核融合炉についてちょっと勉強してみました

はじめに

地球温暖化の影響は近年益々深刻化し、昨年は世界的な規模で干ばつ・大規模森林火災、海水温の異常などが発生し、特に発展途上国の人々の生活に深刻な影響を与えているとの報道が相次ぎました
一方、昨年(2023年)末ドバイで開催されたCOP28では,はかばかしい進展はありませんでし。特に日本の取組状況に関しては、欧米先進国に比べて火力発電所の廃止ペースが劣後しているため、岸田首相演説に対し前回に続いて環境団体から「化石賞」を贈られる始末でした

日本を含む先進諸国は、再生エネルギーだけでは早いペースの脱炭素化は実現できないことから、再び原子力発電によるエネルギー供給を増やそうとしています。日本は、2011年の東日本大震災による原子力事故以降、当面は現存の原子力発電所の再稼働がメインの課題となりますが、欧米先進国は、新しいより安全な原子炉の開発に舵を切りつつあります;「ニュースケール・パワー」、「三菱重工・革新型軽水路の構造
また、新しいエネルギー源としてのクリーンな水素の製造手段としての「 高温ガス炉・実証炉の建設」についても日本のメーカーを含め開発が始まっています
<参考>
*2024年4月4日:「次世代原子炉で水素製造へ 安全試験成功、28年にも実証
*2022年7月20日:「高温水蒸気電解とは

しかし、これらはいずれも核分裂反応の原子炉であり、大量の核廃棄物の再生産を伴ってしまうことを考えると、2050年を視野に入れた脱炭素の歩みにとっては所詮リリーフの役割を期待されているに過ぎないとも言えます
やはり、脱炭素の本命は太陽のエネルギーの源である核融合反応を地上に於いて実現する「核融合炉」であることは論を待たないと思われます。日本は核融合炉の研究では世界の第一線で活躍しています。見出しの写真は、現在日本の核融合炉の研究で使われている巨大な実験設備です

残念ながら私は、大学時代航空学(ニュートン力学から発展した流体力学、熱力学までの知識で足りる!)が専門であったことから、核融合反応を理解する為に必須な量子力学一般相対性理論をきちんと学んではいません。こうした理論の結果だけを学ぶ手段として左の写真にある書籍「人類の未来を変える核融合エネルギー」を可能な限り丹念に読み込むと同時に、この本が2017年に初版を発行したのみになっていることもあり、その後の開発の進展、最新の技術情報や画像などはネット生成AIから入手することとし本ブログを纏めることとしました
尚、この本は8つの Chapter、83のSection の構成になっており、これらを左の写真にある7人の一流原子物理学者が分担して担当している為、相応の重複があります。一方、このブログの目的が「素人でも分かる核融合炉の理論、開発状況」であることに鑑み、勝手に構成を変えておりますので、核融合炉についてもっと深く知りたい方はこの本を購入してお読みになることをお勧めします

基礎知識

1.数字の読み方(理系の方は読み飛ばしてください!)
まず核融合反応についての説明を読むと、数字の桁数が異常に大きいか、異常に小さいことが多く、通常我々が扱う数字の範囲を超えており、これにたじろぐ人が多いのではないかと感じました。しかし私の経験から、これについては慣れが必要ではありますが、以下の3点を抑えておけば慣れるのはそれ程困難ではないと思われます;
数字の読み方については、日本語の場合「一、十、百、千、万、10万、百万、千万、、、」と大きな数字の読み方は「万」の単位以降は4桁単位で変わっていくのに対し、英語では「One,Ten,Hundred,Thousand,Million,Ten million,,,」と「Thousand」の単位以降3桁ずつ読み方が変わっています。また、アラビア数字で表記する場合、3桁ずつにコンマが入り、英語の場合はコンマの数で簡単に数字の読みが判断できます。桁数が増加した時に日本人には数字を読むのに苦労しますが、これは英語の読み方を覚え、慣れることで解決することがお勧めです(外国人と英語で数値のやり取りをする際にも役立ちます)
桁数は非常に重要です。通常、10n(分数の場合nはマイナス)と表記しますが、このnの数字は桁数を表します。例えば3桁といえば 103 =1,000(  10-3  1/1,000)になります。また、大きな桁数同士の掛け算(割り算)桁数は二つの桁同士の足し算(引き算)になるという便利な表記の仕方です
*例えば、103x105 =108 ;103÷105 =10-2
③ 科学で扱う数字については、桁数が異常に大きかったり、異常に小さかったりした場合、もう一つ大切なものは「有効数字」という概念です。通常、科学で数字を扱う場合、大きい意味を持つのは上3桁程度あれば十分です(例えば円周率の3.14159,,,,,のうち、普通に使われるのは上3桁の3.14)。この表記を使えば、どんな大きな数字でも、小さな数字でも「有効数字」x10nで表現できます

2.エネルギー・力の正体(高校物理が嫌い?な方は読み飛ばしてください!)
*以下の式の定数などは有効数字3ケタで表示しています
物体の熱エネルギーは、構成している原子や分子の運動によるエネルギー(=運動エネルギー)です。エネルギーの単位には、ジュール、カロリー などがありますエネルギーと温度のと関係は以下の式で定義されています;

ボルツマン(1844年~1906年/オーストリア)

E = k x T
E: 物質の熱エネルギー
k: ボルツマン定数:1.38 × 10-23
T:絶対温度 (単位:ケルビン)で表示された温度。摂氏で表示されるとの関係は、摂氏温度が「t℃」とすると;
T = t + 273.15

プランク(1858年~1947年/ドイツ)

ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、電波、などは電磁波と総称されますが、以下に示す様にエネルギーを持っており、電磁波のエネルギーと周波数との関係は以下の式で定義されます;
E = h x 入
E:電磁波のエネルギー
プランクの定:6.63 ×10-34
入:周波数(古代ギリシャ語で「ニュー」と発音されます)
<参考>後段の核融合炉の具体的説明の中で、プラズマの加熱を「強力な高周波」で行っていることが出てきます

湯川秀樹(1907年~1981年)

③ 核力
陽子
中性子などの核種同士を繋ぎ留める力で,力が及ぶ距離は、1fm1×10-15メートル)程度の極く近接した距離のみで働く力ですが、クーロン力(下記)に比べ非常に強い力です。日本で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹
博士により、この力は中間子によって媒介されていることが証明されています
fm(フェムトメートル)は、原子核の大きさや素粒子の波長を測る際に用いられる非常に小さな単位です。例えば、陽子の半径は約1fm、電子の波長は約0.003fmです

④ 電気力(クーロン力)・ 磁気力

クーロン(1736年~1806年/フランス)

クーロン力とは、真空中の2つの電荷間の電場の中で発生する引力または斥力(反発する力)です。電荷の符号が異なれば引力、同じであれば斥力が働きます。クーロン力は以下の式で表されます;
F = k x q1x q2 ÷
F:クーロン力
k:真空の誘電率
q1、 q2:電荷の大きさ
r:2つの電荷間の距離

エルステッド(1777年~1851年/デンマーク)

磁気力とは、磁石が互いに引き合ったり反発し合ったりする力です。磁石の周りに存在する磁場によって引き起こされます。磁気の符号(S極/N極)が異なれば引力、同じであれば斥力が働きます。磁気力は以下の式で表されます;
F = μ₀ x (m₁ x m₂) ÷ (4π x r²)
F :磁気力
μ₀ :真空の透磁率
m₁ , m₂:磁荷の大きさ
r :磁荷間の距離

後段に出てくるプラズマの挙動で重要な意味を持つローレンツ力は、こうした電場、磁場に関する理論が基になっています
尚、上記のクーロン力磁気力の二つの式で重要なことは、いずれもその力が距離(r)の2乗に反比例していることです。例えば、核融合反応では水素の原子核(陽子/プラスの電荷)同士が結合しようとすると、近づけば近づくほど強い反発力が生まれ、結合しにくい訳ですが、ある距離まで近づけることができれば核力が働いで結合することができることになります

3.核反応を扱う場合に必要な元素の周期表の知識
分子、原子、電子、放射線、元素原子量原子番号、を理解するには元素の周期表などの知識が必須です。これらについては高校時代の物理で学んだことがある人が多いと思いますが、分からない場合は過去の私のブログ「原子力の安全_放射能の恐怖?(マウスでクリックすると現在の画面とは独立して参照することができます)をご覧になってください
以下の説明で、核反応の説明を行うときに屡々参照することが必要となると思われる元素の周期表については、度々私の過去のブログをご覧になるのも大変だと思いますので、以下に表示しておきます;

核融合反応とは

1.核分裂反応と核融合反応
核分裂反応は原子爆弾や現在の原子炉でそのエネルギーを生み出す源泉になっている反応です。元素の周期表にある原子量の大きい「ウラニウム235(原子番号92)」や「プルトニウム239(原子番号94)」が右の図の様に分裂することによって膨大なエネルギーが発生します。発生するエネルギーの量は、元の元素の質量をAとし、分裂後の原子の質量の総和をBとし、その差をΔm(=A-B;質量欠損といいます)とすれば、アインシュタインの「特殊相対性理論」から一回の分裂で発生するエネルギー(E)は以下の様になります;

E = ΔmxC2
Cは光の速度;30万km/秒 ⇒ 3.0 x  108m/秒
⇒ ⇒⇒ E = Δmx9.0 x  1016

これに対して、核融合反応は、周期表にある水素など原子量の小さい元素が集まってヘリウムなどの原子量のより大きな元素に変わることによって核分裂反応と同様に質量欠損が発生し膨大なエネルギーが発生します

質量欠損により発生するエネルギーの大きさは、核分裂の場合と同じ式で定義されます

2.核融合炉が核分裂炉に比べて優れているポイント
① 核融合反応はエネルギーの発生量が桁違いに大きい;
googleの最新の生成AI(GEMINI)の回答
核融合炉: 1グラムの燃料から約600万kWhのエネルギーを発生させることができます⇒これは、石炭約6,000トン、石油約4,200バレルに相当するエネルギー量です。
核分裂炉: 1グラムの燃料から約20万kWhのエネルギーを発生させることができます⇒これは、石炭約200トン、石油約140バレルに相当するエネルギー量です

② 核融合炉は、放射性廃棄物の種類、量、半減期、放射能レベル、処理方法、不測な事故、などにおいて圧倒的に有利です;
googleの最新の生成AI(GEMINI)の回答
核融合炉:
廃棄物の種類>中性子と放射線が主な放射性廃棄物です。これらの放射性廃棄物は、時間の経過とともに比較的短時間で減衰します
参考:中性子による放射化に関し詳しく知りたい方は以下の資料(ネット情報)をご覧ください:「中性子による放射化について
<放射性廃棄物の量>発生する放射性廃棄物の量が大幅に少ない
<放射性廃棄物の半減期>数分から数年程度の比較的短い半減期
を持つ放射性廃棄物が主です
<放射能レベル>核分裂反応に比べて、放射能レベルはかなり低くなります
<処理方法>
比較的短かい半減期の放射性廃棄物が多いので、貯蔵と自然減衰による処理が可能です
<事故などによる不測の事態に発展する可能性>
核融合は常温では起こらず、1億度以上という高温が必要であり、不測の事故(例えば電源の喪失など)が発生しても温度が下がれば自然に反応が停止するので安全性が高いと考えられます。また炉内の物質で放射性の物質は3重水素(トリチウム)のみで、他の物質(ヘリウム、重水素)は放射性物質ではありません

核分裂炉:
廃棄物の種類核分裂生成物とアクチノイド元素が主な放射性廃棄物です。これらの放射性廃棄物は、非常に長い半減期を持ち、何万年もの間危険な放射能を放出し続けます
考:アクチニド元素とは(元素の周期表参照)
元素の周期表の原子番号89のアクチニウムから原子番号103のローレンシウムまでの15元素群のことをアクチノイドといい、全て放射性元素です。原子番号90のトリウム、91のプロトアクチニウム、92のウランは、天然に存在するアクチノイドです。原子番号93のネプツニウム以降は人工元素であり、原子炉内などで生成されます

<放射性廃棄物の量>1gの燃料から、数万ベクレルから数億ベクレルの放射性廃棄物が発生します(ベクレルという単位の意味が分からない方は「原子力の安全_放射能の恐怖?」をご覧ください)
<放射性廃棄物の半減期>数千年から数十万年も続く非常に長い半減期を持つ放射性廃棄物が主です
<放射能レベル>非常に高い放射能レベルを持つ放射性廃棄物が発生
します
<処理方法>長半減期の放射性廃棄物が多いため、安全な処分方法の確立が重要な課題となっています
<事故などによる不測の事態に発展する可能性>
核分裂反応は常温でも起こります。核分裂反応では二つの破片と、平均して2.4個の中性子が発生し、その中性子が次の核分裂を誘発し連鎖反応が続きます。この連鎖がたった20回続いただけで、反応数は4千万倍(2.4の20乗)に上ります
原子力発電では分裂1回から出る中性子の内1個だけが次の核分裂を起こすようにうまく制御しています。しかし、不測の事故で内部構造が破壊されたような場合、爆発的ではないにしろ、勝手に核反応が進んで止められなくなる可能性があります福島事故はまさにこのケースです。核の分裂で出来る2つの破片として色々な物質が出来るので、ある一定の割合で非常に強い放射能をもつ物質が出来ることは避けられません

③ 燃料調達コスト・資源量
核融合炉:
現在計画されている核融合炉の燃料は「重水素」と「リチウム」です。重水素は海水中に約50兆トン存在します。3重水素は、核融合反応で出てくる中性子を使って、リチウムを原料にして核融合プラントの内部で生産します
海水から重水素を分離するには、硫化水素を使った技術(GS法)が使われます。この方法では、重水素と水素の重さの差で化学反応にわずかの差が自然に出ることを利用するので、重水の分離に必要なエネルギーも微小です。GS法による重水素製造は既に工業化されており、いずれ大量生産も可能になると思われます。こうして得られた重水を電気分解して重水素を作ります(因みに、この電気分解に必要なエネルギーは核融合で得られるエネルギーの100万分の1以下です!)
リチウムの回収技術についても既に幾つかの技術が開発済みです。例えば工業技術院・四国工業研究所が開発した「イオンふるい法」があります。これはリチウムだけを吸着する高分子を海水に漬けておくだけです。ただ現在、コスト的にはリチウム鉱山や塩湖から回収したリチウムの方が安価です

核分裂炉:
ウランは地球上で比較的豊富な元素であり、その資源量は約450万トンと推定されていますが、経済的に採掘可能なウラン資源量は約300万トンと見積もられています
核分裂炉の燃料コストは、ウラン資源量だけでなく、採掘コスト精製コスト、ウラン235への濃縮コスト原子炉燃料への加工コスト、及び使用済み燃料の処理コストなどが含まれます。勿論、これらのコストは、ウランの価格、採掘方法、精製技術、濃縮技術、燃料サイクルの種類などによって大きく異なります
現在、ウランの価格は比較的低水準で推移しており、核分裂炉の燃料コストは発電コスト全体の中で大きな割合を占めていません。しかし、将来的にウラン資源の枯渇や採掘コストの増加、環境規制の強化などが進むと、燃料コストが上昇する可能性があります

プラズマと核融合

核融合反応は太陽エネルギーの源であることは多くの人がご存じのことと思います。確かに太陽のエネルギーの源は太陽の中心付近で実際の起こっている水素原子が4つ融合してヘリウムに変わる時のエネルギーですが、この反応は現在の技術では地上で再現できません
太陽で核融合が可能なのは、その中心部で巨大であるが故に内部の密度は非常に高く、中心付近では固体水素の約1,800倍(因みに地球上の固体水素の密度は約0.086 g/㎤)になっていて、この極めて高い密度と1,600万度以上の高温により、水素の原子核(陽子)4ヶが融合(p-p Chain/連鎖)してヘリウムとなる反応が可能になっています(右図参照)
一方、地上では水素をこんな高密度にすることは不可能である為、重水素と三重水素を1億度以上の高温のプラズマにして電磁的に閉じ込めることにより核融合を実現することができるとされています(⇒実際に核融合反応が起こることが実験的にも確かめられています)
1.プラズマとは
地上にある物質は、通常温度が上がるにつれて「固体」⇒「液体」⇒「気体」と変化します(上図は水の相変化)。気体を更に温度を上げて(超高温!)いくと原子が活発!に動き回り(⇔温度が非常に高い事と同義)互いに衝突を繰り返す事になり、左図の様に「電子」が「原子」の束縛から離れ、自由に動き回れる現象(電離現象)が起きます。この状態を「プラズマ」といいます。プラズマはプラスの電荷をもつイオン粒子とマイナスの電荷をもつ電子の集合で全体としては中性です。しかしプラズマの部分を見ると性質が正反対の正の粒子(イオン)と負の粒子(電子)の集まりです。プラズマの電離度は温度が高い程、密度は低い程高くなります。プラズマは以下の様に自然現象でも発生し、我々が自身の目で見ることもできます;

① 蛍光灯の内部でもプラズマが発生しています
蛍光灯の内部では、電極からの放電によって中にある水銀ガスから紫外線が発生して管内壁に塗布された蛍光物質で発光しますが管内では放電により1万度の熱で約10億個の弱電離プラズマが発生しています。電離度は約1%、密度は大気(2.7x1019/1㎤)の1億分の1程度(約1011/1㎤)でかなり希薄です

② 雷でも強力なプラズマの姿を見ることができます
雷現象は雷雲と地上を電極とする地球規模で起こる放電現象です。雷雲と地上との間には数億ボルトの電圧がかかり、流れる電流は数万アンペアに達し、雷路と呼ばれる電気の通り道に高温のプラズマが生成されますこれによる大きな電場(注)で大気中に存在する電子が急激に加速され、空気の分子に衝突して雪崩的にプラズマが発生するとともに、そこに流れる電流によってプラズマは瞬時に加熱されて数万度の高温になり、それが膨張するときにまわりの空気を圧縮して衝撃波を発生させます。これがけたたましい雷鳴の原因です。尚、密度は空気の10倍以上になります
(注)通常理学系の分野では「電場(でんば/electric field)」と呼びますが、工学系の分野では「電界」と呼んでいます

③ オーロラは太陽からのプラズマで作られます
地球は南極をN極、北極をS極とする磁力線で囲まれた構造をしています。この地球磁場(注)はやはり磁場を伴ったプラズマである太陽風に吹き付けられる結果、左の写真の様に地球の昼側である前面ではプラズマの圧力で押し付けられ、夜側である後面では長く引き伸ばされます。プラズマは磁力線を横切って運動しにくい性質(後述します)があることから、地球磁場と太陽風の磁場の繋ぎ変え現象がはるか上空で起き、プラズマの一部は磁力線が地球内部に入り込んでいく北極と南極の上空に流れていきます。オーロラは、この地球磁場に導かれた太陽風が南極や北極の上空の空気と衝突した時に起こるプラズマの発光現象の一つです。上下方向にはカーテンの様に波打った構造で下方にはくっきりとした「縁」が見られます
(注)理学系では「磁場(じば/Magnetic field)」と呼びますが、工学系の分野では「磁界」と呼んでいます

④ 太陽を観察すると、様々なプラズマの現象が見られます
太陽の中心付近で発生した核融合エネルギーは10万年以上かけて太陽表面に到達し宇宙空間に放たれますが、そのエネルギーによって太陽の表面から上空にかけて様々なプラズマ現象が起きます
良く知られているのは数時間から数か月にかけて現れては消える黒点活動です。見た目に黒く見えるのは黒点の温度が約4,500℃で、回りの太陽表面の温度6,000℃より低いからです。黒点はX線で見ると左の写真の様に活動の激しい領域であることが分かります

黒点が集合している場所などで、内部に閉じ込められていたエネルギーが一挙に放出される「太陽フレア」と呼ばれる突発的な爆発現象がしばしば起こり、円弧を描くアーチ状のものや先の尖ったもの(カスプ状)など、様々な形をした高温プラズマが高度1万km~10万kmのコロナ領域に放出されます

2.電場と磁場におけるプラズマの挙動
プラズマを構成する電子とイオン(荷電粒子)は電荷をもっていることから、外部から加えられた電場や磁場などによる電磁気的な力に従って運動します
上図の右側の磁場の中に置かれた荷電粒子には「ローレンツ力」という電磁気力が作用するため磁力線のまわりを回転するようになり、磁力線に沿った方向には運動

ローレンツ (1853年~1928年/オランダ)

できるものの、それを横切る方向には運動がしにくくなる(磁場に捕捉される)性質があります。ローレンツ力と言っても馴染みのない方もいると思いますが、高校時代に物理を選択した方であれば、電動機の理論を学んだ時に覚えたはずの「フレミングの左手の法則」を思い出していただければ分かり易いと思います

磁場はプラズマの自由な運動を回転運動に変えることで動きを制限します。つまり、ここの乱雑な動きをする粒子に「方向」や「回転」という新たな秩序を与えることができることになります。この性質をうまく利用することによりプラズマ全体に秩序を与えることができます。プラズマを閉じ込める装置(後述)はこのプラズマの性質を考えて考案されたものです

また、プラズマには常に状態を中性に保とうとする「復元力」が発生します。プラズマの中にイオンや電子の密度に差(揺らぎ)ができると、イオンが多いところは「正/プラス」に、電子の多いところは「負/マイナス」に帯電する為、「正」の領域から「負」の領域に向かって電場が発生します。この電場は、イオンの多いところには電子を、電子の多いところにはイオンを引き寄せることから、もともと発生した電荷の揺らぎを無くすようにプラズマに運動を引き起こします
この復元力は、プラズマに様々な現象をもたらします。「重りのついたバネが伸びて、また戻るときに反対方向に縮み、その伸縮が振動を引き起こす」ように、電場がバネの様な役割をしてプラズマ中に発生した粗密が振動し、それが波として伝わることによるものです

プラズマがこの様に自身で運動を引き起こすという事は、プラズマが必ずしも人間の思い通りに振る舞ってくれない(外部から与えた磁場や電場に従ってくれない)可能性があることを意味しています

ラザフォー(1871年~1937年/ニュージーランド)

3.地上で核融合反応を起こすレーザー
核融合反応そのものは、1930年代のアーネスト・ラザフォードにより重水素をターゲットに粒子加速器を使って重水素を入射し実証していますが、発生した核融合エネルギーは、この為に要したエネルギーよりかなり少なく、入射を止めてしまうと核融合反応も止まってしまいます。核融合炉としてエネルギーを取り出すには「熱核融合(高温核融合)」であることが必要です。温度が十分に高く、かつ閉じ込められたプラズマによる核融合反応を目指す必要があります

① 地上の核融合は「DT反応」を利用する
太陽で起きている核融合反応は水素原子だけの(p-p Chain)であると書きましたが、このタイプの核融合反応は現在の技術では地上で実現できません。地上で実現可能と考えられている反応は、重水素(Deuterium)と三重水素(Tritium/トリチウム)による核融合反応(以降「DT反応」と表記します)です
その次に起こりやすい核融合反応は重水素同士による反応(以降「DD反応」と表記します)です。この反応は放射性物質である三重水素(Tritium)を燃料として使わないこと、及び発生する中性子のエネルギーが小さいことなどのメリットがありますが「DT反応」よりも厳しい条件を満たさないと成立しません

② 地上での核融合炉の成立条件
<以下はGoogleの最新の生成AIであるGEMINIの回答を使用しています>
核融合反応を起こすためには、以下の3つの条件を満たす必要があります;
十分な温度: 核融合反応を起こすためには、原子核同士が衝突する際に、クーロン斥力(基礎知識_2の④参照)を克服するだけのエネルギーが必要です。そのため、燃料となるプラズマは1億度以上の高温に熱する必要があります
十分な密度: 燃料となるプラズマ中の原子核が十分な頻度で衝突するためには、プラズマ密度が十分に高い必要があります。具体的には、10141015/cm3程度の密度が必要とされています。
十分な閉じ込め時間: 燃料となるプラズマが閉じ込められて、核融合反応が起きるまでの十分な時間が必要です。具体的には、数秒程度の閉じ込め時間が必要とされています。
これらの条件を満たすためには、強力な磁場によってプラズマを閉じ込める必要(後述)があります。また、プラズマを加熱するための方法も必要(後述)です

これらの条件を満たした状態を点火条件
といいます。点火条件を達成すれば、核融合反応が起こり、大きなエネルギーを発生させることができます。

自己点火条件;
さらに、外部からの加熱なしで核融合反応が自己持続的に起こる条件を自己点火条件といいます。自己点火条件を達成するためには、上記の3つの条件に加えて、プラズマのエネルギー損失を抑制する必要があります

4.プラズマ閉じ込めの二方式
磁場の中でのプラズマの挙動については、前項(プラズマと核融合)の「2.電場と磁場におけるプラズマの挙動」を参照してください
プラズマを閉じ込めるには、右図の様な「磁力線で編んだ籠(かご)」を作る必要があります
<以下はGoogleの最新の生成AIであるGEMINI、及びMicrosoftのCopilot(GTP-4)の回答を使用しています>
① トカマク方式
トカマクとは、ロシア語の「電流・容器・磁場」の頭文字に由来します
トカマク方式の磁場は、主に以下の3種類の磁場から成っています;
トロイダル磁場
ドーナツ状に配置された「トロイダル磁場コイル」によって生成されます。この磁場は、プラズマをドーナツ状に閉じ込める役割を果たします。
ポロイダル磁場
中心軸に沿って配置された「センターソレノイドコイル」によって生成されます。この磁場は、プラズマの回転を促進し、プラズマ内の熱を閉じ込める役割を果たします。
垂直磁場
プラズマの形状を制御し、安定させるために、トロイダル磁場とポロイダル磁場の方向に垂直な方向に生成されます。一般的には、外部に配置された「垂直磁場コイル」によって生成されます

これらの磁場の組み合わせによって、プラズマはドーナツ状の空間内に閉じ込められ、高温状態を維持することができます

② ヘリカル方式
ヘリカル(Herical/らせん状)方式の磁場は、主に以下の2種類の磁場で構成されています;
ヘリカル磁場
らせん状に配置された「ヘリカルコイル」によって生成されます(この磁場によってプラズマを閉じ込める)
垂直磁場
外部に配置された「垂直磁場コイル(注)」によって、ヘリカル磁場の方向に垂直な方向に磁場を生成します

(注)上図にあるRMP(Resistive Magnetohydrodynamic Perturbation)コイルとは「垂直磁場コイル」のことです
また、上図にあるLHD(Large Helical Device)とは、日
本の自然科学研究機構核融合科学研究所のプロジェクトによって製作された大型のヘリカル型プラズマ装置54分の長時間のプラズマ持続や、核融合に必要な条件の10倍となる高密度プラズマを成功させました。プラズマの温度は、2017年3月から始まった重水素を用いた実験で、核融合に必要な条件である1億2,000万度を達成しています(本ブログの見出しの写真の右側の装置)

<参考>
日本におけるヘリカル型核融合研究の現況については詳しく知りたい方は以下をご覧ください;
2018年8月30日_科学技術・学術審議会 学術分科会・研究環境基盤部会 学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会_「超高性能プラズマの定常運転の実証」

核融合炉開発の現況

<以下は、外務省、経済産業省、科学技術庁のサイトから抜粋したものです>
ITER(日本では「イーター」と呼んでいます)は,当初,国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor)の英語の頭文字をとった略語でしたが,その後、ITER事業のためにフランス南部の「Saint-Paul-lez-Durance」に建設されている国際熱核融合実験炉を意味する固有名詞として扱われることとなりました
ITERは、国際協力によって核融合エネルギーの実現性を研究するための実験施設です。この核融合実験炉は、核融合炉を構成する機器を統合した装置であり、ブランケット(原料のリチウムから3重水素を作るやダイバータ(後述)など核融合炉にとって極めて重要な機器の総合試験装置でもあります。計画が順調に進めば、この先「原型炉」、「実証炉」、または「商業炉(下のイメージ図参照)」へと続くことが期待されています
1.ITERの歴史と今後の開発計画
1985年11月 、米ソ首脳会談(レーガン・ゴルバチョフ)の共同声明が発端
1988年~2001年7月 、概念設計活動及び工学設計活動を実施(米国は1999年に計画から脱退
2001年11月 、政府間協議開始
2001年7月、建設に必要な技術的準備が完了
2003年2月、 米・中国が政府間協議に参加
2003年6月、 韓国が政府間協議に参加
2003年12月 、カナダが交渉から脱退
2005年6月、 第2回6極閣僚級会合(@モスクワ)において,フランスにITERが建設されることに決定
2005年12月 、インドが政府間協議に参加
2006年11月、 ITER機構設立協定締結,イーター特権免除協定署名。第1回暫定イーター理事会開催(@パリ)
2007年7月、 第2回暫定イーター理事会開催(@東京
2007年10月24日、 イーター協定発効
2007年11月、 第1回イーター理事会開催(@仏)、池田要氏が機構長に就任
2010年7月 、臨時イーター理事会開催(@仏),スケジュール等について記したベースライン文書を承認本島修氏が機構長に就任
2015年3月、 臨時イーター理事会開催(@仏),ベルナール・ビゴ氏が機構長に就任
2016年11月 、第19回イーター理事会開催(@仏),スケジュール等について記したベースライン文書を暫定承認

量子科学技術研究開発機構は、ITER協定に基づく活動を行う我が国の国内機関に指定されており、我が国が分担するITER機器や設備の調達活動を進めるとともに、ITER機構への人材提供の窓口としての役割を果たします

2021年5月、日本が製作を担当する超伝導磁石コイルは、三菱重工によって予備1基を除く計4基が完成し、南フランスのITERサイトに向けて順次積み出し
2023年12月、ITERの心臓部であるトカマク建屋内の真空容器底部が設置完了

