高齢者スキー技術の実践_その3

今シーズンは、3回スキー・ツアーに出かけることができました。我々のスキー仲間の中では決して年寄りの部類には入りませんが、正直に言うと初滑りに出かける時は年々億劫になってきています。こうした感覚の背景には「体力が持つか?」、「怪我でもしたら見っとも無いな!」といった不安があるのは否めません。しかしゲレンデに立ってみるとそんな不安はどこへやら、歳を忘れてスキーフリークに変貌してしまいます
初滑りは正月明けに新潟県の「石打スキー場」で、2回目は長野県の「菅平スキー場」、滑り収めは北海道の「ルスツスキー場」となりました。幸い今シーズンは素晴らしい雪に恵まれ、7回目の干支を迎えても尚、スキーができる幸せを噛み締めることができました

ルスツ・スキー場
ルスツ・スキー場

冒頭のスキーヤーの写真は、我らスキー仲間の中で最高齢(84歳)となるTさんの滑りです。私よりも10歳以上年長なので、私も今後10年は滑れるのではと希望が湧いてきます。参考のために、彼の滑降中の動画をYouTubeにアップロードしてみました(84歳の大滑降!)のでご覧になってください。抑制された滑走スピードとズレをうまく使ったターンは超高齢スキーヤーにとって模範となる滑りだと思います
この動画の後半に登場する3人のスキーヤーの内、後ろを滑る2人はいずれも全日本スキー連盟の指導員で、それぞれ66歳のSさんと76歳のHさんです。Sさんは足首を捻挫したばかりであり、Hさんは両膝の靭帯が伸び切っていて、ロボコップの様なプロテクターを装着して滑っていますが、そんなことを全く感じさせない熟達した滑りを見せています

昨シーズンの宿題

昨年投稿した私のブログ(高齢者スキー技術の実践_その2)の最後のくだりに書いてありますが、昨シーズンの私の宿題は「ターン後半の滑りをどうまとめるか」でした
「ルスツスキー場」での合宿で、全日本スキー連盟の指導員である仲間のKさん(66歳)とOさん(74歳)に直接指導してもらう幸運があり、以下の様な幾つかのポイントを体感することができました;

ターン後半から次のターンに至る部分は、できるだけ直線的に滑る方が疲れない(Kさんの言葉を借りれば″美しく見える!”)こと。勿論、小回りのターンではこの直線で滑る部分は無く、短時間のニュートラル・ポジション(斜面に垂直に立ち、スキーの前後を揃える)で二つのターンを繋ぐことになります

② 斜面の傾斜が緩い時は、この直線部分をニュートラルポジションのままターンの大きさに合わせて直線的に滑り、次のターンに入ることになります。ただ、斜面の傾斜がきつくなった場合は、この滑り方ではスキーの方向が徐々に下向きとなり、加速してゆきます。何故なら、斜面に垂直に立てば(⇔ニュートラルポジション)、体は斜面の下方に傾いており、エッジを立てていない限り重力によりスキーは最大傾斜線方向にズレながら向きを変え加速していくことになります(所謂「先落とし」)。この結果、次のターンに入る時にオーバースピードなった場合、ターンの前半で減速の操作(ズラす角度を大きくする)が必要となり、高齢者にとっては雪面からの抵抗が大きくなり、疲れる滑りになります(勿論、筋力、バランス力があればスピード変化に対応して減速を行わずに美しく滑る!事は可能です)

 斜面の傾斜がきつい時は、この直線部分を「斜滑降」、乃至「斜め前横滑り」を行い、ターンの出口と同じ速度を維持し、ニュートラル・ポジションを経て次のターンに入ることでスピード変化の無い疲れないターンを行うことができます。斜面が更にきつくなった場合は、ターンを始動する時の軸足(⇔谷足、ターン終了後は「山足」になります)及びターン終了後の直線滑走時の「山足」にある程度荷重を加えることにより、スピードのコントロールを行うことができます(「斜滑降」では山側に上っていくことにより、また「斜め前横滑り」ではズラす幅をコントロールすることにより可能になります)

これらのポイントを意識した上での私の滑りを、恥ずかしながらYouTubeにアップロードしてみました(ターン開始からニュートラルまで)。来シーズンも、この滑りで安全で快適な高齢者の滑りを目指して頑張りたいと思っています。
私のお目汚し!の滑りをご覧になった後は、私が40年以上に亘って師事しているKさん、Oさんの華麗な滑り(模範滑降)をご覧になって不快感!を中和してください!

以上

高齢者スキー技術の実践_その2

前回の投稿(高齢者の為のスキー技術を実践してみました!)で、生意気な理論を振りかざし、“ほぼ理論通りの滑りが出来た!”かの様な報告を致しましたが、証拠になるものは何も提示できませんでした
今回、私のスキー仲間(上の写真:ほぼ全員が私よりスキー歴が長く、技術レベルも遥かに上を行っているスキーヤーです)と一緒に北海道のルスツスキー場で滑ることができ、私の滑降中の動画を撮ってもらうことができました。以下の連続写真は、動画から起こした写真をターンに合わせて並べてみたものです;

谷回りターンの分解写真
谷回りターンの分解写真

これまでの投稿で申し上げてきた通り、この滑降スタイルの狙いは、筋力が無くバランス感覚が衰えた高齢スキーヤーが、安全にスキーを楽しむ為のものです。このスタイルのポイントとして挙げたことは;
 腿を立てて滑ることによって脚部の負担を減らすこと( ⇔ 歩くときの姿勢に近く、比較的高い姿勢になります)
スキーをズラすことによって、スキーの速度を一定に保つこと
でした

また、この滑りを実現するためには、以下のポイントが重要になります;
回転を始める前に必ずニュートラル・ポジション(斜面に垂直に立つ)をとること
回転は山側にスキーをズラすことから始めること
最大傾斜線を越える前後は、しっかりとスキーをズラし、速度をコントロールすること
山回りの回転に入ったあとは、徐々にスキーをズラす量を減らし、一定速度を維持すること

上記のポイントを分解写真と比べていただくと、ほぼ狙い通りの滑りになっており、また結果としてターンしている間は“外向・外傾”の姿勢が保たれていると思いますが、如何でしょうか?

