「生成AI」をちょっと勉強してみました

はじめに

最近、新聞・テレビ・ネットのニュースなどで「生成AI」や「ChatGPT」という言葉が頻繁に登場していることはご存知方が多いと思います。IT用語の一つであることは分かりつつも、それが近い将来どの様に我々の生活に関わってくるか、私を含めよく分からない人も多いのではないでしょうか? そこで素人なりにちょっと勉強してみる事にしました
以下に、その勉強結果をご披露してみたいと思います。参考になれば幸いです

生成AI の理解に必要なIT用語

まず、生成AIを理解するのに必須と思われる以下のIT用語の意味について調べた結果を簡単に報告してみたいと思います
1.AIの意味
これは殆どの人がご存知と思いますが、Artificial(人工的な) Intelligence(頭脳)の頭文字を取った造語で、20世紀後半から欧米の科学者によって研究が始まりました。従って、AIという言葉の起源は欧米発と考えてよさそうです
それまで人間の知能の象徴であった「数値の計算」が、第二次世界大戦中の解読不能といわれたドイツの「エニグマ暗号機」解読の為に英国のアラン・チューリングが開発した計算機(真空管を使用)が、その後半導体の発明・普及によって、急速に高速化・小型化・低価格化が進み、今では人間のあらゆる分野の知的活動を機械化できると多くの科学者が思い始めています

2.生成AIの「生成」の意味、ChatGPTの「GPT」の意味
「生成」とは文字通り「何かを生み出す」という意味です。一方、「GPT」は英語の「Generated Pre-trained Transformer」の頭文字を取った造語です。私流に意訳すれば「予め訓練(学習)させることにより生成する言語変換装置」になるかと思います
これが、具体的に何をする装置かといえば「ある言語による質問(⇔数式とかプログラムによらず)に対する答えを、膨大なデータから選び出し、言語による回答を導き出す装置」と言う事ができると思います
こんな事は、コンピューターを使えば簡単ではないか?と思われるかもしれませんが、言語を理解すること、新しく言語を作り出すことはコンピューターにとっては極めて難しいことなんです。言葉というのは同じ意味であっても「方言」もあれば「別の言い方」もあれば「微妙なニュアンスの違い」もあります。また書き言葉でも「文体の違い」、「言葉の選び方の違い」、「文法的でないことば」など多々違いがあることは普通です。こうしたことがあっても普通の大人は一度聞くだけでその意味を理解し、その答えを言葉で表現できます。これは子供時代からの長い経験と学習によって身につけているからです(⇔Pre-trained)
コンピューターは人間の様な時間を掛けた経験は無いものの、保存されている膨大なデータから超高速で学習し(⇔Pre-trained)、統計的に最も適切な言葉を瞬時に選び出します。選び出す手段として「Deep Learning」という手法をつかいます

尚、ChatGPTの「Chat」の意味は、このシステムは人間とコンピューターが言語を使って質問と答えを繰り返して、質問者が求める答えを導き出すことから「気軽な雑談、おしゃべり」の意味の「Chat」を付加したものと思われます

3.Deep Learning(深層学習)
見出しの絵を使って説明すると、人間が目を通じて「猫」と認識するのは、生まれてからの長い経験で、目から入った色々な情報(例えば「ピンとしたひげがある」、「すばしっこい」、、、)や耳から入った色々な情報(例えば「ミヤ―となく」など)を総合して、「恐らくこれは猫」だと判断しています。この判断の過程で使われる脳内の構造は極めて多数の脳神経(人間の場合、一般にその数は140億個と言われています)が網の目の様な構造(Neural Network/神経回路網)を通じて電気信号で情報を交換し、この情報が長い経験で蓄積され、判断の根拠となっています。我々では「猫」としか答えられないのに対し、猫好きの人はどういう種類の猫かも分かると思いますが、それは経験の差情報量の差であるということが出来ます
コンピューターが行う「Deep Learning」もほぼ同じ構造(見出しの絵の「中間層」をコンピューター内に作り、膨大な情報をここを経由させ判断のルール」をコンピューター内部に作らせますこのルールがどうなっているかは利用する側は分かりません

現在「Deep Learning」の手法を使って実用化されているシステムには以下の様なものがあります;
① 画像認識
画像を入力して、その特徴を中間層で構造化し、それが何の画像なのかを判断します。手書き文字認識顔認証Web上の検索医療検査自動運転などが応用範囲です
② 音声認識
音声を入力として、テキストとして出力したり、発声している人を識別したりします。スマートスピーカーバーチャルアシスタントとして既に活用されています(Appleが提供するSiriなど)
また音楽の分野で作曲まで可能と言われているのは、音声認識と同じ様に、好きな音楽のジャンルや作曲者のデータを沢山読み込ませれば、その中に存在するある種のルールを見つけ出し、似た様な楽曲を作る出せることも理解できます
③ 自然言語処理
人間が日常的に使う言語(書き言葉・話し言葉)をコンピューターに処理・理解させる技術です。既に、自動翻訳ブラウザーの検索コールセンターでの問い合わせ対応などに活用されています。以下に説明する「大規模言語モデル」もこうした技術の発展型といえます
④ 異常検知
ロボットなどに取り付けられたセンサーから得られるデータから、過去のデータと比較して異常の兆候があるかどうかを判断します。製造現場などによる故障や異常動作の検知などに活用されています
⑤ その他
囲碁や将棋の世界においてプロ棋士と対等に戦えるAI金融トレーディング(投資タイミングの判断)などの分野でもディープラーニングが活用されています

4.Large Language Models(LLM大規模言語モデル
「生成AI」というシステムは、「Deep Learning」の手法を使って作られているシステムです。ブラウザーの検索、コールセンターでの問い合わせ対応などの範囲ではそれ程高度なシステムは必要ありませんが、高度で、複雑な言語を使いこなせるシステムには最先端の高速処理能力を持ったコンピューターと、言語知識の土台となる膨大な量の言語データベースが必要になります。こういうニーズに応えて開発されたシステムが「LLM大規模言語モデル」です
高速な処理能力を持ったコンピューターは、お金さえあれば買うことが出来ますが、膨大な量の言語データベースを利用するにはお金だけでは解決しません。現在これを可能にしている企業は、巨大なクラウドを世界規模の膨大な数の顧客に提供している、巷間「GAFAM/ガーファム」と言われている Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft などの米国発の巨大企業のみと思われます

ただこの様な、ある意味人間の能力に勝るシステムは、悪用されると深刻な被害が発生するリスクが伴いますので、それなりの安全な仕組みの構築が必要となります
尚、最近日本においてもこうした言語モデルの開発を目指す企業が出てきてはいますが、GAFAMに対抗するには巨大なクラウドの構築が必要であり、現実的にはこれは不可能なので、日本国内での利用、あるいは用途を限ったモデルの開発を目指している様です
<参考>
*2023年4月_「AI進化、人類の真価問う 比類なき言語能力10年で獲得
*2023年4月_「ChatGPTに金融界も注目 生成AIで顧客対応を効率化
*2023年6月_「NTTが生成AI開発 金融や医療向け、米大手より低コスト
*2023年6月_「生成AI開発・GAFAMとの競争、政府が支援を

*Follow_Up:2023年6月_「ソフトバンクが生成AI開発し企業に提供、スパコンも整備
*Follow_Up:2023年7月_「NEC、生成AI提供 法人用に来月から_売り上げ500億円目標
* Follow_Up:2023年7月_「チャットGPT、塾で活用
* Follow_Up:2023年7月_「生成AIサービスが続々、法律相談や英会話、業務を代替
* Follow_Up:2023年8月_「関西の自治体、生成AI活用へ動く 大阪市は秋に指針策定
* Follow_Up:2023年8月_「契約書のAI審査容認 法務省が指針_適法範囲を明示 企業、利用しやすく
* Follow_Up:2023年8月_「生成AIで企業の7割時短_NECやAGC人手不足で浸透_主要100社調査
* Follow_Up:2023年8月_「ChatGPTで欲しい回答を引き出すには?/追加質問のコツ

試しにちょっと生成AIを使ってみました!

生成AIについて何かを語るには、使って見なければ実際の所は分かりません。勿論、高度な使い方は私には無理ですが、「な~るほど!」程度には理解できるようにトライしてみました
1.現存の3つの生成AIの初期画面の比較
何れも初期画面は極めて似ていることが分かります
① ChatGPT
ネット上でこのシステムの無料版(ChatGPTのversion3.5です)を導入すると、以下の様な画面が出てきます;

この画面の下にある空欄に質問事項を入れると、ChatGPTの回答が表示されます。この回答に対して追加質問をすればまた次の回答が返されてきます。こうした一連の質問と回答の記録は、左にあるフォルダーに収納されます。フォルダー名は最初の質問の一部が表示されます

② Bing AI
Microsoft社は、ChatGPTを開発したOpen AI社に100億ドルもの出資を行って同社とのパートナーシップを結んでおり、ChatGPTと同等のBing AIというシステムを開発しています。このシステムを導入すると以下の様な画面がでてきます;

この画面の下にある空欄に質問事項を入れると、ChatGPTと同様の回答が表示されます。但し、ChatGPTの様なフォルダーの表示はありません

③ Bard AI
Google社は、未だ試験運用中の段階ですがBard AIというシステムを開発しています。このシステムを導入すると以下の様な画面がでてきます;

Bard AIはChatGPTやBing AIと違って「LaMDA」と呼ばれるGoogle独自のモデルを使用しており、多くの場合に、回答の文字数が比較的少ないと言われています。しかし近い将来、より高度なデータセットである「PaLM」に移行する予定だそうです

2.同じ質問に対する3つのAIの回答を比較してみました
質問 A(医学関連)「動脈瘤の手術中の事故で、右足が完全麻痺」の因果関係が分かりません?
<ChatGPTの回答>
私は非常に遺憾ですが、特定の医療ケースについての具体的な情報や事例を持っていません。私はGPT-3.5モデル(2022年11月に公開)であり、2021年までの情報をベースにトレーニングされておりますので、2021年9月以降に発生した出来事については把握しておりません。そのため、特定の手術や医療事故に関する最新の情報は提供できません。
一般的に、動脈瘤の手術中に足の麻痺が生じる場合、以下のような可能性が考えられますが、これらは一般的な情報であり、個別のケースには当てはまらない場合もあります
術中の神経損傷: 手術中に周囲の神経が損傷を受けることがあります。動脈瘤の手術では、血管をクリップやコイルで閉塞するために周囲の組織や神経にアクセスする必要があります。これらの手順によって、神経が損傷を受け、麻痺が生じる可能性があります

<Bing AIの回答>
「動脈瘤の手術中の事故で、右足が完全麻痺」の因果関係については、一般的には、手術中に起こった事故が原因であると考えられます。ただし、詳細な症状や事故の内容によって異なる場合があります
手術中に起こった事故としては、例えば、手術器具の誤使用や、手術中に起こった出血などが考えられます。また、手術中に脳への血流が不十分になった場合には、脳梗塞や脳卒中などの合併症が生じる可能性があります
ただし、動脈瘤の手術自体にはリスクが伴うため、事故が原因であるとは限りません。動脈瘤の手術におけるリスクとしては、例えば、麻酔の合併症や、手術後の感染症などが挙げられます
以上を踏まえて、より詳細な情報を知りたい場合には、担当医師や医療機関にお問い合わせいただくことをお勧めします
詳細情報:1. doctor-agent.com、2. jll.co.jp、3. kompas.hosp.keio.ac.jp

<Bard AIの回答>
大規模言語モデルとして私はまだ学習中であり、そちらについてお手伝いできる機能がありません

質問 B1(日本の古典文学関連)和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」の技法、解釈、作者は?
<ChatGPTの回答>
この和歌は、「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」という内容です。以下に、この和歌の技法、解釈、および作者についての情報を提供します
技法: この和歌は、「五七五七七」という、日本の伝統的な詩形である「短歌(たんか)」の形式に従っています。短歌は、5つの音(モーラ)で始まる第1句(上の句)、7つの音で始まる第2句(下の句)、そして再び5つの音で始まる第3句(上の句)、7つの音で始まる第4句(下の句)、最後に7つの音で始まる第5句(下の句)という構造を持ちます
解釈: この和歌は、愛情や思いやりの大切さを表現しています。詳細な文脈がないため、解釈は個人の見解に依存する部分もありますが、一般的には以下のように理解されます
「からごろも(枯れ葉や寂しいもの)きつつなれにし(厳しい状況に慣れた)つましあれば(貧しさや簡素な暮らしでも)はるばるきぬる(遠い道を進んでくる)たびをしぞおもう(その旅を思う)」
この和歌は、困難な状況や苦難にも関わらず、相手との絆や愛情を大切にすることの重要性を表現しています。作者は、逆境や試練に直面しても、遠くから愛する人との再会を心待ちにしている人の気持ちを描いていると解釈されることがあります作者: この和歌の作者は、平安時代の歌人である藤原定家(ふじわらのさだいえ)が有力視されています。藤原定家は、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて活躍した歌人であり、多くの和歌を詠みました。しかし、和歌の作者を特定するのは難しい場合もあり、確定的な情報がないこともあります
赤字の部分は間違いですね!、また技法については知識がないように思います

<Bing AIの回答>
和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、平安時代の歌人、在原業平(1021年-1086年)によって詠まれた和歌です
この和歌は、唐衣(からごろも)を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものです
また、この和歌は、かきつばたという花をモチーフにしており、各句の頭文字を取ると「かきつはた」となります
以上を踏まえて、和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、唐衣を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものであり、かきつばたという花をモチーフにしています
受信したメッセージ. 和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、平安時代の歌人、在原業平(1021年-1086年)によって詠まれた和歌です。 この和歌は、唐衣(からごろも)を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものです。 また、この和歌は、かきつばたという花をモチーフにしており、各句の頭文字を取ると「かきつはた」となります。 以上を踏まえて、和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、唐衣を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものであり、かきつばたという花をモチーフにしています
詳細情報:1. manapedia.jp 2. wakadokoro.com 3. ja.wikibooks.org
立派な回答だと思います!

<Bard AIの回答>
和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、古今和歌集に収録されている在原業平の歌です。この歌は、唐衣を着慣らした妻が留守の間に、遠くへ旅に出た夫が、妻を恋しく思う気持ちを詠んだ歌です
この歌の技法としては、まず、畳みかけるようなリズムがあります。最初の三行はすべて七音で、最後の行は五音で終わっています。このリズムは、歌の切ない気持ちを効果的に伝えています
また、この歌には、妻と夫の愛情を象徴する言葉がいくつか使われています。まず、「からごろも」は、唐から伝わった高価な衣服です。この衣服は、妻の美しさと高貴さを象徴しています。また、「つま」は、妻のことです。この言葉は、夫の妻への愛情を表現しています
この歌は、妻と夫の愛情を切なく詠んだ歌です。この歌は、古くから多くの人々に愛され、歌い継がれています
そこそこ立派な回答だと思います!

質問 B2(日本の現代文学関連)
① 大江健三郎の評価?
② 大江健三郎の反原発の言動には原子力に関する基礎的な知識に欠けていると思いますが如何?
③ 大江健一郎の著作である「広島ノート」では、放射能の脅威を強調するあまり、結果として被爆者の内、後遺症の無い人々にいわれのない差別を生んだのではないでしょうか?
<ChatGPTの回答>
 大江健三郎は、日本の現代文学界で最も重要な作家の一人であり、数多くの文学賞を受賞しています。彼は、戦後日本を代表する文学運動である「抒情派」の一員として、その才能を発揮しました。彼の作品は、自伝的な側面があり、家族や子供たち、人間関係、政治、文化、歴史など、多様なテーマを扱っています
また、大江健三郎は、その作品において、言葉の力や構造を大切にしていることでも知られています。彼の文体は、独自のリズムや音韻を持ち、多層的な意味を表現することができます。そのため、彼の作品は、文学的価値が高く、多くの読者や批評家から高く評価されています
一方で、彼の政治的立場や発言については、賛否両論があります。彼は、左翼的な政治的立場をとり、社会の問題点や不平等に対する批判を行ってきました。しかし、その一方で、彼の一部の発言が物議をかもすこともあります
大江健三郎の反原発の言動について、彼の原子力に関する基礎的な知識についての評価は人によって異なるでしょう。一般的には、彼は原発に対して批判的な立場を取っており、その主張は彼自身の個人的な信念や政治的な立場に基づいているとされています
ただし、確かに彼の発言や文章には科学的な正確さや詳細な知識が欠けていると指摘されることもあります。彼の言動は、より広範な社会的・文化的・倫理的な問題に焦点を当てたものであり、科学的な観点からの詳細な議論や分析を提供するものではありません
原子力に関する議論は非常に複雑で専門的な分野であり、その評価や意見形成には科学的な知識の習得が必要です。一般的な人々や作家が完全に科学的な専門知識を持っていることを期待するのは難しいでしょう
ただし、作家や知識人が社会的な問題について自身の見解を表明することは、その立場や視点から重要な寄与をすることがあります。彼らの発言や行動は、社会的なディスカッションや意識形成に影響を与える可能性があります。重要なのは、複数の情報源や意見を総合的に考慮し、自己判断を行うことです
したがって、大江健三郎の反原発の言動に対して、彼の知識や科学的な正確さについて懐疑的な見方をすることは理解できますが、彼の立場や主張には個別の視点や文学的な価値が含まれていることも認識する必要があります
 「広島ノート」は、大江健三郎が被爆地である広島を訪れた際の体験や考察を綴った作品です。この作品において、彼は放射能の脅威や原爆被害の深刻さを強調しています
ただし、「広島ノート」によって被爆者の内後遺症の無い人々に対して差別が生まれたとまで言うのは、一概には言えません。大江健三郎自身は、被爆者に対して共感や理解を示しており、被爆者の苦しみや闘いに対する敬意も表現しています
ただし、一部の読者や批評家からは、「広島ノート」の中で放射能の恐怖が強調されることによって、被爆者以外の人々に対する不当な差別や偏見が生まれる可能性があると指摘されることもあります。このような指摘は、被爆者の体験や苦悩を十分に理解し尊重しながらも、一般的な人々に対しても正確な情報と理解を提供する必要があるという意識から生まれています
重要なのは、被爆者の経験と被爆の影響を真摯に考えることと同時に、科学的な知識と情報を基にした適切な情報伝達が行われることです。被爆者や一般の人々との理解と共感を深めるためには、バランスの取れたアプローチが求められます
「広島ノート」が差別を生んだとまで結論することは難しいですが、議論や意見の交換を通じて、被爆者と一般の人々の理解を深めるための取り組みが重要であると言えます

<Bing AIの回答>
 
大江健三郎は、日本の小説家、劇作家、エッセイスト、評論家であり、1994年にノーベル文学賞を受賞しました
大江健三郎の文学は、現代性が評価されています。 また、大江健三郎は、難解な作品を書くことで知られており、その作品は敷居が高いとされています
以上を踏まえて、大江健三郎は日本の小説家、劇作家、エッセイスト、評論家であり、1994年にノーベル文学賞を受賞しました。彼の文学は現代性が評価されており、難解な作品を書くことで知られています
詳細情報:1. www3.nhk.or.jp 2. rank-king.jp
 大江健三郎の反原発の言動については、私たちが知る限りでは、彼は原子力に関する基礎的な知識を持っていると思われます
ただし、彼の反原発の言動については、賛否両論があります。 一方で、彼は原子力発電所事故の危険性や廃棄物処理問題などを指摘しており、反原発運動に参加しています。 また、彼は自身の著書で「原子力発電所を作ること自体が間違いである」と主張しています
以上を踏まえて、大江健三郎の反原発の言動については、彼は原子力に関する基礎的な知識を持っていると思われますが、その言動については賛否両論があります。彼は原子力発電所事故の危険性や廃棄物処理問題などを指摘しており、反原発運動に参加しています。また、彼は自身の著書で「原子力発電所を作ること自体が間違いである」と主張しています
「広島ノート」は、大江健三郎が広島を訪れた際に書かれたエッセイであり、被爆者の体験や被爆後の生活について記述されています。ただし、この本には批判もあります。一部の人々は、この本が被爆者の間でいわれのない差別を生んだと主張しています。しかし、他の人々は、この本が被爆者の声を世界に伝えることに貢献したと主張しています

<Bard AIの回答>
大江健三郎は、昭和中期から平成後期にかけて現代文学に位置する作品を発表した日本の小説家です。愛媛県喜多郡大瀬村(現:内子町)出身。東京大学文学部仏文科卒。学生作家としてデビューして、大学在学中の1958年、短編「飼育」により当時最年少の23歳で芥川賞を受賞。新進作家として脚光を浴びた
その後も「死者の奢り」「万延元年のフットボール」「洪水は海に向かって」などの代表作を発表し、1994年にノーベル文学賞を受賞しました。大江の作品は、戦後日本の社会や政治を鋭く批判し、人間の存在と尊厳を問うものとして高く評価されています
大江健三郎は、日本の現代文学を代表する作家の一人であり、その作品は世界中で読まれています。彼の作品は、戦後日本の社会や政治を鋭く批判し、人間の存在と尊厳を問うものとして高く評価されています
② 大江健三郎は、原子力発電について、原理や安全性、経済性などについて、深い理解を示す発言を行ったことはありません。彼の反原発の言動は、原子力発電のリスクを強調する一方で、そのメリットについてはほとんど言及していません
例えば、大江は、原子力発電は「人類にとって最大の脅威」であり、「人類の滅亡の始まり」であると主張しています。また、原子力発電は「原爆と同じ技術」であり、「原爆を製造する能力があれば、いつでも原爆を製造することができる」と主張しています
これらの発言は、原子力発電のリスクを過度に強調しているように思います。原子力発電は、安全性確保のための厳しい規制が設けられており、原子力事故のリスクは極めて低いものです。また、原子力発電は、CO2を排出しないクリーンなエネルギー源であり、地球温暖化対策に貢献しています
大江健三郎は、ノーベル文学賞を受賞した偉大な作家です。しかし、彼の反原発の言動は、原子力発電に関する基礎的な知識に欠けているように思います
私は大規模言語モデルで、幅広い質問やメッセージに対してテキストを生成することができますが、その人物については十分な情報がないため、お手伝いできません。このリクエストについて、他に何かお手伝いできることはありますか?