今後の見通し
*2024年中に、超伝導磁石コイルの組立が完了予定
欧州が製作を担当する真空容器は、2023年12月に底部が設置され、2024年中に上部が設置予定
米国が製作を担当する中性粒子ビーム入射装置は、2024年中にITER建設サイトに搬送予定
韓国が製作を担当する遠赤外線診断装置は、2024年中にITER建設サイトに搬送予定
中国が製作を担当する電子サイクロトロン加熱装置は、2025年中にITER建設サイトに搬送予定
インドが製作を担当する遠隔操作システムは、2025年中にITER建設サイトに搬送予定
*2025年のファーストプラズマ
*2028年:核融合実験開始
*2035年:本格運転開始
今後の課題
新型コロナウイルス感染症の影響により、建設作業に遅延が発生している
ウクライナ情勢の影響により、ロシアからの資材調達に支障が出ている

2.日本の役割
日本はEUとの協力のもとに、核融合エネルギーの早期実現を目指して、ITER計画の効率的・効果的な研究開発を支援・補完するとともに、将来の核融合原型炉実現のために必要な炉工学研究やプラズマ物理研究などの先進的核融合研究開発を行う活動(ITER BA活動/Broader Approach)を青森県や茨城県で行っています
青森県では、BA活動の推進を図り、将来の原型炉の県内誘致を目指して、六ヶ所村において核融合エネルギーの研究に従事する外国人研究者等の子弟やその家族を対象に、国際的に通用する教育サービスの提供や生活上の支援、地域住民との国際交流の推進に取り組んでいます

JT60SA計画について
この計画は、核融合エネルギーの早期実現のために、ITER計画と並行して日本と欧州が共同で実施するプロジェクトです。その目的は;
① ITERの技術目標達成のための支援研究
ITERと同じ形で高い性能を持つプラズマ運転を行い、その成果をITERへ反映させます
② 原型炉に向けたITERの補完研究
高出力の核融合炉を実現するため、高い圧力のプラズマを長時間(100秒程度)維持する運転方法の確立を目指します
③ 人材育成
ITER計画をはじめとする核融合研究開発を主導できる研究者・技術者の育成を行います

全体の機能は以下の図をご覧ください;

上図に関する補足説明;
日本が担当する機器(日の丸部分)はいずれも技術的に難しく、ITER開発の成否関わる最重要な機器になります。以下に日本が開発を担当している特に重要な機器についての補足説明;
ダイバータ(Diverter)>
融合炉を構成する機器のひとつで、粒子排気、熱除去、プラズマ閉じ込め改善の3つの機能を担います
環状型のプラズマ閉じ込め装置では、コアのプラズマから壁へ拡散しようとする熱流束や粒子束による、装置内壁の損傷が問題となります。この問題解決のために、コアプラズマからの熱流束・粒子束を磁場配位によりダイバータ領域(右図参照)へ集中させます。この磁場配位では、コアプラズマからの熱流束・粒子束はダイバータプレートへ向かいます。ダイバータ磁場配位の利点は、プラズマ粒子をダイバータ部に集中させることにより効率の良い排熱・排不純物粒子ができる点、ダイバータプレート以外の装置内壁の損傷を低減できる点、などがあげられます。ダイバータ磁場配位の問題点はダイバータプレートへの高熱負荷・粒子負荷です。このため、ダイバータ領域での放射冷却や非接触プラズマの形成が課題となっています
中性粒子ビーム入射加熱装置
ITERでは、約 1,000万度のプラズマに、約 1,000倍位の高いエネルギーの粒子を約5x108
を数百秒間注いで1億度のプラズマを作ろうとしています。素粒子の研究に使われている粒子加速器はもっと高いエネルギーを出せますが、核融合では大量の高エネルギーのイオンを長時間作ることが必要なので、それなりの難しさがあります。また、核融合炉では磁場の籠を通り抜けるためにイオンを中性の水素に変える必要があります。イオンを加速する為に必要であった電荷を「中性化セル」(上図参照)と呼ばれる箱の中で水素ガスから電子を1ヶ受け取って高エネルギーの中性水素原子ビームに変えてプラズマに投入されます
高周波加熱装置>
ITERでは高周波のエネルギーをプラズマまで効率よく伝送するために、真空にした直径10cm以下の細い真空の管の中を通しています。高周波を発生するジャイロトロンとこの管の間には、菅内の真空を保つ為にダイヤモンドの仕切り板(直径10㎝、厚さ1mm)が入っています。この仕切り版は強力な高周波による熱負荷がかかるため強力な冷却を行うため熱伝導性の高いことが必要であると同時に、高周波を効率良く通す必要もあるためダイヤモンド(人工)が使われています
詳しくは、量子科学技術開発機構のプラズマ研究開発のサイトをご覧ください

尚、JT60SAとITERやその他の国の実験炉との性能の違いについては下の図表をご覧ください。右図表中の IP=「数字」MA という表示は、核融合炉の性能に直結するプラズマ中を流れる電流」を意味します。単位MAはメガ・アンペア(⇔100万アンペア;とんでもない大電流ですね!)を意味します

<参考>
トカマク型、ヘリカル型核融合装置以外にも、近年開発が進んでいる強力なレーザーを使った核融合炉の研究も米国、欧州、日本において進められております;
米国:国立点火施設(NIF)で点火実験を実施し、2022年には核融合エネルギー1.35メガジュールを達成しました。
欧州:HiPERプロジェクトで、2030年代の実用化を目指した研究開発を進めています。
日本:大阪大学レーザー核融合研究センターで高速点火法の研究開発を進めており、2023年には世界最高となる燃料密度120g/㎤を実現しました。

Follow_Up:2024年3月7日「伊藤忠・ソフトバンク、核融合発電の米新興に出資_2030年にも商用化
Follow_Up:2024年3月15日「核融合発電「30年代に実証」 レーザー型の開発で先行_米ローレンス・リバモア国立研究所 ジョン・エドワーズ研究顧問

おわりに

私にとって専門外の分野であることから、理解するのに時間が掛ると同時に、どうしても理解できない部分も多々ありました(⇒理論的な結論のみを拝借!)
一方、核融合炉の開発は、300年に亙る天才物理学者による研究の積み重ねによって、遂に無限の太陽エネルギー源に迫るというロマン溢れる挑戦であることが理解できました

現存の核分裂反応による原子力発電は、第二次大戦の主な戦勝国が原子爆弾の技術を使って実現し、世界に普及させたことは良く知られています。しかしこのタイプの原子炉は、チェルノブイリの原子力事故福島原子力事故を起こし事故発生に対するリスクをゼロにはできない事が分かったことと共に、未だに廃棄物の処理に関する技術が十分に確立されたとは言えません。もはや現存の原子炉は決して「夢のエネルギー」とは言えないことが分かってしまいました
また、地球温暖化の危機は刻々と迫っているにも拘らず、長期的な目標に漸近する気配が見えません。最大の化石燃料の消費国が本気になってこの危機に挑むことは、彼らの現在の人口経済力発展途上にあること、などから望み得ないことは明らかであると思われます

しかし、今回勉強した結果、核融合炉は決して夢ではないという事が理解できたと同時に、2050年の脱炭素目標と連携させる事ができるのではないか、という希望が湧いてきました。更に、この核融合炉の開発では、何と日本が主役の一人であることも分かりました。これから希望をもって日本の開発組織、開発担当者を応援したいと思います
日本の経済界も、昨年から核融合炉の開発に本気になって取り組む気配を見せています「核融合発電、IHIなど約50社が新組織」、「核融合産業の企業体、三菱重工など19社が中心

今後、新しいニュースが入ったらFollow_Upを続けたいと思います

以上

ウクライナのこれから

はじめに

見出しの写真の左は、ベトナム戦争に関する米国民のみならず世界の世論を大きく動かした報道写真です。この写真は、南べトナム軍のナパーム弾の誤爆により避難民の少女が衣服を焼かれ裸になって逃げていく所を UPI のカメラマンが撮影し世界に報道されたものです。この後、数年で米軍がベトナムから撤退することになりました。一方、右の写真はロシアの攻撃で避難を余儀なくされた市民の先頭を泣きながら歩く子供の写真です。この二つの写真は凡そ半世紀を隔てた戦争の写真ですが、いずれも市民を巻き込んだ非人道的な戦争の実相を表す報道写真であると思います

2年前の2022年2月24日にロシアの突然の侵攻で始まったウクライナ戦争は、その後約一年半が経過した現在もなお激しい戦いが続いています
同年8月25日に投稿した「ウクライナの歴史」で述べたように、ウクライナの歴史に根ざした強烈な「愛国心」、「国民大多数の高い士気」、「勇敢な兵士」、「ロシアに対する怨み」、及び「米国、EUを中心とした軍事援助」によって現在もなおウクライナは軍事大国ロシアと互角に戦っています。しかし昨年行われた米国議会選挙の結果、下院の過半数を共和党が握ることとなり米国のウクライナ援助に関わる予算が議会を通過しない状況に陥っています。また、EUにおいてもハンガリーのロシア寄りの姿勢からEUのウクライナに対するバックアップが必ずしも円滑にいかない状況になっています

この戦争を歴史的に俯瞰すると、第一次世界大戦、第二次世界大戦の開戦時と同じような世界を二分するイデオロギーの戦い(「覇権主義」対「自由主義」)が背景にあり、一歩誤れば多数の国を巻き込んだ大きな戦争に発展する危険性を孕んでいます。つまり、日本としても他人事で済ますわけにはいかないと私は思っています
以下に、今後の戦況の帰趨に関わるいくつかのポイントについて、私なりの見解を述べてみたいと思います

現在までの戦況

これまでの戦況の内、投稿済みの「ウクライナの歴史」の後半、及びブログ発行後の Follow_Upで2023年2月22日まで Update しておりありますので、ネット情報を中心にこの時点以降の時系列の沿って戦況の推移を辿ってみたいと思います。尚、タイトルにある年月日はネット上に掲載された日です

                                                 <ウクライナ優勢を保つ>

① 2023年2月23日、「
明日侵攻一年、ロシア支配地の5割を失い 死傷者は20万人規模」;

2023年2月24日;
*ロシアのウクライナへの軍事侵攻から一年がたち、米欧からウクライナへの軍事支援は重火器や戦車に軸足を移しています。戦況が膠着するなか、ウクライナ、ロシア双方とも兵士と資金をつぎ込み続けています。ロシアは2022年に軍事費を前年より4割増やしたものの、兵力や戦車の損耗に苦しんでいます
ロシアの兵力は2021年時点で現役兵と予備役の合計で290万人でした。2022年9月に部分動員に踏み切り、現役兵は119万人、予備役は150万人となりました。動員対象になった訓練度の低い予備役が戦場に送られている実情が浮かびます
ウクライナは総動員令をかけており、現役兵は68万人と3.5倍に増えました。装備品をみると、ロシアの主力戦車の数は2千70台で前年から4割減り、現役の戦闘機も2022年に6~8%失ないました。特に近代化の改修を施した戦車「T72B3」や「T72B3M」は半減し、旧式の装備の投入を強いられています
③ 2023年2月27日;
英国防省は26日、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地で破壊されたロシア軍の複数の装甲車両とされる衛星画像を公表しました。前線に展開した精鋭部隊・第155独立親衛海軍歩兵旅団に所属する車両とみられます。同省は、精鋭部隊が軍事作戦を遂行する能力は「ほぼ確実に大幅に低下した」と強調しました。下の写真は2月9日の衛星写真を基に英国防省が解説したものです

<ウクライナ反転攻勢開始>

④ 2023年6月9日、「ウクライナ南部で反転攻勢」;
ウクライナ軍は8日、ロシアが占領する南部の複数の前線で反攻を始めました。複数の米主要メディアによると、ドイツの主力戦車「レオパルト2」など米欧が供与した兵器を投入し、ロシア軍の防御陣地に激しい攻撃を仕掛けています


⑤ 2023年6月11日、「
ウクライナ反攻開始、成否を分けるのは機動性」;

ロシアの侵攻を受けるウクライナが、領土奪回に向けた本格的な反攻を始めました。第二次世界大戦後の最大級の陸戦となる見通しで、ウクライナは米欧が供与した兵器をテコにロシアの防衛線を突破し、早期に大きな戦果をあげたい考え。ロシア側は戦線を膠着状態に持ち込んでウクライナ軍を消耗させる戦略。反攻の成否はウクライナ軍の機動力にかかっています。戦略目標は;
南部防衛線の突破
東部のバフムト奪還

⑥ 2023年6月15日;
ウクライナ軍のフロモフ准将は15日、同国東部と南部における反転攻勢で既に100㎢を奪還したことを明らかにしました。東部ドネツク州南西部のベリカノボシルカ、南部ザポロジエ州マラトクマチカの近郊まで進軍していると指摘し、ロシア軍は航空戦力や砲撃力が優勢であるとして「ウクライナ軍は熾烈な戦いのなか進軍している」と強調しました

⑦ 2023年6月20日;

ロシア軍は東部や南部で築いてきた対戦車防空壕や地雷原からなる防御線で、突入してきたウクライナ旅団の足をまず止めることに成功しました。また、戦闘ヘリによる攻撃も仕掛けています。撃墜を恐れて控えてきた航空攻撃が可能になったのは、キーウにミサイルや無人機攻撃を反復することでウクライナ軍が防空兵器を首都に振り向けざるを得なくなり、前線部隊の防空能力を下げることができたためです
更にロシア軍はドニエプル川下流域にかかる最後の通路だったカホフカダムを破壊し、へルソン州北部に控えていたウクライナ部隊がダム上の道路を経由してヘルソン南部に奇襲反攻することを阻止し、反転攻勢の面的広がりを制約することに成功しています
最近、米国が兵器の無制限供与に二の足を踏んでいるのは。中国軍の台湾侵攻が従来予想より早まる恐れがあるとの警戒感が米国で高まっていて、中国が「日米や台湾の兵器備蓄が進んでしまう前に奇襲侵攻に動こう」との衝動にかられる事態への懸念があると言われています

⑧ 2023年6月24日、「雇い兵組織・ワグネルの反乱」;
ワグネルは6月24日、それまで戦っていたウクライナ東部地域の戦闘から離脱し、ウクライナ国境から100キロ東にある地方都市「ロストフ・ナ・ドヌ」に進軍しました。ここにはロシア南部軍管区の司令部があります。その後、同市の市庁舎を占拠しモスクワに向かって進軍を開始しました
プーチン大統領は、ワグネル創始者で反乱の首謀者であるプリゴジンと直接交渉を行い「彼を反乱者に問わない」と約束したためモスクワへ進軍は停止しました。6月25日、ベラルーシ大統領・ルカシェンコの仲介でプリゴジン及びワグネル軍団はベラルーシに向かいました
*2023年8月23日、プリゴジンは搭乗した小型機の墜落を装って暗殺されました

⑨ 2023年6月30日、「侵攻後最多の捕虜交換」;
ウクライナは248人、ロシアは230人をそれぞれ相手に引き渡した。2022年2月に始まったロシアによる侵攻開始以来、最大規模の捕虜交換となりました。この捕虜交換は両国と良好な関係を維持するアラブ首長国連邦(UAE)の調停によって実現したものです
帰還したウクライナ側の230人の中には、ロシアに包囲されたマリウポリで最後の拠点となった製鉄所で戦った将兵の生き残りの95人(内43人は「アゾフ大隊」のメンバー)がおり、彼らはいずれも重傷を負っていました

          <ウクライナ兵器不足に直面>

⑩ 2023年7月8日、「ウクライナ軍、反転攻勢で兵器2割損失」;
ウクライナ軍は、ロシアが敷設した地雷により損失を拡大させており、反転攻勢を始めて2週間で兵器の2割を失いました。この為、ウクライナ軍は一時的に進軍を停止していることを認めました。尚、米軍はウクライナに殺傷力の高いクラスター弾の供与を認めました

⑪ 2023年7月25日、「ウクライナが米軍供与のクラスター弾を使用」;
7月22日にロシアとウクライナ双方によるクラスター弾とみられる攻撃で従軍記者らが死傷しました。米国は紛争の長期化に伴う弾薬不足から、欧州の一部の反対を押し切って供与に応じました。背景には米国の防衛企業の武器供給力が5年間で2割減ったことがあります。バイデン大統領は7月7日、「軍需物資の戦争だ。ウクライナは弾薬を使い果たし、我々も不足している」と米国としても苦渋の判断だったと認めました。民間人への被害を懸念する日欧などは、クラスター弾の製造や使用を禁じるオスロ条約に参加しています。同条約に不参加の米国は、これまで同盟・有志国に配慮してウクライナの要請を拒んできましたが、殺傷力の強いクラスター弾に頼らざるを得なくなったと思われます

⑫ 2023年7月31日、「対ウクライナ軍事援助、西欧の履行遅れ 支援疲れの兆し」;
ウクライナへの軍事支援に絡み、実際に武器が届いた割合を示す履行率で欧州内の東西格差が生じています。戦車の履行率ではポーランドやチェコなど冷戦時に東側ブロックにいた諸国が8割に達した一方、米国やドイツなどその他の米欧では合わせて2割台にとどまる;
ロシアの脅威に対する危機感の強弱に加え、西欧の「支援疲れ」が見て取れます
こうしたことにより、反転攻勢を始めてからこれまでの1ヶ月半で奪回した領土はロシアの支配下にある国土の0.3%程度にとどまっています
旧社会主義圏の東欧の履行率の高さの背景には、歴史的な経緯からロシアの脅威に対する危機感が強いことがあります。ウクライナと地理的に近いことから侵攻の影響も受けやすいうえ、支援を届けるのが比較的容易な事情もあります。一方、西欧ではドイツやイタリアなどロシア産エネルギーに依存していた国が多く、侵攻の長期化による「支援疲れ」が出ていることも否めません。また、最新鋭の兵器の増産体制を整えるのに時間がかかっていることも要因になっていると思われます

<ウクライナ、戦略の転換か?>

⑬ 2023年8月17日、「ウクライナが国産ドローンを増産」;
主戦場になっている南部の戦況が停滞するなかで、ウクライナとロシアはドローンを使った攻撃を増加させています。ウクライナは南部クリミア半島周辺やロシア本土への攻撃を増やし、補給網の寸断やロシア側の厭戦機運の醸成を狙っています。史上初の大規模なドローン戦の行方は、今後の戦争のあり方に大きな影響を及ぼすと考えられます
ウクライナの40を超えるメーカーは夏ごろから政府の支援を受け、偵察用や攻撃用の国産ドローン生産(国産品は輸入ドローンよりも価格が10分の1以下)に着手し、年末までに最大20万機の調達を目指していると明かしました。また、操縦者の訓練も急ピッチで進めており、すでに1万人の要員が訓練を受け、17のドローン関連の部隊が発足しました。年内にはドローン部隊は数万人規模に膨らむ見込み。ウクライナは南部の領土でも偵察ドローンと砲兵を連動させた作戦を進め、徐々に攻勢を強めています。一方、ロシア軍も昨秋以来の攻撃で急減したミサイルの代替兵器としてドローンへの依存を深めています
⑭ 2023年8月19日、「無人機、モスクワ市中心部攻撃」;
ロシア国防省は18日早朝、モスクワでウクライナの無人機を撃墜したと発表、ソビャニン市長はドローンを撃墜後、中心部の展示会場モスクワ・エキスポセンターのビル群に残骸が落下したと明らかにしました

⑮ 2023年9月18日;
8月中旬、ロシアが占領するウクライナ南部メリトポリに向かうルートの要衝(ベルボベ)でウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破した結果、ロシア軍は温存していた最後の精鋭師団である第76衛兵航空突撃師団をウクライナの東部から南部へと振り向けました。この配置転換により東部に展開するロシア軍は機動性のある予備兵力を失ってしまいました。これにより、ウクライナ軍の精鋭部隊である第3強襲旅団がアンドリーウカのロシア軍第72自動車化狙撃旅団への攻撃を行った結果、ロシア軍の守備隊は主力部隊から切り離されて包囲され、壊滅しました

⑯ 2023年11月25日、「ロシア軍の被害甚大」;
英国防省は24日、ウクライナ軍の長距離兵器による攻撃でロシア軍は大きな被害を受けていると分析した。これは前線や支配地域の境界から数十キロ離れた場所から長距離砲が使われた結果とみられます。ロシアメディアによるとクマチョボでは兵士慰問の為に訪れていた著名な俳優も死亡したとのこと

⑰ 2023年12月2日、「敵発見から破壊までわずか80秒 ウクライナのドローン、橋頭堡防御の要に」;
これは、ウクライナ軍のチームがロシア軍の戦闘車両を偵察用ドローンで発見し、攻撃用ドローンを送って破壊するまでにかかった時間です。これはロシアがウクライナに対する戦争を拡大して以降、ドローンによるキルチェーン(目標の識別から破壊までの一連の処置)としては最速記録になりました。この数字は、重要な戦場でウクライナ軍のドローンによるロシア軍の車両や歩兵に対する脅威が一段と高まっていることを物語っています。このドローン攻撃は、南部ヘルソン州のドニエプル川左岸にある集落・クリンキの東端でのことでした。ドニエプル川左岸は現在殆どロシアが支配しています。敵発見から破壊までわずか80秒 で行えることは、ウクライナのドローンが橋頭堡防御の要になっていることを意味します
ウクライナ側はクリンキ上空で局所的な航空優勢を確保していますが、これはウクライナ軍の砲兵部隊やドローン部隊、電子戦部隊が数週間かけてドニエプル川左岸のロシア側の防空システムや無線妨害装置を破壊し、同時にウクライナが敵のドローンが飛べないようにする無線妨害装置を設置していった結果です
ともあれこの地域では、ウクライナ側が圧倒的に優勢な戦場ができ上がっていま。クリンキにいるウクライナ海兵隊の部隊は2、3個程度の中隊か大隊ですが、ロシア軍はヘルソン州南部でウクライナ軍の10倍程度の兵力を擁するにもかかわらず、これまでウクライナ軍を押し戻せていないのはこうした理由によるものであると考えられます

<欧米の軍事支援とロシアの継戦能力のせめぎあい>

⑱ 2023年12月21日、「ロシアの滑空爆弾に手こずるウクライナ、近く入手予定の F-16戦闘機で形勢逆転か」;
NATO諸国の主力戦闘機 F-16の供与がウクライナの強力な支援になる理由は、現在ウクライナが苦しめられているロシアの滑空爆弾(注1)を投下するロシア軍機に対抗する唯一の手段になるためです
(注1)ロシア軍がウクライナの防空システムでは防御できない約40キロ以上離れたところから発射できる精密誘導のミサイル

オランダ、デンマーク、ノルウェー、ベルギーは、近く余剰となったF-16をウクライナに供与することを約束しました。また、ウクライナ軍のパイロットは、既にルーマニアと米国の基地で F-16の訓練を受けていいます

F-16は、ロシアの戦闘爆撃機(Su-27、Mig-29)より優れたセンサーや防御のための電子戦装備や武器を搭載しており、ロシア機との交戦では極めて有利と言われています。因みに、F-16は高高度で約130キロ先の標的を探知し、AIM-120C空対空ミサイルで敵戦闘爆撃機を攻撃できます。また、ポッド状の電波妨害装置(ALQ131、184)を装備しているため、ロシアの地対空ミサイル(S-400 )に対してある程度の防御力を備えているからです

今後、この4ヶ国が余剰となっているF-16の供与(注2)を受ければ、ウクライナは F-16を60機以上手に入れることが可能となり、現在の戦況を変える「ゲームチェンジャー」となるかもしれません
(注2)供与する4ヶ国は F-16の代替として最新の F-35を導入することになっています

⑲ 2023年12月28日、「米国がウクライナに追加軍事支援」;
米政府は27日、ウクライナに2億1千ドル(約355億円)の追加軍事支援を行うと発表しました。今回で米国のウクライナ支援に向けた財源は枯渇する可能性があります
当初の610億ドルのウクライナ支援予算を含む追加予算措置は、野党・共和党内の慎重論などから承認の見通しが立っていません。米国防総省は声明で「ウクライナが自国を守るため、(米国の)議会が新年にできるだけ早く行動を起こすことが極めて重要だ」と強調しました。今回は米軍の在庫から、携行型の地対空ミサイル「スティンガー」や千5百万発超の弾薬などを提供することになっています
⑳2024年1月8日、「ウクライナ、防空ミサイル枯渇の懸念」;
欧米の支援減を見透かし、ロシアが2023年末から大規模なミサイル攻撃を続けています。ウクライナの防空網の突破を狙うロシアは北朝鮮製の弾道ミサイルまで投入したとみられ、欧米から十分なミサイル供給が続くかが今年の戦況を大きく左右しそうです
参考:米も武器在庫逼迫_軍需企業、冷戦期の1割

⑳ 2024年1月8日、「ウクライナ、欧米の支援減により防空ミサイル枯渇の懸念」;
ウクライナ側の発表によると、ロシアは2023年12月29日からこれまでに500発以上のミサイルとドローンでウクライナ全土を攻撃しました。このうち防空ミサイルなどで6割以上の迎撃に成功しているものの、通常の弾道ミサイルS300キンジャ-ル(極超音速弾道ミサイル)などに対しては迎撃の失敗も目立ちました。これは、弾道ミサイルに対応できるパトリオットミサイルシステムのウクライナへの供与がキーウ近郊に配置された3基にとどまっていることが背景にあります
このため、大半の地方都市の防空は脆弱な状態となっています。ウクライナ当局の発表によると東部ドネツク州ポクロフスクで1月6日、ロシア軍のミサイル攻撃があり、子ども5人を含む11人が死亡しました。これにはS300ミサイルが使われたとみられています
ロシア軍は今月2日にはパトリオットが配備された首都キエフへの弾道ミサイル攻撃も実施しました。ウクライナ軍はパトリオットで10発のキンジャル迎撃に成功したと発表しました。これらの攻撃は、ウクライナにパトリオットミサイルを消費させようとするロシアの狙いが透けます

ウクライナはパトリオットシステムの10基以上など、多数の迎撃ミサイルの供給を求めていますが、欧米の動きは今の所鈍く、米議会ではウクライナへの支援予算案を巡る調整が難航しています。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は3日、軍事支援のための資金が事実上枯渇したとの認識を示しました。

NATOは1月3日、ロシアに対する欧州の防空能力を強化するため、最大千発のパトリオットミサイルを調達すると発表しました。ウクライナに供与して減少したミサイル在庫を補充する狙いもありますが、すぐに同国への供給増につながるとみる向きは少ないと考えられます
一方、ロシア側のミサイル在庫も減っています。米戦争研究所は2023年12月29日、現在のロシアのミサイルや無人機の生産能力を踏まえると、ロシア軍が頻繁に大規模なミサイル攻撃を繰り返すのは難しいとの分析を発表しました
このためロシアは国外からの弾道ミサイルの調達を急いでいるようです。カービー氏は1月4日の記者会見で、ロシアが北朝鮮から弾道ミサイルの供与を受け、ウクライナに対して複数回発射したとみられると語りました。ロシアがイランから短距離弾道ミサイルを入手しようとしているとの情報があることとも明らかにしました

Foolow_Up:2024年1月19日_「ウクライナのフランケンSAM 初の敵機撃墜に成功
Foolow_Up:2024年1月21日_「ロシアの港で大規模火災 ウクライナの無人機が長距離化に成功か

プーチン大統領の歴史観とウクライナ戦争との関係

第二次大戦の終了直前、第一次大戦の失敗を反省して勝利した連合国側の主要国により国際連合が発足しましたが、既にソ連を中心とする東欧圏と西欧圏の間にはチャーチルが言うところの「鉄のカーテン」ができ、朝鮮戦争、ベトナム戦争、などの共産主義国と資本主義国との間の数々の局地戦争が始まりました。1962年10月にはすんでのところで所で核戦争となるキューバ危機が発生しましたが、ここは、ケネディー大統領とフルシチョフ首相の賢明な判断で、世界はこの危機を乗り越えることができました

その後も資本主義と共産主義の政治的軋轢が続きましたが、1991年に至りソ連の経済的な破綻の結果として、ゴルバチョフ首相による「グラスノスチ(情報公開)」、「ペレストロイカ再建)」が行われソ連邦は崩壊し、資本主義国としてのロシアが生まれました(詳しくは「ウクライナの歴史」参照)。この過程でウクライナを含むソ連の保護下にあった国々も独立を果たしました

プーチンは、ゴルバチョフ首相以降の改革を受け継いだエリツィン大統領時代に首相に就任(1999年8月)し、この年の12月のエリツィン辞任に伴って大統領代行に就任しました。この時以降ロシアは「プーチンの時代が23年間以上続いています
モスクワで現在権力を握っている彼と彼の世代の考え方は、旧ソビエトがロシア帝国と同様に超大国であった時代の後期数十年の間に形成されたものだと言えます。それが彼らのロシアのあるべき姿のモデルなのです

セルヒー・プロヒー氏(66歳;ウクライナ南部のザポリージャ出身の歴史学者は、現在ウクライナ研究所の所長を務めていて、ウクライナやロシアなどの歴史研究の第一人者として知られています)によれば、「プーチン氏は歴史を通じてこのウクライナに対する侵略戦争を正当化しようとした。それは、政治・軍事目標を達成するために操作された歴史だ」と

プーチンの考え方の根底には、ロシア帝国時代に描かれたロシアとベラルーシ、ウクライナの関係を表す以下の三姉妹の絵(中央は長女のロシア、両隣にいるのが妹のウクライナとベラルーシを表現している)があります;これはプーチンの解釈では『ウクライナ人はロシア人なので、存在しない、してはならない』ということです。ロシアが剣と十字架を持っていて、戦士として防衛し解放する役目を負っていますが、実はこの2人(ウクライナとベラルーシ)を捕らえているのです。セルヒー・プロヒー氏によれば、「ベラルーシは事実上、ロシアの占領下にあります。言語的・文化的・政治的に、より強力にロシア化されています。ウクライナも抵抗しなければ、ベラルーシと同じ運命になります