名残惜しいのですが、今シーズンの私のスキーはこれで終わりになります。来シーズンの課題としては、ターン後半の山回りの部分をもう少し美しく見せる為に、ターン前半部で軸となっていた山足を、山回りになって軸としての役割を終えた後、どう操作すればいいのかについて研究してみたいと思っています

以上

高齢者の為のスキー技術を実践してみました!

-はじめに-

昨年はスキーの下手な私が、無謀にも!高齢スキーヤーの為の技術の解説をしてしまいました(→“高齢スキーヤーが安全なターンを行うには”;“高齢スキーヤーが疲れないスキーを行うには”)。語ってしまった手前、自身でその有効性を確認しなければ全くの空論に終わってしまうと思い、とにかく実践を試みてみました
実践に選んだスキー場は長い歴史を持つ「菅平スキー場」です。長いコースは取れませんが、リフト1本分の色々なコースを選ぶことができ、コース整備も毎日完璧に行われていますので高齢スキーヤーにとっては格好のスキー場だと思います
4泊5日のスキー行の前半は昔全日本のデモンストレーターに選ばれたことのあるコーチによる最新技術の指導(“スキー指導員”を対象とした本格的なものです)があり、後半はポール(柔軟なプラスティック製の筒を使った当たっても痛くないポール)で制限されたコースを滑るという、正にスキー技術の実践(実験?)には願ってもないスキー行となりました。 以下はその報告です;

-安全な谷回りターンの実践について-

高齢スキーヤーにとって最も大切な技術は、「腿を立てて滑ること」、「スキーをズラせて一定の速度で滑ること」であること、またこの技術が試されるのは「谷回りターン」である事は既に前2回の投稿で説明したところです
「谷回りターン」が難しいのは ①進行方向がほぼ逆になる(⇒進行方向の“慣性力”をどう手なずけるか!)、最大傾斜線を越えるために何もしないと重力で加速する(⇒“重力加速度”ををどう手なずけるか!)ためであると思います。指導員クラスの名人は、この技術の壁を自動化された重心の前後左右の巧みな移動で難無く、美しく!乗り越えてしまいます。我々高齢スキーヤーは、この技術の壁を“頼りない筋力”と“衰えたバランス感覚”で乗り越えなければなりません

今回の実践で、高齢スキーヤーにとって最も難しい「谷回りターン」でカギとなる部分はターン直前の「ニュートラル・ポジション」にあることが実感できました。「ニュートラル・ポジション」とは、ターンを終えた後、次のターンに入る前の「斜面に対して垂直に立つ」ポジションのことです。このポジション前後のスキー操作で大切に感じたポイントは;
. ニュートラル・ポジションに入る前にスキーが急に加速しない程度まで十分にスキーを回し込むこと(⇒落ち着いて以下のやや難しいターンの操作に入ることができる)
.回し始める前にしっかりと2本の足で雪面を踏みしめること(⇔“加速防止”の意味もあると実感できました)
.その後内足を軸にして(⇒回転の軸にできる程度に内足に荷重を残す)外足を回し込むこと(⇒回し込む時のズレの量でターンのスピードをコントロール出来る感覚が得られました)

.回し込む外足は、内足より必ず後ろ(⇔ターンを押しズラしてリードするということは必然的に押す外足が後ろになる)になり、この時にできた内足と外足の前後の位置関係が身体の向き(骨盤の向きと同じ)を決定します。この向きが“外向姿勢”になります。また、回転中に横のバランスを取るために下半身をターンのやや内側に置き、これとバランスするように上半身をターンの外側に倒す姿勢を取れば、これが“外傾姿勢”になります。外傾姿勢を作らない場合、横のバランスを取るために手やストックを広げる姿勢を取る人もゲレンデで見受けられましたが、どちらを選択するかはその人個人の美意識によると言えるのかもしれません!
.上記 1~4 のプロセスで、“腿は常に立てた状態”でスキーを操作し、上半身は過度に前に倒さず、腿の上でできるだけ安定させるようにします。こうすることで上下方向の擾乱に対して可動できるのは足首だけになりますので、高速で大きなこぶに遭遇すると上下の高低差を吸収できずに“飛んで”しまいますが、高齢者はそういう斜面には行かないということで整理したい?と思います

元デモンストレーターのご指導では、「ターンの後半はやや“かかと荷重”、次のターンの始動期以降は“重心をやや前方に移す”」ことが美しい回転弧を作るということでしたが、私の様に筋力の無い高齢スキーヤーには前後方向の意識的な重心の移動は、急斜面になると「後傾→暴走」のリスクを高めるのではないかと感じました。また;
ニュートラル・ポジションからターンを始動する方法として、「伸ばし押し出し」と「曲げ押し出し」を練習しましたが、初心者の頃に習った「抜重」の要素が入ってしまうと、斜度がきつくなった時に“スキーが走り出し”てしまう感覚があること、また“曲げ”や“伸ばし”の動作を必要以上に大きく取ることは、筋力の無駄遣いに通じる様に感じました

今回のスキーツアーの後半では、ポールで制限されたコースを自身が安全だと思う速度で滑り降りる練習が思う存分できました。ここで得られた技術のポイントは;
.先の状況を把握し、ポールに入るかなり手前からズレを使った方向と速度の制御を行うことにより、高齢者でもポール近傍に出来た不整地を安全に滑ることができる感覚を得ることができました

また、今回は寒波の襲来と重なった為、せっかく整地された斜面も午後には10~20センチ程度積もった新雪が荒らされた斜面となりました。こうした荒れた斜面では、開脚で滑るとスキーが取られてバランスを崩してしまう場面が度々あり、元デモンストレーターのコーチのご指導では;
.新雪や荒れた雪には“密脚”(2本のスキーを密着させて滑るという意味の造語!のようです)で滑り、内足を遊ばせない(内足の加重をゼロにすると雪に取られる)ことが必要とのことでした。実践の結果うまくいったとは言えませんでしたが、“密脚”させる為には内足の加重が重要であることはある程度体感することができました。高齢スキーヤーにとってはちょっとハードルが高いのですが、適切な斜面(急斜面でも緩斜面でもない)を選べば、恰好なチャレンジ目標になるのではないでしょうか。ただ、整地された斜面に比べバランスのズレが大きい事は否めないので、相応の疲労があることは言うまでもありません!

