航空機の運用

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はじめに

上の写真は、上越新幹線の通称『ダイヤグラム』と言われている発着ダイヤを表すグラフです。このグラフで新幹線全便の一日の運航状況が全て読み取れます
因みに、縦軸は停車駅、横軸は時刻を表しています。斜めの線が列車の進行を表し、この線の上に書かれている『1301C』などの番号がその列車に付けられたいわば「便名」に相当することになります。その列車の駅間の隙間がやや不揃いなのは、駅間の平均速度を勘案して駅間の斜めの線の傾きがある程度揃うように工夫してあるようです
停車する駅ではこの斜めの線が少しズレていますが、このズレがその駅の停車時間に相当します(恐らく上越新幹線では途中駅での停車時間は1~2分、終点の新潟駅での折り返し東京行き出発までの時間は15分程度に設定されていると思われます)
列車の乗務員、駅員、全体のスケジュールを調整している担当者などはこの『ダイヤグラム』で仕事をしていると言っても過言ではないと思います。例えば、どこかの駅でトラブルによる遅延が発生した場合、この『ダイヤグラム』を見て後続の列車をどこの駅で停車させればいいか直ぐに分かります。勿論、復旧する場合も同様に、各列車の運休計画、遅延時間も迅速に判断が可能です。いわばプロ仕様のダイヤと言えるかもしれません。参考までに、興味のある方は、最も過密なダイヤで運行しているJR東海道新幹線ダイヤグラム_2015年ダイヤ改正をご覧になってみてください。プロの凄さ!が理解できると思います

エアラインビジネスにおける各航空機の運用も、基本的には列車やバスなどの陸上輸送や、船舶による海上輸送と全く同じです。航空機の運用のプロも、お客様が日頃見慣れている発着ダイヤではなく、こうした『ダイヤグラム』をもとに仕事をしていると言っても過言ではありません

エアラインビジネスの場合、航空機の購入価格が桁違いに高額である為、航空機の稼働を極限まで高めないとビジネスとして成立しないことになります。因みに、日本航空が最近デリバリーを受けたエアバス製のA350XWBという航空機のカタログ価格は、シリーズによって違いはありおますが、約3億ドル(日本円で約325億円:108円/USD)⇒ 機体の償却費だけで1日約1千万円弱を見込まなければならないことになります。また、鉄道の場合、駅のホームは鉄道会社が所有しているのが普通であるのに対し、エアラインが使用する空港や空港内のターミナルは、通常エアラインとは別の事業体(国の所有を含む)が所有しており、エアラインが自由に使えるものではありません
従って、以下の様な各種の制約条件を如何に上手に?クリアーし、航空機の運用を効率的行うことが、エアラインビジネスの『肝』になると言えると思います

航空機の運用に係る各種制約条件

1.使用する空港の制約
発着枠:空港の滑走路の数、管制官の人数、空域の制約(近傍の空港が使用する空域の制約、軍の訓練空域の制約)などにより、空港ごとに最大の発着回数が決められています。混雑空港については各エアライン間で公平さが要求されるために必ずしも要求通りの発着枠を取得できるとは限りません。お客様の利便性を考慮し、既に運航している定期便の発着枠の既得権は原則守られますが、1990年代に政策的に規制緩和が行われた時代には、新規航空会社の参入を進めるために、新規枠の配分を新規参入エアラインに優先的に配布されました。尚、規制緩和にについて詳しく知りたい方は(航空規制緩和の歴史)をご覧ください。また最近話題になっている羽田空港の発着枠の政策的な方向性について詳しいことを知りたい方は(羽田空港発着枠の検討課題と現状_国土交通省)をご覧ください。尚、発着が特定の時間帯に集中しない様に1時間あたり、場合によっては3時間当たりの最大の発着回数にも制限が加えられることもあります

羽田空港_夜間
羽田空港_夜間

② 運用時間帯:日本では、地方空港は概ね夜間は使用できません。また主要空港である成田空港、大阪国際空港(伊丹空港)では周辺住民の騒音対策として夜間の発着が禁止されています(日本の各空港の運用時間帯の情報については国交通省の(空港情報一覧)をご覧ください
駐機スポット:航空機を駐機させるにはかなり広い面積が必要であり、ランプエリアを十分に確保できない空港は、駐機スポットの数の制約から他に乗り入れているエアラインとの発着時刻の調整が必要になることがあります
④ CIQ:国際線を運航する場合は、空港に於いて税関Customs/財務省管轄)、出入国管理Immigration/法務省管轄)、検疫Quarantine/人間の検疫は厚生労働省管轄;動植物の検疫は農林水産省管轄)を行う必要があります。管轄する部署の配置人員が十分に確保できない場合、遅延が発生する可能性があります(繁忙期における臨時便の運航、など)

