H3試験機1号機の打上げ失敗の原因分析結果について

はじめに

見出しの写真は今年(2023年)3月7日、多くの国民の期待を背負って鹿児島県の種子島宇宙センターの発射装置から打ち上げられた時のH3試験機1号機の姿です。しかし約14分後に第2段エンジンが着火しなかったため、指令破壊の措置が取られました
今回、現在の地球観測衛星の後継機となる「ALOS-3(だいち3号)」を搭載し、軌道に投入する予定でした

以下は、「JAXAのホームページ」からの情報、及び専門家による事故原因究明に関わる報告書(H3 ロケット試験機 1 号機 打上げ失敗の原因究明に係る報告書)をベースに私が理解できる範囲で出来る限り分かりやすく解説したものです。尚、以下の説明の際に度々登場する基本的な用語については、私のブログ「ロケットに関わる基礎知識と日本のロケット開発の歴史」の中で詳しく説明しております。また、事故原因究明に関わる特殊用語については、前回発行の「イプシロン6号機の打上げ失敗の原因分析結果について」に解説をしておりますので本ブログでは説明を省くことと致します

H3ロケット開発計画の概要

H3ロケットは、これまで大型人工衛星の打ち上げやISS(国際宇宙ステーション)への各種資材の輸送などで運用されてきた H-IIA/H-IIBロケットの後継機として位置づけられます。開発目標としては、開発完了後20年間、毎年6機程度を安定して打ち上げる為の基幹ロケットを目指しました
そのためには、これまでの様な国家主導の衛星だけでなく、民間の商業衛星の受注が不可欠であり、宇宙先進国間で行われている熾烈な開発競争の中で、世界の商業衛星打ち上げロケットとして選ばれる為に以下の様なNEEDSに応えるロケットにする必要があります;

①柔軟性(High flexibility)
複数の機体形態を準備し、利用用途にあった価格・能力のロケットを提供できること。更に、受注から打ち上げまでの期間短縮と、年間の打ち上げ可能機数を増やすことが必要になります。 そのために、ロケット組み立て工程や、衛星のロケット搭載などの射場整備期間をH-IIAロケットに比べ半分以下に短縮することが必要なります
 地球低軌道から静止トランスファー軌道、さらには地球脱出軌道まで、さまざまな軌道に向け、多種多様な大きさ、重さの衛星が打ち上げ可能なこと。特に、商業衛星の打ち上げ需要が多い静止トランスファー軌道へは、ヨーロッパの「アリアン5」ロケットなどと同等の約2~7トンの衛星を打ち上げられる能力も持つこと。この為には固体ロケットブースター「SRB-3」の本数や、第1段メインエンジンである「LE-9」の基数、衛星フェアリングを選択できる仕様とすることが必要になります;
a:第1段メインエンジン(LE-9)機数(2基、3基)
b:固体ロケットブースター(SRB-3)本数(0、2基、4基)
c:フェアリングのサイズ(W:Wide/L:Long/S:Short)
このうち、最小形態となるのは「H3-30S」で、主に官需用を想定

②高信頼性(High reliability)
H-IIAロケットの高い打ち上げ成功率とオンタイム打ち上げ率(予定した日時に打ち上げられる率)を継承し、確実に打ち上がるロケットにすることが必要なります
③低価格(High cost performance)
宇宙専用の部品ではなく、自動車など国内の先進的な産業の優れた部品を活用するとともに、生産方式についても受注生産から一般工業製品のようなライン生産に近づけることで、打ち上げ価格を低減させることが必要になります。 また、固体ロケットブースタを装着しない低軌道衛星の打ち上げでは H-IIAロケットの約半額を目指す必要があります

尚、大成功を収めたHⅡロケットの経験を最大限生かすために、1段目のLE-9エンジンは新たな開発であるものの、2段目のLE-5Bエンジンは、H-IIA/H-IIBロケットの第2段エンジンとして実績を積み上げてきたエンジンです。また、固体燃料の補助ロケットエンジン(SRBー3)は H-IIA/IIBロケットに用いられているSRB-Aで培った技術を活用して開発されたものです