-話は脇道にそれますが!-

技術論からちょっと離れて、今シーズン滑った朝里温泉スキー場(北海道)と菅平スキー場で、高齢スキーヤーが感じているストレス(ひょっとして私だけかもしれませんが)についていくつか勝手な意見を開陳したいと思います;
スキー場へのアクセスについて
高齢スキーヤーにとって、凍え死なない!様に目一杯厚着をして、重いスキー靴を履き、重いスキーを担ぐのは相当な重労働です。できればリフトのそばまで車で行けたら幸せなのに、というのが本音だと思います。菅平スキー場では宿がスキー場のすぐそばにあるのであまりストレスを感じなかったのですが、浅利温泉スキー場では酷い目にあいました;

駐車場からスキー場へのアクセス
駐車場からスキー場へのアクセス

上の写真でお分かりの様に、駐車場からスキー場までは車道を長い距離歩かされ、更に急な階段を昇って行かねば到達できません。70歳を超えた私の様な高齢スキーヤーにとっては地獄!の様なアクセスです

従業員用の駐車場とスキー場下部のデッドスペース
従業員用の駐車場とスキー場下部のデッドスペース

一方、このスキー場の従業員用の駐車場は上の左の写真の様に、スキー場との高低差があまり無いように作られています。スキー客を“お客様”とは思っていないのかもしれませんね!
また、右の写真で想像できると思いますが、スキー場の下部にはかなり広いデッドスペース(滑走エリアではない)があります。このスペースに、車が一時停止して人、スキー用具を降せるロータリーを作れば、運転手を除き駐車場との距離や高低差は問題にならなくなります。また、駐車場には車を整列駐車させるための要員が数人居ました。この内の一人がマイクロバスで人員輸送を担当すれば全ての問題をクリアーできると思ったのですが、、、

2.スキー場の施設
殆どの高齢者は“頻尿”という重荷を背負っています。トイレの回数を減らすために水を控えれば恐ろしい脳梗塞のリスクが高まりますのでそれは絶対にできません!その結果、トイレ探しと、一緒に滑る仲間との暫しの“別離”とが、スキーを快適に楽しむ為の障害になっています。通常休憩を取る時にトイレを済ませますが、吹雪の時などはもっと簡単に用が足せればというのが高齢スキーヤーの切なる願いです
以前、どこかのスキー場でケーブルか高速リフトの乗り場(降り場?)にトイレを利用できるところがありました。ケーブルや高速リフトは施設が大掛かりなのでトイレを作るのが容易であるということでしょうか。考えてみればリフト要員は何処でトイレを使用するのでしょうか? もしリフト要員用のトイレがあるならスキー客にも使わせることを考えてみたら如何でしょうか

若いスキーヤーはあまり感じないかもしれませんが、リフトの座席の高さが低いと脚力が衰えた高齢スキーヤーには結構厳しいものがあります。リフトの座席で足をさらわれた後、座面にドシンとおしりをぶつける結果となり、貧弱となった尻筋肉のクッションなしに尾骶骨に衝撃が加わることになります
勿論、緩斜面に設置された幼児・小学校低学年用のリフトであれば低い座席はやむを得ないと思いますが、大人用のリフトで雪掻きをサボった結果、座席の実質的な高さが低くなっているケースなどは、思わずリフトの介助要員を睨みつけてしまいます!

3.宿の食事
菅平に限らず最近の民宿を利用して感じるのは、旅館や会席料理の真似をしているのではないかと思える程におかずの種類が多いことです。ただ、宿泊料金から考えて旅館や料亭の様に腕利きの料理人が沢山いる訳でもなく、また材料も吟味されているとは思われませんので、恐らくは冷凍食品を多用しているものと想像しています。結果として料理を残す人も多く、昨今話題となっている“食品ロス”の観点からも好ましいとは思えません。品数を揃える為にコストをかけてしまった結果として和食のベースとなる御飯みそ汁漬け物などには余りお金をかけていない様に感じます。スキーを始めた頃の民宿では、御飯、みそ汁、漬け物(例えば食べ放題の野沢菜など)の三点セットは頗る美味しく、それだけで十分に食欲を満たしてくれたことを思い出します

外人スキーヤーの方が多くなったニセコなどでは、夕食はスキー場地域に進出してきた各種レストランで取ることが多く、宿は所謂“B & B”(Bed とBreakfast/朝食を提供するだけ)に変化しつつあるとか。宿泊客にとっても自分の好きな食事を選ぶことができ、また若いスキーヤーなどはそこでの出会いを楽しんでいるようでもあります。菅平の宿でそんな話をしたら、菅平は国立公園内にあるので、そうしたレストランは開業できないのだそうです。残念!
であれば、民宿は民宿らしく自家栽培、あるいは地元のおいしい御飯、みそ汁、漬け物の三点セットと、手間のかからない大皿料理いくつかで勝負したらと思いますが、如何でしょうか。これに持ち込み酒を許可して貰えれば完璧だと思います

