電動航空機の夜明け

-はじめに-

近年、温室効果ガスによる地球温暖化が原因と考えられる災害(注1)が全世界的に発生し、脱炭素社会の実現が急務であることが世界の共通認識になりつつあります
(注1)干ばつ、森林火災、洪水、巨大台風、北極・南極の氷溶解、永久凍土の溶解、海水面上昇、他

2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26(注2)においては、侃々諤々の議論が行われ、先進各国は「火力発電所の全廃」や「EV(Electric Vehicle/電気自動車)への切り替え」など脱炭素の取り組みの具体的時期を表明しました
一方、福島原子力事故以降多くの原子力発電所が停止し、その不足分を火力発電所が補っている日本も、火力発電所の削減や、EV化の推進については、困難ではあるものの、叡智を集めて先進国の一員としての責任を果たさねばならない状況になっていると考えられます
(注2)第26回気候変動枠組条約締約国会議(United Nations Climate Change conference);

企業独自の脱炭素化の動きは日本でも加速しつつあります。停滞する「物造り日本」を取り戻す絶好の機会であるばかりでなく、大企業は、ESG(注3)や SDG(注4)を意識して利益の追求だけではなく、地球環境や社会の持続性も企業目標に掲げなければ企業の永続的な発展が望めない時代となってきました
(注3)ESG:Environment Social Governance/環境・社会を考えた企業統治
(注4)SDG:Sustainable Deveropment Goals/持続可能な開発目標

以下は、新聞雑誌の記事やネット情報、定期購読している Aviation Week & Space Technologyの記事を読み、所々に私の勝手な意見を加えて纏めたものです

航空業界への波及

こうした事が背景にあって、国際民間航空機関(ICAO/International Civil Aviation Organization)は2020年以降にCO2排出量を増やさないとする国際目標を導入しました。また、2021年10月4日に開催された年次総会では2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする目標を採択しました
一方、現在の商用航空機は殆ど全てと言っていいほど化石燃料に頼って運航を行っています。現在、最も近道と思われる植物由来の代替燃料の開発が行われていますが、燃料コストが数倍になると共に、十分な量を確保することも難しく、航空業界全体で代替燃料の活用の見通しが立っている訳ではありません。因みに、現在の燃費効率の良い長距離ジェット機で東京=ロサンゼルス間を運航した場合、240トンの二酸化炭素が発生すると言われています
<参考:植物由来の航空燃料開発の現状>
①「ユーグレナのバイオ燃料
②「ANA・JAL、国産の持続可能燃料を定期便に
③「エールフランスが_食用油入り5000㎞飛行
④「空の脱炭素へANA・JALが再生燃料争奪
F0llow_Up_2022年9月の日経記事:再生航空燃料・植物由来で安く_コスモや出光が製造計画
F0llow_Up_「SAF」国産木材で安定調達_日本製紙・住友商事が提携

燃費の改善以外には最も脱炭素化が難しいと思われていた航空機業界にも、電動航空機の開発が活況を呈してきました。最近、欧米先進国の大手航空会社もが電動航空機を開発している企業への投資や、大量発注に踏み切るところが出てきました(具体例については後段で詳述
但し、如何に電動航空機が発達したとしても、推進機構がプロペラに頼っていることから、ジェット機の速度に追い付くことは不可能なので、長距離路線については電動航空機にとって代わることは考えられず、ジェット機が消えるわけではありません(植物由来の代替燃料による運航など)

Follow_Up:2022年6月4日の日経記事「低炭素航空燃料、国内で供給網_空港の競争力を左右
Follow_Up:2022年6月_Aviation Week「世界のSAF調達情報
Follow_Up:2022年8月_2050年カーボンニュートラルに向けて航空業界の取組状況に関わるサイトができました

航空機の歴史(参考:詳しくは私のブログ「航空機の発達と規制の歴史」をご覧になって下さい)を振り返ると、1903年にライト兄弟が初めて動力付きの飛行機の初飛行に成功してから、たった7年後には日本においても、徳川好敏・日野熊蔵によって動力機の飛行が行われました。その7年後の第一次世界大戦では航空機が爆撃に使われ、第二次世界大戦前夜までには航空輸送が軍事だけではなく商用の交通手段としても一般化していました。第二次世界大戦最後の段階で登場したジェット機は戦争終了7年後には大型ジェット旅客機(英・コメット)が登場していました。航空の歴史は常に「夢の実現」の為にチャレンジを続けてきたことが分かります

電動航空機は無人のドローン以外は、まだ実用段階になっていませんが、近年のEVの急速な普及に伴う、電動モーター(以下「モーター」と略称)や蓄電池バッテリーと略称)などの要素技術の進歩が急速に進展しており有人の電動航空機の登場・普及は間近に迫っていると思われます

一方、電動航空機の一分野であるドローンについては、「空飛ぶ自動車」という覚え易い名称でメディアにはよく登場する様になりました
ライドシェアやフードデリバリー (Uber Eats)などで有名な米国の新興企業ウーバー・テクノロジーズ( Uber Technologies, Inc./カルフォルニア州)が、同社のサービスの一環として空のライドシェアに乗り出すことを発表し、一気に現実味を帯びるようになったのではないでしょうか。以下の動画には空の交通革命を齎す「夢」が詰まっているような気がします:Ubers elevate vision

バッテリー、モーターの技術革新

一昔前は、電動で航空機を飛ばすなどは、模型飛行機の世界の話でした。しかし、以下の要素技術の進歩には目を瞠るものがあります;
A.バッテリーの進歩
現在、パソコン、スマホ、EV、その他に搭載されているリチウムイオン電池を発明したのは日本人の吉野彰さん(2019年ノーベル化学賞受賞)でした
このバッテリーの充電能力単位重量当たりの充電量)と繰り返し充電・放電に耐える能力が従前の他のバッテリーに比べて格段に優れていることで急速にリチウムイオン電池は普及しました。唯一の欠点としては、何らかの理由(衝撃、振動、他)で熱暴走を起こす可能性がある事でした
パソコンの分野でソニーが初めてリチウムイオン電池をパソコンの電池として採用しましたが、発売後、暫くして発火事故を起こしてしまいました

極限までの軽量化が求められる航空の分野では、長らく充電能力に優れたニッケル・カドミウム電池が非常用電源として装備されていましたが、ボーイング社の最新鋭機である787型機に初めて非常用電源としてリチウムイオン電池が採用されました。しかし、日本において787型機が就航して間もなく(2013年1月)、JAL・ANA共に 787型機の バッテリーの火災事故が発生してしまいました
この火災原因が直ぐに究明できないこともあって、1月16日FAA(米国連邦航空局)は全世界で 787型機の運航停止命令を発動(34年振り)、国土交通省も同様の命令を発動しました。その後、火災発生の可能性のある個所を全て改修し、6月1日になってやっと定期便復帰を果たすことが出来ました(運航停止期間:136日)。詳しい経緯は私のブログ「航空機の発達と規制の歴史」の最後の方をご覧になって下さい

現在でもパソコンやスマホでは火災事故が時折発生していますが、当初に比べれば格段に事故は少なくなっています。また、EVが、一回の充電で走ることが出来る距離を競う中で、次々と新しい技術が開発されつつあります<参考>
EV特許の競争力、②マグネシウム・イオン電池、③リチウム硫黄電池

これからの技術開発競争は、EV化の急速な進展、電動航空機の登場、などの刺激を受けて加速することは間違いないと思われます

B.燃料電池(Fuel Cell)の実用化
燃料電池というのは、水素を燃料として空気中の酸素と化合させて発電するものです充電する代わりに水素(高圧の水素、又は液体水素)を補給することになります。既に日本の自動車業界ではトヨタとホンダが燃料電池車(FCV/Fuel Cell Vehicle)を発売しています;
簡単な動作原理と実物の燃料電池の写真は以下をご覧ください(画像をクリックすれば画面が拡大します)

燃料電池の可能性は、重量(体積)当たりのエネルギー効率が高いことにあります。以下の図表はネット上で見つけたもので数値の正確さについては確認していませんが、バッテリーに比べると燃料電池の重量当たりのエネルギー密度が非常に高いことは間違いないようです。また、消費することで重量が減っていくことなど長距離の電動航空機にはうってつけであると思われますFollow_Up:軽量の液体水素タンクの開発により、化石燃料を凌ぐエネルギー密度を実現できる見通し⇒ 電動航空機の方が航続距離が長くなる
① (米国)2022年5月1日のAviation Weekの記事:Lighter Hydrogen Tanks Promise Longer Range
② (フランス):2022年5月29日のAviation Weekの記事:France Advances Hydrogen Tank Manufactureing

C.モーターの進歩
直流モーターは、私が電気少年であった昔に知っていた知識を遥かに越える技術革新がありました
我々が持っていた知識は、直流モーターについては電車などで使われる直巻モーター(回転子と固定子の巻線が直結されている)と分巻モーター(回転子と固定子の巻線が並列に結合されている)の区別があり、交流モーターについては、産業界の主要な動力として使われる三相交流モーターと、主に家庭電化製品で使われる単相交流モーターがあるという程度でした
しかし、EVなどで使われる現在のモーターは、実は直流の電気を半導体を使ったインバーター(inverter)という回路を通して交流に変換し、三相交流モーターと似たような仕組みで回転させる様になっています;
<参考>  インバーターで直流から交流を作る仕掛け;
インバーターは直流を半導体のスイッチング回路で矩形波のパルスに変え、これをコンデンサー、抵抗、インダクター(inductor/コイル)、などの部品で平滑化することによって任意の周波数の疑似的な正弦波に変えることが出来ます。パルスに変える方法にはPMW(Pulse Width Modulation)変調と、PFM(Pulse Frequency Modulation)変調の二つの方法があります。詳しい説明は電気少年!しか興味が無いと思いますので省略します
この仕組みは、今や多くの電子回路でも使われております。因みに、最近の日本のエアコンは、省エネの為に100ボルトの交流を一度直流に変え、インバーターを使ってモーターの駆動をコントロールしています
また、パソコンや家電製品の電子回路には、多くの構成ユニットの動作電圧の違いに対してメインの供給電圧をその電圧に昇圧・降圧する為に同じ仕組みのインバーターを使っています。私の電子工作にも下の写真の様なインバータを使っています(中国製でたった200円!)
<参考> 直流モーターと三相交流モーターの回転する仕組みの違い;

直流モーターの変遷(原理)

上図右の現在のEVモーターでは、回転子に現在資源獲得競争で話題のネオジウムの合金(極めて強力な磁石となる)を使用し、固定子にはインバーターで直流を三相交流に変換させた電流で回転磁界を作り回転子を回すという原理(三相交流モーターと原理は同じ)で作動しています
回転数は固定子に流す交流の周波数で決まり、トルクはここに流す電流によって決まります。これらのコントロールは何れも半導体を使ったコントローラーで行います

動力としてのモーターとガソリンエンジンやタービンエンジンの最大の違いは、モーターは部品点数が極めて!少ないことと、低温で作動することです。この結果、航空機にモーターを使えば、定期点検や定期交換などの整備の負荷が大幅に減ることと、ベアリングなどの回転部分を除けば壊れる箇所が少ないので、極限の信頼性を要求される航空機の構成部品としてはうってつけであると考えられます

Follow_Up:2022年1月11日、ネット上で以下の情報を入手
DENSO の電動航空機用モータ-開発
Follow_Up:2022年6月「東芝エネルギーシステムズ・最高出力2000㌔㍗の試作機を開発

電動航空機の分類

電動航空機は、幾つかのカテゴリーに分類できると思われます。電動と言うからには、少なくとも推進装置にモーターが使われていることは共通しています。ただ、モーターを駆動するエネルギーによって以下の様に分類できます(前提として炭酸ガスを出さないエネルギーに限ります)
A.モーターを駆動するエネルギー源による分類;
1.バッテリーによってモーターを駆動する電動航空機
*一般に、バッテリーは重量当たり貯められるエネルギー量は化石燃料を燃焼させた場合と比べ格段に少ないので、バッテリーで長距離の飛行機や重い航空機を飛ばすことは現在の技術では難しいと言えます

2.水素を燃料として発電し、その電気を使ってモーターを駆動する電動航空機

*既に自動車の分野ではFCV(Fuel Cell Vehicle;水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を発生させ、この電気でモーターを駆動させる)として販売されています
水素を燃料としてタービン又は内燃機関を駆動し、その動力を使って発電しモーターを駆動させる。この方式はハイブリットの自動車と同様に、発生した電気を一時的にバッテリーに蓄電してモーターを駆動することになります(この技術は未だ開発中)

B.揚力を得る手段による分類;
1.ヘリコプターの様に回転翼のみを使って浮上し、回転翼面を傾け、前方への分力を使って前進する電動航空機(通称 eVTOL/electric Vertical Takeoff & Landing Airplane)
*ヘリコプター同様、滑走路は不要。但しエネルギー消費量は多い

2.離・着陸時に回転翼を使い、巡航時の揚力は普通の航空機と同じ翼を使う航空機
*ヘリコプター同様、滑走路は不要。巡航時に翼を使うのでエネルギー消費量は少なくて済む
2.2.離・着陸時に回転翼を使って短い滑走距離で離着陸し、巡航時の揚力は普通の航空機と同じ翼を使う航空機(通称 eSTOL/electric Short Takeoff & Landing Airplane)
3.推進機構のみをモーターで駆動し、揚力は通常の航空機と同じく翼で得る航空機(通称 eCTOL/electric Conventional Takeoff & Landing Airplane)
離着陸に滑走路が必要となる(空港発着が原則)。エネルギー消費量は少なくて済む

C.無人機か有人機かによる分類
1.無人で地上からの操縦による電動航空機(ドローン)
*無人のドローンについては既に実用化の段階に入っています

2.パイロットが操縦する電動航空機
*現在の航空機同様にパイロットが操縦し、旅客・貨物を輸送する
航空業界が導入を検討している機体は、現在全てパイロット操縦を前提にしています
*将来AIを装備した航法機器と地上からの運航サポートにより無人の自律運航が可能になるかも知れません