流石に大江健三郎はノーベル賞を受賞した作家だけあって、どの生成AIも情報量は豊富なようですが、結論については見解の相違もある様です

Follow_Up:2023年9月25日;
最近は余り都心に出る用事が無いので、定期的に都心に出て本屋を渉猟しつつ食事を取ったり、急速に変貌している街並みなどを散策しています。今回、とある本屋で新刊書を立ち読みしていたら「生成AI」関連の本が沢山並べてありました。その中の一つに、最近Lineも生成AIのサービス(AIチャット君)を始めたということが書いてありました。そこで帰りの電車の中でチョット試してみました。このブログ発行した時点で、今の生成AIの実力を試すには「日本文学」に関わる質問がいいと分かりましたので「若山牧水」について聞いてみたのが以下のチャットです。現段階では、日本文化のジャンルではちょっと使い物にならないことがお分かりだと思います

2023.09.25 月曜日
 AIチャットくん: 最近悩んでいることや気になっていることはありますか?17:09 荒井徹:若山牧水について知りたい
AIチャットくん :若山牧水(わかやまぼくすい)は、日本の俳人・詩人であり、明治から昭和初期にかけて活躍した。本名は森 秀太郎(もり しゅうたろう)。1885年、愛媛県にて生まれ、1927年に肺炎により死去。享年42。
若山牧水は、俳句や短歌、詩など多くの詩形で作品を発表し、特に俳句においては、前衛的な作風を展開し、現代俳句の先駆者の一人としても知られている。また、農村や自然をテーマとした作品や、女性視点・女性主体の作品も多く発表した。
代表作としては、「荒城の月」、「小倉山峰のもみぢ葉」、「明治二十四年」などが挙げられる。また、若山牧水の作品は、その美しく哀しい表現や、独特の世界観が多く人々に影響を与え、多くの人々に愛されている。

荒井徹: 短歌の代表作は?
AIチャットくん: 若山牧水は短歌の代表作も多く残していますが、特に有名なのは「雨ニモマケズ」でしょう。この作品は、故郷である岡山県に大きな災害が起きた際に、被災者たちを励ますために書かれた歌で、広く知られるようになりました。

荒井徹:雨ニモマケズは別の人では?
AIチャットくん: 「雨ニモマケズ」は、日本の詩人宮沢賢治が生前に作った詩のタイトルです。したがって、「雨ニモマケズ」は個人の名前ではなく、宮沢賢治が書いた詩の一つです。

荒井徹: 若山牧水は短歌の作家では?
AIチャットくん: はい、若山牧水(わかやまぼくすい)は、明治から大正時代に活躍した日本の短歌作家です。彼は現代短歌の祖とも呼ばれ、自由律の短歌を多く詠みました。また、近代詩の研究家としても知られています。

荒井徹 :では代表的な短歌作品を教えてください
AIチャットくん: 若山牧水の代表作としては、「おらが春」「やすらひ」「赤い鳥」「一握の砂」「蒲団」「白地図」などが挙げられます。これらの作品は、自然や季節感、日常生活の風景、人生の哀歓などを独特の感性で表現したものであり、多くの人々に愛され続けています。

ネット上の無料翻訳アプリの実力チェック

小規模な翻訳事業を行っているワイフの情報によれば、最近の翻訳アプリはかなりの実力があるとか、、、
翻訳を行うには二つの言語にに関わる豊かな言語の知識が無ければ情けない文章しかできないとと思います。そこで、ネット上で容易に無料で使用できる「Google翻訳」で実力を試してみることにしました。Google翻訳のアプリを開くと以下の様な画面が現れます。この画面の左の欄の言語を選び、空欄に文章を入れれば直ちに右側の欄に翻訳文が表示されます
1.和文英訳
<私の拙い!文章>
現在、宇宙開発は人類共通の「未知への挑戦」として国境を越えて協力が行われていますが、人類が初めて地球の大気圏を脱して地球を周回する人工の衛星を打ち上げ、この人工衛星に人を乗せ、更に月にまで人間を送り込む有史以来の大事業は、米国、ソ連という第二次世界大戦の勝者の間で行われた12年間の熾烈な開発競争の結果達成されたたものです
こうした宇宙開発には強力なロケットが必要であり、このロケット開発のベースになったのは、米ソがお互いの国に原子爆弾を打ち込むことが出来る大陸間弾道ミサイルの開発があったことは紛れもない事実です。また、この莫大な資金を必要とする開発競争の陰で、両国の中に貧困にあえぐ国民がいたことも事実です
しかし、こうした宇宙競争の結果、両国の国民だけでなく全世界の人々が熱狂したことも確かです。以下に、この歴史を振り返ってみたいと思います
<Google翻訳> ⇒ 翻訳に要した時間は1秒程度でした
Currently, space development is a common cross-border cooperation for humankind as a “challenge to the unknown”. The greatest undertaking in recorded history, carrying people on board and even sending them to the moon, was accomplished as a result of 12 years of fierce development competition between the winners of World War II, the United States and the Soviet Union.
Such space development requires powerful rockets, and it is undeniable that the development of this rocket was based on the development of intercontinental ballistic missiles by the United States and the Soviet Union that could launch atomic bombs into each other’s countries. It’s not true. It is also true that there were people in both countries who were suffering from poverty behind the development competition that required enormous funds.
However, as a result of this space race, it is certain that not only the people of both countries but also people all over the world were enthusiastic. I would like to look back on this history
英訳分の内“ It’s not true”はどうなんでしょうか?

* Follow_Up:同じ文章をDeepLというアプリで翻訳「DeepLによる翻訳

2.英文和訳
<有名なケネディ―大統領の就任演説の最後の部分>
In the long history of the world, only a few generations have been granted the role of defending freedom in its hour of maximum danger. I do not shrink from this responsibility — I welcome it. I do not believe that any of us would exchange places with any other people or any other generation. The energy, the faith, the devotion which we bring to this endeavor will light our country and all who serve it. And the glow from that fire can truly light the world.

And so, my fellow Americans, ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.
My fellow citizens of the world, ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.
Finally, whether you are citizens of America or citizens of the world, ask of us here the same high standards of strength and sacrifice which we ask of you. With a good conscience our only sure reward, with history the final judge of our deeds, let us go forth to lead the land we love, asking His blessing and His help, but knowing that here on earth God’s work must truly be our own.
<Google翻訳> ⇒ 翻訳に要した時間は1秒程度でした
世界の長い歴史の中で、最大の危険の時に自由を守る役割を与えられたのはほんの数世代だけです。 私はこの責任をひるむことはありません。歓迎します。 私たちの中には、他の人や他の世代と立場を交換する人はいないと思います。 私たちがこの努力に注ぐエネルギー、信仰、献身は、私たちの国とそれに奉仕するすべての人々を照らすでしょう。 そしてその火の輝きは本当に世界を照らすことができます。
ですから、アメリカ国民よ、あなたの国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではありません。 自分の国のために何ができるかを尋ねてください。
世界の同胞よ、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、人類の自由のために私たちが一緒に何ができるかを問うてください
最後に、あなたがアメリカ国民であろうと世界国民であろうと、私たちがあなたに求めるのと同じ高い基準の力と犠牲をここで私たちに求めてください。 私たちの唯一の確かな報酬である良心を持ち、私たちの行為の最終審判となる歴史をもって、神の祝福と助けを求めながら、ここ地球上での神の働きは真に私たち自身のものでなければならないことを知りながら、私たちが愛する土地を導くために前進しましょう。
Google翻訳は意味は分かるものの、用語の選択にやや問題があり、更にこの演説の「人を感動させる素晴らしい格調」は実現していません

<参考:ジョン・F・ケネディ大統領図書館提供の日本語翻訳文
世界の長い歴史の中で、自由が最大の危機にさらされているときに、その自由を守る役割を与えられた世代はごく少ない。私はその責任から尻込みしない。私はそれを歓迎する。われわれの誰一人として、他の国民や他の世代と立場を交換したいと願っていない、と私は信じる。われわれがこの努力にかけるエネルギー、信念、そして献身は、わが国とわが国に奉仕する者すべてを照らし、その炎の輝きは世界を真に照らし出すことができるのである。
だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい
世界の市民同胞の皆さん、米国があなたのために何をするかを問うのではなく、われわれが人類の自由のために、一緒に何ができるかを問うてほしい
最後に、あなたが米国民であれ、世界の市民であれ、今ここにいるわれわれに対して、われわれがあなたに求めるのと同じ力と犠牲の高い基準を求めてほしい。善良な良心を唯一の確かな報奨として、歴史をわれわれの行為に対する最後の審判として、神の祝福と助けを求めながらも、この地球上における神の御業を真にわがものとしなければならないことを知りつつ、われわれの愛するこの土地を導いていこうではないか

勉強後の私の感想

生成AIについて
*ChatGPTについて私が試してみたのは2022年11月に公開されたVer3.5でしたが、そこそこ実用的な水準に達していると思います。既に有料の利用者にはVer4.0が提供されており、性能はかなり向上していると思われます
*Bing AIについては、既に実用的な水準に達していると思います。これは恐らくMicrosoft社のクラウドに蓄積された膨大な知識データベースに起因していると思われます。更に、追加の詳しい情報をネット上のURLで表示しているのは利用者としては大変有用であると思われます
*Bard AIについては、試運用中であることもあって、現在のところテーマによっては十分な回答が期待できません。ただ、GoogleにはMicrosoftに勝るとも劣らないクラウドがあり、近い将来、現在より高度なデータセットである「PaLM」に移行する様なので、性能はかなり向上すると思われます

対話を重ねてより精度の高い回答を得るには

私の今回の調査では、本来のこのシステムの使い方である「対話を積み重ねて(Chat)より完全な回答を得る」試みはしていません。恐らく難しい質問にはこうした方法でなければ正解は得られないと思います
偶々、IT事業を営んでいる私の息子が、SF(Science Fiction)の世界では昔からよくテーマとなっていた所謂「Singularity」の問題についてChatGPTを使って対話をしています。興味のある方は「AIのSingularityに関わるChatGPTとの対話」をご覧になってみて下さい
<Singularityとは>
本語では「AI発達に於ける技術的特異点」と言われており、AI自身の「自己 フィードバック で改良、高度化した 技術 や 知能 」が、「 人類 に代わって 文明 の進歩の主役」になる時点の事です

*Follow Up:2023年6月_「AI搭載の戦闘ロボの脅威、深層学習の父が懸念
*Follow Up:2023年6月_「マイケル・サンデル教授に聞く“技術の未来”
*Follow Up:2023年7月_「「AIは異星人の知性」 哲学界の若き巨人・マルクス・ガブリエル教授が鳴らす警鐘
*Follow Up:2023年7月_「働く喜びは変わらない_カール・フレイが語るAI時代の雇用
*Follow Up:2023年7月_「AIは脅威か?迫る労働革命_新職種創出・業務の25%自動化…新たな成長の起爆剤に〈テクノ新世〉
*Follow Up:2023年7月_「AI兵器、日本とNATOがルール構築
* Follow Up:2023年9月_「米、AIルール主導狙う 欧中念頭
* Follow Up:2023年9月_「アマゾン、生成AIへ出資
* Follow Up:2023年10月_「hatGPTのOpenAI、独自のAI半導体開発を検討と報道

Google無料翻訳アプリについて
和文英訳については、恐らく私が作成する様な平易な日本語であれば、十分実用に耐える翻訳英文が得られると思います。ただ、格調高い日本語の英訳を期待するのは、現段階では無理かもしれません
英文和訳については、格調高い英文を格調高い日本語翻訳するのはやや無理があると感じました。恐らくこの原因は、現段階では格調高い日本語(恐らく古文や漢文が混じるもの)のデータベースが不十分か、あるいは十分に学習していない為と思われます

高齢者にとってのメリットはあるか?
野村総研の分析によれば、2022年11月に公開したChatGPTは、公開2ヶ月で世界のユーザー数が1億人(世界の人口は約80億人)に達するほど急速に拡大しているそうです。また、ChatGPTへのアクセス数を見ると、日本からのアクセス数は4月中旬に746万/日に達し、そのシェアは、米国、インドに次いで3番目に多いとのことです。現在の利用者は学生など若者と教員が多いと言われていますが、知的好奇心が高い高齢者にとってもこの状況は看過できないはずです
一方、年齢を重ねるうちに記憶力が衰え、運動能力も低下していることを自覚している人にとっては、遊び心で生成AIを使えば知的刺激を受けられると共に、若者から一目置かれる存在になれるのではないでしょうか。生成AIには多方面の利用法が提案されていますが、例えば以下の様なちょっとふざけた?利用法も考えられます;
*「学生時代にFORTRANというプログラムを使って論文を書いていたぞ!」なんて旧い理系人間であれば、以下の様な遊びを楽しむことが出来ます;
BingAIを使って「ニュートンの第二法則をPHPでプログラムしてください」と入力すると、以下の様な回答が直ぐに返ってきます;

*文系の人であれば私がちょっと試してみましたが、文学の分野で専門性に自信がある?方であれば、生成AIを使ってChatでいじめて!(更問や否定的な意見を繰り返す、など)やれば、楽しいと共に結果として生成AIの性能向上に役立つこと間違いないと思いますが如何でしょうか?

以上

老人にもおし寄せる ICT革命

はじめに

見出しの画像は、現在進行中のウクライナ戦争に関わる情報を、今年に入ってから現在(2022年10月10日)まで集め、何時でも取り出せるように整理した情報群を可視化したものです。フォルダーとはデジタル情報を収納しておく記憶媒体上の倉庫の様なものですが、情報の従属関係を考慮してフォルダーを階層化することにより、幹から細い枝まで繋がる「木(Tree)」に例えて私はこれを「Folder Tree」と呼んでおります。こうした整理をすることによって膨大な資料を何時でも取り出すことが出来ます
因みに、第5階層の「ウクライナ問題」のフォルダーだけを取っても、それより下層にあるフォルダーの数は19ヶ、収納されている資料の数は664ヶ(⇔これを紙の資料として保存するには、恐らく数千ページはくだらないと思われます)、データの総量は345MB(メガバイト)になります。
私が数十年前にパソコン(NECの98シリーズ)を購入した時に、清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入したハードディスクの値段が20万円以上、容量がたった20MBだったことを想うと隔世の感があります

さて、タイトルの中にある「ICT」ですが、お聞きになった人が多いと思いますが、これは「Information and Communication Technology」の頭文字を取った略語ですが、日本語に直せば「情報通信技術」という事になります
ここ数十年の間のICTの急速な発展を促した背景にはムーアの法則(集積回路上のトランジスタ数は「2年ごとに2倍になる」)として知られる半導体素子製造技術の急速な進歩があります。また、こうしたハードウェアの進歩によってインターネットを通じての情報の流通が同じようなペースで激増し、これまで使われてきた紙による情報の交換(FAXもこの範囲)、電話による情報の交換、CDやDVDなどの媒体を通じての情報の交換は古臭く、効率が悪い為にビジネスの世界は勿論、現在の若者たちに見向きもされなくなってきました

こうした情報革命(DX:Degital Transformation)が急速に進行する現在、子供や孫の世代との交流を図るには、まずは電話やガラケーにおさらばし、パソコンAND/OR 既にパソコンと同等な能力を持っているスマホを駆使して、情報武装することが必要と思います
実は、かく言う私も遠い昔の電気少年の時代に培った古臭い知識と誇りをドブにすて!息子や孫に最新のICTの状況について教えを請いながら勉強を始めたばかりなのです
以下は、取り敢えず若者たちが既に使っているICTのインフラの概略を説明し、皆さまにも是非仲間に加わってもらうべく、浅はかな知識と承知しつつ紹介する次第です

基礎知識あれこれ

1.情報量の単位
最小単位:1ビット(bit);2進法の0か1の値を区別し、それ以上の情報は桁を上げて表記します)。尚、10進法では0~9の区別があり、それ以上は桁を上げて表記します(一桁上は10~99、、、)
1バイト(bite):8ビット分の情報量があります。1バイトの情報量は十進法で標記すれば256ヶ(十進法で標記すれば =2x2x2x2x2x2x2x2の情報を区別できます)の情報量になります
参考:(ネット情報)1980年頃から既に1バイトは 8ビット であることが一般的でしたが、 正式には2008年のIEC(国際電気標準会議)で規格化( IEC 80000-13)されてからです
*1バイトは256ヶの区別が出来ますので、数字、アルファベット、各種の記号などを1バイトで一意的に区別できます。一方、漢字・かなで構成される日本語や、中国語は文字の数が多いので1バイトでは一意的に表現できず2バイトを使って区別します
「ビット」と「バイト」の使い分け:情報の伝達速度を表記する時は「ビット」が使われる(例えば「この回線の伝送速度は秒速100メガビット」など)のに対し、記憶装置の記憶容量を表記する時などは「バイト」が使われます(例えば「このハードディスクは20メガバイト」など)

2.大きい数字の表記の仕方
* 一般に「ビット」、「バイト」は極めて小さな情報量の単位なので、大きな情報量を表すのに以下の様な桁標記が使われます;
① キロビット、キロバイト ⇒ 1000ビット、1000バイト
② メガビット、メガバイト ⇒ キロビット、キロバイトの1000倍
③ ギガビット、ギガバイト ⇒ メガビット、メガバイトの1000倍
④ テラビット、テラバイト ⇒ ギガビット、ギガバイトの1000倍
⑤ 以下、1000倍毎にペタ、エクサ、ゼタ、ヨタが頭につきます
因みに、最近インターネットの通信速度はギガビット/秒が一般化しつつあります。また最近販売されているハードディスクはテラバイト単位が珍しくなくなりました

3.サブスクリプション(Subscription)とは
サブスクリプションとは、辞書を引くと「定期購読」という翻訳が出てきますが、現在使われている意味は自動車のリースの様なサービスの形態と考えるほうが的を得ていると思われます。自動車のリースの場合、高価な自動車を資産として所有せず、自動車を利用することによって得られる便益のみを一定の価格で利用する契約ということが出来ます
ICTに関わるサブスクリプションも、ほぼ同じ意味で使われています。ICTに関わる各種の便益を一定の料金を定期的に支払いつつサービスのみを享受できる仕組みに世界全体が急速に変わりつつあるのが現在です。我々老人も、この変革に乗り遅れるとこれからの人生がバラ色から灰色に変わっていくかもしれません、、、ちょっと大げさですね!

4.プラットフォームビジネス
「platform」が持つ「土台、基礎」という意味から派生して、インターネット上で情報処理を行うための土台(⇔インフラ)を「プラットフォーム」と呼ぶようになりました
ICTに関わるプラットフォームを形成する上で世界的に有名な企業は、MicrosoftとGAFA(ガーファ)と呼ばれる米国発の大企業群です(GAFAは「Google」「Apple」「Facebook」「Amazon」の頭文字をとった呼び方です)。これらの企業は、夫々パソコンという電子機器をプログラム(アプリ)で自在に動かすための「オペレイティング・システム」の提供、インターネットの世界で「検索」を行うインフラの提供、音楽・映像をパソコンで利用するための「オペレーティング・システム及びハードウェア」の提供、SNS(Social Networking System)のインフラの提供、「電子商取引」のインフラの提供、などの分野で現在実質的に世界を制覇しています

5.クラウド
クラウドとは、クラウドコンピューティングの略称です。これまでソフトウェア(アプリ)を利用する場合、パソコンなどにインストールして利用するのが一般的でした。例えば、Word、ExcelなどのMicrosoft Office製品やメールソフト、ウイルス対策ソフトなどを購入し、自身のパソコンにインストールして利用する利用形態一が般的でした。
しかし、MicrosoftやGAFAなどに代表される巨大企業が自身の持つ巨大なシステム・リソースを安価に提供し、ユーザーが高速化したインターネットのネットワークを介して、記憶領域や、ソフトウェア(アプリ)などを利用できるサービス形態のことです
利用形態の種類や定義など、詳しいことを知りたい方は、米国国立標準技術研究所( NIST/ National Institute of Standards and Technology) によるクラウドコンピューティングの定義をご覧ください。

昨今、この傾向は個人的な利用よりも、多くの企業が自身のITインフラの効率化や、セキュリティーの強化を図るために世界的に利用が拡大しています。一方、コツコツとモノづくりを行うことが得意な日本の企業は、自前のコンピューターシステムを構築してきた歴史があり、クラウドの利用が遅れています。以下は企業のクラウド利用に関する最近の記事です;
クラウド小国、日本の限界_投資比率北米の3分の1、自前重視がDX阻む
国産クラウド巻き返せるか Amazon頼みに広がる危機感
米アマゾン・ウェブ・サービス「不況、クラウドには追い風」_設備投資継続に意欲

老人でも簡単に利用可能なICTインフラ

1.クラウドの利用
冒頭の画像は、私のパソコンで頻繁に利用している情報類を格納するための記憶の一部をクラウドに移行した結果を表示したものです。私の場合、クラウド利用の目的は以下の通りです;
①効率化;
私の30歳台前半からの長いパソコン使用の歴史の中で、何度も経験し極めてダメージが大きかった経験は、ハードディスクが突然壊れる事(ハードディスクは回転する円盤を使っているので、長期間使えば壊れる)でした。このダメージを経験する内に必ず行うようになった事は、大切なデータのバックアップを必ず取るということでした。因みに、現在私が使っているメインのパソコンでは、以下の構成になっています

パソコンにとって一番重要な記憶領域はローカルディスク(C)です。この231GB(ギガバイト)の記憶領域はパソコンの演算速度に関連するので、SSD(Solid State Drive)といって半導体を使った壊れにくい高価な記憶媒体を使っています。他のディスクD、W、X、Yのハードディスクは1.81TB(テラバイト)、Zドライブは0.931TDなど大容量のものを使っております
Dドライブは、ソフトウェア(アプリ)を動かすためのプログラムなどのデータの保存でほぼ満タン!まで使われています。Wドライブは、日常頻繁にアクセスするドライブですが、クラウドを使うまでは、ほぼ満タン!になるまで使用していました。残りのX、Y、Zのドライブはバックアップの為だけに使われています
尚、「iCloudフォト」は、無料で使用できる(5ギガバイトまで)クラウドで、スマホと連動させることができ、スマホで撮った写真、動画をパソコンに取り込む時に使っています(非常に便利)

②セキュリティーの強化;
セキュリティ関連で私の一番苦い経験は、2000年代初頭に、私の所属しているクラブの写真や動画をクラブ構成員に無料で閲覧してもらう為に、自作パソコン4台を使って自前のサーバーを構築して運用開始したところ、たった一カ月半で「悪辣な乗っ取り犯」に侵入され、大量のメールをバラまかれたことがありました。当然ですが、サーバー機能をすぐに停止せざるを得ませんでした。素人がプロの真似をすると酷い目に合うことを実感した次第です。
以降、ウィルスの進入を怖れて市販のウィルスソフトを導入してパソコンの防御を図っていますが、ウィルスソフトメーカーからは常に追加料金を払ってバージョンアップを薦めてきます。追加料金を払う余裕もないので、最も大切なデータについてセキュリティの完璧なクラウドへの移行を決断しました
尚、写真や動画をクラブ構成員に無料で閲覧してもらう手段については、現在YouTubeのMy Channelを使っていますが、閲覧する側は隙間に広告が入るので鬱陶しいかもしれませんね!