以上

高齢スキーヤーが疲れないスキーを行うには

はじめに

再びスキーシーズンが巡ってまいりました。雪が消えると共に萎んでしまったスキーへの情熱が、雪の便りと共に再びムクムクと頭をもたげてきました。前回の投稿は昨シーズンが終った頃、“高齢スキーヤーが安全なターンを行うには”というテーマで以下の様な持論を展開いたしました;
① スピードを一定にして滑ること。また、スピードをコントロールするにはスキーのズレをうまく使うこと
② 筋力とバランス感覚が衰えた高齢スキーヤーには、腿を立てた滑降姿勢に合理性があること
③ スキーの性能を生かした所謂‟カービングスキー”のテクニックは緩斜面のみ!で駆使すること
④ 上記を理解して頂くために、滑降中のスキーヤーに働く力(重力雪面からの抵抗力遠心力)の説明をしました。尚、‟遠心力”とはスキーヤーが方向を変えることによって体感する架空の力で、物体の運動は力を加えない限り同じ方向・速度で進むという、高校時代に習ったニュートンの「慣性の法則」から来ているものです

これらを踏まえた上で、今回のテーマは怪我の原因の一つとなる“疲れ”の原因と、その対策について、簡単なシミュレーションを行ないながら論じてみたいと思います

疲れの原因

滑降中に姿勢を維持するだけで疲れてしまうことを防ぐ為に、前回の投稿では“腿を立てて滑る”ことの必要性を述べました。これから述べるテーマは、腿を立てた状態で滑ることを前提として、滑走中にどういう力が加わって、疲れに繋がるかを検証してみたいと思います

当たり前の事ですが、筋力が同じであれば体重が重い程疲れも増します。若い人はちょっと鍛えるだけで筋力を増強させることができるためにあまり問題とはなりませんが、高齢者にあっては筋力は年々衰えることはあっても、増すことは考えられませんので、筋力をあまり使わないで済む滑りを目指すことが重要であることは自明のことです
一方筋力は、最低限  体重を支えるため、及び ② バランスを維持するために必要となります。乏しい筋力で疲れない滑りを行うには、この①、②を地面を歩く、あるいはジョギングする程度に抑えることが必要になります

① については、静止していれば体重そのものですが、滑走していれば、体重プラス動的な力が加わります
② については、前後方向のバランスのズレ滑走速度の変化で発生し、これを修正するには,主として体の前面の大きな筋肉(脛の前の筋肉、大腿四頭筋、腹筋)を使う必要があります。バランスを取れないまま(後傾したまま)滑走を続けると、疲れの大きな原因になります。バランスのズレを早く感知できれば何のことは無いのですが、残念ながら高齢者はこの能力もかなり衰えてます
また、左右のバランスのズレは、スキーの横方向から擾乱を受けた時に発生します。ズレた結果、片側の足に加重が偏り、片足で体重を支え切れない(椅子に座った状態から片足で立てない)高齢者は、そのままズレた側に大木が倒れていくようにくずおれてゆきます。チョット見っとも無いですね!倒れる前に何とか堪えようとする時に脚はもとより、全身の筋肉が緊張し非常に疲れます。高齢者がバランスのズレを早目に感知できないのは前後方向のズレの場合と同じです

①、②がどの程度のものか、またこれを減らすにはどうしたらいいかについて、以下にシミュレーションを交え、簡単な説明を試みたいと思います

カービングターンの力学と疲れ

カービングターン
カービングターン

カービングターンのカービングとは、“曲がる”という意味の“Curve”ではなく、“彫るまたは彫刻する”という意味の“Carve”のことです。従ってカービングターンとは、読んで字のごとく、雪をスキーで彫りながら(スキーを雪に食い込ませながら)、極めてズレの少ない回転をすることを意味します。綺麗なカービングターンを行っているスキーヤーの滑ったうしろにはくっきりとした二本のレール状の軌跡が残っているのですぐに分かります

カービングターンは、スキー板の性能向上、具体的にはスキーの長手方向の捩り剛性の向上(航空機の翼に求められるの性能と原理的には同じ)とサイドカーブ(スキー板の横幅の部分の曲線)の強調によって可能となりました。しかし、一方においてこの性能を極限まで使う上級スキーヤーの肉体には過酷な荷重が加わることとなりました。因みに、ワールドカップクラスのスキーヤーにも過大な捩り荷重に伴う怪我が多発した時期もありました。また一般スキーヤーも、最も視界が狭まるターン途中に於いて高速滑降が実現できる(⇔上級スキーヤーにとっての快感の源泉!)こととなった為、最大傾斜線を越えた直後に突然視界に入ってくる一般スキーヤーやボーダーとの衝突事故が多発することとなりました

勿論、高齢スキーヤーは無謀にスピードを出すことは無いでしょうから、ここでは“疲れ”に関連するカービングスキーの性能について、大胆な!前提を置いて解析してみたいと思います

カービングターンを行った時の見かけの体重増=“脚にかかる荷重”についての計算;
前提;
① ターンに入る前の滑走速度:20キロ/時
② スキーヤーの質量:M
③ ターンの回転半径:r
ケース_: r =20メートル( ⇔ 普通に売られているオールラウンドのスキーでカービングターンを行った時の回転半径)
ケース_B : r =10メートル( ⇔ 回転競技用で売られているスキーでカービングターンを行った時の回転半径)

仮定(シミュレーションを簡単にするため)
④ ターンに入ると最大傾斜線を越えるまで重力の作用で加速し、その後減速して20キロ/時でターンを終了することとし、最大傾斜線付近の最大速度を30キロ/時と想定する(勿論、この速度は斜度及び雪面の状況により大きく変化しますので、あくまで仮定です)
30キロ/時 ⇒ 30x1000メートル ÷ 60分 ÷ 60秒 = 8.3メートル/秒
<参考> 徒歩:4キロ/時、ジョギング:7~10キロ/時、自転車:10~20キロ/時
⑤ 比較的緩やかな斜度を想定 ⇔ 雪面にかかる荷重がほぼ体重と同じと見做し得る