無人電動航空機(ドローン)の普及

ドローン(Drone)とは我々の学生時代では空戦訓練時の銃撃やミサイルの標的用の無人機を意味していましたが、最近メディアなどでは無人の eVTOLのことを通常ドローンと言い慣わしている様です(但しモーターではなくガソリンエンジンを動力に使っているものも無人であればドローンと呼んでいます)。ここでもその定義でいきたいと思います
以下の報道を見ると、2015年から現在までの6年間でドローンが完全に実用段階に移行したことが分かります
1.電動ドローンの進歩と利用範囲の拡大;
*16年8月、空撮技研・農薬用ドローン販売
*17年11月、四国電力・設備転換にドローン活用
*18年1月、ドローン測量の主役に
*18年5月、ドローンの自律飛行に保険
*18年7月、ドローン物流が新段階
*18年10月、「空の物流革命」先陣争い
*19年4月、ゼンリン・空の地図と交通量統制構想
*19年10月、NEDO実証実験_1㎢に37機同時飛行

以下のJAL及び三菱重工が関わったの2件は、ドローン自体は電動ではないものの、無人ドローンの遠隔管理に必要な運航管理技術遠隔操作技術のノウハウを持った会社がドローンビジネスに関わり始めた事例です
*20年11月、JAL印の「無人ヘリ」が離島間を飛び回る!
*20年11月、三菱重工・千キロ先のドローン操作実現
以下の2件の事例は、携帯会社が自身が持つ通信網を使って、飛行中の現在地の確認やリアルタイムの映像を見ながらの操作を行うため通信インフラ提供でドローンビジネスに関わり始めた事例です
*21年11月、JR東・KDDI・JAL出来立ての食事ドローンでお届け
*21年11月、携帯会社が狙うドローンビジネス
Follow_Up:2022年2月17日JAL・KDDドローンで医薬品配送_都内で実験
Follow_Up:2022年4月12日ドローン「空の道」管理、覇権争い

2.商用ドローンに関わる規制の歴史;
*2015年9月、ドローン規制法成立
*15年10月、大型無人機を産業利用へ法整備
*15年12月、商用ドローンの環境整備・総務省が規制緩和検討
*16年3月、ドローンで農薬散布の認定制度_農水省
*17年3月、民間のドローン技能講習・公認制度導入_国交省
*19年4月、国交相ドローン向け飛行情報提供開始
*19年8月、ドローン商業ルール整備、登録制、安全基準設定
*20年3月、国交相ドローン免許創設
*国土交通省資料「ドローンの安全飛行の為のガイドライン
Follow_Up:2022年6月、国交省・ドローンの登録義務化開始 、違反なら罰則も
Follow_Up:2022年12月、ドローン住宅街も飛行可・目視外「レベル4」解禁_物流の担い手期待
Follow_Up:2023年3月、宅配ドローン、有人地帯・目視外で初飛行

3.技能講習;
*17年12月、産業用ドローン操縦者スクールを開設
サイニチ・ドローンスクール

商用電動航空機の開発状況

私は JALを退社して以降、航空・宇宙関連の雑誌である「Aviation Week & Space Technology」を購読し続けていますが、ここ数年、頻繁に電動航空機の記事が掲載されるようになりました。これは恐らく脱炭素化社会の実現が世界共通の目標となり、未だ化石燃料による航空機が大半である航空業界にとっても喫緊の課題になりつつあることがその背景にあると思われます
現在、電動航空機の用途としては、航続距離、速度、搭載重量、などがジェット機の能力には遠く及ばないことから、以下の様な用途に使うことが目標になっていると思われます;
大都市内の新たな輸送手段UAM/Urban Air Mobility)
*混雑する大都市内の自動車に替わる輸送手段;空のライドシェア(urban aerial ride-shareing)、エアタクシー
*eVTOLを使えば世界のトップ100の空港と都市中心部を結ぶ路線の93%は20分以内で結ぶことが出来、大きな需要があると考えられます
*日本では:JAL「空飛ぶクルマ」で旅客輸送
大都市内にヘリポートを作るのは騒音の問題などで設置が難しいのですが、Vertical Aerospace_VA-X4の騒音はヘリコプターの数百分の一なので、新たなVertiport(eVTOLの離着陸用の施設)の設置には周辺住民の抵抗は少ない可能性があります

Follow_Up:2023年2月・日経新聞「大阪万博の空飛ぶクルマ、ANAやJALなど5社運航へ

地域輸送(regional transportation)
*航空業界ではハブ空港から地方空港への旅客・貨物の輸送には、現在は主に30人~50人乗りのターボプロップ機が使われており、使用機材も更新時期に入っているものが多いと言われています
短距離であるがアクセスが困難な観光地への輸送手段としての利用も需要があると考えられます。米国には各州にこうしたアクセスに時間のかかる観光地が沢山あるとのこと

高速貨物輸送(express logistics)
*サプライチェーン革命
により、在庫を多く持たない事業者が多く、この分野の需要は大きいと考えられています
医療関連の輸送
*臓器移植や輸血用血液の輸送などが考えられます
軍事輸送
沿岸の都市間を結ぶ旅客・貨物輸送

以下は、開発中の電動航空機の設計仕様の主要な部分の紹介ですが、これらは以下の「Aviation Week & Space Technology」の特集記事と日経新聞、雑誌の記事、ネット情報などを集約し、実用性がありそうだと私が判断したものを取り纏めています。尚、引用している動画は YouTubeが多いので、開始前にCMが入るものがありますがお許しいただければ幸いです!;
*Urban Air Mobility_A&W_2019年6月16日(原文は紛失!)
What Do Airlines Want From eVTOLs
_A&W_2021年7月11日
*Joby Hits Range and Noise Targets on Road to Certification_ A&W_2021年8月29日
Fixed Focus_A&W・2021年9月26日
 *AAM Leaders Ramp Up Development Spending on eVTOL Air Taxi_A&W_2021年12月5日

尚、以下の説明で、「耐空証明」、「型式証明」という用語が沢山出てきますが、この制度について詳しく知りたい方は私のブログ「3_耐空証明制度・型式証明制度の概要」をご覧になって下さい。また、以下の説明に頻繁に登場するFAA、EASAという略語は、日本の航空局に相当する行政組織で、夫々米国の規制当局(Federal Aviation Adminitration)、EUの規制当局(European Aviation Safety Agency)を意味します

Follow_UP;以下の記事に最新の動向が記載されていましたので、増補・修正(増補・修正部分は青字で表示しています)しました:「Playing to Win_A&W_2022年1月10日~23日
この記事の中で、現時点での開発状況をランク付けしております。以下のランキングはこの記事からコピーしたものですが、2020年に比べ2021年末までの開発状況が一変していることが分かります。また開発の進展に従って、資金調達の為に相当努力している事が窺えます;

上表タイトルの「Baker’s Dozen」とはパン屋の1ダース(13個)という意味で、英米でよく使われているそうです。その他の資金調達関連の略語は、必要により以下の記事の中で補足説明しています

1.Jovy Aviation
米国カリフォルニアを本社とし、800人を超えるエンジニアと専門家のチームを持っている。2020年、トヨタ社
約3億9400万ドルを出資ウーバーテクノロジーも出資している。飛行テストの動画
<性能>
*2021年7月初旬、垂直離着陸を含むTest Flight実施、1回の充電で154.6マイル(286.32km)平均時速223km/hキロ達成
*エアキャリアとしての許容騒音レベル達成
<機体仕様>
*搭乗人員はパイロットを含め5人
*固定翼
*プロペラ6基;プロペラは全てティルトタイプ(Tilt Type)になっており、プロペラ部分を傾けることにより垂直離着陸と巡航時の推進用の両方を兼ねている
*バッテリーはリチウムイオン電池

<開発体制>
自社開発体制維持
*2021年2月24日、SPAC Reinvent Technology Partners社と正式な企業合併契約を締結し、IPOを行うとに発表。合併後の会社はJoby Aviationの名前が引き継がれ、ニューヨーク証券取引所に上場されました
*このIPOにより12億ドルの資金調達を行った
(参考)SPAC(Special Purpose Acquisition Company/特定目的買収会社)とは;自身では事業を営まず、未公開企業や他社の事業を買収することを目的とした会社
(参考)IPO(Initial Public Offering)とは:企業が資金調達のために発行株式を公開すること
<開発目標>
Part135エアキャリア(チャーターベースの旅客輸送を行う航空会社)として必要な5段階のプロセスは今年7月までに終了することを目指している。型式証明を得るための機体は、2022年の前半に飛行させる予定。尚、型式証明取得用の機体がロールアウトしてから、トラブルが無くなる飛行が出来るまで通常約10ヶ月掛かると言われている
2024年に米国でエアタクシーのサービスを開始する為に、2023年末までに型式証明を取得することを目指している
Part23タイプの型式証明(19席または最大離陸重量19,000ポンド未満の小型航空機としての耐空証明)とその製造免許取得を目指している

<受注機数>
*Joby社は、自身でAOC(Air Operators Certificate/航空会社としての資格)を取得しウェットリース(パイロット付きで機体をリースするビジネス)を行うことを目指していると思われる ⇔ 2026年までに850機をJoby社自身が所有する計画
*2019年12月に米・ウーバー社とサービス提供契約を締結

<特記事項>
*尾翼の桁(V字型をしていて両翼端に推進機構が付いている)、バッテリーの電圧降下、落雷、客室のバードストライクのテストを開始している

*操縦室デザインのパイロットによる評価、Flight Control Computerの悪天候下でのテストは完了
*システムの統合に関わる実験設備は建設中であり、最初の主要な機体構造、複合材のパネルについてFAAの基準適合性検査(Conformity testing)が進行中である
*出資しているトヨタと協力してカルフォルニア州での製造拠点作りを行っている
*動力伝達系のシステムについては、カルフォルニア州サンカルロスの工場で引渡しを始めた
*2台目の自動炭素繊維部品の製造機(Automated fiber placement machine)の導入により、カルフォルニア州のマリーナ工場で当初の製造量を賄えるに十分となった
*現在飛行している2機のプロトタイプの機体では、航続距離150マイル(278km)以上で10,000フライトサイクルのバッテリー(EV用のグレード)寿命を実現している

Follow_Up:2022年2月15日、ANAHD「空飛ぶタクシー」参入 関空から大阪駅15分
Follow_Up:2022年10月19日、JCABに型式証明申請_5人乗り「空飛ぶクルマ」量産へ日米連携

2.Beta Alia

Beta Technologies社は、米国バーモント州に本拠を置くスタートアップ企業で。eVTOLに関しては、キーとなるイノベーションである電動推進機構にフォーカスし、残りの部分は出来るだけ従来の固定翼航空機の考え方を踏襲し、FAA(米国連邦航空局)の認可を得るためのハードルを可能な限り低くしている。これは、ティルトタイプを選択しているJovy AviationやArcher Aviationとは別の道を歩んでいます
<性能>
*最大離陸重量は7000ポンド(約3.18トン)
600ポンド(約272kg)の搭載量航続距離250マイル(約463km);1500ポンド(約680kg)の搭載量では航続距離200マイル(約370km)
*巡航速度は時速145マイル(約269km/h)
*リチウムイオンバッテリーの容量330kwh充電時間は約1時間)
*上記の性能は、エネルギー消費の激しい離着陸の時間を、通常の操作では40秒間に制限していることから得られる
<機体仕様>
搭乗人員はパイロットを含み6人、貨物仕様の場合は200立方フィートの貨物の搭載が可能
*垂直離着陸用の4つのプロペラは巡航時には前後方向に揃えられて停止し、空気抵抗を最小化していると
*推進系には、ナセル構造はなし。プロペラは固定ピッチ
翼を使った巡航飛行には胴体後部のプッシュタイプのプロペラが使われる
*滑走スペースさえあれば離陸と着陸、又はそのどちらかをエネルギー消費のはげしい垂直離着陸をしないで離着陸ができる
<開発体制>
*既に5.11億ドルの投資を得て350人を採用して開発を継続しており、他社との合併・提携は不要。投資している企業には、アマゾンClimate Pledge基金の他、Aliaを発注しているUPSUnited Therapeutics 、Blade Air Mobilityなどがある
*Beta社は、モーター、インバーター、バッテリー、フライトコントロール・システム、機体仕様(aircraft configulation)などに関わるベストな会社を選定し、自社でこれらを統合することを行っている
<開発目標>
*最初の耐空証明取得を目指す機体は、2022年に初飛行を行い、2024年の終わりにFAR Part23(コミュータータイプの航空機区分)の耐空証明の取得を目指している
*Beta社は、パイロット二人乗りの実験機を制作し、2020年2月から予備的なテスト開始している;この実験機は2ペア(4台)のティルトするバリアブル・ピッチのローターを装備しており、フライトコントロールのテスト機として使用している。これで、バッテリ・マネージメント、fly-by-wireシステム(コントロール信号の伝達を電気で行うシステム)の評価、離着陸から巡航飛行の間の遷移状態の評価(オスプレーの事故は大半この遷移状態で起きている)などを行っている
<受注機数>
*Aliaは最初の顧客として旅客輸送ではなく、貨物輸送に絞っている
*受注している会社:①United Therapeutics(米国の臓器製造などを行っている企業/60機;②Blade Air Moblity(ヘリコプターを使ったライドシェアの会社/臓器輸送の為にAliaを使用する計画/20機;③UPS/オプションを含め160機予約(内10機は2024年に受領)
<特記事項>
Aliaは、エアタクシーではなく、テスラの急速充電ネットワーク・スタイル(Tesla Supercharger-style)の航空機版のビジネスモデルを目指している
-「冗長性確保」によるフェイルセーフの設計仕様の採用-
垂直離着陸用の4つプロペラは各プロペラが2台のモーターで駆動され、更に各モーターの巻線は二重になっている
推進用のプロペラはモーター2台で駆動され、各モーターは二重巻線となっている
垂直離着陸用の4つのプロペラと巡航飛行用のプロペラは、夫々5つの独立したバッテリーで駆動している
*既にワシントンにあるAliaのシュミレータ(飛行テストで得られた実際のデータが入れられている)で A&W社の熟練パイロットが操作を行った感想は、「この機体が殆どの飛行モードで如何に在来機の操縦と変わらないかということと、在来機との違いはどこのあるかが分かった」二つのタッチスクリーンと合成画像(synthetic vision)のPFD(Primary Flight Display/飛行に必要な情報を集中して表示する装置/現在の大型旅客機には必ず装備されています)は通常の飛行データに加え、バッテリーとモーターに関わる情報が表示できるように変更を行っている
*インフラへの投資;
当面、空港やVirtiport(空港以外のVTOL機の離発着場所)に必要なインフラが整って無いことから、空港における燃料搭載用のトラックに似た「充電トラック」を開発。また、
機体が離着陸できる高いデッキ乗員休養室飛行計画室(planning room)、充電設備(機体と車両)を備えた「airport in a box」を開発し、発注した顧客には配置する計画