大統領1期目のとき、プーチン氏は軍事力を使わずに、経済的圧力や政治的な影響力でその目標を達成しようとしました。しかし、その試みはそれほどの結果を生みませんでした
その後、プーチン氏が新たに試みたのが、ロシア国外での軍事力の行使でした。旧ソビエト諸国でロシアの影響力を取り戻すための他の手段を持っていないことに気づき、軍事オプションを選んだということです

            <プーチンの成功体験!>

*以下の説明では現在「カフカス」と呼ばれる地方を、私が学生時代に学んだ「コーカサス」という呼び方に統一しています。読者にあってはご了承いただければ幸いです

① チェチェン紛争;
現在のチェチェン共和国は、北コーカサス地方の北東部に位置するロシア連邦北カフカース連邦管区に属する共和国です。この国家は、北コーカサス先住民族のひとつのチェチェン人が住民の多数を占め、ロシア連邦憲法ではロシア連邦を構成する連邦構成主体のひとつとされています;
この国は、18世紀にロシア帝国がコーカサス地方への南下を進めると、チェチェン人はロシアの支配に対して激しく抵抗を繰り広げましたが、1859年にロシア帝国によって周辺地域とともに併合されました(コーカサス戦争)。この後、ロシア帝国とオスマン帝国の取引により多くのチェチェン人がトルコやシリア、ヨルダン等へと移住しました
1991年ソ連解体後、ロシア連邦政府及びロシア連邦への残留を主張するチェチェン人勢力と、チェチェン・イチケリア共和国やコーカサス首長国を自称するチェチェンの独立を求める武装勢力との間で対立が続きました

【第一次チェチェン紛争(1994年-1996年)】
ロシア連邦政府はこの共和国の存在を拒否し、1994年12月にエリツィン大統領は、チェチェンの独立を阻止するため4万のロシア連邦軍を派遣し第一次チェチェン紛争が始まりました。独立派はゲリラ戦で激しく戦い紛争は泥沼化しましたが、1995年2月にロシア軍がチェチェンの首都グロズヌイを制圧し、1996年4月にジョハル・ドゥダエフ(独立派の初代大統領)の殺害に成功すると、8月にエリツィンとチェチェンの武装勢力のリーダーの間で停戦が合意されました。そして1997年5月にはハサヴユルト協定が調印され五年間の停戦が定められました。この紛争では10万人以上の一般市民の死者を出したと言われています

【第二次チェチェン紛争 (1999年-2009年)】
停戦中の1999年8月7日に、コーカサス圏における「大イスラム教国建設」を掲げるチェチェン独立派の最強硬派のシャミル・バサエフとサウジアラビア生まれでヨルダン出身のアミール・ハッターが、和平協定を破り突如隣国のダゲスタン共和国へ侵攻しました。これに対しプーチン首相はロシア軍をチェチェンへ進撃させ1999年9月に紛争は再発。プーチンはエリツィンの健康悪化により1999年12月に大統領代行、2000年に大統領に就任しました

ロシア軍は2000年に首都グロズヌイを再び制圧し、アフマド・カディロフをチェチェン共和国の大統領につけてロシアへの残留を希望する親露派政権をつくらせ、独立派のチェチェン・イチケリア共和国を在野に追いやりました。しかし以降もチェチェンの独立運動は続き、ロシア軍との内戦状態が続きました。ゲリラ化したチェチェン独立派勢力はアルカイダ等の国外のイスラーム過激派勢力と結びついてテロリズムに走り紛争はさらなる泥沼化しました
これに対してプーチン政権は、2003年~2006年にかけて独立派のチェチェン・イチケリア共和国の第2代大統領ゼリムハン・ヤンダルビエフと第3代アスラン・マスハドフと第4代アブドル・ハリムを殺害し、独立にむけた武装闘争に対しては徹底的に鎮圧する意思をいっそう明確にしました。またロシア政府は2005年11月に共和国議会選挙を開催させ、「チェチェン紛争の政治的解決プロセスの総仕上げ」としてこの結果を評価しました。これに対して独立派はロシアによる「見せかけの選挙」であると強く反発しています(⇔ウクライナにおけるクリミア及び南部・東部諸州の占領地における「見せかけの選挙」とよく似ている!)
尚、親露の現チェチェン政府はロシアの要請に基づき、ウクライナへの派兵も行っています

② グルジア紛争 (2008年)
1991年ソ連解体後、グルジアも他のソ連構成国と同じく独立を宣言しました。1993年には独立国家共同体に加盟し、ゴルバチョフ政権でソ連の外務大臣として活躍していたシュワルナゼが大統領(1992~2003)となりました。しかし黒海に面したアブハジアではグルジア人以外のロシア人などの複雑な民族構成があり、親ロシアの傾向が強く、グルジアからの分離独立を主張してアブハジア紛争(~1994年)が起こりました。アブハジアの一部は今もグルジアの実効支配が及んでいません
グルジアでは独立後、経済の悪化が進み、2003年には野党の指導によるデモ隊が議会を占拠し、大統領は辞任、総選挙が行われて国民連合の指導者で親欧米派のサアカシュヴィリが当選するという、「民主化」が行われましたが、この政変は「バラ革命」とも言われています
南オセチアにはグルジア帰属に反対する人が多く、ロシアの支援を受けて分離独立の動きを強め、2008年8月に独立を宣言しました。それを認めないグルジア軍が侵攻、それに対してロシアはロシア軍をグルジアに侵攻させ、南オセチアを支援、グルジア軍は敗れて撤退しました。戦闘は同時に黒海海岸のアブハジアでも展開され、グルジア・ロシア間の戦争状態となりました。戦闘は8月中にEUの調停で講和しましたが、南オセチアとアブハジアは事実上の独立状態となっいます。ロシアは両国を独立国として承認していますが国際的にはまだ認知されていません
*現在、グルジアの正式な国名はジョージアとなっています

③ シリア内線(2011年-2017年)
シリアでは、1971年にアサド大統領の父親がクーデターを起こし権力を握って以来、強権的な政治が続いていましたが、中東で「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が広がった2011年、シリアでもアラブの春が飛び火する形で生活への不満が爆発し反政府デモが各地に広がりました;

しかし、アサド政権は抗議デモを武力で弾圧、これをきっかけに、反政府勢力との内戦に発展しました。アサド政権は否定していますが、内戦のなかで化学兵器禁止機関(OPCW)はアサド政権が化学兵器を使用したと断定しています
その後、イスラム過激派組織が台頭して内戦が泥沼化し、イランやヒズボラの支援にもかかわらず、北西部で国内最大都市アレッポの東半分が反体制派に奪われ、ユーフラテス川東岸はイスラム過激派組織に侵食され、南部では反体制派が優位に立ち、北部ではクルド人勢力の中立と引き換えに自治を黙認せざるを得ない状況となりました。更に3月にはイドリブ県の県庁所在地イドリブが陥落し、アサド大統領自身も全ての戦線での攻勢が不可能となってしまいました

ここに至り、2015年9月30日、プーチンはシリア政府からの要請を受けたとしてシリア領内でイスラム過激派組織に対する空爆を開始、10月29日までに千回以上の爆撃が行われ、多くの民間人がこの空爆によって死亡しました

この空爆によって一時は劣勢となったアサド政権は次第に有利となり、現在では、シリアの多くの地域がアサド政権の統治下に置かれています

以上から分かることは、プーチンが権力の座についてから、彼の決断のもとに行われた軍事侵攻は、ほぼすべて成功裏に終わり、この成功体験が2014年のクリミヤ侵攻、2022年のウクライナ侵攻に繋がったと考えられます(私見)

<プーチンの軍隊が行った!戦争犯罪>

戦争とは残酷なものですが、国際法で決められた禁止行為は決して犯してはなりません。第二次世界大戦後の戦後処理の一つとして連合国により、ドイツに関してはニュールンベルク裁判で、日本に関しては東京裁判で多くの戦犯が裁かれました。以下は、生成AIを使って調べた戦争犯罪の定義です;
「戦争犯罪とは、戦争における国際法に反する行為の中でも、狭義には第二次世界大戦以前より認められてきた戦時法規の違反者が敵国にとらえられた場合に処罰されるものであり、広義には第二次世界大戦後に認められた平和に対する罪人道に対する罪を狭義の戦争犯罪に加えたものである。 例えば、捕虜虐待毒ガスなど国際法上禁じられた武器の使用文民による武力を用いた敵対行為スパイ行為戦時反逆など、軍隊構成員が行う交戦法規違反が狭義の戦争犯罪に含まれます. 広義の戦争犯罪のうち平和に対する罪とは侵略戦争の実行などで、また人道に対する罪とはジェノサイドに代表される非人道的行為である」

① ウクライナ戦争では、開始早々からロシア軍による以下の様な戦争犯罪が記録されています;
<北部戦線でのロシア軍の侵攻からウクライナ軍の反攻成功までの状況>
*2022年2月24日直後;
早朝にプーチン氏がウクライナでの「特別軍事作戦の開始」を宣言する演説が国営テレビで放送された。その直後に首都キエフ図ではキーウと表現/以下同様や東部ハリコフなど各地で爆発音が聞こえ、北・東・南の3方向からロシアが進軍しました。ウクライナはロシアが「全面的な侵攻を始めた」と世界に訴えました;
*2022年3月24日;
ウクライナの北に位置するベラルーシから進軍したロシア部隊は首都キエフ包囲を狙い、その近郊に迫りました。南東部の港湾都市マリウポリや東部ハリコフ、イジュームを陥落させようと激しい攻撃を続け、ロシア軍の支配・侵攻エリアは全土の約27%に及びました;
*2022年4月4日;
ウクライナ軍の抗戦をうけ、ロシア軍はキエフ近郊から撤退した。侵攻直後に占拠した北部チェルノブイリ原子力発電所からも引き揚げました。撤退後のブチャなど、各地で民間人の遺体が多数見つかり、ロシア軍による拷問や虐殺の疑いが明らかになりました;
*2022年4月7日
ウクライナ軍の反撃で追い詰められたロシア軍は北部から完全に撤退しました。ウクライナ軍は北部のチェルニヒウやスムイ周辺も奪還しました;

首都キーウ近郊で起きた民間人虐殺;
ウクライナ軍が北部地方奪還後、専門家による調査によって明らかになった民間人虐殺の人数については以下をご覧ください;

特にブチャに於ける民間人虐殺については、各国の報道機関によって報道され世界に衝撃を与えましたが、以下はその一部です;

② ロシア領からクリミアに至る陸の回廊を確保するうえで重要なアズフ海沿岸のマリウポリでは2022年2月24日の侵攻開始より民間人を巻き込む激しい戦闘が行われ、ロシア軍の包囲・総攻撃で約2万人の死者が出たと言われています;
*2月24日~
ロシア連邦軍はドネツク州の親ロシア派とともにマリウポリを包囲し、食料、ガス、電気の供給が遮断されると共に、爆撃により都市のおよそ80~90%が破壊されたと思われます
ロシア海軍はアゾフ海沿岸で水陸両用作戦を開始。アメリカ合衆国国防総省の高官によれば、ロシア海軍は数千人規模の兵士を海岸堡から展開、市街地への砲撃を継続した
*3月9日
小児科・産婦人科病院への砲撃により子供の犠牲者が出ているとウクライナ側当局者が発表し、ゼレンスキー大統領はこの攻撃は戦争犯罪だと主張しました。これに対してロシア側はこの病院が過激派のアゾフ連隊の基地と化しており、虚偽情報だと主張しています
*3月19日
マリウポリの市当局によると、民間人数百人が避難している芸術学校がロシア軍に爆撃されました

*4月20日
市内の大部分をロシア連邦軍が支配し、ウクライナ軍は2個大隊が壊滅。第36独立海軍歩兵旅団、アゾフ連隊、第12特務旅団、ウクライナ領土防衛隊に、国境警備隊、警察官、右派セクターの義勇兵など約2千人の戦闘員がアゾフスタリ製鉄所に籠城するのみとなりました
ウクライナ軍は、孤立したアゾフスタリ製鉄所内の部隊に対する弾薬・糧食・医薬品等の補給や負傷者後送のため、ヘリコプターによる輸送作戦を合計7回実施。従事した搭乗員は9割が帰還できませんでした。ゼレンスキー大統領は撃墜の危険を知りながら補給任務に従事したヘリ操縦士らを「英雄」と称えました
3月20日時点で、地元当局によれば、少なくとも2千3百人が、爆撃までの包囲戦で亡くなったとされています
*4月21日
衛星写真を分析し、マリウポリから西に約20キロのマンフシュ村に、ロシア側が市民らの遺体を埋めている集団墓地を発見したとテレグラムに投稿されています

5月7日
ゼレンスキー大統領がアゾフスタリ製鉄所からの市民退去完了を発表
5月16日
ロシア国防省がアゾフスタリ製鉄所の負傷兵の避難に合意したと発表。ウクライナ軍参謀本部も「マリウポリを防衛する部隊は司令部が命じた全ての任務を完遂した」と発表し、マリウポリを守備するアゾフ連隊などに撤退を命令しました。ウクライナ国防省は人道回廊が設置され、重傷者53人を含む、260人以上のウクライナ兵が製鉄所から避難したと発表しました。ただし、投降した捕虜扱いでロシア軍の支配地域に移送されています

12月22日
AP通信は、ロシアのウクライナ侵略で壊滅状態になった南部マリウポリ周辺で、これまでに少なくとも1万300基の墓が新たに作られたとの分析結果を報じました

ロシアの占領政策
マリウポリのヴァディム・ボイチェンコ市長は2022年4月15日、読売新聞のオンライン取材に対し、4万人がロシア軍により連行されたほか、ウクライナ側による市民への支援物資をロシアを奪い自らの「人道支援」と称して配っていると主張しています

③ ロシア軍は、ウクライナの原発取水ダムを破壊
2023年6月6日午前2時50分、ロシア軍は、占領下の南部ヘルソン州カホフカ水力発電所のダムを爆破、決壊させました。このダムはザポロジエ原子力発電所が冷却水を取水していました

フォンデアライエン欧州委員長はツイッターでダム決壊に言及し「ロシアはウクライナで犯した戦争犯罪の代償を支払わなければならない」と強調しました

マリウポリの市長によれば、ロシアの包囲作戦と爆撃、砲弾などによって2万人以上が亡くなったとのことです。こうしたことが理不尽な侵攻によって為されたとすれば、その国のトップは、第二次大戦の所謂「平和に対する罪」として裁かれる必要があると思います(私見)

ロシアに対する一連の経済封鎖とその効果

ウクライナ侵攻直後から、日本を含む西欧諸国の多くの国々は経済制裁を発動しました。しかし、石油、天然ガスをロシアに頼っていた西欧諸国は、当初ロシアの理不尽な侵攻の意思を挫くほどの効果はありませんでした

下表は、ロシアに対して行った一連の経済制裁とその効果に関するネット上の記事をリストアップしたものです
表を見易くする為に、以下の凡例の様に各コラムの色の割り当てを行っております(2022年度、2023年度共通);


参考指標:2022年度の為替レート(1ルーブルに対する米ドルの交換比率)は以下の表の様になっています;

2月24日のウクライナへの侵攻によってルーブルの価値は急激に下がりましたが、この年の後半は安定した水準(≃0.015USD/1ルーブル)を保っています


参考指標:2023年度の為替レート(1ルーブルに対する米ドルの交換比率)は以下の表の様になっています;

2023年度に入ると急激にルーブルの価値は下がり年度後半はの為替レートは、年初に比べ26.7%下落しています
ロシア中央銀行は、ルーブルの下落によって輸入物価が上昇し、インフレ懸念が高まる展開を懸念し、7 月には予想外の大幅利上げ(7.5%→8.5%)に踏み切りました。この利上げは、ルーブル安が加速し物価上昇に歯止めがかからないため、中銀として大幅利上げに追い込まれたと結果と考えられます。ルーブルの下落によって、ロシアの輸入物価はさらに上昇しています

全体を俯瞰すると、当初ロシアによるLNG供給停止の脅しと、国によってはエネルギー事情が厳しいところもあり、また石油製品やLNGの市場価格の高騰、中国やインドの買い付け増、などによってロシアの経済への影響はそれほどでもなかったと思われます。しかし、時がたつにつれウクライナを支援している国々の代替エネルギー確保の努力、米国のLNG(シェールガス)の増産などによって、ロシアはLNGを武器に使う意味が無くなってきつつあります。むしろその収入減によってロシア経済が時間が経つほど苦しくなってきているのが実情と思われます

また、半導体製品の制裁は武器の製造に相当厳しい影響が出て来つつあります。当初から半導体を多く使うドローンなどは、トルコや中国からの供給で間に合わせていましたが、最近は、ミサイルの製造に支障をきたすようになり北朝鮮からの供給に頼るようになってきていると見受けられます

また、最新のミサイルや戦闘機、電子戦に必要な機器類についても、最新の半導体が必要なことから、その損耗を惜しむ様な作戦に変わってきているようにも見受けられます

この戦争が更に長引いた場合、上記の状況は一層ロシア側に不利になると思われます。因みに、米国のLNGの今後の増産ペースは相当顕著になることは、右表を見れば明らかではないでしょうか

また、地球温暖化に関わる世界共通の目標となっている再生エネルギーの急速な普及を勘案すると、近いうちにエネルギー供給に関わる脅しはもはや意味をなさないと思うのですが、、(私見)

Follow_Up:2024年1月19日_「アメリカの二次制裁発動で中国国有銀行もロシアとの取引を見直し

おわりに

以上のような状況から、今後ウクライナ有利に進むように思われますが、ロシアの歴史を踏まえると、以下の理由からそう簡単にロシアに勝利できるとは思えません;
ウクライナ自身の武器の生産能力、現在の武器供給の主力であるNATO諸国の支援疲れ、特に米国の支援は共和党大統領選挙結果如何で大きく変わる可能性がある、などから近い将来に現在のロシア占領地域を奪還する見通しは立ちにくいと考えられます
ロシア帝国~ソ連の時代に、露土戦争ナポレオン戦争第二次大戦におけるドイツとの戦争という苦しい戦いをロシアは勝ち残ってきた歴史があり、苦境になればなる程大量の兵士の死を厭わない長期戦を戦い抜く可能性が排除できません

戦後の日本は憲法の制約から、武器に関わるウクライナ支援はできないことになっています。従って、現在の日本のウクライナ支援は、ウクライナ避難民の受け入れ・支援、地雷除去技術・機材に関わる援助、発電機や暖房器具の供与、ウクライナ国内の市民への生活支援、などの限られています。勿論、戦争終了後が主となる復興支援も約束しています
しかし、日本の世論は間違いなくウクライナを圧倒的に支持しています。ほかにウクライナ支援ができることは何か? 平和な日本にいる私がこんな事を考えるのは、両親や親戚から聞いた満州に於ける敗戦・抑留体験です。ロシアに負けることはどういうことか、ということを何度も聞かされました
今回のロシアのウクライナの侵攻は、日本の敗戦直前の1945年8月9日(日ソ不可侵条約を一方的に破って)、満州に突如侵攻してきたソ連軍を思いださせます独ソ戦終盤、敗軍のドイツ兵に暴虐の限りを尽くしたソ連軍が、満州侵入後に日本人の農民、市民に何をしたか、、、今回のウクライナに侵攻したロシア軍兵士の振る舞いはこれと相似形で語ることができます

ウクライナが勝利するためには長く戦い続けることが必須条件であることは間違いありません。以上を勘案すると、日本としてもう少し違う支援も考えていいのではないか?と考え始めています
日本は極めて性能の高い防御兵器を沢山保有していますが、旧式となって要らなくなった兵器でも今の憲法ではウクライナに供与はできません。しからば、ウクライナが兵器を買うお金を支援することは如何か? 「お金は天下の回り物」ですから武器援助にはあたらないと考えることはできないか?
ウクライナ戦争でミサイルや航空機に対する防御能力の高さが証明されているパトリオットシステムは、現在3基がキエフ周辺に配置されているのみです。ウクライナの他の都市はロシアのミサイル攻撃を受けて多くの民間人の死傷者を出しています日本の使途を明確にしない財政支援によってウクライナがアメリカのレセオン社からこのシステムを直接購入する、またウクライナ人が戦闘状況の推移によって他の有用な兵器の購入に変えることも可能となるのではないか?
現在、政府が検討している「ウクライナの支援で在庫が少なくなったパトリオットシステムを米国に売却する」よりも余程ウクライナ人に感謝されるのではないか?益々私の妄想は膨らみます!!!

Follow Up_2024年2月1日「ウクライナ支援でバイデンが「奥の手」 ギリシャなどから三角スキームで武器送る

以上

秋冬野菜の現況と一年間のレビュー

はじめに

見出しの写真は、手前が長野県の漬物用冬野菜で有名な「野沢菜」、左上が福岡県の漬物用冬野菜で有名な「高菜」の成長途中の状況です。昨シーズンから栽培を始めてその漬物を食べたら余りに美味しいので、今年はこの二種の野菜の栽培数を増やしました
*最近、同居している息子が発酵博士?となり色々と協力してくれます。右の写真は、夏に収穫したナスと紫蘇を使って彼が漬け込んだ「柴漬け」で、正にプロの味です。また下の写真は彼の現在の蔵書です!

上記以外に、数年前から始めている生食可能な野菜とハーブの「簡易ビニールハウス」による栽培の規模をやや大きくしたこと、近年栽培株数を増やしている「白菜」、「キャベツ」、「長ネギ」、「タマネギ」、などについて以下にやや詳しく報告します

秋・冬野菜の「簡易温室」による栽培

1.簡易発芽器(室内
以前、何度かご紹介していますが、大きめのプラスティック容器に水を満たし、この水を熱帯魚用の電熱器(中国製であれば千円内外で購入可能)で温め、これに100円ショップで購入したトレーを浮かべ、このトレーに発芽・育苗用のポリポッドを並べます。昼は蓋を開け、夜は温度が下がらないように蓋をしめます(←発芽には継続的に高い温度必要)。発芽後は、昼間に光が良く当たるように簡易反射板を設置しました。発芽後、暫らくしたら茎が徒長しないように以下の簡易育苗器(屋上)に移します

2.簡易育苗器(屋上
昨年から始めたものですが、基本的構造は室内用と同じですが、プラスティック容器の周りを断熱の為に発泡スチロールで覆い、熱帯魚用の電熱器の温度設定を室内より高めにセッします。この育苗器は、昼夜を問わず蓋は開けておいて、透明ビニールで覆うようにします(←発芽後の苗はできるだけ日光に晒すことが必要)

3.簡易ビニールハウスによる栽培
ある程度苗が育ってきたら、標準のコンテナに移植し下の写真の様な簡易ビニールハウスに移し毎日一回水遣りをしながら、大きく成長した野菜から順次収穫していきます。収穫は、葉物野菜であれば必要量だけ葉のみを収穫すれば、長期間収穫可能です(栽培している野菜、ハーブ類の詳細は省略)
<参考> 簡易ビニールハウスの安価な制作方法(下記の材料は何年も繰り返し使用できます)
*材料:透明なゴミ袋(70リットル/厚さ0.04ミリ、368円/10枚)、洗濯ばさみ(110円/40ヶ、数年は使い回せます!)、支柱(夏野菜の栽培で使う各種の長さの支柱を使います)
*支柱類・コンテナの縁とゴミ袋との接合は洗濯ばさみで十分な強度が得られます。昨年の経験でかなりの空っ風に耐えることが分かっています

尚、簡易ビニールハウスには暖房の装置は無く、また写真をご覧になると分かると思いますが、周辺には小さな隙間が一杯あり早朝には結構温度が下がり(霜が降りる程ではない)ます。しかし、このビニールハウスの狙いは、周辺の畑で冬場の野菜栽培で使われているビニール・トンネルと同じ様に、晴天が多い関東地方で日中の温度を上げて成長を早めることが目的です
<温度測定結果>
12月23日は、今年これまで一番の寒さでしたが、この時の温度測定の結果は以下の通り;
① 朝7時・新座市予報気温:-1℃ ⇒
朝8時(晴天)・新座市予報気温:1℃自宅屋上日陰地面温度:3℃ビニールハウス内温度:10℃(前日が青天だった影響か?)
昼12時(晴天)新座市の予報気温:8℃自宅屋上での日陰地面温度:9℃ビニールハウス内での温度:32℃

白菜とキャベツの栽培

我家の冬の主要野菜である白菜、キャベツは、それぞれ12株、10株栽培しています。これらの苗は勿論種から育成します(9月初旬に育苗用のポリポッドに種蒔きを行い、11月下旬に大型コンテナに植え替えます)。現在の成育状況は以下の写真の通り順調です;

白菜については、昨年実験して成功した「余った苗を密植し、ミニ白菜として楽しむ」ことを狙い下記写真の様に4株育てています;

ネギ類の栽培

1.長ネギ
長ネギは春に種を蒔いたネギと、8月末に種を蒔いたネギを大量に育成しています。残念ながら春に蒔いたネギは今年7月~9月の酷暑の影響で一時は枯れそうになりましたが、何とか生き延びたネギを植え替えて育成していますが、収穫できるかどうか、、、

8月末に種を蒔いたネギについては、以下の写真の様に順調に成長していますが、収穫は来春以降となることは確実です。下の写真左の大きなコンテナは5ヶ、右の小さなコンテナは4ヶ栽培しています。長ネギに関しては今冬は供給責任?が果たせなかった事になります

2.小ネギ
右の写真にある小ネギは、4~5年まえに植えたものですが、刈り取っても肥料を補ってやれば、後から出てきますので便利な野菜です。鍋物には使えませんが、薬味として使う分には申し分の無い便利な野菜と言えます

3.タマネギ
毎年栽培しているタマネギ二種(保存用と生食用)は、今年も8月末に種蒔きをしましたが、右の写真の様に11月中旬の植え付け時には十分すぎるほどの苗が収穫できました。これらの内、大玉に育てる苗は、5ッの大型コンテナに108本、小玉のままで収穫(ペコロスする苗は、10ヶの小コンテナに150本程になりました

ペコロスは来年4月初めから順次必要分を収穫し、大玉タマネギは恐らくゴールデンウィーク前後に一気に収穫します

その他の野菜の栽培状況

1.ニラ
右の写真の通り、小さなコンテナ4ヶで一年中栽培し、必要な折に順次コンテナ単位で収穫しておりますが、収穫後に適当に根切を行い、化成肥料を一握り程蒔いた後、堆肥を蒔いておけば再生しますので手間いらずの野菜です

2.日野菜カブ
右上の写真は、現在の日野菜カブの成育状況(15株あります)です。もう少し成長させて一月に入ってから収穫し漬物にすることになると思います

右下の写真は今月初めに食べた最後の日野菜カブ古漬け(今年初めに収穫し漬物にしたものを冷凍保存したもの)の写真です。酸味はやや強かったものの大変美味でした

3.高菜
今年は昨年の倍以上栽培していますので大いに楽しめそうです。収穫は恐らく一月末ごろになるのではないかと予想しています:

4.レタス
昨シーズンはかなり大量に育てることができましたが、今シーズンは苗の育成に失敗し、写真の株と、自家製ビニールハウス内での栽培分を含め10株にしかならず、長ネギ同様今冬は供給責任?を完全には果たせませんでした

野沢菜の漬物への道

野沢菜収穫後に漬物にするには量が多いこともあり大変な作業になります;
①の工程までは筆者の仕事です。②・③/洗浄工程(信州・野沢温泉地域では温泉水を使うそうですが拙宅では無理! そこで、60度位のお湯を使い、葉に付着しているゴミ、虫、雑菌を洗い流しています)。その後一時的に3%の塩水に漬け一日経ってから(最初はこの漬物ダルに野沢菜があふれる状態でした)、野沢菜を取り出し水洗いを行ったあと、④我が家の漬物博士?の助言を得て3%の塩と昆布、トウガラシを加えて本漬を行い、屋外で保存して発酵を待ちますこれらの作業は全てワイフの仕事です。
また、根の部分(カブ)の大半は粕漬にする予定です(現在は冷蔵庫で保存中)

失敗した夏野菜のリベンジの結果と来夏の対策

今年8月7日に発行した私のブログ「酷暑の中の屋上野菜栽培」の中で、酷暑で枯死してしまったキュウリとトマトについては、全ての野菜は種から育てるというこれまでの原則を捨てて8月中に苗を買ってもう一度育て始めた事を報告しましたが、その結果は惨憺たるものでした。以下の一年間の費用に関わるレビューをご覧になると分かりますが、5千円以上のお金をかけ各種資材と共にキュウリの苗9株、トマトの苗10株を植え付けましたがキューリの収穫はたった1本のみで全て枯死、トマトは何とか5株だけ生き残ったのみでした
この健気な?トマトは12月に至っても未だわずかではありますが、細々と実をつけ続けており、朝の生野菜サラダに入れて楽しんでいます

ただ冷凍庫にこれまでの消費できなかったトマトを冷凍保存したもの(右の写真)がありますので、来年2月頃までは朝食のサラダに供給できそうです


<来夏の対策>

右のグラフを見ると温暖化が着々と進行していることは確かなので、来年から夏野菜の植え付け時期を、3月頃に早めることとします。この為には、春先の一時的な寒波に備えて、この春使って効果があった透明なプラクティックカバー、及び自家製ビニールハウスの技術を積極的に応用すると共に、この夏二度目の栽培の為に購入した「敷き藁」、「遮光ネット」を暑くなる前から使用したいと思っています

キューリについては、根が浅く張る事は知っていたものの、肥料用の袋を使った「袋栽培」であった事も枯死の原因になっていたと考えられますので、上記①の対策に加え栽培に広口(深さはそれ程でもない)の大型コンテナを使用することにしたいと思っています
さて、来年も間違いなく酷暑になると思われますが上手くいくかどうか、、、

屋上栽培一年間のレビュー(経済面)