スキーヤーにかかる遠心力:C の計算;
遠心力:C=(質量:M)x(速度の2乗)÷(回転半径:r
ケース_:C = Mx8.3x8.3 ÷ 20 = Mx3.4
ケース_B :C = Mx8.3x8.3 ÷ 10 = Mx6.9
一方、スキーヤーにかかる重力:w は、
=(質量)x(重力加速度)= M x 9.8
重力、遠心力、脚にかかる荷重:W との関係は下図をご覧ください;

重力・遠心力・見かけの重力
重力・遠心力・見かけの重力の関係

重力遠心力脚にかかる荷重との間の関係は、ピタゴラスの定理を使えば;
W の2乗) =(w の2乗)+(C の2乗
となり、見かけの重力は、重力の2乗と遠心力の2乗の和の平方根の値になります

上記を基に、見脚にかかる荷重と、体を倒す角度:θ を計算すると;
ケース_A :W={(3.4x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x 10.4
重力脚にかかる荷重の比は:(M x 10.4) ÷( Mx9.8)= 1.06 ⇒ 体重が6%増えたと同じ
体を倒す角度:θ = arccos(1÷1.06)= 19° ( ← 三角関数の逆関数)

ケース_B :W={(6.9x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x 12.0
重力脚にかかる荷重の比は:(M x 12.0) ÷( Mx9.8)= 1.22 ⇒ 体重が22%増えたと同じ
体を倒す角度 : θ = arccos(1÷1.22)= 35°( ← 三角関数の逆関数)

上記のシミュレーションにより、カービングターンを行うと、次の様な高齢スキーヤーにとっては過酷な!状況が発生することが分かります;
* ターンを始めると最大傾斜線まで一気に加速します。高齢スキーヤーにとっては、この速度変化に伴う前後のバランスのズレを感知してから、筋肉が修正行動を起こすまでのタイムラグが大きいので、破綻する可能性が大きくなります
* ターンを始めて速度が変わっていくのに合わせて左右のバランスを維持するためには、体の傾き(上記の“θ”)を変化させていく必要があります。この傾きの補正が適正でなければ、左右の足にかかる荷重がアンバランスとなり、荷重が多くかかる足の負担が大きくなります。片足で自分の全体重を支えられなくなった高齢スキーヤーにとっては相当過酷な状況が現出します
* また左右の荷重バランスが崩れると、荷重が多くかかったスキーが雪に大きく食い込み(逆に荷重が減ったスキーの雪への食い込みが浅くなり)、結果として左右のスキーの回転半径を協調させることが困難 となり破綻するリスクが高まります(過去、私が高速で転倒して怪我を負ったのはこのケースだったと思っています)

展示用!カービングターン
展示用!カービングターン

上写真は、高速のカービングターンですが、上記のシミュレーションでわかる通り、速度を上げるか、回転半径を小さくするかで実現します。また、シミュレーションでは斜面の斜度を無視しましたが、急斜面で滑れば雪面に直角な方向の重力の分力は小さくなりますので、同じ速度、同じ回転半径でも体の傾き(“θ”)は大きくなります。
これほど体を傾けられれば、見た目は格好いいとは思いますが、足には体重の倍近い荷重がかかってくると共に、速度が早いのでバランスのズレに伴う破綻のリスクが相当高くなりますので、高齢者にはとても薦められないスキースタイルだと思われます

外向・外傾ーンの力学と疲れ

外向・外傾ターン
外向・外傾ターン

上の写真は、今から丁度30年前に撮影された私のスキー仲間の集団滑降写真です。この頃はカービングスキーが市場に登場する前で、上級者と言えばスキーのズレを自在に操り、所謂“外向・外傾”のターンを完璧に体現している人々でした。“外向”とは、スキーの進行方向に対してやや外側に向く姿勢の事です、また“外傾”とは、チョット分かり難いかもしれませんが、雪面に対して身体全体がバランスを保っている“軸”よりも上半身(あるいは“膝より上”⇔ショートターンをしている場合)を回転の外側に傾けているということを意味します。これは、スキーヤーの前方、乃至後方から見ると、平仮名の“く”の字に見えることから、“くの字姿勢”とも呼ばれていました。上の写真(外向・外傾ターン)でもターンの途中で“くの字姿勢”が良く見て取れると思います。因みに、展示用!カービングターンの写真には、全くこの姿勢が入っていません

外向”の姿勢は、ターンする方向に予め体が向いているので、結果としてターンの先行動作となっていること、また、ターンのスピードをコントロールする為にスキーをズラす時、体がスキーの進行方向を向くためにズレをコントロールすることが容易になると考えられます。一方、“外傾”の姿勢は、“くの字”姿勢の“く”の角度を変えることによって横からの擾乱に対するバランスが容易になると考えられます

次に外向・外傾ターンについて以下に簡単なシミュレーションを試みてみようと思います;
カービングターンのシミュレーションの時に使った前提の ①~③、及び仮定の ④ は外向・外傾ターンも同じとします
仮定のは、スキーをズラすことによって回転している間は速度を変えないこととしますので、ターンに入る前の20キロ/時をターンの終わりまで維持することとします。従って、
④’ 20キロ/時 ⇒ 20x1000メートル ÷ 60分 ÷ 60秒 = 5.6メートル/秒

遠心力:C’は、
ケース_A’ : C’ = Mx5.6x5.6 ÷ 20 = Mx1.6
ケース_B’ : C’ = Mx5.6x5.6 ÷ 10 = Mx3.0

以上より脚にかかる荷重 :W’ と体を倒す角度:θ を計算すると;
ケース_A’ : W’={(1.6x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x9.9
重力との比は:(M x 9.9) ÷( Mx9.8)= 1.01 ⇒ 体重が1%増えたと同じ
体を倒す角度:θ’ = arccos(1÷1.01)= 8° ( ← 三角関数の逆関数)