3.Volocopter
Volocopter社は、ドイツに本拠を置くベンチャー企業。2011年、航空業界に参入し、空飛ぶ自動運転タクシーの開発を進めている
<性能>
*航続距離:約35km
*最高飛行速度:約70マイル(約130km/h)

<機体仕様>
*搭乗人員はパイロットを含め3名
*18ローターのeVTOL

<開発体制>
2016年、ドイツ当局から2名乗りボロコプターの暫定ライセンスを取得。また、ドイツの自動車大手、ダイムラーからの出資も受けている
*ドイツのメディアによれば、SPACを通じて買収される話はキャンセルとなった。現在、あらゆる種類の投資家にオープンになっている
。従って、同社は、資金繰りには未だ問題を残している
VoloCityのテストフライトに成功すれば、他のライバルに先駆けてエアタクシーサービスを開始することが出来る
従業員400名を確保し、2021年7月、DG Fugzeugbau (ドイツのグライダー製造会社)を買収し、eVTOLに関わるEASAの製造認可(Production Organization Approval)を取得した
<開発目標>
*ドイツの物流会社DB Schenker(出資社でもある)と共同作業を行い、無人の貨物eVTOLであるVoloDrone を計画しており。CertificationはVoloCityに続いて行うことにしている
*2021年に飛行するとされていたVoloCityは、未だグラウンドテストの状況で、Certification取得は2023年にずれ込んでいる
*2021年、より航続距離の長いVoloConnect(2席、翼付き)をローンチさせた。2026年に型式証明を取得する計画

*2020年代半ばには、エアタクシーサービスを以下の国でローンチするアグリーメントを締結:中国、フランス、イタリア、日本、サウジアラビア、韓国

<受注機数>
*自動車メーカーのGeelyとのジョイントベンチャーを作り、150機のオーダーを得ている
JALは100機の導入を行い、大阪万博で運用されることになっている
Follow_Up:2022年8月日経新聞_空飛ぶクルマの有人飛行、三菱地所・JALなど2024年度に都内で実証実験

<特記事項>
*ボロコプター社は、ルフトハンザと共に、VoloIQ booking というアプリケーションとデジタル・バックボーンの開発を行っている
*フライトシミュレーターの会社であるCAEとeVTOLのPilot Training Programの開発を行っている
SkyportsなどのパートナーとVoloPort Landing Infrastructureの開発も行っている
2024パリオリンピックでは、トライアルでエアタクシーのサービスを計画している
シンガポールローマ、及びサウジアラビアのNoem Smart cityでエアタクシーのサービスを計画している
*同社は今回、ドバイ当局と協力し、空飛ぶ自動運転タクシー初のフライトテストを実施。フライトテストは、ドバイの厳しい気候条件の下で、信頼性を確認するのが目的。ドバイの航空関係当局が求める前提条件を満たしたため、テストが許可されている(ドバイでのテストフライトの動画

4.Lilium

Lilium社はドイツのミュンヘンをベースとする会社で、見るからにユニークな姿をした電動航空機を開発しています。既にその姿はウェッブサイトに載っていますので垂直離着陸の様子をご覧になって下さい
<性能>
*航続距離:250km以上
*巡航速度:280km/h
<機体仕様>
搭乗人員はパイロットを含め7
*推進用モーターが装備された主翼・前翼と胴体後方下面のカナード翼(主翼とは別の小さな翼)
*推進用モーターは36ヶあり、離着陸の時はこの推進装置全体が翼の所で
折れ曲がる
*推進システムは独自の「Ducted-Fan Vectored-Thrust」を採用している;
<開発目標>
*以下の様な野心的な生産目標を掲げています、が実現するか?

<開発体制>
*2020年にEASAとの間で、このeVTOLはVTOLに関わる特別条件(Special Condition)でCertificationを取得することに合意している
*2022年、パイロットを乗せた7席のPDR(Preliminary Design Review)を行うとともに、無人の5席の技術実証機(Technology Demonstrator)の飛行テストも継続する
*2021年は750人で開発を行っていたが、2022年には950に増員する計画
*資金流出は続くものの、9月に発表されたSPAC Quell Acqusition社との合併で得た5.84億ドルを得て、2024年末に予定しているLaunchに必要な資金は確保
*Lilium Jetの詳細なデザインは、2022年に始まり2023年に初飛行を目指している
*コックピット・アビオニックス、及び飛行制御システムはHoneywellから提供を受け、胴体と主翼は、東レから複合材料の提供を受けてスペインのAcituri社が製造する
*PDR(Preliminary Design Review)を行った後、Liliumは、他のサブシステムに関しては、機体構造製造に関わる一次プライアー^Supplier(Tier1)と手を組むことになっているが、パンデミック後のサプライチェーンの混乱とインフレが購入価格とリードタイムに与える影響を慎重に見極めている
*Jovyが自動車用のバッテリーを使っているのに対し、LiliumはドイツのCustom Cells社の新開発の高性能なバッテリー(High-energy-dencity Silicon-anode battery)を採用し、Lilium Jetの野心的な性能目標を達成しようとしている。この高性能な蓄電池の最初のデリバリーは2022年を予定しているが、現在モジュールレベルのテストを行っている段階にある
<受注機数>
*AZUL Brazilian Airlines社から220機受注

<特記事項
開発中の高性能な蓄電池の採用に関しては、価格や製造できる量などに疑問が残る
*Lilium社はUAM(Urban Air Mo)よりも地域航空で使われることを狙っている;旅客・貨物の既存の航空会社への販売の他、2025年にドイツの空港及びフロリダ州のインフラの会社であるFerrovial社のサポートを得て地域航空のネットワークを作る。尚、Ferrovial社はスペインと米国でVirtiportを建設することを計画している

5.Archer Aviation

カリフォルニア州パロアルトに拠点を置くオンライン求人マーケットプレイス「Vettery」も創業したAdcockとGoldsteinの2人が2018年にArcher社を立ち上げました。会社の概要はArcher Aviationのホームページをご覧ください
<性能>

*航続距離:60マイル(約111km)
*巡航速度:150マイル(278km/h)
<機体仕様>
*搭乗人員はパイロットを含め5人
*固定翼
*プロペラ6基;プロペラは全てチルトタイプ(Tilt Type)になっており、プロペラ部分を傾けることにより垂直離着陸と巡航時の推進用の両方を兼ねている
*プロペラを駆動するモーターは12ヶ(各プロペラは2モーター)
*バッテリーはリチウムイオン電池

<開発体制>
*2021年9月7日、FAAの型式証明取得の第一段階であるG-1認証を受領。FAAとの間ではPart23ベースの認証を取得することで合意している
*デモンストレーター機による最初の浮上飛行は2021年12月に行われた
*現在量産機の設計段階にあり2023年には公表予定
*2021年9月、SPAC Atlas Crest Investment社と合併し、8.58億ドルの資金を得た
*現在200人以上の開発要員を擁しており、動力伝達機構(Powertrain)と飛行制御機構(Flight Control)のソフトウェアを開発中。
*サプライチェーンについては、自動車メーカーのStellantis社と共同作業を行っており、製造プラントの選定は2022年に行われる
開発目標>
2024年後半までにこのeVTOLでPart135エアキャリアの認可を取得しエアタクシーを自社で運営する(1回の短時間の充電で、往復25マイル(約46キロ)程度の飛行を想定している)
*Mobile Booking(スマホなどによる予約)のアプリについては2023年に公表する計画
<受注機数>
*United Airlines:200機+オプション100機
<特記事項>
*この機体の用途としては自社で運営するエアタクシーの他に、航空会社にも販売する
*機体が頭上を通過しても殆ど聞こえない様な低騒音(45DBA;DBAとは通常使われる音圧の単位「デシベル」を人間の周波数別の感度で補正した単位)を実現

6.Vertical Aerospace VA-X4

Vertical Aerospace社社は、英西部ブリストルを本拠とし、人工知能(AI)を駆使して電力事業を展開するOVOエナジーの創業者のステファン・フィッツパトリック氏が2016年に設立しました(宣伝用の動画
<性能>
*最高速度:325km/h
*航続距離:160km

<機体仕様>
*搭乗人員:パイロットを含め5人
固定翼
*離陸用に8個のプロペラ;推進用に4個のプロペラ
<開発体制>
*2021年、
SPAC Broadstone Acquisitionに約3億ドル(内2億ドルはDebt Financing/債権金融)で吸収合併されたのち、12月16日に米国証券取引所に上場された。
*競争他社のSPAC取引に比べればやや見劣りするものの、VA-X4エアタクシーの認可取得と、2024年末までに生産を始めるに必要な2.5億ドルは確保できている
*このSPAC取引では、9千4百万ドルの投資家の中に、サプライヤーであるHoneywellロールスロイスマイクロソフトと、顧客となるアメリカン航空と、航空機リース会社であるAvolonが含まれている
*計画に入っている資本コストが実質的に少なくて済んでいるのは、サプライヤーとなる企業が負担する技術開発費が5億ドルに相当するからである
*現在260人以上の開発要員は、バッテリープロペラのシステムに焦点を当てて開発している
*ロールスロイス社は電動推進システムを供給し、Honeywel社はコクピット・アビオニックスとフライトコントロースシステムを供給してくれることになっている
GKN Aerospace社は、ワイヤリングシステムと主翼を担当する。主翼の材料についてはSolvay社からの複合材を使用することになっている。他のサプライヤーについてもいずれ明らかにされる
2022年には製造拠点を選定することになっており、場所はブリテン島か、北アイルランドか、アイルランド(共和国)になると思われ、2026年には年間生産機数を1000とする野心的な目標を掲げている

<開発目標>
*2018年にVA-X1(1人乗り;Ducted Fan)、2019年にVA-X2(2人乗り;マルチコプター)の技術実証機(Demonstrator)を飛行させた
*2024年にFAA(米国連邦航空局)から型式証明を取得する計画
*フライトテスト用のVX4は少なくとも最初は無人機となる予定
*型式証明を取得するための原型機は2023年に飛行を予定している
<受注状況>
*2021年11月時点で1350機
*主な受注先:アメリカン航空(250機+option/100機)、バージンアトランティック航空(50機+option/100機)、JAL(50機+option/50機)、Avolon(アイルランドのリース会社;310機+option/190機)、丸紅(200機予約注文)
*JALは50機まで購入またはリース、更に追加で最大50機導入可能(2021年10月22日日経新聞情報)
Follow_Up:2022年4月9日日経新聞記事_マレーシアのLSS・キャピタルAがAvolon社より100機以上のリース導入で基本合意
<特記事項>
騒音は実測でヘリコプターの数百分の

Follow_Up:2022年12月13日「英バーティカル社の空飛ぶタクシー、運用費ヘリの3割_CEOが表明、大阪万博でデモ飛行

7.EHang
EHang(イーハン/亿航)は2014年中国広東省広州市で設立され、航空撮影、写真、緊急対応、調査ミッションのために自律型のドローン、eVTOLを開発・製造している企業。自律型二人乗りの原型機EH216はデモンストレーション飛行を行っています(動画
<性能・機体仕様>
EH216;
VT-30;
<開発体制・開発目標>
*2021年になってEHang社はビジネスプランの変更を行い、機体を製造し販売する業務を売却し、機体を運用するビジネスに切り替えた
EHang社はビジネスを変えたために、機体の販売はEH216Fという無人消防機のバージョンであり、顧客は長期契約の政府機関である
EHan社は、2021年に開発した主翼付きのeVTOLで航続距離の長いVT-30の飛行テストを始めた
*2021年12月までに、中国内7ヶ所(広東ー香港ーマカオを含むグレーター・ベイエリア)で、2800回の運用トライアルを実施した。トライアルは、引き続き広州、深圳で続けられており、今後、珠海、珠江デルタエリアでも実施される

二人乗りの自動運転のEH216は、2022年には中国規制当局(CAAC/Civil Aviation Administration of China)のCertificationを取得できると思われる。尚、CAACは既に「旅客ドローン」に関する規則を発行している
*他の国々のおいて既に無人飛行のデモンストレーションを行ったものの、商用飛行の認可を得るには米国や欧州の規制当局の型式証明取得に相当長期間が必要と思われる
*CAACの承認を得てEH216の型式証明取得のトライアルを実施することに併せ、EHang社による最初の商用サービスを実施する100の路線を公表した
*航続距離の長いVT-30 を使って、グレーター・ベイエリアで都市間(最大300km)のエアタクシーサービスを開始する計画

<特記事項>
*EHangは明らかにUAM(Urban Air Mobility)界のリーダーと言えるものの、それは中国内だけのこと。中国以外の国で商用航空機として運用する為にはFAAまたはEASAの型式証明が必要となり、規制の枠組みが異なるために取得は難しい
*仮にEHang社がCAACのCertificationを取得したとしても、EHan社は、Volocopterが成都に設立した中国の自動車メーカーGeelyの投資会社との合弁会社と競争しなければならない。また、Liliumも投資会社Tencentの助けを借りて中国に進出する計画を持っている

