及び整備後の検査の能力 —– 運用の段階
 航空機の整備又は改造の能力     —– 運用の段階
 装備品の設計及び設計後の検査の能力 —– 設計の段階
 装備品の製造及び完成後の検査の能力 —– 製造の段階
 装備品の修理又は改造の能力     —– 運用の段階

2.認定は上記7つの区分を、更に航空機は型式別装備品の場合は型式及び種類別に認定を行なう仕組みになっています
<参考> 認定事業場取得の例
* 三菱航空機(株)の例:三菱航空機・航空機設計検査の追加認定を取得
* 機体整備に関わる事業場認定書の例:事業場認定書
* 現在の認定事業場一覧(国土交通省):現在の認定事業場一覧

3.国土交通大臣は事業者の申請に基づいて、技術上の基準に適合することを審査した上で事業場ごとに認定を行います

4.認定事業場は、認定を受ける前に“業務規定”を定め、国土交通大臣の認可を受けなければなりません。これは、事業場自らが自律的に法規制、及びその精神に基づいて作業を実施することを約束する意味があります

5.事業者に“業務規定”に対する違反行為があった場合、又は認定に係る能力が技術上の基準に適合しなくなった場合、国土交通大臣は認定の取消し、是正措置などを命ずることができることになっています

6.認定の有効期間は2年とし、継続するためには再審査が必要となっています

以下に規制当局が、申請のあった事業場を審査するポイントを説明していきますが、内容は相当専門的、且つ複雑、多岐に亘っています。その背景には、パイロットの技量管理などと違って、認定の対象となる事業場では実に多くの人々が組織として業務を行なっていることにあります。業務に携わる多くの人がそれぞれ間違いなく業務を行っていかなければ安全な運航は実現できません。一方、航空輸送が始まってから100年以上の歴史が積み重ねられた中で、個人や組織の犯すミスに起因する悲惨な事故が沢山発生しました。複雑、多岐に亘る仕組みには、この事故の教訓が沢山詰め込まれていることを理解することも必要だと思います

ただ複雑な様に見えても全体を貫く考え方は意外にシンプルかも知れません。私なりに基本的な仕組みを要約すれば、事業所の営利的な目的から独立して規制の立場で判断を行うキーマンとしての「確認主任者」の存在とその責任の証としての「署名、捺印」の行為、業務に必要となる技量レベルを担保するための「資格制度」や「教育・訓練制度」、人間である以上避けられないヒューマンエラーを阻止するための「二重確認」や「ルールの可視化(文書化)」、「実施記録の義務化」、「委託との接点業務のルール化」の仕組み、自律的に組織としての“安全度”を高めていく為の「監査」や「経営の関与」の仕組み、ということになるかと思います

尚、全体をご覧になる時間の無い方は、関心のある項目のみクリックして参照して頂ければ結構です(参照した後に元に戻る時は、ブラウザの左上にある“”をクリックしてください)

1.施設・設備の条件
2.組織の権限及び責任分担
3.組織ごとの人員の能力及び配置数
4.確認主任者の配置
5.作業の実施方法
6.品質管理制度
7.検査の実施方法
8.安全管理体制
安全管理体制は、他の交通システムや原子力の安全管理にも共通する部分が多いので、ちょっと覗いてみることをお勧めします
9.業場認定を受けた者の責務
10.認定事業場の国への報告義務
マスコミに記事として登場する事象は、この報告内容がベースになっています

-技術上の基準に係る具体的審査内容-

1.施設・設備の条件;
 認定に係る作業場所の面積、照明、空調、部品・材料の保管場所が適切なものであること
㋺ 航空機の設計検査、装備品の設計・検査(1-)については、認定業務に繰返し使われる強度試験・燃焼試験設備、計測機器、試験機器、工具が適切なものであること
 上記㋺以外の認定業務(1-)については、航空機、及び装備品の設計者、製造者が指定する計測機器、試験機器、工具を使用していること
 審査の対象となる事務所には、作業者の控室の他、工程管理、技術部門の事務室、技術資料の管理室、等が含まれます

2.組織の権限及び責任分担
 航空機の設計検査、装備品の設計・検査(1-①、⑤)については、専門性が高いこともあり、国と事業場の間で設計後の検査に係る業務の進め方等について認識が一致していることが重要です。従って国との連絡・調整の組織、人員が、各設計プロジェクトにおいて設定されていることが必要です
 下記第4項の確認主任者”が国との連携・調整に関与する体制であること

3.組織ごとの人員の能力及び配置数
 人員の能力:各組織の業務を遂行する為に必要な能力については、国家資格社内資格、業務経験、教育訓練の受講暦などで保証する仕組みとなっていること。特殊工程に従事する者については、最新の公的規格(注)に準拠した資格制度で承認されていること;
(注)例えば、非破壊検査員資格の技量認定基準としては、JIS W-0905(日本)、NAS-410(米国)、EN4179(欧州)などがあります
 人員の配置数:業務を遂行するに必要な数を満たしていると同時に、業務が拡大する場合には人員数が問題となる例が多いことから、必要な人員を業務量に応じて定量的に把握することできるようになっていること(定員計画)

4.確認主任者の配置
 確認主任者選任基準必要な資格及び業務経験年数
下記a)~e)または国土交通大臣が同等と認めた者(防衛大学卒業者、または外国の大学卒業者、理学部卒業者、等は、業務規定で定めた同等認定を受けるための教育・訓練を受けた者が対象);
a) 航空機及び装備品の設計検査(1-
資格工学系の学卒、短大卒、高専卒
経験:学卒者/6年以上、短大卒・高専卒/8年以上
b) 航空機及び装備品の製造検査(1-
資格航空又は機械学科の学卒、短大卒、高専卒
経験:学卒者/3年以上、短大卒・高専卒/5年以上
c)  航空機の整備検査(1-
資格:認定業務に対応した等級整備士(機種別)、航空工場整備士(作業の種類別)
経験:3年以上
d) 航空機の整備・改造(1-
資格:認定業務に対応した等級整備士(機種別)、航空工場整備士(作業の種類別)
経験:3年以上
e) 装備品の修理・改造(1-
資格:認定業務に対応した航空工場整備士(作業の種類別)、又は工学系の学卒、短大卒、高専卒
経験:航空工場整備士・工学系の学卒者/3年以上、短大卒・高専卒/5年以上

 日本国内の事業所における確認主任者選任基準
a) 航空法規:航空法、航空法施行令、航空法施行規則、サーキュラー、等に関わる教育、訓練
b) 品質管理制度に係る教育・訓練:下記“6.品質管理制度の運用”にある各制度について教育・訓練を行う。またこれらの制度に変更があった場合は、最新の内容について周知する体制が必要となります

 海外の事業所における確認主任者選任基準
1990年代以降の規制緩和の流れの中で、日本国籍機の整備や改造を海外の航空会社や整備会社に委託することが多くなりました。こうした事業所に対しては、国内の事業所における選任基準(上記㋺)に係らず、当該国の整備士制度またはそれと同等の制度について国土交通大臣が日本と同等以上と判断した場合は、資格、経験、教育・訓練等の要件について同等と認定することができます

 確認主任者の業務の指定
整備、改造に関わる確認主任者を選任・任命する場合、確認を行うことができる業務の能力、範囲、航空機・装備品の型式、作業の内容(小修理、大修理、改造)等について指定する必要があります
設計検査認定に係る確認主任者選任・任命する場合、専門性が高いことに鑑み、事業場認定の業務の範囲を細分化(機体構造、システム、エンジン、電気・電子、試験の立会い検査、等)し、業務の実態に応じて各事業場が独自に指定することができます。一方、設計に係る確認主任者は、設計の妥当性を判断する責任を有していることから、コンサルタントや短期雇用契約の者を任命・選任することはできません

5.作業の実施方法
 設計・検査に係る事業場においては、設計作業の実施方法(試験供試体の作成、試験のセットアップ、試験の実施を含む)について文書化して確実に維持管理を行うとともに、この方針につき業務規程で定められていることが必要です

㋺ 製造・整備・改造等に係る事業場においては、作業の実施方法は、航空機・装備品の設計者が指定する最新の方式(マニュアル類、SBService Bulletin、設計者のファックス等も含む)に準拠して文書化することが原則であり、この方法に従わない場合は、業務規程に定めて予め国の認可を得ておくことが必要です
尚、航空会社が整備又は改造を実施する場合は、業務規程において整備規程に従って実施することを規定し、且つ業務規定に規定する品質管理体制に従って作業を実施することが必要です

6.品質管理制度
㋑ 施設・設備の維持管理に係る品質管理の仕組み;
維持管理に係る組織の責任及び分担が明確であり、且つ設計者が指定した方法で行なうことが必要です。もし他の類似の方法で独自に設定する場合は、その適切性を検証し、点検検査結果につき文書による記録を残すことが必要になります。
精度管理が必要な設備・工具等については、基準原器へのトレーサビリティーが明確であり、且つ校正の間隔・方法がその設備・工具等の設計者が指定する方法で行われることが必要です。校正の際に許容値から外れていることが判明した場合には、これらを使用して実施された全ての作業が適切であったかどうか確認する方法を予め定めていることが必要です
計測機器等については、校正の間隔、有効期間などが使用者に判るように機器に表示されていることが必要となります
設備・工具等の保有数については、文書等により管理されるとともに定期的な照合が行われていることが必要です

㋺ 人員の教育及び訓練に係る品質管理の仕組み;
教育・訓練には、業務に従事しながら行う“On the Job Training”も含まれます。また教育・訓練を委託することも可能ですが、委託側との間で責任と権限の分担、訓練内容、及び教育・訓練を担当する者の要件が明確であることが必要です
また、教育・訓練は以下の要件を満たす必要があります;
*整備従事者間、及び整備従事者と乗務員とのヒューマンファクターに関する教育が含まれていること
*教育・訓練資料は最新で、且つ組織として認知されたものであること
*教育訓練は「初期訓練」の他「定期訓練」も行うこと
*「定期訓練」の対象には確認主任者、検査員、監査員のほか整備員も含めること
*確認主任者や社内資格等の要件と教育・訓練の関係が明確であること
*実施された教育・訓練は各人毎に評価が行われること

㋩ 作業の実施方法の改訂に係る品質管理の仕組み;
作業の実施方法を改定するには、改定に関わる組織の責任及び権限の分担が行われていることが必要になります。また、変更する内容は最新のものはもとより、変更により無効になった実施方法が業務に適用されないことが保証されなければなりません

 技術資料の入手、管理及び運用に係る品質管理の仕組み;
以下に掲げる技術資料は、常に最新の状態に維持することが必要です
*航空法、及び関連する政令、省令、通達、告示(耐空性改善命令)等
*型式証明、型式設計変更承認、追加型型式設計承認、型式承認、仕様承認、耐空性審査要領、その他これに準ずる資料
*設計国又は製造国の航空当局から発行される耐空性改善命令(AD等)
*設計者又は製造者の資料:製造図面、試験方法、Flight Manual、Maintenance Manual、Component Overhaul Manual、Service Bulletin 、Service Information、等
*航空運送事業者の整備規程、等
*航空機、装備品等のメーカーからの技術情報
*関連する規格(JIS、NAS、MIL、ISO、TSO、等)に関する技術資料