出入国管理
出入国管理

セキュリティー管理:空港ターミナルの「制限区域」に入る場合は危険物の持ち込みを排除する為のチェックが義務付けられています。日本にあっては、この要員の確保に係るコストは、空港に乗り入れているエアライン間でシェアすることになっています

上記③~⑤の制限によって、空港への乗入れに際し時間帯の制約を受ける可能性があります

2.航空機の地上停留中の作業に係る制約
① 機内清掃とシートポケット内容物の補充する作業:航空機がスポットに入ったあと、お客様が降機を終わってから作業を開始し、次の出発便のお客様が乗機を始める迄に作業を終わらなくてはなりません

Cabine Cleaning
Cabin Cleaning

② ケータリング作業(飲食材料の補充):飛行中にお客様に提供される飲み物や食事を搭載します。国内線にあっては飲み物を中心とする補充で済みますが、15時間程度の飛行時間となる長距離路線を運航する場合には、各種飲み物の他に、メインとなる食事2食分と朝食などの軽食を搭載することとなり、かなりの量になります(⇒機内のスペースの確保⇒旅客席数の減)

Catering・Cargo Handoling
Catering・Cargo Handling

③ 貨物の取り卸し・搭載作業:現在エアラインで使われている大型の航空機には相当量の貨物搭載が可能であるため、お客様の手荷物以外にも多くの郵便物や貨物が搭載されており、発着毎にこれらの貨物の取り卸し・搭載作業が行われています

④ 燃料の補給:出発前に目的地到着までに必要となる燃料を補給します。この燃料には目的地までに消費する燃料以外に、もしもの場合(悪天候や航空機のトラブルなど)に備えて目的地ごとに指定される代替空港までの飛行に必要な燃料(場合によっては出発空港に戻るまでの燃料)、その他の予備燃料(空港混雑により待機する場合など)が含まれます

Fueling
Fueling

⑤ トイレの汚物回収、洗浄水の補充:この目的のための特殊車両で行います
⑥ 飲料水の補充:この目的のための特殊車両で行います

Lavatory Service ・Water Service Car
Lavatory Service Car・Water Service Car

⑦ 整備作業:航空機の運用に際し、航空法に基づき整備作業を実施する必要があります。(詳しくは(整備プログラム)をご覧になってください
毎日運航している航空機に対して行う整備作業(航空業界内では運航整備作業/Line Maintenanceと呼んでいます)の具体的な内容や必要人員数については、到着便作業・配置人員出発便作業・配置人員折返し便作業・配置人員をご覧になってイメージアップしてください(実際の作業時間、配置人員については必ずしも正確ではありません)

Line Maintenance
Line Maintenance

これらの作業以外に、定期的に行う整備作業とその機会に行う改修作業があります。これらは、夜間に長時間(5~10時間程度)駐機する機会に実施する作業(通常数百飛行時間ごとに計画的に設定)と、航空機を1週間から1ヵ月程度駐機させて格納庫内で大人数をかけて行う作業があります(詳しくは整備プログラムをご覧になってください)。私の経験ですが、これらの格納庫内で行う大きな整備作業・改修作業は、1機について年間平均18日程度引当ておくことが必要となります。これは即ち、20機保有しているエアラインは、そのうち1機相当分はこうした大きな整備作業・改修作業(航空業界内では重整備作業/Heavy Maintenanceと呼んでいます)を行っていることとなり、実際に毎日稼働できる航空機は平均して19機になることを意味します。こうした大きな整備作業・改修作業に引き当てる予備の航空機を保有していない場合、作業に必要な日数分 定期便を運休する必要が発生します

Heavy Maintenance
Heavy Maintenance

⑧ パイロットの業務:出発前に航空機を地上から点検すること(Walk_around Check)、操縦室内でチェックリストに基づいて計器や各種操縦に必要な機能が正常であることを確認すること、整備士から整備作業に係る報告を受けること、などの業務を行います