8.Eve
米国に本社のあるEve社は、2020年10月に航空機製造会社であるエンブラエル社からAAM(Advanced Air Mobility)開発部門が独立(spinoff)した会社
(参考)エンブラエル社は1969年創業の航空機製造の会社で、JALもエンブラエル社製の小型ジェット機E170型機、E190型機を運航しています(Eve社のホームページ
<性能> ネット情報より
*最大離陸重量 :2200 ポンド(約1トン)
*運用コスト:50%減(対ヘリコプター)
*騒音:80%減(対ヘリコプター)
<機体仕様> ネット上の画像より
*搭乗人員:パイロットが含め5人
*固定翼
*垂直離着陸用プロペラ4基、推進用プロペラ2基
<開発体制・開発目標・>
2021年12月21日、Eve社は、2022年にSPAC Zanite Acqisition社と合併を行った。この合併によって調達資金は5.12億ドとなったが、ここにはRepublic AirwaysSkyWest AirlinesAzorra(航空機リース会社)、Falco regional Aircraft(航空機リース会社)、BAE Systems、ロールスロイス、などからの3.05億ドルが含まれている
*この取引によりEve社は24億ドルの企業価値を得、取引の後には5.12億ドルのキャッシュを手に入れることになった。これによりeVTOLのエアタクシー事業を2026年までに開始する計画に十分な資金を調達できたことになる
(参考) Zanite社はKenneth C. Ricci氏に率いられており、彼は、小型機のチャーター会社であるDirectional Aviation社を率いている。
*合併後もエンブラエル社はEve社の株式の82%を保有しており、ブラジルの技術規制当局(ANAC)との間の型式証明取得に関わる強力な関係、製造やコスト面でのメリットが期待できる
(参考)Eve社はブラジルの規制当局であるANACに自由にアクセスできる。この結果、FAAとEASAの規制当局間の相互承認の恩恵が受けられることになる

*機体の生産は市場の大きい地域には組立キットにして提供し、現地生産でオペレーターのコストを低減することを計画している
*Eve社のビジネスプランは以下の4本の柱で構成されている;
機体の製造及び販売(2026年に初号機引き渡しを始める)
他社のeVTOLを含めてのサービス及びサポートの実施
③ UAM(Urban Air Mobility)
に関わるマネージメントシステムの提供
Eve社は自身で機体を運用しないが
、eVTOLを使ったオペレーターの運航管理、リスク管理に関わるサポートを行う
BAE Systemsロールスロイスに加え、Eve社がオーストリアの機体構造の会社であるFACCとの協力関係を築いている。但し、FACCとはサプライヤーセレクションの段階である

<受注機数>
*Eve社は、既に17の顧客から1735機の予約注文(LOI/Letter of Intent)を受けている。この発注数はAAM
市場で最大。顧客は、エアライン、ヘリコプター運航会社、航空機リース会社、ライドシェアの会社(アジア、ブラジル、フランス、英国、米国)に亘っている
Halo Aviation(ブラジルのヘリコプター運用会社、ニューヨークとロンドンに拠点を持っている) 200機、Helisul Aviation(ブラジルの会社で、ラテンアメリカで最大のヘリコプターオペレーター) 50機
*2021年12月6日、オーストラリアのSydney Seaplanes 50機
Follow_Up;2022年10月日経新聞、イブ_ブラジル「空飛ぶ車」の開発前進・ユナイテッド航空が出資

Follow_Up;2023年6月日経新聞、ニデック、空飛ぶクルマ部品に参入 エンブラエルと合弁
Follow_Up;2023年10月日経新聞、空飛ぶ車の受注2850機 ブラジル企業、サンパウロで製造
9.City Airbus

*2021年9月、Airbus社は関連会社であるCityAirbus社のeVTOL「CityAirbus NextGen(上の写真)」を発表した。この機体は主翼付きのマルチローターで、都市内で運航することに焦点をあてて開発された
<性能>
*航続距離:80km
*巡航速度:120km / h
*騒音レベル:上空通過時/65DBA未満、着陸時/70DBA未満
<機体仕様>
*パイロットを含め5人乗り
*固定翼、V字型の尾翼
*8基の電動ローター(Tiltタイプではない)
<開発体制>
*2019年からShrauded-roterの原型機で地上のテストと飛行テスト(合計1,000km)を行っていた
*2021年からCityAirbus NextGenの詳細設計フェーズに入り、プロトタイプの最初の飛行は2023年に計画(宣伝用の動画

<開発目標>
初飛行は2023を予定しており、2025年に発行されるVTOLに関わるヨーロッパの特別規定(Special Condition)に準拠して型式証明を取得する計画になっている
*この機体の性能目標(航続距離、巡航速度など)は、他社の翼のあるeVTOLより下回っているものの、簡素化された設計により、UAMミッションの95%に十分な性能が提供されると考えている

10.Wisk  Aero
2019年米グーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏が出資する米キティホークとボーイングが2019年に共同で設立
wisk社のホームページ
Follow_Up_2022年2月13日(日本で「空飛ぶタクシー」 ボーイングなど出資の新興
<性能・機体仕様>
*自律飛行、3から4人乗り
*航続距離:100kmプラス
<開発目標>
*大都市のエアタクシーとしての利用を目指す。目標とする料金は、1km当り1.25USD(←ライドシェアのウーバーより安い!)
*事業開始から5年後に2,000機を投入し、年間約4,000万人の利用を目指す
<開発体制>
ボーイング社のエンジニア訳100人も開発に参加ボーイングが経験を持つ自動運航やFAAの認証取得に関してアドバンテッジがある

11.Hundai
韓国の自動車メーカーであるHyundaiは、電動航空機のファミリーを開発する為に2021年11月に新会社のSupernal社を設立し、株主(となっている会社?)と共に、既存のトランジット旅客の一貫輸送(intermodal)ネットワークを構築する為のAAMの開発を行うことになった
<開発目標>
*米国を本拠とする「Supernal社」はそのeVTOLエアタクシーを2024年に型式証明を取得し、2028年に商用運航を始めることとしている

12.OverairOverair社のホームぺージ
<性能>
*航続距離:160km以上
*巡航速度:320km / h
*騒音レベル:30DBA以下
<開発目標>

13.Honda

本田技術研究所 新モビリティドメイン統括フェロー 川辺俊氏【インタビュー】

*目標:都市間の輸送を担うことから航続距離400kmを狙う。
川辺氏は、エネルギー供給源にタービンを想定しているが、脱炭素を実現するには水素を燃料とする必要があります。しかし、現在の技術ではLPGなどの燃料に比べると水素の燃焼速度が速いので、技術のハードルはかなり高いと思われます。ただ、三菱重工グループが発電用ではありますが、水素ガスタービン開発を行うようなので、将来的には可能性は十分あると思われます

Follow_Up:2022年3月4日、ヤマハとトヨタが「水素V8エンジン」を本気でつくった!という記事が出ていました()

*A&Wの記事でランクに入っていなかった電動航空機
〇Skai米国マサチューセッツ州のAlakai Technologiesが開発。NASAとパートナーシップを結んでSkaiを開発
性能
*最大離陸重量 :2267kg
*搭載可能重量: 454kg
航続距離 :300マイル
*巡航速度:時速 100マイル

機体仕様
*パイロットを含め5人
*6モーター駆動、燃料電池3台、
航法システムは3重装備
開発目標2020年末にFAAの認証(FAR Part21.17b)を目指していたが、未だ取得していない模様
特記事項
*リチウムイオン電池のエネルギー密度は
0.6MJ/kgに対し燃料電池のエネルギー密度は147MJ/kg(リチウムイオン電池の245倍
(注)MJ(メガジュール):エネルギーの単位
Alakai社はこの機体を製造するだけでなく、エアタクシーの事業も運営する計画
*席当たりのコストはアバスのヘリコプターAS350の1/8になると言っている

〇Advanced Air Mobility

Advancesd Air Mobilityに関しては、沢山の用途や機体の仕様が提案されているが、どのアイデアも成功するか否かは分からない状況にある

〇Autoflight

中国・上海ベースのAutoflight社は、2021年に1億ドルを調達し、4人乗りのeVTOLであるV1500Mの開発を開始した。この会社は、10月にプロトタイプを飛行させ、2024年に型式証明を取得する計画を立てている

〇HT Aero
HT Aero社は、中国のEVメーカーであるXPenが所有し、5億ドルを投じて2024年にeVTOLを市場に投入する計画。
この機体は商用エアタクシーではなく、2ローターの「空飛ぶスーパーカー」としての市販を目指している

Karem Aircraft韓国の防衛産業であOverair社は、Hunwha System社のバックアップを得てKarem Aircraft社を設立し、2023年早期にデモンストレーターを飛行させ、2026年にはButterfly quad-tiltrotorの機体のCertificationを取得することを目指している

〇日本の若き起業家による電動航空機開発へのチャレンジ
*スカイドライブ動画
Follow_Up:2022年9月_米モーターショーに「空飛ぶバイク」登場

*テトラ・アビエーション会社紹介のURL

その他のユニークな電動航空機

〇海面上を低空で飛行し地面効果による揚力増加で経済性を高めることを狙った電動航空機

長い海岸線に点在する多くの都市を持っている国では有用であると考えられる。但し、海上交通や沿岸漁業がが盛んな国は船舶との衝突リスクが無視できないと思われる

〇通常の航空機のエンジンのみを電動とした実験機(ロールス・ロイス製)

英国のロールス・ロイス社が、電動航空機による飛行速度記録の樹立を目的として開発されました。英国主催のCOP26開催前に初飛行に成功しています。航空機名は「Spirit of Innovation」
因みに、プロペラ機での最速速度記録は第二次大戦中ドイツで開発された戦闘機メッサーシュミット(ME109)です。時速755.13km/hを記録しています

〇超電導モーター推進の未来の航空機

超電導でモーターを使えば極めて大きなトルクを発生させることは可能ですが、超電導用の冷却装置を装備する必要があると考えられ、また燃料として液体水素を使うこととなれば燃料タンクの設計も中々ハードルが高いと思われる

おわりに

電動航空機の開発状況については、現役を離れて長い私にとっては情報収集に限界があり、開発をしている各社の現在の開発状況の記述が不揃いになってしまい残念でなりません。今後、新しい情報を得次第増補、修正をしたいと思っています

電動航空機が普及するには、運賃に直結する席当たり運航コスト(Seat mile cost/詳しくは私のブログ「エアラインというビジネス」をご覧ください)をできるだけ下げることが必要になります。ただ、既に大手航空会社を含む運航会社が大量機数の購入予約を始めていることは、ある程度の見通しが立っていることと思われます。しかし、これまで安定電源のベースになっていた火力発電と原子力発電の動向が電動航空機の燃料となる電気料金に大きく影響するのは間違いなく、購入予約を行った各社の一番の心配事ではないかと想像しています。
また燃料電池や水素を使ったタービンや内燃機関による電動航空機も、水素の値段や供給体制も未だ確たる未来の姿が定まっていないので、購入を躊躇する運航会社も多いと思われます

今後、開発の進んでいる会社が直面する大きな壁は、開発の最後のステージで取得しなければならない機体の型式証明の取得です。航空機の発展につれ、事故を起こさない為の型式証明の検査がより厳しくなる傾向にあり、この検査を通らない限り乗客を乗せての運航は出来ません。日本期待の三菱航空機「スペースジェット」もこの壁に阻まれて長期間開発が頓挫してしまいました

日本での電動航空機の導入には、多くの航空機とヘリコプター、無人ドローンが飛び交う空の交通ルールの整備が不可欠です。これから規制当局(JCAB)がルール設定をすることになりますが、過密度の高い日本の大都市ではライドシェアやエアタクシーの運航を可能にするルール設定はかなり難しいと想像しています
また、日本独自の電動航空機の開発はもう少し先になると思われますが、日本は電動航空機に関わる要素技術では最先端にあることは間違いないと思います。既に述べたバッテリーモーターなどの高い技術水準の他に、インバーターの心臓部に使われているSiC(シリコンカーバイト)製のパワー半導体機体の軽量化に必須の炭素繊維は日本のお家芸であり、日本が全世界の電動航空機普及の恩恵を受けるのは疑いの無いことだと思います

Follow_Up:2022年1月2日・日経新聞記事(脱炭素、本命担う先端技術は 薄型太陽電池や電動航空機
Follow_Up:2023年11月6日・日経新聞記事(空飛ぶ車、離陸近づく 新興30社が軽量化・航続距離競う)

以上

COVID-19と日本の近未来

はじめに

言わずもがなですが COVID-19 とは現在も終息していない「新型コロナウィルス」を指す医学用語(Coronavirus Disease 2019/2019年に確認されたコロナウィルスによる病気)です。この疫病が昨年末に中国の武漢で発生したことが伝えられてから半年しかたっていない現在、ほぼ全世界に蔓延し多くの死者を出している(ref:COVID-19_世界の感染者数)と同時に、世界中の経済が2008年に起きたリーマン・ショックを遥かに超える大きなダメージを受けています

参考:現在の日本の感染状況統計

COVID-19の走査型電子顕微鏡写真
COVID-19の走査型電子顕微鏡写真

内外のメディアに載った有識者の意見を総合すると、このコロナ禍によって世界規模の「パラダイムシフト」が起こると予言している人が多かった様に思います。パラダイムシフトという用語は、政治、経済史などでよく使われるものですが、一般に「ある時代・集団を支配する考え方が、非連続且つ劇的に変化し、社会の規範や価値観が大きく変わること」とされています。「ペスト」という疫病が、欧州の歴史におけるパラダイムシフトのきっかけとなったことは良く知られています

また「ウォール街大暴落(1929年10月24日/“暗黒の木曜日”)」も、これが世界中を巻き込む大恐慌に発展し、自由放任の資本主義に修正が加えられるとともに、その後の第二次世界大戦の誘因になったことから考えてパラダイムシフトのきっかけとなったと言えると思います

今回の COVID-19 の蔓延によって、ここ数ヶ月の世界の混乱ぶりを見るにつけ、私も昨年までの政治の仕組みや経済の常識が通用しなくなっていることは確かだと思います
特に日本においては、戦後世界に冠たる高度経済成長を成し遂げたことによる「自信過剰」からと思われますが、旧態依然たる行政の仕組み社会の仕組み人々の考え方、などが先進国としては稀なほどに温存されてきた結果、COVID-19 の蔓延を機に一気にその後進性が露呈され、パラダイムシフトと言えるほどの大変革が起こるのではないかと思われます

以下は、新聞・雑誌、その他のニュース・メディアの記事を拾い集めたものを集約したものが大半ですが、一部私自身の考え方も加えています(青字で表示)。当たらずとも遠からずになっていれば幸いです

サプライチェーンの構造改革

鄧小平改革以降中国は、共産主義の体制(強権的な政治・経済の運営)は維持したまま経済の門戸を開くとともに、各種製造業を急速に発展させるため外国資本の導入を積極的に進めてきました(ただ、最新技術の中国への移転強要外国資本の統制も併せて行ってきました)。その結果、近年多くの先進国の最終製品に組み込まれる中間部品の製造や日用品(生活必需品を含む)の製造に関して「サプライチェーンの要としての役割」を果たすようになっていました
勿論、国際競争に晒されている多くの日本企業も、コストを極限まで圧縮する為に最終製品の在庫を極限まで減らすことが一般的となり、中国における製造ラインの停止は即最終製品の出荷停止に繋がることになりました。また、軽量で高価な部品、製品については航空輸送による輸送時間の短縮も行っている為、航空旅客便の大量減便(通常考えられるより旅客便による貨物輸送のシェアが高い)がサプライチェーンの瞬時の断絶招くこととなりました

特に今回のコロナ禍にあっては、医療品のサプライチェーンが寸断されたため医療現場での混乱のみならず、政府が一般国民にマスク着用を強く要請しながらマスクが市場から消えるという笑い話のような事態を招くこととなりました
因みに、5月12日の日経新聞に載った日本における医療品の海外依存度は、以下の表の様になっています。これではパンデミック発生の際に国民の命を守るためのあらゆる活動のアキレス腱になることは必定です。
拙宅でもマスクの調達が叶わず途方にくれましたが、若い頃洋裁を習っていたワイフが急遽ネット情報をみてマスクの制作を行い事なきを得ました(現在も快適に使用中!)