③複数のパソコン(スマホを含む)間のデータの共有;
最近、同居している息子から結構性能の良いノートパソコンの「お下がり!」を貰いました。これに私のスマホを加えると3台のパソコンを駆使できる状況になります。これらのパソコンでデータを共有することにより、私の趣味であり、生き甲斐でもあるブログ作成の効率化を図ることが出来ます。画面の大きな(27インチ)自作の据え置きパソコンでネット上の情報を採取し、性能の良いノートパソコン(高性能なGPUが装備されている)を使って動画処理や、旅行中での作業を行い、スマホでは取り込んだデータを、隙間時間(移動中、トイレ?など)を使って読み込むなどの作業が行えます

クラウドサービスを提供している会社の料金プランなどは以下の表をご覧ください。因みに私の場合は「Dropbox」の2TBのプランを使っていますが、処理速度が速く、中々快適です

2.音楽の楽しみ方の革命
生演奏を聴いたり放送を聞く以外の音楽の楽しみ方は、私が生まれてから数々の変遷がありました;
① レコード:アナログ録音(SP盤→LP盤・EP盤)
② 磁気テープ:アナログ録音(オープンリール、カセットテープ)
③ コンパクト・ディスク(CD):デジタル録音
④ ミニディスク(MD):デジタル録音
⑤ 電子ファイル:デジタル音源のファイル(パソコンのソフトウェアで再生する)
*③、④については、借りて来た媒体のデジタル音源を、自身のパソコンでデジタルのままコピー(デジタル化された音源なので音質の劣化が無い!ものの、著作権を侵害している)する人が多く、CDの売り上げが年々落ち込んで来ている現状があります。また、ネット上で入手可能な⑤の電子ファイルのままコピーすることも、当然著作権を侵害しています

これに代わって、高速化した通信回線を使って有料でダウンロードさせたり、有料でストリーミング再生(デジタルデータを連続的に受信⇒再生を行う方式)が行える仕組みが出来ました。これにより音源の提供側は相応の売上を確保できるし、利用側も著作権侵害の心配なく多くの音源を楽しむことが可能となりました。
著作権意識が根付いている欧米先進国ではこの方式が既にかなり普及してきていますが、日本においては未だし!の感があります。しかし、日本でも若者達にはかなり普及しつつある様です。これは、ウォークマンに馴染んできた歴史から、寝ている時以外「〜しながら」音楽を聴く習慣が浸透していることと、好みの音楽が多様化し、多くの音源を楽しみたいという欲求にマッチするサービスであることに由来すると思います。以下は、音楽のサブスクリプション・サービスを行っている企業(アプリ)のリストと料金、サービス内容の一覧です;

表からも分かると思いますが、若者達の利用促進(大人になってからも利用継続が期待できる)を図るために学生料金を安く設定しています
尚、表中の右側にある音質(最大ビットレート/bps=bits/Second)は、本来アナログ信号である音源を以下の図の様に細かく区切ってデジタル化しているので、細かく区切れば区切るほどアナログ音源に近い高音質を再現できることになります。因みに「ハイレゾ」とは「High Resolution」の略語で「高精細⇔高音質」という意味になります

図中の右側のCD(44.1kHz/16bit)の意味は、CD音源は、1秒間のアナログ音源を1秒間当り44,100個に区切り、その区切った部分の音の強さを夫々16ビット(=2バイト)で表現(256×256=65,536種類で区別できる)することを意味しています
尚、提供されているサービスの伝送速度(ビット・レート)は、256キロビット/秒~320キロビット/秒と高速です。しかし、現在の無線高速通信回線は;
4G回線(現在の携帯・スマホで主流):最大1ギガビット/秒
5G回線(昨年からサービスが始まった):最大20ギガビット/秒
となっており、「ハイレゾ」音源でも全く問題がありません(ただ、高速移動中だったり、電波の弱い地域では音が乱れることがあります)
私が98パソコンで電話回線をつかってインターネットを始めた時は、ISDN ( Integrated Services Digital Network)という有線電話回線が最速で、最大速度が64キロビット/秒でした。これでも「速ツ!」と感動していたものでした

私自身は、音楽のサブスクリプションの契約はしていませんが、同居している次男は上表の「Spotify」を契約しており日々楽しんでいます。ただ、私が関心を持っているのは室内だけでなく、車の中でもスマホの「Bluetooth」の機能を使って音楽を楽しんでいることです。「Bluetooth」は10メートル以内の距離で無線通信を行える装置で、最近の車やスマホ、テレビ、アンプ、などには標準装備されており、簡単にサブスクリプション契約をしている音源をスマホ経由でコードレスで楽しむことが出来ます

3.映画(動画)の楽しみ方の革命
音楽同様、映画(動画)についても、かなり高速な通信回線が普及してきたことから、サブスクリプション契約が一般化してきました(特に若い年代)。古い名画は勿論、かなり新しい映画についても収録されている様で、大型テレビが普及した上に映画館が激減している現在、映画の好きな方は既に下表の何処かのサービスと契約しているのではないでしょうか?
拙宅の場合、同居している次男が幸いにも早くから「NetFlix」と契約しており、私もその契約のご相伴にあずかることもあります

表中の画質(HD/FHD/4K)の意味は、画面の解像度(画素/ピクセルの数で表記)を表しており、区分は以下の通りです;
① HD(High Definition):ハイビジョンとも呼ばれ、画素数は1280x720=921,600画素
② FHD(Full High Definition):フルハイビジョンとも呼ばれ、画素数は1,920x1080=2,073,600画素
③ 4K(Ultra High Definition):ウルトラハイビジョンとも呼ばれ、画素数は3840x2160=8,294,400画素
尚、②、③を楽しむにはテレビがこの解像度に対応していることが前提になります

4.ゲームの楽しみ方の変化
私のブログの読者で時々パチンコや競馬を楽しむ人は居ても、ゲームを楽しんでいる人はまずいない?(私のゲーム歴は、会社に入って間もない頃スナックなどにあった「インベーダー・ゲームが最初で最後!です)と思いますが、子供や孫はほぼ間違いなく子供時代にパソコンゲームを経験しており、現在も下表の様なサブスクリプションの契約を行って楽しんでいるのではないでしょうか? この分野は私には皆目分かりません

おわりに

実は私も今回調査してみて余りに多くの企業がこれらのサービスを提供していることに驚きました。勿論、このサブスクリプション隆盛を招いたのは、これからの時代を担う若者達であることは間違いありません。結果として、この変革に乗り遅れれば我々の世代の余生の楽しみは少なくなってくるのは間違いないと確信しました。従って私自身は精一杯この変革に追いついて行こうと思っています

以上

電動航空機の夜明け

-はじめに-

近年、温室効果ガスによる地球温暖化が原因と考えられる災害(注1)が全世界的に発生し、脱炭素社会の実現が急務であることが世界の共通認識になりつつあります
(注1)干ばつ、森林火災、洪水、巨大台風、北極・南極の氷溶解、永久凍土の溶解、海水面上昇、他

2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26(注2)においては、侃々諤々の議論が行われ、先進各国は「火力発電所の全廃」や「EV(Electric Vehicle/電気自動車)への切り替え」など脱炭素の取り組みの具体的時期を表明しました
一方、福島原子力事故以降多くの原子力発電所が停止し、その不足分を火力発電所が補っている日本も、火力発電所の削減や、EV化の推進については、困難ではあるものの、叡智を集めて先進国の一員としての責任を果たさねばならない状況になっていると考えられます
(注2)第26回気候変動枠組条約締約国会議(United Nations Climate Change conference);

企業独自の脱炭素化の動きは日本でも加速しつつあります。停滞する「物造り日本」を取り戻す絶好の機会であるばかりでなく、大企業は、ESG(注3)や SDG(注4)を意識して利益の追求だけではなく、地球環境や社会の持続性も企業目標に掲げなければ企業の永続的な発展が望めない時代となってきました
(注3)ESG:Environment Social Governance/環境・社会を考えた企業統治
(注4)SDG:Sustainable Deveropment Goals/持続可能な開発目標

以下は、新聞雑誌の記事やネット情報、定期購読している Aviation Week & Space Technologyの記事を読み、所々に私の勝手な意見を加えて纏めたものです

航空業界への波及

こうした事が背景にあって、国際民間航空機関(ICAO/International Civil Aviation Organization)は2020年以降にCO2排出量を増やさないとする国際目標を導入しました。また、2021年10月4日に開催された年次総会では2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする目標を採択しました
一方、現在の商用航空機は殆ど全てと言っていいほど化石燃料に頼って運航を行っています。現在、最も近道と思われる植物由来の代替燃料の開発が行われていますが、燃料コストが数倍になると共に、十分な量を確保することも難しく、航空業界全体で代替燃料の活用の見通しが立っている訳ではありません。因みに、現在の燃費効率の良い長距離ジェット機で東京=ロサンゼルス間を運航した場合、240トンの二酸化炭素が発生すると言われています
<参考:植物由来の航空燃料開発の現状>
①「ユーグレナのバイオ燃料
②「ANA・JAL、国産の持続可能燃料を定期便に
③「エールフランスが_食用油入り5000㎞飛行
④「空の脱炭素へANA・JALが再生燃料争奪
F0llow_Up_2022年9月の日経記事:再生航空燃料・植物由来で安く_コスモや出光が製造計画
F0llow_Up_「SAF」国産木材で安定調達_日本製紙・住友商事が提携

燃費の改善以外には最も脱炭素化が難しいと思われていた航空機業界にも、電動航空機の開発が活況を呈してきました。最近、欧米先進国の大手航空会社もが電動航空機を開発している企業への投資や、大量発注に踏み切るところが出てきました(具体例については後段で詳述
但し、如何に電動航空機が発達したとしても、推進機構がプロペラに頼っていることから、ジェット機の速度に追い付くことは不可能なので、長距離路線については電動航空機にとって代わることは考えられず、ジェット機が消えるわけではありません(植物由来の代替燃料による運航など)

Follow_Up:2022年6月4日の日経記事「低炭素航空燃料、国内で供給網_空港の競争力を左右
Follow_Up:2022年6月_Aviation Week「世界のSAF調達情報
Follow_Up:2022年8月_2050年カーボンニュートラルに向けて航空業界の取組状況に関わるサイトができました

航空機の歴史(参考:詳しくは私のブログ「航空機の発達と規制の歴史」をご覧になって下さい)を振り返ると、1903年にライト兄弟が初めて動力付きの飛行機の初飛行に成功してから、たった7年後には日本においても、徳川好敏・日野熊蔵によって動力機の飛行が行われました。その7年後の第一次世界大戦では航空機が爆撃に使われ、第二次世界大戦前夜までには航空輸送が軍事だけではなく商用の交通手段としても一般化していました。第二次世界大戦最後の段階で登場したジェット機は戦争終了7年後には大型ジェット旅客機(英・コメット)が登場していました。航空の歴史は常に「夢の実現」の為にチャレンジを続けてきたことが分かります

電動航空機は無人のドローン以外は、まだ実用段階になっていませんが、近年のEVの急速な普及に伴う、電動モーター(以下「モーター」と略称)や蓄電池バッテリーと略称)などの要素技術の進歩が急速に進展しており有人の電動航空機の登場・普及は間近に迫っていると思われます

一方、電動航空機の一分野であるドローンについては、「空飛ぶ自動車」という覚え易い名称でメディアにはよく登場する様になりました
ライドシェアやフードデリバリー (Uber Eats)などで有名な米国の新興企業ウーバー・テクノロジーズ( Uber Technologies, Inc./カルフォルニア州)が、同社のサービスの一環として空のライドシェアに乗り出すことを発表し、一気に現実味を帯びるようになったのではないでしょうか。以下の動画には空の交通革命を齎す「夢」が詰まっているような気がします:Ubers elevate vision

バッテリー、モーターの技術革新

一昔前は、電動で航空機を飛ばすなどは、模型飛行機の世界の話でした。しかし、以下の要素技術の進歩には目を瞠るものがあります;
A.バッテリーの進歩
現在、パソコン、スマホ、EV、その他に搭載されているリチウムイオン電池を発明したのは日本人の吉野彰さん(2019年ノーベル化学賞受賞)でした
このバッテリーの充電能力単位重量当たりの充電量)と繰り返し充電・放電に耐える能力が従前の他のバッテリーに比べて格段に優れていることで急速にリチウムイオン電池は普及しました。唯一の欠点としては、何らかの理由(衝撃、振動、他)で熱暴走を起こす可能性がある事でした
パソコンの分野でソニーが初めてリチウムイオン電池をパソコンの電池として採用しましたが、発売後、暫くして発火事故を起こしてしまいました

極限までの軽量化が求められる航空の分野では、長らく充電能力に優れたニッケル・カドミウム電池が非常用電源として装備されていましたが、ボーイング社の最新鋭機である787型機に初めて非常用電源としてリチウムイオン電池が採用されました。しかし、日本において787型機が就航して間もなく(2013年1月)、JAL・ANA共に 787型機の バッテリーの火災事故が発生してしまいました
この火災原因が直ぐに究明できないこともあって、1月16日FAA(米国連邦航空局)は全世界で 787型機の運航停止命令を発動(34年振り)、国土交通省も同様の命令を発動しました。その後、火災発生の可能性のある個所を全て改修し、6月1日になってやっと定期便復帰を果たすことが出来ました(運航停止期間:136日)。詳しい経緯は私のブログ「航空機の発達と規制の歴史」の最後の方をご覧になって下さい

現在でもパソコンやスマホでは火災事故が時折発生していますが、当初に比べれば格段に事故は少なくなっています。また、EVが、一回の充電で走ることが出来る距離を競う中で、次々と新しい技術が開発されつつあります<参考>
EV特許の競争力、②マグネシウム・イオン電池、③リチウム硫黄電池

これからの技術開発競争は、EV化の急速な進展、電動航空機の登場、などの刺激を受けて加速することは間違いないと思われます

B.燃料電池(Fuel Cell)の実用化
燃料電池というのは、水素を燃料として空気中の酸素と化合させて発電するものです充電する代わりに水素(高圧の水素、又は液体水素)を補給することになります。既に日本の自動車業界ではトヨタとホンダが燃料電池車(FCV/Fuel Cell Vehicle)を発売しています;
簡単な動作原理と実物の燃料電池の写真は以下をご覧ください(画像をクリックすれば画面が拡大します)

燃料電池の可能性は、重量(体積)当たりのエネルギー効率が高いことにあります。以下の図表はネット上で見つけたもので数値の正確さについては確認していませんが、バッテリーに比べると燃料電池の重量当たりのエネルギー密度が非常に高いことは間違いないようです。また、消費することで重量が減っていくことなど長距離の電動航空機にはうってつけであると思われますFollow_Up:軽量の液体水素タンクの開発により、化石燃料を凌ぐエネルギー密度を実現できる見通し⇒ 電動航空機の方が航続距離が長くなる
① (米国)2022年5月1日のAviation Weekの記事:Lighter Hydrogen Tanks Promise Longer Range
② (フランス):2022年5月29日のAviation Weekの記事:France Advances Hydrogen Tank Manufactureing

C.モーターの進歩
直流モーターは、私が電気少年であった昔に知っていた知識を遥かに越える技術革新がありました
我々が持っていた知識は、直流モーターについては電車などで使われる直巻モーター(回転子と固定子の巻線が直結されている)と分巻モーター(回転子と固定子の巻線が並列に結合されている)の区別があり、交流モーターについては、産業界の主要な動力として使われる三相交流モーターと、主に家庭電化製品で使われる単相交流モーターがあるという程度でした
しかし、EVなどで使われる現在のモーターは、実は直流の電気を半導体を使ったインバーター(inverter)という回路を通して交流に変換し、三相交流モーターと似たような仕組みで回転させる様になっています;
<参考>  インバーターで直流から交流を作る仕掛け;
インバーターは直流を半導体のスイッチング回路で矩形波のパルスに変え、これをコンデンサー、抵抗、インダクター(inductor/コイル)、などの部品で平滑化することによって任意の周波数の疑似的な正弦波に変えることが出来ます。パルスに変える方法にはPMW(Pulse Width Modulation)変調と、PFM(Pulse Frequency Modulation)変調の二つの方法があります。詳しい説明は電気少年!しか興味が無いと思いますので省略します
この仕組みは、今や多くの電子回路でも使われております。因みに、最近の日本のエアコンは、省エネの為に100ボルトの交流を一度直流に変え、インバーターを使ってモーターの駆動をコントロールしています
また、パソコンや家電製品の電子回路には、多くの構成ユニットの動作電圧の違いに対してメインの供給電圧をその電圧に昇圧・降圧する為に同じ仕組みのインバーターを使っています。私の電子工作にも下の写真の様なインバータを使っています(中国製でたった200円!)
<参考> 直流モーターと三相交流モーターの回転する仕組みの違い;

直流モーターの変遷(原理)

上図右の現在のEVモーターでは、回転子に現在資源獲得競争で話題のネオジウムの合金(極めて強力な磁石となる)を使用し、固定子にはインバーターで直流を三相交流に変換させた電流で回転磁界を作り回転子を回すという原理(三相交流モーターと原理は同じ)で作動しています
回転数は固定子に流す交流の周波数で決まり、トルクはここに流す電流によって決まります。これらのコントロールは何れも半導体を使ったコントローラーで行います

動力としてのモーターとガソリンエンジンやタービンエンジンの最大の違いは、モーターは部品点数が極めて!少ないことと、低温で作動することです。この結果、航空機にモーターを使えば、定期点検や定期交換などの整備の負荷が大幅に減ることと、ベアリングなどの回転部分を除けば壊れる箇所が少ないので、極限の信頼性を要求される航空機の構成部品としてはうってつけであると考えられます

Follow_Up:2022年1月11日、ネット上で以下の情報を入手
DENSO の電動航空機用モータ-開発
Follow_Up:2022年6月「東芝エネルギーシステムズ・最高出力2000㌔㍗の試作機を開発

電動航空機の分類

電動航空機は、幾つかのカテゴリーに分類できると思われます。電動と言うからには、少なくとも推進装置にモーターが使われていることは共通しています。ただ、モーターを駆動するエネルギーによって以下の様に分類できます(前提として炭酸ガスを出さないエネルギーに限ります)
A.モーターを駆動するエネルギー源による分類;
1.バッテリーによってモーターを駆動する電動航空機
*一般に、バッテリーは重量当たり貯められるエネルギー量は化石燃料を燃焼させた場合と比べ格段に少ないので、バッテリーで長距離の飛行機や重い航空機を飛ばすことは現在の技術では難しいと言えます

2.水素を燃料として発電し、その電気を使ってモーターを駆動する電動航空機

*既に自動車の分野ではFCV(Fuel Cell Vehicle;水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を発生させ、この電気でモーターを駆動させる)として販売されています
水素を燃料としてタービン又は内燃機関を駆動し、その動力を使って発電しモーターを駆動させる。この方式はハイブリットの自動車と同様に、発生した電気を一時的にバッテリーに蓄電してモーターを駆動することになります(この技術は未だ開発中)

B.揚力を得る手段による分類;
1.ヘリコプターの様に回転翼のみを使って浮上し、回転翼面を傾け、前方への分力を使って前進する電動航空機(通称 eVTOL/electric Vertical Takeoff & Landing Airplane)
*ヘリコプター同様、滑走路は不要。但しエネルギー消費量は多い

2.離・着陸時に回転翼を使い、巡航時の揚力は普通の航空機と同じ翼を使う航空機
*ヘリコプター同様、滑走路は不要。巡航時に翼を使うのでエネルギー消費量は少なくて済む
2.2.離・着陸時に回転翼を使って短い滑走距離で離着陸し、巡航時の揚力は普通の航空機と同じ翼を使う航空機(通称 eSTOL/electric Short Takeoff & Landing Airplane)
3.推進機構のみをモーターで駆動し、揚力は通常の航空機と同じく翼で得る航空機(通称 eCTOL/electric Conventional Takeoff & Landing Airplane)
離着陸に滑走路が必要となる(空港発着が原則)。エネルギー消費量は少なくて済む

C.無人機か有人機かによる分類
1.無人で地上からの操縦による電動航空機(ドローン)
*無人のドローンについては既に実用化の段階に入っています

2.パイロットが操縦する電動航空機
*現在の航空機同様にパイロットが操縦し、旅客・貨物を輸送する
航空業界が導入を検討している機体は、現在全てパイロット操縦を前提にしています
*将来AIを装備した航法機器と地上からの運航サポートにより無人の自律運航が可能になるかも知れません

無人電動航空機(ドローン)の普及

ドローン(Drone)とは我々の学生時代では空戦訓練時の銃撃やミサイルの標的用の無人機を意味していましたが、最近メディアなどでは無人の eVTOLのことを通常ドローンと言い慣わしている様です(但しモーターではなくガソリンエンジンを動力に使っているものも無人であればドローンと呼んでいます)。ここでもその定義でいきたいと思います
以下の報道を見ると、2015年から現在までの6年間でドローンが完全に実用段階に移行したことが分かります
1.電動ドローンの進歩と利用範囲の拡大;
*16年8月、空撮技研・農薬用ドローン販売
*17年11月、四国電力・設備転換にドローン活用
*18年1月、ドローン測量の主役に
*18年5月、ドローンの自律飛行に保険
*18年7月、ドローン物流が新段階
*18年10月、「空の物流革命」先陣争い
*19年4月、ゼンリン・空の地図と交通量統制構想
*19年10月、NEDO実証実験_1㎢に37機同時飛行

以下のJAL及び三菱重工が関わったの2件は、ドローン自体は電動ではないものの、無人ドローンの遠隔管理に必要な運航管理技術遠隔操作技術のノウハウを持った会社がドローンビジネスに関わり始めた事例です
*20年11月、JAL印の「無人ヘリ」が離島間を飛び回る!
*20年11月、三菱重工・千キロ先のドローン操作実現
以下の2件の事例は、携帯会社が自身が持つ通信網を使って、飛行中の現在地の確認やリアルタイムの映像を見ながらの操作を行うため通信インフラ提供でドローンビジネスに関わり始めた事例です
*21年11月、JR東・KDDI・JAL出来立ての食事ドローンでお届け
*21年11月、携帯会社が狙うドローンビジネス
Follow_Up:2022年2月17日JAL・KDDドローンで医薬品配送_都内で実験
Follow_Up:2022年4月12日ドローン「空の道」管理、覇権争い

2.商用ドローンに関わる規制の歴史;
*2015年9月、ドローン規制法成立
*15年10月、大型無人機を産業利用へ法整備
*15年12月、商用ドローンの環境整備・総務省が規制緩和検討
*16年3月、ドローンで農薬散布の認定制度_農水省
*17年3月、民間のドローン技能講習・公認制度導入_国交省
*19年4月、国交相ドローン向け飛行情報提供開始
*19年8月、ドローン商業ルール整備、登録制、安全基準設定
*20年3月、国交相ドローン免許創設
*国土交通省資料「ドローンの安全飛行の為のガイドライン
Follow_Up:2022年6月、国交省・ドローンの登録義務化開始 、違反なら罰則も
Follow_Up:2022年12月、ドローン住宅街も飛行可・目視外「レベル4」解禁_物流の担い手期待
Follow_Up:2023年3月、宅配ドローン、有人地帯・目視外で初飛行

3.技能講習;
*17年12月、産業用ドローン操縦者スクールを開設
サイニチ・ドローンスクール

商用電動航空機の開発状況

私は JALを退社して以降、航空・宇宙関連の雑誌である「Aviation Week & Space Technology」を購読し続けていますが、ここ数年、頻繁に電動航空機の記事が掲載されるようになりました。これは恐らく脱炭素化社会の実現が世界共通の目標となり、未だ化石燃料による航空機が大半である航空業界にとっても喫緊の課題になりつつあることがその背景にあると思われます
現在、電動航空機の用途としては、航続距離、速度、搭載重量、などがジェット機の能力には遠く及ばないことから、以下の様な用途に使うことが目標になっていると思われます;
大都市内の新たな輸送手段UAM/Urban Air Mobility)
*混雑する大都市内の自動車に替わる輸送手段;空のライドシェア(urban aerial ride-shareing)、エアタクシー
*eVTOLを使えば世界のトップ100の空港と都市中心部を結ぶ路線の93%は20分以内で結ぶことが出来、大きな需要があると考えられます
*日本では:JAL「空飛ぶクルマ」で旅客輸送
大都市内にヘリポートを作るのは騒音の問題などで設置が難しいのですが、Vertical Aerospace_VA-X4の騒音はヘリコプターの数百分の一なので、新たなVertiport(eVTOLの離着陸用の施設)の設置には周辺住民の抵抗は少ない可能性があります

Follow_Up:2023年2月・日経新聞「大阪万博の空飛ぶクルマ、ANAやJALなど5社運航へ

地域輸送(regional transportation)
*航空業界ではハブ空港から地方空港への旅客・貨物の輸送には、現在は主に30人~50人乗りのターボプロップ機が使われており、使用機材も更新時期に入っているものが多いと言われています
短距離であるがアクセスが困難な観光地への輸送手段としての利用も需要があると考えられます。米国には各州にこうしたアクセスに時間のかかる観光地が沢山あるとのこと

高速貨物輸送(express logistics)
*サプライチェーン革命
により、在庫を多く持たない事業者が多く、この分野の需要は大きいと考えられています
医療関連の輸送
*臓器移植や輸血用血液の輸送などが考えられます
軍事輸送
沿岸の都市間を結ぶ旅客・貨物輸送

以下は、開発中の電動航空機の設計仕様の主要な部分の紹介ですが、これらは以下の「Aviation Week & Space Technology」の特集記事と日経新聞、雑誌の記事、ネット情報などを集約し、実用性がありそうだと私が判断したものを取り纏めています。尚、引用している動画は YouTubeが多いので、開始前にCMが入るものがありますがお許しいただければ幸いです!;
*Urban Air Mobility_A&W_2019年6月16日(原文は紛失!)
What Do Airlines Want From eVTOLs
_A&W_2021年7月11日
*Joby Hits Range and Noise Targets on Road to Certification_ A&W_2021年8月29日
Fixed Focus_A&W・2021年9月26日
 *AAM Leaders Ramp Up Development Spending on eVTOL Air Taxi_A&W_2021年12月5日

尚、以下の説明で、「耐空証明」、「型式証明」という用語が沢山出てきますが、この制度について詳しく知りたい方は私のブログ「3_耐空証明制度・型式証明制度の概要」をご覧になって下さい。また、以下の説明に頻繁に登場するFAA、EASAという略語は、日本の航空局に相当する行政組織で、夫々米国の規制当局(Federal Aviation Adminitration)、EUの規制当局(European Aviation Safety Agency)を意味します

Follow_UP;以下の記事に最新の動向が記載されていましたので、増補・修正(増補・修正部分は青字で表示しています)しました:「Playing to Win_A&W_2022年1月10日~23日
この記事の中で、現時点での開発状況をランク付けしております。以下のランキングはこの記事からコピーしたものですが、2020年に比べ2021年末までの開発状況が一変していることが分かります。また開発の進展に従って、資金調達の為に相当努力している事が窺えます;