パイロットの飛行前の準備作業
パイロットの飛行前の準備作業

⑨ CA(客室乗務員)の業務:お客様が乗機する前に客室内の飛行前点検、機内の収納エリアに危険物が隠されていないかなどのチェックなどを行います
⑩ ランプ・コーディネイターの業務:地上に居て到着・出発作業に携わる人達の作業の進捗管理を行います(必要により出発遅延の決定も行う)。作業が順調に進めば出発5分前という情報を関係者全員に周知することなどを行います

上述の、航空機の到着から出発に至る迄の各担当部門が行う作業の相関関係を図示したものが「標準作業工程表」と言い、ここで示された地上停留時間は航空機の運用を行う際の最小限の地上停留時間DGT/Standard Ground Timeといいます)となります(これより短い折り返し便の設定は特別の場合以外は行いません)。以下は国内線の標準的なケースです(エアラインや航空機の型式によって異なることが普通です)

航空機の到着・出発における標準作業工程表
航空機の到着・出発における標準作業工程表(国内線)

尚、国際線については、①~⑨の業務量が増加するため、一般にもう少し長い停留時間が必要となります

3.航空機の型式、客室仕様
航空機を路線に投入する場合、まずその航空機の航続性能がその路線の飛行距離より長い事が必要です。また競合する他社との競争上の観点から、その路線の旅客需要に見合った客席数(First Class、Executive Class、Premium Economy Class、Economy Class)であることと併せ、旅客サービスの為の飲食類が提供できる客室内の装備が必要となります。
① 航空機の航続性能と最大離陸重量
航空機の航続性能は、航空機の空気力学的な抵抗(一般に新しい型式の航空機ほど性能が良い)、エンジンの燃費性能、燃料の搭載量、などによって決まります。また、長距離路線は飛行時間は長いものの着陸回数はそれほど多くはないのに対し、短距離路線は逆に飛行時間は短いものの、発着回数が多くなります
航空機の用途によって要求される性能を実現するには、航空機の設計の段階で取り入れなければ実現することはできません。要求される設計基準について詳しいことを知りたい方は(3_耐空証明制度・型式証明制度の概要)をご覧になってください。参考の為に、現在日本航空で保有している機種の中で、長距離国際線の路線と国内路線の両方に使用されているボーイング社製の777という機種の性能の違いを日本航空のサイトにある情報を拝借してみました;

777・長距離型と短距離型の比較
777・長距離型と短距離型の比較

上記の二機種は、777という型式名から想像できるように航空機の基本構造は変わりませんが、長距離用と短距離用という用途の違いから相応の設計の違いが見て取れます;

777-300ER(長距離型) 777-300(短距離型)

* 最大離陸重量 : 340.2 ton          237.0 ton
* 航続距離   : 14,340 km           3,550 km
* 機体の長さ/幅:    73.9m/64.8m         73.9m/60.9m

上表から分かる通り、長距離型は航続距離を延ばすために燃料を多く搭載できるように最大離陸重量がかなり大きくなっています。また幅が大きいということは、翼が長くなっている為ですが、これは長距離を効率的に飛行する際の空気抵抗を減らすためです。また、短距離型については上表の数字からは分かりませんが、離着陸回数が多くなることから、頻繁に使う主脚(Landing Gear)や高揚力装置(Flapなど)が強化されています

航空機が運用される時に徴収される着陸料、及び航空路を飛行する際に徴収される航行援助施設料、駐機料などは、一般にこの最大離陸重量を基に計算されます(⇔ 運航コストに大きな影響があります)。これは日本の高速道路料金がその建設費や車体の重量によって道路の傷み具合が違うことから決められている理屈と同じですね!

