原子力発電所の再稼働の状況

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はじめに

最近、AIの急速な普及に伴う電力不足、大規模太陽光発電や洋上風力発電の立地が環境問題から難しくなってきている一方で、先進国では急速に進んでいる火力発電の廃止ペースが日本では遅れている状況があります。こうしたことから、2011年の東日本大震災による福島原子力事故によって多くの原子力発電所が廃炉及び休止している状況に注目が集まり、休止している原子力発電所の再稼働の方針が出され、徐々に運転再開の原子炉が増加してきています。以下、これらの状況の調査を行ってみましたのでご報告いたします

ただ、日本が世界で唯一の被爆国であり、多くの放射線被ばく者が亡くなった歴史があり、いわゆる「放射能怖い」と思っている日本人(マスコミも含め)が多い事も事実であり、これが原子炉立地自治体による再稼働の承認が滞る原因にもなっています。所謂「放射能怖い」の問題については、2016年8月に発行した「原子力の安全_放射能の恐怖?」というタイトルの私のブログで基礎的な問題について説明しております。できればこれを読み返して頂きたいのですが、お時間の無い方の為に放射線の人体への影響と、安全の基準についてのみ以下にポイントを列挙しておくこととします;
① 我々は地球に住んでいる以上、誰でも放射線に晒されています。日常生活の中で、何もしなくても、誰でも浴びている自然放射線の実効線量は、全国平均では1.1ミリシーベルト/年です。これは、宇宙線、土石類、食物などから受けている放射線なので、当然のことながら住んでいる場所によって異なります
医療検査で被曝する時の実効線量(1回当り);
胃のX線集団検診で被曝する時の実効線量:3.3ミリシーベルト
胸部CTスキャンで被曝する時の実効線量:4.6~10.8ミリシーベル
放射線治療で受ける時の実効線量(一連の放射線治療期間当り
*ガンの放射線治療で受ける時の実効線量:1,000~10,000ミリシーベルト
福島原子力事故における「避難指示解除」の基準:20ミリシーベルト/年以下

参考までに、私の最近の癌の検査・放射線治療で被爆した実効線量は以下の通りですが、現在までのところ被爆に伴う障害はありません
* 2019年末に前立腺がん、腎臓がんの治療を始めましたが、血液検査以外に、治療後のフォローアップ検査で、現在まで毎年平均2回のCT検査を行っています。これに伴う一年間の実効被爆線量は⇒ 2x(4.6~10.8ミリシーベルト)=9.2~21.6ミリシーベルト
* 2020年1月から2ヶ月間、高エネルギーX線による治療を受けました。これに伴う実効被爆は⇒76,000ミリシーベルト

日本の脱炭素目標と現在の電源構成

日本の2050年までの脱炭素目標は以下の通りです;
目標時期    目標内容                             基準年
2030年度  温室効果ガス排出量を 46%削減                  2013年度比
2035年度  (新目標) 温室効果ガス排出量を 60%削減(目指す) 2013年度比
2040年度 (新目標) 温室効果ガス排出量を 73%削減                       2013年度比
2050年度     温室効果ガス排出量を実質ゼロ(ネット・ゼロ)

これに対して、現在入手できる温室効果ガス排出量の実績は2023年度(2023年4月~2024年3月)までですが、温室効果ガス総排出量は約1,017百万トンで、その達成度は、2013年度対比:27.1%削減となっております

日本の脱酸素目標の現在地(2023年度)は、日経新聞に掲載された以下の電源構成の日米欧の比較表をご覧になるとかなり遅れていることが分かると思います

この表の赤い矢印より上は「化石燃料に由来する火力発電」、下は「脱炭素発電」を表します。この表から読み取れることは;
① フランスは、原子力発電の貢献が大きく脱炭素目標の達成は容易であると思われます
フランスは2023年、50.1TWh(テラワットアワー ⇔ 50万1千キロワットアワー)の電力を輸出しており、欧州最大の電力輸出国となっています。主な輸出先はスペイン、イタリア、ドイツ、ベルギー、イギリスなどの近隣諸国で
② ドイツは、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故を受け、メルケル政権が脱原発政策を加速。
2023年4月15日に最後に残っていた3基の原子炉を停止しました
*最近、このエネルギー政策はエネルギーコストの面から岐路に立っている様です(参考:戦略なき脱炭素、経済圧迫_失速ドイツ、原発決別の誤算
③ 英国、ドイツは再生エルギー(太陽光発電、風力発電)の比率が高い。特に風力発電は、西岸海洋性気候により安定した西風が得られるためであると考えらえます

④ 日本
は、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の過酷事故により多くの原子力発電が廃炉、乃至休止となり、石炭・石油・天然ガス発電に頼っている現状が見て取れます。代わりのエネルギー源として政府・電力会社は、欧州に倣って再生エネルギー発電を目指しましましたが、最近以下の様な逆風を受けており国際公約である脱炭素目標の達成は危機に瀕しています
*洋上風力発電:三菱商事、洋上風力撤退を発表
*大型太陽光発電:立地場所の選定、補助金の面で難しい状況が生まれています