また、技術資料の管理業務は煩雑、且つ膨大な作業量となるので、最近は委託されるケースが多いのですが、この場合、委託先が以下の基準を満足していることが必要になります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*最新の技術資料が入手できる体制にあること
*資料を使用する人員全てに最新のものが提供される(勿論、資料が改定され無効となったものは業務に使われないこと)ように、配布先の明確化を行うと共に、配布先の管理担当者を定め、改訂に伴う差替えを遅滞無く行うこと。また事業場が管理していない資料は作業現場に持込まないこと

㋭ 材料、部品、装備品等の管理に係る品質管理の仕組み;
材料、部品、装備品等の管理の管理業務は、上記技術資料同様、煩雑、且つ膨大な作業量となるので、最近は委託されるケースが多いのですが、この場合、委託先が以下の基準を満足していることが必要になります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
設計者の指定する保管方法に従っていること。保管方法が特別なものについては当該品またはその容器に保管方法が表示されていること
*使用できない材料、部品、装備品等が流用されることが無いように明確に分離され、且つ使用できない旨当該品に明示すること
*在庫管理は文書またはコンピューターで行われ、定期的な在庫照合が行われること
*保管期限が設定されている品目については、保管期限管理の方法を設定すると共に当該品またはその容器に有効期限が表示されていること
*航空会社から材料、部品、装備品等が支給される場合、その取扱にについて明確にすると共に、混同を防ぐ方法が講じられていること。また、支給品を認定業務に使用する場合の品質管理は事業場の責任で実施すること

㋬_1 材料・部品・装備品等の領収検査(設計・検査認定以外)係る品質管理の仕組み;
領収検査は以下の規準に従って、原則として認定事業者が自ら実施しなければなりません(委託する場合は、下記“㋠委託管理に関する制度”基づく管理を厳格に行わなければなりません)。また、同一組織内の認定事業場以外の部門から材料・部品・装備品等を受領する場合にも領収検査は必要となります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*領収検査の基準は、“5.作業の実施方法”で指定されているものとし、材料・部品・装備品等については、必要となる証明等(FAA Form8130-3JAA Form One、材料検査の証明書類、等)を確認すること。尚、航空機の整備・改造の認定を受けている事業場については、原則として予備品証明が必要となります
*領収検査を行う者はその能力を有していること。尚、領収検査を行う者と、作業を行う者は兼務であっても許されます
*領収検査を行った結果“不適合”と判定されたものは適合品から明確に分離し、明確な表示を行った上で絶対に流用されることの無いようにすること

㋬_2 航空機又は装備品の受領検査、中間検査及び完成検査(必要な場合、機能検査、飛行検査、等を含む)に係る品質管理の仕組み;
認定業務における航空機、又は装備品等の受領検査(受入れ検査)、中間検査、完成検査の以下の基準に従って行うことが必要です;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*受領検査においては、作業対象の履歴(不具合の内容、処置状況、使用時間、耐空性改善通報の実施状況、等)を使用者から入手すること*検査の基準は、“5.作業の実施方法”で指定されているものとします。損傷等のあるものの受領検査の際は、損傷周辺についても充分な検査を行うこと。
*作業の中で実施される各検査については、ワークシート等により検査の時期を含めて明確に指示され、且つ限界値等の判定基準が示されていることが必要です。
*領収検査を行う者はその能力を有していること。尚、領収検査を行う者と、作業を行う者は兼務であっても許されます
*検査結果は記録し、関連する人員に提供されること。また、検査の結果“不適合”となったものは、必要な修正処置を行うか、不適合として明確に分離されること
*航空機製造検査認定を受けた事業場における装備品等の検査は、認定事業場自らが製造するものについては、自らの検査制度の中で適切な検査を行い、認定事業場以外の製造者が製造するものについては、認定事業場からの委託として取扱い、適切な領収検査を行うこと

㋣ 工程管理に係る品質管理の仕組み;
設計検査認定においては、検査・確認を含めた設計業務全体の工程が適切に設定され、且つその進捗管理が適切に管理されることが必要です。特に特定分野の作業に遅れが発生した場合に他の工程に与える影響も含めて適切に管理されることが必要となります;
設計検査認定以外の工程管理については、“5.作業の実施方法”で規定している方法に従うこと。尚、工程間の作業の引継ぎ、あるいは同じ工程内の作業人員の交替時の取り扱いについてはミスの発生しない方法をとること

㋠ 委託管理にに係る品質管理の仕組み;
規制緩和の流れの中で広範に行われるようになった委託については、自社と委託の境界領域においてミスが発生する可能性が高い事から、以下の様な厳しい基準が設けられています;
設計検査認定係る航空法規上の責任は全て委託元が負うことになります。従って、認定事業場としての検査・確認を実施できるのは原則として委託元のみとなり、確認主任者は確認実施後に設計基準適合証、適合性判定書、適合検査記録書、試験立会記録書に署名、押印を行うことになります。認定事業場間で共同開発を行う場合、様々な状況が想定されるため事例毎に判断することになっています。尚、型式証明対象の装備品については、委託管理制度の対象として取り扱う必要はありません
設計検査認定に関わる委託管理の基準は以下の通りです;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*委託先を選定するに当たっては、委託先の施設、組織・人員、資材、制度、等が委託業務実施に充分であることを審査する基準が明確であること。また、委託先が認定事業場であっても、委託元の定める選定基準と委託先の技術上の基準との相違部分の審査を行うこと
*委託業務の内容が明確に規定されていること
*委託する個々の業務の内容が委託先に正しく通知される体制にあること(例:作業発注書、委託業務指定書/SB等の指定)
領収検査は委託元が自ら実施し、検査の基準、及び検査の方法が明確であること。
*委託先の能力が適切であることを監査するに当たって、審査基準を明確に規定すると共に、審査方法及び審査の頻度を適切に設定すること
*委託先の監査及び領収検査を行う者について、その能力を保証する仕組みがあること

設計検査認定以外であっても委託に係る航空法規上の責任は全て委託元が負うことになります。従って、認定事業場としての検査・確認を実施できるのは原則として委託元のみとなりとなり、確認主任者は確認実施後に航空機基準適合証、装備品基準適合証、搭載用航空日誌に署名、押印することになります。海外事業場に委託を行う場合も同様です。尚、予備品証明を有する装備品及び認定事業場で確認され基準適合証が発行された装備品はこの基準の対象外である

設計検査認定以外の委託管理に係る基準は以下の通りです;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*委託先を選定するに当たっては、委託先の施設、組織・人員、資材、制度、等が委託業務に実施に充分であることを審査する基準が明確であること。また、委託先が認定事業場の場合、委託業務が委託先の認定の範囲、限定に含まれていることを審査すること。また委託元の定める選定基準と委託先の技術上の基準との相違部分の審査を行うこと
*委託業務の内容が明確に規定されていること
*委託する個々の業務の内容が委託先に正しく通知される体制にあること。例えば、作業発注書、委託業務指定書/SB等を指定すること
領収検査は委託元が自ら実施し、検査の基準、及び検査の方法が明確であること。認定事業場に委託する場合は確認に係る検査の基準、検査の方法が明確であること。
*委託先が航空機の整備・改造に係る認定事業場であり、ここに定例整備等における一部の作業を委託した場合、委託先は作業完了後の出発確認(航空機が全体として耐空性を有していることの確認)を行うことはできません。尚、領収検査は委託先認定事業場以外の場所で実施することが可能です
*委託先の能力が適切であることを監査するに当たって、審査基準が明確であること、審査方法及び審査の頻度が適切であることが必要です
委託先が認定事業場であって委託先の認定の範囲、限定に含まれている業務を委託する場合は監査を省略することができます。但し、委託元の基準と委託先の基準に相違があり、その相違点について委託先の内部監査が行われていない場合は委託元による監査が必要となります
*委託先の監査及び領収検査を行う者について、その能力を保証する仕組みがあること

㋷ 業務の記録の管理に関する品質管理の仕組み;
業務の記録に管理に係る適切性の基準は以下の通りです。尚、委託を行う場合は委託先が以下の基準を満たしていることを確認する必要があります;
*組織毎に責任及び権限の分担が行われていること
*記録の範囲、内容は認定業務が適切に行われていることを保証するものであること
*記録の提示が求められた時に速やかに提示できる体制である事
*確認主任者による確認の記録については、確認の日から2年間保管する事
*航空機の大修理、改造に係る記録は、当該航空機の登録抹消まで保管すること(永久保存)
設計検査認定における設計に係る記録は、当該型式の航空機または装備品が使用されている期間保管すること。但し、航空機使用者や型式証明・型式承認保持者の記録は対象外となります
*記録の保管は電子媒体も可能です

㋦ 独立した組織による監査の制度
航空機関連分野は技術進歩が急速な為、当局による検査だけでは認定業務の法令等への適合性を維持するのは難しいため、認定事業場自らが繰返し監査を行うことによって安全性が担保されています。
監査実施体制に係る基準は以下の通りです;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること。監査を行う組織は常設でなくてもいいが、監査計画については当該組織の下で常時管理されていること
*監査の範囲は認定を受けている業務全てをカバーすること
*監査は計画的かつ定期的に実施されること。主要施設にあっては1年の間に、その他の施設にあっては2年以内に監査が行われること。また、認定業務の変更等、必要な場合は上記以外でも臨時に監査を行うこと
*監査の要点は関係法令に対する適合性です。監査する事項を具体的に記載したチェックリスト、等を作成することが必要となります
*監査を行う者は監査の対象となる組織から独立した組織に所属し、対象業務について充分な知識・経験を有すると共に、品質保証制度、監査手法について教育・訓練を受けていること
*監査の結果は記録し、報告は監査の責任者に直接行なうこと
*監査において発見された不適合事項については、認定事業場の最高責任者の責任で是正処置をとること。是正処置の効果について、必要により再度監査を行うこと
*監査結果、是正処置については記録し、国から要求があった場合は提供すること
*監査業務の実務を認定事業場外の人員に委託する場合、これらの人員の能力の審査、及び監査の方法の指定は認定事業場の責任で実施すること

㋸ 航空機及び装備品の設計検査認定に於ける以下の制度の適切性の基準;
設計書類(試験方案、試験報告等を含む)の管理については、以下の基準を守る必要があります。尚、管理を委託する場合は委託先が以下の基準を満たしていることを委託元が保証する必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*保管方法が明確であること
*使用しない設計書類は明確に分離され、誤って使用されること無いようにすること。また使用できない旨設計書類に明示する方法を設定すること。特に設計書類の改訂管理に注意を払い、最新版のみが使用される様に管理すること
*保管期限が設定されている書類については、保管期限管理を行う方法を設定すると共に、当該書類には保管期限を表示する