尚、着陸料の計算式については、最大離陸重量の他に、空港周辺の騒音を低減させる為に機種別にICAO基準に基づいて測定された離陸測定点と着陸進入測定点での騒音値をもとに高騒音機(古い機種)程付加料金が高くなる体系になっています。また離島の空港、あるいは利用状況が芳しくない空港で路線開設、増便を促すためのインセンティブとして着陸料の割引を行うことも行っています。現在の着陸料などの状況については、国土交通省が発行している(着陸料等告示_AIP)をご覧になってみてください

昨今オリンピックに向けての増枠で話題となっている羽田空港の着陸料、及びあまり馴染みのない航行援助施設利用料の設定については、国土交通省が一元的に行っていますので、同省の政策的な方向性について興味のある方は以下の資料をご覧になってください;
羽田空港の着陸料:羽田空港発着枠の検討課題と現状
航行援助施設利用料:今後の航行援助施設利用料のあり方_国土交通省

② 客室仕様
客席と旅客サービスに必要となる装備は「客室仕様」と呼んでいます。長距離型の客室仕様の場合、席数を減らして飲食物提供に必要なスペースを設けるため、座席数がかなり減ってしまいます。777の長距離型と短距離型の客室仕様の違いを日本航空のサイトからコピーしたものが下図です。長距離型は、飲食物の収納、飲食物提供の準備作業のための大きなスペース(Galleyと呼んでいます)が設けられていることが分かります;

777・長距離型と短距離型の座席配置の比較
777・長距離型と短距離型の客室仕様の比較

席数については、以下の様に大きな違いがあります;
777-300ER(長距離型):244席(First Class/8席、Executive Class/49席、Premium Economy Class/40隻、Economy Class/147席)
777-300(短距離型):500席(J  Class/78席、Economy Class/500席)

以上より、長距離国際線用の航空機を国内線に使用することはコスト面からも収入面からも適切でないことが分かります

航空機の稼働を上げるには?

1.「標準作業工程表」を変更し、DGTを短縮する
国土がそれほど広くない日本にあっては、国内線の飛行時間は数十分から4時間未満と考えてよいと思います。また、国内の地方空港の大半は夜間の発着ができないことがあり一日の稼働可能時間はせいぜい8時~22時の14時間程度しか期待できません。こうした状況で稼働を上げるにはDGTを短縮するしか方法はありません
DGTを短縮するには「標準作業工程表」の各部門の作業時間を短縮する(あるいは省略する)こと、作業の重なりを許すこと、などが考えられます。このための具体的な工夫の例は以下の通りです;
「機内清掃とシートポケット内容物の補充」作業を、お客様が降機するペースに合わせ、後部担当のCA(客室乗務員)に担当してもらう(機内清掃は粗ゴミ拾い程度 ⇒ 旅客サービス水準の低下!)
「燃料の補給」作業をお客様が降機中から始める(⇔ 火災発生時に備え、CAのDoor side配置が必要になります)

<具体的な事例>
* 米国で数百機のB737を運航しているサウスウェスト航空ではDGT15分を実現しています。ただ、実際のスポット周辺でのサービス状況の観察、サウスウェスト航空担当者のインタビュー等を通じてわかったことは、日本とは違い米国では飛行ルートの選択に係るパイロットの自由度が高く、遅延した場合でも飛行ルートを変えて飛行時間を短縮することが可能な場合があること、また到着・出発に係る地上作業者がマルチタスク(色々な作業ができる)に対応し、かつ動線が短い(駐機スポットの直ぐ傍で待機している)こと、更に数百機の保有機が全てB737シリーズで全ての作業者が作業を熟知しておりミスが少ないこと、などがこの様な短いDGTで運用できている背景にあると思われます

* 1996年、B737-400を使ってJAL100%子会社のLCC(JAL Express)を立ち上げたとき、JALで使われていたDGT35分を10分間短縮して25分でダイヤを組みました。特に遅延が目立ったということはありませんでした

*正確な時期は覚えていませんが1990年代、、タイのLCCが運航するバンコック=チェンマイ間の路線を視察する機会がありました。1機を使ったシャトル運航でしたが、早朝から満席に近い運航を繰り返して(予約上の確認のみ)おり、私が搭乗した最終便は2時間以上の遅延で運航されていました。安い運賃であった為か、あるいは定時性にはあまりセンシティブでない国民性の故か、待たされている満員の旅客は全く平静であったことが印象的でした

2.航空機の運用の仕方に着目した稼働の向上策
国内線については夜間帯は空港の制約から概ねどこかの空港に駐機しています。一方、国際線については、主としてお客様の利便性(目的地に到着してからすぐにビジネスや観光ができること、あるいは外国空港での乗継が便利であること、など)を優先したダイヤが作られるために昼間帯に空きが発生することがあります。以下はこうした航空機が使われない空きを使って稼働を上げることができる例です;