生成AI 関連企業誘致と原子力発電の再稼働

 電力コストの比較(2025年12月11日日経新聞);


この表から分かる事は;
火力発電はコスト面で不利となる
原子力発電はコスト面で有利となる
尚、上表にある「市場調達」とは、他の電力会社や自前の発電設備を持っている企業からの電力購入と考えられますが、この場合配電網の整備が必要になればコスト的に不利になると考えられます

生成AI関連企業が 大量の電力を必要とする理由
生成AIの基本的な知識については、2023年6月に作成した私のブログ“「生成AI」をちょっと勉強してみました”をご覧になって頂ければお分かりいただけると思いますが、この中で「膨大な電力需要」が必要な理由を以下に簡潔に引用します;
生成AIは数千億〜数兆のパラメータを持つモデルを使います。これらを動かすには、高性能のGPU専用チップが大量に並んだサーバーが必要で、常に高負荷(⇔大電力)で且つ24時間連続で動作させる必要があります(⇔ 太陽光発電は夜間は発電が出来ない)
 生成AIを動かすサーバーはデータセンターに集約されており、ここではGPU、CPUなどのユニットの冷却設備(GPU、CPUなどは膨大な熱を出します。パソコン内でも必ず冷却ファンがついていますね)、ネットワーク機器、電源管理システム、空調、などにより大量の電力が必要になります
GPUとは:Graphics Processing Unit/画像の認識、分析に必要
CPUとは:Central Processing Unit/データの演算やコンピュータ内の装置の制御などを行うコンピュータにおける中心的な処理装置

以上より現在の迄の所、日本が経済発展させる為に必須の生成AI関連企業の立地計画は以下の通り原子力発電所に近い立地となっています(2025年12月11日日経新聞)

<参考情報>
*2024年3月、日経新聞情報:米国、廃炉原発を再稼働へ バイデン政権が2300億円支援
*2024年9月、日経新聞情報:米スリーマイル原発、再稼働へ MicrosoftのAI電力供給
* 2025年12月 日経新聞情報:東京電力、柏崎刈羽原発の周辺でデータセンター開発 AI需要に的
*2025年12月 日経新聞情報:原発の再稼働「賛成」が48%、「反対」を大きく上回る_毎日新聞の世論調査

東日本大震災後の廃炉及び再稼働計画の概要

現在の廃炉・稼働状況については、(公益財団法人)Japan.COMのネット情報の中に以下の分かり易い図(但し、2024年10月現在)を見つけましたので、これに現在(2026年1月)までの情報を加えてみました

この図から分かる事は;
① 既に14基が稼働している
② 今後稼働予定の原子炉を含め、高浜2号機(建設・稼働開始時期:1975年11月14日)が稼働開始後50年で最も古く、これより稼働開始時期の早い原子炉は、既に廃炉となっています
③ 建設中とある「大間原子力発電所」、「東通(ひがしどおり)原子力発電所」、島根原発3号機」は、2011年の福島原子力発電所事故の前に建設を始めていました

<参考情報>
日本の原子力発電の初号機(日本原子力研究所の動力試験炉)の発電開始時期は、1963年10月26日です
* 原子力規制庁の規定によれば「発電用原子炉の運転期間を、原子力利用の在り方の観点から見直し、運転開始から現行法上の上限である60年を超えての運転も認め得る法改正が、令和5年5月31日に国会において可決・成立し、同年6月7日に公布されています
*原子炉を長期間使用する為の規定について詳しく知りたい方は、原子力規制庁発行の資料「経年原子炉に関わる規制」をご覧ください
柏崎刈羽発電所の6号機は、燃料装荷は2025年6月にすでに完了しており、2026年2月下旬)の営業運転開始を計画しています(原子力規制委員会の承認を前提)

再稼働の為の原子力規制庁による審査のポイント

1.東日本大震災によって起きた福島原子力発電所事故のシナリオ
私(荒井)は、偶々この事故の時、原子力安全基盤機構(現在の規制庁)の監事を務めていましたので以下の事故のシナリオは生々しく思い出すことが出来ます
① 三陸沖の宮城県牡鹿半島の東南東130km付近で、深さ約24kmを震源とするマグニチュード9.0の巨大地震発生
② 巨大津波(14~15メートル)が福島原子力発電所に襲来
③ 福島原子力発電所の堤防が破壊され発電所全体が浸水 ⇒ 予備電源用のディーゼル発電機も浸水により機能停止
④ 地震動によりバックアップ発電所も機能喪失
炉心の冷却が出来なくなる
炉心(原子燃料)が高温で溶融
⑦ 溶融燃料が冷却水と反応し水素発生
水素が原子炉建屋に充満し爆発
⑨ 原子炉建屋の屋根が吹き飛び放射性物質が空中に四散