ケース_B’ :W’={(3.0x質量)の2乗+(9.8x質量)の2乗}の平方根 ⇒ M x 10.2
重力との比は:(M x 10.2) ÷( Mx9.8)= 1.04 ⇒ 体重が4%増えたと同じ
体を倒す角度:θ’ = arccos(1÷1.04)= 16°( ← 三角関数の逆関数)

簡略化したシミュレーションにより、外向・外傾ーンはカービングターンに比べて、足にかかる荷重:W’と、体の傾き:θ’が、高齢スキーヤーにとっては優しいことが分かります。また、“くの字”姿勢の“く”の角度を変えることによって横からの擾乱に対するバランスが容易になり、結果としてターン中の転倒のリスクを低減させることが可能と考えられる点も高齢スキーヤーに優しいのではないでしょうか、、、

高齢者の皆さん、昔すいすい滑っていた外向・外傾ターンで颯爽とゲレンデを闊歩しましょう。また緩斜面では、習い覚えたカービングターンを駆使して若い女性ボーダーを追い越していきましょう!

以上

 

高齢スキーヤーが安全なターンを行うには

-高齢スキーヤーの身体的な特徴と滑走姿勢について-

歳を取ると誰でも自覚することは;
1.下半身の筋力が思いのほか弱くなっていることです。特に私の様に日頃運動と言えば散歩だけという人は、膝を深く曲げた状態から片足で立ち上がるのは難しくなっているのではないでしょうか
2.バランス感覚が相当鈍ってきていることです。目をつぶって片足で立っていられる時間が若い時代に比べると著しく短くなっていることは統計が示している現実です。これは ①バランスのズレを感知する足裏の感覚が鈍っていること、及び ②バランスを瞬時に修正する為に必要な反射神経が衰えてきている為と思われます

こうした身体的なハンディキャップを前提とした上で、高齢者が楽しく安全なスキーを行うには、競技スキーヤー、デモンストレーター、若者たちが滑っているスタイル、これは全日本スキー連盟が推奨している「中間姿勢–下図 A」 ですが、これよりも「腿を立てた姿勢–下図 B」の方が合理性が高いと思われます;滑降姿勢_小茂田

 

中間姿勢–上図 A」は上級者として必要な、①斜面の不規則な凹凸に脚部(腿と脛)の伸縮で対応できることと、②斜面から受ける力の作用点となるブーツと、重心(身体の臍あたりか?)との距離が短く、スキーの横方向からの不規則な力(⇔こぶを滑る時、荒れた雪面を滑る時、高速で滑る時)に対してバランスを維持しやすいことから、合理性の高い滑降姿勢だと思われます。

しかし高齢者にとっては、この姿勢は維持するだけで体力的に消耗し、長時間滑ることはできません。一方、高齢者は上記①、②を必要とする滑りをしていいのでしょうか?否!であります。高齢者のスキーヤーは、怪我のリスクを避け、晴天に恵まれた踏みならされた中斜面を颯爽と滑り(できれば若い女性のボーダーを追い越していくスピードで、、)、ゲレンデでの冒険よりは、夜の温泉と酒と放談に命をかけるべき?ではないでしょうか。この様な滑りには「腿を立てた姿勢–上図 B」が断然有利です。体重は腿に力を入れなくてもブーツの真上にあり、なんといっても高い姿勢の滑りは、低速で滑っても颯爽としています。

-高齢者の合理的なターンの方法-

スキーの滑走技術の中で最も難しいのは「谷回りターン」です。大袈裟に言えば、このターンを完璧にこなせれば一級取得も可能と言える程です。谷回りターンとは以下の様なターンのことです:

谷回りターン_小茂田作成

 

このターンの難しいところは、スキーを滑らせる方向が最大傾斜線に向かっていくにつれ、正しいスキーの操作を行わないと速度が急に増加して身体のバランスを崩してしまうことにあります。バランス感覚が鈍っている高齢スキーヤーとっては、この滑走速度の急激な変化は鬼門です!以下は、高齢者がこの谷回りターンを安全、且つ簡単に行うための一つのアイデアです。キーは滑走速度を如何に一定に保つかです

<滑走に関わる初歩の物理学(ニュートンの法則!)>
簡単のため高速滑走を想定しないことから以下の前提を置くこととします;
① 空気抵抗を考慮しない
② スキーの撓み(たわみ)、捩じれを考慮しない

滑走中に考慮しなければならない物理的な要素は;
重力(体重+ブーツ、スキーなど)
雪面から受ける力: スキーの進行方向と逆方向に「スキーの向き」、「体重」、「雪面の状態」や「滑走速度」に応じて発生します
遠心力: スキーがターンしている時に、進行方向に直角な方向に感じる力(正確に定義すると、スキーの進行方向を変える為に加えた力の“反作用”です)。力の大きさは速度の二乗に比例し、ターンの半径に反比例(急激なターンほど大きな力となる)します
滑走速度

A.簡単のため、まずターンをしていない時(直滑降、斜滑降)の力のバランス、速度との関係を考えます;

滑走時の力関係図_1

滑走に必要な推進力は重力の斜面傾斜方向の分力“F”です。斜面に垂直な分力はスキーを斜面に押し付ける力になっています。
雪面から受ける力“D”は、“F”と反対方向に向いています。この時必ず以下の関係が成立します;
F>D: 滑走速度は増加します(加速)
F=D: 滑走速度は一定に維持されます
F<D: 滑走速度は減少します(減速)

 B.次にターンをしている時の遠心力と重力の関係を考えます;

滑走時の力関係図_2

ターンをしている時は、滑走速度とターンの半径で決まる“遠心力”が身体の重心部分に作用します。この力とバランスするように体をターンの内側に傾けます。身体の傾ける角度は、傾けることによって生まれる“重力の分力”が丁度“遠心力”と一致するところまでになります(⇔数百万年前に直立歩行を始めた人間はこのバランスをあまり意識せず行なうことができます)

C.最後にスキーを斜めにズラすことによって、雪面から受ける力“D”滑走速度について考えます;