日本航空の羽田発着のサンフランシスコ線のJL002便は、出発時刻は19時50分、サンフランシスコ到着は現地時間13時10分になります。その後2時間40分サンフランシスコ空港に駐機して、帰りのJL001便は現地時間15時50分にサンフランシスコを出発し、翌日の19時に羽田に到着いたします。つまりサンフランシスコを往復するのに足掛け2日かかります(飛行時間は20時間30分)。従って、このサンフランシスコ線を毎日飛ばすためには航空機が2機必要になります。一方、この路線引き当ての2機の航空機のうち1機は、毎日朝から19時50分まではこの航空機には空き発生しています。この空きを使って羽田=上海線(JL81便/羽田発09時20分⇒JL82便/羽田到着16時45分:往復飛行時間は6時間)を運航させることができます。サンフランシスコ線だけを2機で運航した場合、航空機1機・1日当たりの稼働時間は10時間15分にとどまりますが、これに上海線を組み合わせることによって13時間15分に向上させることが可能となります( ⇒ 更に上海線引き当ての航空機はいらなくなります)
ただ、注意しなければならないことは、客室仕様は、当然基幹路線であるサンフランシスコ線が優先されますので4クラス仕様、一方上海線(通常2クラス(Executive Class、Economy Classで販売している)は販売可能な客席数が少なくなります。また最大離陸重量が大きいので着陸料、航行援助施設利用料が高くなりコスト面でもややマイナスになります

航空機の稼働向上策
航空機の稼働向上策

羽田に駐機する国内線は、地方空港の運用時間帯の制約で、概ね22時頃までに到着しています。翌日の羽田出発便も地方空港の運用時間帯の制約、お客様の利便性の関係で8時過ぎまで空いている航空機もあります。私が航空機運用の担当だった時代、この空きを使って国内線機材によるグアム線(往復飛行時間:7時間30分)の運航を行っていました。この夜行便の対象は学生さんなど若い人が往復とも機中泊とすることで滞在費を節約できるメリットがあり、結構利用されていました
ただ、注意しなければならないことは、客室仕様の他に、国内で使われる航空機の燃油費には燃料税(26円/1リットル;沖縄、離島路線などでは減額されています)が掛かっているのに対し、国際線で使われる航空機の燃料は無税となっております(ICAO CHAPTER 4:詳しくは条約・航空協定の歴史参照)ので、この燃料の課税処理の為に税関当局の承認が必要となることです

3.整備作業実施に係る航空機の稼働向上策
整備作業については、「2.航空機の地上停留中の作業に係る制約;⑦ 整備作業」で述べた様に、発着に係る整備作業以外に「定期的に行う整備作業とその機会に行う改修作業」があります。定期的に行う整備作業とは、一定の飛行時間や飛行サイクル(発着回数)、経過日数によって実施が義務付けられている個々の作業(「整備要目」といいます)を実施しやすさを考えてまとめたもの(⇔整備要目の集合)を意味しますが、これを「整備パッケージ」と呼んでいます(詳しくは4_整備プログラムをご覧ください)。整備パッケージと整備要目との関係についてイメージしていただくには下記の表が分かり易いと思います;

整備要目と整備パッケージの関係
整備要目と整備パッケージの関係

上表で「C整備」と呼ばれている整備パッケージは作業量が非常に大きい整備パッケージで格納庫内で1週間から2週間かけて行うことが普通です(4から5年に一度計画される大きな改修を実施するための整備パッケージは1ヶ月位の期間が必要です)。「A整備」やそれより短い間隔で行われる整備パッケージは、通常数時間から15時間くらいの短い停留時間で実施されることを想定しています。つまり、航空の稼働を下げることなく、定期便が到着して次の出発までに作業を終えるのが原則です
① A整備を実施するための航空機の運用
A整備は定期便の間の夜間の駐機中に行うと言っても、抱き合わせに行われる改修作業や、検査中に発見されたトラブルを処理するためにある程度余裕を持った停留時間を予め確保しておく必要も発生します。この場合、「A整備を予定している航空機については、早めに到着する便を割当て、翌日の出発便についても、できる限り遅く出発する便を割り当てることなどが考えられます
以下の図は、とある航空会社の過去のダイアグラムから作成した「機材パターン」と呼ばれるものです。整備を主に行う空港(整備基地とも呼びます;下図の各行の下の線が羽田駐機を表します)で整備計画を立てるときに使われるものです(CASE_Aの場合は8時間50分、CASE_Bの場合は15時間50分の整備機会が確保できることが分かります);