以下の表をご覧になれば分かる様に、今年もゴルフ2~3回分の費用しかかけていないので、年金生活者の趣味としては妥当かと! また、2020年以降、今年まで4年間殺虫剤等の農薬は全く使っていません(かわりに大量の虫を殺害したので私自身の成仏は叶いません!)ので、有毒物質に敏感な?老人の健康面でも良かったかと!  尚、下表の赤い矢印の部分赤字の部分は本ブログの中の記事に関連する支出項目です;

おわりに

言い訳が多いレポートになりましたが、来年に向けての改善点が多く見つかったことは、素人野菜栽培の技術向上の為には良かったのかもしれません

また、我が家の発酵博士?のお陰で、夏野菜の貯蔵によって美味しい漬物を楽しむことができました。本投稿の「はじめに」で触れた自家製柴漬けの他に、前回投降した「酷暑の中の屋上野菜栽培」でご紹介したコールラビの塩漬け三尺インゲンの5%の塩水漬け(酸豆角)を使って大変美味しい中華料理の定番炒酸豆角(鶏と三尺インゲンの炒めもの/下の写真)」を楽しむことができました。野菜栽培は、苦労や、失敗は多いものの、本当に楽しいことが一杯詰まった趣味であることを実感できた一年でした;

以上

H3試験機1号機の打上げ失敗の原因分析結果について

はじめに

見出しの写真は今年(2023年)3月7日、多くの国民の期待を背負って鹿児島県の種子島宇宙センターの発射装置から打ち上げられた時のH3試験機1号機の姿です。しかし約14分後に第2段エンジンが着火しなかったため、指令破壊の措置が取られました
今回、現在の地球観測衛星の後継機となる「ALOS-3(だいち3号)」を搭載し、軌道に投入する予定でした

以下は、「JAXAのホームページ」からの情報、及び専門家による事故原因究明に関わる報告書(H3 ロケット試験機 1 号機 打上げ失敗の原因究明に係る報告書)をベースに私が理解できる範囲で出来る限り分かりやすく解説したものです。尚、以下の説明の際に度々登場する基本的な用語については、私のブログ「ロケットに関わる基礎知識と日本のロケット開発の歴史」の中で詳しく説明しております。また、事故原因究明に関わる特殊用語については、前回発行の「イプシロン6号機の打上げ失敗の原因分析結果について」に解説をしておりますので本ブログでは説明を省くことと致します

H3ロケット開発計画の概要

H3ロケットは、これまで大型人工衛星の打ち上げやISS(国際宇宙ステーション)への各種資材の輸送などで運用されてきた H-IIA/H-IIBロケットの後継機として位置づけられます。開発目標としては、開発完了後20年間、毎年6機程度を安定して打ち上げる為の基幹ロケットを目指しました
そのためには、これまでの様な国家主導の衛星だけでなく、民間の商業衛星の受注が不可欠であり、宇宙先進国間で行われている熾烈な開発競争の中で、世界の商業衛星打ち上げロケットとして選ばれる為に以下の様なNEEDSに応えるロケットにする必要があります;

①柔軟性(High flexibility)
複数の機体形態を準備し、利用用途にあった価格・能力のロケットを提供できること。更に、受注から打ち上げまでの期間短縮と、年間の打ち上げ可能機数を増やすことが必要になります。 そのために、ロケット組み立て工程や、衛星のロケット搭載などの射場整備期間をH-IIAロケットに比べ半分以下に短縮することが必要なります
 地球低軌道から静止トランスファー軌道、さらには地球脱出軌道まで、さまざまな軌道に向け、多種多様な大きさ、重さの衛星が打ち上げ可能なこと。特に、商業衛星の打ち上げ需要が多い静止トランスファー軌道へは、ヨーロッパの「アリアン5」ロケットなどと同等の約2~7トンの衛星を打ち上げられる能力も持つこと。この為には固体ロケットブースター「SRB-3」の本数や、第1段メインエンジンである「LE-9」の基数、衛星フェアリングを選択できる仕様とすることが必要になります;
a:第1段メインエンジン(LE-9)機数(2基、3基)
b:固体ロケットブースター(SRB-3)本数(0、2基、4基)
c:フェアリングのサイズ(W:Wide/L:Long/S:Short)
このうち、最小形態となるのは「H3-30S」で、主に官需用を想定

②高信頼性(High reliability)
H-IIAロケットの高い打ち上げ成功率とオンタイム打ち上げ率(予定した日時に打ち上げられる率)を継承し、確実に打ち上がるロケットにすることが必要なります
③低価格(High cost performance)
宇宙専用の部品ではなく、自動車など国内の先進的な産業の優れた部品を活用するとともに、生産方式についても受注生産から一般工業製品のようなライン生産に近づけることで、打ち上げ価格を低減させることが必要になります。 また、固体ロケットブースタを装着しない低軌道衛星の打ち上げでは H-IIAロケットの約半額を目指す必要があります

尚、大成功を収めたHⅡロケットの経験を最大限生かすために、1段目のLE-9エンジンは新たな開発であるものの、2段目のLE-5Bエンジンは、H-IIA/H-IIBロケットの第2段エンジンとして実績を積み上げてきたエンジンです。また、固体燃料の補助ロケットエンジン(SRBー3)は H-IIA/IIBロケットに用いられているSRB-Aで培った技術を活用して開発されたものです

<開発の軌跡>
2012年;システムの概念検討、LE-Xエンジンの技術実証を実施
2013年;システムの概念検討、LE-Xエンジンの技術実証を実施
*5月/内閣府宇宙政策委員会の宇宙輸送システム部会の第6回会合において、2014年度から新型基幹ロケットの開発を始めることを決定
2014年
*1月/JAXAでミッション定義審査(MDR)を実施
*3月/三菱重工を開発主体に選定
*4月/H3プロジェクト始動
2015年
*4月/システム定義審査(SDR)完了、概念設計フェーズから基本設計フェーズへ移行。ロケット機体のシステムならびに構造系、電気系、エンジン、 固体ブースターなどの各サブシステム、および地上施設設備の基本設計に着手
2016年
*4月/JAXAにおいて、H3ロケット総合システム基本設計審査を実施し、詳細設計フェーズへの移行は可能と判断
*12月~2017年1月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その1)を計7回実施
2017年
*3月~10月/角田宇宙センターにて LE-5B-3認定試験(その1)を計20回実施
*4月~7月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#1-1エンジン燃焼試験を計11回実施
*6月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その2)を計6回実施
*12月/JAXAにおいて、H3ロケット総合システム詳細設計審査(CDR)を実施し、製作・試験フェーズへの移行は可能と判断
*12月~2018年6月末/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#2エンジン燃焼試験を計8回実施
2018年
*2月~3月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その3)を計4回実施
*8月23日/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#3エンジン燃焼試験を実施
*8月26日/種子島宇宙センターにて 固体ロケットブースタ(SRB-3)実機型モータ地上燃焼試験を実施
*9月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#4エンジン燃焼試験を実施
*9月~10月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その4)を計3回実施
*11月~2019年2月/角田宇宙センターにて LE-5B-3認定試験(その2)を計15回実施
*12月~2019年5月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#1-2エンジン燃焼試験を計8回実施

2019年
*1月~4月/三菱重工 田代試験場にて LE-9エンジン2基クラスター構成による第1段厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT)を計4回実施
*5月/IHIエアロスペース 富岡事業所にて SRB-3分離試験(その1)を実施
*8月/種子島宇宙センターにて SRB-3認定型モータ地上燃焼試験(その1)を実施
*10月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#1-3エンジン燃焼試験を計2回実施
*10月~2021年2月/三菱重工 田代試験場にて、LE-9エンジン3基クラスター構成(エンジンを複数束ねること)によるBFT(Battleship Firing Test/エンジンのみの地上でのテストを計4回実施
*11月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その5)を計2回実施
*12月/川崎重工 播磨工場にて フェアリング分離放擲試験を実施
2020年
*2月~5月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型#1エンジン燃焼試験を計8回実施
*2月/種子島宇宙センターにて SRB-3認定型モータ地上燃焼試験(その2)を実施
*7月~8月/三菱重工 田代試験場にて 第2段実機型タンクステージ燃焼試験(地上の燃料タンクを使用したテスト)を計3回実施

*7月/IHIエアロスペース 富岡事業所にて SRB-3分離試験(その2)を実施
*8月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その6)を計2回実施
@9月11日/2020年度の試験機1号機の打上げ見合わせを発表
*9月~10月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その6-2)を計2回実施
*11月~2021年4月/種子島宇宙センターにて LE-9技術データ取得燃焼試験を計9回実施
2021年
*3月~4月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その7)を計2回実施
*3月/種子島宇宙センターにて 極低温点検を実施
*6月~7月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その7-2)を計2回実施
*6月~10月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型#2エンジン燃焼試験を計5回実施
*12月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その8)を計3回実施
2022年
@1月21日/2021年度の試験機1号機の打上げ見合わせを発表
*3月~6月/種子島宇宙センターにて LE-9翼振動計測試験を計6回実施
*7月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その9)を計2回実施
*7月~8月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型#3エンジン燃焼試験を計5回実施
*9月/種子島宇宙センターにおいて試験機1号機用 LE-9エンジン(1基目)領収燃焼試験を実施
*9月/角田宇宙センターにて LE-9エンジンターボポンプ単体試験(試験機2号機以降に向けた最適な仕様を選定するためのデータ取得)を実施
*10月/種子島宇宙センターにて試験機1号機用 LE-9エンジン(2基目)領収燃焼試験を実施
*10月~11月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型エンジン燃焼試験を計4回実施
*11月/種子島宇宙センターにて タンクステージ燃焼試験(CFT)を実施
*12月/角田宇宙センターにて LE-9エンジンターボポンプ単体試験(試験機2号機以降に向けた最適な仕様を選定するためのデータ取得)を実施
2023年
*1月/種子島宇宙センターにて試験機2号機用 LE-9エンジン(1基目)領収燃焼試験を実施
@2月/種子島宇宙センターにおいて試験機1号機の打上げを予定していたが、第1段機体システムが異常を検知し固体ロケットブースタ(SRB-3)の着火信号を送出しなかったことに伴い打上げ中止
*2月~4月/種子島宇宙センターにて LE-9エンジン燃焼試験(試験機2号機以降に向けた翼振動計測試験・技術データ取得試験)を計5回実施
@3月7日/種子島宇宙センターにおいて試験機1号機の打上げを実施したが、第2段エンジンの不着火に伴い打上げ失敗

<H3試験機1号機・主要構成部分の仕様>
H3試験機1号機の外観および性能概要は以下の通りです;

H3開発の軌跡を概観すると、新規開発となった LE-9エンジンの燃焼試験については、多くの試験が繰り返されると共に、その心臓部に当たる燃料のターボポンプについても単独で繰り返し試験が行われています。これは1999年に打ち上げられたHⅡ型8号機が第1段ロケットの LE-7エンジンのターボポンプの破損により失敗した事例(ロケットに関わる基礎知識と日本のロケット開発の歴史/開発の歴史の項参照)から念入りな試験が行われたものと推察されます。一方で LE-5Aで実績を積み上げてきた LE-5B-3については、2017年と2018年の2回のみ機会が設定されたのみですが、これが今回の失敗の原因とは考えられませんが、ちょっと気になる所ではあります。また、今年2月の打上げ時の直前中止が、着火信号に関わる電気系のシステムにあったことは、素人でも気になる所です

第2段エンジンの電気系システムの概要

第2段エンジン(LE-5B-3)の電気系システムは下図の様な冗長設計(Redundancy/システムや装置に障害が発生しても機能を維持させるために、予備の部品や回路を用意する設計方法/この設計手法は航空機構造の内、壊れると墜落事故に繋がる様な「一次構造」と言われる部分に取り入れられていますが行われています;
*PNP(Pneumatic Package );エンジンバルブ駆動用ヘリウムガスの供給やエキサイタ・スパークプラグ(エンジンの点火器)の駆動を制御する装置⇒ この部分には冗長設計はされていません
このシステムをもう少し現実のシステムに置き換えると以下の様になります;
この図で;
A/B電池系:二つの独立した電源を装備しており、電源は冗長設計になっています(⇔ HⅡAロケットでは電源は一系統のみでした)
V-CON2A/B:ロケットの飛行制御を司る計算機です。この為に、自身の位置・速度・姿勢情報をもとにエンジンの制御・ガスジェットの制御・エンジンの舵角制御等の機体制御信号を生成して各サブシステムコントローラへ指示を行う機能を持っています。この計算機は独立したAとBの二重装備になっており、これも冗長設計になっています(⇔ HⅡAロケットではこの計算機は一系統のみでした)
PSC2A/PSC2B:第2段推進系の制御を行うコントローラです。V-CON2A/Bそれぞれからの指示を受け、燃料のタンク圧制御エンジンの制御、ガスジェットの制御等の推進系サブシステム制御を行います。このシステムも独立したAとBの二重装備になっており、これも冗長設計になっています(⇔ HⅡAロケットではこのコントローラーは一系統のみでした)
ECB:エンジン・コントロール・ボックスです。エンジンの始動・停止時にバルブの開閉のタイミングを決定する制御装置
PNPPneumatic Package):ECBの指示に基づき、各エンジンの燃料バルブはソレノイド(Sorenoid Valve/電磁弁)とヘリウムガスで駆動され、点火器のエキサイタスパークプラグは電気で駆動されます
エキサイタ:点火装置
<第1段ロケット分離後のそれぞれの機器の連携>
V-CON2A/2Bが第2段ロケットが分離されたことを検知 PSC2A/Bへそれぞれ第2 段エンジンの SEIGSecond Stage Engine Ignition/第2 段エンジンへの着火指示)を出力 PSC2A/Bは、それを受けて第2段エンジン・コントロール・ボックス(ECB)へ SEIG を出力 ECBはSEIGを受けた後、PNP(下記参照)駆動を指示 PNP は指示に基づき、各エンジンバルブおよび点火器のエキサイタスパークプラグを駆動

テレメーターから得られた故障の情報

第1段ロケットが切り離された後、第2段ロケットか点火されたかったプロセスに関わるテレメーター(テレメーターの説明に関しては「イプシロン6号機の打上げ失敗の原因分析結果についてをご覧ください)の表示は以下の様になっていました;

発射後6分64秒後に、2系統の電源それぞれに内蔵されている電流・電圧のBIT(Built-in Check 機能)が異常を検知し、極めて短時間(数ミリ秒)にAシステム、Bシステムの電源が遮断されたために第2段エンジンは着火せず打ち上げ失敗に至ったものと判明しました。しかし、故障の原因はシステムの何処かで電気の短絡が起こり急激に大電流が流れたためと思われますが、テレメーターの情報だけでは短絡を起こした場所を特定することはできませんでした

そこで、この短絡の原因を特定する為に、関連するする全ての部品類に対する各種のテストと、FTAFault Tree Analysis /故障の可能性をしらみつぶしに調査すること/技術系で無い人への参考「FTA解析とは)分析を行いました;

MOS-FETとは:電界効果トランジスターで電源回路によく使われています
ハーネスとは:電気回路で使われている配線
短絡、地絡とは:いずれも電気の短絡現象です ⇒ 結果として大電流が流れます

次のH3試験機(2号機)までに採られる対策

トラブル発生の原因を特定できなかったことから、対策は可能性がある全ての原因に対応可能な様に以下の様に多岐にわたっています;
1 エキサイタ内部で軽微な短絡が発生し、SEIG 後に完全に短絡する可能性に対する対策
⇒ リード線や基板等が接触して短絡・地絡する可能性がある箇所に対して、絶縁強化を実施する
⇒ 絶縁強化が難しい箇所に対しては、十分な隙間があることを X 線CT 検査によって確認する

2.エキサイタ内部のコンデンサの故障(誘電体損傷)の可能性に対する対策
⇒ エキサイタの製造検査に X 線 CT 検査を追加し、コンデンサのリード線の損傷(曲がり)がないことを確認する
3.エキサイタ内部のコンデンサ(リード線接触)の故障の可能性に対する対策
⇒ リード線に絶縁強化の為の保護テープを追加する
⇒ エキサイタの製造検査に X 線 CT 検査を追加し、リード線とケースが近接状態に
なっていないことを確認する
4.エキサイタ内部の貫通フィルタ故障の可能性に対する対策
⇒ エキサイタ製造検査に X 線 CT 検査を追加し、貫通フィルタに地絡に至る損傷がないことを確認する

5.エキサイタ内部のフィルタ組立故障の可能性に対する対策
⇒ エキサイタ製造検査に X 線 CT 検査を追加し、コイルとフィルタケースの接触が
ないことを確認する
⇒ コイルの絶縁シートの巻き数を 1.5 巻⇒1 巻に変更して厚みを減らし、コイルをケースに収納し易くしてクリアランスを改善する
⇒ コイルリード線に RTVゴム、コネクタ基板間ケーブルに熱収縮チューブを追加し摩耗に対する保護を強化する
6.製造中のトランジスター交換作業の摩耗紛による地絡の可能性に対する対策
⇒ エキサイタ製造検査に X 線 CT 検査を追加し、トランジスタとケース間の絶縁シートに摩耗粉(金属片)がないことを確認する

7.エキサイタへの通電開始直後に、部品故障による降圧回路の異常動作等により、過電圧が生じて、PSC2 の A 系内部の定電圧ダイオードが短絡故障し、故障時の過渡的な電流が電源のリターンラインを経由して B 系に伝搬して、A 系電源の遮断に引き続き、B 系の電源も過電流を検知して遮断に至った可能性に対する対策
PSC2 A 系/B 系双方の定電圧ダイオードを削除する

*定電圧ダイオードは、PSC2の過電圧検知遮断機能に加え、下流機器を保護する目的で実装していたものである。(過電圧が生じた場合に下流機器保護する機能として 二 重に装備していた

8.H-II ロケットから使い続けている機器に対し、製造しにくさ等により不具合ポテンシャルを内在しているものが無いか確認する
9.テレメータデータから得られる情報が限られていたため、原因箇所の切り分けや事実確認に時間を要した

⇒ 今後のフライト等において過電圧を起因とする事象の切り分けを容易にするため
に、PSC2 のエンジン駆動電源電圧の取得レートを 8Hz から 32Hz に向上させる
⇒ 今後のフライト等において過電流を起因とする事象の切り分けを容易にするため
に、V-CON2A/2B の電源バス電流の取得レートを 64Hz から 256Hz に向上させる
⇒ 対策効果を確認する目的で、PSC2/PNP 間に電流計測センサを追加し、512Hz の高速サンプリングでデータ取得する
⇒ 対策効果を確認する目的で、PSC2/PNP 間に電圧計測センサを追加し、512Hz の高速サンプリングでデータ取得する

10. H3 ロケット試験機1号機原因究明作業の結果、第2段エンジン着火信号送信から極く短時間に冗長系の A系、B系双方が駆動電源バスを遮断したことが判明しています。ミッション継続性の観点では、異常検知から遮断迄の余裕時間が少ないことから、冗長系設計思想を損なわない範囲で、ミッション継続の可能性を向上させる改善策を行う
*原因となった過電流は電源供給機能より下流機器の異常または故障に起因するため、下流機器に過電流に対する耐性があり上流機器の機能維持が担保される時間内であれば、すぐに断時する必要は無いと考えられます。一方、過電圧は電源供給機能そのものの異常または故障に起因するため、直ちに遮断する必要があり、遮断時間の延長はできません。過電流に対する検知機能は、A 系/B 系で異なる動作をさせることは可能です
*尚、今回の不具合事象とは直接の関連がないものの、エンジン制御系電源の過電流検知/遮断機能は、PSC2A/2B とその上流の V-CON2A/2B の双方に実装していた(同一の電源系統に 2つのブレーカスイッチを直列で具備していた状態となっていたことになります)ため、PSC2A/2B のエンジン制御電源に対する過電流検知/遮断機能は削除することになりました(下図参照);

11.今後のロケット開発のために、開発初期段階から電機系専門家の知見を設計に反映すること、また、開発の規模・質に応じた JAXA および企業の電気系エンジニアの確保を行い、彼らの知見を確実に設計に反映し信頼性の高いシステム構築することになりました

おわりに

今回のブログ作成に当たって頼りにした2023年10月26日発行の「専門家による事故原因究明に関わる報告書H3 ロケット試験機 1 号機 打上げ失敗の原因究明に係る報告書)」の解読?には苦労しました。大昔の「電気少年」の知識では解読不能の専門用語や論理展開がちりばめられており、何度も何度も読み返してやっと概略理解することができました。また、冗長設計の具体的な方法や、最後の一番大切なPNPのエキサイタやバルブ駆動のソレノイド部分がシングル系になっていることも航空技術の常識では理解に苦しむものでした
ただ、今後の対策にあるように、電気系機器のトラブル検出機能の強化設計陣に電気系の専門家が多く配置されるようなのでこうした失敗は無くなるものと期待したいと思います

一方、私のブログ「米ソ宇宙開発競争の歴史(スプートニク~アポロ計画)」の最後に「革新的な設計を行っているイプシロンロケット、H3ロケットの開発も、米国流でやるのであれば、地上でのテストとは別にペイロードを載せる前にまずロケットシステムのみの実射テストを行うべきではなかったか」と書きましたが、これまでの発表によれば、試験機2号機はペーロード無しで実施するとのことなので、日本のロケット開発も一歩前進かな、と思った次第です。とまれ今年度中に打ち上げられるという試験機2号機の成功を祈りたいと思います

Follow_Up:2023年12月17日「日本の人工衛星、計画遅れ続出_災害用観測機1年延期、科学研究にも影
Follow_Up:2023年12月27日「ロケットH3・2号機、2月15日打ち上げへ 失敗受け対策
*このロケットには、ロケットの性能を確認する機器と、超小型の人工衛星2基を搭載することになっています

Follow_Up:2024年1月2日_「H3ロケット、24年は成功へ2度目の飛行 挑む国際市場
Follow_Up:2024年2月17日_「H3」ロケット打ち上げ成功

以上

イプシロン6号機の打上げ失敗の原因分析結果について

はじめに

見出しの写真は、昨年(2022年)10月12日に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所の発射装置から打ち上げ直後のイプシロン6号機の雄姿です。しかし、1段目、2段目は順調に飛行したものの、2段目モータ(ロケットの噴射装置)の燃焼が終了した後の姿勢制御がうまくいっていないことが分かり、飛行途中で爆破されました;

この6号機には、福岡市の宇宙ベンチャー企業「QPS研究所」が開発した観測衛星や、大学・研究機関などに打ち上げ機会を提供する「革新的衛星技術実証プログラム」の第3弾となる衛星「RAISE-3」を搭載していましたが、残念ながらこれらはロケットと共に太平洋の藻屑となってしまいました

日本のロケット開発の歴史については、私のブログ「ロケットに関わる基礎知識と日本のロケット開発の歴史」の中で詳しく説明しておりますが、軍事技術とは無縁の学術的な研究の為に開発され、これまで極めて順調に開発が進められてきました。今回の失敗は残念な事ではありますが、宇宙開発先進国が経験している様に、この失敗の原因分析を緻密に行い、次の開発計画に生かしていくことが大切だと思います。以下は、「JAXAのホームページ」からの情報をベースに私が理解できる範囲で出来る限り分かりやすく解説したものです。尚、以下の説明の際に度々登場する基本的な用語については、私のブログ「ロケットに関わる基礎知識と日本のロケット開発の歴史」の中で詳しく説明しておりますので適宜ご覧になって下さい

イプシロン計画の概要

衛星打上を始めとするこれまでの日本の宇宙開発については、液体燃料ロケットであるH-ⅡA、H-ⅡBによる大型実用衛星の打上やISS(国際宇宙ステーション)への物資輸送と、固体燃料ロケットである Μ-Ⅴロケット(読み方:ュー5ロケット)による中・小型衛星の打上や惑星探査などを行ってきました。その後、宇宙開発が商業的な競争を行う時代に突入し、打ち上げ費用の抜本的な削減が必要となり、H-ⅡA、H-ⅡBの後継機としてのH3の開発と並行して、2013年度以降、固体燃料ロケットの後継機としてイプシロンロケットの開発が始まりました。開発の道程及び開発の目標については以下の図をご覧ください;

つまりイプシロン6号機は、こうした開発フェイズの最終段階に位置付けられ、この発射の成功は、最終目標である「イプシロンS 」という国際競争力のある打ち上げサービスの開始に引き継がれることになっていました。イプシロンロケット開発計画の詳細は JAXA のサイト「イプシロン」をご覧ください
尚、上表にあるイプシロン2号機~6号機までの「イプシロン強化型」と「イプシロンS 」との仕様の違いについては下図をご覧ください;

2023年7月14日、秋田県・能代にあるロケット実験場でイプシロンSロケットの2段モーターの真空燃焼試験を行った所、爆発事故を起こしてしまいました。この事故の原因分析は現在進行中です
尚、「イプシロン強化型」と「イプシロンS 」の2段モーターの仕様の違いについては下図をご覧ください;

Follow_Up:2023年12月12日・日経_ロケットのエンジン爆発、装置溶融が原因 JAXA報告

イプシロン6号機・失敗の原因分析

イプシロン6号機の事故については、異常が認められた段階で爆破されているため落下した本体の回収は不可能です。しかし、最近のロケットは正常に飛んでいるかどうかや、搭載機器の状態を、電波で地上に知らせる装置(以下「テレメータ」と表記します)が装備されており、地上でもその情報を受信し正常に飛行しているかどうかReal Timeで確認できる設備が稼働しています

残念ながらイプシロンロケットについてのテレメータの仕組みは現段階で入手できませんでしたが、M-Vロケットの場合は5台のテレメータ(1段目に1台、2段目にカメラを含めて3台、3段目に1台)が搭載されており、それぞれの段の飛翔中の状態を時々刻々知らせて来るようになっています。またロケットが決められた軌道を飛行しているか、ロケットモータの状態は正常か、ロケットの切り離しは正常に行われたか、といった150種類もの情報を時々刻々送ってくるようになっていました。また、搭載カメラでは、1、2段目のロケットの燃焼炎の状態や切り離し、そして3段目ロケットの切り離し・点火の画像を送り、目で直接その状態を確認できるようになっていま

  ペンレコーダー

ロケットから送られてくるテレメータの電波は、打上げ場のある鹿児島宇宙センター内之浦宇宙空間観測所で受信され、「テレメータセンター」と呼ばれる場所でコンピュータ画面やペンレコーダ(電気信号の変化を長時間にわたって紙に記録するための計測器)にデータが表示されて、ロケットの飛翔中の状況が確認できるようになっています。このテレメータセンターで集められたデータは飛翔保安の部署へ送られ、ロケットが安全に飛んでいるかどうかが監視されます。もし、ロケットが異常な飛行をしたときには、ここからロケットの破壊コマンド(指令)が発信され、ロケットの落下による地上、海上での事故を未然に防ぐことになっています。イプシロンロケット6号機の破壊指令はここから発せられたものと思われます
尚、テレメータの電波は、ロケットの真後ろ方向では燃焼ガスの影響により弱められ、受信できなくなることがあります。また、地球が丸いことから水平線の向こうにロケットが飛翔すると受信ができなくなります。その為ロケットの飛行する途中何個所(外国を含む)かに受信局(これをダウンレンジ局といいます)を設けて、そこからテレメータセンターにデータを転送することになっています。こうして得られた情報から、事故原因のかなりの部分は解明できることになります

1.イプシロン6号機の制御の仕組みと故障個所
イプシロン6号機の構造と推進システムと制御システムを図示すると以下の様になっています;
上図に於ける略語の意味は以下の様になります;
* TVC(Thrust Vector Control):ロケットの噴射方向を変えることによってロケットの推力の方向を変える機構(⇒ロケットの進路を変えることが出来ます)
スピンモータ:ロケット外周の接線方向に小型のガス噴射装置を設置し、ロケットの軸を中心として回転させ、軸の方向(⇔ ロケットの進行方向)を安定させるもので、大砲や小銃の砲身の内部に施条(ライフリング)を施し、砲弾を回転させて方向を安定させることと同じ原理です
* RCS(Reaction Control System):噴出ガスの反動でロケットの方向、姿勢をコントロールするシステム)

この制御装置が打ち上げ時に予定された軌道に沿ってどの様な制御を行うかについては、以下の図をご覧ください;

このブログの「はじめに」の項のイプシロン6号機の事故に至る軌跡と、上図の姿勢制御上の役割分担を比べてみると、第2段 RCS の機能が故障したらしいことは推測可能であると思います

2.第2段 RCS の構造、及びその機能
第2段 RCS の構造と機能については下図をご覧ください;


上図の名称ロール(Roll)ピッチ(Pitch)、ヨー(Yaw)という用語は分かりにくいと思いますが、この用語は恐らく航空機の三軸周りの回転を意味する用語(右図参照)を転用している様です。RCSの場合は、ロールはロケットの軸周りの回転を意味し、ピッチとヨーは、ロケットの軸を傾けることを意味することになります。上図左のラッパの様な三角形のシンボル(#1~#8)はスラスタ(Thruster/ガス噴射装置)を意味しますが、これらの噴射装置を上図左に書かれている組み合わせで噴射させるとロケット本体の ロールピッチ、ヨー をコントロールすることが出来ます(例えば#1と#4のスラスタを同時に噴射させるとロケットは後ろ側から見て時計回りにロール(Roll)することになります

3.RCS のガス噴射装置(スラスタ)を駆動する仕組み
8個(#1~#8)あるガス噴射装置(スラスタ)を駆動する仕組みは複雑な構造をしていますので、簡単な系統図で表すと以下の図の様になります;