<開発の軌跡>
2012年;システムの概念検討、LE-Xエンジンの技術実証を実施
2013年;システムの概念検討、LE-Xエンジンの技術実証を実施
*5月/内閣府宇宙政策委員会の宇宙輸送システム部会の第6回会合において、2014年度から新型基幹ロケットの開発を始めることを決定
2014年
*1月/JAXAでミッション定義審査(MDR)を実施
*3月/三菱重工を開発主体に選定
*4月/H3プロジェクト始動
2015年
*4月/システム定義審査(SDR)完了、概念設計フェーズから基本設計フェーズへ移行。ロケット機体のシステムならびに構造系、電気系、エンジン、 固体ブースターなどの各サブシステム、および地上施設設備の基本設計に着手
2016年
*4月/JAXAにおいて、H3ロケット総合システム基本設計審査を実施し、詳細設計フェーズへの移行は可能と判断
*12月~2017年1月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その1)を計7回実施
2017年
*3月~10月/角田宇宙センターにて LE-5B-3認定試験(その1)を計20回実施
*4月~7月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#1-1エンジン燃焼試験を計11回実施
*6月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その2)を計6回実施
*12月/JAXAにおいて、H3ロケット総合システム詳細設計審査(CDR)を実施し、製作・試験フェーズへの移行は可能と判断
*12月~2018年6月末/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#2エンジン燃焼試験を計8回実施
2018年
*2月~3月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その3)を計4回実施
*8月23日/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#3エンジン燃焼試験を実施
*8月26日/種子島宇宙センターにて 固体ロケットブースタ(SRB-3)実機型モータ地上燃焼試験を実施
*9月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#4エンジン燃焼試験を実施
*9月~10月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その4)を計3回実施
*11月~2019年2月/角田宇宙センターにて LE-5B-3認定試験(その2)を計15回実施
*12月~2019年5月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#1-2エンジン燃焼試験を計8回実施

2019年
*1月~4月/三菱重工 田代試験場にて LE-9エンジン2基クラスター構成による第1段厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT)を計4回実施
*5月/IHIエアロスペース 富岡事業所にて SRB-3分離試験(その1)を実施
*8月/種子島宇宙センターにて SRB-3認定型モータ地上燃焼試験(その1)を実施
*10月/種子島宇宙センターにて LE-9実機型#1-3エンジン燃焼試験を計2回実施
*10月~2021年2月/三菱重工 田代試験場にて、LE-9エンジン3基クラスター構成(エンジンを複数束ねること)によるBFT(Battleship Firing Test/エンジンのみの地上でのテストを計4回実施
*11月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その5)を計2回実施
*12月/川崎重工 播磨工場にて フェアリング分離放擲試験を実施
2020年
*2月~5月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型#1エンジン燃焼試験を計8回実施
*2月/種子島宇宙センターにて SRB-3認定型モータ地上燃焼試験(その2)を実施
*7月~8月/三菱重工 田代試験場にて 第2段実機型タンクステージ燃焼試験(地上の燃料タンクを使用したテスト)を計3回実施

*7月/IHIエアロスペース 富岡事業所にて SRB-3分離試験(その2)を実施
*8月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その6)を計2回実施
@9月11日/2020年度の試験機1号機の打上げ見合わせを発表
*9月~10月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その6-2)を計2回実施
*11月~2021年4月/種子島宇宙センターにて LE-9技術データ取得燃焼試験を計9回実施
2021年
*3月~4月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その7)を計2回実施
*3月/種子島宇宙センターにて 極低温点検を実施
*6月~7月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その7-2)を計2回実施
*6月~10月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型#2エンジン燃焼試験を計5回実施
*12月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その8)を計3回実施
2022年
@1月21日/2021年度の試験機1号機の打上げ見合わせを発表
*3月~6月/種子島宇宙センターにて LE-9翼振動計測試験を計6回実施
*7月/角田宇宙センターにて LE-9ターボポンプ単体試験(その9)を計2回実施
*7月~8月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型#3エンジン燃焼試験を計5回実施
*9月/種子島宇宙センターにおいて試験機1号機用 LE-9エンジン(1基目)領収燃焼試験を実施
*9月/角田宇宙センターにて LE-9エンジンターボポンプ単体試験(試験機2号機以降に向けた最適な仕様を選定するためのデータ取得)を実施
*10月/種子島宇宙センターにて試験機1号機用 LE-9エンジン(2基目)領収燃焼試験を実施
*10月~11月/種子島宇宙センターにて LE-9認定型エンジン燃焼試験を計4回実施
*11月/種子島宇宙センターにて タンクステージ燃焼試験(CFT)を実施
*12月/角田宇宙センターにて LE-9エンジンターボポンプ単体試験(試験機2号機以降に向けた最適な仕様を選定するためのデータ取得)を実施
2023年
*1月/種子島宇宙センターにて試験機2号機用 LE-9エンジン(1基目)領収燃焼試験を実施
@2月/種子島宇宙センターにおいて試験機1号機の打上げを予定していたが、第1段機体システムが異常を検知し固体ロケットブースタ(SRB-3)の着火信号を送出しなかったことに伴い打上げ中止
*2月~4月/種子島宇宙センターにて LE-9エンジン燃焼試験(試験機2号機以降に向けた翼振動計測試験・技術データ取得試験)を計5回実施
@3月7日/種子島宇宙センターにおいて試験機1号機の打上げを実施したが、第2段エンジンの不着火に伴い打上げ失敗