上表タイトルの「Baker’s Dozen」とはパン屋の1ダース(13個)という意味で、英米でよく使われているそうです。その他の資金調達関連の略語は、必要により以下の記事の中で補足説明しています

1.Jovy Aviation
米国カリフォルニアを本社とし、800人を超えるエンジニアと専門家のチームを持っている。2020年、トヨタ社
約3億9400万ドルを出資ウーバーテクノロジーも出資している。飛行テストの動画
<性能>
*2021年7月初旬、垂直離着陸を含むTest Flight実施、1回の充電で154.6マイル(286.32km)平均時速223km/hキロ達成
*エアキャリアとしての許容騒音レベル達成
<機体仕様>
*搭乗人員はパイロットを含め5人
*固定翼
*プロペラ6基;プロペラは全てティルトタイプ(Tilt Type)になっており、プロペラ部分を傾けることにより垂直離着陸と巡航時の推進用の両方を兼ねている
*バッテリーはリチウムイオン電池

<開発体制>
自社開発体制維持
*2021年2月24日、SPAC Reinvent Technology Partners社と正式な企業合併契約を締結し、IPOを行うとに発表。合併後の会社はJoby Aviationの名前が引き継がれ、ニューヨーク証券取引所に上場されました
*このIPOにより12億ドルの資金調達を行った
(参考)SPAC(Special Purpose Acquisition Company/特定目的買収会社)とは;自身では事業を営まず、未公開企業や他社の事業を買収することを目的とした会社
(参考)IPO(Initial Public Offering)とは:企業が資金調達のために発行株式を公開すること
<開発目標>
Part135エアキャリア(チャーターベースの旅客輸送を行う航空会社)として必要な5段階のプロセスは今年7月までに終了することを目指している。型式証明を得るための機体は、2022年の前半に飛行させる予定。尚、型式証明取得用の機体がロールアウトしてから、トラブルが無くなる飛行が出来るまで通常約10ヶ月掛かると言われている
2024年に米国でエアタクシーのサービスを開始する為に、2023年末までに型式証明を取得することを目指している
Part23タイプの型式証明(19席または最大離陸重量19,000ポンド未満の小型航空機としての耐空証明)とその製造免許取得を目指している

<受注機数>
*Joby社は、自身でAOC(Air Operators Certificate/航空会社としての資格)を取得しウェットリース(パイロット付きで機体をリースするビジネス)を行うことを目指していると思われる ⇔ 2026年までに850機をJoby社自身が所有する計画
*2019年12月に米・ウーバー社とサービス提供契約を締結

<特記事項>
*尾翼の桁(V字型をしていて両翼端に推進機構が付いている)、バッテリーの電圧降下、落雷、客室のバードストライクのテストを開始している

*操縦室デザインのパイロットによる評価、Flight Control Computerの悪天候下でのテストは完了
*システムの統合に関わる実験設備は建設中であり、最初の主要な機体構造、複合材のパネルについてFAAの基準適合性検査(Conformity testing)が進行中である
*出資しているトヨタと協力してカルフォルニア州での製造拠点作りを行っている
*動力伝達系のシステムについては、カルフォルニア州サンカルロスの工場で引渡しを始めた
*2台目の自動炭素繊維部品の製造機(Automated fiber placement machine)の導入により、カルフォルニア州のマリーナ工場で当初の製造量を賄えるに十分となった
*現在飛行している2機のプロトタイプの機体では、航続距離150マイル(278km)以上で10,000フライトサイクルのバッテリー(EV用のグレード)寿命を実現している

Follow_Up:2022年2月15日、ANAHD「空飛ぶタクシー」参入 関空から大阪駅15分
Follow_Up:2022年10月19日、JCABに型式証明申請_5人乗り「空飛ぶクルマ」量産へ日米連携

2.Beta Alia

Beta Technologies社は、米国バーモント州に本拠を置くスタートアップ企業で。eVTOLに関しては、キーとなるイノベーションである電動推進機構にフォーカスし、残りの部分は出来るだけ従来の固定翼航空機の考え方を踏襲し、FAA(米国連邦航空局)の認可を得るためのハードルを可能な限り低くしている。これは、ティルトタイプを選択しているJovy AviationやArcher Aviationとは別の道を歩んでいます
<性能>
*最大離陸重量は7000ポンド(約3.18トン)
600ポンド(約272kg)の搭載量航続距離250マイル(約463km);1500ポンド(約680kg)の搭載量では航続距離200マイル(約370km)
*巡航速度は時速145マイル(約269km/h)
*リチウムイオンバッテリーの容量330kwh充電時間は約1時間)
*上記の性能は、エネルギー消費の激しい離着陸の時間を、通常の操作では40秒間に制限していることから得られる
<機体仕様>
搭乗人員はパイロットを含み6人、貨物仕様の場合は200立方フィートの貨物の搭載が可能
*垂直離着陸用の4つのプロペラは巡航時には前後方向に揃えられて停止し、空気抵抗を最小化していると
*推進系には、ナセル構造はなし。プロペラは固定ピッチ
翼を使った巡航飛行には胴体後部のプッシュタイプのプロペラが使われる
*滑走スペースさえあれば離陸と着陸、又はそのどちらかをエネルギー消費のはげしい垂直離着陸をしないで離着陸ができる
<開発体制>
*既に5.11億ドルの投資を得て350人を採用して開発を継続しており、他社との合併・提携は不要。投資している企業には、アマゾンClimate Pledge基金の他、Aliaを発注しているUPSUnited Therapeutics 、Blade Air Mobilityなどがある
*Beta社は、モーター、インバーター、バッテリー、フライトコントロール・システム、機体仕様(aircraft configulation)などに関わるベストな会社を選定し、自社でこれらを統合することを行っている
<開発目標>
*最初の耐空証明取得を目指す機体は、2022年に初飛行を行い、2024年の終わりにFAR Part23(コミュータータイプの航空機区分)の耐空証明の取得を目指している
*Beta社は、パイロット二人乗りの実験機を制作し、2020年2月から予備的なテスト開始している;この実験機は2ペア(4台)のティルトするバリアブル・ピッチのローターを装備しており、フライトコントロールのテスト機として使用している。これで、バッテリ・マネージメント、fly-by-wireシステム(コントロール信号の伝達を電気で行うシステム)の評価、離着陸から巡航飛行の間の遷移状態の評価(オスプレーの事故は大半この遷移状態で起きている)などを行っている
<受注機数>
*Aliaは最初の顧客として旅客輸送ではなく、貨物輸送に絞っている
*受注している会社:①United Therapeutics(米国の臓器製造などを行っている企業/60機;②Blade Air Moblity(ヘリコプターを使ったライドシェアの会社/臓器輸送の為にAliaを使用する計画/20機;③UPS/オプションを含め160機予約(内10機は2024年に受領)
<特記事項>
Aliaは、エアタクシーではなく、テスラの急速充電ネットワーク・スタイル(Tesla Supercharger-style)の航空機版のビジネスモデルを目指している
-「冗長性確保」によるフェイルセーフの設計仕様の採用-
垂直離着陸用の4つプロペラは各プロペラが2台のモーターで駆動され、更に各モーターの巻線は二重になっている
推進用のプロペラはモーター2台で駆動され、各モーターは二重巻線となっている
垂直離着陸用の4つのプロペラと巡航飛行用のプロペラは、夫々5つの独立したバッテリーで駆動している
*既にワシントンにあるAliaのシュミレータ(飛行テストで得られた実際のデータが入れられている)で A&W社の熟練パイロットが操作を行った感想は、「この機体が殆どの飛行モードで如何に在来機の操縦と変わらないかということと、在来機との違いはどこのあるかが分かった」二つのタッチスクリーンと合成画像(synthetic vision)のPFD(Primary Flight Display/飛行に必要な情報を集中して表示する装置/現在の大型旅客機には必ず装備されています)は通常の飛行データに加え、バッテリーとモーターに関わる情報が表示できるように変更を行っている
*インフラへの投資;
当面、空港やVirtiport(空港以外のVTOL機の離発着場所)に必要なインフラが整って無いことから、空港における燃料搭載用のトラックに似た「充電トラック」を開発。また、
機体が離着陸できる高いデッキ乗員休養室飛行計画室(planning room)、充電設備(機体と車両)を備えた「airport in a box」を開発し、発注した顧客には配置する計画

3.Volocopter
Volocopter社は、ドイツに本拠を置くベンチャー企業。2011年、航空業界に参入し、空飛ぶ自動運転タクシーの開発を進めている
<性能>
*航続距離:約35km
*最高飛行速度:約70マイル(約130km/h)

<機体仕様>
*搭乗人員はパイロットを含め3名
*18ローターのeVTOL

<開発体制>
2016年、ドイツ当局から2名乗りボロコプターの暫定ライセンスを取得。また、ドイツの自動車大手、ダイムラーからの出資も受けている
*ドイツのメディアによれば、SPACを通じて買収される話はキャンセルとなった。現在、あらゆる種類の投資家にオープンになっている
。従って、同社は、資金繰りには未だ問題を残している
VoloCityのテストフライトに成功すれば、他のライバルに先駆けてエアタクシーサービスを開始することが出来る
従業員400名を確保し、2021年7月、DG Fugzeugbau (ドイツのグライダー製造会社)を買収し、eVTOLに関わるEASAの製造認可(Production Organization Approval)を取得した
<開発目標>
*ドイツの物流会社DB Schenker(出資社でもある)と共同作業を行い、無人の貨物eVTOLであるVoloDrone を計画しており。CertificationはVoloCityに続いて行うことにしている
*2021年に飛行するとされていたVoloCityは、未だグラウンドテストの状況で、Certification取得は2023年にずれ込んでいる
*2021年、より航続距離の長いVoloConnect(2席、翼付き)をローンチさせた。2026年に型式証明を取得する計画

*2020年代半ばには、エアタクシーサービスを以下の国でローンチするアグリーメントを締結:中国、フランス、イタリア、日本、サウジアラビア、韓国

<受注機数>
*自動車メーカーのGeelyとのジョイントベンチャーを作り、150機のオーダーを得ている
JALは100機の導入を行い、大阪万博で運用されることになっている
Follow_Up:2022年8月日経新聞_空飛ぶクルマの有人飛行、三菱地所・JALなど2024年度に都内で実証実験

<特記事項>
*ボロコプター社は、ルフトハンザと共に、VoloIQ booking というアプリケーションとデジタル・バックボーンの開発を行っている
*フライトシミュレーターの会社であるCAEとeVTOLのPilot Training Programの開発を行っている
SkyportsなどのパートナーとVoloPort Landing Infrastructureの開発も行っている
2024パリオリンピックでは、トライアルでエアタクシーのサービスを計画している
シンガポールローマ、及びサウジアラビアのNoem Smart cityでエアタクシーのサービスを計画している
*同社は今回、ドバイ当局と協力し、空飛ぶ自動運転タクシー初のフライトテストを実施。フライトテストは、ドバイの厳しい気候条件の下で、信頼性を確認するのが目的。ドバイの航空関係当局が求める前提条件を満たしたため、テストが許可されている(ドバイでのテストフライトの動画

4.Lilium

Lilium社はドイツのミュンヘンをベースとする会社で、見るからにユニークな姿をした電動航空機を開発しています。既にその姿はウェッブサイトに載っていますので垂直離着陸の様子をご覧になって下さい
<性能>
*航続距離:250km以上
*巡航速度:280km/h
<機体仕様>
搭乗人員はパイロットを含め7
*推進用モーターが装備された主翼・前翼と胴体後方下面のカナード翼(主翼とは別の小さな翼)
*推進用モーターは36ヶあり、離着陸の時はこの推進装置全体が翼の所で
折れ曲がる
*推進システムは独自の「Ducted-Fan Vectored-Thrust」を採用している;
<開発目標>
*以下の様な野心的な生産目標を掲げています、が実現するか?

<開発体制>
*2020年にEASAとの間で、このeVTOLはVTOLに関わる特別条件(Special Condition)でCertificationを取得することに合意している
*2022年、パイロットを乗せた7席のPDR(Preliminary Design Review)を行うとともに、無人の5席の技術実証機(Technology Demonstrator)の飛行テストも継続する
*2021年は750人で開発を行っていたが、2022年には950に増員する計画
*資金流出は続くものの、9月に発表されたSPAC Quell Acqusition社との合併で得た5.84億ドルを得て、2024年末に予定しているLaunchに必要な資金は確保
*Lilium Jetの詳細なデザインは、2022年に始まり2023年に初飛行を目指している
*コックピット・アビオニックス、及び飛行制御システムはHoneywellから提供を受け、胴体と主翼は、東レから複合材料の提供を受けてスペインのAcituri社が製造する
*PDR(Preliminary Design Review)を行った後、Liliumは、他のサブシステムに関しては、機体構造製造に関わる一次プライアー^Supplier(Tier1)と手を組むことになっているが、パンデミック後のサプライチェーンの混乱とインフレが購入価格とリードタイムに与える影響を慎重に見極めている
*Jovyが自動車用のバッテリーを使っているのに対し、LiliumはドイツのCustom Cells社の新開発の高性能なバッテリー(High-energy-dencity Silicon-anode battery)を採用し、Lilium Jetの野心的な性能目標を達成しようとしている。この高性能な蓄電池の最初のデリバリーは2022年を予定しているが、現在モジュールレベルのテストを行っている段階にある
<受注機数>
*AZUL Brazilian Airlines社から220機受注

<特記事項
開発中の高性能な蓄電池の採用に関しては、価格や製造できる量などに疑問が残る
*Lilium社はUAM(Urban Air Mo)よりも地域航空で使われることを狙っている;旅客・貨物の既存の航空会社への販売の他、2025年にドイツの空港及びフロリダ州のインフラの会社であるFerrovial社のサポートを得て地域航空のネットワークを作る。尚、Ferrovial社はスペインと米国でVirtiportを建設することを計画している

5.Archer Aviation

カリフォルニア州パロアルトに拠点を置くオンライン求人マーケットプレイス「Vettery」も創業したAdcockとGoldsteinの2人が2018年にArcher社を立ち上げました。会社の概要はArcher Aviationのホームページをご覧ください
<性能>

*航続距離:60マイル(約111km)
*巡航速度:150マイル(278km/h)
<機体仕様>
*搭乗人員はパイロットを含め5人
*固定翼
*プロペラ6基;プロペラは全てチルトタイプ(Tilt Type)になっており、プロペラ部分を傾けることにより垂直離着陸と巡航時の推進用の両方を兼ねている
*プロペラを駆動するモーターは12ヶ(各プロペラは2モーター)
*バッテリーはリチウムイオン電池

<開発体制>
*2021年9月7日、FAAの型式証明取得の第一段階であるG-1認証を受領。FAAとの間ではPart23ベースの認証を取得することで合意している
*デモンストレーター機による最初の浮上飛行は2021年12月に行われた
*現在量産機の設計段階にあり2023年には公表予定
*2021年9月、SPAC Atlas Crest Investment社と合併し、8.58億ドルの資金を得た
*現在200人以上の開発要員を擁しており、動力伝達機構(Powertrain)と飛行制御機構(Flight Control)のソフトウェアを開発中。
*サプライチェーンについては、自動車メーカーのStellantis社と共同作業を行っており、製造プラントの選定は2022年に行われる
開発目標>
2024年後半までにこのeVTOLでPart135エアキャリアの認可を取得しエアタクシーを自社で運営する(1回の短時間の充電で、往復25マイル(約46キロ)程度の飛行を想定している)
*Mobile Booking(スマホなどによる予約)のアプリについては2023年に公表する計画
<受注機数>
*United Airlines:200機+オプション100機
<特記事項>
*この機体の用途としては自社で運営するエアタクシーの他に、航空会社にも販売する
*機体が頭上を通過しても殆ど聞こえない様な低騒音(45DBA;DBAとは通常使われる音圧の単位「デシベル」を人間の周波数別の感度で補正した単位)を実現

6.Vertical Aerospace VA-X4

Vertical Aerospace社社は、英西部ブリストルを本拠とし、人工知能(AI)を駆使して電力事業を展開するOVOエナジーの創業者のステファン・フィッツパトリック氏が2016年に設立しました(宣伝用の動画
<性能>
*最高速度:325km/h
*航続距離:160km

<機体仕様>
*搭乗人員:パイロットを含め5人
固定翼
*離陸用に8個のプロペラ;推進用に4個のプロペラ
<開発体制>
*2021年、
SPAC Broadstone Acquisitionに約3億ドル(内2億ドルはDebt Financing/債権金融)で吸収合併されたのち、12月16日に米国証券取引所に上場された。
*競争他社のSPAC取引に比べればやや見劣りするものの、VA-X4エアタクシーの認可取得と、2024年末までに生産を始めるに必要な2.5億ドルは確保できている
*このSPAC取引では、9千4百万ドルの投資家の中に、サプライヤーであるHoneywellロールスロイスマイクロソフトと、顧客となるアメリカン航空と、航空機リース会社であるAvolonが含まれている
*計画に入っている資本コストが実質的に少なくて済んでいるのは、サプライヤーとなる企業が負担する技術開発費が5億ドルに相当するからである
*現在260人以上の開発要員は、バッテリープロペラのシステムに焦点を当てて開発している
*ロールスロイス社は電動推進システムを供給し、Honeywel社はコクピット・アビオニックスとフライトコントロースシステムを供給してくれることになっている
GKN Aerospace社は、ワイヤリングシステムと主翼を担当する。主翼の材料についてはSolvay社からの複合材を使用することになっている。他のサプライヤーについてもいずれ明らかにされる
2022年には製造拠点を選定することになっており、場所はブリテン島か、北アイルランドか、アイルランド(共和国)になると思われ、2026年には年間生産機数を1000とする野心的な目標を掲げている

<開発目標>
*2018年にVA-X1(1人乗り;Ducted Fan)、2019年にVA-X2(2人乗り;マルチコプター)の技術実証機(Demonstrator)を飛行させた
*2024年にFAA(米国連邦航空局)から型式証明を取得する計画
*フライトテスト用のVX4は少なくとも最初は無人機となる予定
*型式証明を取得するための原型機は2023年に飛行を予定している
<受注状況>
*2021年11月時点で1350機
*主な受注先:アメリカン航空(250機+option/100機)、バージンアトランティック航空(50機+option/100機)、JAL(50機+option/50機)、Avolon(アイルランドのリース会社;310機+option/190機)、丸紅(200機予約注文)
*JALは50機まで購入またはリース、更に追加で最大50機導入可能(2021年10月22日日経新聞情報)
Follow_Up:2022年4月9日日経新聞記事_マレーシアのLSS・キャピタルAがAvolon社より100機以上のリース導入で基本合意
<特記事項>
騒音は実測でヘリコプターの数百分の

Follow_Up:2022年12月13日「英バーティカル社の空飛ぶタクシー、運用費ヘリの3割_CEOが表明、大阪万博でデモ飛行

7.EHang
EHang(イーハン/亿航)は2014年中国広東省広州市で設立され、航空撮影、写真、緊急対応、調査ミッションのために自律型のドローン、eVTOLを開発・製造している企業。自律型二人乗りの原型機EH216はデモンストレーション飛行を行っています(動画
<性能・機体仕様>
EH216;
VT-30;
<開発体制・開発目標>
*2021年になってEHang社はビジネスプランの変更を行い、機体を製造し販売する業務を売却し、機体を運用するビジネスに切り替えた
EHang社はビジネスを変えたために、機体の販売はEH216Fという無人消防機のバージョンであり、顧客は長期契約の政府機関である
EHan社は、2021年に開発した主翼付きのeVTOLで航続距離の長いVT-30の飛行テストを始めた
*2021年12月までに、中国内7ヶ所(広東ー香港ーマカオを含むグレーター・ベイエリア)で、2800回の運用トライアルを実施した。トライアルは、引き続き広州、深圳で続けられており、今後、珠海、珠江デルタエリアでも実施される

二人乗りの自動運転のEH216は、2022年には中国規制当局(CAAC/Civil Aviation Administration of China)のCertificationを取得できると思われる。尚、CAACは既に「旅客ドローン」に関する規則を発行している
*他の国々のおいて既に無人飛行のデモンストレーションを行ったものの、商用飛行の認可を得るには米国や欧州の規制当局の型式証明取得に相当長期間が必要と思われる
*CAACの承認を得てEH216の型式証明取得のトライアルを実施することに併せ、EHang社による最初の商用サービスを実施する100の路線を公表した
*航続距離の長いVT-30 を使って、グレーター・ベイエリアで都市間(最大300km)のエアタクシーサービスを開始する計画

<特記事項>
*EHangは明らかにUAM(Urban Air Mobility)界のリーダーと言えるものの、それは中国内だけのこと。中国以外の国で商用航空機として運用する為にはFAAまたはEASAの型式証明が必要となり、規制の枠組みが異なるために取得は難しい
*仮にEHang社がCAACのCertificationを取得したとしても、EHan社は、Volocopterが成都に設立した中国の自動車メーカーGeelyの投資会社との合弁会社と競争しなければならない。また、Liliumも投資会社Tencentの助けを借りて中国に進出する計画を持っている

8.Eve
米国に本社のあるEve社は、2020年10月に航空機製造会社であるエンブラエル社からAAM(Advanced Air Mobility)開発部門が独立(spinoff)した会社
(参考)エンブラエル社は1969年創業の航空機製造の会社で、JALもエンブラエル社製の小型ジェット機E170型機、E190型機を運航しています(Eve社のホームページ
<性能> ネット情報より
*最大離陸重量 :2200 ポンド(約1トン)
*運用コスト:50%減(対ヘリコプター)
*騒音:80%減(対ヘリコプター)
<機体仕様> ネット上の画像より
*搭乗人員:パイロットが含め5人
*固定翼
*垂直離着陸用プロペラ4基、推進用プロペラ2基
<開発体制・開発目標・>
2021年12月21日、Eve社は、2022年にSPAC Zanite Acqisition社と合併を行った。この合併によって調達資金は5.12億ドとなったが、ここにはRepublic AirwaysSkyWest AirlinesAzorra(航空機リース会社)、Falco regional Aircraft(航空機リース会社)、BAE Systems、ロールスロイス、などからの3.05億ドルが含まれている
*この取引によりEve社は24億ドルの企業価値を得、取引の後には5.12億ドルのキャッシュを手に入れることになった。これによりeVTOLのエアタクシー事業を2026年までに開始する計画に十分な資金を調達できたことになる
(参考) Zanite社はKenneth C. Ricci氏に率いられており、彼は、小型機のチャーター会社であるDirectional Aviation社を率いている。
*合併後もエンブラエル社はEve社の株式の82%を保有しており、ブラジルの技術規制当局(ANAC)との間の型式証明取得に関わる強力な関係、製造やコスト面でのメリットが期待できる
(参考)Eve社はブラジルの規制当局であるANACに自由にアクセスできる。この結果、FAAとEASAの規制当局間の相互承認の恩恵が受けられることになる

*機体の生産は市場の大きい地域には組立キットにして提供し、現地生産でオペレーターのコストを低減することを計画している
*Eve社のビジネスプランは以下の4本の柱で構成されている;
機体の製造及び販売(2026年に初号機引き渡しを始める)
他社のeVTOLを含めてのサービス及びサポートの実施
③ UAM(Urban Air Mobility)
に関わるマネージメントシステムの提供
Eve社は自身で機体を運用しないが
、eVTOLを使ったオペレーターの運航管理、リスク管理に関わるサポートを行う
BAE Systemsロールスロイスに加え、Eve社がオーストリアの機体構造の会社であるFACCとの協力関係を築いている。但し、FACCとはサプライヤーセレクションの段階である

<受注機数>
*Eve社は、既に17の顧客から1735機の予約注文(LOI/Letter of Intent)を受けている。この発注数はAAM
市場で最大。顧客は、エアライン、ヘリコプター運航会社、航空機リース会社、ライドシェアの会社(アジア、ブラジル、フランス、英国、米国)に亘っている
Halo Aviation(ブラジルのヘリコプター運用会社、ニューヨークとロンドンに拠点を持っている) 200機、Helisul Aviation(ブラジルの会社で、ラテンアメリカで最大のヘリコプターオペレーター) 50機
*2021年12月6日、オーストラリアのSydney Seaplanes 50機
Follow_Up;2022年10月日経新聞、イブ_ブラジル「空飛ぶ車」の開発前進・ユナイテッド航空が出資