国内で流通する衣料品の海外依存度

1~2月の段階では、武漢のコロナ蔓延に対して、中国に進出している日本の企業などは無料で中国にマスクを送っていました。因みに、日本の中国語検定の事務局はマスク2万枚と体温計を感染者が急増する武漢へ支援物資として送りましたが、その箱には山川異域、風月同天」と書かれていました。その意味は「地域や国が異なっても、風月の営みは同じ空の下でつながっているという意味で、元は天武天皇の孫である長屋王が中国へ伝えた詩の一節です。勿論、中国のSNSでも話題になり、日中親善の役割を果たしていました

ところが、日本に於いてコロナが急速に蔓延した4月以降は、日本の医療品供給は急速に逼迫し、特に最前線の医療現場では枯渇する寸前の状態まで追い詰められ(特に代替のきかないN95マスク/患者に触れなければならない医師、看護師の必需品)医療従事者が危険にさらされる事態になりました。また一般用のマスクは店頭からほぼ消え、極めて高価な密輸品が横行することになりました(最近観たテレビのドキュメンタリーによれば、目ざとい中国の商人は、マスクなどの医療品の輸出で莫大な利益を上げていたそうです)
中国政府は、国内の蔓延が一段落した後、こうした医療品の供給を海外への援助という形で政治的に利用していました
<参考> マスク外交、世界に波紋_中国、120カ国送付 米は「買い占め」 欧州は警戒、批判強める

このコロナ禍による大混乱が一段落した後、大企業は自らサプライチェーンの大幅な組み換えを行うことは間違いの無いと考えられます。コストだけでなくパンデミックを含め各種災害に強いサプライチェーンを築くにあたって、中国以外の国への展開だけでなく、国内企業への回帰も期待したいところです。
労働集約型の事業の国内回帰は人件費負担の増加を招くことも考えられますが、これは AI(人工頭脳)やロボットの活用で乗り切ってほしいと思います。こうしたことが結果として日本の将来にとって喫緊の課題である「地方創生」、「少子化の克服」に繋がるのではないでしょうか

また、どの様な事態になっても、国民の命を守ることが国策の第一優先事項であることは当たり前のことです。今回明らかになった医療品、特に医師、看護師など最前線の医療現場で命を預かっている人たちの医療品については、国内生産基盤の確保のための補助金の交付、国家備蓄のための予算措置が必要になると思われます。また、重症患者の命に繋がる人工呼吸器やECMO(extra-corporeal membrane oxygenation/人工肺とポンプを用いて心臓や肺の代替を行うもの)についての国家備蓄が必要なことは、論を待ちません

ECMO

<参考> サプライチェ-ンとは
サプライチェーン(supply chain)とは、製造業において、原料の調達、商品の製造から販売まで全ての工程をひとつの連続したシステムとして捉える考え方で、「供給連鎖」と訳されることもあります。トヨタの合理的な生産システムである「看板方式」を研究したイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラットが、1984年に出版したビジネス書「The Goal」はこのサプライチェイン理論のさきがけとなり、現在に至るも製造業の常識になっています。ごく簡単に要約すると、製造の過程で発生する在庫を減らすことがコストを下げ、製造期間を短縮させる唯一の方法であることを述べています

Follow_Up(2020年9月8日):コロナで生産回帰 補助金競争率11倍 マスクや医薬品

Follow_Up:(2020年12月16日)ネット通販 物流陣取り合戦 Amazon埼玉、楽天は千葉

IT(インターネットを使った技術革新)化の加速

1 行政のIT化
日本が、他の先進諸国に比べてビジネスプロセスのIT化が遅れていることは、予てから国際的なビジネスを行っている人々から指摘されていました。政府は今後の経済発展を加速する為には企業だけでなく行政事務一般についてもIT化は避けて通れないとして経済産業省を中心としてこれまで多くの関連法を整備してきました(参考:IT関連法令リンク集)。この中で最も基本となる法令は、昨年末に施行された官民データ活用推進基本法です。しかし下図が示す通り、現在の5万件以上ある行政手続きの内、オンライン化されているものは2019年3月末時点でたった7.5%に過ぎません;

行政手続きのオンライン化

この実態を如実に示したものは、4月30日に成立したコロナ禍に関わる第一次補正予算で支給が決まった「特別定額給付金」(国民一人当たり10万円を支給)の事務手続きの大混乱でした。
この原因は色々あるとは思いますが、要約すれば政府は1967年に施行された住民基本台帳法に基づき世帯単位でまとめて一つの銀行口座に振り込むこととし、書類提出による申請と、マイナンバーカードによるオンラインでの申請の二本立ての申請を認めていました。しかし、いずれの申請でも自治体の中で電磁媒体による情報の交換が必要となり、結果として相当程度の人手に頼る部分が発生し事務作業が大幅に遅れてしまいました
これは、地方自治体の情報システムが、①住民記録や税、福祉などのマイナンバーカード系、②非公開文書主体の専用線系、③公開情報のインターネット系3本建ての独立した運用になっている(2015年に起こった年金情報漏洩事件が契機)ことと関係があります。例えばオンライン申請では、②の端末、児童手当の処理は①の端末を使うことになっており、システム同士の情報のやりとりは、基本的に電磁媒体を使って行うルールになっていたからです
自治体によってはオンライン申請のデータを印刷し職員が目視で確認する作業が必要になったところもありました。6月17日時点で全国84の自治体がオンライン申請の受け付けを停止しました。5月末にオンライン申請を中止した高松市の場合、オンライン申請全体の2割は電話などで確認する必要があったとのこと

米国や欧州諸国では給付金を短期間で直接国民の銀行口座に振り込んだり、中小企業向け融資も素早く実行したりと日本と比べてスピード感が目立ちました。日本では地方自治体の上記の様なシステム上の欠陥が原因で大きな支給の遅延が発生してしまいました。メディアの無責任な報道に惑わされ。役所の実務担当者の怠慢に帰するようなことがあってはならないと思います

<参考>住基カードとマイナンバーカードの違い
住基カード(2007年から発行;有効期限が10年間)とは、住民基本台帳ネットワークシステムと連動した転入出手続きが簡単にできることや、インターネット経由での電子申請に使う電子証明書を格納できるのカードです
一方、マイナンバーカード(個人番号カード;2016年から運用開始)は、世帯単位ではなく個人単位で発行され、これまでの住基カードと同等の機能を持つと同時にオンラインで納税業務などを行える機能を持っています。将来は銀行口座健康保険証などの情報も格納できるようになっています。
上記から分かる通り、住基カードはマイナンバーカードに切り替えることが前提となっており、2016年1月以降新たな住基カードは発行されていない為、現在所有している人も有効期限が切れ次第マイナンバーカードに切り替えられることになっています
マイナンバーカードは、残念なことに発行開始してから既に4年が経過しているにもかかわらず16%程度しか普及していないのが現状です

住基カードとマイナンバーカード
住基カードとマイナンバーカード

世界銀行がビジネスのしやすさを評価する事業環境ランキングの2020年版で、成長力に響く法人設立の分野で190ヶ国中106位、OECD(経済協力開発機構)加盟国37ヶ国中30位となっています。一方、エストニアでは行政手続きの99%がオンラインで完結しており、海外の起業家がネット上で会社設立を済ませられる様になっています
奇しくも今回のコロナ禍によって、白日の下に晒された日本の行政のIT化の遅れに対して、政府としてもこうした後れを早急に取り戻すべく、経済財政諮問会議で議論を始め、行政やビジネスのデジタル化を1~2年で集中的に進めるよう提言し、これを7月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)のたたき台として2021年度予算の概算要求に反映することになっています

マイナンバー制度のロードマップ

今まで行政書類のデジタル化、行政手続きのオンライン化は、「個人情報の取り扱い」、「セキュリティーの確保」、などで議論が頓挫してきた歴史を歩んでいます。一気にエストニア並みにするのは無理だと思いますが、感染症の恐怖を後ろ盾にして?今回こそは欧米先進国並みのIT化を是非実現して欲しいと思っています

*私事で恐縮ですが、先日、住民票と印鑑証明書が急遽必要になり、コンビニに行ってマイナンバーカードを使って5分ほどで入手することが出来ました。ただ、1枚印刷するのに200円も掛かりました。その中にはコンビニへの手数料、回線料、特殊な紙(不正コピーをさせない様になっている⇒電子認証ができれば紙自体が不要)の費用などが掛かっているとは思いますが、いかにも高いと思いました。今や銀行の手続きの大半も自宅のパソコンで完結するのに、どうしたもんかな~というのが私の感想です!

Follow_Up(2020年7月1日):マイナンバーカード情報、スマホに搭載
Follow_Up(2020年7月3日):規制改革会議答申
Follow_Up(2020年7月12日):定額給付金配布作業が混乱した原因
Follow_Up(2020年7月14日):レトロ規制が成長阻む_無人コンビニや薬処方に制限
Follow_Up(2020年7月30日):請求書 完全電子化へ 仕様統一で政府・50社協議、会計・税の作業負担減

2. 企業のIT化
今回のコロナ禍によって、企業は働き方の大変革を迫られました。出社することによる感染リスクの増大に対処するため、多くの企業が「在宅勤務」を余儀なくされました。今まで海外とのビジネストークで使われる程度であった所謂「テレワーク」がごく普通に行われるようになりました。社員は原則自宅で仕事を行い、会議は「リモート会議」と称して関係者がネット上で会議を行い、顧客との対応も全てネットを通じて行うことが珍しくなくなりました。恐らく顧客自身も他人との接触を避けたいと思うことが背景にあるからだと思われます。最初は戸惑う人もあったようですが、何と2ヶ月ほどでこうした仕事のやり方が抵抗なく受け入れられつつあります
<参考>
内閣府が5月25日から6月5日の間インターネットでアンケートを実施し、得られた回答は以下の通りです;
① 全国で34.6%、東京23区で55.5%がテレワークを経験
② 東京23区の経験者のうち9割が継続して利用したいと回答
③ 東京23区の経験者のうち通勤時間が減少した人が56%で、その内72.7%が今の通勤時間を保ちたいと回答

我が家でも同居している次男が、ほぼ毎日リモート会議を行っており、ワイフも全国に散らばっている友人達とのコミュニケーションの手段として時折リモート・ミーティングを設定しています。遅ればせながら私もZOOMというソフトを使って何回か懇親の為のリモート飲み会を設定してみました;

リモート飲み会でのパソコン画面

実感としては、コミュニケーション上は殆ど問題ない様に感じました。むしろZOOMというソフトに備わっている録画の機能、ホワイトボードの機能、チャットの機能(会話とは別にキーボードによるコミュニケーションが可能)などを駆使すれば全員が一堂に会する従来の会議よりは効率的に進めることも可能ではないかと思いました

企業側から得られた「在宅勤務」の問題点については以下の二つのアンケート結果が参考になります;

テレワークの課題
テレワークの課題

問題とされたことは「通信環境の整備」や「社内文書のデジタル化」、「電子決済の導入」を行えばほぼ解決可能と考えられますがが、2~3割の人が「上司や同僚とのコミュニケーション」に問題があったと感じている様です。企業によっては、課やグループ単位の「リモート飲み会」や毎日決まった時間に「リモート・コーヒータイム」を設けることで足りなくなるコミュニケーションを補っているそうです

企業のリモートワークの生産性改善の取り組み例

今回の経験をもとに「在宅勤務」が比較的うまく行った企業の経営者は、今回のコロナ禍が一過性のものではないことを勘案し、上記問題点を解決した上で以下の様な対応を検討し始めています;
① 都心に構えるオフイス・スペースを減らす(⇒賃料の削減
② オフイスの分散化を図る(⇒賃料の削減通勤時間の削減
③ これまで日本の企業は労働基準法を基に勤務管理(労働時間管理、など)を行っていましたが、今後は欧米先進国では普通に行われている「JOB評価(個人別に職務を明示し、その達成度で成績評価を行う)」に切り替えていくことが必要
④ 製造業の現場ではリモート勤務は難しいものの、VR(Virtual Reality/仮想現実) 機器の導入、ロボットの導入などにより、人と人との接触を減らすことが可能

こうした動きは直ぐには起きませんが、今回のコロナ禍の根本的な原因の一つが人口の過度な都市集中にあることは明白なので、中・長期的には企業の【東京一極集中⇒地方分散】の流れができ、その結果として都心部の不動産価格の下落などが予想されます。またデジタル化による労働環境の改革やJOB評価導入による働き方改革は時代の流れに沿ったものと考えられます