<H3試験機1号機・主要構成部分の仕様>
H3試験機1号機の外観および性能概要は以下の通りです;

H3開発の軌跡を概観すると、新規開発となった LE-9エンジンの燃焼試験については、多くの試験が繰り返されると共に、その心臓部に当たる燃料のターボポンプについても単独で繰り返し試験が行われています。これは1999年に打ち上げられたHⅡ型8号機が第1段ロケットの LE-7エンジンのターボポンプの破損により失敗した事例(ロケットに関わる基礎知識と日本のロケット開発の歴史/開発の歴史の項参照)から念入りな試験が行われたものと推察されます。一方で LE-5Aで実績を積み上げてきた LE-5B-3については、2017年と2018年の2回のみ機会が設定されたのみですが、これが今回の失敗の原因とは考えられませんが、ちょっと気になる所ではあります。また、今年2月の打上げ時の直前中止が、着火信号に関わる電気系のシステムにあったことは、素人でも気になる所です

第2段エンジンの電気系システムの概要

第2段エンジン(LE-5B-3)の電気系システムは下図の様な冗長設計(Redundancy/システムや装置に障害が発生しても機能を維持させるために、予備の部品や回路を用意する設計方法/この設計手法は航空機構造の内、壊れると墜落事故に繋がる様な「一次構造」と言われる部分に取り入れられていますが行われています;
*PNP(Pneumatic Package );エンジンバルブ駆動用ヘリウムガスの供給やエキサイタ・スパークプラグ(エンジンの点火器)の駆動を制御する装置⇒ この部分には冗長設計はされていません
このシステムをもう少し現実のシステムに置き換えると以下の様になります;
この図で;
A/B電池系:二つの独立した電源を装備しており、電源は冗長設計になっています(⇔ HⅡAロケットでは電源は一系統のみでした)
V-CON2A/B:ロケットの飛行制御を司る計算機です。この為に、自身の位置・速度・姿勢情報をもとにエンジンの制御・ガスジェットの制御・エンジンの舵角制御等の機体制御信号を生成して各サブシステムコントローラへ指示を行う機能を持っています。この計算機は独立したAとBの二重装備になっており、これも冗長設計になっています(⇔ HⅡAロケットではこの計算機は一系統のみでした)
PSC2A/PSC2B:第2段推進系の制御を行うコントローラです。V-CON2A/Bそれぞれからの指示を受け、燃料のタンク圧制御エンジンの制御、ガスジェットの制御等の推進系サブシステム制御を行います。このシステムも独立したAとBの二重装備になっており、これも冗長設計になっています(⇔ HⅡAロケットではこのコントローラーは一系統のみでした)
ECB:エンジン・コントロール・ボックスです。エンジンの始動・停止時にバルブの開閉のタイミングを決定する制御装置
PNPPneumatic Package):ECBの指示に基づき、各エンジンの燃料バルブはソレノイド(Sorenoid Valve/電磁弁)とヘリウムガスで駆動され、点火器のエキサイタスパークプラグは電気で駆動されます
エキサイタ:点火装置
<第1段ロケット分離後のそれぞれの機器の連携>
V-CON2A/2Bが第2段ロケットが分離されたことを検知 PSC2A/Bへそれぞれ第2 段エンジンの SEIGSecond Stage Engine Ignition/第2 段エンジンへの着火指示)を出力 PSC2A/Bは、それを受けて第2段エンジン・コントロール・ボックス(ECB)へ SEIG を出力 ECBはSEIGを受けた後、PNP(下記参照)駆動を指示 PNP は指示に基づき、各エンジンバルブおよび点火器のエキサイタスパークプラグを駆動