また、設計書類の検査については、以下の基準を守る必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*“5.作業の実施法”で述べた基準( 設計・検査に係る事業場においては、設計作業の実施方法/試験供試体の作成、試験のセットアップ、試験の実施を含む)について文書化し、維持管理を行うとともに、この方針につき業務規程で定められていることに沿って検査を行うこと
*検査を行う者の能力を保証する仕組みを有すること。また検査に係る点検・承認等を行う場合は、作成者とは異なる者がこれを行うこと
*検査の結果は明瞭に記録されること。不適合となったものに対しては、修正処置等を指示すること

㋾ 設計検査認定に於ける、供試体の維持・管理を図る仕組みの適切性の基準;
試験に使用する供試体の管理ついては、以下の基準を守る必要があります。尚、管理を委託する場合は委託先が以下の基準を満たしていることを委託元が保証する必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*保管の方法が明確であること。保管温度、湿度等が規定されている品目については、その品目または容器等にその旨記入すること
*使用しない供試体は明確に分離され、誤って使用されることの無いように当該品に明示する方法を設定すること
*保管期限が設定されている品目については、保管期限管理を行う方法を設定すると共に、当該品、又はその容器などに保管期限を表示すること
*航空機使用者からの供試体の支給がある場合、取扱を明確化すると共に、混同を防止する方法が講じられていること。また、これらを認定事業場で使用する際の品質管理は当該事業場の責任で実施すること

また、試験に使用する供試体及び試験セットアップの検査ついては、以下の基準を守る必要があります;
*制度の運用について責任及び権限の分担が明確であること
*“5.作業の実施法”で述べた基準( 設計・検査に係る事業場においては、設計作業の実施方法(試験供試体の作成、試験のセットアップ、試験の実施を含む)について文書化し、維持管理を行うとともに、この方針につき業務規程で定められていること)に沿って作成されていることの検査を行うこと。また検査の基準、方法については、“㋸ 航空機及び装備品の設計検査認定に於ける制度の適切性の基準”で定めた検査を受けた設計書類の指示するものであること
*検査を行う者の能力を保証する仕組みを有すること
*検査の結果は明瞭に記録されること。不適合となったものにたいしては、修正処置等を指示すること

7.検査の実施方法
設計、製造、整備後に行う検査の具体的実施方法については、以下の基準を守る必要があります;
㋑ 航空機の設計検査・装備品の設計検査
設計検査認定においては、国と事業場が役割分担を行うことになりますので、事業場が行う検査も国と同等の役割を果たすことになることを認識する必要があります(⇔事業者の都合によって検査結果が左右されることがあってはなりません)。
検査の対象となる項目は適合性証明計画における要検査項目とし、項目・証明の方法(設計書類・実証試験・その他の方法)、検査の担当(国または事業場)につき、必要により国の承認を得る必要があります。尚、検査の方法は国、事業場いずれが検査を行う場合でも同一であるべきことは言うまでもないことですこと(具体的には“サーキュラーNo.1-003、004”に書かれてあります)。尚、事業場が行う検査は確認主任者が直接行うことになっています

㋺ 航空機の製造検査
航空機の製造後の検査の項目及びその実施方法は、設計者が新規製造時に指定した地上試験及び飛行試験と同一のものであることが求められています。
設計者以外の者による追加型設計変更(STC:詳しくは、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”を参照してください)がある場合は、必要により設計変更を行った者が指定する地上試験及び飛行試験を実施することが必要となります。
尚、この内容は、型式証明、あるいは設計変更で定められた“飛行試験手順書”、“Production Flight Test Procedure(PFTP)”等で設定されています

㋩ 装備品の製造検査
装備品の製造後の検査の項目及びその実施方法は、設計者が新規製造時に指定した機能試験等と同一のものであることが求められています。尚、装備品の製造検査認定を受けることができる装備品は、日本の型式証明を受けた航空機に装備されている装備品、または装備品単独で型式・仕様承認を受けた装備品に限定されます。
型式証明を受けた航空機の装備品については、型式証明の際に設定された完成検査の項目を実施する必要があり、具体的には“装備品等型式(仕様)承認書”に指定された「認定検査の種類」に規定された項目を実施することになっています。
仕様承認(詳しくは、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”を参照してください)を受けた装備品については、承認書及びその附属書に「認定検査の種類」は規定されていませんが、設計者の指定する項目を法定検査として設定することが求められています(内容的には装備品の完成検査の項目に該当します)
設計者以外の者による設計変更(STC等による変更)がある場合は、必要により設計変更を行った者が指定する方法で実施する必要があります。

㋥ 航空機整備検査
航空機整備後の検査の項目及びその実施方法は、設計者が新規製造時に適応すべく指定した地上試験及び飛行試験に準拠した方法であることが求められています(これらの項目には、“サーキュラーTCI-2-002に設定されている項目を含んでいなければなりません)。
設計者以外の者による設計変更(STC等による変更)がある場合は、必要により設計変更を行った者が指定する地上試験及び飛行試験を実施する必要があります。

8.安全管理体制
㋑ 安全管理体制の概要
航空機の安全性を高めるには、法令順守を柱とし事故・トラブルが発生した場合に原因を究明し再発を防止するという謂わば“Reactive”の対応に加え、事故・トラブルの予兆となるハザード(不安全要因)を把握し、そのリスクを低減させるという“Proactive”な対応をシステマティックに行う必要があります

因みに、“ICAO(国際民間航空機関)Safety Management Manual  (Doc.9859, 1st Edition 2006)”によれば;
安全管理体制とは、以下の様な仕組みを作ることと同義であると言っています;
*業務運営方針の組織内徹底
*組織の責任分担の明確化
*経営・現場・各部門間の意思疎通の円滑化
*経営トップから現場まで一丸となった取り組み体制の構築

㋺ 認定事業場の安全管理体制
認定事業場は以下に掲げる事項を文書により適切に定め、これに従って業務を行うことが求められています(安全管理に定める事項は“業務規定”には含まれていません)。
業務の運営方針;
認定事業場の運営責任者(最高責任者)は、以下を周知・徹底させること;
*安全に関する基本方針
*全員一丸となって安全管理体制を有効に機能させること
*認定業務遂行に当たっては関係法令を遵守するとともに、不適合が発見された場合は速やかに報告、是正措置を取ること
*安全目標の設定、達成度の評価、これに基づく目標の再設定を行うこと

業務の実施、管理体制;
責任体制
認定事業場の運営責任者(最高責任者)は、安全管理体制を適切に実施することに関する最終責任を持つとともに、安全に関する権限・責任の明確化、報告系統や指揮命令系統の明確化、リスク管理体制の整備につき責務を負う
安全管理に責任を有する者の選任
認定事業場は、認定事業場の運営責任者(最高責任者)に直接助言・報告を行う責任者を選任すること。尚、この認定事業場の運営責任者(最高責任者)がこれを兼務してもよいことになっています。航空会社にあっては、その会社の整備部門が認定事業場の場合、“安全統括管理者”を安全管理に責任を持つ者として選任する必要があります

業務の実施、管理の具体的方法;
緊急事態への対応計画
認定事業場の認定業務(設計、製造、整備、等)に係る航空事故、重大インシデント等が発生した場合、必要な認定業務を継続しながら通常の業務体制から緊急体制に速やかに移行できる計画を予め確立しておくこと(例えば、緊急連絡体制、応急措置手順、原因究明体制、訓練・演習手順、等
ハザード(不安全要因)の特定:
認定業務全般に係る安全情報を基に、ハザード(例えば、人的要因、技術要因、組織要因、環境要因、等)の特定を行う手順を定める。ハザードの特定は“Reactive”な方法と“Proactive”な方法を組み合わせて行うこと。安全情報は、ヒヤリハット情報の報告、安全ミーティングでの報告、事故・トラブルの原因探求報告、内部監査報告、他航空会社からの報告、等から収集可能です
リスクの評価とその対策:
特定したハザードについてのリスクの分析(発生頻度、影響度、等)、及びこれに伴う施策の実施、実施後の妥当性評価、等のリスク管理の手順を定めること
認定業務の実施、管理状況の確認:
認定業務が定められた手順に従って実施されているかどうかを定期的にチェックし、継続的に監視すること(内部監査、等)。尚、内部監査については認定事業場の業務規定に実施を義務付けられており、安全管理体制について定めた文書の中でこれを明らかにしておくこと必要があります
認定業務に実施及びその管理の改善:
安全管理体制を構築する要素につき、有効に機能しているかどうかの評価を定期的に行い、必要により改善措置を講ずる手順を定めておくこと
教育・訓練に関する事項:
安全管理体制を社内に浸透させるために、教育、安全啓発セミナー、ヒューマンファクター訓練、等を行うこと。もって組織内の安全文化の醸成を図ること

9.事業場認定を受けた者の責務
認定を受けた者は、技術上の基準に適合性を維持すると共に、公正且つ業務規程に従って業務が実施されるよう運営しなければなりません。基準に適合していることが充分に確認されていないにも拘らず、進捗管理・納期管理等の理由で確認主任者に指示・強要する等、不当な圧力かけないよう業務規程に定めなければなりません

確認主任者の確認の方法
㋑ 設計検査認定における検査の確認の方法
国の検査官または確認主任者によって予め承認された“適合性証明計画”で検査の確認を要求している事項(図面・設計書・試験方案・試験供試体・試験報告書、等)については、確認主任者自らが検査を実施する必要があります。全ての検査が終了した後、検査結果を記録している書類に署名または記名・押印します。尚、以下の証明、承認については国の検査の一部を行わないことがあります;
*耐空証明
*型式証明及びその変更
*追加型式証明の承認及びその変更
*修理改造検査
*予備品証明
*型式・仕様承認に係る設計の変更

また、確認主任者が確認すべき事項と、必要事項の記入、及び署名または記名・押印する書類は以下の通り;
図面・設計書の検査:航空機、装備品が所要の基準に適合していることを当該図面・設計書が示していることの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合性判定書”となります
試験方案の検査:内容が試験の目的に適っていることの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合性判定書”となります
試験供試体の検査:設計書類通りに製作されたことの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合検査記録書”となります
試験セットアップの検査:試験方案通りにセットアップされたことの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合検査記録書”となります
試験の立会:試験方案通りに試験を実施して場に立会い、試験結果及び試験中に発生した事象が正確に既得されたことを確認します。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“試験立会記録書”となります
試験報告書の検査:航空機、装備品が所要の基準に適合していることを当該試験報告書が示していることの確認を行います。必要事項を記入し、署名または記名・押印する書類は“適合性判定書”となります

尚、確認を行う者は以下の重複条件を満たさなければなりません
*設計書類の検査・確認を実施する者は、検査・確認の対象となる設計を担当した者であってはならない
*試験供試体、試験セットアップを行う者は、その検査・確認を行う者であってはならない
*試験を実施する者は、その検査・確認を行う者であってはならない
*確認を行う確認主任者は、航空機、装備品の設計検査を担当した者でなければなりません