Follow_Up(2020年7月4日):富士通・日立など、オフィス面積半減 在宅勤務前提でコスト減
Follow_Up(2020年7月5日);在宅勤務に関わる国際比較;

外出制限解除後の在宅勤務
労働生産性比較

Follow_Up(2020年7月10日):新常態でオフィス変貌_縮小だけでなく分散・3密対策も
Follow_Up(2020年8月25日):ホンダ「ワイガヤ」オンライン、新人600人の挑戦

一方、自宅で業務を行う家族の側からの意見として;
プラス面;
① 通勤時間がゼロとなることから、ゆとりの時間が持てるようになる(特に遠距離通勤者)
家族内のコミュニケーションの機会が飛躍的に増えること(特に夫婦共働きの場合)
夫婦間の家事・育児の分担がスムースに行える(⇔妻の家事・育児負担が減る)
④ 食費の減など家計費負担が減る
マイナス面;
① 独立した部屋が確保できない場合、あるいは子供が小さい場合、業務に集中できない場合がある

こうしたことから、【郊外の一戸建て住宅、あるいは広いアパートの需要拡大⇒子育て負担の軽減⇒出生率の向上】などが期待されます

3. 教育界のIT化
今回のコロナ禍で、教育界はまず最初に厳しい対応を迫られることになりました。2月27日に安倍首相が突然3月2日から春休み期間まで全国の小・中学校・高等学校、特別支援学校の臨時休校を要請しました(首相・臨時休校の要請)。この休校要請は実質的に緊急事態宣言が解除されるまで続き、教育関係者のみならず、子どもを持つ保護者にとっても極めて厳しい対応を余儀なくされました。また、大学や補習校などについても通常の講義は行えず、試行錯誤が暫くの間続きました

しかしながら徐々にインターネットを使った遠隔授業(リモート授業)が開始されることとなりましたが、その授業の充実度には学校ごとに相当幅がある状態が続いています。因みに、公立の小・中学校・高等学校の中にはハード・ソフトのデジタル化が遅れている所も多く;

学校のオンライ環境の現況

双方向のコミュニケーションが必要となる遠隔授業は行えなかったところが分かります。また、今回はコロナ禍での突然の休校要請であった為、教員や生徒の事前の準備が殆ど行えなかった状況であったことも混乱に拍車をかけたと思われます;

双方向の遠隔授業ができたのはたった5%

因みに、私の中学生の孫は私立中学に通っていますが、5月頃には1日6科目の双方向のリモート授業をこなしていました。また、公立の小学校に通っている孫はの塾(プログラム教室)授業では、当たり前のようにリモート環境で勉強に集中していました

一方、大学に関しては、4月以降それぞれの大学の特徴を生かしたリモート授業を行っていると思われます。日経新聞で得た4月18日時点での取り組み状況以下の通りです;

大学のオンライン授業の状況_4月18日時点の情報

東京大学では、リモート化する講義の数は4千を超えるとのこと、準備を行う教授たちの苦労もさることながら、回線の容量を確保するのも容易ではないと想像できます

<参考> 大学のオンライン化の流れ
教育にオンライン化の波_立命館アジア太平洋大学
大学の学びリモート体験・オープンキャンパス代わりに

こうした状況に鑑み、今後 COVID-19 の第二波、第三剥波の襲来、未知の疫病の蔓延に備え、政府としても教育に係る設備投資(大容量のネット環境の整備、パソコンの個人配布、など)やリモート授業を前提とした教育指導要領の改訂、などをここ数年の間に行うことは間違いないと思われます
従って、今回のコロナ禍で経験したリモート環境による授業(講義)のプラス・マイナスの面を整理し、今後に備える必要があると思います;
プラス面
① 大きな教室で行われる授業においては生徒(学生)からの質問は出し難かったのに対し、気軽に質問ができる(ZOOMアプリであれば、チャット機能を使用するなど)

② 教員が提供する講義資料、等が各自のパソコンから電子データで入手可能となる
③ 大学で人気のある授業を公開することによって、学外(他大学生、高校生、社会人)からの受講者を簡単に受け入れることが可能となる(これまで学外の受講希望者は教室容量の制約を受ける)
④ 板書(教員が学習事項を黒板に書くこと)を書き写す必要が無く、授業に集中できる(ZOOMアプリであれば板書の代わりにホワイトボードに書き込めば電子ファイル化が可能)
⑤ イジメ、発達障害、精神症が原因で不登校になる生徒(学生)も授業を受けられる
<参考>
現在、YouTubeで公開されている以下の動画を観ると、不得意で遅れている科目のCatch-Upだけでなく、好きな科目については、学年を超えて学ぶことが可能であると感じました(いい時代になったもんです!)
葉一の勉強動画:https://19ch.tv/

マイナス面;
① 教員と生徒(学生)との対面コミュニケーションが不足しがちになる ⇒ 対面コミュニケーションが必要な生徒(学生)とは個別にリモート面接を適宜行うなどの対応が考えられる
② パソコンに習熟していない教員は対応に苦労する(老教師にはつらい状況か)
③ 生徒(学生)同士の対面コミュニケーションが不足しがちになる ⇒ 親しい仲間同士でリモート会話をすることである程度対応可能
④ 体育の授業、特に団体スポーツを行うことが出来ない ⇒ 「3密」にならない運動が工夫されつつある

Follow_Up(2020年7月16日):教育の概念、激変の可能性_柳川範之・東大教授
Follow_Up(2020年8月26日):世界の大学「封鎖」解けず 遠隔中心、質低下に懸念
Follow_Up(2020年8月27日):国内大学も遠隔続く 心のケア・就活支援が課題

4.医療のIT化
コロナ禍にあっては、医療崩壊の危機のみが話題になったきらいがありますが、実は我が国医療のIT化の遅れも浮き彫りになりました
国民皆保険が実現している日本では、これまで具合が悪くなれば直ぐに病院に行って診察を受けるのが当たり前になっていましたが、今回のコロナ禍により常に「三密」となっている病院に行くのは憚られ不安を感じた人も多く、また結果として重症化する人もいたと思われます(特に高齢者や持病を抱えている人)。更に、癌や他の深刻な病気のため手術を予定した人が延期されている例(有名な高須クリニックの院長)も出ました。一方、病院側にとっても、患者の受け入れが激減し、6月頃には深刻な経営危機に陥る病院も出てきました。

こうした問題点を解決する切札として、先進諸国ではネット診療が一般化しています。対面診療が基本の日本では、医師会の反対もあり中々実現しませんでしたが、今回のコロナ禍では緊急措置(時限措置)の一環として一部オンライン診療が実現しました;
メドレー(株)の取り組み:日本の医療 「非効率」にメス・オンライン診療を普及
② (株)マイシンの取り組み:オンライン診療の需要増・患者登録10倍
③ Lineの取り組み:LINE・オンライン診療アプリ参入_8000万顧客生かす

高齢化社会を迎えて、今後医療費の増加が確実視される中で、医療のIT化は避けられない流れだと思います。上記のオンライン診療の普及は当然のこととして、医師の負担軽減のためのAIを使った問診システムの導入、また個人番号カードに健康保険証をヒモ付けた後になると思いますが、カルテのデータベース化による患者情報の共有化の取り組み、などIT化による医療高度化、医療費の削減を近い将来実現すべきと考えます
また、直近の未来に迫った5G回線網の整備と併せ、医療体制が整っていない地方でもリモート手術などで高度医療が受けられる体制を整えることにより、少子化・地方創生という喫緊の課題にも応えられるようになると考えています

エアラインビジネスの変革

最新のIATA(国際民間運送協会)の発表によれば、コロナ禍による航空需要の激減は想像を絶する状態にあります;

国際旅客輸送量の推移  byIATA

このグラフから分かることは、致死的な感染症の蔓延(特に長引くと)は航空需要に壊滅的な影響を与えることが分かります
今回のコロナ禍では、既に5月半ばにはタイ航空、オーストラリア・バージン航空が経営破綻しています。また、多くのLCCも既に経営破綻の瀬戸際に立っています。一方、国内ではJAL、ANA、米国、欧州における大手航空会社は国からの巨額の融資、その他の支援金を受け取って何とか破綻を免れていますが、危機が長引けば、更なる国による援助が必要になるのは明らかです

飛行できず羽田空港に駐機中の多数の航空機

航空輸送は国のインフラの中でも他で代替のきかない交通インフラになっていますので、大手の航空会社が破綻すると感染症の蔓延が終息した後で迅速に経済を立ち上げるできなくなります。従って、他産業分野で国からの支援が得られず破綻する例が多く発生しても、世界の主要国政府は巨額の支援を行っている訳です

ただ、これだけ落ち込んだ航空需要が復活するには2~3年の期間が必要というのが多くの航空関係者の意見であり、これを乗り切るには既に行われている支援の他に以下の対策が必要だと思われます;
① 航空会社の責任で、経年機の退役(767、777-200、など))を行う(売却、リース機の返却)
しかし、今の時期航空機の売却やリース機返却交渉は非常に難しいと思われるので、以下の対策も併せ行う;
② 国の責任で、稼働していない航空機に課せられる巨額の減価償却費を2~3年猶予する(日本でも過去にストレージ/Storageを行って減価償却を猶予して貰った例がある)
因みに大手航空会社の航空機は、1機当たり200~300億円もする上にこれを購入した後10年間で償却しなければならない為に航空機を保有するコストは非常に高額になります

上記対策を行った上で、航空会社は必要に応じ:
③ 人事・労務対応(早期退職、賃金カット、など)を行う。但し感染症の蔓延が終息した後で迅速に対応できる要員は確保する
また、現在密着を避けるために、搭乗するお客様の数を制限して運航していますが、航空機は、飛行中に機外から新鮮な空気を取り入れ客室内の与圧を行っており、客室内の空気は常に数分で床下(貨物室)から機外に放出しています。従って、客船、列車、バス、などと違って空気感染するリスクは相当少ないはずです。そこで
④ 航空機メーカーと協力して、隣同士の席に座っても室内などと比べて感染リスクがかなり低いことを立証し、搭乗率を向上させる努力を行う必要があると考えます

Follow_Up(2020年7月1日):ソラシドエアがコロナ対策公開
Follow_Up(2020年12月22日):航空需要、回復の見込みは 「ビジネス客の戻りに遅れ」

国際政治状況の緊迫化

近年、米国と中国との間で「新冷戦」と言われるほど政治・経済での軋轢が高まっています。これに、コロナの発生源となった中国に対する道義的な問題新疆ウィグル地区のウィグル人に対する弾圧、「香港国家安全法の制定(香港返還の際の国際的な取り決めである「一国二制度」の原則をにより有名無実化させる可能性大)などが重なり、欧米先進諸国はかつてないほど中国に対する非難を強めています

一方、中国はコロナ禍という国難に対応し、欧米先進国からの非難をかわし、国民の団結心を高めるために、以下の様に軍事的な攻勢を強めつつあります(先進諸国がコロナ対策に忙殺されている隙に軍事的な攻勢を企てたという識者もいます);
① 南シナ海に於けるフィリピン、インドネシア、ベトナムとの国境紛争軍事演習の強行
② 東シナ海の日本が実効支配している尖閣諸島・接続海域に於ける示威行動のレベルアップ(日本の海上保安庁に対応する中国の海警局が最近人民軍に統合され、搭載している火器なども強化されています)
③ 中国とインドの係争地域(カシミール地方)に於ける小規模の衝突(双方に死者が出ています)。一食触発という状況ではありませんが、何か大きな状況の変化があれば突拍子のない事態に発展するリスクあるのではないかと一人心配しています

カシミール地方

④ 民進党となった台湾が、香港の民主化運動に同調する動きを見せていることから、台湾に対する軍事的圧力を強めている

歴史好きの私としては、こうした状況は「セルビア人によるオーストリア皇太子夫妻の殺害」がきっかけで誰も予想だにしなかった第一次世界大戦が起こってしまったことを思い出させます
また、中国の南シナ海に於ける「九段線」内の領土主張は、

中国が主張する国境「九段線」と領土紛争地域

何故か太平洋戦争勃発時の日本軍による東南アジア侵攻を思い出させます。南シナ海は常に超大国間の覇権争いが行われる海でした。第二次世界大戦では大日本帝国と米国(当時フィリピンを植民地としていた)、今は中国と米国が対峙しています
ベトナム、インドネシア、フィリピン、インドなどが、中国と武力衝突を起こすと、中国はかなり大規模な攻勢をかける(例:中ソ国境戦争、中印戦争、中国・ベトナム戦争、など)可能性が高いので、この紛争に南シナ海で「航行の自由作戦」を行っている米国が加担すると由々しき事態が発生する可能性はゼロではありません

また、日本が関わる尖閣列島については、米国がこの地域に対して日米安保条約の下で共同で対処することになっている為、尖閣諸島での武力紛争は大規模化する可能性が高いと言わざるを得ません。最近、中国が新型対艦弾道ミサイル(CM-401)を実用化したと言われており、これが中国の南シナ海・東シナ海での軍事攻勢に拍車をかけていると考えられます。日本としては、中国という軍事大国と大戦争を行うリスクは絶対避けなければならず、米国と中国との距離をどう保っていくかが近未来の最大の政治課題だと思います

Follow_Up(2020年7月14日):米、南シナ海介入へ転換・中国の領有権主張「違法」

<付録> ウィルスの正体?