テレメーターから得られた故障の情報

第1段ロケットが切り離された後、第2段ロケットか点火されたかったプロセスに関わるテレメーター(テレメーターの説明に関しては「イプシロン6号機の打上げ失敗の原因分析結果についてをご覧ください)の表示は以下の様になっていました;

発射後6分64秒後に、2系統の電源それぞれに内蔵されている電流・電圧のBIT(Built-in Check 機能)が異常を検知し、極めて短時間(数ミリ秒)にAシステム、Bシステムの電源が遮断されたために第2段エンジンは着火せず打ち上げ失敗に至ったものと判明しました。しかし、故障の原因はシステムの何処かで電気の短絡が起こり急激に大電流が流れたためと思われますが、テレメーターの情報だけでは短絡を起こした場所を特定することはできませんでした

そこで、この短絡の原因を特定する為に、関連するする全ての部品類に対する各種のテストと、FTAFault Tree Analysis /故障の可能性をしらみつぶしに調査すること/技術系で無い人への参考「FTA解析とは)分析を行いました;

MOS-FETとは:電界効果トランジスターで電源回路によく使われています
ハーネスとは:電気回路で使われている配線
短絡、地絡とは:いずれも電気の短絡現象です ⇒ 結果として大電流が流れます

次のH3試験機(2号機)までに採られる対策

トラブル発生の原因を特定できなかったことから、対策は可能性がある全ての原因に対応可能な様に以下の様に多岐にわたっています;
1 エキサイタ内部で軽微な短絡が発生し、SEIG 後に完全に短絡する可能性に対する対策
⇒ リード線や基板等が接触して短絡・地絡する可能性がある箇所に対して、絶縁強化を実施する
⇒ 絶縁強化が難しい箇所に対しては、十分な隙間があることを X 線CT 検査によって確認する

2.エキサイタ内部のコンデンサの故障(誘電体損傷)の可能性に対する対策
⇒ エキサイタの製造検査に X 線 CT 検査を追加し、コンデンサのリード線の損傷(曲がり)がないことを確認する
3.エキサイタ内部のコンデンサ(リード線接触)の故障の可能性に対する対策
⇒ リード線に絶縁強化の為の保護テープを追加する
⇒ エキサイタの製造検査に X 線 CT 検査を追加し、リード線とケースが近接状態に
なっていないことを確認する
4.エキサイタ内部の貫通フィルタ故障の可能性に対する対策
⇒ エキサイタ製造検査に X 線 CT 検査を追加し、貫通フィルタに地絡に至る損傷がないことを確認する

5.エキサイタ内部のフィルタ組立故障の可能性に対する対策
⇒ エキサイタ製造検査に X 線 CT 検査を追加し、コイルとフィルタケースの接触が
ないことを確認する
⇒ コイルの絶縁シートの巻き数を 1.5 巻⇒1 巻に変更して厚みを減らし、コイルをケースに収納し易くしてクリアランスを改善する
⇒ コイルリード線に RTVゴム、コネクタ基板間ケーブルに熱収縮チューブを追加し摩耗に対する保護を強化する
6.製造中のトランジスター交換作業の摩耗紛による地絡の可能性に対する対策
⇒ エキサイタ製造検査に X 線 CT 検査を追加し、トランジスタとケース間の絶縁シートに摩耗粉(金属片)がないことを確認する

7.エキサイタへの通電開始直後に、部品故障による降圧回路の異常動作等により、過電圧が生じて、PSC2 の A 系内部の定電圧ダイオードが短絡故障し、故障時の過渡的な電流が電源のリターンラインを経由して B 系に伝搬して、A 系電源の遮断に引き続き、B 系の電源も過電流を検知して遮断に至った可能性に対する対策
PSC2 A 系/B 系双方の定電圧ダイオードを削除する

*定電圧ダイオードは、PSC2の過電圧検知遮断機能に加え、下流機器を保護する目的で実装していたものである。(過電圧が生じた場合に下流機器保護する機能として 二 重に装備していた