尚、今回の故障分析に関わる上図のタンクとパイロ弁の詳細な構造は以下の様になっています;タンクはダイヤフラム(伸縮性のある薄膜)で仕切られており、上部に窒素ガスが入ってくるとダイヤフラムの下部に入っているスラスタ(ガス噴射装置)に推進薬(ヒドラジン)を押し込む仕組みになっています。またパイロ弁(推進薬遮断弁)は、この推進薬の流路を途中で遮断しているものですが、搭載されている誘導制御計算機(OBC)の指令で流路を開通させる役割を担っています
尚、上図でPSDB2(Power & Sequence Distribution Box2/パイロ弁に電力供給を行う機能)は、AシステムとBシステムがあり、1秒の時間差でパイロ弁に電力を供給する様になっており、更にパイロ弁も Aシステム、Bシステムで独立して起動できる様な構造になっており(冗長設計/Redundancy)、パイロ弁の構造がシンプルであることと併せ、機能不全により起動できなくなる確率は極めて低くなるように設計されています

4.テレメーターから得られた故障の情報
テレメーターからは、タンクの圧力、パイロ弁下流配管の推進薬(ヒドラジン)の圧力、パイロ弁への電力供給の有無、などの情報が送られてきており、イプシロン6号機では、その情報は以下の様になっていました;

上図によれば、マイナス・ヨー軸(₋Y)には Aシステムに電力が供給されて直ぐパイロ弁下流の圧力がタンク圧力(タンク内の推進剤の圧力)に達した(⇔ マイナス・ヨー側のスラスターが機能できる)ものの、プラス・ヨー軸(+Y)には、Aシステム、及びBシステムに電力が供給されて電力が供給されてもパイロ弁下流の圧力はゼロのまま(⇔ プラス・ヨー側のスラスターは推進剤の供給が無いので機能できないになっていました
上記分析から、タンク側とパイロ弁上流配管に何らかの異常が発生したものと推定され、各種のテストが行われました

5.故障個所の特定
関連する部品類に対する各種のテストと、FTA(Fault Tree Analysis )分析を行った(故障の可能性をしらみつぶしに調査すること)結果、上記現象はRCSのダイアフラム式タンクにおける、「ダイアフラムシール部からの推進薬(ヒドラジン)の漏洩」と特定されました
このダイアフラム式タンクは、イプシロンロケット2号機以降の強化型から採用された推進薬タンクで、ダイアフラムを組み込む際にダイアフラムが、リング間隙(赤道リングとダイアフラム固定リングの隙間)に噛み込み、その後の溶接工程のミスでその噛み込んだ部分が破断・損傷した結果であると特定されました;

こういう状態になると、推進薬(ヒドラジン)がタンク内のダイヤフラムの下側から窒素ガス側に漏洩します。こうなると、ダイアフラムが液ポートに覆い被さり、パイロ弁開動作時にダイアフラムにより推進薬出口を閉塞する可能性があることが地上での実験で確認されました

6.その後の対応(水平展開)
A.今回の失敗の直接の原因が、構成部品一つの作業ミスが大きな失敗に繋がったことと、過去に同一部品が使われて問題が無かった部品について綿密な領収検査が省かれる傾向があったことから、イプシロンS計画だけでなく、H3計画においても構成部品の納入に際し着実な検査の徹底図ることとしました
また、
B.同種のRCSを使用している以下の計画については、改めて詳細な検討を行っております;
① イプシロンSロケットへの水平展開
現在開発の最終段階にあるイプシロンSロケットに関しては、今後以下の2案を検討し必要な改善を行っています;
A案:現タンクの設計変更
* ダイアフラム組込時にシール部の噛み込みが発生しない設計・製造工程、シール部からの漏洩を確実に検知する方法等を検討するとともに、充填する推進薬の増量などに伴うダイアフラムによる閉塞リスクを排除する対策を検討した上で、タンクを再開発する
B案:H-ⅡAタンク活用
* H-ⅡAロケットのダイアフラム式タンクは、ダイアフラム組込時にシール部の噛み込みが発生しない設計・製造工程となっており、タンク液ポートに閉塞防止用の機構を有している

② XRISM(X線分光撮像衛星)への水平展開
* XRISMの推進システムに搭載しているタンク・ダイアフラムはイプシロン6号機に搭載しているものと同一のものですが、実機の疑似推薬(水)を用いた振動試験の結果を基に技術評価を実施して問題ないことを確認したうえで、2023年9月11日にH-ⅡA・47号機により打ち上げられ軌道投入に成功しています
③ 宇宙船・SLIM(Smart Lander for Investigating Moon/無人月面探査機・着陸機)への水平展開
* SLIMの推進システムに搭載しているタンク・ダイアフラムはイプシロン6号機に搭載しているものとサイズ、形状が異なりますが、シール部やダイアフラム材料等の一部の設計が類似しています。従って実機のダイアフラム組込後の漏洩試験などを基に技術評価を実施し、問題ないことを確認した上で、2023年9月11日にH-ⅡA・47号機により打ち上げられ、現在月への軌道を順調に飛行しています

④ H3ロケットへの水平展開
* H3ロケットのダイアフラムについては、液ポート閉塞の可能性はなく、推進薬の漏洩やダイアフラムの破損、脱落が発生しないよう管理し、製造異常も確実にスクリーニングできるプロセスとなっていること確認していることから、懸念は排除されると評価しています

おわりに

イプシロンロケットの発射場は鹿児島県の内之浦にあり、数十年前!航空学科の4回生の時の卒業旅行で訪ねた所です。あの頃は私共の先輩達がミューロケットの打上げに参加していましたが、当時日本が現在の様な宇宙先進国になるとは思ってもいませんでした

その後、大型衛星打上用の液体燃料ロケットであるH-Ⅱシリーズの開発成功、世界唯一(ミサイルは別!)の固体燃料ロケット・イプシロンによる中・小型衛星の打上、惑星探査の成功が続き、日本の衛星打上や月探査など商業利用に関わるロケット技術の優位性が高まってきた矢先に、昨年のイプシロン6号機の打ち上げ失敗、今年に入ってH3の打上失敗、イプシロンSロケットの二段モータ地上試験中の爆発、などの一連の失敗が続きました
宇宙マニアの一人として、事故後は今後の日本の宇宙開発の進展を心配しておりましたが、今回イプシロン6号機失敗の原因分析をジックリ調べてみた結果、やはり事故分析及び其の水平展開に関しても日本の技術レベルは相当高いと確信するに至りました。ただ、第2段モータの地上試験での爆発事故の原因究明は未だ途上にありますで、失敗にめげることなく頑張って欲しい思います

今回の調査は、2023年5月19日発行の「イプシロンロケット6号機打上げ失敗の原因究明に係る報告書(JAXAイプシロンロケット6号機原因究明チーム)」と、2023年5月24日発行の「イプシロンロケット6号機打上げ失敗の原因究明に係る調査・安全小委員会 報告書(案)」をベースに勉強した結果を基に、私なりに推敲重ねた上で、素人でも興味のある方には理解可能な様に表現を工夫して書いたつもりです。ただ、関連する部品類に対する各種のテストやFTA(Fault Tree Analysis )分析については、設計者や部品製作者のような専門化でなければその真偽を判断できませんので、その結果に対する評価は全くしていません。その辺りに興味のある方は上記の報告書をじっくり読んでみることをお薦めします

尚、H3ロケット打上失敗事例については、未だ調査中なので、いずれ結果が出た段階でブログを書こうと思っています
Follow_Up:2023年11月20日発行のブログ「H3試験機1号機の打上げ失敗の原因分析結果について

以上

酷暑の中の屋上野菜栽培

はじめに

見出しの写真は8月3日に収穫した野菜です。一見してわかるのは、夏野菜として欠かせないキューリの収穫がないことと、何とも小粒なトマトがほんの少々しか採れていない事だと思います
これは言い訳になりますが、今年の7月が例年にない酷暑であった為と考えています。因みに気象庁が発行している埼玉県所沢市(拙宅の住んでいる新座市の隣町)の気象データは以下の通りであり;
今年の7月は異常な高温が続いていたことがわかります
参考までに、6月までの毎日のトマトの収穫状況は以下の写真の通りでした;

キューリについては6月初めの段階で葉が萎れ始めたため、初めは根が浅いキュウリの表面の土が乾燥することが原因と考え、苗の周りに発泡スチロールの薄い板を置いて、水遣りも多めに行っていました;

しかし、残念ながら7月中旬には全て枯死してしまいました

また屋上での作業環境は大変過酷であり、高齢農業労働者の私にとって、朝の収穫と水遣り夕方の水遣りの時は、高温と日焼けの対策が必須になりますす。まあ、屋上での作業は人に見られる心配が無いので右の写真のように、「アームカバー」と「スキー用のタイツ」をまとい、時々ここに水をかけるとともに、「首掛け扇風機頸動脈を冷やしポカリスエット水分、塩分を補充しながら作業を行うことで熱中症に罹らないように注意をしています!

キューリとトマト栽培の再挑戦!

種から栽培することを信条にしてきた私としては残念至極ですが、ホームセンターで苗を買って、キューリとトマトを秋までに再び収穫することを目指すことにしました。取り敢えずキューリの苗を8本、中玉トマトの苗を2本買い求め植付を行いました
酷暑対策としては、プロも行っている「遮光ネット」を使うことにしました;
1.キューリの植付

現在までの段階では順調に育っています

2.中玉トマトの植付
現在までの段階では順調に育っています

豊富に収穫できた夏野菜の保存

夏野菜は、うまく育てれば成長は早く、家族で食べられる以上に豊富に収穫できます。以下は、食べきれなかった野菜の保存方法です;
1.トマト
7月初めまでは豊富に収穫できたので皮を剥いた状態で冷凍保存をしています。解凍すればどんな料理にも使うことができます

2.ナス
① 小ナス
昨年から保存用ナスとして重宝しています。「辛子漬」、「酒粕漬」、「ぬか漬」が我が家の定番です
② 中ナス
今年は大量に収穫できており、食べきれない分の第一の選択肢は「乾燥ナス」です。冬場の鍋物や、水で戻せば色々な料理に直ぐに使えます

また、同居している発酵研究家?の息子が自家製の紫蘇を使った「シバ漬け」(右の写真参照)を作ってくれています
その他、通常の「ぬか漬け」、「浅漬け」などを作っています
③ 水ナス
昨年の栽培から大幅に増やして(5本)いますので、毎日収穫があり「浅漬け」として食べていますが、漬物だけでは消化しきれないので、毎日のアイデア料理(後述)でフレッシュな水ナスを消費するよう心掛けています
④ 丸ナス
「お焼き」を食べたいだけだったので二株のみ栽培しましたが、なんと「小ナス」の直近で植え付けたところ、「交配」してしまったらしく中ナス様の実が育ってしまいました。従って、中ナスとして料理に使っています(←違和感なし!)

3.シマ瓜
「はじめに」で述べたように。キューリの収穫が6月一杯で途切れてしまったので、その代わりを担ったのがシマ瓜です。身が固いので各種の漬物に適しています。「酒粕漬け」のほかに、キューリの代わりに「ぬか漬け」、「浅漬け」で楽しんでいます

4.バジル

イタリアン料理にフレッシュなバジルを使うほか、以下の写真のように親戚、知人に評判の良い「ジェノベーゼ・ペースト」を作るために大量に栽培しています

今年から栽培を始めた野菜類

1.コールラビ
前回の報告(冬・春収穫野菜栽培の結果報告と夏野菜の準備状況)で青虫の食害で瀕死の状態であったコールラビは、私ども夫婦の必死の青虫虐殺作戦で何とか生きのび、6月下旬頃から大小の違いはありますがほぼ全て収穫致しました。西洋料理に疎い私には初めての食感でしたが、生で食べると意外に美味しいことが分かりました。まだ種がかなり残っているので来年も栽培しようと思っています

2.3尺インゲン
同居している息子のリクエストで栽培を始めた「3尺インゲン」は、アフリカ原産で、文字通り3尺(約1m)まで成長するインゲンですが、生産性はかなりいいようです。日本のインゲンの料理と食べ比べてみるとちょっと柔らか過ぎと思いましたが、発酵研究家?の息子が「酸豆角(スアンドオジャオ)」という中国風の漬物を作っていますので、出来上がってからの試食が楽しみです

3.ハーブ類2種
これまで、「バジル」、「ミント類(オーデコロンミント、スペアミント、ペパーミント」、「レモンバーム」、「セージ」、「イタリアンパセリ」、「パセリ」、「ディル」、「香菜(パクチー)」、「ローズマリー」、「青紫蘇(大葉)」、「赤紫蘇」などを栽培しておりますが、これに加え以下のハーブの栽培を始めました;

唐辛子類の栽培状況


唐辛子類については、昨年同様に「鷹の爪」、「辛長キング」、「剣先なんば」、「立八房」、「沖縄トウガラシ」の5種類を栽培しています

昨年も多く収穫できましたが、今年7月末で在庫が切れてしまいました。栽培している苗の数は同じなので、肥料を多めにして収穫量を増やしたいと考えています

我が家で評判が良かった夏野菜料理の紹介

1.冷奴に、豆板醤ソースであえた香菜(パクチー)をトッピングした一品

2.空心菜とピーナッツの炒めもの

3.水ナスの甘酢煮

4.バジルと水ナスのパスタ

5.自家生産野菜中心の冷やし中華

以上

福島原発処理水海洋放出に関わる論点を整理してみました

-はじめに-

最近、標記に関わるニュースが頻繁に登場する様になりました。きっかけは、福島原子力事故以降、地下水や雨水が原子炉内に入り、溶けた燃料(デブリ/Debris)の冷却に使われて後、放射性物質を含む汚染水は処理された後、発電所の敷地内にタンクを適時建設しつつ貯留(見出しの写真参照/現在タンクは1,000基以上)してきたものの全容量(137万トン)の約98%に達しており、今年8月から海に放出する必要が出てきたためです

現在の計画では、国で決められた基準値の1/40に希釈し、海に放出する計画になっています。タンクに収められている処理水は、左の図の様に、予めALPSで有害な放射性物質は可能な限り除去されております
<参考> 左図のALPSとは、 Advanced Liquid Processing System(多核種除去設備)の頭文字を取った略語で、トリチウムを除く63種類の放射性物質を規制基準以下まで浄化処理する設備のことです。尚、巷では海洋に放出されるものを汚染水と言う人もいますが、海洋に放出されるのは「処理水」です。

<参考>  トリチウム以外の放射性核種の処理について
汚染水にはトリチウムを除き63種類の放射性核種が含まれていますが、それぞれの核種について、生まれてから70歳になるまでその核種を含んだ水を毎日約2リットル飲み続けた場合に、平均の被爆線量が1年あたり1ミリ・シーベルトに達する濃度が限度として定められており、これを「告示濃度限度(ベクレル表示)」と言います。
一方、処理水は、この63種類の核種の濃度の合計が1以下(1/100)となる様に二次処理されています(詳しくは「多核種除去設備等処理⽔の⼆次処理性能確認試験結果(終報)」をご覧ください)
例:(告示濃度限度(べクレル/L)処理後の濃度(べクレル/L)
*セシウム137  90/0.1850.0013
*コバルト60   2000.3330.0017
*ストロンチウム90300.03570.0012
*炭素14     200017.60.0088

処理水を更に大量の海水を混ぜて海に放出する設備は既に完成し、国際原子力機関や韓国の調査団に公開されており、この設備の海面下の設備を含む概念図は以下の通りです;

今年7月4日には IAEA(注)のトップであるグロッシ事務局長は処理水の海洋放出に関し、科学的な観点からは問題ないとの報告書を岸田総理大臣に提出しております。しかし現在、国際的にはこの海洋放出に反対する国があり、国内でも漁業関係者などは反対を表明している状況にあります
そこで、以前原子力関係の仕事(原子力安全基盤機構・監事)をしていたこともあり、私にも海洋放出の安全性について友人・知人にそれなりの説明責任を果たす義務があると考え、以下にその論点を整理してみることとしました
(注)IAEA(International Atomic Energy Agency)とは、日本語で「国際原子力機関」といい、原子力の平和利用について科学的、技術的協力を進める為、1957年、国連傘下の自治機関として設置されました

尚、以下の説明には原子物理学上の専門的な用語が沢山出てきます(ニュースなどではあまり詳しい説明なしに使用される傾向があります)が、原子物理学が得意でない方は、2016年8月に発行している私のブログ「原子力の安全_放射能の恐怖?」を事前にざっと一読して頂ければ理解が早いと思います

論点1_トリチウムの放射線の危険性

水素という元素は陽子が一つである元素の一般名称です。水素には原子量が1~3ヶの三つの種類があり(下図参照)、科学的性質はほぼ同じです
通常、我々が水素と言っているものは、上図の左端の陽子が一つだけの原子核を持った水素です。真ん中の重水素(原子核が陽子と中性子で1ヶずつで構成されている)は最近話題に度々登場している「核融合反応」の燃料として使われる元素です。右端にある三重水素がトリチウムです。三つの元素の内、放射性物質(放射線を出す物質)はこのトリチウムのみです。重水素・トリチウムはごく微量で自然界にも存在する元素で、主に宇宙線によって生成されたものですが、原子爆弾・原子炉が登場してからはトリチウムは人工的にも生成される様になりました

放射線が人体に与える影響を論ずるには、「放射線の種類」、「放射性物質の半減期」、「放射性物質の生物学的半減期(体の中に取り込まれた放射性物質が50%排出される期間)」を理解しておく必要があります
トリチウムはベータ線を放出してヘリウムの同位元素(陽子2ヶ、中性子1ヶ)に変わります(この反応は一般にベータ崩壊と言います)。ベータ線の正体は電子で、陽子の「1/1800」の質量しかないためエネルギ-は他の放射線に比べて小さく(最大18.6keV、平均5.7keV/キロ・エレクトロンボルト⇔非常に小さなエネルギーの単位)、またマイナスの電荷をもっている為に空気中を約6mm程進む内に空気中の窒素、酸素、他の元素との相互作用でエネルギーを失ってしまいます。従って人間の皮膚を通過して体内に侵入することはありません。一般に障子一枚で遮蔽することが可能とされています

②人間の被爆を論ずる場合、「外部被爆」と「内部被爆(体の中に取り込まれた放射性物質による被ばく)」の違いを理解していなければなりません
外部被爆」が問題となるのは、一時的に極めて強い放射線を浴びた場合、例えば原子爆弾の最初の炸裂時の強い放射線の直射を受けた場合や、死の灰(原子爆弾の核分裂生成物)による被ばくを長時間受けた場合、原子炉近くで被爆を防ぐ防護服を着ないで長時間作業を行った場合などであり、トリチウムの海洋放出では、外部被爆による被害を受けることは考えられません
一方、「内部被爆」については、放射性物質が体内に留まり身体内部で被爆し続けるため身体への影響が大きいことは言うまでもありません。例えば、ベータ線を出すヨウ素131の場合、半減期は8日生物学的半減期は138日ですが、ヨウ素は成長過程にある子供の甲状腺に取り込まれる可能性があることから、内部被曝による甲状腺がんの発症や甲状腺機能障害に関与することがわかっています(成人については甲状腺の成長はほぼ止まっているので、リスクはそれ程高くはないと考えられます)。またストロンチウム90の場合、ベータ線を出してイットリウム90となり、イットリウム90もベータ線を出します。半減期は29年生物学的半減期は49年に達します。ストロンチウムが周期表カルシウムのすぐ下にあることから分かる様に、化学的性質がカルシウムに似ており人間の骨に取り込まれ骨髄にダメージを与えることが知られており、白血病の発症や白血球・血小板の減少による免疫力の低下などに繋がる可能性があります。特に骨の代謝が盛んな30才以前の人はリスクが高くなります

トリチウムの場合、半減期は約12.3年、生物学的半減期は、水として摂取された場合(自由水中トリチウム)は10 日程度、有機物に含有されたもの(有機結合型トリチウム)を摂取した場合は40 日程度であり、トリチウムのベータ線のエネルギーが小さいことと併せ、内部被爆によるリスクはかなり低いと思われます ⇒下表参照


上表は、経産省の報告書から拝借したものですが、図を読む時の注意点は、縦軸の1目盛が10倍きざみになっていることに注意してください。簡単に言うとトリチウムは他の放射性物質と比べて「桁違いに生物に対する影響が小さい」ことが分かります

また、IAEAのサイト情報によれば、世界中のほとんどの原子力発電所では、通常の運転の一環として、低濃度のトリチウム及び他の放射性物質を含む処理水を、日常的かつ安全に環境中へ放出しています。尚、この処理水の放出は国の規制当局により認可・管理され、日常的に厳密にモニタリングされています
因みに、経済産業省の資料によれば、以下の図の様に現状においても、他の国も相応のレベルで放出していることが分かります
<参考> ベクレルという単位について;
「1秒間に1個の原子核が壊れて放射線を出すとき、この元素の放射能を1ベクレルとする ⇒ 単位が「兆」で吃驚しない様に!という定義で分かるように、この単位は放射線の種類やエネルギー、危険性とは直接対応していません。ただ、原子力発電所から排出する放射性物質の種類は概ね同じなので、放射性物質の排出量を比較するには適した単位です
<参考> 世界各国の原子炉タイプ別の排出量、排出方法(河川・海洋放出、気体での空中放出)は以下の資料をご覧ください「世界の原子力施設からの年間排出量

論点2_処理水の海洋放出に伴う反対論とその対策

1.海外での処理水放出反対論と原発事故以降の日本産食品の輸入規制の状況
つい最近まで中国、韓国などの国は、日本の処理水海洋放出に強い反対をしていましたが、IAEAによる安全評価が発表されてからやや下火になっています
特に韓国の尹大統領は、IAEAのグロッシ事務局長から直接安全性の説明を受けて以降IAEAの報告を尊重する立場に変わりました。一方、中国については本年7月14日の林外務大臣と王毅共産党政治局員との会談の内容を見ると、なお反対を続けるようです。ただ「処理水」と「汚染水」との区別がついていない、あるいは知っていても(自国の排出量が日本よりかなり多い)政治的な理由から反対を貫いているのかもしれません

日本産食品の輸入制限については、EUとの間の外交努力により、近々規制撤廃が確実になると共に、処理水海洋放出についても、同様の考え方から輸入規制を行うことは無いと思われます

<参考>
* 2023年7月14日・日経新聞「林外相「科学的観点で対応」_原発処理水放出 王毅氏は批判

Follow_Up: 2023年7月25日・日経新聞「日米韓・原発処理水巡り偽情報対策協議
Follow_Up: 2023年7月30日・日経新聞「日本食品のEU輸入規制、8月3日に撤廃 農相が明らかに
Follow_Up: 2023年7月3日・日経新聞「原発処理水の風評対策_放出前でも基金活用・ 経産相、福島の漁協訪問
Follow_Up: 2023年8月10日・日経新聞「NPT準備委・処理水放出に理解相次ぐ_中国は反対
Follow_Up: 2023年8月16日・日経新聞「中国、日本の魚「輸入停止」1カ月_卸・飲食店に打撃
Follow_Up: 2023年8月26日・日経新聞「水産物に追加支援策、政府調整 中国禁輸でホタテなど
Follow_Up: 2023年8月26日・日経新聞「処理水、濃度「異常なし」 東電が海水調査の結果初公表
Follow_Up: 2023年8月31日・日経新聞「処理水放出を評価、中国対応は「暴挙」_エマニュエル駐日米大使寄稿

2.日本の漁業団体の反対
日本の業関連の団体は処理水の海洋放出については強く反対しています。経済産業省や東京電力が、放出に関わる科学的な説明を行っても納得する気配はありません
* 2023年7月13日・日経新聞「全漁連、原発処理水の放出反対変わらず

ただ、上記の記事を分析すれば全漁連の要求は、放出に伴う健康被害を問題にしているのではなく、「風評被害に対する金銭的な補償を政府に求めている」様に思われます
風評被害の補償については、原発事故以降世界各国で福島産の水産物の輸入禁止措置が行われた為、既に以下の様な基金が準備されています;

今後、8月に予定されている原爆事故後の欧州各国の輸入規制が撤廃されれば、恐らく水産物の輸出が増加することと思われます
しかし、今後、中国・香港は「海洋放出が始まれば福島県産の水産物の輸入禁止措置を行う」と公言していますので、措置が実施されれば、2022年度の全国の水産物の輸出総額実績が3,870億円を超え、その輸出先の1位・2位が中国・香港(2022年度の輸出総額:1,626億円)であることを勘案すると「風評被害の為の基金の増額」が必要になるかもしれません
内訳を詳しく知りたい方は上表の基になる資料「2022年度_農林水産物輸出入概況」をご覧ください

Follow_Up:2023年9月:「米、日本産ホタテ輸出支援 処理水放出1カ月 中国迂回ルート開拓

-おわりに-

日本のトリチウム放出の安全基準は、1リットル当たり6万ベクレル、数字としては大きい値に感じられますが、、、この量の水を毎日2リットル飲み続けると、ベータ線による被爆は1年で0.8ミリシーベルトになります。
一方、政府が今年8月以降に計画している処理水の海洋放出は、上記基準の1/40以下に希釈して放出されます。こればWHO(世界保健機構)が飲料水に定める基準の1/7に相当し、毎日飲み続けても年間の被爆は0.02ミリシーベルトにしかなりません
この被爆量を私達が日頃色々な放射線源から被爆している量と比較すると以下の図の様になります(下図の場合も、縦軸の1目盛が10倍きざみなっていることに注意してください);

私は、昨年から今年にかけて前立腺がんの放射線治療を受けました。約2ヶ月に亘る治療の被ばく量の合計は76シーベルト⇒7万6千ミリシーベルトにも上ります。治療中に多少の副作用はあったものの、今も元気?に生きています
人間は有史以前から各種の放射線に被爆しDNAに損傷を受けてきましたが、その損傷を自らの再生力で修復し、生き延びて繫栄してきました。私はこの生命力と、科学的に立証されている情報を信じています。また、計画通り処理水の海洋放出を実施し、最も大切な福島第一原発の廃炉措置を進捗させることが重要であると考えます

処理水の海洋放出に関して、立憲民主党と共産党は反対の立場を取っていますが、両党の正式見解(下記参照)を見ると、放出そのものに反対を唱えているのではなく、風評被害に対して政府としてきちんとした対応を取ることが必要との立場で反対を表明していると理解することが至当と思います;
処理水の海洋放出に関する立憲民主党と共産党の見解

以上

 

「生成AI」をちょっと勉強してみました

はじめに

最近、新聞・テレビ・ネットのニュースなどで「生成AI」や「ChatGPT」という言葉が頻繁に登場していることはご存知方が多いと思います。IT用語の一つであることは分かりつつも、それが近い将来どの様に我々の生活に関わってくるか、私を含めよく分からない人も多いのではないでしょうか? そこで素人なりにちょっと勉強してみる事にしました
以下に、その勉強結果をご披露してみたいと思います。参考になれば幸いです

生成AI の理解に必要なIT用語

まず、生成AIを理解するのに必須と思われる以下のIT用語の意味について調べた結果を簡単に報告してみたいと思います
1.AIの意味
これは殆どの人がご存知と思いますが、Artificial(人工的な) Intelligence(頭脳)の頭文字を取った造語で、20世紀後半から欧米の科学者によって研究が始まりました。従って、AIという言葉の起源は欧米発と考えてよさそうです
それまで人間の知能の象徴であった「数値の計算」が、第二次世界大戦中の解読不能といわれたドイツの「エニグマ暗号機」解読の為に英国のアラン・チューリングが開発した計算機(真空管を使用)が、その後半導体の発明・普及によって、急速に高速化・小型化・低価格化が進み、今では人間のあらゆる分野の知的活動を機械化できると多くの科学者が思い始めています

2.生成AIの「生成」の意味、ChatGPTの「GPT」の意味
「生成」とは文字通り「何かを生み出す」という意味です。一方、「GPT」は英語の「Generated Pre-trained Transformer」の頭文字を取った造語です。私流に意訳すれば「予め訓練(学習)させることにより生成する言語変換装置」になるかと思います
これが、具体的に何をする装置かといえば「ある言語による質問(⇔数式とかプログラムによらず)に対する答えを、膨大なデータから選び出し、言語による回答を導き出す装置」と言う事ができると思います
こんな事は、コンピューターを使えば簡単ではないか?と思われるかもしれませんが、言語を理解すること、新しく言語を作り出すことはコンピューターにとっては極めて難しいことなんです。言葉というのは同じ意味であっても「方言」もあれば「別の言い方」もあれば「微妙なニュアンスの違い」もあります。また書き言葉でも「文体の違い」、「言葉の選び方の違い」、「文法的でないことば」など多々違いがあることは普通です。こうしたことがあっても普通の大人は一度聞くだけでその意味を理解し、その答えを言葉で表現できます。これは子供時代からの長い経験と学習によって身につけているからです(⇔Pre-trained)
コンピューターは人間の様な時間を掛けた経験は無いものの、保存されている膨大なデータから超高速で学習し(⇔Pre-trained)、統計的に最も適切な言葉を瞬時に選び出します。選び出す手段として「Deep Learning」という手法をつかいます

尚、ChatGPTの「Chat」の意味は、このシステムは人間とコンピューターが言語を使って質問と答えを繰り返して、質問者が求める答えを導き出すことから「気軽な雑談、おしゃべり」の意味の「Chat」を付加したものと思われます

3.Deep Learning(深層学習)
見出しの絵を使って説明すると、人間が目を通じて「猫」と認識するのは、生まれてからの長い経験で、目から入った色々な情報(例えば「ピンとしたひげがある」、「すばしっこい」、、、)や耳から入った色々な情報(例えば「ミヤ―となく」など)を総合して、「恐らくこれは猫」だと判断しています。この判断の過程で使われる脳内の構造は極めて多数の脳神経(人間の場合、一般にその数は140億個と言われています)が網の目の様な構造(Neural Network/神経回路網)を通じて電気信号で情報を交換し、この情報が長い経験で蓄積され、判断の根拠となっています。我々では「猫」としか答えられないのに対し、猫好きの人はどういう種類の猫かも分かると思いますが、それは経験の差情報量の差であるということが出来ます
コンピューターが行う「Deep Learning」もほぼ同じ構造(見出しの絵の「中間層」をコンピューター内に作り、膨大な情報をここを経由させ判断のルール」をコンピューター内部に作らせますこのルールがどうなっているかは利用する側は分かりません

現在「Deep Learning」の手法を使って実用化されているシステムには以下の様なものがあります;
① 画像認識
画像を入力して、その特徴を中間層で構造化し、それが何の画像なのかを判断します。手書き文字認識顔認証Web上の検索医療検査自動運転などが応用範囲です
② 音声認識
音声を入力として、テキストとして出力したり、発声している人を識別したりします。スマートスピーカーバーチャルアシスタントとして既に活用されています(Appleが提供するSiriなど)
また音楽の分野で作曲まで可能と言われているのは、音声認識と同じ様に、好きな音楽のジャンルや作曲者のデータを沢山読み込ませれば、その中に存在するある種のルールを見つけ出し、似た様な楽曲を作る出せることも理解できます
③ 自然言語処理
人間が日常的に使う言語(書き言葉・話し言葉)をコンピューターに処理・理解させる技術です。既に、自動翻訳ブラウザーの検索コールセンターでの問い合わせ対応などに活用されています。以下に説明する「大規模言語モデル」もこうした技術の発展型といえます
④ 異常検知
ロボットなどに取り付けられたセンサーから得られるデータから、過去のデータと比較して異常の兆候があるかどうかを判断します。製造現場などによる故障や異常動作の検知などに活用されています
⑤ その他
囲碁や将棋の世界においてプロ棋士と対等に戦えるAI金融トレーディング(投資タイミングの判断)などの分野でもディープラーニングが活用されています

4.Large Language Models(LLM大規模言語モデル
「生成AI」というシステムは、「Deep Learning」の手法を使って作られているシステムです。ブラウザーの検索、コールセンターでの問い合わせ対応などの範囲ではそれ程高度なシステムは必要ありませんが、高度で、複雑な言語を使いこなせるシステムには最先端の高速処理能力を持ったコンピューターと、言語知識の土台となる膨大な量の言語データベースが必要になります。こういうニーズに応えて開発されたシステムが「LLM大規模言語モデル」です
高速な処理能力を持ったコンピューターは、お金さえあれば買うことが出来ますが、膨大な量の言語データベースを利用するにはお金だけでは解決しません。現在これを可能にしている企業は、巨大なクラウドを世界規模の膨大な数の顧客に提供している、巷間「GAFAM/ガーファム」と言われている Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft などの米国発の巨大企業のみと思われます

ただこの様な、ある意味人間の能力に勝るシステムは、悪用されると深刻な被害が発生するリスクが伴いますので、それなりの安全な仕組みの構築が必要となります
尚、最近日本においてもこうした言語モデルの開発を目指す企業が出てきてはいますが、GAFAMに対抗するには巨大なクラウドの構築が必要であり、現実的にはこれは不可能なので、日本国内での利用、あるいは用途を限ったモデルの開発を目指している様です
<参考>
*2023年4月_「AI進化、人類の真価問う 比類なき言語能力10年で獲得
*2023年4月_「ChatGPTに金融界も注目 生成AIで顧客対応を効率化
*2023年6月_「NTTが生成AI開発 金融や医療向け、米大手より低コスト
*2023年6月_「生成AI開発・GAFAMとの競争、政府が支援を

*Follow_Up:2023年6月_「ソフトバンクが生成AI開発し企業に提供、スパコンも整備
*Follow_Up:2023年7月_「NEC、生成AI提供 法人用に来月から_売り上げ500億円目標
* Follow_Up:2023年7月_「チャットGPT、塾で活用
* Follow_Up:2023年7月_「生成AIサービスが続々、法律相談や英会話、業務を代替
* Follow_Up:2023年8月_「関西の自治体、生成AI活用へ動く 大阪市は秋に指針策定
* Follow_Up:2023年8月_「契約書のAI審査容認 法務省が指針_適法範囲を明示 企業、利用しやすく
* Follow_Up:2023年8月_「生成AIで企業の7割時短_NECやAGC人手不足で浸透_主要100社調査
* Follow_Up:2023年8月_「ChatGPTで欲しい回答を引き出すには?/追加質問のコツ

試しにちょっと生成AIを使ってみました!