㋺ 耐空性の基準に適合することの確認の方法;
航空機製造検査認定:製造過程及び完成後の現状が基準に適合することを以下の方法で確認します;
<製造過程>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って製造されていること
*航空機及び装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って検査が実施されていること
<完成後の現状>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法に従て検査され、これに合格していること。
*完成後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
*航空機基準適合証
*搭載用航空日誌

航空機整備検査認定:整備及び整備後の現状が基準に適合することを以下の方法で確認します;
<整備>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って検査前整備、またはそれに代わる整備が実施されていること
*航空機及び装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って実施されていること
*不具合が発見された場合には、是正措置が適切に実施され耐空性の確認が行われていること
<整備後の検査>
*航空機が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法に従って検査され、これに合格していること。
*検査によって発見された不具合の是正措置が適切に実施されていること
*前回耐空検査を受けた以後に実施された整備、改造について適切に行われていることを航空日誌により確認すること
*航空機及び装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って実施されていることを航空日誌により確認すること
*整備及び整備後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されている
こと
<署名または記名・押印する書類>
*航空機基準適合証
搭載用航空日誌

航空機設計検査認定、装備品設計検査認定:型式証明又は追加型式設計の承認を受けた航空機の設計変更について基準に適合することを以下の方法で確認します;
<作業の実施方法>
*設計変更の作業が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法に従って適切に検査されていること
<検査の実施方法・確認の方法>
*設計変更に係る図面・解説書・試験供試体・試験方案・試験報告書等につき、“業務規定”に規定されている検査の実施方法、検査の確認の方法に従い検査を行い、これに合格していること
*最終的な結果を総合し、耐空性の基準(騒音、排出物を含む)を満たしていること
*設計及び設計後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されている
こと
<署名または記名・押印する書類>
設計基準適合証

装備品製造検査認定・航空機製造検査認定:装備品の製造過程及び完成後の現状が基準に適合することを以下の方法で確認します;
<製造過程>
*装備品が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って製造されていること
*当該装備品に適用となっている“耐空性改善通報”が指定された方法に従って実施されていること
<完成後の現状>
*当該装備品が“業務規定”に規定されている品質管理制度、検査の実施方法
に従って検査され、これに合格していること。
*完成後の検査に関する記録が“業務規定”に従って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
*装備品基準適合証
*搭載用航空日誌

装備品修理改造認定:修理または改造の計画、過程、完了後の現状について基準に適合することを以下の方法で確認します;
<計画・過程>
*装備品の修理、改造が“業務規定”に規定されている品質管理制度、作業の実施方法に従って計画され、実施されていること
<現状>
*計画通り実施され、修理、改造に係る記録が“業務規定”に沿って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
装備品基準適合証

航空機整備改造認定:整備または改造の計画、過程、完了後の現状について耐空性の基準(騒音、排出物を含む)に適合することを以下の方法で確認します;
<計画・過程>
*以下の作業の実施方法に従い、“業務規定”に規定されている品質管理制度に基づき実施されていること;
具体的には、認定事業場(航空機の整備又は改造の能力)における作業の実施方法、または設計者が指定する方法(SB/Service Bulletin、等)に基づき作成された作業書等に従って作業を行うこと。但し、実施する作業の内容が簡潔かつ明確であり、記録が適切に残される場合はこの限りでありません。当該作業書等を作成する場合は、事業場において承認されたものでなければならりません。
改造の実施方法は、以下のいずれかでなければなりません;
(a) 型式設計の変更の承認を受けた改造(一般にSB等により改造の方法が示される)
(b) 追加型型式設計承認(STC)を受けた改造(一般に改造指示書等により改造の方法が示される)
(c) 日本の型式証明を受けていない航空機についての同等追加型型式設計承認を受けた改造(一般に改造指示書等により改造の方法が示される)
<現状>
*計画通り実施され、修理、改造に係る記録が“業務規定”に沿って作成されていること
<署名または記名・押印する書類>
搭載用航空日誌

既に承認を受けている装備品部品の型式、仕様の設計変更について適合性の確認
<署名または記名・押印する書類>
装備品基準適合証

㋩ 確認主任者の確認の手法
認定事業場は選任した確認主任者に現物確認か書類確認のどちらか、又はその組合せについて明確に規定しておかねばなりません。但し、設計検査認定については現物確認に限ることになっています
現物確認とは
確認主任者が現物確認を実施する場合、確認を行う項目、確認の手法、確認の基準を明確にしておくこと、及び当該業務に必要な能力を有していることが必要です
書類確認とは
個々の作業及び検査が、その業務を行うに足る充分な能力を有している者により“業務規定”に沿って行われていることを書類において確認することです

10.認定事業場の国への報告義務
安全性に大きな影響を与える以下の不具合事象については、認定事業場の主たる所在地を管轄する地方航空局航空機検査官室に報告を行わなければなりません;
a) システム又は装備の不具合による火災
b) エンジン、機体、装備品等に被害が生じたエンジン排出システムの不具合
c) 操縦室又は客室への有害ガスの発生
d) プロペラコントロールシステムの不具合
e) プロペラ、又はローターのハブ、又はブレードの不具合
f) 火花が発生する場所への可燃性液体の流失
g) 使用中に発生した構造又は材料の不具合によるブレーキの故障
h) 機体の一次構造における重大な不具合(疲労亀裂、コロージョン等)
i) 構造又はシステムの不具合に起因する異常振動、バフェット
j) エンジンフェイル
k) 航空機の飛行性能に影響するような構造やシステムの不具合
l) 使用中における2以上の電気又は油圧系統の喪失
m) 使用中における2以上の姿勢、速度、高度計の不具合
n) 上記事象に結びつく可能性のある装備品等の重大な不具合
o) 上記事象に結びつく可能性のある設計上の不具合(設計検査認定のみ)
p) 認定業務実施中に発生した“業務規定”違反の事例

以上

航空機の鳥衝突による安全性について

-はじめに-

最近上記のポスターで宣伝している映画、「ハドソン川の奇跡」を見る機会を得ました。私の大好きなクリント・イーストウッド(監督)と、トム・ハンクス(主演)がコンビを組んでいますので、観ないわけにはいかなかった!のですが、思いがけず非常時におけるパイロットの行動(会話に航空専門用語が多く使われており、一般の方には分かり難いとおもいます)や、映画ではめったに観られない米国のNTSB(National Transportation Safety Board/日本の運輸安全委員会に相当)による審問の場面が多く、私の様な航空オタクにとっては最高に面白い映画になっていました。

恐らくこの映画が米国でヒットしたことで、航空機の鳥衝突(Bird Strike)事故が 一般大衆の話題になった為と思われますが、数日前に届いた‟Aviationweek & Space Technology”の最新号に航空機の鳥衝突事故の記事が出ていましたので紹介いたします

-鳥衝突(Bird Strike)の被害状況と対策の概要-
添付資料:Bird-Strikeの被害状況と対策

<鳥衝突のデータ>
米連邦航空局の‟National Wildlife Strike Database” によれば野生動物の衝突事故(米国内;鳥以外を含む)は;
* 1990年1月1日~2015年12月31日:177,269回/26年間 ⇒ 6、818回/年
* 2015年1年間:13,162回/年 ⇒ 2009年1年間:9,540回/年
* 鳥が航空機に衝突する箇所の内、一番多いのはエンジンで全体の29%(鳥以外の野生動物の衝突を除く)を占めている。航空機の他のダメージ箇所については添付資料参照)

鳥衝突によるファンブレードの損傷
鳥衝突によるファンブレードの損傷の例

* 2011年~2014年に於ける鳥衝突件数の最も多い空港はダラス空港。他の空港(ベスト10空港)については添付資料参照

ICAO(International Civil Aviation Organization/国際民間航空機関)の統計における世界の鳥衝突回数の統計(米国のデータは主要10空港のみ);
* 2011年~2014年:65,139回/4年間 ⇒ 16,285回/年

<鳥衝突に関わるエンジンメーカー、航空会社の対応>
 P&W(プラット・アンド・ホイットニー)社の設計主任者によれば;
* 殆どの鳥衝突はエンジンにダメージを与えない。またダメージの多くはエンジンファンケース内側の吸音パネルに亀裂やへこみを与える程度である(←吸い込まれた鳥が、ファンの回転により遠心力でファンケースの内側に叩きつけられる為)

PW4000シリーズのエンジン
PW4000シリーズのエンジン

* 大型の鳥が高速で衝突した場合、ファンブレードのリーディングエッジに損傷を与えることがある。しかし、この場合でもエンジンを止めないで着陸するまで運転を継続することが可能で、着陸後にダメージを受けたファンブレードの交換を行うことでエンジン本体の交換は不要な場合が多い

鳥衝突に強い最新のファンブレード
鳥衝突に強い最新のファンブレード

* 最近のエンジンのファンブレードは幅広(Wide Chord)になっており、また旧タイプのエンジンのファンブレードに設けられていた‟Part Span Shroud“(ファンブレードの振動を軽減する、等の目的で設けられていた)が無い為、鳥衝突による衝撃をファンブレードの変形で逃がすことができ、破損リスクを軽減させている

* MRJから装着されている最新技術のGTF(Geared Turbofan/Fanの回転を歯車で減速し効率を上げている)エンジンでは、ファンの回転速度が低くなっており、鳥衝突による破損リスクを更に軽減させている

GE(ジェネラル・エレクトリック社の技術顧問によれば;
* 最新のエンジンのファンブレードでは、カーボン・ファイバーのファン本体のチタン製のリーディングエッジを取り付け、鳥衝突による破損リスクを飛躍的に軽減させている
* 最新のエンジンでは、これまでのところ鳥衝突による大きな損傷は報告されていない。報告されている損傷の内容は、ファンブレードのへこみや、エンジンファンケース内側の吸音パネルのへこみなど軽度のもののみである

SWA(サウスウェスト航空)の品質管理の責任者によれば;
* 鳥衝突による損傷の内容は、ファンブレードや圧縮機のブレードの損傷や、エンジンから圧縮空気(Pneumatic Air)を取り出すパイプの詰まりが代表的なもので、目視で見えない部分は“Bore Scope Inspection”(内視鏡によるエンジン内部の検査)で損傷の有無を確認する。
* 殆どの鳥衝突による損傷は、損傷した部品のみを交換する(24時間~48時間で作業完了可能)ことで航空機を運航に供することが可能であり、エンジンの交換を要する事例は1年間で1件程度である(SWAの保有機数は700機弱!)