Follow_Up;2023年6月日経新聞、ニデック、空飛ぶクルマ部品に参入 エンブラエルと合弁
Follow_Up;2023年10月日経新聞、空飛ぶ車の受注2850機 ブラジル企業、サンパウロで製造
9.City Airbus

*2021年9月、Airbus社は関連会社であるCityAirbus社のeVTOL「CityAirbus NextGen(上の写真)」を発表した。この機体は主翼付きのマルチローターで、都市内で運航することに焦点をあてて開発された
<性能>
*航続距離:80km
*巡航速度:120km / h
*騒音レベル:上空通過時/65DBA未満、着陸時/70DBA未満
<機体仕様>
*パイロットを含め5人乗り
*固定翼、V字型の尾翼
*8基の電動ローター(Tiltタイプではない)
<開発体制>
*2019年からShrauded-roterの原型機で地上のテストと飛行テスト(合計1,000km)を行っていた
*2021年からCityAirbus NextGenの詳細設計フェーズに入り、プロトタイプの最初の飛行は2023年に計画(宣伝用の動画

<開発目標>
初飛行は2023を予定しており、2025年に発行されるVTOLに関わるヨーロッパの特別規定(Special Condition)に準拠して型式証明を取得する計画になっている
*この機体の性能目標(航続距離、巡航速度など)は、他社の翼のあるeVTOLより下回っているものの、簡素化された設計により、UAMミッションの95%に十分な性能が提供されると考えている

10.Wisk  Aero
2019年米グーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏が出資する米キティホークとボーイングが2019年に共同で設立
wisk社のホームページ
Follow_Up_2022年2月13日(日本で「空飛ぶタクシー」 ボーイングなど出資の新興
<性能・機体仕様>
*自律飛行、3から4人乗り
*航続距離:100kmプラス
<開発目標>
*大都市のエアタクシーとしての利用を目指す。目標とする料金は、1km当り1.25USD(←ライドシェアのウーバーより安い!)
*事業開始から5年後に2,000機を投入し、年間約4,000万人の利用を目指す
<開発体制>
ボーイング社のエンジニア訳100人も開発に参加ボーイングが経験を持つ自動運航やFAAの認証取得に関してアドバンテッジがある

11.Hundai
韓国の自動車メーカーであるHyundaiは、電動航空機のファミリーを開発する為に2021年11月に新会社のSupernal社を設立し、株主(となっている会社?)と共に、既存のトランジット旅客の一貫輸送(intermodal)ネットワークを構築する為のAAMの開発を行うことになった
<開発目標>
*米国を本拠とする「Supernal社」はそのeVTOLエアタクシーを2024年に型式証明を取得し、2028年に商用運航を始めることとしている

12.OverairOverair社のホームぺージ
<性能>
*航続距離:160km以上
*巡航速度:320km / h
*騒音レベル:30DBA以下
<開発目標>

13.Honda

本田技術研究所 新モビリティドメイン統括フェロー 川辺俊氏【インタビュー】

*目標:都市間の輸送を担うことから航続距離400kmを狙う。
川辺氏は、エネルギー供給源にタービンを想定しているが、脱炭素を実現するには水素を燃料とする必要があります。しかし、現在の技術ではLPGなどの燃料に比べると水素の燃焼速度が速いので、技術のハードルはかなり高いと思われます。ただ、三菱重工グループが発電用ではありますが、水素ガスタービン開発を行うようなので、将来的には可能性は十分あると思われます

Follow_Up:2022年3月4日、ヤマハとトヨタが「水素V8エンジン」を本気でつくった!という記事が出ていました()

*A&Wの記事でランクに入っていなかった電動航空機
〇Skai米国マサチューセッツ州のAlakai Technologiesが開発。NASAとパートナーシップを結んでSkaiを開発
性能
*最大離陸重量 :2267kg
*搭載可能重量: 454kg
航続距離 :300マイル
*巡航速度:時速 100マイル

機体仕様
*パイロットを含め5人
*6モーター駆動、燃料電池3台、
航法システムは3重装備
開発目標2020年末にFAAの認証(FAR Part21.17b)を目指していたが、未だ取得していない模様
特記事項
*リチウムイオン電池のエネルギー密度は
0.6MJ/kgに対し燃料電池のエネルギー密度は147MJ/kg(リチウムイオン電池の245倍
(注)MJ(メガジュール):エネルギーの単位
Alakai社はこの機体を製造するだけでなく、エアタクシーの事業も運営する計画
*席当たりのコストはアバスのヘリコプターAS350の1/8になると言っている

〇Advanced Air Mobility

Advancesd Air Mobilityに関しては、沢山の用途や機体の仕様が提案されているが、どのアイデアも成功するか否かは分からない状況にある

〇Autoflight

中国・上海ベースのAutoflight社は、2021年に1億ドルを調達し、4人乗りのeVTOLであるV1500Mの開発を開始した。この会社は、10月にプロトタイプを飛行させ、2024年に型式証明を取得する計画を立てている

〇HT Aero
HT Aero社は、中国のEVメーカーであるXPenが所有し、5億ドルを投じて2024年にeVTOLを市場に投入する計画。
この機体は商用エアタクシーではなく、2ローターの「空飛ぶスーパーカー」としての市販を目指している

Karem Aircraft韓国の防衛産業であOverair社は、Hunwha System社のバックアップを得てKarem Aircraft社を設立し、2023年早期にデモンストレーターを飛行させ、2026年にはButterfly quad-tiltrotorの機体のCertificationを取得することを目指している

〇日本の若き起業家による電動航空機開発へのチャレンジ
*スカイドライブ動画
Follow_Up:2022年9月_米モーターショーに「空飛ぶバイク」登場

*テトラ・アビエーション会社紹介のURL

その他のユニークな電動航空機

〇海面上を低空で飛行し地面効果による揚力増加で経済性を高めることを狙った電動航空機

長い海岸線に点在する多くの都市を持っている国では有用であると考えられる。但し、海上交通や沿岸漁業がが盛んな国は船舶との衝突リスクが無視できないと思われる

〇通常の航空機のエンジンのみを電動とした実験機(ロールス・ロイス製)

英国のロールス・ロイス社が、電動航空機による飛行速度記録の樹立を目的として開発されました。英国主催のCOP26開催前に初飛行に成功しています。航空機名は「Spirit of Innovation」
因みに、プロペラ機での最速速度記録は第二次大戦中ドイツで開発された戦闘機メッサーシュミット(ME109)です。時速755.13km/hを記録しています

〇超電導モーター推進の未来の航空機

超電導でモーターを使えば極めて大きなトルクを発生させることは可能ですが、超電導用の冷却装置を装備する必要があると考えられ、また燃料として液体水素を使うこととなれば燃料タンクの設計も中々ハードルが高いと思われる

おわりに

電動航空機の開発状況については、現役を離れて長い私にとっては情報収集に限界があり、開発をしている各社の現在の開発状況の記述が不揃いになってしまい残念でなりません。今後、新しい情報を得次第増補、修正をしたいと思っています

電動航空機が普及するには、運賃に直結する席当たり運航コスト(Seat mile cost/詳しくは私のブログ「エアラインというビジネス」をご覧ください)をできるだけ下げることが必要になります。ただ、既に大手航空会社を含む運航会社が大量機数の購入予約を始めていることは、ある程度の見通しが立っていることと思われます。しかし、これまで安定電源のベースになっていた火力発電と原子力発電の動向が電動航空機の燃料となる電気料金に大きく影響するのは間違いなく、購入予約を行った各社の一番の心配事ではないかと想像しています。
また燃料電池や水素を使ったタービンや内燃機関による電動航空機も、水素の値段や供給体制も未だ確たる未来の姿が定まっていないので、購入を躊躇する運航会社も多いと思われます

今後、開発の進んでいる会社が直面する大きな壁は、開発の最後のステージで取得しなければならない機体の型式証明の取得です。航空機の発展につれ、事故を起こさない為の型式証明の検査がより厳しくなる傾向にあり、この検査を通らない限り乗客を乗せての運航は出来ません。日本期待の三菱航空機「スペースジェット」もこの壁に阻まれて長期間開発が頓挫してしまいました

日本での電動航空機の導入には、多くの航空機とヘリコプター、無人ドローンが飛び交う空の交通ルールの整備が不可欠です。これから規制当局(JCAB)がルール設定をすることになりますが、過密度の高い日本の大都市ではライドシェアやエアタクシーの運航を可能にするルール設定はかなり難しいと想像しています
また、日本独自の電動航空機の開発はもう少し先になると思われますが、日本は電動航空機に関わる要素技術では最先端にあることは間違いないと思います。既に述べたバッテリーモーターなどの高い技術水準の他に、インバーターの心臓部に使われているSiC(シリコンカーバイト)製のパワー半導体機体の軽量化に必須の炭素繊維は日本のお家芸であり、日本が全世界の電動航空機普及の恩恵を受けるのは疑いの無いことだと思います

Follow_Up:2022年1月2日・日経新聞記事(脱炭素、本命担う先端技術は 薄型太陽電池や電動航空機
Follow_Up:2023年11月6日・日経新聞記事(空飛ぶ車、離陸近づく 新興30社が軽量化・航続距離競う)

以上

私の巣篭もり生活!

はじめに

今年4月7日に新型コロナ(CIVID-19)蔓延に伴い緊急事態宣言が発令されてから既に4ヶ月以上が経過しました。緊急事態宣言自体は5月25日には全面解除されましたが、依然として新たな罹患者が毎日相当数発生しており、我々の様な高齢者は、自らの命を危険にさらすことになる外出を極力控える毎日がつづいていいます。
自宅での謂わば“巣篭もり”の生活を続けることは誰にとってもストレスの多いことですが、芸能人たちがインスタグラムなどで巣篭もりの日常を晒すことによって自身のストレス解消を行っていることを真似て、私自身も恥ずかしながら“巣篭もり”生活の日常を晒してみようかと思い立ちました
ご参考になるかどうかは分かりませんが、以下のようかことをやって毎日をそれなりに楽しく過ごしています。ただ、大変マニアックな話が多いので、興味のない方は読み飛ばしてください

私の平均的な生活パターン

歳を取ってからは、生活のリズムが狂うと体調を崩すことが多くなってきました(⇔免疫力の低下?)ので、最近は以下の様な規則正しい生活を心掛けています;
① 食事を採る時刻をできるだけ一定にする(朝食/8時前後、昼食/13時~14時、夕食/20時前後)
② 食事の量、飲酒の量をできるだけ控えめ?にする(飲酒は夕食時及び夕食後)
③ 毎日の睡眠時間をできるだけ一定にする(夜/7時間程度、昼寝/昼食後15分~30分)。尚、熱帯夜が続く昨今、夜の睡眠を良質なものにする為に寝室の温度設定を24℃以下にし、布団をかけて寝るようにしています

④ 屋上菜園での作業:午前中/1~2時間、夕方/30分~1時間
⑤ 新聞、ネットニュースなどによる情報収集:1時間~2時間
⑥ 読書、ブログ制作作業:1時間~2時間
⑦ 趣味の電気工作?、家具などの修理:1時間~2時間

⑧ 週に一回程度都心に出て「本屋めぐり」などを行い8,000歩程度の運動量を確保(往復の交通手段を含めて“三密”の状況は回避)する。この日以外は平均2,000歩前後(プラス屋上菜園での力仕事など)。⇒ スキーシーズン前にはこれに加え筋トレを適宜実施する希望的!予定があります
⑨ 月に一回以上ZOOMを使ったリモート飲み会を実施しています。この時ばかりは「② で述べた程々の酒量」を超えて飲んでしまうこともありますが、全く友人と会えない「巣篭もり状態」が続くなか、暖かいコミュニケーションが可能になっています

新聞・雑誌、ネットニュースなどからの情報収集

ただ漫然と行うのではなく、現役時代同様に得られた情報はパソコン内に収納し、ブログの制作や自身の考え方を纏める時に使えるようにしています。具体的には、冒頭の画像(ウィンドウズ・エクスプローラーの画像)にあるように、収納する情報は階層状にしたフォルダーで管理するとともに、情報量の変化、情報の多様化などに対応するため、適宜フォルダーの種類、階層構造の変更などを行っています。因みに、6月25日に発行したブログ(COVID-19と日本の近未来)は冒頭の画像の右半分(疫病のリスク)に整理されている情報に基づき纏めたものです

こうした情報のデータベースは、かなり長い期間に亘って毎日集めてきたものなので、私にとっては非常に大切なものです。しかし、今年2月末この情報が入っているハード・ディスクが突然壊れ冷や汗をかきました。幸い1月初めまでの情報はバックアップを取ってありましたので、蓄積した情報の喪失は僅かだったので胸を撫で下ろしました。以降、1週間に一度はバックアップを取るようにしています

因みに、現在冒頭の画像に収められている情報量は以下の通りです;
*ファイルサイズ:108ギガバイト
*ファイルの数 :55,932
*フォルダーの数:5,072

読書の仕方

歳を取ってから読書を長時間続けると目が疲れますので、週一回本屋を渉猟するなかで興味を覚えた本や、新聞・雑誌で紹介され興味を覚えた本(主としてアマゾンの通信販売で購入)が中心になりますので、読書量は自慢できるほど多くはありません。60歳を過ぎたころから歴史好きになり、結果として最近は50%位は歴史関連の本になっています
ただ、偶々今年3月24日に封切された「三島由紀夫vs東大全共闘」という映画を観た結果、俄かに!三島由紀夫の思想、人生に興味を抱き非常事態宣言中は以下の本を丹念に読む機会がありました;

読了した三島由紀夫作品

また、これらの本を読んだ結果、「特攻」を志願し生き残った人や、少年時代に戦争を実体験している知識人の「生死」に関する考え方を知りたくなり以下の本も続けて読みました;

「生と死」関連

上記の本は全て「生・老・死」の問題が主要なテーマになっていますが、勿論結論などは得られていません。いずれこうした問題に関する自身の考えが煮詰まってきたら死に関する私のブログ二編(“死”について“死”について_その2)の続編を書いてみたいと思います

私の本の読み方は、読書中にやたら赤線を引き、心に刺さった文章のあるページには全て付箋を付けますので、BOOK OFF ではタダでも引き取ってくれない本になってしまいます。しかし、近頃若者の読書離れが進んで困っている出版社や本屋には歓迎されるかもしれませんね!

趣味の電気工作?

高校時代まで私は「電気少年!」だったので、時折秋葉原周辺の店(勿論、フィギュアの店、メイド喫茶、などは間違っても入りません!)を覗いて廻ります。最近は昔ながらのパーツを売る店は少なくなったものの、電気少年が買いたくなるような製作キットを売る店が幾つか残っています。最近そこで衝動的に買ったのが可変出力スイッチング電源(0.8~24ボルト)キットです。
この電源キットは、最近拙宅によく来る孫の一人がLEDのライトを使って何か作ってみたいと言っていたのを思い出し、実験用のボードと併せて買ったものです;

自作の可変電源と電子回路テスト・ボード

確かデジタル電圧電流計を合わせて買っても2千円程度だったと記憶しています。私の少年時代にはこのレベルの電源を自作するのは、金額的にも、性能的にも、製作時間から言ってもかなり決心がいる買い物になっていたと思います
尚、件の孫は夏休みの宿題の工作で「LEDライトを使ったプラネタリウム」を作って私を喜ばせてくれました!

昨年10月22日にカラオケ万歳!というブログを投稿しました。ここで「一人カラオケセット」を自宅の机の前にセットして楽しんでいると紹介しました。しかし、このコロナ禍の中で老人のカラオケはクラスターの元凶(全国でクラスター発生、明るみに出た「昼カラオケ」の実態)と非難され、私のカラオケ仲間はもう何ヶ月も唄えないと嘆いておりました
そんな折も折、アマゾンの通販で電子回路のキットの値段をチェックする機会があり(6月にZOOMを開始する前、私の自作パソコンにはカメラ・マイクが装備されていないので格安のパーツ探していた!)、驚くほど安いものがあることを発見しました。近年、国産、外国製を問わず色々な電気製品が驚くほど安くなっている原因がここにあると納得した次第です。これらはいずれも中国製です。信頼性についてはあまり期待できないと思われますが、ともかく安いので、これを使ってカラオケ仲間数人で楽しめるカラオケセットを試作してみよう、と思い立ち作り上げたのが下の写真のアンプです;

自作のアンプ

残響ボード(所謂マイクにエコーをかける装置)の値段は何と!1,256円

残響ボード

ヘッドホン・アンプの値段は何と!2,205円

ヘッドホンアンプ

50Wx50Wのステレオアンプは何と!1,598円

50Wx2 デジタルアンプ

これらに、壊れて廃棄した電化製品やパソコン類から取り外し保管していた(全く貧乏性ですね!)古い電源を取り付け1セットのカラオケ・アンプにしてみました

更に、機能を充実させる為に、Hard Off という近頃流行っている中古屋で、バンド活動ではなくてはならないミキサーの中古品を5千円ほどで買い揃えました;

Mixer

これは新品でも1万円程度で購入できますので、恐らく始めたばかりの学生のバンド活動で使われていたのではないでしょうか
いずれにしても、これらのセットに、パソコン、またはスマホで 、YouTubeで公開されているカラオケのソース音源を入力することでカラオケを楽しむことが出来ます
大人数でやる時にはスピーカーを繋ぎ、周りに迷惑が掛かる環境下ではヘッドホン(4台まで接続可能)を繋いでカラオケボックスでの臨場感を味わうことが可能です。既にテスト済みですが、近い内に機会を見つけてカラオケ仲間と楽しんでみたいと思っています

以上

災害のリスクについて_その2

はじめに

二年ほど前に、災害全般について、そのリスクの分析と、リスクから生き延びる方法について、ブログを発行しました(災害のリスクについて考えてみました
今般、昨年後半の強烈な風台風(台風15号)と猛烈な雨台風(台風19号)による甚大な被害を受けて、前ブログの補完をすべく災害リスクに関わる本を漁っていた所、寺田寅彦(1878年~1935年;地球物理学者、随筆家)の「天災と国防」という文庫本を見つけました。読んでみると、恐らく百年近く前の著作にも拘らず災害の分析、及びそのリスク回避方法についての記事は多くの示唆に富んでいることが分かりました。余計なおせっかいとは思いますが、その内容の一部をご紹介するとともに、私なりのコメントを加えてみたいと思います

また、筆者(寺田寅彦)に倣い、拙宅付近の災害リスクを調査し、私なりの生意気な評価を試みてみました。災害リスクに関心のある方はちょっと覗いてみて下さい

天災と国防」を読んで

本書は「寺田寅彦全集」、「寺田寅彦随筆集」を基に災害に関連したもの12編を集め、再編成したものです。初版発行日(2011年6月9日)から考えると、同年3月11日の東北地方太平洋地震を受けて発刊を企図したものと思われます。巻末に「失敗学」で有名な畑村洋太郎(東京大学名誉教授)が解説を行っています。以下にテーマ毎に私なりの注目ポイントを抽出してみたいと思います。尚、引用する文章は旧仮名遣いや旧字を多く使っていますが、一部(津浪⇒津波)を除いて原文のままとしています
また、筆者の文章を引用する場合は括弧でくくることとし、私の補足やコメントについては青字で表記することにいたします

<天災と国防>
*「文明が進むにしたがって人間は次第に自然を征服しようとする野心が生じた」、「災禍を起こさせたもとの起こりは天然に反抗する人間の細工であると言っても不当ではないはずである
*「20世紀の現代寺田寅彦が生きた時代では日本全体が一つの高等な有機体である。電線やパイプが縦横に交差し、交通網がすきまもなく張り渡されているありさまは高等動物の神経や血管と同様である」、「天然の設計に成る動物体内ではこれらの器官が実に巧妙な仕掛けで注意深く保護されている

⇒昨年の台風15号で千葉県の一部で送電線が寸断され、回復に多くの時間を費やしました

台風15号・送電線被害

⇒一方、人間を含む動物の動脈は、体内の深いところにあり、通常の怪我では動脈が傷つくことが無いようになっています

*「昔の人間は過去の経験を大切に保存し蓄積してその教えにたよることがはなはだ忠実であった。過去の地震や風害に堪えたような場所にのみ集落を保存し、時の試練に堪えたような建築様式のみを墨守してきた。そうした経験に従って造られたものは関東大震災(1923年9月)でも多くは助かっているのである
*「昔の人間は過去の経験を大切に保存し蓄積してその教えにたよることがはなはだ忠実であった。過去の地震や風害に堪えたような場所にのみ集落を保存し、時の試練に堪えたような建築様式のみを墨守してきたそうした経験に従って造られたものは関東大震災(1923年9月)でも多くは助かっているのである
*「大震後横浜から鎌倉へかけて被害の状況見学に行ったとき、かの地方の丘陵のふもとを縫う古い村家が存外平気で残っているのに、田んぼの中に発展した新開地の新式家屋がひどくめちゃめちゃに破壊されているのを見た時につくづくそういう事を考えさせられた

室戸台風の進路

*「今度の関西の風害(室戸台風/1934年9月)でも、古い神社仏閣などは存外あまりいたまないのに、時の試練を経ない新様式の学校や工場が無残に倒壊してしまったという」

⇒2018年7月の豪雨に伴う広島、岡山の水害は、山すそに流れ出る小さな河川の扇状地に鉄砲水が流れ込んだことが原因と考えられます。いずれも新興住宅地になっており、こうした扇状地を農地として活用する分には問題はないものの、私有地であっても宅地として簡単に転用することが適切であるかは疑問があります

*「思うに日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸軍海軍の他にもう一つの科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのは当然ではないかと思われる

⇒ここでいう「常備軍」とは戦争を行う軍隊を指しているのではないと思われます。現在、災害が発生した時には地方自治体単位の消防、警察がまず対応し、必要に応じて都道府県首長の要請に基づき自衛隊派遣が行われる仕組みになっていますが、大きな自然災害が発生した時には寸刻を争う対応が必要となるので、人命救助に係る場合には自衛隊の自発的出動の仕組みが必要と思います。各種の装備と、訓練された多数の隊員を抱える自衛隊の方が、規模と即応力に関して圧倒的に優位にあると思われます

<災難雑考>
*「
災難の普遍性恒久性が事実であり天然の方則であるとすれど、われわれは災難の進化論的意義といったような問題に行き当らない訳にはいかなくなる」
*「日本人を日本人にしたのは実は学校でも文部省でもなくて、神代から今日まで根気よく続けられてきたこの災難教育であったかもしれない」

*「進化論的災難観とは少しばかり見地を変えた優生学的災難論といったようなものもできるかもしれない災難を予知したり、あるいはいつ災難が来てもいいように防備のできているような種類の人間だけが災難を生き残りそういうノアの子孫だけが繁殖旧約聖書の“ノアの方船”伝説すれば知恵の動物としての人間の品質はいやでもだんだん高まっていく一方であろうこういう意味で災難は優良種を選択する試験のメンタルテストであるかもしれない

⇒シニカルな表現ではありますが、的を得た指摘であると思います。大災害のあと生き残った人には、偶然ではない冷静で理知的な判断が働いていることが多いと思います。そこには恐らく流言飛語に惑わされない、今でいえばフェイクのSNSに惑わされない知識をとっさの行動に生かす知恵があったのだと思います
後述の、筆者(寺田寅彦)の関東大震災体験記を読んで頂ければよくわかると思います

<小爆発二件>
*この随筆は筆者(寺田寅彦)自身が浅間山近くで偶然経験した小噴火の経験を書いたものです
*新聞などの報道機関の書きぶりについて以下の様に皮肉を述べています
翌日の東京新聞で見ると、4月20日以来最大の爆発で噴煙が6里の高さにのぼったとあるが、これは自分が経験したものとかけ離れており信じられない素人のゴシップをそのまま伝えたいつもの新聞のうそであろう

⇒別の用件で旅行中に偶然噴火に遭遇したにも関わらず、20倍の双眼顕微鏡を持参していたこと、これですぐさま降灰を観察していることには驚かされます。また、新聞報道が大きな災害を報道するに当たって、伝聞や噂の類を垂れ流す状況は現在でも当てはまるように思われます。普段から災害を想定して、助かるために必要な知識を自分のものにしておくことの必要性を感じます