滑走時の力関係図_3

 スキーをズラさない時(直滑降、斜滑降)は、スキーは雪面からの抵抗が重力による推進力と等しくなるまで加速します(⇔滑走速度をコントロールできない!)
これに対して、スキーをズラすことができれば、スキーが雪面から受ける力がズレる角度“θ”によって変化する(“θ”が大きいほど雪面から受ける力が大きい)ことを使うことにより、自分が望む任意の滑走速度で滑ることが可能となります

-高齢者にも安全な谷回りターンの習得法-

上記のA、B、C、の原理を使うことにより、難しい谷回りターンを行なう時ににも、高齢スキーヤーにとってもバランスの維持が容易な「滑走速度一定」の谷回りターンが可能になります。ただ、スキーヤーはターン(⇔重力の分力によるスキーの“推進力”が変わっていく)をしながら滑走速度を一定にするスキー操作が出来なければなりません。この“技” (ズレを自在にコントロールする技)は以下のスキー操作を反復練習することによって容易に習得することが可能と思います;
① 滑走速度が一定となる様にズラス角度“θ”をコントロールする練習(色々な斜度で同じスピードで滑れるようにする ⇔ 斜度に応じて“θ”を変える)
斜滑降から谷に向けて浅い角度でスキーを回し、一定の幅でスキーをズラせて滑り続ける練習( ⇔ スキーが谷の方に向くに連れ加速していくことを体得する)
尚、ターンをする時に遠心力に見合うだけ体を内側に傾けることが必要となりますが、これは前段で説明したように人間が本能的に行なうことができるバランス感覚なので、特段の練習の必要はないと思います。

こうした操作を行った結果としての「安全な谷回りターン」の軌跡を描いてみると下図の様になります(滑走するスキーヤーを上から見た図);

滑走時の力関係図_4

上の図でポイントとなるのは「ニュートラル」の部分ですが、これはスキーの真上に乗った状態(雪面に対して直角で、且つスキーをズラせていない状態)で、ごく短時間のみ実現可能となる状態です。この「ニュートラル」の状態から重心を谷川の方向にシフトさせつつ、スキーを半時計周りにズラせば「谷回りターン」が始まります。因みに上の図で時計回りにズラせば「山回りターン」となり減速して、いずれ停止状態になります。

この「谷回りターン」の方法は、所謂「カービングターン/Carving Turn」とはかなり違う滑り方になります。理想的な「カービングターン」では、スキーを「撓ませ、傾けることにより出来る曲線」とスキーの「サイドカーブの曲線」とで決まるラインに沿って、スキーをズラさないで滑る技術で、エネルギー損失の少ない滑り(つまりスピードが出せる滑り)が可能となり、筋力が大きく、スピードに強い上級者にとって非常に快感のある滑りが可能になります。スキーの性能もこの技術が容易に発揮できる所謂「カービングスキー」が一世を風靡することとなりました。
しかし、この滑りは必然的にスキーの滑走速度の増加、及び速度の変化率が大きくなってしまうこと、またこれらが斜面の斜度、及びスキー固有の回転半径(←スキーの曲げ剛性と捩り剛性、及びサイドカーブの形状で決まる)で決まってしまいますので、安全速度を守る必要のある高齢スキーヤーにとっては、転倒のリスクが高くなる滑り方になります。私自身も高速ターンをしている時に転倒し、肋骨と膝に相当なダメージを受けた経験があります。ただ、この滑り方は相応の快感がありますので、緩斜面での実施は高齢スキーヤーにとってもお勧めです!

スキーを長くやっている上級者の方々はご存知のことと思いますが、ズラしを積極的に活用するスキー技術は、既に大昔に「オーストリアスキー教程」で教えていた技術です。この時代のスキーは、ズラさねばうまくターンできない代物であったこともその背景にありました。
1990年代に入ってからだと記憶していますが、「カービングスキー」が登場し、ズラして滑ることがむしろ格好悪いという風潮すら生まれたように思います。結果として“格好良さに命を賭ける”ベテランスキーヤーは「カービングターン」という新たな技術へのチャレンジと、増大する怪我のリスクに直面することとなりました。最近になってゲレンデでの転倒事故や衝突事故の多発から、ようやくスピードの制御に目が向けられるようになりました。スキーもズラし易い性能のものが売られるようになりズレズレターン!の復権も間近いのではないでしょうか、、、

以上

豪州産“大男”と日本産“老人”が衝突した時に何が起こるか

小金持ちの高齢者スキーヤーが好むスキー場に、ニセコやルスツのスキー場があります。これらのスキー場で共通しているのは、中斜面(急斜面でもなく緩斜面でもない)の長いコースが沢山あり、しかも雪質が良好なことです。一方、豪州製“大男”のボーダーもこうした斜面が大好きです。何故ならあまり転倒のリスクを感じずにスピードを上げて滑ることができるからです。

スキーヤーは、基本的に斜面下方を注視しながら大回り(斜面横方向に進む)や、小回り(斜面縦方向に進む)で滑降します。

一方ボーダーは横方向の滑り(大回り)の連続で、体が斜面下方を向いている時の視界はスキーヤーと一緒ですが、体が斜面上方を向いている時は、いくら首を捻じ曲げても斜面下方及び進行方向の反対側の視界は得られません(つまりターンした先の状況を予め予測できない)。また、ボーダーの進行方向の操作は、両足が一つのボードに固定されている為、重心の移動を先行させなければターンの始動は出来ません。一方、スキーヤーのターンの操作は膝下のスキー操作で瞬時にターンの始動を行うことができます。

こうした特徴を踏まえると、ボーダーとスキーヤーの衝突は以下のパターンで発生すると考えられます:ボーダーが斜面上方を向いた姿勢で、スキーヤーより後方から高速で滑って来て背中側にターンした時に以下の状況が生まれ、衝突に発展すると考えられます;