MTU(ドイツのエンジン製造、及び整備を行う会社)の性能技術の責任者によれば;
* 吸い込まれた鳥は、ファンの排気口(外側;最近のバイパス比の大きいエンジンでは大半のエアがここから排気される)に向かう気流と、エンジンの中心部から、低圧圧縮機→高圧圧縮機→燃焼室→高圧タービン→低圧タービン→排気、に向かう気流に分かれる。
* 衝突した鳥が、上記の気流に乗った場合は、一般に損傷も小さいし、また損傷を受けても修理は容易である
* 衝突した鳥が、上記の気流に乗った場合は、エンジンに深刻な損傷を与えることがある。特に、低圧圧縮機のブレードが破損し、それが後段に連鎖的に損傷を与えた場合、エンジンの機能が完全に失われることがある(こうしたエンジンを分解すると圧縮機やタービンのブレードが全て根本近くから喪失し、トウモロコシ‟Corncob”状のようになることがあり、損害額は数億円に上ることがある)
* 衝突する鳥が少ない為にパイロットが気づかないことも多い。この場合でも、エンジン性能に関わる指標の変化(振動や性能劣化など)があれば、“Bore Scope Inspection”などで損傷の有無を詳細に確認する

<鳥衝突に関わるFAAの規定>
添付資料:far_bird-ingestion

群れで飛ぶ鳥に対するエンジンの耐空性試験は、以下の3つのカテゴリーに分けて実際の鳥(安楽死させた!鳥を使用)を衝突させて行う;
① 小型の鳥(例:米国千鳥、北米マキバドリ)の群れ:3オンス(約85グラム)の鳥
中型の鳥(例:カモメ)の群れ:0.77~2.53ポンド(0.35~2.53キログラム)の重さの鳥の組み合わせ
①、及び②の試験では、エンジンの口径により細かく決められている重さと数の鳥をエンジンに打ち込み、吸い込んだ後20分間75%以上の出力を維持し安全に運航を継続できなければならない

大型の鳥(例:ハクガン)の群れ:エンジンの口径により決められている重さ(4.08ポンド/1.85キログラム、又は4.63ポンド/2.10ポンド、または5.51ポンド/2.50キログラム)の鳥を1羽エンジンに打ち込み、、鳥を吸い込んだ後50%以上の出力を維持し安全に運航を継続できなければならない(←離陸して鳥に衝突した後、空港に安全に引き返すために必要な時間)

動画:ロールスロイス・トレントエンジンの鳥衝突試験

2007年、エンジンの耐空性試験に大型の鳥の衝突に係る以下の規定が新設された;
* 実際の大型の鳥の衝突試験を行う。エンジンの口径により決められている重さ(4.07ポンド/1.85キログラム、又は6.05ポンド/2.75キログラム、又は8.03ポンド/3.65キログラム)の鳥を1羽エンジンに打ち込む。鳥を吸い込んだあと、エンジンを安全に停止させることができ、且つ航空機に何等損傷を与えないことを証明する必要がある

鳥衝突によるレーダードームのへこみ
鳥衝突によるレーダードームのへこみ

レーダードーム(胴体の先端部)、操縦室(コックピット)前面のガラス窓の鳥衝突に関わる耐久性試試験は、NTS(National Technical Systems Inc.)で一括して行われている。
実施方法は以下の通り;
* 4ポンド/1.8キログラムの実際の鳥(安楽死させた!ばかりの鳥を使用)を10~20フィート(3~6メートル)の距離から空気銃(Pneumatic Cannon)を使って350ノット(時速513キロ)で打ち出して衝突させ、破壊されないことを確認する
* 操縦室については、ガラス窓の耐久力だけでなく、現物の操縦室内の各所に加速度計と歪み計を設置し、鳥の衝突によって電子機器類が誤動作しないことを確認する

<参考>
日本で馴染みのある鳥の平均の重さ;
スズメ/約30グラム;海猫/約550グラム;マガモ/1.1キログラム;ニワトリ/1.8キログラム;大白鳥9キログラム
尚、北米では‟Canadian Goose”という大型の渡り鳥が多く生息していますが、この鳥は3.9~10.9キログラムもあり、FARの耐空性試験でもカバーされていません

-日本に於ける鳥衝突事故の現状-

日本は海岸沿いの空港が多く、鳥衝突事故が多く発生しています。航空局に於いても被害状況の調査と、その対策を積極的に実施しています。
詳しくは航空局が公開している添付資料:鳥衝突データ by 航空局 をご覧ください

尚、衝突件数を米国のデータやICAOのデータと比較することは、データ採取のメッシュが異なると思いますので行わないでください

以上

5_航空整備に関わる人の技量の管理

-はじめに-

2_航空機の安全を守る仕組み_全体像”の中で述べましたように、航空機を運用する段階で航空会社は、認可された整備規程と業務規程に沿って整備作業を間違いなく実施しなければなりません。ここでは、整備規程、及びその付属書に明確に記述されている、“作業を実施する人の技量の管理”について出来るだけ分かり易く説明していきたいと思います。但し以下は、私がかつて所属していた会社の体制がベースになっていますので、会社によっては若干の違いがあると思います

-整備士のキャリアパスと教育・訓練の必要性-

A. 整備士のプロモーションパターン
入社してから退職(60歳前後)するまでの約40年間、整備士は、必要な教育・訓練を受けつつ、徐々に高度な業務を経験し、より技術レベルの高い整備士として育っていきます。
下記①、②、③に対しては、社内に資格制度を設け、技量を厳格に管理する仕組みが取り入れられています
入社教育期間:法的にも、実態としても航空機の整備は実施できません
初級整備士(補助作業者):
* 作業リーダーの指示のもとで共同作業ができる
* 実施した作業は作業リーダーが完了確認のサインを実施する
一般整備士
* 簡単な作業が単独でできる
* 作業に必要な技術マニュアルを理解できる
* 自身が実施した作業のサインができる
作業リーダー検査員国家資格整備士
* 個人またはグループで実施する全ての作業が自分の責任でできる
* 検査が出来る
技術管理
* メーカーから大量に発行される英文の技術資料を迅速に読みこなせる
* 改修仕様書を的確に作成出来る能力がある
一般管理職(係長、課長):
* 品質管理体制に責任が持てる(人、仕組み)
* 人材の継続的な育成に責任が持てる
部長経営者
* 安全文化に責任を持てる
* 品質とコストのバランスが取れる

B. 技術革新(⇔機種更新)への対応
整備士が入社した後退社するまでの約40年間、新しい機種が次々と登場し、整備に必要な知識・技術は常にリフレッシュしていく必要があります。因みに、1960年代以降の技術革新には、以下様なものがありました;
① 1960年代;
この年代で多くの大手航空会社は、プロペラ機(DC-6B、DC-7C、他)から、第一世代のジェット旅客機(DC-8、B-707、B-727、B-737、他)への機種更新を行いました。従ってこの年代では、プロペラ機とジェット機が混在した状態で整備が行われていました。この時代の整備作業の特徴は;
* 電子部品として、真空管とトランジスターが混在しており、ベテラン作業者が半導体に関わる知識の習得に苦労しました
* マニュアルが充分に揃っていなかったため、修理には経験と勘が必要とされました

② 1970年代;
以降ジェット時代になりますが、航空機の見かけはあまり変わらないものの、第二世代の大型ジェット旅客機(B747、DC-10、トライスター、B767、A-300、他)が登場し、航空機の装備などが革命的と言える程変わったために、ベテラン作業者は、知識の習得の他、仕事のやり方を変えるのに大変苦労をしました;
* 整備方式の近代化(MSG-3/詳しくは知りたい方は“4_整備プログラム”をご覧ください)が行われました。結果として、オーバーホール(Overhaul)という整備機会が無くなったことで分かる様に、A整備、B整備、C整備(従来の点検整備)、M整備(大型改修、機体構造の検査、大型装備品の交換)などの整備の段階は、それぞれ論理的に定義された整備要目や改修作業を実施する機会としての自由度の高い定期整備という概念に替わりました。「オーバーホールが終わったからこの飛行機は新品同様になった」という考え方は通用しなくなりました
* 電子部品は集積回路(IC/Integrated Circuit)が主体となり、修理作業はカード・ユニット単位の交換に変わりました(所謂“ブラックボックス”化)。結果として、それまでの回路を追ってトラブルの原因を突き止め、半田ごてを使って修理を行なうなどの仕事が殆ど無くなりました
* 二次構造部分(機体強度の面でそれ程重要でない部分)に軽量化のために複合材料(FRP/Fiber Reinforced Plastic)が多用されるようになり、修理には接着技術が必要になりました
* 慣性航法装置(Inertia Navigation System)が登場しました
* 従来ケーブル等を使用して直接操作を行っていた操縦系統が、油圧、気圧(Pneumatic)機器による間接的な操作に変わり、油圧・気圧機器の多重化による信頼性の確保が行われるようになりました
* 修理方法がマニュアルで厳密に規制されるようになり、経験に基づく自己流の整備、改造が禁止となりました

③ 1980年代;
現在も使われている第三世代ののジェット旅客機(B-747-400、A-320、A-330、B737-400)が登場し、航空機の制御関連の装備には本格的なデジタル技術が取り入れられるようになりました
* 操縦室における計器類が液晶画面に集約された、所謂“グラスコックピット”が登場しました。これは、全ての操縦に必要な情報が視認性に優れた液晶画面に表示されるメリットは大きいものの、操縦に関わる各種の重要な情報が相互にリンクしている為に、トラブルが発生した場合の原因探求が極めて難しくなるというデメリットもありました。特にアナログ時代に育った整備士にとってデジタル技術は習得する上での高いハードルとなりました
尚、トラブルの原因が特定しにくいことはパイロットにとっても同じなので、液晶画面で表示された情報が信頼できなくなった場合に備え、操縦に最小限必要の情報(航空機の進路姿勢対気速度気圧高度)に関しては従来のアナログ機器も装備するように義務付られています
* エンジンの制御が完全に電子化(FADEC/Full Automatic Digital Engine Control)されました
* 上記の様な技術革新に伴い、整備士が経験や勘に頼って整備することが困難となり、整備に必要なマニュアル類は急速に充実してゆきました。これは、航空機メーカーが、熟練整備士が期待できない開発途上国に最新の航空機を販売していく為にも必要なことでもありました
一方、マニュアル類は内容の充実と併せ、頻繁な改定が行われる様になり、それまで行われてきたマニュアル類の日本語化が困難となりました。その結果、整備士は英語のマニュアルを日本語化せずに英語のまま読みこなす読解能力を身に着けることが必須となりました

④ 1990年代;
この年代は原油高に伴う燃費性能の大幅な向上が技術革新の主なテーマとなりました。この技術革新の核となる部分は、エンジンの燃費性能向上と信頼性向上による長距離機の双発機化、及び機体の大幅な軽量化です。この年代でこれらを実現した最初の機種はB-777であり、すぐさまベストセラー機となりました
エンジンの主要メーカーであるジェネラルエレクトリック(GE)社、プラットアンドホイットニー(P&W)社、ロールスロイス(RR)社は、それぞれ高出力、低燃費、高信頼性を実現した新エンジンを開発しました
機体の主要メーカーであるボーイング社、エアバス社は、炭素繊維をベースとする複合材料(CFRP/Carbon Fiber Reinforced Plastic)の使用比率を高めた機体を開発しました
* 最短距離のルートを飛行すると、故障が起きた時に緊急に着陸できる空港が設定できない長距離洋上飛行に使用される航空機にも、燃費性能の優れた双発機が使われるようになりました。しかし、この運航を行うためには、エンジンの信頼性や整備のやり方などに対する厳しい基準が新たに設定されました。(詳しく知りたい方は“ETOPS承認審査基準の要旨”をご覧下さい)
* 電子装備品のデジタル化、データリンク化が更に進むと共に、操縦そのものがケーブルなどを介しないで電子信号(デジタル)によって伝達される、所謂“Fly-by-Wire”が導入され始めました
* 整備トラブルの中でAvionics(“Aviation”と“Electronics”を合せた造語)関連の割合が増加し、原因究明に時間がかかるようになりました