<震災日記より>
震災概要
①発生日時:1923年(大正12年)9月1日11時58分32秒ごろ
②震源:11時58分32に発生したM7.9の本震(震源:神奈川県西部)から3分後の12時01分にM7.2(震源:東京湾北部)、5分後の12時03分にM7.3(震源:山梨県東部)という巨大な揺れが三度発生した“三つ子地震”であることが最新の研究で判明しています
③死者・行方不明者:105,385人。これまで言われていた142,807人という数字は統計上の重複があったと言われています
④火災以外の被害概況:太平洋沿岸の相模湾沿岸部と房総半島沿岸部の津波高さ10メートル以上)山崩れや崖崩れ、それに伴う土石流による家屋の流失・埋没
⑤政府の対応:9月2日、東京府下5郡に「戒厳令」を施行し、3日には東京府と神奈川県全域にまで広げました。また、朝鮮人(本書では“〇〇人”と書いてある)虐殺に発展した流言飛語の存在をきっかけとして、9月7日には緊急勅令「治安維持の為にする罰則に関する件」(勅令403号)が出されました

3月10日未明空襲後の浅草松屋屋上から見た仲見世とその周辺の写真

*以下の筆者(寺田寅彦)の実体験を地図上で辿るには次の被害状況を参考にしてください(全17ページ):国会図書館所蔵の東京市被害地図
*震災当日、筆者は二科展見物の為に上野公園内の竹の台陳列館木造平屋建
1,248)に出かけ、見終わった後喫茶店で地震に見舞われました

最初の感覚:椅子に腰かけている両足の裏を下から木槌で急速に乱打するように感じた(短周期の振動
*「そのうち急激に大きな振動が襲い、自分の全く経験のない大地震であることが分かった。これは子供の頃から何度となく母から聞かされていた土佐の安政地震一般に安政の大地震とは、江戸時代後期の安政年間に、日本各地で連発した大地震の事を指しますが、ここでは1854年に発生した南海トラフ巨大地震である南海地震及びその32時間前に発生した安政東海地震のことを指していると思われますの話がありありと思い出され、丁度船に乗ったように、ゆたりゆたり揺れるという形容が適切であることを感じた
*「竹の台陳列館に展示されていた美術品の損壊は大したことはなく、この建物自体の揺れは激烈なものではなかった。後で考えてみると、建物の自己周期が著しく長い(⇔固有振動数が低い⇔地震動に共振しない)ことが有利であったと思われる

⇒この体験は、私が神谷町8階のオフイスで東北地方太平洋沖地震(通称3.11大地震)で経験した揺れと同じだと思います。現代のビルは柔構造で大きな地震に耐えるように設計されているので、長周期の大きな揺れがかなり長い時間続きました。

*「自宅(文京区本駒込曙町あたり)への帰途東照宮(上野公園内)前の方へ歩いて来ると異様なかび臭い匂いが鼻を突いた。空を仰ぐと下谷方面(鶯谷駅の東側)からひどい土ほこりが飛んで来るのが見えるこれは非常に多数の家屋が倒壊したのだと思った同時に、これでは東京中が火になるかもしれないと直感された。東照宮近くの上野大仏の首が落ちたことは後で知った」
*「根津を抜けて帰宅する積りだったが、頻繁に襲ってくる余震で崩れかかった煉瓦壁が新たに倒れたりするのを見て低湿地の街路は危険だと思ったから谷中三崎町台東区谷中から団子坂に向かった」

自身の臭覚と視覚の情報を動員して即座に大火発生を予測したこと、また余震で壁が崩れるのを見て、低湿地は地盤が弱い為と判断して遠回りでも迂回した判断は流石! 最近は、海岸沿いの埋め立て地(参考:浦安地区液状化被害)だけでなく、内陸でも低湿地や谷が埋め立てられて造成された住宅地は液状化現象で被害が拡大しますので、自宅が埋め立て地か否かの知識は大変重要です

*「団子坂を登って千駄木当たりに来ると被害は少なく、自宅付近は見かけ上被害は殆ど無かった」、「室内に入ると、相応の被害はあった
*「自宅の縁側から見ると南の空(下町方面か)に珍しい積雲が盛り上がっている。それは普通の積雲とは全く違って、先年桜島大噴火の際の噴煙を写真で見るのと同じように典型的のいわゆるコーリフラワー(カリフラワーのこと)状のものであった。よほど盛んな火災のために生じたものと直感された

*「翌日(9月2日)大学(東京大学)に行って破損の状況を見廻ってから、本郷通りを湯島五丁目まで行くと、奇麗に焼き払われた湯島台の起伏した地形が一目に見え上野の森が思いもかけない近くに見えた
*「帰宅すると、焼け出された浅草の親戚のものが13人避難して来ていた。いずれも何一つ持ち出すひまもなく、昨夜上野公園で露営していたら巡査が来て“〇〇人(⇔朝鮮人のこと)の放火者が徘徊するから注意しろ”と云ったそうだ井戸に毒を入れるとか、爆弾を投げるとかさまざまな浮説が聞こえてくるこんな場末の町へまでも荒らして歩くためには一体何千キロの毒薬、何万キロの爆弾がいるであろうかそういう目の子勘定だけからでも自分にはその話は信ぜられなかった

⇒流言飛語や新聞記事を見て、多くの無辜の朝鮮人が殺害されたこの歴史上の事実を、恐らく差別につながるということで伏字にしたと思われますが、過去日本が行っていた人種差別(沖縄出身者やアイヌ人)や部落(現在は同和と表記している)の問題をこうした伏字で隠すという出版上のルールには、私は賛成できません。日本の負の歴史も正しく、明確に子孫に伝えていく必要があると思います
また、また流言飛語がありえないことを、科学者として冷静に判断していることは、特に影響力の大きいメディアは見習ってほしいと思います

朝鮮人虐殺_読売新聞記事

*「夕方に駒込の通りに出てみると、避難者の群れが陸続と滝野川の方に流れて行く。表通りの店屋などでも荷物を纏めて立退用意をしている。上野方面の火事がこの辺まで焼けて来ようとは思われなかったが万一の場合の非難の心構えだけはした

*「翌々日(9月3日)、長男を板橋にやり、三代吉(親戚か?)を頼んで白米、野菜、塩などを送らせるようにする
*「大学(東京大学)に出かけると追分の通り(17号線、あるいは都道455号線/本郷・赤羽線か)の片側を田舎へ避難する人が引切りなしに通った。反対の側も流れを為している。呑気そうな人も、悲惨な感じのする人もある
*「帰りに追分辺でミルクの缶やせんべい、ビスケットなど買った。焼けた区域に接近した方面のあらゆる食料品屋の店先はからっぽになっていた。そうした食料品の欠乏が漸次に波及して行く様が歴然とわかった
*「帰宅してから用心に鰹節、梅干、缶詰、片栗粉などを近所に買いにやる。何だか悪いことをするような気がするが、20余人の口を託されているのだからやむを得ないと思った。午後4時には三代吉の父親の辰五郎が白米、薩摩芋、大根、茄子、醤油、砂糖など車に積んで持ってきたので少しは安心することが出来た。しかしまたこの場合に、台所から一車もの食料品を持ち込むのはかなり気の引けることであった

<函館の大火について>
火災の概要
①発生日時:1934年(昭和9年)3月21日
②火元:函館市谷地頭町
③被害概要:死者2,166名、焼損棟数11,105棟
最終的には市街地の三分の一が焼失する規模となった。死者の中には、橋が焼失した亀田川を渡ろうとして、あるいは市域東側の大森浜へ避難したところ、炎と激浪の挟み撃ちになって逃げ場を失い溺死した者907名、また溺死しないまでも凍死した者が217名にも上りました
④当日の気象状況:当時日本海からオホーツク海に抜けた低気圧があり発達しながら北上した。午後6時には台風の中心が札幌の真西辺りに来て、函館辺りは南南西の風速十数メートルであった。ここで谷地頭町から最初の火の手が上がった。その後、低気圧が北上するとともに風向は西からとなり函館市内は最大瞬間風速39メートルに及ぶ強風となり函館全市に燃え広がった

*「江戸時代の火災の消失区域を調べてみると、相応な風があった場合には火元を“かなめ”として末広がりに、半開きの扇形に延焼している。これは理論上からも予期されることであり、実験でも実証されている

函館大火

*「江戸大火の例でみると、この消失区域の扇形の頭角はざっと60度から30度の程度。明暦大火の場合は恐らく風速10メートル以上であったと思われる根拠があるが、この頭角がだいたいにおいて、今度の函館の火元から消失区域の外郭に接して引いた二つの直線のなす角に等しい
*「もしも最初の南南西の風が発火後も持続し風速を増大していたなら、恐らく火流は停車場付近を右翼の限界として海へ抜けてしまったであろうと思われるのが、不幸にも次第に西へ回った風の転向のために火流の進路が五稜郭の方向に向けられ、そのためにいっそう災害を大きくしたのではないかと想像される

*「火流前線がどれだけ以上になった場合に、どれだけの風速ではどの方向にどこまで焼けるかという予測が明確にでき、また気象観測の結果から風向旋転の順位が相当たしかに予測され、そうして出火当初に消防方針を定めまた市民に避難の経路を指導することができたとしたらおそらく、あれほどの大火に至らず、また少なくともあんなに多くの死人を出さずに済んだであろうと想像される

*「文明を誇る日本帝国は国民の安寧を脅かす各種の災害に対して、それぞれ専門の研究所を設けている。健康保全に関するものでは“伝染病研究所”や“癌研究所”のようなもの、それから“衛生試験所”とか“栄養研究所”のようなものもある。地震に関しては“大学地震研究所”をはじめ“中央気象台の一部”にもその研究をつかさどるところがある。暴風や雷雨に関しては“中央気象台”に研究予報の機関が完備している。これらの設備の中にはいずれも最高の科学の精鋭を集めた基礎的研究機関を具備しているのである。しかるにまだ日本のどこにもひとつの“理化学的火災研究所”のある話を聞いた覚えがないのである
*「もちろん警視庁には消防部があって、そこでは消防設備方法に関する直接の講究練習に努力しておられることは事実であるが、ここでいわゆる火災研究という、そういうものではなくて、火災という一つの理化学的現象を純粋な基礎科学的な立場から根本的徹底的に研究する科学的研究をさしていうのである。例えば、“発火の原因となるべき科学的物理学的現象の研究”、“火災延焼に関する方則”、“色々な支配因子が与えられた場合に、火災が自由に延焼するとすればいかなる速度でいかなる面積に広がるかという問題”、更に基礎的研究には単に自然科学方面のみならず、“心理学的方面”、“社会学的方面”にも広大な分野が存在する
*「例えば、市民一人当たりの“失火の比率”とかまた“失火を発見して即座に消し止める比率”とか、そういう人間的因子が、たとえば京橋区日本橋のごとき区域と浅草本所のごとき区域とで顕著な区別のあることが発見されている。この種の研究を充分に進めた上で、消防署の配置や消火栓の分布を決めるのでなくては合理的とは言えないであろうと思われる

⇒畑村洋太郎氏(東京大学名誉教授)は巻末の解説で、消防に関しては、筆者(寺田寅彦)の時代より消防組織及び消防技術について格段の進歩があり、ハイパーレスキュー隊や消防救助機動部隊の例を挙げて筆者の指摘は当たらない、と言っていますが、分野を超えた知見の交換による死亡リスクの軽減、焼失拡大の阻止、などの面で“理化学的火災研究所”の設置はいいアイデアだと私は思います

<流言蜚語>
*「流言蜚語が伝播する条件として“流言の源”と“その流言を次へ次へと受け継ぎ取り次ぐべき媒質の存在”が必要である」
*「ある特別な機会には“流言の源”となりうるものは、故意にも偶然にも至る処に発生すると言うことは、ほとんど必然な、不可抗力的な自然現象であるとも考えられる
*「従って、ある機会に、東京市中にある流言蜚語の現象が行われたとすれば、その責任の少なくとも半分は市民自身が負わなければならない。事によるとその9割以上も負わなければならないかもしれない
*「科学的な常識というものは、何も。天王星の距離を暗記していたり、ヴィタミンの色々な種類を心得たりするだけではない。もう少し手近なところに活きて働くべき、判断の標準にならなければなるまいと思う
*「適当な科学的常識は、ことに臨んで吾々に“科学的な省察の機会と余裕”を与える。そういう省察の行われるところにはいわゆる流言蜚語のごときものは著しくその熱度と伝播能力を弱められなければならない」

⇒流言飛語の被害は、つまるところ国民の科学的な知識レベルに依存すると言っていますが、私も全面的に筆者の意見に賛成です。SNSのフェイクニュースが飛び交う現代、まず沈思黙考し、ちょっとでもおかしいと思ったら絶対に拡散させないことが必要と思います

<神話と地球物理学>
*「神話の中には、地球物理学的に、その土地の気候風土の特徴が濃厚に印銘されており浸潤していると考えられる
*「島が生まれるという記事は、海底火山の噴出、地震による海底の隆起によって海中に島が現れる、あるいは暗礁が露出する」、「河口における三角州の出現などが連想される
*「スサノオノミコトの記事に“その泣きたもうさまは、青山を枯山なす泣きはらし、河海はことごとく泣き乾しき”とあるのは、噴火の為に草木が枯死し河海が降灰のために埋められることを連想させる。噴火を地神の慟哭と見るのは適切な比喩であると言わなければなるまい

*「“すなわち天にまい上がります時に、山川ことごとく動み、国土皆振りき”とあるのは、普通の地震よりもむしろ特に火山性地震を思わせる
*「“すなわち高天原皆暗く、葦原中国ことごとくくらし”というのも“噴煙降灰によって天地晦冥の状”を思わせる
*「“ここに万の声は、狭蠅なす(五月蠅か)皆湧き”は“火山鳴動のものすごい心持ち”の形容にふさわしい
*「ヤマタノオロチの話も“火山からふき出す溶岩流の光景”を連想させる

*「以上の例からも、わが国の神話が地球物理学的に見ても、かなりまでわが国にふさわしい真実を含んだものであることから考えて、その他の人事的な説話の中にも、案外かなり多くの史実あるいは史実の影像が包含されているのではないかという気がする。きのうの出来事に関する新聞記事がほとんどうそばかりである場合もある。しかし数千年前からの言い伝えの中に貴重な真実が含まれている場合もあるであろう

⇒ハインリヒ・シュリーマン(1822年~1890年)はホメーロスによって作られたと伝えられる長編叙事詩『イーリアス』を基に発掘作業を行い、伝説の都市トロイアの遺跡を発見しました
*イーリアスとは:最古のギリシア神話を題材とし、トロイア戦争十年目のある日に生じたアキレウスの怒りから、イーリオスの英雄ヘクトールの葬儀までを描写しています

<津波と人間>
*筆者(寺田寅彦)の存命中に東北地方に2回大津波(1896年、1933年:両津波の間隔は37年)が襲い、大きな被害を与えました

*「こんなに度々繰り返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。それが実際はなかなかそうならないというのがこの人間界の人間的自然現象であるように見える
*「学者の立場からは“この地方に数十年ごとに津波が起こるのは既定の事実である。こんな道理もわきまえずに、うかうかしているというのはそもそも不用意千万である”となるが、罹災者の側に云わせれば、“それほど分かっている事なら、何故津波の前に間に合うように警告を与えてくれないか”ということになる

*「37年という間隔は、世代が変わり大津波の経験は継承されない
*「昔の日本人は子孫のことを多少でも考えない人は少なかったようである。例えば津波を戒める碑を建てておいても相当な効き目があったのであるが、これから先の日本ではそれがどうであるか甚だ心細いような気がする
*「自然は過去の習慣に忠実である。紀元前20世紀にあったことが起源20世紀にも全く同じ様に行われるのである。科学の方則とは畢竟“自然の記憶の覚え書き”である。自然程伝統に忠実な物はないのである
*「日本のような、世界的に有名な地震国の小学校では少なくとも毎年一回ずつ一時間や二時間くらい地震津波に関する特別講習があっても決して不思議ではないであろうと思われる

*「三陸災害地を視察して帰った人の話を聞いた。ある地方では1896年の災害記念碑を建てたが、それが今では二つに折れて倒れたままになってころがっており、碑文などは全く読めないそうである。またある地方では同様な碑を、山腹道路の傍で通行人の最もよく眼につく処に建てておいたが、新道が別に出来たために記念碑のある旧道は淋れてしまっているそうである。それからもう一つ意外な話は、地震があってから津波の到着するまでに通例数十分かかるという平凡な科学的事実を知っている人が彼地方に非常に稀だということである。前の津波に遭った人でも大抵そんなことは知らないそうである

⇒この文章を見て、ふと感じたことがあります;
二年前に友人と東北地方を旅したことがあります。この時吃驚したのは、3.11大津波の直後の視察の際に見た「何もない海岸」に、吃驚するほど巨大な防潮堤が建設されつつあったことでした。当時はこの防波堤で美しい三陸の海の景観が失われるなあ、、、という程度の感覚でした

しかし、こうした防潮提は、必然的にその内側で防波堤より低い場所に住んで居る人が、津波の前兆である大きな引き波を自分の目で見ることが出来ず、高台への避難が遅れるのではないのだろうか、、、

拙宅付近の災害リスクの調査

自宅付近の災害リスクの概略を知るには、まず住んでいる地区の役所のサイトを覗いて見ることを薦めます
我が街・新座市には、地震ハザードマップ洪水・土砂災害ハザードマップがあり大変重要な情報を提供してくれます

1.地震ハザードマップから分かること;
このハザードマップから、新座市が持っている地目(畑地、宅地などの土地の使用区分)の情報、建築物の登記情報(構造、用途、築年数、等)、建物の密集度、などから地震の耐性を地域別に大まかに推測した結果が得られます(5メートル四方単位の危険度を色別に表示)
尚、この耐性を評価するにあたっては、新建築基準法が制定される前に建築された建築物を倒壊リスクが高いと評価しています
新建築基準法とは:1978年 M7.2の宮城沖地震では、最大震度5の地震だったのですが、多くの死者を出してしまいました。これを受けて1981年の建築基準法の改正で、震度6から7の地震でも倒壊・崩壊しない耐震性を持つように規定されています。現在の耐震基準もこの時の改正を元にしており、この時以前の耐震基準を旧耐震基準、この時以降の耐震基準を新耐震基準と呼んでいます

このハザードマップ上で第5ブロックに入る我が家の近辺は、巨大地震があると倒壊する家が、ある程度あると考えられます。ただ、我が家については1990年に新建築基準法に基づき立て替えていますので倒壊する危険はないのですが、周りの倒壊する家から火事が発生し、延焼する危険がある程度あります(我が家は、軽量コンクリートの外壁なので延焼のリスクは比較的小さい)
避難場所は幾つか考えられますが、自宅から1キロ程度にある十文字学園が一番安全であると考えられます

2.洪水・土砂災害ハザードマップから分かること;

新座市洪水・土砂災害ハザードマップ(画面をクリックすると拡大して見ることができます)

ハザードマップをご覧になるとわかると思いますが、新座市には柳瀬川と黒目川という二つの一級河川が流れています
一級河川とは:河川法で指定された河川の区分で、分水界や大河川の本流と支流で行政管轄を分けることなく、治水と利水を統合し、水系ごとに一貫管理されています

この両河川は、いすれも新河岸側を経由して荒川に合流していますが、過去に何度も氾濫を起こした油断のならない川です。因みに、拙宅から1キロ程にある柳瀬川は2017年には氾濫を起こさなかったものの、新聞やテレビに取り上げられるほどの被害が出ました(死者1名、ヘリによる救出)

柳瀬川・水難事故写真

昨年の台風19号でも水位はかなり上がったのですが、氾濫するには至りませんでした(被害の調査結果については事項をご覧になってください)

洪水・土砂災害ハザードマップでは新座市のみの洪水の恐れのあるエリア黄色)と土砂災害の恐れのあるエリア(赤色)、避難の道筋避難場所につても情報が分かり易く書かれています。拙宅のある地域は高度差が10メートル以上(測定方法は事項をご覧ください)ありますので、ほぼ浸水の恐れがないことが分かります

このハザードマップでは、当たり前のことですが、一部を除き新座市の部分のみしか書かれていません。しかし柳瀬川の周辺部については、隣接する清瀬市と所沢市の部分も行政区分の境界を越えて表現してほしいと思いました。特に避難が必要になった時には、行政区分を超えて一番近く、安全な避難経路と避難場所を選ぶことが必要になるのではないでしょうか、、、

柳瀬川のリスク評価

まず、清瀬市、所沢市、新座市にまたがる柳瀬川の地形の全体像を捉えるために、Google_Mapの航空写真地図をご覧になってください;

柳瀬川周辺航空写真
柳瀬川周辺_Google Map

この航空写真で、新座市は右隅の部分、左下が清瀬市、左上が所沢市の行政区分になります。この写真の左下から右上にかけて伸びる影は、恐らく断層があった跡だと考えられます。従って、前項で述べた土砂災害の恐れのある場所はこの断層と深く関係しています。また、断層から斜め右下側に当る広い部分が低地となっており洪水の恐れのある地域と深く関係していると考えられます

因みに、この写真上の特定の部分の標高を国土地理院の標高調査(試験版)で調べてみたところ;
滝の城址(地図の右上):54.2メートル
断層下の低地の部分:24.7メートル
柳瀬川の水面の辺り:22.0メートル
また、自然堤防と低地に当たる部分に高度差があまりないことを勘案すると、
自然堤防の平時の水面からの高さ:24.7-22.0 ⇒ 3メートル程度

なお、国土地理院のサイトにも書いてありますが、この標高は正確に実測されたものではなく、既存の地図(等高線が入っているもの)をベースにしていますので、地域によって使用できる地図に違いがあり精度が異なりますので注意が必要です
精度の程度を比較する目的で、同じサイトで以下の場所の標高を調べてみたところ;
新河岸川との合流地点:1.5メートル
彩湖周辺(荒川との合流地点付近):0.5メートル
となっており、いくら何でも荒川が東京湾に注ぐ場所と0.5メートルしか標高差がない事は考えにくいので、標高の絶対値については数メートルの誤差があることは考慮する必要はありそうです

従って、確たることは言えませんが、新河岸川と荒川の合流地点での標高差が非常に小さいこと(もともと新河岸川は、荒川を経由して江戸と川越との間の重要な水運に使われていました)を勘案すると、荒川の上流域での雨量が極めて多くなった場合、今年の台風19号で大きな河川の下流域で起きたように、新河岸川の水が荒川に流入できなくなり、その周辺での洪水を起こす危険が考えられるのではないでしょうか
一方、標高差を考えると、柳瀬川が荒川の増水の影響を受けることは無さそうです

<柳瀬川の洪水の可能性について>
柳瀬川は一級河川なので、各種のデータが利用できます。国土交通省が公開している柳瀬川のデータから必要な部分を抽出すると;
流域面積:106.3㎢(平方キロ)
流路延長:19.6km

柳瀬川流域地図

地図を見ると、柳瀬川の上流には「狭山湖」、「多摩湖」があります。このダム湖は多摩川から引き込まれた水を貯めており、基本的に用途は東京都向けの水道水になっていますので、昨今話題となっている「豪雨の予想がある時に予め貯水池の水を放流し柳瀬川の洪水を防ぐ仕組み」は使えそうもありません

<参考>
最近、豪雨に備えてダムの貯水量をコントロールするルールが決まりました(ダムの洪水対処能力倍増へ AI活用、事前放流を拡大

柳瀬川の水量は、流域に降る雨量で決まることは明白です。勿論、地面に沁み込んで地下水となる水を除かねばなりませんが、短時間の集中豪雨や長雨によって地中水分が飽和状態にある時は、降った雨の大半が川に流れ込むと考えてもよさそうです
そこで、記憶に新しい国土交通省が公開している柳瀬川のデータを活用して、柳瀬川の流域一帯に、1時間当たり400ミリメートルの降雨があった場合、柳瀬川に流れ込む水量の試算をしてみました;
平成30年7月豪雨とは:7月5日から8日にかけて梅雨前線が西日本付近に停滞し、そこに大量の湿った空気が流れ込んだため、西日本から東海にかけて大雨が連日続きました。梅雨前線は9日に北上して活動を弱めるまで日本上空に停滞。西日本から東日本にかけて広い範囲で記録的な大雨となりました