8.H-II ロケットから使い続けている機器に対し、製造しにくさ等により不具合ポテンシャルを内在しているものが無いか確認する
9.テレメータデータから得られる情報が限られていたため、原因箇所の切り分けや事実確認に時間を要した

⇒ 今後のフライト等において過電圧を起因とする事象の切り分けを容易にするため
に、PSC2 のエンジン駆動電源電圧の取得レートを 8Hz から 32Hz に向上させる
⇒ 今後のフライト等において過電流を起因とする事象の切り分けを容易にするため
に、V-CON2A/2B の電源バス電流の取得レートを 64Hz から 256Hz に向上させる
⇒ 対策効果を確認する目的で、PSC2/PNP 間に電流計測センサを追加し、512Hz の高速サンプリングでデータ取得する
⇒ 対策効果を確認する目的で、PSC2/PNP 間に電圧計測センサを追加し、512Hz の高速サンプリングでデータ取得する

10. H3 ロケット試験機1号機原因究明作業の結果、第2段エンジン着火信号送信から極く短時間に冗長系の A系、B系双方が駆動電源バスを遮断したことが判明しています。ミッション継続性の観点では、異常検知から遮断迄の余裕時間が少ないことから、冗長系設計思想を損なわない範囲で、ミッション継続の可能性を向上させる改善策を行う
*原因となった過電流は電源供給機能より下流機器の異常または故障に起因するため、下流機器に過電流に対する耐性があり上流機器の機能維持が担保される時間内であれば、すぐに断時する必要は無いと考えられます。一方、過電圧は電源供給機能そのものの異常または故障に起因するため、直ちに遮断する必要があり、遮断時間の延長はできません。過電流に対する検知機能は、A 系/B 系で異なる動作をさせることは可能です
*尚、今回の不具合事象とは直接の関連がないものの、エンジン制御系電源の過電流検知/遮断機能は、PSC2A/2B とその上流の V-CON2A/2B の双方に実装していた(同一の電源系統に 2つのブレーカスイッチを直列で具備していた状態となっていたことになります)ため、PSC2A/2B のエンジン制御電源に対する過電流検知/遮断機能は削除することになりました(下図参照);

11.今後のロケット開発のために、開発初期段階から電機系専門家の知見を設計に反映すること、また、開発の規模・質に応じた JAXA および企業の電気系エンジニアの確保を行い、彼らの知見を確実に設計に反映し信頼性の高いシステム構築することになりました

おわりに

今回のブログ作成に当たって頼りにした2023年10月26日発行の「専門家による事故原因究明に関わる報告書H3 ロケット試験機 1 号機 打上げ失敗の原因究明に係る報告書)」の解読?には苦労しました。大昔の「電気少年」の知識では解読不能の専門用語や論理展開がちりばめられており、何度も何度も読み返してやっと概略理解することができました。また、冗長設計の具体的な方法や、最後の一番大切なPNPのエキサイタやバルブ駆動のソレノイド部分がシングル系になっていることも航空技術の常識では理解に苦しむものでした
ただ、今後の対策にあるように、電気系機器のトラブル検出機能の強化設計陣に電気系の専門家が多く配置されるようなのでこうした失敗は無くなるものと期待したいと思います

一方、私のブログ「米ソ宇宙開発競争の歴史(スプートニク~アポロ計画)」の最後に「革新的な設計を行っているイプシロンロケット、H3ロケットの開発も、米国流でやるのであれば、地上でのテストとは別にペイロードを載せる前にまずロケットシステムのみの実射テストを行うべきではなかったか」と書きましたが、これまでの発表によれば、試験機2号機はペーロード無しで実施するとのことなので、日本のロケット開発も一歩前進かな、と思った次第です。とまれ今年度中に打ち上げられるという試験機2号機の成功を祈りたいと思います

Follow_Up:2023年12月17日「日本の人工衛星、計画遅れ続出_災害用観測機1年延期、科学研究にも影
Follow_Up:2023年12月27日「ロケットH3・2号機、2月15日打ち上げへ 失敗受け対策
*このロケットには、ロケットの性能を確認する機器と、超小型の人工衛星2基を搭載することになっています

Follow_Up:2024年1月2日_「H3ロケット、24年は成功へ2度目の飛行 挑む国際市場
Follow_Up:2024年2月17日_「H3」ロケット打ち上げ成功

以上