⑤ 2000年代以降;
第四世代ジェット旅客機と言われる、A-380、B787、A350XWBが登場しました。これらの航空機は基本的に1990年代からの流れにあるものですが、更に上記機種によっては以下の様な革新的技術が盛り込まれています
* 一次構造部分(機体強度の面で非常に重要な部分)にCFRPが導入されました
* エンジンは更なる技術革新(低燃費、高信頼性)が盛り込まれました
* 油圧を高圧(約200気圧⇒約340気圧)化することにより、油圧部品の軽量化を実現しました
* 近年、電気自動車の開発などで急速に技術革新が進んだ高出力の電動モーターが、油圧部品の替わりに使われるようになりました
* 一次構造部分に使われているCFRPの修理が今後の課題になると思われます

-作業リーダー、検査員、国家資格整備士までの教育・訓練-

⓪ 入社教育;
入社時年齢には幅(18歳~24歳)がありますが、航空会社が運用している航空機の整備に関する知識・技能のレベルはほぼゼロの状態です。従って、数週間~数か月をかけて以下の様な教育・訓練を行う必要があります。訓練が終了した段階で「初級整備士」としての実力(資格)が得られます;
航空会社社員としての常識:職業倫理、労働者としての権利・義務、航空会社の特殊な勤務体制、など
* 整備作業に必要な基本知識:航空に関わる特殊用語、航空法及びその関連法規、各種整備マニュアルの使い方、航空力学・飛行力学・材料力学の基礎、など
基本作業の習得:板金作業、接着作業、ネジのトルクのかけ方、など

初級整備士としての知識・技能を習得した整備士は、以下の様に専門化された整備現場(職種)に、適性、定員・配員バランスなどを考慮して配属されます。従って、配属後はその職種に関わる専門性を身に着けていくことになります(勿論、配属後の職種間の異動もあります);
(a)運航整備(発着整備、A整備など)/3職種:①General, ②Radio & Electrical Instrument, ③Cabin
(b)機体重整備(C整備、M整備など)/5職種:①System, ②Structure, ③Aircraft & Engine, ④Radio & Electrical Instrument, ⑤Cabin
(c)エンジン整備/5職種:①分解・組立、②溶接、③メッキ、④機械加工、⑤補器(エンジンに取り付けられる装備品)修理
(d)装備品整備/4職種:①油圧機器、②気圧機器、③電気・電子機器、④降着装置・他
(注) この職種区分は、あくまで私がかつて所属していた会社の体制がベースになっていますので、それぞれの航空会社や整備会社によって異なります。また、委託業務の範囲によっても大きく変わってきます

① 補助作業者として必要な教育・訓練
各職種に配属された初級整備士は、一般整備士や作業リーダーの下で、補助作業者として実際の航空機の整備作業を実施しつつ、一般整備士として必要になる以下の様な知識・経験を習得します。こうした教育・訓練の仕方をOJT(On the Job Training)と言います;
作業を開始する前に、その作業の手順、必要となる部品・材料などを予めマニュアル類(AMMPOMCOMSRM材料シート/ 詳しくは知りたい方は“4_整備プログラム”をご覧下さい)を読み込んで実作業に備えます
* 作業リーダーの指導を受けながら実作業を実施します
作業終了後、疑問に思った点をマニュアル類で確認するとともに、それでもわからない点は作業リーダーに質問し実施した作業に関わる知識、経験を確実なものとします
* 通常この訓練は半年~一年程度で終了しますが、知識、経験のレベルが「一般整備士」として相応しいかどうかの判定は、その整備士の教育・訓練担当が行ないます

②  一般整備士として必要な教育・訓練
一般整備士となった整備士は、一人前の整備士として単独作業や、多人数で実施する大きな作業の一員として作業の経験を積んでいきます。また、より高度な作業をこなす為、あるいは新機種に対する知識を得るために、職種毎に専門化された技術教育を順次受けていくことになります
数年から十年程度一般整備士として知識、技能を積み上げてきた後、作業リーダー、検査員、国家資格整備士の道に進むことになりますが、これらの道は下記の様に高いハードルが設定されており、配置必要数も限定的なため、一般整備士のまま退職する人も少なからずあります

作業リーダー検査員国家資格整備士として必要な教育・訓練
作業リーダーや国家資格整備士については、あくまで会社が必要とする人材、人数を相応のコストをかけて養成することになります;
A.作業リーダーの養成
* 作業リーダーの必要性 ⇒ 数名~数十名のチームで業務を行う場合、作業工程の管理、技量レベルに応じた作業要員の配置、作業全体としての品質管理が出来る人材が必要となります
* 作業リ-ダーとして必要とされる資質 ⇒ 知識・経験が豊富であること、管理能力がある(人望がある)ことが求められます
* 作業リーダーとして必要となる教育・訓練 ⇒ 機種別専門訓練(一般整備士よりレベルの高いもの)、品質管理関連の教育、ヒューマンファクター関連の教育を優先的に受けることになります

B.検査員の養成
* 検査員の必要性 ⇒ 整備要目や改修作業の中には、非破壊検査など習得が難しい検査が含まれていること、また修理作業や改修作業の中には終了後の判定に長い経験が必要なものがあり、そうした検査、判定業務を専門化することにより、安全性と効率性を両立させることができます
* 検査員として必要とされる資質 ⇒ 知識・経験が豊富であること、緻密な仕事を根気よく実施できる能力があることが求められます
* 検査員として必要となる教育・訓練 ⇒ 非破壊検査資格の取得のための教育・訓練、機種別専門訓練(一般整備士よりレベルの高いもの)、品質管理関連の教育を優先的に受けることになります

C. 国家資格整備士の養成
航空機の整備は多くの整備士が分担して作業を行うことから、一人のミスが大きな事故を招く可能性があります。従って、整備作業の各プロセスで知識、経験共に優れた人が耐空性の確認を行うことが必要なことは言うまでもありません。中でも整備作業や改修作業が終了した後、国土交通大臣に代わって耐空性の確認を行う整備士については、個人としての知識・技量のレベルを国が判定する為の航空従事者技能証明制度と、その資格取得者がベースとなって航空会社や整備会社が組織としての耐空性の確認を行う確認主任者の制度が整えられています;

(a) 航空従事者技能証明制度に基づく整備士の養成;
一等航空整備士資格;
この資格は、航空機の日常の運航を維持するため、言い換えれば整備が終わった航空機をパイロットに引き渡すために必須となる国家資格です。また、この資格は航空機の仕組みを全体として理解していることが必要なので、パイロットと同じ様に資格が機種別に分かれており(“型式による限定”)、新しい機種が導入された時の資格者の養成は、資格獲得を命じられた整備士本人はもとより、実作業を外して自習時間を確保させる必要があるなど航空会社にとっても大きな負担になります
受験資格;
航空法施行規則第四十三条に、「20歳以上」で「6ヶ月以上の整備の経験を含む4年以上の航空機整備の経験」が必要と規定されています
* 要求される知識・技能;
㋑ 航空機整備に必要な基礎的な技能(板金工作、機械加工、等)、
㋺ 航空法規、航空技術に関わる基礎的な知識(航空局による筆記試験があります)、
㋩ 機種固有のシステム、エンジン、装備品に関わる全般的な知識(航空局による口頭試問でもチェックされます)、
㋥ トラブル発生時の対応能力(航空局による口頭試問でもチェックされます)
尚、指定航空従事者養成施設制度(制度の概要については“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”をご覧下さい)の認可を得ている航空会社や整備会社にあっては、上記㋑、㋩、㋥に関わる教育・訓練を自社の訓練部門で概ね代行できるようになっています(民間の自動車教習所をイメージして頂けるといいと思います)
* 資格取得に要する期間 ⇒ 受験者の能力にもよりますが、最初に一等航空整備士を取得する場合は、通常1~2年の間、私生活を犠牲にして勉強に没頭する必要があります。尚、他機種への資格の拡張を行うためには、上記㋑、㋺は不要で、㋩、㋥のための勉強が必要になります

一等航空整備士以外の運航整備関連資格
一等航空運航整備士、二航空整備士、二等航空運航整備士の資格があり、航空専門学校などでも資格取得が可能です。しかし、これらの資格は必要とされる知識、技能のレベルが低い為、大手の航空会社では直接一等航空整備士の養成を行うことが普通です

航空工場整備士資格;
この資格は、機種別ではなく“限定された業務”に関わる耐空性の確認に必要となる資格です。限定された業務の種類は、航空法施行規則第55条に規定されており、
(ⅰ) 機体構造関係、(ⅱ) 機体装備品関係、(ⅲ) ピストン発動機関係、(ⅳ) タービン発動機関係、(ⅴ) プロペラ関係、(ⅵ) 計器関係、(ⅶ) 電子装備品関係、(ⅷ) 電気装備品関係、(ⅸ) 無線通信機器関係
と細かく分類されています。これは、一等航空整備士資格が、“航空機全体を広く、浅く知っている”ことが求められているのに対し、航空工場整備士は、“業務分野ごとに狭く、深く知っている”ことが求められていると理解することができます
受験資格;
航空法施行規則に、「18歳以上」で「技能証明を受けようとする業務の種類について2年以上の整備及び改造の経験」が必要と規定されています
* 要求される知識・技能;
㋑ 航空機整備に必要な基礎的な技能(板金工作、機械加工、等)、
㋺ 航空法規、航空技術に関わる基礎的な知識(航空局による筆記試験があります)、
㋩ 限定された業務の種類に関わる全般的な知識(航空局による口頭試問でもチェックされます)
また、指定航空従事者養成施設の制度については一等航空整備士の仕組みと同じです
* 資格取得に要する期間

概ね一等航空整備士と同程度です

(b) 確認主任者の養成
確認主任者の資格は、認定事業場(詳しくは“6_認定事業場制度”で説明します)において、航空機、及び重要な装備品の修理、改造を行った後、国土交通大臣に代わって耐空検査を行う為の資格です(詳しくお知りにおなりたい方は、引用が多く、且つ独特な文体で分かり難くなっている航空法の条文を、出来る限り分かり易く書き直した、航空法の耐空性確認に関わる条文をご覧ください)。