生成AIについて何かを語るには、使って見なければ実際の所は分かりません。勿論、高度な使い方は私には無理ですが、「な~るほど!」程度には理解できるようにトライしてみました
1.現存の3つの生成AIの初期画面の比較
何れも初期画面は極めて似ていることが分かります
① ChatGPT
ネット上でこのシステムの無料版(ChatGPTのversion3.5です)を導入すると、以下の様な画面が出てきます;

この画面の下にある空欄に質問事項を入れると、ChatGPTの回答が表示されます。この回答に対して追加質問をすればまた次の回答が返されてきます。こうした一連の質問と回答の記録は、左にあるフォルダーに収納されます。フォルダー名は最初の質問の一部が表示されます

② Bing AI
Microsoft社は、ChatGPTを開発したOpen AI社に100億ドルもの出資を行って同社とのパートナーシップを結んでおり、ChatGPTと同等のBing AIというシステムを開発しています。このシステムを導入すると以下の様な画面がでてきます;

この画面の下にある空欄に質問事項を入れると、ChatGPTと同様の回答が表示されます。但し、ChatGPTの様なフォルダーの表示はありません

③ Bard AI
Google社は、未だ試験運用中の段階ですがBard AIというシステムを開発しています。このシステムを導入すると以下の様な画面がでてきます;

Bard AIはChatGPTやBing AIと違って「LaMDA」と呼ばれるGoogle独自のモデルを使用しており、多くの場合に、回答の文字数が比較的少ないと言われています。しかし近い将来、より高度なデータセットである「PaLM」に移行する予定だそうです

2.同じ質問に対する3つのAIの回答を比較してみました
質問 A(医学関連)「動脈瘤の手術中の事故で、右足が完全麻痺」の因果関係が分かりません?
<ChatGPTの回答>
私は非常に遺憾ですが、特定の医療ケースについての具体的な情報や事例を持っていません。私はGPT-3.5モデル(2022年11月に公開)であり、2021年までの情報をベースにトレーニングされておりますので、2021年9月以降に発生した出来事については把握しておりません。そのため、特定の手術や医療事故に関する最新の情報は提供できません。
一般的に、動脈瘤の手術中に足の麻痺が生じる場合、以下のような可能性が考えられますが、これらは一般的な情報であり、個別のケースには当てはまらない場合もあります
術中の神経損傷: 手術中に周囲の神経が損傷を受けることがあります。動脈瘤の手術では、血管をクリップやコイルで閉塞するために周囲の組織や神経にアクセスする必要があります。これらの手順によって、神経が損傷を受け、麻痺が生じる可能性があります

<Bing AIの回答>
「動脈瘤の手術中の事故で、右足が完全麻痺」の因果関係については、一般的には、手術中に起こった事故が原因であると考えられます。ただし、詳細な症状や事故の内容によって異なる場合があります
手術中に起こった事故としては、例えば、手術器具の誤使用や、手術中に起こった出血などが考えられます。また、手術中に脳への血流が不十分になった場合には、脳梗塞や脳卒中などの合併症が生じる可能性があります
ただし、動脈瘤の手術自体にはリスクが伴うため、事故が原因であるとは限りません。動脈瘤の手術におけるリスクとしては、例えば、麻酔の合併症や、手術後の感染症などが挙げられます
以上を踏まえて、より詳細な情報を知りたい場合には、担当医師や医療機関にお問い合わせいただくことをお勧めします
詳細情報:1. doctor-agent.com、2. jll.co.jp、3. kompas.hosp.keio.ac.jp

<Bard AIの回答>
大規模言語モデルとして私はまだ学習中であり、そちらについてお手伝いできる機能がありません

質問 B1(日本の古典文学関連)和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」の技法、解釈、作者は?
<ChatGPTの回答>
この和歌は、「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」という内容です。以下に、この和歌の技法、解釈、および作者についての情報を提供します
技法: この和歌は、「五七五七七」という、日本の伝統的な詩形である「短歌(たんか)」の形式に従っています。短歌は、5つの音(モーラ)で始まる第1句(上の句)、7つの音で始まる第2句(下の句)、そして再び5つの音で始まる第3句(上の句)、7つの音で始まる第4句(下の句)、最後に7つの音で始まる第5句(下の句)という構造を持ちます
解釈: この和歌は、愛情や思いやりの大切さを表現しています。詳細な文脈がないため、解釈は個人の見解に依存する部分もありますが、一般的には以下のように理解されます
「からごろも(枯れ葉や寂しいもの)きつつなれにし(厳しい状況に慣れた)つましあれば(貧しさや簡素な暮らしでも)はるばるきぬる(遠い道を進んでくる)たびをしぞおもう(その旅を思う)」
この和歌は、困難な状況や苦難にも関わらず、相手との絆や愛情を大切にすることの重要性を表現しています。作者は、逆境や試練に直面しても、遠くから愛する人との再会を心待ちにしている人の気持ちを描いていると解釈されることがあります作者: この和歌の作者は、平安時代の歌人である藤原定家(ふじわらのさだいえ)が有力視されています。藤原定家は、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて活躍した歌人であり、多くの和歌を詠みました。しかし、和歌の作者を特定するのは難しい場合もあり、確定的な情報がないこともあります
赤字の部分は間違いですね!、また技法については知識がないように思います

<Bing AIの回答>
和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、平安時代の歌人、在原業平(1021年-1086年)によって詠まれた和歌です
この和歌は、唐衣(からごろも)を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものです
また、この和歌は、かきつばたという花をモチーフにしており、各句の頭文字を取ると「かきつはた」となります
以上を踏まえて、和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、唐衣を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものであり、かきつばたという花をモチーフにしています
受信したメッセージ. 和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、平安時代の歌人、在原業平(1021年-1086年)によって詠まれた和歌です。 この和歌は、唐衣(からごろも)を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものです。 また、この和歌は、かきつばたという花をモチーフにしており、各句の頭文字を取ると「かきつはた」となります。 以上を踏まえて、和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、唐衣を着て身になじんだ妻が都にいるため、旅をしている自分の寂しさを表現したものであり、かきつばたという花をモチーフにしています
詳細情報:1. manapedia.jp 2. wakadokoro.com 3. ja.wikibooks.org
立派な回答だと思います!

<Bard AIの回答>
和歌「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう」は、古今和歌集に収録されている在原業平の歌です。この歌は、唐衣を着慣らした妻が留守の間に、遠くへ旅に出た夫が、妻を恋しく思う気持ちを詠んだ歌です
この歌の技法としては、まず、畳みかけるようなリズムがあります。最初の三行はすべて七音で、最後の行は五音で終わっています。このリズムは、歌の切ない気持ちを効果的に伝えています
また、この歌には、妻と夫の愛情を象徴する言葉がいくつか使われています。まず、「からごろも」は、唐から伝わった高価な衣服です。この衣服は、妻の美しさと高貴さを象徴しています。また、「つま」は、妻のことです。この言葉は、夫の妻への愛情を表現しています
この歌は、妻と夫の愛情を切なく詠んだ歌です。この歌は、古くから多くの人々に愛され、歌い継がれています
そこそこ立派な回答だと思います!

質問 B2(日本の現代文学関連)
① 大江健三郎の評価?
② 大江健三郎の反原発の言動には原子力に関する基礎的な知識に欠けていると思いますが如何?
③ 大江健一郎の著作である「広島ノート」では、放射能の脅威を強調するあまり、結果として被爆者の内、後遺症の無い人々にいわれのない差別を生んだのではないでしょうか?
<ChatGPTの回答>
 大江健三郎は、日本の現代文学界で最も重要な作家の一人であり、数多くの文学賞を受賞しています。彼は、戦後日本を代表する文学運動である「抒情派」の一員として、その才能を発揮しました。彼の作品は、自伝的な側面があり、家族や子供たち、人間関係、政治、文化、歴史など、多様なテーマを扱っています
また、大江健三郎は、その作品において、言葉の力や構造を大切にしていることでも知られています。彼の文体は、独自のリズムや音韻を持ち、多層的な意味を表現することができます。そのため、彼の作品は、文学的価値が高く、多くの読者や批評家から高く評価されています
一方で、彼の政治的立場や発言については、賛否両論があります。彼は、左翼的な政治的立場をとり、社会の問題点や不平等に対する批判を行ってきました。しかし、その一方で、彼の一部の発言が物議をかもすこともあります
大江健三郎の反原発の言動について、彼の原子力に関する基礎的な知識についての評価は人によって異なるでしょう。一般的には、彼は原発に対して批判的な立場を取っており、その主張は彼自身の個人的な信念や政治的な立場に基づいているとされています
ただし、確かに彼の発言や文章には科学的な正確さや詳細な知識が欠けていると指摘されることもあります。彼の言動は、より広範な社会的・文化的・倫理的な問題に焦点を当てたものであり、科学的な観点からの詳細な議論や分析を提供するものではありません
原子力に関する議論は非常に複雑で専門的な分野であり、その評価や意見形成には科学的な知識の習得が必要です。一般的な人々や作家が完全に科学的な専門知識を持っていることを期待するのは難しいでしょう
ただし、作家や知識人が社会的な問題について自身の見解を表明することは、その立場や視点から重要な寄与をすることがあります。彼らの発言や行動は、社会的なディスカッションや意識形成に影響を与える可能性があります。重要なのは、複数の情報源や意見を総合的に考慮し、自己判断を行うことです
したがって、大江健三郎の反原発の言動に対して、彼の知識や科学的な正確さについて懐疑的な見方をすることは理解できますが、彼の立場や主張には個別の視点や文学的な価値が含まれていることも認識する必要があります
 「広島ノート」は、大江健三郎が被爆地である広島を訪れた際の体験や考察を綴った作品です。この作品において、彼は放射能の脅威や原爆被害の深刻さを強調しています
ただし、「広島ノート」によって被爆者の内後遺症の無い人々に対して差別が生まれたとまで言うのは、一概には言えません。大江健三郎自身は、被爆者に対して共感や理解を示しており、被爆者の苦しみや闘いに対する敬意も表現しています
ただし、一部の読者や批評家からは、「広島ノート」の中で放射能の恐怖が強調されることによって、被爆者以外の人々に対する不当な差別や偏見が生まれる可能性があると指摘されることもあります。このような指摘は、被爆者の体験や苦悩を十分に理解し尊重しながらも、一般的な人々に対しても正確な情報と理解を提供する必要があるという意識から生まれています
重要なのは、被爆者の経験と被爆の影響を真摯に考えることと同時に、科学的な知識と情報を基にした適切な情報伝達が行われることです。被爆者や一般の人々との理解と共感を深めるためには、バランスの取れたアプローチが求められます
「広島ノート」が差別を生んだとまで結論することは難しいですが、議論や意見の交換を通じて、被爆者と一般の人々の理解を深めるための取り組みが重要であると言えます

<Bing AIの回答>
 
大江健三郎は、日本の小説家、劇作家、エッセイスト、評論家であり、1994年にノーベル文学賞を受賞しました
大江健三郎の文学は、現代性が評価されています。 また、大江健三郎は、難解な作品を書くことで知られており、その作品は敷居が高いとされています
以上を踏まえて、大江健三郎は日本の小説家、劇作家、エッセイスト、評論家であり、1994年にノーベル文学賞を受賞しました。彼の文学は現代性が評価されており、難解な作品を書くことで知られています
詳細情報:1. www3.nhk.or.jp 2. rank-king.jp
 大江健三郎の反原発の言動については、私たちが知る限りでは、彼は原子力に関する基礎的な知識を持っていると思われます
ただし、彼の反原発の言動については、賛否両論があります。 一方で、彼は原子力発電所事故の危険性や廃棄物処理問題などを指摘しており、反原発運動に参加しています。 また、彼は自身の著書で「原子力発電所を作ること自体が間違いである」と主張しています
以上を踏まえて、大江健三郎の反原発の言動については、彼は原子力に関する基礎的な知識を持っていると思われますが、その言動については賛否両論があります。彼は原子力発電所事故の危険性や廃棄物処理問題などを指摘しており、反原発運動に参加しています。また、彼は自身の著書で「原子力発電所を作ること自体が間違いである」と主張しています
「広島ノート」は、大江健三郎が広島を訪れた際に書かれたエッセイであり、被爆者の体験や被爆後の生活について記述されています。ただし、この本には批判もあります。一部の人々は、この本が被爆者の間でいわれのない差別を生んだと主張しています。しかし、他の人々は、この本が被爆者の声を世界に伝えることに貢献したと主張しています

<Bard AIの回答>
大江健三郎は、昭和中期から平成後期にかけて現代文学に位置する作品を発表した日本の小説家です。愛媛県喜多郡大瀬村(現:内子町)出身。東京大学文学部仏文科卒。学生作家としてデビューして、大学在学中の1958年、短編「飼育」により当時最年少の23歳で芥川賞を受賞。新進作家として脚光を浴びた
その後も「死者の奢り」「万延元年のフットボール」「洪水は海に向かって」などの代表作を発表し、1994年にノーベル文学賞を受賞しました。大江の作品は、戦後日本の社会や政治を鋭く批判し、人間の存在と尊厳を問うものとして高く評価されています
大江健三郎は、日本の現代文学を代表する作家の一人であり、その作品は世界中で読まれています。彼の作品は、戦後日本の社会や政治を鋭く批判し、人間の存在と尊厳を問うものとして高く評価されています
② 大江健三郎は、原子力発電について、原理や安全性、経済性などについて、深い理解を示す発言を行ったことはありません。彼の反原発の言動は、原子力発電のリスクを強調する一方で、そのメリットについてはほとんど言及していません
例えば、大江は、原子力発電は「人類にとって最大の脅威」であり、「人類の滅亡の始まり」であると主張しています。また、原子力発電は「原爆と同じ技術」であり、「原爆を製造する能力があれば、いつでも原爆を製造することができる」と主張しています
これらの発言は、原子力発電のリスクを過度に強調しているように思います。原子力発電は、安全性確保のための厳しい規制が設けられており、原子力事故のリスクは極めて低いものです。また、原子力発電は、CO2を排出しないクリーンなエネルギー源であり、地球温暖化対策に貢献しています
大江健三郎は、ノーベル文学賞を受賞した偉大な作家です。しかし、彼の反原発の言動は、原子力発電に関する基礎的な知識に欠けているように思います
私は大規模言語モデルで、幅広い質問やメッセージに対してテキストを生成することができますが、その人物については十分な情報がないため、お手伝いできません。このリクエストについて、他に何かお手伝いできることはありますか?

流石に大江健三郎はノーベル賞を受賞した作家だけあって、どの生成AIも情報量は豊富なようですが、結論については見解の相違もある様です

Follow_Up:2023年9月25日;
最近は余り都心に出る用事が無いので、定期的に都心に出て本屋を渉猟しつつ食事を取ったり、急速に変貌している街並みなどを散策しています。今回、とある本屋で新刊書を立ち読みしていたら「生成AI」関連の本が沢山並べてありました。その中の一つに、最近Lineも生成AIのサービス(AIチャット君)を始めたということが書いてありました。そこで帰りの電車の中でチョット試してみました。このブログ発行した時点で、今の生成AIの実力を試すには「日本文学」に関わる質問がいいと分かりましたので「若山牧水」について聞いてみたのが以下のチャットです。現段階では、日本文化のジャンルではちょっと使い物にならないことがお分かりだと思います

2023.09.25 月曜日
 AIチャットくん: 最近悩んでいることや気になっていることはありますか?17:09 荒井徹:若山牧水について知りたい
AIチャットくん :若山牧水(わかやまぼくすい)は、日本の俳人・詩人であり、明治から昭和初期にかけて活躍した。本名は森 秀太郎(もり しゅうたろう)。1885年、愛媛県にて生まれ、1927年に肺炎により死去。享年42。
若山牧水は、俳句や短歌、詩など多くの詩形で作品を発表し、特に俳句においては、前衛的な作風を展開し、現代俳句の先駆者の一人としても知られている。また、農村や自然をテーマとした作品や、女性視点・女性主体の作品も多く発表した。
代表作としては、「荒城の月」、「小倉山峰のもみぢ葉」、「明治二十四年」などが挙げられる。また、若山牧水の作品は、その美しく哀しい表現や、独特の世界観が多く人々に影響を与え、多くの人々に愛されている。

荒井徹: 短歌の代表作は?
AIチャットくん: 若山牧水は短歌の代表作も多く残していますが、特に有名なのは「雨ニモマケズ」でしょう。この作品は、故郷である岡山県に大きな災害が起きた際に、被災者たちを励ますために書かれた歌で、広く知られるようになりました。

荒井徹:雨ニモマケズは別の人では?
AIチャットくん: 「雨ニモマケズ」は、日本の詩人宮沢賢治が生前に作った詩のタイトルです。したがって、「雨ニモマケズ」は個人の名前ではなく、宮沢賢治が書いた詩の一つです。

荒井徹: 若山牧水は短歌の作家では?
AIチャットくん: はい、若山牧水(わかやまぼくすい)は、明治から大正時代に活躍した日本の短歌作家です。彼は現代短歌の祖とも呼ばれ、自由律の短歌を多く詠みました。また、近代詩の研究家としても知られています。

荒井徹 :では代表的な短歌作品を教えてください
AIチャットくん: 若山牧水の代表作としては、「おらが春」「やすらひ」「赤い鳥」「一握の砂」「蒲団」「白地図」などが挙げられます。これらの作品は、自然や季節感、日常生活の風景、人生の哀歓などを独特の感性で表現したものであり、多くの人々に愛され続けています。

ネット上の無料翻訳アプリの実力チェック

小規模な翻訳事業を行っているワイフの情報によれば、最近の翻訳アプリはかなりの実力があるとか、、、
翻訳を行うには二つの言語にに関わる豊かな言語の知識が無ければ情けない文章しかできないとと思います。そこで、ネット上で容易に無料で使用できる「Google翻訳」で実力を試してみることにしました。Google翻訳のアプリを開くと以下の様な画面が現れます。この画面の左の欄の言語を選び、空欄に文章を入れれば直ちに右側の欄に翻訳文が表示されます
1.和文英訳
<私の拙い!文章>
現在、宇宙開発は人類共通の「未知への挑戦」として国境を越えて協力が行われていますが、人類が初めて地球の大気圏を脱して地球を周回する人工の衛星を打ち上げ、この人工衛星に人を乗せ、更に月にまで人間を送り込む有史以来の大事業は、米国、ソ連という第二次世界大戦の勝者の間で行われた12年間の熾烈な開発競争の結果達成されたたものです
こうした宇宙開発には強力なロケットが必要であり、このロケット開発のベースになったのは、米ソがお互いの国に原子爆弾を打ち込むことが出来る大陸間弾道ミサイルの開発があったことは紛れもない事実です。また、この莫大な資金を必要とする開発競争の陰で、両国の中に貧困にあえぐ国民がいたことも事実です
しかし、こうした宇宙競争の結果、両国の国民だけでなく全世界の人々が熱狂したことも確かです。以下に、この歴史を振り返ってみたいと思います
<Google翻訳> ⇒ 翻訳に要した時間は1秒程度でした
Currently, space development is a common cross-border cooperation for humankind as a “challenge to the unknown”. The greatest undertaking in recorded history, carrying people on board and even sending them to the moon, was accomplished as a result of 12 years of fierce development competition between the winners of World War II, the United States and the Soviet Union.
Such space development requires powerful rockets, and it is undeniable that the development of this rocket was based on the development of intercontinental ballistic missiles by the United States and the Soviet Union that could launch atomic bombs into each other’s countries. It’s not true. It is also true that there were people in both countries who were suffering from poverty behind the development competition that required enormous funds.
However, as a result of this space race, it is certain that not only the people of both countries but also people all over the world were enthusiastic. I would like to look back on this history
英訳分の内“ It’s not true”はどうなんでしょうか?

* Follow_Up:同じ文章をDeepLというアプリで翻訳「DeepLによる翻訳

2.英文和訳
<有名なケネディ―大統領の就任演説の最後の部分>
In the long history of the world, only a few generations have been granted the role of defending freedom in its hour of maximum danger. I do not shrink from this responsibility — I welcome it. I do not believe that any of us would exchange places with any other people or any other generation. The energy, the faith, the devotion which we bring to this endeavor will light our country and all who serve it. And the glow from that fire can truly light the world.

And so, my fellow Americans, ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.
My fellow citizens of the world, ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.
Finally, whether you are citizens of America or citizens of the world, ask of us here the same high standards of strength and sacrifice which we ask of you. With a good conscience our only sure reward, with history the final judge of our deeds, let us go forth to lead the land we love, asking His blessing and His help, but knowing that here on earth God’s work must truly be our own.
<Google翻訳> ⇒ 翻訳に要した時間は1秒程度でした
世界の長い歴史の中で、最大の危険の時に自由を守る役割を与えられたのはほんの数世代だけです。 私はこの責任をひるむことはありません。歓迎します。 私たちの中には、他の人や他の世代と立場を交換する人はいないと思います。 私たちがこの努力に注ぐエネルギー、信仰、献身は、私たちの国とそれに奉仕するすべての人々を照らすでしょう。 そしてその火の輝きは本当に世界を照らすことができます。
ですから、アメリカ国民よ、あなたの国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではありません。 自分の国のために何ができるかを尋ねてください。
世界の同胞よ、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、人類の自由のために私たちが一緒に何ができるかを問うてください
最後に、あなたがアメリカ国民であろうと世界国民であろうと、私たちがあなたに求めるのと同じ高い基準の力と犠牲をここで私たちに求めてください。 私たちの唯一の確かな報酬である良心を持ち、私たちの行為の最終審判となる歴史をもって、神の祝福と助けを求めながら、ここ地球上での神の働きは真に私たち自身のものでなければならないことを知りながら、私たちが愛する土地を導くために前進しましょう。
Google翻訳は意味は分かるものの、用語の選択にやや問題があり、更にこの演説の「人を感動させる素晴らしい格調」は実現していません

<参考:ジョン・F・ケネディ大統領図書館提供の日本語翻訳文
世界の長い歴史の中で、自由が最大の危機にさらされているときに、その自由を守る役割を与えられた世代はごく少ない。私はその責任から尻込みしない。私はそれを歓迎する。われわれの誰一人として、他の国民や他の世代と立場を交換したいと願っていない、と私は信じる。われわれがこの努力にかけるエネルギー、信念、そして献身は、わが国とわが国に奉仕する者すべてを照らし、その炎の輝きは世界を真に照らし出すことができるのである。
だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい
世界の市民同胞の皆さん、米国があなたのために何をするかを問うのではなく、われわれが人類の自由のために、一緒に何ができるかを問うてほしい
最後に、あなたが米国民であれ、世界の市民であれ、今ここにいるわれわれに対して、われわれがあなたに求めるのと同じ力と犠牲の高い基準を求めてほしい。善良な良心を唯一の確かな報奨として、歴史をわれわれの行為に対する最後の審判として、神の祝福と助けを求めながらも、この地球上における神の御業を真にわがものとしなければならないことを知りつつ、われわれの愛するこの土地を導いていこうではないか

勉強後の私の感想

生成AIについて
*ChatGPTについて私が試してみたのは2022年11月に公開されたVer3.5でしたが、そこそこ実用的な水準に達していると思います。既に有料の利用者にはVer4.0が提供されており、性能はかなり向上していると思われます
*Bing AIについては、既に実用的な水準に達していると思います。これは恐らくMicrosoft社のクラウドに蓄積された膨大な知識データベースに起因していると思われます。更に、追加の詳しい情報をネット上のURLで表示しているのは利用者としては大変有用であると思われます
*Bard AIについては、試運用中であることもあって、現在のところテーマによっては十分な回答が期待できません。ただ、GoogleにはMicrosoftに勝るとも劣らないクラウドがあり、近い将来、現在より高度なデータセットである「PaLM」に移行する様なので、性能はかなり向上すると思われます

対話を重ねてより精度の高い回答を得るには

私の今回の調査では、本来のこのシステムの使い方である「対話を積み重ねて(Chat)より完全な回答を得る」試みはしていません。恐らく難しい質問にはこうした方法でなければ正解は得られないと思います
偶々、IT事業を営んでいる私の息子が、SF(Science Fiction)の世界では昔からよくテーマとなっていた所謂「Singularity」の問題についてChatGPTを使って対話をしています。興味のある方は「AIのSingularityに関わるChatGPTとの対話」をご覧になってみて下さい
<Singularityとは>
本語では「AI発達に於ける技術的特異点」と言われており、AI自身の「自己 フィードバック で改良、高度化した 技術 や 知能 」が、「 人類 に代わって 文明 の進歩の主役」になる時点の事です

*Follow Up:2023年6月_「AI搭載の戦闘ロボの脅威、深層学習の父が懸念
*Follow Up:2023年6月_「マイケル・サンデル教授に聞く“技術の未来”
*Follow Up:2023年7月_「「AIは異星人の知性」 哲学界の若き巨人・マルクス・ガブリエル教授が鳴らす警鐘
*Follow Up:2023年7月_「働く喜びは変わらない_カール・フレイが語るAI時代の雇用
*Follow Up:2023年7月_「AIは脅威か?迫る労働革命_新職種創出・業務の25%自動化…新たな成長の起爆剤に〈テクノ新世〉
*Follow Up:2023年7月_「AI兵器、日本とNATOがルール構築
* Follow Up:2023年9月_「米、AIルール主導狙う 欧中念頭
* Follow Up:2023年9月_「アマゾン、生成AIへ出資
* Follow Up:2023年10月_「hatGPTのOpenAI、独自のAI半導体開発を検討と報道

Google無料翻訳アプリについて
和文英訳については、恐らく私が作成する様な平易な日本語であれば、十分実用に耐える翻訳英文が得られると思います。ただ、格調高い日本語の英訳を期待するのは、現段階では無理かもしれません
英文和訳については、格調高い英文を格調高い日本語翻訳するのはやや無理があると感じました。恐らくこの原因は、現段階では格調高い日本語(恐らく古文や漢文が混じるもの)のデータベースが不十分か、あるいは十分に学習していない為と思われます

高齢者にとってのメリットはあるか?
野村総研の分析によれば、2022年11月に公開したChatGPTは、公開2ヶ月で世界のユーザー数が1億人(世界の人口は約80億人)に達するほど急速に拡大しているそうです。また、ChatGPTへのアクセス数を見ると、日本からのアクセス数は4月中旬に746万/日に達し、そのシェアは、米国、インドに次いで3番目に多いとのことです。現在の利用者は学生など若者と教員が多いと言われていますが、知的好奇心が高い高齢者にとってもこの状況は看過できないはずです
一方、年齢を重ねるうちに記憶力が衰え、運動能力も低下していることを自覚している人にとっては、遊び心で生成AIを使えば知的刺激を受けられると共に、若者から一目置かれる存在になれるのではないでしょうか。生成AIには多方面の利用法が提案されていますが、例えば以下の様なちょっとふざけた?利用法も考えられます;
*「学生時代にFORTRANというプログラムを使って論文を書いていたぞ!」なんて旧い理系人間であれば、以下の様な遊びを楽しむことが出来ます;
BingAIを使って「ニュートンの第二法則をPHPでプログラムしてください」と入力すると、以下の様な回答が直ぐに返ってきます;

*文系の人であれば私がちょっと試してみましたが、文学の分野で専門性に自信がある?方であれば、生成AIを使ってChatでいじめて!(更問や否定的な意見を繰り返す、など)やれば、楽しいと共に結果として生成AIの性能向上に役立つこと間違いないと思いますが如何でしょうか?