① ボーダーからはスキーヤーが背中側に居るため認識できない
② スキーヤーの視界は斜面下方に向かっており、後方からくるボーダーを認識できない

こうした状態で起こる衝突の典型的なパターンは以下の三つのケースになります;

A.双方曲がった直後に正面衝突するケース
B.スキーヤーが下を向いて滑っている時に横からボーダーが突っ込むケース
C.同じ方向に曲がったものの、スキーヤーよりボーダーのスピードが速い為に追突してしまうケース

ケース_C の衝撃は、ケース_A、Bよりも当然小さいので、ケースA、Bについて、簡単な衝撃の程度を見積もってみたいと思います。

<簡単な衝突のシミュレーション>

私の数多くの目撃経験を参考に、以下の仮定を置いて簡単なシミュレーションをしてみたいと思います;

1.豪州産“大男”ボーダー:体重/M:100キログラム、滑走速度/V:時速36キロ(斜面横向き) ⇒ 秒速10メートル
2.日本産“老人”スキーヤー:体重/m:50キログラム、滑走速度/ⅴ/時速20キロ (斜面横向きに滑走/ケースA ; 斜面下向きに滑走/ケースB)⇒ 秒速5.56メートル
3.衝突した後は二人が団子状になってぶっ飛ぶ!(⇔ 跳ね返らない。例えてみれば粘土の団子がぶつかって一体となるイメージ)
4.ぶつかる瞬間の過渡的な経過時間 :Δt ⇒ 勝手に0.1秒と仮定

使用する物理法則:運動量保存の法則

衝突後の豪州産“大男”ボーダーの速度:、衝突後の日本産“老人”スキーヤーの速度:v´とすれば;

MxV + v = M x V´+ x  v´

仮定_3から ⇒ V ´= v´(衝突後一体となる)

従って ⇒ V´ =( MxV + mxv)÷(M + m)

 

ケースAの場合( V と v の進行方向が逆であることに注意);

V´= (100 x 10 - 50 x 5.56)÷(100 + 50)= 4.81メートル/秒(ボーダーの進行方向)

豪州産“大男”ボーダーが感ずる加速度

(V - V´)÷ Δt = (10 - 4.81)÷ 0.1 = 51.9メートル/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向は変わらない)

⇒ これを重力加速度で割れば;  51.9 ÷ 9.8 = 5.3G(重力の5.3倍

 

*日本産“老人”スキーヤーが感ずる加速度

(v + V´)÷ Δt = (5.56 + 4.81)÷ 0.1 = 103.7/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向が逆になる)

⇒ これを重力加速度で割れば、103.7 ÷ 9.8 = 10.6G(重力の10.6

 

ケースBの場合(横方向の速度はゼロ ⇒ v= 0 )

V´= (100 x 10 - 50 x 0 )÷(100 + 50)= 6.67メートル/秒(ボーダーの進行方向)

*豪州産“大男”ボーダーが感ずる加速度

(V - V´)÷ Δt = (10 - 6.67)÷ 0.1 =33.3/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向は変わらない)

⇒ これを重力加速度で割れば、33.3 ÷ 9.8 = 3.4G(重力の3.4倍

 

*日本産“老人”スキーヤーが感ずる加速度

(v + V´)÷ Δt = (0 + 6.67)÷ 0.1 = 66.7/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向はボーダーの進行方向で斜め下向き)

⇒ これを重力加速度で割れば、66.7 ÷ 9.8 = 6.8G(重力の6.8

 

ケースA、B共に日本産“老人”スキーヤーは相当なダメージを受ける(骨粗しょう症の人は骨折してもおかしくない加速度;またこの高い加速度で頭が振られると、脳出血を起こす可能性もある)のに対し、ボーダーはあまり大きなダメージを受けないことが分かります。これは体重の差がダメージに大きく関係することを意味します。自動車と人間が衝突した時のことを想像すれば割と簡単に納得できますかね!

 

<衝突による怪我のリスクを避けるには>

本来ボーダーとスキーヤーは一緒の斜面で滑らないことがベストですが、最近のスキー場は殆どボーダーを制限すると若者から嫌われることから、ボーダーとスキーヤーが同じ斜面で滑らざるを得ない状況になっています。また、私の周りには高齢になってもスキーを楽しむ輩が多く、この人達はテストステロン(男性ホルモン)の分泌が多く、女性ボーダーと一緒に滑ることを好む様です(困ったもんです!)

従って、こうした現実を踏まえつつ、高齢スキーヤーの衝突による怪我のリスクを下げるには、以下のことを常に意識して滑ることが肝要かと思われます;

① ボーダーを追い越す方が追い越されるよりリスクが少ない
② ボーダーを追い越す時には、ボーダーの視界に入ってから追い越す
③ ボーダーに追い越される速度でゆっくり滑る時は、できるだけゲレンデの端っこを滑る(真ん中をゆっくり滑る場合に比べリスクを1/2にできる)
④ 体重のありそうなボーダー、スピードを追及しているボーダーには絶対近づかない

以上

高齢スキーヤーの必須安全対策

高齢スキーヤーの一般的なウィークポイント;
①転倒は著しく体力を消耗させる
②転倒による頭部の打撃は脳出血を起こしやすい
③筋力が弱い⇒バランスを崩すと転倒する、平地で転倒すると介助がないと起き上がれない
④衝突は大事に至りやすい
⑤注意力が散漫になる

如上を踏まえると、高齢スキーヤーは以下の安全対策が必須となる;
1.必ずヘルメットを着用する(頭部の保温効果が大きく脳卒中のリスクが下がる)
2.バランスを確保しやすいスピードを保つ⇒高速滑走厳禁、急斜面・こぶ斜面滑降厳禁
3.バランスを確保しやすい滑降姿勢を保つ⇒腿を立て、上半身のみによる重心移動を容易にする
4.滑降しやすい雪質を選ぶ⇒悪雪(湿雪、アイスバーン)滑降厳禁
5.疲れを感じる前にあがる
6.必ずグループで行動する