整備機会の検証
整備機会の検証

尚、「A整備」の実施時期は、前回「A整備」からの累積飛行時間が実施期限(整備パッケージの表の場合、仮に500飛行時間にしています)を超えることは航空法上許されませんが、余りに余裕をもって計画すると、A整備の実施回数が増えることとなり、できるだけ実施期限近くで実施することが整備コストの面で有利になります。因みに[実際に「A整備」を実施した時の累積飛行時間]÷[実施期限]を「Check in Rate」と言います。例えば400飛行時間で「A整備」を実施したとすれば、この時ので「Check in Rate」は0.8となります(←航空機の運用を行っているプロから見れば「計画が甘い!」と言われるかもしれません!)

尚、運航している航空機に大きな故障が発生した場合、考え方は「A整備」の実施体制と同じと考えてよいと思います。大きな故障と言えばエンジン・トラブルが代表的ですが、この場合も「A整備」との違いは突発的に発生するか、予め計画できるかの違いであって、欠航や遅延を最小限にする為の航空機の運用方法は変わりません

② 「C整備大きな改修作業」を実施するための航空機の運用
こうした大きな作業は、航空機を1週間から1ヵ月程度停留させて格納庫内で大人数をかけて行う作業となります。自社で整備を行う場合、格納庫を必要数持っている必要があると同時に、この作業に必要となる多数の整備士を確保していなければなりません。従って、航空機の稼働を高めると同時に、格納庫と多数の整備士の稼働を高める必要が同時に発生します
このやや複雑な問題を解くには、問題自体をシンプルにして考えるのが分かり易いと思います。仮にこのエアラインが20機保有していたとすれば、既に述べた通り、その内の19機が毎日稼働し、残り1機分は入れ代わり立ち代り「C整備や大きな改修作業」を実施していると考えてよいということになります。その場合格納庫は1棟あればよく、この種の大きな作業に必要な人員も1機分で良いことになります(これを「C整備や大きな改修作業」の「生産ライン」といいいます)。従って、航空機の運用で考えておくべきことは、それぞれの「C整備」の実施時期をできるだけ高い「Check in Rate」を守りつつ、2機が重ならない様に計画することになります

「C整備や大きな改修作業」を整備会社に委託しているエアライン(LCCはこういうケースが多い)は、自社の都合の良いタイミングで整備を実施することは難しくなりますが、考え方は自社整備の場合と一緒です。整備の実施タイミングでイニシアティブを持つためには複数の委託先を選定して置くなどの対応が必要となります

③ その他の稼働向上の方策
整備要目と整備パッケージの関係は、「整備要目と整備パッケージの関係」の表をよく見れば分かるように、整備期限(飛行時間、飛行サイクル、飛行日数)を守らなければならないならないのは、それぞれの整備要目です。整備パッケージは、エアラインが自社の航空機の運用に便利なように組み合わせを考え、航空当局に申請し認可を得たものに過ぎません。それぞれの整備要目を期限内に確実に実施する体制さえ構築できれば大きな整備パッケージで整備を行う必要はありません
*事例1:私が日本航空の航空機運用の担当であった時代、B767の「C整備」要目を二分割して運用したことがあります。このケースでは目立った効率向上が得られなかったため、数年で運用を止めてしまいました
*事例2:サウスウェスト航空では、1990年代に私が同社を視察した時には、「C整備」を4分割した整備パッケージを作り、それぞれのパッケージを1日プラスアルファで自社で実施していました。B737という小さな航空機であり、且つ数百機の単位で保有していた為と考えられます

必ずしも航空機の稼働向上に結び付くとは言えませんが、日本の様に旅客繁忙期がある程度限定的(年末年始、ゴールデンウィーク、夏季繁忙期)である場合、この期間のみC整備や大きな改修作業を計画せず、ここに引き当てている航空機を定期便の増便や臨時便設定に引き当てることがあります。この時期は需要が大きい為に旅客単価、及び搭乗率が高くなっていることがあって、営業収入の増に大きく貢献することになります。ただ、増便することによって、パイロットやCAの必要数も増えることとなるので、限界はあります

以上