試算
1時間当たり柳瀬川の流域一帯に降る雨の量:106.3㎢  x  400mm
(メートル単位に変える)⇒ 106.3 x 1,000 x 1,000 x 0.4 = 42,520,000㎥
つまり、1時間当たり4千2百52万㎥の水が流れ込むことになります

この数字を昨年の19号台風時に、工事の最終段階で貯水量が空になっていて、利根川の洪水を防ぐのに役立ったと言われている八ッ場ダムの貯水量と比較してみると;
八ッ場ダムの設計上の有効貯水量:9千万㎥
つまり、2時間11分で満杯になる計算になります。
実際の流量は、こんな簡単な計算では再現できないと思いますが、1時間当たり400ミリメートルの降雨というのは、如何に猛烈な雨であるかが理解できると思います

拙宅の近くの柳瀬川には「金山調節池」(前掲の航空写真版_Google Map の中央下側)があり、柳瀬川の洪水を防ぐ役割を担うことになっています;

「金山調節池」の案内板

この看板によれば、貯水量46,000㎥です。この貯水量では、既に満水になった柳瀬川に1時間400ミリの降雨があった場合、たった約4秒で満杯になる計算で、集中豪雨時には殆ど役に立たないことが分かります

また、自然堤防スレスレまで水面があがり、秒速10メートルの流速で流れると仮定した場合、1時間当たりどれくらいの水を流せるかざっくり計算してみると、
上述の国土交通省の地図データから計算して
自然堤防の高さ:3メートル
拙宅に近い柳瀬川の橋を渡って、歩幅で測定した川幅は;
自然堤防上部の川幅:45メートル
川底付近の川幅:37メートル

自然堤防が作る柳瀬川の断面の面積は:3 x (45 + 37) ÷ 2 = 123 ㎡
流速:10メートル/秒と想定すれば、
1時間当たりの流量:123 x 10 x 60 x 60 = 4,428,000㎥
つまり、1時間当たり4百42万8千㎥

先の計算で、400ミリの雨量で 1時間当たり4千2百52万㎥の水が流れ込むことになっていたので、何ミリの雨量まで洪水を起こさずに流せるかを逆算すると;
400ミリ x (4百42万8千㎥ ÷ 4千2百52万㎥)⇒ 41ミリ
1時間当たり41ミリの雨は、大したことはないように見えますが、気象庁の雨量の表現の仕方としては、「バケツをひっくり返したような激しい雨」という表現になりますので、柳瀬川の治水としては相応の努力を行ってきたと言えるかもしれません

Follow_Up:このブログを見た友人からの情報を契機に、神奈川県・鶴見川の河川管理状況を調べてみたところ、流石に柳瀬川の管理状況よりも数段進んでいることが分かりました。ラグビー・ワールドカップ時の日本対スコットランド戦が豪雨の後にも拘らず開催できた理由が分かりました。興味にある方は次の(鶴見川の紹介)をご覧になってみてください

いずれにしても、これまでのざっくりした計算から、「平成30年7月豪雨」並みの集中豪雨が柳瀬川流域を襲えば、前掲の航空写真の左岸一帯(柳瀬川から断層の崖に至る低地)洪水で水浸しとなる可能性が高いと思われます。特に、航空写真で、断層の崖近くにある多くの住宅地はリスクが高いと考えられます

Follow_Up(2020年8月5日):自然の貯水力を水害抑止へ活用

台風19号襲来時の柳瀬川の被害状況及、び改修の状況

昨年、台風19号が通過してから数日後に柳瀬川周辺の被害状況を見てきました;

左岸の堤防の被害状況
左岸の堤防の被害状況
橋周辺の被害状況

二つの写真を見て分かることは、コンクリートや鉄でできた簡単な堤防では、たった一日の強い水流でも、脆い砂礫で出来ている自然堤防は簡単に浸食されることが分かります。自然堤防を守るには、岸に沿う部分の水流を遅くすることが堤防の決壊を防ぐ有効な手段であることが考えられます。因みに、下の写真の手前の堤防には、一昨年の秋に同じように堤防が崩された時の修理跡が確認できます。強い水流に晒されるところには、大きめの石を金網で包んだもので防御してあります。原始的ではありますが、今回の雨では何の被害もありませんでした

実は、コンクリートや鉄の堤防が無かった江戸時代にも、同じような発想で堤防付近の水流を弱める「牛枠」という装置を使っていました。下の写真は玉川上水の羽村取水口付近に展示してあったものです;

多摩川・水害対策_「牛枠」

今年2月、柳瀬川の改修工事が始まっていました;

河川工事の公示
自然堤防・補修個所の状況

下の写真をみると、柳瀬川の補修方法がこれまでと変わっていることが分かります。新しい補修資材を使ってはいますが、岸周辺の流速を落とし水流の破壊力を減少させる目的としては、江戸時代の「牛枠」と変わらない考え方の改修方法と思われます
寺田寅彦が「人智に奢ることなく、自然に学んできた過去の経験を生かせ!」と言っているような気がしました!

おわりに

最近の天気予報では「線状降水帯」という新しい気象用語が度々登場します。台風並みに、時には台風以上の集中豪雨をもたらす意味では災害リスクの主役級に躍り出てきた感があります。日本という国土は、地図を見てみればわかる通り中小の河川が網の目のように走っており、河川氾濫による災害リスクは至る所にあるといっても過言ではないと思います
集中豪雨による河川の氾濫を完璧に防ぐには、膨大な費用と時間がかかり、今すぐ解決することは不可能ではないでしょうか。であるからこそ、自身の情報武装と、的確な氾濫の予報を行うことが喫緊の課題であると思っています

最近、NHKのニュースで太陽誘電(株)の画期的な水位計の紹介がありました。極めて小型で安価(3万円/1台)な装置です。この装置を全国の中小河川に設置(例えば、簡易無線水位計測サービスを使って1km毎に設置)し、河川の流量を常時監視できるようにすれば、この流量の実績値と河川流域の雨量の実績値を時間のスケールで比較し、雨量の時間的な変化で流量がどう時間的な変化をするかの関係(河川ごとに異なる)がある程度つかめると思われます。これに気象レーダーによる河川流域の雨量予測を当て嵌めれば、今より相当正確な河川氾濫予測を行えるのではないか、、、異常気象が続く昨今、河川氾濫を完全に防ぐことはできないにしても、河川氾濫による死亡者ゼロは近いうちに実現したいものです

Follow_Up:(2020年2月28日):朗報!今後、関東一円の雨量予測の精度が高まります/関東一円の雨量、予測精度を高く 新気象レーダー、来月運用開始
Follow_Up:(2020年7月15日):自治体の9割が浸水危険地域でも住宅立地_転出に遅れ

Follow_Up:(2021年3月30日);全国109全ての一級水系などについて流域治水プロジェクトを策定し、全国一斉に公表しました

Follow_Up:(2021年8月15日);
今年7月4日、熊本県を中心に81人の死者・行方不明者を出した九州豪雨から1年となり、球磨川の氾濫で甚大な被害を受けた人吉市などでは追悼行事が行われました。球磨川流域では、人吉市の中心市街地など約1,060haが浸水し、佐敷川などの中小河川の氾濫や土砂災害による被害も含めると約7,400戸の家屋が被災しました。特に球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」で、移動の自由が奪われた入所者14人が水死したことからご記憶の方も多いと思います、
その後、今年1月31日に球磨川流域治水協議会から公表された長期計画の全体像が公表されていますのでご紹介します(球磨川水系・緊急対策プロジェクト)。この資料の中に出てくる特殊用語については下の概念図をご参考にして下さい;

河川の水害防止対策の概念図

 

以上

災害のリスクについて考えてみました

はじめに

毎年3月11日近くになると、新聞やテレビ、等のマスメディアは2011年に発生した「東日本大震災」の特集が組まれます。この未曽有の大災害は、地震による「建物の倒壊」の人的被害もさることながら、多くの死者、行方不明者を出した「大津波と、放射性物資が飛散したことに伴う広範囲且つ長期にわたる住民避難をもたらした福島第一原子力発電所の「原子力事故による被災者の生活に焦点を当てて報道されるものが多い様です

1995年に起こった阪神淡路大震災では6千人以上の死者を出しましたが、これは「建物倒壊」による死傷者の他に、倒壊した建物の中に閉じ込められた状態のまま地震によって発生した「大火災」によって亡くなった方も多かったと聞いています
また、雲仙普賢岳の噴火(1991年)、御嶽山の噴火(2014年)など、「火山の噴火」に伴う大災害も、歴史を辿れば枚挙にいとまがありません

これらの大災害の第一原因となる地震や噴火は、いずれも地球規模の地殻の変動によってもたらされることはわかっており、日本に住む以上、避けることができないことは明らかです。20世紀中頃に提唱されたプレートテクトニクス/Plate Tectonicsという理論によって発生のメカニズムは説明できる様になったものの、緻密な地質調査や、最新のセンサー、GPSを駆使した観測によっても地震や噴火の予測は人的災害を大幅に防ぐレベルには達していません

そこで、自然災害に関しては全くの素人である私ですが、学生時代から40年以上にわたって航空機に関わってきたこと、またサラリーマン人生最後の10年ほどは原子力ビジネスに関わってきたことことで得た知識を何とか生かせないかと、無い!知恵を絞ってみることにしました
因みに、航空機の場合、1903年にライト兄弟が最初に動力飛行を成功させてから凡そ100年しか経っていませんが、現在安全な交通機関として大量輸送の役割を担っていることはご存知の通りです。もともと空気より重い航空機やそれに乗っている人間は、空中を飛んでいる訳ですから、事故が起きた場合は、地上や水上の乗り物よりは遥かに死亡のリスクが高いことは明らかです。約100年の歴史の中で多くの航空機事故を経験し、これを乗り越えて現在があります。詳しくは(1_航空機の発達と規制の歴史)をご覧ください。勿論、現在でも事故に遭って死亡するリスクはゼロではありません。しかし、航空機を利用するお客様はこのリスクを許容しているからこそご利用になっている訳です。地震や噴火という自然現象は制御はできませんが、これらに伴う人的被害を極小化する手段については、航空安全に関わる知見を応用できる可能性はあると思います

リスクとは

リスク(Risk)という言葉は最近よくメディアに登場します。曰く『大地震のリスク』、『放射線被ばくのリスク』、『肥満によって重篤な病気に罹るリスク』、『噴火のリスク』、『戦争のリスク』、‥など
広辞苑によればリスクとは、あっさりと「危険」としか書いてありません。しかし何となくしっくりいかないので、ネットで調べてみると「ある行動に伴って(あるいは行動しないことによって)、危険に遭う可能性や損をする可能性を意味する概念」と書いてありました。最近多摩川で入水自殺して話題となった西部邁の最後の著書:「保守の真髄—老酔狂で語る文明の紊乱」を読んでいたら、リスクとは「確率的に予測できる不確実性』と書いてありました。私にはこの定義が災害の死亡リスクの問題を論ずるときにはもっとも当てはまると思われます

つまり、リスクを語る時は、リスクの大きさもさることながら、そリスクが起こる確率を把握しなければ意味がありません。例えば、およそ6千5百万年前の白亜紀末の小惑星の衝突によって恐竜が死滅した(最近は、恐竜は死滅せず鳥類に進化して生き延びたという説が有力になっています)ことはよく知られていますが、太陽系の小惑星自体は無数に存在しているものの、地球に衝突するリスク(参考:小惑星衝突防止の研究)を心配している人は殆どいません。つまり、発生確率が極めて低いからです
これに対して地震や噴火は、少なくとも数十年から数百年の間には、ある特定の場所で発生する確率は公表されています。しかも、東南海地震など大津波の伴う巨大地震や、地域が限定されるものの発生確率の高い直下型地震はいつ起こってもおかしく無い状況にあると言われています。こうしたリスクに対しては、何時、何処でという正確な予測が不可能である以上、不意に襲われたときに人が生き残れる確率をどう高めるかという研究が最も重要であると思われます

現在、大津波対策として、高台への移転防潮堤の建設(復興)、逃げ道や逃げ場所の確保緊急通報体制の整備、などがマスメディアに登場していますが、これらはいずれも今回被害にあった東北各県では大なり小なりすでに行われていた対策ではなかったかでしょうか? それでもなお、どうしてあれだけ尊い命が失われてしまったのでしょうか? 科学技術先進国である日本としては、少し努力、工夫が足りないような気がしてなりません

Follow_Up:210214_震災10年「防潮堤に頼らない」を選んだ二つの街 被災前の砂浜を取り戻した地域も_AERA

航空機の深刻な事故を減らすために、設計精度の向上、機器の信頼性の向上、地上及び航空機搭載の安全装備の向上、操縦技術のレベル管理の厳格化、ヒューマンエラーを防止するための装備や訓練の充実、などが絶えず行われて事故の確率は相当程度減ってきました。1990年代以降、これらに加えて事故が起きても乗客・乗員が生存する確率を増やすために、客室内装備の耐火性の向上と、椅子の強度向上(現在の基準は重力の11倍の衝撃加重に耐えることが求められたいます)が行われました。これらの基準は、事故によって亡くなられた方の死亡原因を調べた結果、機体火災による焼死と事故の衝撃で椅子ごと飛ばされてしまった事による激突死であることがわかり、基準が強化されました。この基準のお陰で最近の航空機の全損事故では、全員死亡のケースは減ってきています

そんな訳で、以下に思いつくままに私の稚拙な!アイデアを披露してみたいと思います

大津波から生還するには

2011年3月11日の大災害が発生してから5ヶ月ほど経ち災害救援が一段落し、公的・私的な復興支援もある程度整ってきた8月初旬、3泊4日の日程で個人的に被害・復興状況の調査に行ってきました。東北高速道「花巻」経由で太平洋沿岸を走る国道45号線に出て以下のルートを辿りました(残念ながら旅程の関係で久慈市、宮古市、大槌町は割愛);
釜石市」⇒「大船渡市」⇒「陸前高田市」⇒「気仙沼市」⇒「南三陸町」⇒「石巻市」⇒「松島町」⇒「塩竃市」⇒「多賀城市」⇒「仙台市」⇒(長い海岸線の部分)⇒「南相馬市」⇒通行止(福島第一原子力発電所周辺)避難指示が出た「浪江町」を経由して常磐高速道経由「いわき市」⇒「千葉県浦安市の埋立地

浦安市を除き、殆どの海岸近傍の平地部分は、夏草が生い茂る中に流された船や自動車の残骸が転々と残る所謂「荒蕪地」となり、市外地域の空き地は「瓦礫の山」が連なっていました;

荒蕪地・船の残骸・瓦礫の山
荒蕪地・船の残骸・瓦礫の山

陸前高田市では、津波災害の特徴が良くわかる写真を撮ることができました;

東日本大震災_2棟のアパートの被害状況
東日本大震災_2棟のアパートの被害状況

この写真にあるアパートの前面は海岸に向いており(海岸付近のホテルやアパートは景観を重んずるために所謂「オーシャンビュー」の立地が多い)一棟目は4階まで津波の被害に会ったことが分かります。一方その後ろの二棟目は1階と2階の一部が被害を受けているのみであることがわかります。アパートの1階分が仮に3メートル程度とすれば、1棟目は12メートルの高さの津波を受けたことになりますが、その後ろにある2棟目は3~5メートル程度の津波であったことがわかります。この現象は、海岸すぐ近くに立地していた「キャピトルホテル1000」でも客室レベル(恐らく10~15メートル以上)は被害を受けていない事が分かります;

東日本大震災_海沿いのホテルの被害状況
東日本大震災_海沿いのホテルの被害状況

津波被害を受けたすぐあと(4月1日)にこのホテルの被害状況を調査した記録がネットに残っていましたので詳しくは(地震直後のキャピタルホテル)をご覧ください

また今回の調査旅行の全行程で、大小多くの川の河口を通過してきましたが、河口付近の被害が比較的少ないことに気が付きました。後でニュースなどで知った事ですが、大きな川ではかなり上流まで津波が遡り、死亡を含む被害が発生していましたが、動画などから見る限り海岸付近の津波の様な破壊的なものではなく、堤防の低い所から水が溢れ沿岸の住宅地に浸水していくというプロセスを辿っていました

松島町では、被害を受けたホテルに泊まりましたが、被害は一階のホール部分のみであった様です。恐らく松島町は地図(松島町の地図)をみれば分かる様に、湾の入り口に大きな島があること、湾内にも小さな島々がある事により、津波の破壊力が減殺されたものと思われます

今回の地震は、千年以上前の西暦869年(平安時代)に東北地方を襲い甚大な被害を与えた貞観地震(少なくともマグニチュード8.3以上と推定されています)と並ぶ巨大地震です。貞観地震の際の津波は、百人一首に選ばれている『後拾遺和歌集(西暦1086年)』の清原元輔作成の一首;
  契りきな かたみに袖をしぼりつつ すゑの松山 波越さじとは
にも読み込まれていますが、今回は仙台に向かう途中、多賀城市にあるその『すゑの松山』も訪ねてきました

末の松山
末の松山

今回の地震でもちょっと高台になっているこの『すゑの松山』のすぐそばまで津波の水が押し寄せて来たそうです

仙台では、海岸近くにある『仙台空港』にも立ち寄って被害状況を見聞してきました;

仙台空港の被害状況
仙台空港の被害状況

この空港は、長い海岸線(仙台空港の立地)近くに立地しており、到底防波堤などで空港を守ることはできません。しかし、津波は一階のホールの浸水にとどまっています;

浸水した高さの標識
浸水した高さの標識

仙台から相馬に続く長い海岸線は、仙台空港周辺と同じ様な津波の爪痕が残っていました。特に海岸に設置されていたはずの「消波ブロック」が津波に流されて転々と転がっている光景は印象的でした;

仙台⇒相馬への長い海岸線の被害の様子
仙台⇒相馬への長い海岸線の被害の様子

仙台空港と同様、それ程高い津波に襲われた訳ではなかったにも拘わらず、逃げ場所となる高台が無い中で、車で避難しようとして命を失った人が多かったと言われています

千葉県・浦安市を訪ねた理由は、地震によって生じた液状化現象の被害状況を確認する為で、今回のブログの趣旨には合致しませんので、被害状況、等は割愛します

<津波被害の分析>

この調査旅行で私が強く印象付けられた津波の特徴は;
A.津波は、突然現れる大河の様なものである
B.津波の破壊力は津波が押し寄せる『速度』と波長が極めて長いことからくる膨大な『水の量』で決まる

津波の簡単なモデル
津波の簡単なモデル

例えば、ある湾(入江)に侵入する水の量は、上図の簡単なモデルで説明すると、「押し波の部分の面積」「湾(入江)の入り口の幅」に相当します。気象庁のネット情報によれば、津波の波長は数キロ~数百キロとされており、押し寄せる水の量が膨大になることが感覚的に理解できると思います。沖合における津波の波高がそれ程でなくても、被害が大きくなるのは、こうした理屈によるものです

また、津波は水であることから、基本的に「粘性流体力学」に従うと考えてよいと思われます。しかし、その精密な解析は、地震発生地点における津波の波高や波長、津波の進行する方向、到達する陸地近辺の海底の形状や、海岸線の形状、到達したあとの陸地の高低、傾斜、障害物などによって大きく影響を受けるために、適切なモデル化を行って数値計算を行うにしても、到達する場所ごとの精密な津波の規模を算出することは極めて困難と予想されます(⇔実際に津波の規模の予想は概ね外れますね!)

ただ、津波の挙動に係る定性的な説明をすることは可能であり、これに基づいて津波が起こす幾つかの現象を素人なりに説明してみることにします;
湾(入江)の入り口が広く、奥が狭まっている場合、入り口の長さで決まる大量の水が湾(入江)内に侵入(上記B項参照)し、更に、湾(入江)の両側の岸から反射した津波が重畳するため、湾(入江)の奥に到達する時には極めて波高の高い津波となります
逆に半島や、島などで実質的に入り口が狭くなっている湾(入江)は、入り込む水量が少ないこと、湾内で津波の運動エネルギーが拡散し波高が低くなります。また、島などがあれば、津波の運動エネルギーが島との衝突によって失われ、津波の破壊力は減殺されることになります(松島湾のケース)
防潮堤に必要な高さは、侵入してくる津波の水の量速度で決ります。津波の運動エネルギーは「水の量(=質量)」x「速度の2乗」に比例するので、防波堤にぶつかった時は、この運動エネルギーは、防波堤に沿ってせり上がることによるポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)の増加で相殺せねばならず、想像以上に津波は高くなると考えなければなりません(前掲の「2棟のアパートの被害状況」の写真)。万里の長城と言われた宮古市田老地区の10メートルの防潮堤(世界最強の防波堤)を津波が軽く超え、簡単に破壊されてしまったのはこの理屈によるものと思われます。一旦防波堤の一部が破壊されると、寄せ波だけでなく、引き波で重い船や破壊された家屋の残骸、倒木などが防波堤に激突し、その集中荷重で防波堤は簡単に破壊されてしまったはずです

<参考> 宮古市田老地区の現在の堤防復興状況:防波堤・海閉ざす壁

海岸線の長い平野では、海岸付近でせり上がった高い波(←海底が駆け上がりとなっている為)が崩れ落ちた後、川幅の広い大河の流れのようになって陸地の奥深くに侵入していきます。この大河は表面は平らであっても、この水流は多くの障害物を飲み込んだり、建物を破壊した後の水流なので水中は激しく渦巻く乱流となっており、人間が泳ぐことは不可能です。どんなに泳ぎの達者な大人でも大雨の時の河川の濁流に飛び込めば簡単に水死する理屈(濁流に流された子供を助けようとした親が水死する状況はこれ!)と同じです。車ごと流されて水死してしまう事例の多くは、この乱流が原因と考えられます
大きな川の河口に押し寄せた津波は、陸地を駆け上るよりも抵抗の少ない川を上流に向かって逆流していきます。これによって津波の運動エネルギーは吸収されるため河口付近の被害が少なくなっているものと考えられます。逆に、津波が遡上した上流部では、堤防が低いところから浸水し、被害を発生させることにもなります
海岸から少し離れ大河の流れのようになっている状況では、津波の進行を妨げる様な壁は、流れが比較的緩いと言っても大きな力をうけます。因みに。水は1立法メートルで1トンも重さがあり、相当強度が無ければ直ぐに破壊されてしまいます。通常の住宅が簡単に流される理屈はここにあります。高層アパートなどが流されずに残っているのは頑強な基礎と、その重さにあります。一方、一階部分が鉄骨で出来ており、壁が簡単に破壊されるものであれば、鉄骨の間を津波が抵抗を受けずに流れ破壊されません。調査旅行の道中で、平野の中でポツンと残っている家は概ねこうした構造の家でした

<生き残る方法>

上記の分析から、構築物の被害を未来永劫に亘って防ぐ方策は、津波の規模に不確実性があること、膨大なコストが伴うことで現実的ではありません。また、東南海巨大地震による大津波がいつ発生するかもわからない現在、大津波が来ても生き残る確率を如何に向上させるかを考える方が現実的です。以下は、私の考えた幾つかのアイデアです;
1.大きな川の周辺では、津波の運動エネルギーをできるだけ吸収し、大量の海水を、川を逆流させて逃がすために積極的に活用する。このため、河口付近で溢水しないように堤防を整備するとともに、遊水池が設けられる場所があれば積極的に整備する。また、住宅密集地から外れた耕作地など人口密度が低い所があれば、ここで意図的に溢水させて大量の海水を逃がすようにする
<参考:信玄堤>

*武田信玄の時代に、荒れ川として有名な笛吹川と釜無川の治水のために作られた堤防で、意図的に増水した水を堤防外に逃がして堤防の決壊を避ける様になっています(大雨で決壊すると大被害となる:下の鬼怒川決壊の写真をご覧ください)。増水が収まると逃がした水が川に戻っていく様に設計されています