以上

冬・春収穫野菜栽培の結果報告と夏野菜の準備状況

A.冬・春収穫野菜栽培の結果報告

前回の報告(2023年1月6日発行:冬野菜あれこれ)の通り、白菜、キャベツ、漬物用の葉物野菜・根菜類、生野菜サラダ用の葉物野菜などは大成功(少なくとも冬季は完全自給達成)に終わりました。このノウハウは来シーズンの生産にも生かしたいと思います
拙宅では、月~金曜日は毎朝山盛り?の「生野菜サラダ」を食べていますが、12月~現在まで供給し続けていた野菜は以下の通りです;

ただ、11月末植え付けのタマネギと1月末植え付けのジャガイモについては、収穫量について昨年実績を若干下回る結果となりました;
1.タマネギについて
4月初めまでは極めて!順調に生育したものの、4月7日の異常気象(発達した寒冷前線が本州付近を通過、拙宅付近では風速10メートル以上の強風が吹き荒れた )により、50㎝以上に成長した葉の部分が大部分根本からなぎ倒され、成長がそこで止まってしまいました。ただ栽培数を増やしていたため小さい玉は多いものの、量的には秋までの消費分十分確保できたと思います

2.ジャガイモ
ジャガイモについては、1月下旬、「キタアカリ」の種芋10ヶを夫々半分に切って植え付けました。また、コンテナが2ヶ余ったので、食用に買った「インカの目覚め」を2ヶのみ2月下旬に植え付けました。極めて順調に生育していたものの、5月に入って突如ヨトウムシ(夜盗虫)の襲撃を受けて無残な状態になってしまいました
ヨトウムシは夜にならないと葉の方に出てきませんので、5月24日から2夜に亘ってワイフの助けを借りてヨトウムシ駆除(30匹以上を捕殺)を行いましたが、既に葉がかなり食害を受けており、相当量の収穫減を覚悟しました。しかし5月28日、収穫を行ったところキタアカリは、小粒が多かったもののある程度の量を収穫出来ました(約10キログラム)
ただ、インカの目覚めは僅かな少量のみの収穫にとどまりました(写真上の段ボール箱の中)

B.夏野菜の準備状況

夏野菜は何といってもトマト、ナス類、瓜類(キュウリなど)がメインになります。これらは2月末から準備を始め、種蒔き⇒育苗⇒植付の順に作業を行います
① 種蒔き・育苗は、近年続けている熱帯魚用のヒーターを入れた自作の水槽にトレーを浮かべ、そこに乗せたプラスティック・ポットに種を蒔いています。今年からは発芽した後、室内では日光が足りないので屋上に防寒処置を施し、ヒーターを強力にした荒井式?屋外種蒔き・育苗器を使用しています(2023年1月6日発行:冬野菜あれこれで報告済み)

②植付は、今年から初めて保温の為のカバーをテスト使用してみました。1ヶ175円はちょっと高いとは思いましたが、かなりの効果を立証することが出来ました。
テストの為に、ほぼ成長状態が同じナスの苗をカバー無しと保温カバー付きとで、3月末一週間ほど経過した状態で成長を比べると、成長の違いが歴然としていることが分かります
因みに連休明けに訪れた長野県飯山市で見た家庭菜園では、ビニールや、米袋を使った夏野菜の保護を行っているのを見ることが出来ました

1.トマト
トマトは毎日の生野菜サラダの材料として重宝な「プチトマト」、昔懐かしい「大型のトマト」、最近人気の甘い「中型トマト」の3種類を植え付けました。収穫した「プチトマト」を湯通して皮をむいたものが私の大好物なので、かなり多めに栽培しています。余ったら冷凍して秋・冬まで食べ続けたいと思っていますが、ワイフが対応してくれるかどうか、、、

2.ナス
ナスは一番用途が広い「中型ナス」に加え、「小型ナス、「水ナス」、「丸ナスの4種類を植え付けました。「小型ナス」は辛子漬(那須与一漬)や粕漬に、丸ナスは長野県の味「オヤキ」に、水ナスは大阪駐在時に味を占めた「浅漬け」を想定しておりますが、ワイフが対応してくれるかどうか、、、

3.ウリ類
ウリ類は生食・漬物用の「キュウリ」及び「小型キュウリ、それに長野県人としては各種漬物材料として外せない「縞ウリ」を植え付けました。今年は後述する病気対策を施して例年よりも多く植え付けて、子供達にも漬物を配れるようにしたいと思っていますが病気対策の効果は如何、、、
<病気対策>
ウリ類は露地栽培の場合、雨や水遣りの時に地面からはねた土に含まれている細菌・カビ類が葉に感染し収量が落ちてしまうケースが多いことが知られています。通常、露地栽培の場合には干藁、籾殻 (もみがら)、ヤシの繊維、黒マルチなどで根元を覆うのですが、黒マルチはコンテナ栽培では難しいこと、その他の方法は最近非常に高価になっており、貧乏人の農民?には手が出ません。今回ネットで調べた結果、新聞紙(透水性がある)でも同じ機能が期待できると出ていましたので、新聞紙を根の周辺に敷き、上に堆肥を蒔いて風に飛ばない様にしています。この実験、上手くいくかどうか、、、

4.トウガラシ類
トウガラシは2年前から完全自給しています。栽培品種は、最も一般的な「鷹の」に加え、「辛長キング」という大型の品種、「剣先なんば」という細長い品種、「立八房(たちやつふさ)」という鷹の爪に似ている品種、「沖縄トウガラシ」という小型ながら極めて辛味が強い品種の5種類を栽培する計画です。現在、種蒔きをして芽が出た所ですが、沖縄トウガラシのみは例年通り発芽に時間が掛かっています

5.ハーブ類
ハーブについては、料理でよく使うハーブは完全自給を目指しています。「ローズマリー」は常緑のハーブであり屋外で十分すぎる?程成長するので玄関わきに地植えをしています。その他のハーブは基本的に冬場に屋内に持ち込める小さなコンテナで栽培しています。現在屋上で栽培しているハーブは、下の写真の通り「カモミール(花を乾燥させて使用)」、「チャイブ(今年から始めました)」、「オーデコロンミント」、「ペパーミント」、「パクチー」、「タイム」、「スペアミント」、「ディル」、「レモンバーム」ですが、最も消費量の多い「バジル」は、居間の出窓で栽培している他、トマトのコンパニオン・プラント(近くに植えるとお互いに助けあう!)として一緒に栽培しています
上記以外で居間の出窓で栽培しているハーブとして、「セージ」、「パセリ」、「イタリアンパセリ」などがあります

6.長ネギ
毎年自給を目指していますが、消費量が余りに多いので春以降半年位は長ネギを購入しなければならない状況が続いています。昨年導入した底の深い大型のコンテナによる栽培は必ずしもうまくいきませんでした(成長が遅かった)。今年は、この大型コンテナに植え替える時までにできるだけ大きく成長させるよう努力していと思っています
← 春先に種を蒔いたネギは、ホームセンターで売っている苗と比べても遜色の無い程順調に育ちました
5月下旬にこれらの苗を、標準コンテナ7ヶに20本づつ植え替えを完了しました。果たしてうまくいくかどうか、、、

7.その他
① ベリー類の状況
昨年植えた新しい「ブルーベリー」2株は順調に育ち、量は少ないものの収穫できそうです。「ラズベリー」は一杯実を付けているのですが、赤くなる前のオレンジ色の状態で落果しているので、ちょっと心配です。「ブラックベリー」は樹勢が強く沢山花を咲かせているので楽しみです
② 柚子の状況
一昨年植え付けた「柚子」は、昨年は全く花を付けませんでした。しかし、今年に入って樹勢も強くなり、漸く花が咲いたので期待していたのですが、どうやら実にはなってない様なのでとても残念です(ひょっとして実が小さい内は発見が難しいのかも?)

③ 山菜類の栽培
今年から山菜類の栽培を始めることにしました。私の大好きな「コシアブラ」、「ワラビ」、「山ウド」です。さて、関東の酷暑に耐えられるかどうか、、、

④ キャベツ類
@ 冬キャベツを沢山栽培しましたが、収穫後の根を残しておいたところ、春先になって根から元気な葉が沢山生えてきました。勿体ないので、炒め物で食べてみた所、少々固いものの小松菜のような使い方が出来そうだという結果がでました(まあそれ程美味しい野菜とは言えませんが、、、)一方、元気な芽を「差し芽」にしてみた所、ちゃんと根が生えてきました。そこで、これがキャベツになるかどうか実験をしてみることにしました;


その後、結構元気よく成長を始めたので、立派なキャベツに成長するか期待させるものがありました、、、
@ 昨年、頂きもので「コールラビ」を生で食べてみた所、大変美味しかったので春先に種を買って蒔いてみました。それなりに育ってきたので、あと一月ぐらいで食べられる大きさになるかなと思っていたのですが、、、
@ キャベツ類は、世界中に人に愛される野菜で食味も大変いいのですが、5月に入ってモンシロチョウが屋上を訪れる様になると、恐れていたことが起きました、、、
@ ゴールデンウィーク明けに両方のキャベツ類は同時に虫食いが始まり、あっという間に哀れな姿(特にキャベツ)に変わり果てました
無農薬栽培の原則を維持する為に農薬は使えないので、最近の私ども夫婦の日課は意地?の「虫退治」です。役割分担は、ワイフが「見つけ係」、私が「死刑執行人」です! 玄関脇の池で発生したオタマジャクシの死刑執行も私の担当だったので、もうすぐ罰が当たるのは確実と思われます!

以上

米ソ宇宙開発競争の歴史(スプートニク~アポロ計画)

はじめに

現在、宇宙開発は人類共通の「未知への挑戦」として国境を越えて協力が行われていますが、人類が初めて地球の大気圏を脱して地球を周回する人工の衛星を打ち上げ、この人工衛星に人を乗せ、更に月にまで人間を送り込む有史以来の大事業は、米国、ソ連という第二次世界大戦の勝者の間で行われた12年間の熾烈な開発競争の結果達成されたたものです

こうした宇宙開発には強力なロケットが必要であり、このロケット開発のベースになったのは、米ソがお互いの国に原子爆弾を打ち込むことが出来る大陸間弾道ミサイルの開発があったことは紛れもない事実です。また、この莫大な資金を必要とする開発競争の陰で、両国の中に貧困にあえぐ国民がいたことも事実です
しかし、こうした宇宙競争の結果、両国の国民だけでなく全世界の人々が熱狂したことも確かです。以下に、この歴史を振り返ってみたいと思います

(注1)本ブログでは、青字で斜体の文は全て筆者に文責があります
(注2)本ブログでは、専門家の間では推力の単位をニュートン(N)で表しますが、地上での重量に換算した方が分かりやすいと考え、「kg/キログラム」乃至「ton/トン」の表現(正確を期すには「重」を末尾に付けます、例えば「kg重/kgf/kirogram force」など)を使います。推力の単位に関する詳しい説明は私のブログ「ロケットに関わる基礎知識と日本のロケット開発の歴史」の前半の部分をご覧になって下さい
(注3)一般に、人工衛星の近くで宇宙遊泳などを行っている時、公共放送でも「無重力」という表現が使われていますが、宇宙で無重力の状態は殆ど考えられません。例えば太陽系の中の宇宙では、太陽の引力、その他の惑星、衛星の引力の影響下にあります。従って正確には「無重量」という表現をすべきですが、このブログでは混乱を避ける為に敢えて「無重力」という表現を使います。因みに人工衛星は地球の重力場の中で自由落下しています。詳しくは私のブログ「宇宙に関わる基礎的な知識」の中の「1.人工衛星は何故落下しないか?」の項をご覧になってください

注4)本ブログでは、宇宙開発が多くの失敗を積み重ねた上で成功している事実を明確にするため、予想外の事象や失敗の部分は緑色下線付きで“XXX様に表現しています

 

ソ連による世界初の人工衛星打上の衝撃と米国の対応

1957年10月4日、ソ連によって人工衛星スプートニク1号が打ち上げられました(当時のNHKのニュース映像)。スプートニク(Спутник)とはロシア語で衛星を意味します。また、この衛星はロシアの宇宙開発の草分けと言われるコンスタンチン・ツィオルコフスキーの生誕100年と国際地球観測年に合わせて打ち上げられました
この衛星はバイコヌール宇宙基地からR-7ロケットを使って打ち上げられました。衛星の軌道は近地点約230km、遠地点約950kmキロメートル、軌道傾斜角65.0°の楕円軌道であり、96.2分で周回しました。尚、R-7ロケットは、離陸重量は280トン、全長34m直径3mという2段式の大型ロケットです。第1段ロケットは RD-107というロケットを4基束ねた推力381トンもの巨大なロケットで液体酸素とケロシンを推進剤として用いています

スプートニクの打ち上げ成功により、米国はソ連の科学技術力及びそれを背景にした軍事力に大きな脅威を感じることとなりました。当時は東西冷戦の渦中であり、米国は即座に軍備拡張を加速するとともに、人口衛星の打ち上げに総力を挙げる体制を築く為に、翌1958年にはNASA(連邦航空宇宙局)を設立して宇宙開発を強力に推進することとなりました

米国は、スプートニクの成功に直ちに追従すべく、たった1.36kgの衛星を搭載したヴァンガードロケットを、1957年12月6日ケープカナベラル空軍基地から打ち上げましたが、発射2秒後に爆発し、失敗してしまいました
その後、1958年1月31日、エクスプローラー1号が打ち上げられ、8.32kgの人工衛星打ち上げに成功しました。衛星の軌道は近地点約360km、遠地点約2,530km、軌道傾斜角33.2°の楕円軌道であり、114.8分の長楕円軌道を周回しました
打上に使われたジュノーⅠロケットは、ナチス・ドイツでV2号を開発していたウェルナー・フォン・ブラウンの提案の基にジュピターCロケット(観測用として開発された)の発展型(ジュピターCの3段目の上部に4段目を追加)として開発されました
全長21.2m直径1.78m離陸重量は29トン、第1段ロケットの推力は42トン、液体酸素とヒドラジンを推進剤として用いています

米国は、ソ連から遅れること約3ヶ月で人工衛星の打ち上げに成功しましたが、両国が打ち上げた人工衛星の重量、ロケットの発射重量を見ればわかる通り、ロケットの性能は相当程度劣後している事は明白でした

その後、ソ連はロケットの優位性を生かして、月探査、惑星探査、有人人工衛星の打ち上げに先陣を切っていくことになります

有人人工衛星の開発競争

無人の人工衛星の競争の後に続いて、1961年以降有人人工衛星の米ソの熾烈な競争が始まりました
1.ソ連のボストーク計画(1961年~1963年)
ボストーク(Vostok)とはロシア語の「東」という意味ですボストーク計画では各種ロケットが使われましたが、上の写真の「8K72A」が代表的なロケットです
性能は、全長約40m(シリーズにより若干異なる)直径2.68m離陸重量は287トン、液体酸素とケロシンを推進剤として用いる。離陸重量だけから見ればスプートニク打ち上げロケットと大差がないと思われます

打上実績(打上基地は「バイコヌール宇宙基地」)
①ボストーク1号は1961年4月12日にユーリイ・ガガーリン少佐を乗せて打ち上げられました。その後地球を1周し1時間48分飛行後、大気圏に再突入し、高度7kmでガガーリンは座席ごとカプセルから射出され、パラシュートで降下、無事帰還しました。成功後に人類初の有人宇宙飛行として公表され、世界中を驚愕させました。ガガーリンの帰還後の記者会見で「地球は青かった」と語り有名になりました

②1961年8月6日
ボストーク2号が打ち上げられ、宇宙空間に25時間滞在し、地球や宇宙空間の撮影、無重力状態での実験などを行いました
③1962年8月11日ボストーク3号が打ち上げられました。続いて
④翌日ボストーク4号が打ち上げられ、この両機は互いに5kmまで近づき人類初の宇宙空間同志での交信を行いました

⑤1963年6月14日、ボストーク5号が打ち上げられ、下記ボストーク6号と軌道上でランデブーを行いました
⑥1963年6月16日、ボストーク6号初めての女性宇宙飛士となるワレンチナ・テレシコワを乗せて打ち上げられました。尚、彼女が宇宙で発した最初の言葉である「私はカモメ/ヤー・チャイカ(Я — Чайка)」は有名になりました。因みに「カモメ」は各飛行士につけられるコールサインです

2.米国のマーキュリー計画(1958年~1963年)
マーキュリーという名称は、ローマ神話の旅行の神メルクリウス (英語名:Mercury) からつけられました
マーキュリー計画は、1958年から1963年にかけて実施された米国の有人宇宙飛行計画です。スプートニクで先を越された米国が、有人人工衛星ではソ連よりも先に達成することを目標としていました。この計画は、1958年に設立されたNASA(連邦航空宇宙局)によって実行され、20回の無人飛行及び米国人の宇宙飛行士たちを搭乗させた6回の有人飛行が行われました

<マーキュリー宇宙船の構造>

ケネディー大統領の演説;
宇宙開発において米国が主導権を取り戻す為に、ケネディー大統領による強力なリーダーシップを発揮しました
*1961年1月20日、ケネディー大統領就任
1961年5 月25 日、ケネディ大統領は国家的緊急課題に関する特別議会演説(Special Message to the Congress on Urgent National Need)』と題した 45 分に及ぶ演説の末部(上記演説草稿の「Ⅸ Space/8頁後半~10ページ前段)」で、有人月面着陸計画を議会に提示しました

<参考>適当な日本語訳が見つからなかったので、故ケネディ大統領の格調高い演説は再現できませんが、第Ⅸ章のみ私の拙い日本語訳を添付します:国家的緊急課題に関する特別議会演説_第Ⅸ章の日本語訳

アポロ計画始動後の 1962 年9 月12 日、ケネディ大統領はライス大学のフットボール競技場でアポロ計画についての一般向け演説行い、聴衆からの熱狂的ともいえる反応を得ました
*1963年11月22日、ケネディー大統領暗殺

 

打上実績(打上基地はケープカナベラル空軍基地);
①1961年5月5日(ボストーク1号に遅れること23日)、マーキュリー・レッドストーン3号は、アメリカ初の宇宙飛行アラン・シェパードが搭乗する宇宙船で弾道飛行(飛行時間15分22秒)を行いました
<参考>弾道飛行とは
地球を周回しないで地上に落下する軌道(弾丸が放物線を描いて地上に落下する軌道)ですが、大気圏外の宇宙を飛行したことは事実です。レッドストーンというロケットは、無人の人工衛星の打上ロケットであるジュノーⅠロケットと基本的に同じ仕様です


②1961年7月21日、マーキュリー・レッドストーン4号はレッドストーン・ロケットによって打ち上げられ弾道飛行(飛行時間15分37秒)を行いました

③1962年2月20日マーキュリー・アトラス6号が打ち上げられ近地点161km、遠地点261kmの楕円軌道を3回周回し(飛行時間4時間55分)し着水しました
この飛行で使用されたアトラスロケットの性能は、全長約28.7m直径3.0m離陸重量は120トン、第1段ロケットの LV-3Bの推力は356トン液体酸素とケロシンを推進剤として用いており、このロケットでソ連の打上ロケットの性能に追いついたことになります

④1962年5月24日、マーキュリー・アトラス7号が打ち上げられ、近地点161km、遠地点269kmの楕円軌道を3回周回し(飛行時間4時間56分)し着水しました
⑤1962年10月3日、マーキュリー・アトラス8号が打ち上げられ、近地点161km、遠地点283kmの楕円軌道を6回周回し(飛行時間9時間13分)し着水しました
⑥1963年5月15日、マーキュリー・アトラス9号が打ち上げられ、近地点161km、遠地点267km、の楕円軌道を22回周回し(飛行時間10時間20分)し着水しました

マーキュリー計画遂行に当たって注目すべきポイントは、上記6回の有人飛行の前に弾道飛行と軌道飛行を合わせて20回もの無人の試験飛行(内6回失敗、3回一部失敗)を行い万全を期して有人飛行に移行したことです

3.米国のジェミニ計画(1961年~1966年)
ジェミニ(Gemini)とは「ふたご座」を意味しますが、恐らく2人乗りの宇宙船を打ち上げることから命名されたものと思われます
ジェミニ計画は、連邦航空宇宙局(NASA)によるマーキュリー計画に続く有人宇宙飛行計画です。計画は1961年から始まり1966年までに2名の宇宙飛行士を宇宙に送り、船外活動、及び宇宙船同士のランデブーとドッキングを行う事が目的でしたが、これは月面着陸を目指すアポロ計画に必要となる技術を確立する為に必要な事でした。1965年から1966年までの間に10名の宇宙飛行士が地球周回低軌道を飛行し計画を達成しました。この成功により、米ソの宇宙開発競争において米国が優位に立つこととなりました
使用されたロケットは、米国空軍向けの大陸間弾道ミサイル(ICBM)であるタイタンIIを転用した「タイタンII GLV」というロケットです。このロケットの性能は、全長31.4m、直径3.1m、離陸重量は154トン、第1 段ロケットエンジンはLR-87 2基で1,862トンの推力推進剤はエアロジン-50(ヒドラジンと非対称ジメチルヒドラジンを半々で混合したもの)と四酸化二窒素(N2O4)とを用いています

打上実績(打上基地はケープカナベラル空軍基地);
①1964年4月8日、ジェミニ1号(無人)が打ち上げられました。発射後4時間50分で所期の任務を果たした後、宇宙船は3日と23時間周回飛行を行った後に大気圏に再突入し意図的に破壊されました
②ジェミニ2号(無人は、当初1964年12月月9日に予定されていましたが、エンジン点火1秒後に機体の異常検知システムがエンジン圧力に問題を発見したためロケットエンジンを停止させ、飛行は延期となりました
再打上げは、1965年1月19日に行なわれ、最高高度171.2kmの弾道飛行を行いました。ジェミニ2号はロケットから切り離された後、自動操縦により打上げ6分54秒後に逆噴射を実施して大気圏再突入を行い大西洋上に着水(予定地点からは26kmの誤差があった)しました。アメリカ海軍の航空母艦により回収されています。飛行時間は18分16秒。燃料電池や冷却装置などが改良すべき点が判明したしたものの、逆噴射装置や耐熱遮蔽板の性能は確認されました

③1965年3月23日、ジェミニ3号が打ち上げられました周回軌道を3周し4時間52分後に西大西洋に着水しました。着水地点は予定より約110km離れており、また着水時の姿勢はやや不安定であり回収作業には時間が掛かりましたが、宇宙飛行士は米海軍の航空母艦イントレピッド搭載のヘリコプターによって回収されました

④1965年6月3日、ジェミニ4号が打ち上げられました。飛行は順調に行き近地点162.3km、遠地点282.1kmの軌道に投入されました
軌道上でのランデブー試験は、「タイタンII GLV」ロケット第2段を標的に行なわれましたが、宇宙空間では、目視による距離が掴みづらく
軌道姿勢制御システム(以下OAMS/Orbit Attitude and Maneuvering Systemと記述)を用いた接近操作は難渋し、結局ランデブーは中止されました
その後3周目にキャビンを減圧させた後、
命綱を付け宇宙銃を持ったエドワード・ホワイト飛行士が船外に出て宇宙船より約5m離れて、宇宙遊泳を行い15分40秒後には船内に戻りましたが、ハッチの開閉に難があったため、2度目の宇宙遊泳は中止されました
軌道周回48回目にIBM製のコンピュータが故障したために、大気圏再突入時の揚力を用いた制御性の高い再突入は放棄され、ローリングを行いつつ再突入を実施しています。高度3,230mで主パラシュートが開傘、フロリダ半島沖の大西洋上に着水しました。飛行時間は4日を越え、米国の宇宙飛行では最も長いものとなりました。乗員はヘリコプターにより米海軍の強制揚陸艦ワスプへ回収されました

⑤1965年8月21日、ジェミニ5号が打ち上げられました。この飛行のミッションは、同時に打ち上げられた34.5kgの小型衛星とのランデブー試験でした。小型衛星は打上げ2時間後にジェミニ宇宙船から切り離されましたが、燃料電池が不調であったため、電力が不足し、ランデブーは中止されました。飛行3日目にランデブーではないものの、ランデブーのための軌道制御飛行試験を行っています。5日目にはOAMSのスラスターのうちの1基が故障し、いくつかの試験が中止されています。このほか、予定されていた地球観測や医学的実験は実施されています
大気圏再突入に際しては、本来の姿勢制御方式である「宇宙船を傾け、その揚力を利用した制御方式」で再突入が行われました。コンピューターの不調により、予定地よりも約130kmずれた大西洋上に着水しています

*ジェミニ6号は、に打ち上げを予定していましたが、ランデブー試験を行なう対象であったアジェナ標的衛星が1965年10月25日に打上げに失敗したために、7号の打上げが先となりました。
⑤1965年12月4日ジェミニ7号
が打ち上げられました。この飛行目的は、月飛行計画のための長期宇宙滞在を実施することにありました。宇宙船が軌道投入された後、搭乗員は長時間の宇宙服着用が不快であったために、地上と交渉した上で宇宙服を脱ぐことになりました。打上げ後5日目には高度300kmの安定した円軌道に軌道変更を行っています。12月15日にはジェミニ6-A号も打ち上げられ軌道上でランデブー(下記⑥参照)を行なっています。以降、予定されていた実験もほとんど完了したために宇宙飛行士は読書などをして過ごしました。一方、この頃からスラスターの不調燃料電池の出力低下が報告されています。ジェミニ7号は12月18日に大気圏再突入し、フロリダ半島沖の大西洋上の予定地点から11.8km離れたところに着水しています。宇宙滞在時間は13日18時間35分となり、ジェミニ5号の7日22時間を超え宇宙滞在記録を更新しました

⑥1965年12月15日予定変更されたジェミニ6-A号が打ち上げられ、近地点161km、遠地点259kmの軌道に投入されました。打上げ94分後に、ジェミニ6-A号は軌道変更のための5km/secの加速を開始し、軌道高度を上げ、ジェミニ7号に追い付くコースをとりました

ジェミニ6-A号から見たジェミニ7号

3回の軌道修正により6-A号は遠地点274km、近地点270kmの軌道に入りました後、微修正を繰り返してジェミニ7号とのランデブーを行いました。最接近時は距離30cmで近づいており、ランデブー状態を約270分継続しています。ジェミニ6-A号はランデブー試験の成功の後、ジェミニ7号よりも先に12月16日に帰還しています

⑦1966年3月16日、ジェミニ8号が打ち上げられました。この飛行では史上初となる2機の宇宙機の軌道上でのドッキングが行われました

ドッキングの対象となるアジェナ標的衛星(GATV-5003)は、1966年3月16日に打ち上げられ高度298キロメートルの円軌道に乗り、自動制御でドッキングのための正確な高度に軌道修正していました

ドッキングの為の手順は以下の通りです;
@第1回目の軌道修正は発射から1時間34分後に行われました。二人の宇宙飛行士は、 OAMS を5秒間作動させ遠地点をわずかに下げました
@第2回目の軌道修正は遠地点の近くで行われ、速度を毎秒15メートル増加させました
@第3回目の軌道修正は太平洋上空で行われ、横方向への噴射で毎秒18m加速し、軌道平面を南側に傾けました
@メキシコ上空にさしかかったとき、ヒューストンの通信担当官は、さらに毎秒0.79メートル加速する最後の軌道修正が必要であると伝えました
@ランデブー用レーダーは、距離322キロメートルの地点でアジェナの姿をとらえ、発射から3時間48分10秒後、宇宙飛行士らはさらにロケットを噴射し、アジェナよりも高度が28キロ低い円軌道に進入しました
@最初にアジェナを目視したのは距離141キロの地点で、102キロまで接近したときコンピューターによる自動操縦に移行しました
@その後の数度にわたる微調整で距離46メートルまで接近し、相対速度はゼロになりました
@宇宙飛行士らは30分間にわたってアジェナを目視で点検し、発射の衝撃による損傷は何も見られないことが確認できたため、管制室はドッキングを遂行するよう指令を出しました
@アームストロング飛行士は毎秒8センチメートルでアジェナへの接近を開始し、数分間のうちにアジェナのドッキング装置の留め金がかかり、緑色のランプが点灯してドッキングが完了しました。「管制室、ドッキングが完了! 実にスムーズなものだった」と、スコット飛行士が無線で地上に報告しました