* 資格要件、配置必要数;
認定事業場という仕組みは、多くの整備士が関与する航空機や重要な装備品の整備・改造作業を、最終工程における耐空性の確認を含め、組織自らの責任で行ことと言い換える事が出来ます。従って、確認主任者としての資格要件として求められることを要約すると以下の様になります;
整備・改造作業に於いて組織として間違いのない作業を遂行できる社内体制について充分に理解していることが必要になります。具体的には、現場以外で整備作業、改修作業を行うためにサポートを行なって組織の機能 
施設の維持管理人員の教育・訓練技術管理材料・部品管理領収検査工程管理委託管理監査制度、など、
についてきちんとした教育(品質管理教育など)を受け,理解している必要があります。また、
自身の組織で行われる作業全般について十分な経験、知識を持っていることが必要となります。従って、作業リーダーとして十分な経験を積んでいることの他に、その確認主任者の認定区分に関わる航空従事者技能証明を受けた資格整備士が対象となります(重要な装備品に関わる確認主任者については、以下の様に一部例外もあります)。資格区分別の具体的な要件は以下の通りです;

航空機の整備後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認を行う型式(機種)の一等航空整備士(二等航空整備士、二等航空運航整備士、航空工場整備士も可能ですが、耐空検査ができる範囲が限定されてきます)、及びその型式(機種)に関わる3年以上の経験が必要になります。
尚、この確認主任者は、航空機の発着作業で耐空性の確認を行う必要があるため多くの便数を運航している航空会社ではその必要数がかなり多くなります

地上での整備・ログブック記入・パイロットへの引き渡し
地上での整備・ログブック記入・パイロットへの引き渡し

航空機の改修作業後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認を行う型式(機種)の一等航空整備士(二等航空整備士も可能ですが、耐空検査ができる範囲が限定されてきます)の資格、改造に関わる教育・訓練を終了していること、及び改造に関わる型式(機種)の航空機の改造について3年以上の経験が必要になります。
尚、この確認主任者は、主として機体重整備を行った後の耐空性確認を行うことになりますので、交替制勤務の組数、同時に重整備に入る機数、等に応じた確認主任者の配置があれば十分なので、配置必要数は上記の航空機の整備後の耐空性確認を行う確認主任者に比べれば少なくて済みます

構造整備・エンジン整備・装備品整備
構造整備・エンジン整備・装備品整備

重要な装備品の修理・改造作業後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認主任者になるためには、原則として航空工場整備士資格の、その装備品が属する限定(限定については既述の通り航空法施行規則第55条に規定されています)を持っていること、及びその業務に関わる年以上の経験が必要になります。
ただ、航空工場整備士の資格を持っていない場合でも、大学、又は高専の工学に関わる所定の課程を修めて卒業していること、及び、認定業務について大卒者にあっては3年以上、高専卒者にあっては5年以上の経験があれば確認主任者になることが可能です
尚、この資格は、航空機から取り外した重要な装備品の作業が対象となりますので、修理・改造を行っている装備品の種類に応じた配置が必要となりますが、航空機関連の確認主任者に比べ配置必要数はそれほど多くはありません

<参考> 海外の制度との比較
海外の制度は、日本の制度と異なります。海外の航空会社から整備作業や改修作業を受託する場合、耐空性確認を行う場合には、教育・訓練を受けた上で海外の以下の資格を取得する必要があります;
米国機の場合
FAR/Federal Aviation Regulation のルールでは以下の資格があります;
Mechanic:整備又は改造(大修理又は大改造を除く)の実施及び監督(機体構造とエンジンの限定がある)
Mechanic with Inspection Authorization:大修理又は大改造実施後の確認行為
RepairmanRepair Station(日本における“認定事業場”に似た仕組み)又はAirlineにおける整備又は改造の実施及び確認

EU
JAR/Joint Aviation Regulation のルールでは以下の資格があります;
Category A Mechanic:軽微なライン整備作業及び単純な調整作業後の確認行為(型式の限定がない)
Category B1 Mechanic:以下に掲げる作業分野のライン整備における確認行為、及び重整備におけるサポート業務(型式の限定がある)/機体構造、エンジン、機械システム、電気システムの整備、Avionicsの単純な点検作業(不具合処理を除く)
Category B2 Mechanic:以下に掲げる作業分野のライン整備における確認行為、及び重整備におけるサポート業務(型式の限定がある)/Avionics及び電気システムの整備の整備、エンジン及び機械システムの中の電気、Avionicsに関する作業(但し単純な点検に限る)
Category C:重整備後の確認行為(型式の限定がある)

ICAO附属書における資格の表現>
Aircraft Maintenance Technician又はEngineer又はMechanic:整備又は改造後の航空機又は部品について確認行為を行う

-その他の資格を持つ整備士の養成-

航空級無線通信士;
運航整備作業を実施する過程で、航空機の無線機で管制官との交信を必要とする場合(航空機の地上の移動の許可を得るとき、エンジンの試運転をする時、など)があり、運航整備部門に配置された人員は基本的に資格取得を目指します(管制官との交信業務を切り分ければ、必ずしも全員の取得は必要ありません)

放射線取扱い主任者;
機体重整備作業を実施する過程で、放射性同位元素を使った非破壊検査を行う必要があり、事業所に1名以上「放射線取扱い主任者」の資格を有する者を配置しなくてはなりません。理工学系の学卒者の中から少数選任し資格を取得させます

航空会社、整備会社が整備作業を行う場合に必要となるその他の資格
* 非破壊検査資格:検査員/検査の種類別に資格があります
* 溶接技能者資格:溶接を行う整備士/溶接の種類別に資格があります
* 毒物劇物取扱責任者資格:メッキ作業を行う整備士

-技術以外の教育-

品質保証教育;
整備士のキャリアパスに合わせ、初級、中級、上級訓練コースを設定します

Human Factor 教育;
最近の
進歩した設計の航空機では、設計の欠陥による事故よりもHuman Error(人間の犯すミス)による事故が圧倒的に多いことが分かっており、整備士のキャリアパスに合わせて以下の様な訓練を行っています
MRM/Maintenance Resource Management(詳しくは“8_Humanwareに係る信頼性管理”をご覧ください) ⇔ パイロットが法的に義務付けられている“CRM/Crew Resource Management”に相当します

管理教育;
作業リーダー、管理職は、人を適切に管理するための知識が必要とされますので、労務管理健康管理経営管理、等に関わる教育が行われています

以上

4_整備プログラム

-はじめに-

2_航空機の安全を守る仕組み_全体像”の中で概略述べましたように、航空機を運用する段階で航空会社が実施すべき整備作業は、航空会社が勝手に決めて実施することは許されず、全体の枠組みはもとより、個々の具体的な整備作業についても、予め航空機を設計する段階で規制当局に承認を受けておかなければならず、これが承認されなければ航空機の型式証明や耐空証明が得られず、運航に供することはできません
ここでは、個々の整備作業(例えば回転部分の給油や機体構造の亀裂のチェック、など、など)のよってきたる所以や、これらの集合体である整備作業全体の成り立ち(“整備プログラム”)について、出来るだけ分かり易く説明したいと思います

航空機は一般に、製造されてから数十年は使用する為、その間の安全運航を担保するために、個々の整備作業は極めて精密な論理で構成されています。従って、まずここで使う用語の定義をしっかり頭に入れておいて欲しいと思います;
① タスク(Task):個々の整備作業
② 整備要目(Maintenance Requirement):タスクとそれを実施すべき時期(年・月・日・時、飛行時間、飛行回数、等)を一体化させたもの
③ 整備パッケージ:整備要目の集合体です。自動車整備で言えば、法律で義務付けられている“車検整備”や、一日一回、運行の開始前に行うことになっている“始業前点検”(皆さんやっていますか?)などがこれに当たります

個々のタスクは、整備要目の中でその実施時期が指定され、その指定された実施時期を守って整備が漏れなく実施されるように整備パッケージが設定されているという言い方も出来ます。
また、個々の整備要目の実施時期が守られる限りにおいて、整備パッケージの構成は、ある程度航空会社の自由裁量に委ねることができる仕組みになっています

-整備要目の分類-

ここでは、日本で現在運航している大多数の航空機を製造している国が米国であることに鑑み、米国における体制を説明したいと思います。エアバス機や久し振りの国産機であるMRJについても概ね同様の体制で運用されています

1.MRBで設定した整備要目
MRB(Maintenance Review Board)とは、新しい型式の航空機の整備要目を決定するとき、又は整備要目の見直しを行うときにFAA(Federal Aviation Administration:日本の航空局に相当します)が召集する整備要目に関わる諮問機関のことです。この機関の構成メンバーはFAA及びメーカーです。この諮問機関で最終的に決められた事項は、“MRB レポート”として発行され航空機を購入した航空会社が整備要目を当局に申請する時の基礎資料となります。詳しく知りたい方は( MRBの検討プロセス )をご覧ください。
MRBが関与する整備要目には以下の二種類があります;

A. CMRに基づき設定される整備要目;
CMR(Certification Maintenance Program)とは、FAAが航空機の設計を審査・認可する段階で、航空機を運用する際の付帯条件として設定を義務付けている整備要目のことです。 この整備要目を設定するかどうかの判断は、以下の基準に拠ります;

“ある故障欠陥が発生した時、パイロットが運航している時や日常の整備では発見することができず、これに別の故障が重なった場合に、致命的な、あるいは危険な故障状態になる様な故障、欠陥を、事前に発見する必要がある”場合
上記の対象となる故障の例:使用する機会が少なく、使用しなければ発見できないような故障、など
上記の対象となる欠陥の例:例えば金属内部の結晶の粒界に発生する微小な亀裂、など

致命的な状態とは:安全な飛行ができなくなる故障状態。その発生確率は10億分の1以下に納めなければなりません(←耐空性基準で求められる事故確率:)。因みにこの確率は、“同一機種の全航空機の全運航期間中を考えても全く発生することが予想されない程度の低い確率”です
(注)実際の事故は設計基準よりかなり高い確率で起こります。これは設計で想定していなかったヒューマンエラーや、気象の急激な変化、運航ルールの無視、などによるものです。興味のある方は( 機種別事故統計 )をご覧ください
危険な故障状態とは:航空機の安全率や機能の著しい低下や、パイロットの著しいワーク・ロードの増加などをもたらす故障。その発生確率は1千万分の1~10億分の1に収めなければなりません(←耐空性基準で求められる事故確率)。因みにこの確率は、“同一機種の全航空機の全運航期間中には発生しそうも無いが、それでもいつかは発生しうると考えられる程度の確率”です

具体的には、内在的な故障や欠陥が考えられる部分を、ある決められた間隔で検査する整備要目を設定し、“故障の無いことを確認”するか、あるいは“故障や欠陥を早期に発見して修理する”事によって、許容される範囲内に事故のリスクを管理することです。
航空機設計の目標はCMR整備要目の数を最小に抑える()ことですが、現実的には重量、信頼性、開発費用、維持費用、等を総合的に考慮して設計が行われるため、ある程度のCMR整備要目が必要となることは避けられません
)CMR整備要目は故障のない事を確認するだけのことが多いので、ある意味で無駄な作業になります。仮に小さな亀裂を発見する高性能のセンサーがあれば、こうした確認作業は不要になりますが、センサーを張り巡らすことは重量の増加や、コストの増加を招くことになり、実際の設計ではセンサーの設置は見送られることになります