2.東日本大震災以降、規制庁が再稼働の際に重点を置いている審査ポイント
原子力規制委員会(NRA)が、東日本大震災(およびそれに伴う福島第一原子力発電所事故)以降、原子力発電所の再稼働(および設置変更・運転継続)を許可する際に特に重視する「審査ポイント」は、次のようなものです;
①  災害対策の強化(地震・津波・自然災害など想定の拡大)
*再稼働審査では、設置場所や構造が、「想定されうる最大の地震(設計基準地震動)・津波」に耐えられるかがまず問われます
*地震や津波だけでなく、火山噴火・竜巻・森林火災など「原子炉敷地および周辺で起こりうる自然現象」も設計で想定対象となっています

②  重大事故(シビアアクシデント)への備え炉心損傷防止・冷却機能確保
*万一、炉心停止に失敗したり冷却系が破損・喪失した場合に備え、緊急炉心冷却、減圧、最終的な「ヒートシンク(放熱、排熱の為の熱交換器)喪失」まで想定した多重バックアップ系の整備が求められます
参考:ヒートシンク性能に関する基本検査運用ガイド
外部電源喪失や給水/除熱機能喪失といった最悪ケースに備える「物理的防護」や設備の信頼性強化も必須となっています

③  格納容器・建屋の強化および放射性物質拡散防止対策
炉心溶融炉心落下といった最悪シナリオに備え、格納容器の加圧破損防止格納容器内部の冷却・減圧水素爆発防止溶融炉心の冷却などの対策が義務づけられています
*使用済燃料プールの冷却維持、放射性物質が外部へ広がる事態に備えた屋外放水設備なども含まれます

④  テロ対策・異常事象対策(意図的事故含む)
故意の航空機衝突やテロなど、自然災害以外の想定外事象に対しても、「特定重大事故等対処施設」の整備を義務化
*放射性物質の拡散を防ぐための拡散抑制手段の設置

⑤ 運営体制および管理能力の適合性( 設置・設計から運転管理まで包括的審査が行われます)
*単に設計が基準を満たせばよいのではなく、事業者の技術的能力、運転管理体制、維持管理能力も厳格にチェックされます
*既存の原発(事故前から稼働していた炉)にも「バックフィット(遡及適用)」を義務づけることで、過去の安全神話を払拭することを狙っています

⑥ 原発敷地直下や近辺に活断層がないか、ある場合はその活動性の有無を厳密に調べる
活断層の可能性があれば、再稼働を否認されることもあります
*過去に地質データの改ざんや不備があった場合、信頼性を強く問われます。たとえば、ある炉では断層が「後期更新世(約12万6000年前から1万1700年前)以降に動いた可能性がある(=活断層の可能性あり)」と判断され、再稼働を認めなかった事例があります
<参考情報>
中部電力浜岡原発の3号機、4号機は再稼働を目指していましたが、申請書類の地震評価に不正が発覚し、審査が中止されました
*2026年1月、日経新聞:中部電力・浜岡原発の信頼揺るがす(捏造に近い)_審査中断

おわりに

2011年の福島原子力事故で多くの原子炉が停止した結果、エネルギー自給が危うくなり、化石燃料による発電が増加しました。これに伴う脱炭素や生成AIへの取組の遅れが心配されましたが、休止していた原子力発電所の稼働開始が漸く軌道に乗り始めたようです。
また、原子炉の新設も可能となる政府の方針が出ています。ただ、現在新設可能な新しい原子炉(SMRなど)も核分裂型の原子炉である以上、再起動される原子炉と同様、使用済み核燃料の処理(⇔日本は未だ恒久的な処理場が無い)という大きな問題を残していることは言うまでもありません

こうした問題を一挙に解決する原子炉は核融合炉です。その原理や、耳慣れない?用語の意味などについては2年ほど前に投稿した私のブログ「核融合炉についてちょっと勉強してみました」をご覧になって頂くとして、最近の開発状況に関わるトピックスは日経新聞だけで以下の通り沢山記事になっています。興味のある方はご覧になってみて下さい;

*2025年5月:核融合発電「30年代に実証」 国家戦略に明記へ_研究拡充、実証設備に100億円
*2025年6月:日英、核融合実現へ協力_英国の遠隔ロボ技術活用
*2025年8月:核融合発電、野心は実るか?_課題はコストと1億度の維持
*2025年8月:核融合発電先陣争い激しくEX-Fusion・浜ホトがレーザーで成果
*2025年10月:ヘリカルフュージョン、高温超電導のコイル開発 核融合の維持へ一歩
*2026年1月、日経新聞:核融合発電、国の研究施設を民間と共用 国内3拠点で開発促進

Follow_Up:一部の読者から原子炉事故時の炉心の「メルトダウン」対策について質問がありましたので、SMRなど新しい設計の原子炉の「メルトダウン対策」をChatGPTで調べてみました。興味のある方はご覧になってください

以上