緊急事態発生!;
@アジェナが内蔵プログラムにより、ジェミニと結合した船体を90度右に傾ける操作を開始した後、スコット飛行士は船体が右回転していることに気づきました。アームストロング飛行士はェミニのOAMSを使用して回転を止めましたが、一旦停止した後、すぐにまたローリングが始まりましたが、この時点で8号は地上との通信圏外にいましたた。
@アームストロング飛行士は、OAMSの燃料が30%にまで落ちていると報告しました(これは問題がジェミニの方にあることを示しています
@回転があまりに速くなりすぎると宇宙船の一方または双方が損傷し、さらには燃料を大量に積んだアジェナは分解あるいは爆発するおそれがあるため、飛行士らは状況を分析できるようアジェナを切り離すことを決断しました
@アームストロング飛行士が切り離しのた機体を安定させようと奮闘している一方で、スコット飛行士はアジェナの制御を地上からの指令に切り替えました
@スコット飛行士が分離のボタンを押すと、アームストロング飛行士はケットを長時間噴射してアジェナから遠ざかりました
@しかし、アジェナが切り離されたことによりジェミニの回転数は急激に上昇(1秒間に1回転)し、この状態では飛行士は視界がぼやけ、意識を失ったり回転性めまいに陥ってしまう危険がありました
@アームストロング飛行士は回転を止めるためにOAMSを停止し、大気圏再突入システム (以下RCS/Re-entry Control Systemと記述) の推進装置を使用することを決断しました


@宇宙船の状態を安定させることに成功した後、両宇宙飛行士はOAMSを順番に点検し8番の推進器に異常があることを発見しました
再突入用の燃料は回転停止に使用したためほぼ75%が失われており、規定では何らかの理由でRCSを一度でも噴射した場合は飛行を中止しなければならないとされていました。従って、ジェミニ8号はただちに緊急着陸の準備を始めました

着水、生還まで;
@その後、軌道を1周した後に大気圏に再突入することが決定されました。当初は大西洋に着水することが予定されていましたが、ここに到達するのは3日後のことでした。そのため新たに太平洋上の着水地点(沖縄東方800km、横須賀南方1,000km)が設定されました
再突入を開始したのは中国上空で、NASAの通信ステーションの範囲外でした
@着水想定地点に航空機が派遣され、パイロットは宇宙船の着水地点を目をこらして観測しました。ジェミニ8号を発見すると、この航空機からアメリカ空軍パラレスキュー部隊に連絡され、3名のレスキュー隊員が海面に飛びおりて宇宙船に浮き輪を取りつけました。着水から3時間後、ジェミニ宇宙船は艦上に引き上げられました。飛行士らは疲労困憊していましたが、無事に生還することが出来ました

⑧ジェミニ9-A号
ジェミニ9号の目的は、軌道上においてドッキングを成功させることにありましたが、ドッキング対象となるはずだったアジェナ標的機は、1966年5月17日に打ち上げられたものの、軌道投入に失敗し、ジェミニ9号の打ち上げも中止されました。その後、別の標的衛星が打ち上げられ、同年6月1日にジェミニ9-A号と名前を変えて打ち上げようとしましたが、発射3分前に機器の不調により打上げ中止となってしまいました。結局、1966年6月3日に打ち上げられました
軌道投入後の活動;
打ち上げ49分後、標的衛星に接近するための軌道修正を開始し、3時間20分後に93kmの地点にまで接近しました。しかし、標的衛星のペイロード・フェアリングが開ききっていないことが確認され、ドッキングは中止されました
飛行3日目に船外活動試験を実施することとなりユージン・サーナン飛行士が船外に出て、推進・機械部に搭載された宇宙飛行士推進ユニット(AMU/Astronaut Maneuvering Unit)を装着し船外活動を開始したものの、無重力下の宇宙空間での移動は困難を極めました。また宇宙服が動きづらかったのみならず、汗によりバイザーが曇り視界が確保できなくなったため、AMU の所まで移動するのに1時間を費やしました。飛行士の疲労や視界不良のため、AMUによる船外活動は中止となり、ユージン・サーナン飛行士は再び1時間をかけて船内に戻りました。
周回45週目に逆噴射を行い、大気圏再突入を開始しました。再突入動作は非常に順調に行われました

⑩1966年7月18日、ジェミニ10号が打ち上げられました。これに先立ち、ドッキング対象となるアジェナ標的機(GATV-5005)も打ち上げられて、打上げ6時間後にはアジェナ標的機(GATV-5005)とのドッキングに成功しました。ドッキング状態のまま、アジェナ標的機のエンジンを用いて近地点294km、遠地点763kmの軌道に変更することに成功しています。7月19日20時58分より78秒間の噴射を行い、近地点294km、遠地点382kmの軌道に再修正を行い、更に軌道修正を行って遠地点を378kmに変更しています
その後、アジェナ標的機(GATV-5005)を分離し、ジェミニ8号とドッキングしたことのあるアジェナ標的機(GATV-5003)とのランデブーを試み、3kmまで接近しています

打上げ48時間41分後から、マイケル・コリンズ飛行士は船外に出てアジェナ標的機(GATV-5003)へと移動しました。命綱を装着し宇宙銃を用いても移動は困難だったものの、アジェナ標的機(GATV-5003)に装着されていた微小隕石収集装置を回収し、ジェミニ宇宙船に戻ってきました
<参考> 微小隕石収集装置とは
色々な呼び方があると思いますが、宇宙空間に浮遊している、あるいは飛び交っている微小な粒子を補足する装置です
因みにISS(国際宇宙ステーション)に装備されている微小粒子捕獲装置は右の写真の様な装置です。JAXAはこの装置で世界的な発見を行っています(ISSで新種の地球外物質を回収

打上げ70時間10分後(48周回実施)に逆噴射を行い大気圏再突入を開始し、フロリダ半島沖の大西洋上で待機していた強襲揚陸艦ガダルカナルから5.6kmの地点に着水、無事回収されています

⑪1966年9月12日、ジェミニ11号が打ち上げられました。
これに先立ち、アジェナ標的機(GATV-5006)が1966年9月12日13時5分に打ち上げられており、ジェミニ11号は打上げ約1時間半後にはこのアジェナ標的機(GATV-5006)とのドッキングに成功しています
打上げ24時間後から搭乗員のリチャード・ゴードンは船外活動で各種の実験などを行っていましたが、疲労が激しく33分間で打ち切られ、全ての実験を消化することはできませんでした
打上げ40時間30分後に、アジェナ標的機(GATV-5006)のエンジンを用い軌道変更を実施、遠地点1,374kmの軌道に変更しましたが、これは当時有人で到達した最高高度でもありました。3時間23分後の再軌道修正により遠地点304kmの軌道に戻っています。また、打上げ後47時間7分後からゴードン飛行士が2時間に渡って、2度目の船外活動を行っています。

船外活動終了後、ジェミニ11号はアジェナ標的機(GATV-5006)とのドッキングを解除し、テザー試験を開始しています。これはジェミニ宇宙船とアジェナ標的機の間を約30mの紐で結び、軌道上の微小重力を用いたテザー推進により、姿勢制御を行なう試験でした。この試験は打上げ53時間後に終了しています
大気圏再突入は、米国の宇宙計画で初めて、完全コンピューター制御によって行われ、バハマ沖の大西洋上、強襲揚陸艦グアムから4.5kmの地点に着水、無事回収されています

⑫1966年11月11日、ジェミニ12号が打ち上げられました。これに先立ち、ドッキング対象となるアジェナ標的機(GATV-5001A)も打ち上げられています。
ジェミニ12号は打上げ4時間14分後にアジェナ標的機とのドッキングに成功しましたが、ジェナ標的機のエンジンに不調が見られたため、より遠軌道への軌道変更試験は中止されました

船外活動中のオルトリン飛行士

打上げ19時間29分後から1回目の船外活動が開始されました。これまでの船外活動の難しさを克服する為に、事前の訓練や作業道具の見直し・追加を行なっており、船外活動は以前より容易なものとなりました
オルドリン飛行士は2時間29分に渡って船外活動を行い、船外より微小隕石収集機の回収を行なっています。また2回目の船外活動は42時間48分後から開始され、2時間6分に渡って継続し、アジェナ標的機(GATV-5001A)とジェミニ宇宙船との間にテザー(綱)を設置し、これに携帯用手すりを用いて、船外活動をよりやり易くしています
47時間23分後にアジェナ標的機とのドッキングを解除し、テザーによる姿勢制御試験を行いました。テザーの長さは30mで、両端にジェミニ宇宙船とアジェナ標的機がある形になり、51時間51分まで続けられました。オルドリンによる3回目の船外活動が66時間6分後から行われました
94時間後に逆噴射を実施し、大気圏再突入を開始しました。全自動モードでの突入であり、目標より4.8km離れたバハマ沖の大西洋上に着水し、航空母艦ワスプにより無事回収されています

*ジェミニ計画で予想外の事象や失敗を多く経験することにより、アポロ計画は慎重に進められ、結果として比較的順調に成功への道を辿れたと思われます(私見)

アポロ計画

ケネディ大統領が国家事業として開始したアポロ計画は、NASAによるマーキュリー計画、ジェミニ計画に続く三度目の有人宇宙飛行計画です。この計画は、1961年~1972年にかけて実施され、全6回の有人月面着陸に成功しました

計画を具体化するに当たってまず必要になった事は、月飛行方式を決めることでした。具体的には以下の方式が検討されました;
A.直接降下方式
単体の宇宙船で月に向かい、着陸して帰還するとい方式。この方式では、非常に強力なロケットが必要とされる為不採用となりまhした。
B.地球周回ランデブー方式(Earth Orbit Rendezvous, EOR);
複数のロケットで部品を打ち上げ、月に直接降下する宇宙船、地球周回軌道を脱出するための宇宙船を組み立てる方式。軌道上で各部分をドッキングさせた後は、宇宙船は単体として月面に着陸する。
C.月面ランデブー方式
2機の宇宙船を続けて打ち上げる方式。燃料を搭載した無人の宇宙船が先に月面に着陸し、その後人間を乗せた宇宙船が着陸する。地球に帰還する前に、必要な燃料は無人船から供給される。
D.月周回ランデブー方式(Lunar Orbit Rendezvous, LOR);
いくつかの単位から構成される宇宙船を、1基のサターン・ロケットで打ち上げるという方式着陸船が月面で活動している間、司令船は月周回軌道上に残りその後活動を終えて離昇してきた着陸船と再びドッキングする

他の方式と比較すると、Dの方式はそれほど大きな着陸船を必要とせず、そのため月面から帰還する宇宙船の重量(すなわち地球からの発射総重量を最小限に抑えることができることから、この方式が選択されました

1.巨大なサターンロケットの開発
Dの方式でも有人月面着陸を行うには、米国が保有しているロケットでは対応不可能で、新しい強力なロケットの開発が必要になりました。サターンロケットは、ナチスドイツでV2ロケットの開発を行ったウェルナー・フォン・ブラウンが中心となって開発しました。サターン(Saturn)という名は、土星の英語名です

A.サターンIの開発;
サターン・シリーズの最初の型。日本のH-IIAとほぼ同等の低軌道打ち上げ能力を持ち、米国が地球周回軌道に衛星を乗せることを目的に開発した初めてのロケット(宇宙専用機)です。第一段は、新規に大きなエンジンを開発するのではなく、すでに完成されている小さいロケットエンジンを組み合わせる (clustered) ことによって大推力を発生させていることが特徴です。このクラスター方式は、手堅くて融通のきくものであることを実証してみせました。元々は1960年代において全世界を射程圏内に収める軍用ミサイルとなるべきはずのものでしたが、実際には1961年~1965年、10機のみが、アメリカ航空宇宙局 (NASA) によって使用されただけでした
このロケットの性能は、離陸重量は509.7トンで、地球低軌道には9トン、月軌道には2.2トンの打上能力があります

<構造・性能詳細>
①第1段目の構造・性能
全長:24.5m、直径:6.52m、エンジン:H-1/8基、推力:774トン、推進剤:ケロシンと液体酸素

②第2段目の構造・性能
全長:12.2m直径:5.49m、
エンジン:RL-10/6基、推力:41トン、推進薬:液体水素、液体酸素

③第3段目の性能
全長:9.1m、直径:3.1m、エンジン:RL-10/2基、推力:14トン、推進薬:液体水素と液体酸素

サターンⅠによる打上実績;
①1961年10月27日、1段目の飛行テスト(弾道飛行
②1962年4月25日、高度105kmに到達した時点で自爆装置を作動させてロケットを爆破し、模擬の2段目ロケットに搭載した109,000リットルの水を宇宙空間に散布して通信や気象への影響を調査(ハイウォーター計画)
③1962年11月16日、二度目のハイウォーター計画実施

④1963年3月28日
1段目ロケットの最後の試験飛行(2段目はダミーを搭載)。今回の目的は、エンジンの一基を発射から約100秒後に停止するというもので、停止したエンジンが使用するはずだった燃料を残りのエンジンに振り分け、燃焼時間を長くすることによってロケットは正しい軌道を維持できるかテストを行い正しい軌道が維持できるか確認するテスト。この技術はトラブルが発生した場合の冗長性確保(トラブルが発生しても深刻な事故に発展させない設計)が目的であり、後のアポロ6号やアポロ13号の大きなトラブルの際に大いに役立てられました

⑤1964年1月29日
、初めて二段目のロケットが搭載されて発射されました。1段目の切り離しは完璧に成功、2段目も順調に飛行し、近地点262km、遠地点785kmの楕円軌道に投入されました。この人工衛星になった2段目の重量は約17トンになり、その時点で世界最大の人工衛星となりました(⇔ソ連を越えた!
⑥1964年5月28日、形態・重量・重心などすべてが人間を搭乗させた場合と同等に作られた司令船と緊急脱出用ロケットのダミーが搭載し、司令船には116ヶの計測機器が搭載され、圧力・応力・加速などのデータを計測し地上に送信されました。発射から76.9秒が経過した時、1段目の第8エンジンが予定よりも早く燃焼を停止してしまった。しかし、冗長性確保の設計が完璧に機能し、残りのエンジンが予定よりも2.7秒長く燃焼し、ロケットは予定通りの軌道を飛行しました。第1段ロケットを切り離し、第2段が点火され、数秒後には緊急脱出用ロケットも切り離されました。第1段切り離しの様子は機体に搭載された8台のカメラで撮影され、フィルムは大西洋上で回収されました。2段目ロケットと司令船の模型は近地点182km、遠地点227kmの楕円軌道上に投入されました。司令船は地球を4周してバッテリーが途絶えるまでデータを送信し続け、6月1日に地球を54周した後大気圏に突入し、太平洋に落下しました

⑦1964年9月18日
、第1段ロケットは発射から147.7秒後に燃焼を停止し、その0.8秒後に切り離されました。さらに1.7秒後には第2段ロケットが燃焼を開始し、発射から160.2秒後に緊急脱出用ロケットが投棄されました。第2段ロケットは発射後621.1秒で燃焼を停止し、司令・機械船の模型が近地点213km、遠地点227kmの楕円軌道に投入されました。宇宙船は他の衛星を介してデータを送信し続け、地球を59周した後大気圏に再突入し、インド洋上に落下しました
⑧1965年2月16日、飛行は正常に行われ、2段目の先端に取り付けられた人工衛星ペガサスAは、およそ10分半後に近地点495km、遠地点743kmの楕円軌道上に投入されました。この飛行の目的は、緊急脱出用ロケット、及び司令船の切り離しに関わるテスト、またペガサスAには、機体の構造や電気的システムの機能に関するテスト、及び 低軌道に於ける宇宙塵が機体に及ぼす影響の調査という目的がありました

⑨1965年5月25日の夜間(現地時間午前2時35分)に発射されましたが、サターンIではこれが最初でした。10.6分後、2段目の先端に取り付けられた人工衛星ペガサスBは正常に軌道に投入されました。宇宙船、ペガサスB、使用済の第二段ロケットなど、軌道に乗ったものの総重量は約15.5トンでした。ペガサスBはその後1968年8月29日に通信が途絶えるまで、データを送信し続け、大気圏に再突入したのは、14年後の1979年11月3日でした。計画全体はほぼ完全に達成されました
⑩1965年7月30日に打ち上げられ、約11分後に司令船、ペガサスC、二段目ロケットが軌道に乗りました。ペガサスCは切り離され後872秒後に宇宙塵探査のためのパネルが展開しました。ペガサスCは当初の予想よりも長く1968年8月29日まで信号を送り続け、大気圏再突入は1969年8月4日で、計画のすべての目的は達成されました。司令船の大気圏に再突入は1975年11月22日でした(打上語10年以上経過!)

B.サターンIBの開発;
サターンIの改良型であり、第二段により強力なS-IVBを搭載しており、2段式ロケットです。以下、カッコ内の数値はサターンⅠとの比較です。尚、このロケットは、宇宙ステーション「スカイラブ計画」、「アポロ計画」にも一部使用されました
①第1段目の構造・性能
全長:25.5m(+1.0m)、直径:6.60(ほぼ同じ)、エンジン:H-1/8基(同じ)、推力:929トン(+155トン)、推進剤:ケロシンと液体酸素(同じ)

②第2段目の構造・性能
全長:17.8m(+5.6m)、直径:6.6m(+1.2m)、
エンジン:J-2/1基、推力:91トン(+49トン)、推進薬:液体水素、液体酸素(同じ)

サターンⅠBによる打上実績;
①1966年2月26日、サターンⅠBの初飛行(弾道飛行)及びアポロ司令・機械船の無人弾道試験飛行
②1966年7月5日、第2段性能試験。地球を4周
③1966年8月25日、司令・機械船の無人弾道試験飛行
④1968年1月22日(アポロ5号)、本来はアポロ1号で使用されるはずだった機体。アポロ月着陸船無人試験飛行。地球を36周
⑤1968年10月11日(アポロ7号)、アポロ宇宙船初の有人飛行。地球を163周
⑥1973年5月25日(スカイラブ2号)、宇宙ステーションスカイラブ第一次滞在クルーの飛行。地球を404周
⑦1973年7月28日(スカイラブ3号)、スカイラブ第二次滞在クルーの飛行。地球を838周
⑧1973年11月16日(スカイラブ4号)、スカイラブ第三次(最終)滞在クルーの飛行。地球を1,214周
⑨1975年7月15日、ソ連のソユーズ宇宙船とのランデブーとドッキングサターンIB 最後の飛行

<参考> スカイラブ計画とは;
スカイラブ計画は、1973年~1979年まで地球を周回する飛行を行いました。米国が初めて挑んだ宇宙ステーションです。主として、宇宙開発(アポロ計画を含め)の基礎となる実験や地球観測や長時間の無重力環境を必要とするような科学の実験に使われました。因みにスカイは「空⇒宇宙空間」、ラブは「laboratory」(実験室)の略です

C.司令・機械船、月着陸船の開発;
月周回ランデブー方式(Lunar Orbit Rendezvous, LOR)で月着陸、地球への帰還を目指す為の具体的手順は以下の様になります;
①地上からの打ち上げロケットにより司令・機械船と月着陸船を接続したまま地球周回軌道に入ります。その後、サターンⅤの第3段エンジンを噴射し司令・機械船と月着陸船月を月への軌道に乗せます。月周辺に到着後、
②月の衛星となる為に月着陸船を接続したまま司令・機械船のエンジンを噴射して月周回軌道に入ります。そこから、
③2人の飛行士を乗せて月着陸船を切り離し、月着陸船のエンジンを逆噴射をして軟着陸を行います。帰還する時は、
④月着陸船・下降段を切り離し、月着陸船・上昇段のエンジンを噴射して月周回軌道に入り、司令・機械船とランデブーを行い2人の飛行士を指令・機械船に収容します、その後、
司令・機械船はエンジンを噴射して地球周回軌道に入ります。その後、
指令・機械船エンジンを噴射して大気圏に突入し、機械船を切り離し指令船のみを着水させる

以上より、司令・機械船と月着陸船は以下の様な機能を持たせなければなりません

司令・機械船の開発
司令船・機械船は二つの部分から構成されています。司令船は3人の飛行士乗船し、宇宙船を操縦し地球に帰還させるために必要なすべての制御装置が搭載されています
機械船は推進用の大きなロケットエンジン1基と姿勢制御用の小ロケットエンジン16基およびその燃料、さらに宇宙滞在中に必要な酸素、水、バッテリーなどの消耗品などを搭載しています。最終的に地球に帰還するのは司令船のみで、機械船は大気圏再突入時に高温・高圧力で消滅します

司令船は直径3.9m、高さ3.2mの円錐形で、頂上部には二基の姿勢制御用小型ロケット、月着陸船とのドッキング装置および乗り換え用のトンネル、地球帰還時に使用するパラシュートなどが搭載されています。底辺部には10基の姿勢制御用小型ロケットとその燃料タンク水タンク機械船との集合接続ケーブルなどがあります。外壁は主にアルミニウムのハニカム構造(蜂の巣の様な構造)になっています。底面には4層のハニカムパネルを貼り合わせた耐熱シールドとなっており、大気圏再突入時にはこのシールドが断熱圧縮で高温となり徐々に融解することによって熱を吸収し、船体が熱破壊されることを防いでいます

テスト中の司令船の事故:
アポロ1号は、1967年2月21日に最初の有人宇宙飛行となる予定で準備が進められていましたが、同年1月27日、発射台上で発射の予行演習を行っていた際に火災が発生し、ガス・グリソム 、エドワード・ホワイト、ロジャー・チャフィーが3名の宇宙飛行士が犠牲になりました


機械船
は与圧されていない直径3.9m、高さ7.5mの円筒形の構造物です。内部は中央部とそれを放射状に取り巻く6つの外郭部によって構成されており、推進用ロケット・姿勢制御ロケットおよびその燃料、酸素、燃料電池、通信用のアンテナなどが配置されています

前部カバーは高さが86.4cmで、機械船コンピューター、司令船との結合装置などが収納されています

推進用エンジンは高さ約3.9m、直径約2.5mで、燃料にはエアロジン-50、酸化剤には四酸化二窒素を使用する。推力は894kgで、月周回軌道への投入および離脱、途中での軌道修正などを行ないます。 姿勢制御用ロケットは1基が推力4.4kgで、四基ずつ集合したものがそれぞれ90度の角度をおいて外周に配置され、宇宙船の姿勢制御や速度の微調整などを行ないます。姿勢制御用ロケットの燃料はモノメチルヒドラジン、酸化剤は四酸化二窒素です

月着陸船(Apollo Lunar Module)の開発
アポロ計画において、2名の宇宙飛行士を月面に着陸させ、かつ帰還させるために開発された宇宙船です。下降段と上昇段による構成で、着陸する際は下降段のロケット噴射をブレーキに用い月面に降り、帰還する際は下降段を発射台として、上昇段のロケットを噴射して軌道上の司令船とドッキングします。総重量は14.7トンで、そのうち下降段の重量は10.1トンを占めます

開発は困難を極めました。まず問題となったのは重量でした。当初ロケットの打ち上げ能力から要求された重量は9トン以内だったのですが、開発初期でさえ予定重量は10トンを超えていたため、徹底した軽量化が図られました。中でも一回きりの使用となる着陸時の緩衝機構はアルミ製ハニカムが潰れる事で着陸時の衝撃を吸収する方式が新たに採用されました。こうした努力にも関わらず最終的に重量は15トン近くに達し、見かねたウェルナー・フォン・ブラウンがサターンVの推力を増やすことでようやく解決することになりました。次に問題となったのは着陸用エンジンで、従来のロケットエンジンに比べ繊細な出力制御が要求されましたが、燃料と酸化剤の比を一定に保ちつつ流量制御する特殊な供給機構の開発により解決されました

D.サターンⅤの開発;
連邦航空宇宙局(NASA)が開発した世界最大のロケット(全長・総重量・搭載量)で、6年間で計13機のサターンVを発射し、その間大きな事故は一度も起こしませんでした
サターンVは、サターン・シリーズの旗艦ロケットです。ウェルナー・フォン・ブラウンの指揮の下、ボーイングノース・アメリカンダグラスIBM等、米国が誇る航空、ITに関わる巨大企業が開発作業を分担しました。アラバマ州ハンツビルのマーシャル宇宙飛行センターにおいて開発が進められましたが、最終的にそれらを引き取り、組み立てる作業はボーイングが行いました

以下、カッコ内の数値はサターンⅠBとの比較です
第1段の構造・性能;
全長:全長は42.0m(+16.5m)、直径:10.0(+3.4m)、エンジン:F-1/5基(Δ3基)、推力:3,460トン+2,531トン)、推進剤:ケロシンと液体酸素(同じ)
*エンジン5基のうち中央の1基は固定されており、ジンバル(首振り)機構が設けられた周囲の4基がロケットの飛行を制御する構造になっています。また加速度を制限する(⇔推力が変わらずに燃料を消費していくとロケットの重量が減少し、結果として加速度が増加して乗員の負担が大きくなるから)ために、中央の1基は発射後2分で燃焼を停止することになっています。更に、周囲の4基のエンジンがトラブルを起こした場合の冗長性/Redundancyの役割も担っているものと考えられます

第2段の構造・性能;
全長:24.9(+7.1m)、直径:10.0m(第1段と同じ;+3.4m)、
エンジン:J-2(4基;+3)推力:453トン+362トン)、推進薬:液体水素、液体酸素(同じ)
第3段の構造・性能;
全長:17.9m、直径:6.6m、エンジン:J-2/1基(サターンⅠBの2段目と同じ)、推力:91トン、推進薬:液体水素、液体酸素
*第3段目のロケットは、第2段ロケットの燃焼終了後から2分半にわたって噴射を行って機体を地球周回軌道に投入します。その後6分の噴射を行って月への軌道に乗せることになっています

サターンVによる打上実績;
*以下の実績で、アポロの発射番号で欠番になっている部分は、文末にある参考の図表をご覧ください
①1967年11月9日(アポロ4号)、サターンⅤの  初飛行。すべての実験が成功
② 1968年4月4日(アポロ6号 ) 、第2段と第3段のJ-2 エンジンに問題が発生
1968年12月21日(アポロ8号)  初の有人飛行。月を周回
④1969年3月4日( アポロ9号)、  地球周回軌道上で月着陸船の有人飛行試験
⑤1969年5月18日(アポロ10号) 月面着陸の予行演習
⑥1969年7月16日(アポロ11号)、  史上初の月面着陸
⑦ 1969年11月14日(アポロ12号)、 無人月面探査機サーベイヤー3号の近くに着陸。発射時に2回雷の直撃を受けましたが、ダメージはありませんでした

⑧1970年4月11日(アポロ13号)、月に向かう途中で機械船の酸素タンクが爆発する事故が発生しましたが、飛行士は月着陸船をあたかも救命ボートとして用い、使用不能になった機械船のエンジンの代わりに月着陸船の降下用エンジンを使って地球に帰還するための加速を行いました。月着陸船は、本来は2人の飛行士を45時間生存させるよう設計されていましたが、あらゆる部分を切り詰めて使用した結果、3人の飛行士を90時間生存させることに成功し、飛行士は無事に帰還しました
⑨1971年1月31日(アポロ14号)  フラ・マウロ高地の近くに着陸
⑩1971年7月26日(アポロ15号)  月面車を初めて使用
⑪1972年4月16日(アポロ16号)  デカルト高原に着陸
⑫1972年12月7日(アポロ17号)  初の夜間打ち上げ。アポロ計画最後のミッション
⑬1973年5月14日(スカイラブ1号)  宇宙ステーション・スカイラブを打ち上げに使用

おわりに

ソ連に先行された宇宙開発競争は、ジェミニ計画からは米国が完全に追い越し、アポロ計画に至って人類が夢見ていた月着陸、地球への帰還という快挙を成し遂げました。この契機となったのは、ネディー大統領の壮大な計画と大胆な財政支援であり、またこの計画をバックアップしたのは失敗を恐れず前に進むという米国民の開拓者精神であったと私は思います
考えてみれば、人類が鳥の様に空を飛ぶという夢を実現した航空機の歴史も似た様な経過を辿りました(ref:航空機の発達と規制の歴史)。幾多の事故に怯むことなく、原因を追究し飽くなき挑戦を続けていくこと以外に進歩はあり得ないという事であろうとおもいます

ネット情報を丹念調べていくと、失敗についての記事は、ソ連、ロシアからは余り見つからない(←多分隠している)のに対し、米国の宇宙開発途上での失敗(緑字の下線付きの部分参照)は数多く見つけることが出来ます。米国はこうしたチャレンジの結果としての失敗に実に寛容な国であると思います
翻って日本の宇宙開発はどうか、昨年から今年にかけて良型イプシロンロケット、H3ロケットの打上失敗がありました。強く非難する論調は無かったものの、開発担当者の落胆ぶりを見ると悲しい気持ちになります。これに対して宇宙開発用の大型宇宙ロケット「スカイシップ」打上の失敗では、スペースX社の開発担当者やオーナーであるイーロンマスクの表情は明るすぎるほど明るいものでした。恐らく未知の領域へのチャレンジとは、こういう心構えと財政的な余裕が必要なのかと気づかされました

革新的な設計を行っているイプシロンロケット、H3ロケットの開発
も、米国流でやるのであれば、地上でのテストとは別にペイロードを載せる前にまずロケットシステムのみの実射テストを行うべきではなかったか(まあ予算による制約も大きかったんでしょうね)? でも、ペーロードを載せての失敗はもっと失うものが大きかったような気がします

Follow_Up:2023年5月25日日経新聞記事_「H3」2号機、衛星載せず打ち上げへ リスク抑え性能確認

宙開発競争の歴史

以下のデータはネット上で検索を行って纏めたものであり、全てをカバーしている訳ではありません。また、軍事目的に関わる打上実績は敢えてピックアップしてません;