B. MSGで設定される整備要目;
MSG(Maintenance Steering Group)とは、新型式機に対し、論理的なプロセスによって、効率的な整備要目を開発する為に設置されるグループです。構成メンバーはメーカー、航空会社、規制当局の専門家です

MSGで設定される整備要目は、安全性を担保する目的は当然のこととして、航空会社にとっての経済性の向上も重要な要素となります。従って、作業量を極小化することの他、航空機の稼働を妨げる可能性のある故障を未然に防止する為の目的も重要になります。
具体的には以下の目的を達成する為に整備要目が設定されます
航空機及びこれに付属する装置固有の安全性と信頼性のレベルが維持されていることを確認すること
航空機及びこれに付属する装置固有の安全性と信頼性のレベルが低下したとき、それらを回復すること
航空機及びこれに付属する装置固有の安全性と信頼性が充分でないと判明した場合、設計改善に必要な情報を得ること
これらを、修復コストを含めて最小のコストで実現すること

MSG整備要目のタスクの内容
*定例整備要目:給油、作動チェック、検査、機能チェック、部品の交換、など
*非定例整備要目:定例要目から付随的に発生する修理、交換などのタスク、運航乗務員からの故障報告に基づく修理、交換などのタスク、データ解析を行う為に必要となるタスク、など

MSG整備要目の設定手順;
(a) エンジン、システム関連;
ステップ1:航空機や装備品のメーカーが、その技術的判断に基づいて故障を予測し、定例タスクが必要となるシステムや部品を指定する
ステップ2:航空機や装備品のメーカーは、故障の状態、故障による影響(安全性、乗務員の負荷、経済性)、故障の原因を解析する

ステップ3:故障を発見できる可能性、原因及び定例要目の有効性をチェックする。次に、故障状態を分析し、給油、作動チェック、検査、機能チェック、部品交換、等のタスクのうち、もっとも有効なタスクの組合せを選ぶ。有効なタスクの組合せが得られなかった場合はメーカーに再設計、または設計変更を要求する
ステップ4:定例要目の実施頻度・間隔を決定する。適切な開始時期や実施間隔を決めるのが難しい場合、それらをを決める為のサンプリングの要目を設定する(“Threshold Sampling”)ことがあります

(b) 機体構造関連
まず機体構造が劣化する原因を以下の三つに分けて、その劣化の確率を分析、評価します;
偶発的損傷(地上機材・異物との衝突、雨・霰、ヒューマンエラー、など)
環境状態による損傷(水滴・水漏れ、異種金属間の電解作用、応力腐食、など)
疲労損傷(運航中の振動・繰り返し荷重、客室・貨物室内の繰り返し与圧、など)

ステップ1:構造劣化の原因の受け易さを評価します(例えば、降着装置やフラップなどは偶発的損傷を受けやすい、など)
ステップ2:構造劣化の耐空性への影響度合いを評価します
ステップ3:構造劣化を検出するための検査方法の有効性、検査開始の時期、繰り返し検査の間隔、などを評価します

ステップ4:航空機、装備品のメーカーは、「不具合による安全性への影響度」を考慮して“重要構造部位”と“その他の構造部位”に分類します
ステップ5:“重要構造部位”に対しては、偶発的損傷、環境状態による損傷をタイムリーに発見する為の定例要目(検査)を設定します。また、腐食が考えられる部位に対しては「腐食防止・抑制プログラム」を設定し、これに係わる定例要目を設定します(例えば、降着装置の収納室内や後桁の風雨に晒される部分に防錆油を定期的に塗布する、など)

ステップ6:全ての“重要構造部位”に対し、航空機、装備品のメーカーは構造設計を「安全寿命構造」をベースとした設計と、「損傷許容構造」をベースとした設計に分類し、;
安全寿命構造」に対してはその構造の寿命を設定します。
損傷許容構造」に対しては損傷検出の為の定例要目(検査)を設定します。但し、損傷の検出が日常の運航中に発見できる場合は検査は不要となります
安全寿命構造:損傷許容構造が設計できないか、又は経済的でない場合、十分余裕を持った構造寿命を設定します
損傷許容構造:機体構造に小さな亀裂が発生したとしても、それが成長して全体の破壊に至らない様にする構造。例えば、破壊されても深刻な事態にならない構造をあえて作り損傷の早期発見と重要な構造に破壊が連鎖しないようにすること、あるいは構造をうまく分離することによって破壊の重要部分への進展が防げる構造にすること、など。具体的には次の( 概念図 )をご覧ください

ステップ6:“その他の構造部位”に対しては、航空機、部品メーカーの経験を参考に定例要目を設定します

(c) その他
システム、エンジン、機体構造の定例要目に含まれない“配管・ダクト類”、“配線類”、等の項目の故障の発見、修理の為の定例要目を設定します;
ステップ1:航空機の外部、内部をゾーンに区分する
ステップ2:ゾーンに対し、損傷の受け易さ、アクセスの条件、他機種での経験、等を勘案し、適切な整備機会と整合させて定例要目(目視検査)を設定します

-整備要目の追加、変更-

1. 航空機の国籍登録に伴う追加、変更;
製造国によって耐空証明(整備要目実施が前提)を受けていても、航空会社がその航空機を登録する国の当局の指示により整備要目の一部が変更になることがあります

2.航空機、部品のメーカーの指示に伴う追加、変更;
航空機、部品のメーカーが、その型式の航空機を運航する全航空会社で発生したトラブルの情報を集約・分析し、安全性、信頼性、経済性向上の為に変更を薦める場合に整備要目が追加、変更される場合があります。またこの追加、変更が航空機の安全性の確保の為に緊急性が高いと当局が判断した場合、この整備要目は規制当局(米国:AD/Airworthiness Directive, 日本:耐空性改善通報)により実施が強制されることになります

3.事故又は大きなトラブルの調査結果に伴う追加、変更;
事故やトラブルの分析から、航空機の安全性の確保の為に整備要目の追加が必要と当局が判断した場合、この整備要目は実施が強制されることになります(AD,耐空性改善通報)

4.航空会社独自の整備要目の管理
航空会社が独自に以下の様なケースを行う場合、変更の妥当性をデータによって規制当局に説明し、承認を得ておく必要があります;
* 安全性、信頼性、経済性向上の為の整備要目の変更。
* 経済性向上の為の整備パッケージの実施間隔延長
* 経済性向上の為の整備パッケージの変更(例えば、A整備、B整備、C整備、M整備という整備パッケージを設定して整備要目を実施している体制から、B整備実施の整備要目をA整備、C整備に分散し、B整備を行わない体制に変更すること、など)

-整備マニュアル

整備マニュアルは事業者が整備計画を立てるときの基準、及び整備作業を行う時に必要となる手順、判定基準、などを定めているもので、整備規程の附属書(当局の審査、認可を経て有効となる)として位置づけられ、機種(型式証明)別に作られます。このマニュアルに違反する整備を行った場合、当該航空機の耐空性証明が失効することとなりますので、極めて厳格に守られています ⇒ 130831_ANA・整備記録に不備_29便欠航

整備マニュアルの種類
1)MRM/Maintenance Requirement Manual:全整備要目の詳細を記述しています

2)運用許容基準MELstrong>Minimum Equipment List):部品の一部が不作動であるときに、飛行するための条件を決めています
(参考) ご興味がある方は、ボーイング社が公表している777のMELをご覧ください ⇒ MMEL_B777

3)CDLConfiguration Deviation List:機体関連部品の一部が欠損しているとき、飛行するための条件を決めています

4)整備手順や判定基準に係るマニュアル
①  MSM/Maintenance System Manual:整備の方針、整備方式の全体像が記述されています
②  AMM/Aircraft Maintenance Manual:航空機の機体整備の基準、手順の詳細が記述してあります
 POM/Power Plant Overhaul Manual:エンジン整備の基準、手順の詳細が記述してあります
④  COM/Component Overhaul Manual:エンジンを除く装備品整備の基準、手順が詳細に記述してあります
⑤  SRM/Structure Repair Manual:機体構造の修理の基準、手順が詳細に記述してあります
⑥  材料シート:整備に使うことができる材料(金属の板材、複合材料、接着剤、塗料、等)の規格が詳細に記述してあります

-整備パッケージ-

整備パッケージとは、整備をする機会(運航の合間、夜間、定期的な整備機会、等)に合わせ、各種整備要目の最適な組合せを作ることです。従って、航空会社ごとに運航路線や、整備実施体制に違いがある以上、整備パッケージの内容は同じではありません
整備要目と整備パッケージとの関係については、図表( 整備要目と整備パッケージの関係 )をご覧ください

整備パッケージの例
運航整備:発着の合間や夜間に行われる整備のパッケージ
*国内線の航空機が整備基地である羽田に駐機しているタイミングのイメージ ⇒ 国内線機材パターン
*国際線の航空機が整備基地である成田に駐機しているタイミングのイメージ ⇒ 国際線機材パターン
)上記のイメージ図で“緑色”の部分は飛行中、あるいは基地以外の空港に居る時間帯です。それ以外の部分は整備基地に駐機しています
*作業量の単位:MH(マンアワーと読む)⇒1人が1時間働く作業量
 発着整備(到着時及び出発時に行う作業):数MH~十数MH;
*到着便を2人で作業を実施するイメージ ⇒ 到着便作業・配置人員
*出発便を3人で作業を実施するイメージ ⇒ 出発便作業・配置人員
*折り返し便を3人で作業を実施するイメージ ⇒ 折返し便作業・配置人員
(注)上記のイメージ図で“”は資格整備士が実施する作業、“”は一般の整備士が実施する作業、“ピンク色”の作業は資格整備士は必要としませんが、資格整備士の手が空いている為に実施している作業
 A整備(一定飛行時間ごとに行う作業/通常数百飛行時間に設定):数十MH~百数十MH
 B整備(一定飛行時間ごとに行う作業/通常千飛行時間程度):数百MH(最近はB整備の要目をA整備に分散して行うことが多い)

機体重整備:航空機を長期間格納庫の中に入れて行う整備のパッケージ
 C整備(一定飛行時間ごとに行う作業/通常数千飛行時間程度):1万工数~2万MH(中程度の改修作業や、エンジンや脚の交換作業が同時
に行われる);工期は10日~2週間程度
 M整備(数年の間隔ごとに行う作業/通常5年程度):数万MH(大きな改修作業や構造検査が同時に行われる);工期は1ヶ月程度
* 通常“運航整備”や、“C整備”では行われない胴体の上部や主翼、尾翼全体に亘って作業を行う必要がありますので、機体全体が作業用の足場で覆われる状態になります

重整備の足場
重整備の足場

* 1960年代まではオーバーホールOverhaul/“完全に分解して整備を行い新品同様にさせるというイメージがある”)という整備機会がありましたが、整備要目の集合という概念が一般化した結果、この様な整備機会の名称は無くなりました

以上