A.ウィルスの正体については、福岡伸一氏の著書「動的平衡」に非常に分かり易く解説されていますのでご紹介します;
ウィルスの発見
ウィルスは1938年にシーメンス社が電子顕微鏡を製品化して初めて捉えられました。その大きさは30~50ナノメートル(10億分の30~50メートル)です。因みに、ヒトの細胞の直径は30~40マイクロメートル(百万分の30~40メートル、細菌の直径は0.5~5マイクロメートル

ウィルスの正体
① 非細胞性で細胞質などは持たない。基本的にはタンパク質と核酸からなる粒子
② ほかの生物は細胞内部にDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)の両方の核酸が存在すますが、ウイルスは基本的にどちらか片方だけ
③ ほかのほとんどの生物の細胞は2n(2倍体)で、指数関数的に増殖するのに対し、ウイルスは一段階増殖(コピーされたものが次のコピーを作る)です
単独では増殖できず、ほかの細胞に寄生したときのみ増殖でます
⑤ 自分自身でエネルギーを産生せず、宿主細胞の作るエネルギーを利用します

ウィルスの形状;
① ウィルスは、核酸(DNAまたは RNA)がタンパク質の甲殻をまとっており同種のウイルスでは核酸もタンパク質も同一です
② 個体差がなく、幾何学的な模様をしています
③ ウイルス粒子が規則正しく集合すると結晶化します。結晶化しても「死なない!」 ただ、生物かどうか判然としないので、「死ぬ」という表現が適切かどうかわかりません

ウィルスの活動
① 全く代謝活動をしません。つまり栄養を摂らず、排泄もせず、呼吸もしないものの、自己複製能力を備えており、繁殖します
② 宿主の体内に入ったウイルスは、甲殻のタンパク質が宿主の細胞表面のタンパク質と鍵と鍵穴の関係を持っていますので細胞に付着出来ます

Follow_Up(2020年7月10日):新型コロナ 子どもの感染率なぜ低い?_重症化もまれ・細胞の仕組みにカギ

ウイルスは自らの核酸を宿主の細胞内に送り込みます(⇒その核酸には、そのウイルスの遺伝情報が書き込まれている)
④ 宿主の細胞は、これを自分の核酸だと勘違いして複製してしまいます
⑤ そして核酸に記された情報を元に、ウイルスを構築する部材(タンパク質)まで用意してしまいます
⑥ ウイルスは宿主の細胞内で増殖し、細胞膜を破って出てきます
⑦ 細胞膜を破って出てきたウィルスは、また次の細胞に取り付くことになります

ワクチンに対するウイルスの対抗策
① ワクチンは、無毒化したウイルス(又はその一部)を事前に体内に注射して抗体を用意させ、ウイルスに侵入されてもすぐに反撃できるようにすることですが、インフルエンザのワクチンを、毎年晩秋から初冬に予防注射を受けているのは、毎年、新手のインフルエンザ・ウイルスが次々と登場してくるからです
② 通常病原体は「種の壁」を超えないのが原則ですが、ウィルスは種の壁を越えてヒトにもうつってくる可能性があります。最近ニュースに度々登場する強毒性の「鳥インフルエンザ」は本来ヒトにうつらないはずのものが、以下の仕掛けで変異を行う可能性があるので恐れられています
③ ウィルスは細胞に付着するのに必要な鍵を作り変えることが出来ます。ウィルスは常に鍵をあれこれかえてみる実験を繰り返し、新たな鍵によって、今まで入り込めなかった宿主に取り付けるようになります
④ 鍵だけでなく、ウイルスの核酸を包んでいるタンパク質の殻も少しずつかえています。ワクチンは、ウイルスの殻に結合して、これを無毒化する抗体なので、殻が変わるとワクチンが効かなくなります

ウィルスがパンデミックを引き起こす環境
① インフルエンザやコロナウイルスは増殖するスピードがとても速いので、増殖するたびに少しずつ、鍵やタンパク質の殻の形を変えることができます
② それがうまく働くには、近くにそれを試すための新しい宿主がより多く存在することが好都合であり、大量のニワトリを一ヵ所で閉鎖的に飼うような近代畜産のあり方は、インフルエンザ・ウイルスに進化のための格好の実験場を提供していることになります
③ まったく同じことは、好んで大都市に住む私たちヒトについても言えます。都市化と人口集中が進めば進むほど、ウイルスにとっては好都合です。都会はウイルスにとって天国のようなところで、ウィルスは少しずつ姿かたちをかえて、宿主と「共存共栄」していることになります

抗生物質が効かないウィルスに対する対抗策(新しく登場したウィルス薬の仕組)
* 細菌感染を防ぐために作り出した抗生物質は、増殖の仕組みも感染の構造もまったく違うのでウイルスには効きません
① ウイルスの鍵に先回りして、鍵穴をブロックする薬のタイプ
② 偽の鍵穴を作って、ウイルスを罠にかけてとらえてしまう薬のタイプ
③ ウイルスが宿主の細胞から飛び出すところを邪魔するタイプの薬(インフルエンザ用に開発されたタミフル

抗ウィルス薬の仕組み

上記は、千里金蘭大学副学長・富山大学名誉教授である白木公康氏が今年4月4日にネット上に公開した論文から引用したものです。同氏が開発を行ったアビガンという抗ウイルス薬は上記③のタイプなので耐性ができにくいと言われています

B.5月23日~6月21日まで日経新聞で連載を始めた「驚異のウイルスたち」という記事は、ウイルスの不思議な振る舞いについて大変分かり易い説明を行っていますので、以下に記事の概要をご紹介します
ウィルスはむやみに恐れる存在ではありません。極々身近にいて電子顕微鏡でその姿を確認でき、医学、生理学、生物学の優秀な研究者が最近その研究に没頭している最先端の研究対象です。既に述べた様にウイルスは、体内に入り込むことでのみ増殖が可能であり、その宿主である生物が死ねばその生存?も叶わないことになります。従って、したたかなウイルス達は以下の様な驚異的な生存戦略をとっています;

巧みな生存戦略をとるウイルス

一方、生物は進化の過程でウイルスの遺伝子を取り込んでいることが分かってきました;

生物は進化の過程でウイルスの遺伝子を取り込んでいる

太古のウイルスが人類の祖先の細胞に入り込み、互いの遺伝子がいつしか一体化した結果、ウイルスの遺伝子が今も尚私たちに体に宿り、生命を育む胎盤や脳の働きを支えていることは驚くべきことです

2003年に、今までの常識を覆す巨大ウイルスが発見されました;

常識を覆す巨大ウイルスと巨大化のシナリオ

何故このような巨大ウイルスが生まれたかは分かりませんが、東京理科大学の武村政春教授は上図の様な過程を経て生まれたと考え、この状態から「たんぱく質合成の場になる遺伝子さえ持てば、巨大ウイルスは新たな生物になるかもしれない」と語っています

ウイルスはとても恐ろしい存在にもなりますが、見方を変えると全く違った表情を見せます。ウイルスは特定の生物の間で広まり脅威を与えますので、作物の害虫やがん細胞に感染すれば、人類にとって有用な利用も考えられるます;

ウイルスの活用

東京大学のチームが体内に潜伏中のウイルスを追っていたところ、健康な人の全身に少なくとも39種類のウイルスが居着いていることを突き止めました。肺や肝臓など主な27ヶ所で感染を免れていた組織はゼロ。想像を超える種類のウイルスが脳や心臓にまで侵入していました。ウイルスは人間や動物の体内でたちまち増え、すぐに体をむしばむ印象が強いと思いますが、発病していない「健康な感染者」の存在は、感染症と闘ってきた人間社会に、ウイルスとの新たな向き合い方を迫っています

感染しても何もしないウイルス

ウイルスに感染しても発病しないものは潜伏感染不顕性感染といい、専門家にとって珍しくはありません。こうしたウイルスは乗り移った私たちの体を有効活用しようと計算し尽くした戦略をとっているのは確かだと思われます
中高年で悩みがちな帯状疱疹は乳幼児期に感染した「水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス」が原因です。頭や腰の神経節に数十年以上潜み、疲労や加齢で免疫力が下がると動き出します。主に白血病の原因となる「ヒトT細胞白血病ウイルス1」も国内に約100万人の感染者がいますが、生涯の発症率は5%程度とされるています

Follow_Up: Newsweek Special Report(6月24日発行)の記事:
「09年豚インフル」という教訓
恐ろしい感染症が世界中に潜んでいる
豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号が教える致死率の真実

私事で恐縮ですが、帯状疱疹については私は40歳になった頃と50台後半に二回発症しました。私の兄は70台後半で発症し数週間苦痛に苛まれていました。やはり高齢になるほど症状は重く、長期間に亘って症状が続く様です
高齢者の皆さん、よく睡眠をとり、よく歌って?免疫力を高めましょう!

以上

乗員計画(パイロット、CA/客室乗務員)

はじめに

乗員計画とは、エアラインの事業計画の根幹をなす路線便数計画(どの路線に、どの型式の航空機を、どれだけの便数を飛ばすか、という計画)に基づき、パイロットや CA(Cabin Attendant/客室乗務員)の必要数を計算し、それを満たす人数を用意する計画ということができます

乗員計画は、経営側の立場に立てば、エアラインの貴重な人的資源であるパイロットや CA を、規制が要求する各種の制限事項を守りつつ、最も効率よく運航路線に配置することと言うことができます。一方、パイロットや CA の側の立場に立てば、自身の労働条件(労働時間、賃金等の収入、その他)の基本になる計画であるということもできます。また視点を変えて、乗員計画がパイロットや CA の労働密度に直接関係することから、それがひいては安全運航」にも関連することとも考えられ、経営者、パイロット、飛行機を利用されるお客様全てにとっても適切な計画を求められているという、エアラインビジネスにとって極めて重要な計画であると言えます

乗務割

乗務割については、前回発行のブログ「パイロットの養成」の中で、エアラインに乗務割の基準を定めることを法律で義務付けている(航空法第68条、及び航空法施行規則第214条)と書きました。実は、乗員計画の基礎となるルールの大切な部分は全てこの乗務割」の基準に含まれています。このルールは一般の人にはやや難解であると思われますので、以下にできるだけ分かり易くその説明を行いたいと思います

1.定義:勤務時間、乗務時間、他
パイロットや CA の業務は、一般の労働者と違って特殊な労働環境で働くため、以下の様な厳密な区分とその定義が定められています(以下、見出しの写真を見ながら読んでください);
① 勤務時間とは:乗務の為に出勤して業務が始まる時刻(例えばフライト前のブリーフィングが始まる時刻)から、業務が終了する時刻(例えばフライト後のデブリーフィングが終了する時刻)までの時間
② 乗務時間とは:ブロックアウト時刻(航空機がスポットを出る時刻/タイムテーブル上の出発時刻)からブロックイン時刻(航空機がスポットで停止する時刻/タイムテーブル上の到着時刻)までの時間
 就業時間:会社業務に従事する時間。上記の勤務時間には不測の事態に備えるため自宅で待機(スタンバイ)し、乗務に備える時間が含まれていません
④ 休養時間:全ての会社業務から開放される時間
⑤ 休養施設:自宅、ホテル、等
⑥ 仮眠設備乗務中交替で仰臥して休息が取れる設備(Crew Bunk、客室内の仕切られた客席、など)

B787_Crew Bunk(左:パイロット用;右:CA用)
B787_Crew Bunk(左:パイロット用;右:CA用)

⑦ 地上輸送時間:空港と予め指定された休養施設との間の輸送時間(実際にかかる時間でなく、別に定める時間)で、勤務時間、休養時間には含めない

2、パイロットの編成数と乗務割
大型旅客機に乗り組む乗務員は、長い間パイロット二人(機長と副操縦士)に加え、航空機関士(Flight Engineer)が乗り組んでいました。航空機関士は、エンジン状態の監視やその調整を行うこと、及び搭載している燃料のマネージメント(航空機の燃料は幾つかの燃料タンクに分けて搭載されており、これを原則として内側のタンクから消費していく必要があります)を行うことが主たる任務になっていました。ところが、1989年になって操縦室が大幅に近代化された(Glass Cockpit/操縦室内の計器が液晶画面に統一されたためにこの様に名付けられました)B747-400が登場し、航空機関士が行っていた任務の大半を二人のパイロットに分散させることが出来るようになりました。これ以降開発された大型旅客機はほぼ全てこの Glass Cockpit が装備されており、原則として二人のパイロットだけで運航が行われています。勿論、B747-400以前に開発されている旅客機も未だに運航されており、これらの航空機を区別する為に航空機関士が乗り組む必要のある航空機を「3MAN機」、航空機関士が乗り組む必要のない航空機を「2MAN機」と呼んでいます
① シングル編成;2MAN機/機長1名+副操縦士1名;3MAN機/機長1名+副操縦士1名+航空機関士1名

航空機の性能が向上するとともに、お客様にとっての利便性向上の観点から長距離路線においても中継地を経由しない直行路線が増えてきました。こうした長距離路線における長時間の勤務に対応する為に、乗務中の適切な休息が可能となるように以下の編成が設定されています
② マルチ編成:2MAN機/シングル編成+機長(又は副操縦士)1名;3MAN機/シングル編成+機長(又は副操縦士)1名+航空機関士1名
③ ダブル編成:2MAN機/シングル編成の倍;3MAN機/シングル編成の倍

<パイロットの乗務割基準
運航規程審査要領、および同細則に定められている具体的な審査基準は以下の通りです。各エアラインは運航規程に以下を下回る基準を設定することはできません
国内運航
① 連続する24時間の乗務時間が8時間を超えないこと。また乗務時間が8時間を越えた場合は、勤務終了後、乗務時間を勘案した適切な休養を与えること
1暦月100時間を超えないこと
3暦月270時間を超えないこと
1暦年1000時間を越えないこと
⑤ 連続する7日間のうち1暦日以上の休養を与えること

国際運航(国内運航と違って路線によっては時差があります)
編成により乗務時間の制限が異なります
 シングル編成:連続する24時間の乗務時間が12時間以下
㋺ マルチ編成:連続する24時間の乗務時間が12時間を超える場合。この場合、航空機内に適切な仮眠設備を設けること
㋩ ダブル編成基準はなく航空会社に任されている
乗務時間が上記制限時間を越えた場合は、勤務終了後、乗務時間を勘案した適切な休養を与えること
上記以外の乗務時間の制限は国内線の②~⑤と同じです

米国においても日本と同様の基準があります。詳しく知りたい方はをパイロットの務割に関わる米国の基準をご覧になってみて下さい。日本の基準に比べると詳細、且つ複雑な基準になっていますが、これは航空輸送に係る長い歴史及び ALPAと呼ばれる交渉力の強い産別組合の存在の故であると考えられます

3.CA の編成数と乗務割
CA の一番大切な任務は、非常時に於いてお客様を機外に安全に脱出させることです。これを受けて運航規程審査要領には、CA の編成数について以下のルールが定められています;
① 非常時の指揮統括者として「専任客室乗務員」の配置が必要
② 非常脱出時の誘導の為に必要とされる最低編成数は、旅客50名に対して1名以上の配置が必要