信玄堤
信玄堤
2015年・鬼怒川決壊の被害状況
2015年・鬼怒川決壊の被害状況

2.広い平野部で津波に襲われたときは、車で逃げるのは渋滞することが目に見えているので愚の骨頂です。大河の様に流れてゆく津波に飲み込まれたときは、溺れないようにすることが生還するための唯一の方法となります。その方法は航空機では非常用装備品として当たり前になっている「ライフジャケット」と「ライフラフト(救命ボート)」を予め準備しておくことです;

ライフジャケット
ライフジャケット
ライフラフト
ライフラフト

航空機の場合、ELT(Emergency Locator Transmitter)という装備が義務付けられており、墜落の様な大きな衝撃を受けると救難信号が自動的に発信される様になっており、広い海洋に墜落しても遭難機、遭難者の位置を確認できる仕組みになっています
津波用のライフジャケットやライフラフトに、水に漬かると救難信号が発信される装置や夜間用のLEDライトを装備するようにすれば、引き波で沖合に流された遭難者も発見が容易になると思います。東日本大地震の津波では、逃げ足の遅い多くの子供や老人が犠牲になりました。是非こうした非常用装備で、生還の可能性を高めてほしいと思います

尚、ライフラフトであれば、救助を待つ間に「低体温症」で死亡することも防ぐことができます。家族単位での行動が可能となり、一層生存率が高まることも期待できます。
<参考:輪中>
昔から洪水に見舞われてきた濃尾平野の揖斐川、木曽川、長良川の下流域では、「輪中」によって水害から命を守ってきました。大河の様な津波に対しては、この知恵から学ぶところが多いと思われます;

輪中・自家用の船
輪中・自家用の船・輪中・自家用の船
輪中の中の家屋の工夫
輪中の中の家屋の工夫

<Follow-up>
*2018年9月19日の朝日新聞DIGITALに(スーッと近づいてきた無人の「神様のボート」住民救った_西日本豪雨災害)という記事が出ていました

<Follow-up>
*2019年10月日本に上陸した台風19号は甚大な水害を齎しました

台風19号進路_2109.10月

これだけの大雨だったにもかかわらず、東京都心とゼロメートル地帯が免れたワケ について:191023_台風19号の浸水被害 東京都心とゼロメートル地帯が免れたワケ
この被害に関して、今後の治水行政について学識者が有益なコメントを出しておりますのでご紹介いたします:191114_水害の猛威に備える_山田正氏・角哲也氏・土屋信行氏

また、今回の災害の中で、利根川水系の八ッ場ダムによる治水効果が大きかったことが話題になりましたが、全国の約三千か所のダムの治水効果を最大化するためのルール作りが始まった様です:<191116_ダム放流指示しやすく、国交省 電力などと手順協議

3.建物自体を、圧倒的な破壊力を持つ津波に破壊されないようにするには、以下の様に極めて限定的な方法しかありません
鉄筋コンクリート製の高層建築物であれば前掲の「2棟のアパートの被害状況」、「海沿いのホテルの被害状況」の写真を見れば分かる様に、その重量と基礎の堅牢さで建物の崩壊は免れることが可能であると思われます。更に、建物の向きを「オーシャンビュー」ではなく、海岸線に直角の方向にすれば、津波の立ち上がり方も少なく、より低層部分も冠水しないで済むと考えられます
長い海岸線の平野であれば、津波の高さはそれほどではない(今回の大津波でも1階~2階の高さ)と考えられますので、普通の個人用の邸宅でも、1階部分の柱を鉄骨で作り、壁を壊れやすく!して、津波が来た時には簡単に壊れて水流が容易にすり抜けられるようにすれば(上の輪中の絵の「母屋の1階部分」をご覧ください)、家自体は守れる可能性があると思われます。尚、この時、引き波も大河の様に水が流れますので、流されてきた重量物の衝突で柱の鉄骨が破壊されないようにしたほうがより良いと考えられます。この為には大きな川の橋桁の上流側に設置されている流木などが橋桁に激突するのを防止する構造物を海と反対側に設置することが有効であると考えられます

京都嵐山・渡月橋_流木除けの効果
京都嵐山・渡月橋_流木除けの効果

Follow_Up:2021年9月12日の日経新聞に水害対策に「水上都市」 浮かぶ家・1階は柱だけの構造という興味深い記事が掲載されていました

その他の災害から身を守るには

1.大地震による家屋の倒壊や大火災から身を守るには

大地震による建物の倒壊は、建物自体の耐震性で決まります。現に最新の建築基準法に基づいて建てられている建物に住んでいる人はそれ程心配する必要はないと思いますが、そうでない場合は、耐震診断を予め受け、必要な補強を行うことによって安心して住める状態になると思います。家全体では改修費の負担が大きすぎる場合は、寝室や、居間など居る時間が長い所のみを改修することでも、倒壊した家屋の下敷きとなってしまうリスクを相当程度下げることが可能です

大地震による火災で命を失わないようにするには、まず倒壊しない安全な家に住み、地震が収まったと同時に安全な避難場所に即刻退避することが肝要です。しかし、阪神淡路大震災の被害地域の様に木造家屋が密集する地域に住んでいる場合;

阪神淡路大震災
阪神淡路大震災

倒壊した建物によって狭い路地が塞がれると同時に、地域のあちこちから出火し逃げ道を失う恐れもあります。また、火災の規模が大きくなると「火災旋風」(関東大震災や東京大空襲でもその発生が死傷者を増やしたと言われています)が起きる可能性も考えられ著しく危険な状態になります
一旦火災があちこちで発生した場合、個々の家の耐火性の向上や地上の消火活動などで延焼を防ぐことなどできません。消火するのであれば大規模な森林火災に使われる様な航空機による空からの消火活動が一番効果が大きいと思われます。

日本ではこうした航空機による消火活動は、今でもヘリコプターを利用する事は可能と思われますが、大型の固定翼機による方がより効率的です。日本にはUS2という飛行艇があり;

US2飛行艇
US2飛行艇

この機材を大規模火災の消火用に改修(US2・消防用に改修)し、人口密集地近くの基地に配置する施策も検討する価値があると思われます

また、地域全体で家が倒壊しても絶対に火災を発生させない様にする方法も考えられます。発火の原因は、その殆どが調理・炊事、暖房用の電気、ガスです。最近のガス、電気設備には個々に地震による遮断装置は付いていますが、古い設備には、この遮断装置が付いていない場合もあります
従って、住宅密集地域では、電気、ガス以外のエネルギー源(例えば炭火を使う店舗などが考えられる)を行政レベルで禁止すると同時に、震度があるレベル(その地域で最も耐震性の無い住宅が倒壊するレベル)を越えたら、直ちに地域全体の電気、ガスの供給を遮断することが有効れあると考えられます。勿論、一旦電気、ガスの供給を止めてしまうと復旧は個別の家ごとにおこなう必要があるので、電気、ガスの会社はやりたがらないとは思いますが、、、

2.大規模噴火から生還するには

噴火による死亡事故の殆どは、「噴石の直撃」を受けることと、「火砕流」に巻き込まれることです。噴火予知が正確にできればこんな心配はしないで済むのですが、今の知見だけでは予測はかなり難しい様です

噴石による事故は、防ぐことが難しく、今年1月の草津スキー場のケースでは思いもよらぬところから噴火し、自衛隊員の死傷事故が発生しました。2014年には御嶽山の突然の噴火で、登山者58名が死亡(他に行方不明者5名)しました。噴石は、噴き上げられたものが、ほぼ垂直に落ちてくるのでヘルメットを被っていても被害を避けることは不可能です。丈夫なコンクリート製の待避壕に避難するか、丈夫な屋根をもつ山小屋などに避難するしかありません。ただ、致死性の高い大きい噴石は火口近くに落ちるので、登山者の多い火山の自治体は、火口近くに待避壕を設置する対策を行う努力をしてほしいと思います。また、登山者は待避壕、山小屋などの位置を常に確認しておく習慣を持つことが自身の命を守る上で必要であると考えられます。

火砕流による事故は、噴石に比べるとより大規模で深刻な事故に繋がります。有名なベスビオス火山による火砕流は、ポンペイの町を一瞬の内に消滅させました。最近の日本でも、1991年の雲仙普賢岳の火砕流では報道関係者を含む44名が死亡しました;

雲仙普賢岳の火砕流
雲仙普賢岳の火砕流

ネット情報によれば;火砕流の実体は、「火山砕屑物(さいせつぶつ/岩石が壊れてできた破片や粒子を指す地質学用語)と噴出物の火山ガスや水蒸気が混合して流動化したもの。ガスは、マグマに含まれていた火山ガスと、火山噴出物中および流走中に取り込んだ空気からなる。温度は、マグマに近い高温のものから100℃程度まで幅がある。水蒸気噴火とマグマ噴火では水蒸気噴火の方が発生頻度が高い」であり、上の写真を見れば分かる様に、走っても逃げられないような相当な速度で襲来し、巻き込まれればその高温の環境により確実に死に至る恐ろしい現象です
最近は、噴火活動の結果生じた火口近傍の堆積物の量や、斜面の形状、方向、過去の火砕流の記録、などを勘案して、火砕流の危険性を警告する情報が流れるようになりました。ゆめゆめ好奇心から危険地域に近寄らない様にすることは勿論、避難勧告が出たら早めに非難することが、命を守る唯一の方法です

3.核兵器の攻撃を受けた時に生き延びるには

日本は、中国、ロシア、北朝鮮という核保有国に囲まれ、しかも中国とは尖閣列島帰属問題、北朝鮮とは拉致問題を抱えています。勿論、米国の核の傘で守られている為、簡単には攻撃されることないとは思いますが、仮に日本が最初に核攻撃された場合、米国が自国民を核攻撃の危機に晒さす反撃を行うかどうかは疑問が残ります。だからといって、日本も核武装すべきだという主張に私は組しません。核攻撃を受けても多くの人が生還できる方策を予め考えておくことが大切であると考えます

昔台湾に駐在した時、最初に奇異に感じたことは、台北市内の主要道路の交差点は頑丈なコンクリート製の地下歩道が整備されいることでした。現地の人に聞いたところ、これは大陸から攻撃を受けた時の防空壕の役割を果たすのだそうです
大国に囲まれた国、隣国から侵略を受けた歴史を持つ国は、防衛の第一の目標は最初に攻撃されたときに如何に生き残るかです。因みに、フィンランドの核シェルターをご覧ください;

フィンランドのシェルター
フィンランドのシェルター

戦後、唯一の被爆国として非核三原則を堅持してきた日本であっても、核攻撃されないという保証はありません。日本にとって非核三原則を遵守すると同時に、核攻撃をされても生き残る方法を、科学技術先進国である日本の総力を挙げて取り組むべきであると私は考えています。因みに、米国では数百万円~数千万円で個人用の核シェルターを販売している会社がありますが、最近の最大の顧客は日本人だそうです

日本には、核攻撃を受けると必ず死に至る(即死しなくても、後遺症で死ぬ)と思っている人が少なくありません。その結果、シェルターなど意味の無いものだという人も多い様に思います。その背景には、下記写真のような原爆の惨状を小学校時代からずっと頭に叩き込まれてきたことがあります。また、マスコミや著名な作家による恐怖を煽る記事も多くの人々に影響を与えたに違いありません。私も学生時代に読んだ「広島ノート;大江健三郎著」には多大な影響を受けました。このブログを書く前にもう一度読み返してみましたが、当時としてはやむを得ないにして、もあらゆる病気、あらゆる死が原爆、放射能と結びつけられており、現在の知見を基に判断すると驚くばかり間違いの多い内容です。これによって被曝したものの健康を取り戻した多くの人たちが、結果として差別を受けたことは忘れてはいけないと思います。この本にも引用してありますが、興味のある方は(広島で被爆した医師が大江健三郎に書いて寄こした手紙)読んでみてください;

ヒロシマ被曝直後の惨状
ヒロシマ被曝直後の惨状

核攻撃を受けても生き延びる手段はあります。冷戦時代、米国、ソ連、中国は核攻撃の危機を現実のものとして受け止め、核攻撃から自国民を守る手段を必死に研究してきました。フィンランドの核シェルターも、米国で個人宛に販売している核シェルターも、そうした研究の成果を取込んだものと考えられます

そもそも、核攻撃による死のリスクとはどんなものでしょうか;
① 致死量の放射線を爆心から直接浴びることによる死;
放射線はアルファー線、ベータ線、ガンマ線(波長の短い電磁波)、紫外線・光線・赤外線(波長の長い電磁波)、中性子線、その他の粒子線に分けられます。それぞれの放射線の性質、リスクなどについて詳しく知りたい方は私のブログ(原子力の安全_放射能の恐怖?)をご覧になってください。いずれも爆心地近くで直接浴びれば即死します。しかし、頑丈な遮蔽物に身を隠していれば防御することが可能です。ただ、中性子線だけは透過力が極めて強いので、あるいは水を含んでいるコンクリート、水分を含んだなどで防御することが有効です(原子炉が水やコンクリートで遮蔽されているのはこの理由によります)
また、こうした放射線は爆心から球状に広がると考えれば、爆心からの距離の2乗に反比例して強度は弱まります。例えば、爆心から1キロの地点の放射線強度に比べ、10キロ離れた地点の強度は百分の一になります。基本的に直進することを考えれば、山などの陰に隠れていれば安全ということになります

② 爆風(正体は衝撃波=強烈な音波)を爆心から直接浴びることによる死;
爆心地近くであれば、強烈な爆風で人間を含む重い物体が吹き飛び、何かと衝突して死亡する可能性が高いと思われます。ビル街などでは、爆風で飛び散ったガラスが突き刺さり死に至るケースも多く発生します。爆風も基本的に爆心地から直進するので、頑丈な遮蔽物に身を隠すか、地面より低い所(戦場で爆弾が降りそそぐ環境で塹壕に隠れるのはこの爆風を避ける為です)に潜り込むことで安全を確保できます
よく原爆が炸裂した時の表現で「ピカドン」という言葉が」使われますが、これは「ピカ」で光速あるいは光速に近い速度の放射線が爆裂と同時に到達し、やや遅れた「ドン」で爆風が到達する状況を表現しています(遠くから花火を見た場合を想像してください)。従って、爆心から離れたところであれば、「ピカ」を見てから待避しても間に合う可能性があります(10キロ離れていれば30秒ほどの猶予時間があります)。爆風も、放射線と同じく球状に広がるので、距離の2乗に反比例して強度は弱まります。

③ 爆発後降り注ぐ放射性廃棄物から出る放射線(二次放射線)を浴びることによる死;
核爆発すると巨大な「きのこ雲」が発生することはよく知られています。このきのこ雲は放射性廃棄物を沢山含んでいます。これが爆発後ある程度の時間をかけて地上に降り注ぎます(所謂「死の灰」)。地上に降り積もった放射性廃棄物に近づけばと同様被曝することは明らかです。しかし、放射線の強度は①に比べて桁違いに弱いので直ちに死に至ることはありませんが、長時間に亘ってその環境にいれば放射線障害になる恐れがあります。広島、長崎ではこの二次放射線で放射線障害となった人も多いと言われています。1954年ビキニ環礁でマグロはえ縄漁を行っていた第五福竜丸の23名の船員が被曝したのは、この「死の灰」によるものです詳しくは私のブログ(原子力の安全_放射能の恐怖?)をご覧になってください。ただ、きのこ雲は風向、風速によってはかなり遠方まで届くので、爆心地から離れていても注意が必要です

④ 爆発後降り積もった放射性廃棄物を体内に取り込む事による死;
これは上記私のブログをご覧になって頂ければ分かるのですが、放射性廃棄物で汚染されたほこりや食物を体内に取り込むと、体の内部から継続的に被曝する結果となり、少量であっても非常に危険です。この対策はマスクなどによって肺に取り込むことを防ぐほか、汚染された食べ物を食べてしまうことを防ぐ必要があります。尚、体内に取り込まれた放射性物質の量は、ホールボディーカウンターで測定することが可能です
いずれにしても、放射性廃棄物がある所に入らないことで確実に防ぐことが可能です

以上を踏まえると、堅牢な防護壁、乃至地下に設置された核シェルターは、爆心地近くでない限り①、②の脅威から生還できる可能性が高いことが分かります。また、シェルター内の空気は放射性廃棄物を通さないフィルターを通じて換気されているとともに、相当期間必要な食料は備蓄されているので、③、④の二次放射線の脅威からも免れることが可能です

山間部は直接攻撃されない限り山が守ってくれますが、極度に人口が集中している大都市では、こうした自然の防壁もなく、新たにシェルターなどを設置しようにも場所が確保できません。しかし、大都市では地下鉄網や広い地下街がありますので、ここに多くの人を退避させることによって少なくとも①、②の脅威からは命を守ることが可能だと考えられます
ただ、ミサイルの緊急速報が入ってからの時間の猶予はそんなにありません(北朝鮮からの発射であれば5~10分でしょうか)。また、避難スペースを広く確保するためには地下鉄を直ちに停止させ、地下鉄のトンネルの中も避難スペースとして使わなければなりません。更に、現在は、地下鉄や地下街への入り口が狭く、数も少ないので、核シェルターの代役をさせるのは入り口を増やし、ある程度の食糧の備蓄なども必要になると思います
総理府では(国民保護ポータルサイト)でミサイルが発射されたときの連絡体制や、地下街などの地下施設に避難するなどの注意事項が書いてありますが、地下施設をシェルターとして利用するために必要な改修工事は未だ計画もありません。また、地下への人の誘導の訓練もやっていません。このままでは、実際に核攻撃の脅威が現実のものになった時にどうなるかとても心配です
終戦間際の米軍による都市爆撃で、あれだけ多くの民間人が亡くなってしまった事の反省が未だにできていないのではないでしょうか、、、

<Follow-up>
*2018年12月25日の日経新聞に、Jアラートシステムが変更されるとの記事が掲載されていました:181225_北朝鮮のミサイル発射情報・Jアラート見直し_伝達を都道府県単位
*2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻、とロシアによる戦術核ミサイル使用の脅しがあったことから、日本にとっても、核武装している中国、ロシア、北朝鮮からの核攻撃のリスクが現実のものとなり、以下の様な記事が掲載されるようになりました;
①2022年4月7日の日経新聞に以下の記事が掲載されました:220407_大阪市、地下鉄99駅を避難施設指定 ミサイル攻撃懸念
②2022年5月27日の日経新聞に以下の記事が掲載されました:220527_都内地下鉄など109カ所、「ミサイル避難施設」に追加
③2022年7月3日の日経新聞に以下の記事が掲載されました:220703_ミサイル避難、地下鉄駅指定3.5倍_神戸、大阪、東京など
④2024年1月27日_「港区に地下シェルター、ミサイルに備え_東京都予算案

以上

肥満指数(BMI)についての”はてな?”

最近、NHKテレビで“血糖値スパイクが危ない”(NHKスペシャル:NHKのサイト)を見る機会を得ました。健康診断などで血糖値がリミットを越えていなくても血糖値スパイクが起こると、脳梗塞心筋梗塞などによる突然死のリスクが高まることの他、がんを引き起こしたり、認知症を招く恐れがある」という衝撃的な内容で、私たち老夫婦には大変参考になる番組でした。番組の最後の方で、血糖値スパイクのリスクを数値化する8つの指標の中でBMIの数値が入っていた為、昔感じていたBMIという指標に対する疑問が再び頭をもたげてきました。

BMIとは、“Body Mass Index”のことで、以下で定義されている指数のことです(インターネットのサイトにも色々説明されています:);

bmi%e3%81%ae%e5%ae%9a%e7%be%a9

但し、体重はキログラム単位、身長はメートル単位で計算します。しかしこの式が意味する所は、中学校の数学で最初の頃に学ぶことですが、“体重は身長の二乗に比例する”と同義です。でもこれは本当でしょうか?
例えば、20cm山女魚(ヤマメ)を釣った時の重さと、30cmの山女魚を釣った時の重さを比べた時、重さの違いは2倍ちょっとどころか3倍以上に感じられるはずです

その理由は以下の説明でお分かりいただけると思います。体重体積密度を掛けたものですが、簡単のため、密度を水と同じ“1”とし、山女魚を体長(a)、体高(b)、厚み(c)の直方体とすれば、山女魚の重さは、a x b x c となります。また大・小の魚同士は、中学校で勉強したはずの“相似形”(⇔小さい山女魚も大きい山女魚も見た形が同じ)であることを勘案すると;

小さい山女魚の重さ = a xx c (以下“abc”と表示します)
30センチメートル ÷ 20センチメートル = 1.5 であることを考慮すると;
大きい山女魚の重さ = 1.5a x 1.5b x 1.5c5.06abc

従って、30cmの魚は、20cmの魚の約5倍になることが分かります。これは、言い換えれば“体重は身長の3乗に比例する”ということになります

現物の魚は“直方体ではないではないか”という理屈を言う人がいるかもしれませんが、頭の中で“現物の魚を小さな、小さな、立方体の集合体”と考えていただければ、私の言う理屈に納得して頂けるのではないかと思います
また、実験で確かめたいという人は、縁一杯まで水を張った水槽に魚を沈め、こぼれた水の量を比較していただければ上記理屈を証明できるはずです。尤も、肥満した魚と、餌が少なくてやせた魚がいて上記の理論値と若干異なる値となるかもしれませんが、これはまさしく“肥満指数”の基になる現象です

体重は身長の3乗に比例する”ことを前提として、新しい肥満度指数:“New BMI”を定義すると;

new-bmi%e3%81%ae%e5%ae%9a%e7%be%a9

となります。
New BMI の上限、下限を求めるには、身長に対する適正体重を、統計的に(あるいは医学的な見地から)決めてあげればいいと思います。
尚、“体重は身長の3乗に比例する”ということの具体的な意味は、身長の高い人も、低い人も、身体的な見かけ上のバランス(身長に対する横幅や厚み)が同じ比率になっているという意味になります。分かり易く言えば、現在のBMIに基づいた適正体重は、背の低い人は見かけ上“太って”見え、背の高い人が見かけ上“瘦せて”見えるということになります

統計的なデータが手に入らないので、BMIで推奨されている身長と体重の一部のデータが New BMI にも当てはまるという仮説をベースに、BMI と New BMI 違いを数値化してみたいと思います;

仮説 :日本人の平均身長(男性/170.9㎝、女性/157.8㎝;平均/164.4㎝)における適正体重の下限と上限を New BMI でも適正な下限と上限と仮定する。
BMIの下限は18.5、上限は25.0であることから ⇒
身長/164.4㎝の人の
下限体重は:18.5 x 1.64 x 1.64 = 49.8キロ
上限体重は:25.0 x 1.64 x 1.64 = 67.2キロ

これを New BMI に当てはめると;
New BMI の下限は:49.8 ÷ 1.64 ÷ 1.64 ÷ 1.64 = 11.3
New BMI の上限は:67.2 ÷ 1.64 ÷ 1.64 ÷ 1.64 = 15.2

この New MBI を使って、150㎝と人と195㎝の人の下限値、上限値を求めてみると;
150㎝の人では;
下限体重:11.3 x1.5 x1.5 x1.5 = 38.1キロ(BMIでは、41.6キロ
上限体重:15.2 x1.5 x1.5 x1.5 = 51.3キロ(BMIでは、56.3キロ
*上限体重と下限体重の差13.2キロ(BMIでは、14.7キロ)
*上限、下限の平均値(理想的な体重?):39.9キロ(BMIでは、49.0キロ

195㎝の人では;
下限体重:11.3 x1.95 x1.95 x1.95 = 83.8キロ(BMIでは、70.3キロ
上限体重:15.2 x1.95 x1.95 x1.95 = 112.7キロ(BMIでは、95.1キロ
上限体重と下限体重の差28.9キロ(BMIでは、17.6キロ)
*上限、下限の平均値(理想的な体重?):98.3キロ(BMIでは、82.7キロ

上記の数値を比較して分かる定性的なことは、“New BMI では上限、下限の体重の幅が、身長の高い人ほど大きくなる”ということです。若い頃バレーボールをやっていて、身長の高い人に囲まれていた私の経験では、身長の高い人にとって、この程度の体重の幅は、見た目で“健康”な体重の範囲と思われますが、如何でしょうか?
因みに、メジャーリーグで活躍しているダルビッシュの身長は、196㎝、体重は100キロです

以上