CAには、お客様に対する飲食のサービスを提供する任務もあります。サービスの程度によりますが;
③ 一般に短距離路線では上記①、②で決まる編成とし、長距離路線では、飲食のサービスの内容、回数、飛行途中での休憩の必要性、などを勘案して編成人数を増やします

CAの乗務割
運航規程審査要領には、CAの乗務割について以下が定められています;
乗務時間1暦月100時間を超えて予定しないこと(3歴月、1年の別の制限は無い)
休養時間連続する7日間のうち1暦日(外国においては連続する24時間)以上の休養を与えること

4.勤務協定
パイロットや CA は当然のことながら労働者であり、労働基準法で保障された以下の権利があります(詳しくは労働基準法の関連する条文を参照してください);
団結権の補償 ⇒ パイロットもCAも組合を作って労働条件について会社側と交渉する権利とストライキを行う権利が保障されています
労働条件の基準 ⇒ 労働時間(1日時間以内)、休日(1週間に1日以上)、時間外手当の支給、など

一方、パイロットや CA は、上述の通り、航空法により乗務時間の制限、休養時間の確保などが義務付けられています。従って、基本的には両方の基準を満たすように乗務割の基準を定め乗務計画を行うことになります
一般に LCC や立ち上げたばかりのエアラインは労働基準法と航空法の基準に近い厳しい乗務割で乗員計画を行いますが、歴史のある大手のエアラインは労使交渉の結果、これよりやや緩い乗務割基準で乗員計画を立てているのが実情であると考えられます
参考:勤務協定の例

乗員計画シミュレーション_前提条件

乗員計画がどの様に立てられているかを理解していただくために、パイロットと CA の乗員計画シミュレーションを行ってみたいと思います

シミュレーション行う際の順序としては、路線便数計画を決める乗務割基準を決める③便ごとに必要となる編成数から、その路線で必要となる乗員の組数を乗務割基準(勤務基準)を基に計算する、④路線毎に必要となる組数から余裕(パイロットの場合は機種別になります)があれば計算しておく、⑤技量審査(パイロットの6Month Check Flight、など)、非常救難訓練健康診断、などの実行可能性を確認する

1.国内線路線便数計画
JXエア(仮称)の国内線路線便数計画に基づく発着ダイヤを以下と致します(実はシミュレーションを行うために、大分前の、とある航空会社の発着時刻表を拝借しました)。尚、機種はB737-800とします;

JXエアの国内線ダイア
JXエアの国内線ダイヤ

上記の発着時刻表で空港名がアルファベット3文字で書かれていますが、具体的な空港名は空港コードをご覧になってください

この発着ダイアは、実は航空機の運用を行っているプロが以下の様なダイアグラムで検証した上で作成されることは、私のブログ航空機の運用をご覧になればお判りになることと思いますが、ここでは逆に発着時刻表から以下のダイヤグラムを作成してみました;

JXエアのダイアグラム
JXエアのダイアグラム

ここでパイロット、CA は羽田を基地として乗務し、交代は羽田で行うことを原則とすれば、航空機が羽田に帰って来るタイミングが分かるパターンが乗務計画を検討するのに便利なことがご理解いただけると思います

上記ダイヤグラムを、それぞれの路線を運航する航空機のパターンとして書き換えます(イメージとしては、私のブログ航空機の運用の列車番号でパターンを引き直すということと同じです)。例えば、上記のダイヤグラムを標準作業工程(DGT:航空機の運用を参照してください)を35分として、各空港に到着する便をDGTを守った上で最短時間で出発便に繋げると(下図参照:赤字で1機分のみ表示);

航空機の当て嵌め
航空機の当て嵌め

この作業を全てのダイヤグラムについて実施すると、この路線便数計画を実行するのに必要な全ての航空機のパターンが作成できます(下表参照)。下の航空機のパターンを見ると、この路線便数計画を運航するには19機必要となることも分かります。因みにこの図の最下段にある20機目は予備機として考えています。尚、予備機は乗員計画には関係ありませんが、その必要性について知りたい方は、私のブログ航空機の運用の整備関連の部分ををご覧になってください;

JXエアの航空機のパターン
JXエア国内線の航空機パターン

この機材パターンを使用して国内線のパイロット、CA の乗務計画を行うこととします

2.国際線路線便数計画
国際線路線便数計画に基づく発着時刻表(ブロックタイム、時差を含む)を以下とします(とある航空会社の発着時刻表から一部路線を拝借しました!);

JXエアの国際線ダイヤ
JXエアの国際線ダイヤ

路線に書かれているアルファベットの都市コードは;
TYO/東京、NYC/ニューヨーク、LAX/ロサンゼルス、HNL/ホノルル、BKK/バンコック、DLC/大連、SEL/ソウル
機種コードは以下の通りです;
773/B777-300;767/B767-300ER;772/B777-200、尚、B777-300と同-200とはパイロットの機種限定は同じです
UTCとは:協定世界時(Coordinated Universal Time)のことで、時差によらない時刻表示になるので、時差のある場所を行き来する国際線のブロックタイムなどを計算するときに便利です

これを、国内線の様に機材のパターンで表示すると;

JXエア国際線の航空機のパターン
JXエア国際線の航空機パターン

3.乗務割基準
JXエアの乗務割基準を以下の通りとします;
A. 乗務時間制限
①1暦月100時間を超えないこと
② 3暦月270時間を超えないこと(CAにはこの制限はありません)
③ 1暦年1000時間を越えないこと(CAにはこの制限はありません)
B. 編成による乗務時間の制限
シングル編成:連続する24時間の乗務時間が12時間を超えないこと。但し、国内線では原則1日に8時間を越えないこと
マルチ編成:連続する24時間の乗務時間が12時間を超える場合。この場合、航空機内に適切な仮眠設備を設けること
③ ダブル編成:基準を設けない

C. 休養時間の原則
連続の勤務の前の休養時間は、前の乗務時間により以下を予定する;
① 8時間以下の場合:6時間以上の休養
② 8時間を越え12時間以内の場合:12時間以上の休養
③ 12時間を越える場合:24時間以上の休養
D. 着陸回数の制限一連続の勤務で8回以内
E. 勤務時間の制限月間平均して週40時間を越えないこと

F_1. 勤務時間の開始
① 国内線:ブロックアウト時刻の1時間前
② 国際線:ブロックアウト時刻の1時間30分前
F_2. 勤務時間の終了時刻
① 国内線:ブロックイン時刻の1時間後
② 国際線:ブロックイン時刻の2時間後

G. 地上輸送時間の原則
① 勤務開始・終了の前後30分
② 地上輸送時間:空港と予め指定された休養施設との間の輸送時間(実輸送時間でなく、別に定める時間)で、勤務時間、休養時間には含めない

H. 所定の休日(常日勤者の土曜日、日曜日、祝日に相当します)
① 1週間に1日以上
② 1暦月8日以上
③ 1暦年119日以上
I. 有給休暇
① 年次有給休暇:20日
② 夏休:3日
③ 特別休暇:年間平均1日程度を想定

乗員計画シミュレーション_必要人員の計算

1.乗務員が乗務する路線毎に1組当たりの平均乗務時間、勤務時間を計算する

A.国内線の場合;
国内線の航空機パターン(下図)の右端にあるデータの意味は;
CNX:Connectionの略で、羽田空港以外の空港に到着し、翌日出発する場合の航空機の番号(左端の数字)を表しています
BT:Block Timeの略で、その航空機の一日の乗務時間の合計に相当します
FC:Flight Cicleの略で、その航空機の一日発着回数
まず、乗務時間の制限を勘案して航空機のパターンに、乗務員の交替する所に「」を入れてみると;

JXエアの航空機のパターン_乗員交代のタイミング入り
JXエアの航空機のパターン_乗員交代のタイミング()入り

上表で「」が入った航空機パターンのでは、その路線を別の乗員グループが乗務することを意味します。勿論一日のブロックタイム合計の時間(乗務時間)が短い場合(例えば9番の機材)は「」がありません。これは合計した乗務時間が乗務時間制限を超えないので一組の乗員グループで乗務を完結できるからです。こうして一日に全便を運航するのに必要となる乗員グループを表にまとめると(縦軸は航空機の番号と同じ);

乗務パターン毎の乗務時間・勤務時間_JXエアの航空機のパターン
乗務パターン毎の乗務時間勤務時間_JXエアの航空機のパターン

上表の左側の表の黄色で塗りつぶした部分が、一日で乗務しなければならない乗務の組の名称を表します。この国内線では、A~JJまでの36組が必要になることが分かります。尚、乗務員はいつも同じ乗務パターンを勤務するのではなく、月間、年間の乗務時間や勤務時間が均等となるよう最適な組合せを考えることになりますので、必要な組数を計算するときは平均値が重要な指標になります
上表の右側には乗務時間と勤務時間の合計欄が黄色で塗りつぶしてありますのでこれらの数値から以下の様に平均値を計算します;
合計値から全乗務時間は:104.3時間+75.8時間 =180.1時間/1日
これを一組当たりの平均では:108.1時間  ÷ 36組 = 5.0 時間/1組 
また、同様に全勤務時間は:189.3時間+127.9時間 = 317.3時間/1日
これを一組当たりの平均では 317.3時間  ÷ 36組 = 8.8時間/1組
ということになります

因みに、パイロット、CA の国内線36組の乗務パターンは下表の様になります(表の右側の欄には、基地である羽田空港以外の空港で1日の乗務が終わった場合、翌日はその空港からの乗務を行うこととなり、乗務を通じて基地に戻るまでの乗務パターンの繋がりが分かるようにしてあります);

パイロット、CAの国内線乗務パターン
パイロット、CAの国内線乗務パターン

B.国際線の場合
国際線の乗務パターンは発着時刻表を使って計画します。国際線の場合は乗務時間、勤務時間、休養時間、乗務編成、などのルールが複雑なので、分かり易い路線から説明致します。尚、1往復の乗務が完結する(次の往路便に乗務できる状態)までに要する日数を「x日パターン」と表記しています;
① 東京=ソウル線;

東京=ソウル線の基本乗務パターン
東京=ソウル線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:4時間55分 ⇒ 4.9時間
* 乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:9時間25分 ⇒ 9.4時間
* 復路到着日から6時間以上の休養時間を取っても翌日から乗務が可能となるので ⇒ 1日パターン

② 東京=大連線;

東京=大連線の基本乗務パターン
東京=大連線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:6時間10分 ⇒ 6.2時間
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:10時間50分 ⇒ 10.8時間
* 復路到着日から6時間以上の休養時間を取っても翌日から乗務が可能となるので ⇒ 日パターン

③ 東京=バンコック線;

東京=バンコック線の基本乗務パターン
東京=バンコック線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:12時間50分 ⇒ 12.8時間
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:19時間50分 ⇒ 19.8時間 
* 復路到着日から12時間以上の休養時間を取っても3日目から乗務が可能となるので ⇒ 日パターン

④ 東京=ホノルル線;

東京=ホノルル線の基本乗務パターン
東京=ホノルル線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:15時間55分 ⇒ 15.9時間
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはマルチ編成 
*1往復の勤務時間:22時間55分 ⇒ 22.9時間 
* 復路到着日から12時間以上の休養時間を取っても4日目から乗務が可能となるので ⇒ 日パターン

⑤ 東京=ロサンゼルス線;

東京=ロサンゼルス線の基本乗務パターン
東京=ロサンゼルス線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:21時間20分 ⇒ 21.3時間 
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:28時間20分 ⇒ 28.3時間 
* 復路到着日から12時間以上の休養時間を取っても4日目から乗務が可能となるので ⇒ 3日パターン

⑥ 東京=ニューヨーク線;

東京=ニューヨーク線の基本乗務パターン
東京=ニューヨーク線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:27時間05分 ⇒ 27.1時間 
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:34時間05分 ⇒ 34.1時間 
* 復路到着日から24時間以上以上の休養時間が確保出来るので1往復で5日間がが必要 ⇒ 5日パターン

これらのパターンは分かり難いようですが、よく見るとパイロットの編成の種類は片道の乗務時間(ブロックタイム)が12時間を超えるか否かで決まり、休養時間(上表の“REST”)は乗務時間によって時間が変わります。また、往路到着した海外の空港から適切な休養を経て復路の乗務を行うこと、基地である東京に戻った後、適切な休養時間を取った上で次の便に乗務できる時刻が表示されていることが読み取れると思います

2.必要人員の計算
計算する際に必要となるルールを整理すると以下の様になります。尚、ここでパイロットや CA の生活が実感できるように月間単位のルールで統一することとします;

ルール_Ⅰ月平均日数30.4日 ⇔ 4年に一度「閏年」が有ることを勘案すると年間日数の平均は365.25日となります。これを12ヶ月で割った日数です 
ルール_Ⅱ( パイロットの月間平均乗務時間制限): 83.3時間 ⇔ 年間乗務時間制限は1000時間ですから、これを12ヶ月で割った数字です
<注> 勿論、夏季繁忙期などは月間乗務時間制限ギリギリの100時間近く乗務するのですが、これを続ければ年間1200時間となってしまうので、繁忙期以外は100時間未満で路線便数計画を立てます

ルール_Ⅲ( CAの乗務時間制限):100時間
ルール_Ⅳ月間の勤務可能な平均日数): 18.5日 ⇔ 年間平均日数から所定の休日(119日)、有給休暇(20日)、夏季休暇(3日)、特別休暇(忌引きなどの平均:1日)を控除したあと12ヶ月で割った日数

A.国内線の必要人員
<パイロットの必要人員>
上記ルールを適用すると、必要となるパイロットの組数は;

国内線のパイロットの編成と必要組数
国内線のパイロットの編成と必要組数

上表を見ると、国内線の場合ルール_Ⅱで月間の乗務回数の限界が来ることが分かります。シングル編成は機長1名と副操縦士1名なので、この路線便数計画を実行するには、機長66名、副操縦士66名のパイロットが必要となります

また、上表から、乗務しなければ勤務できる日数が年間21.6日(12ヶ月x〔D―C〕)確保できることとなり、パイロットの定期審査6Month Check Flight)、健康診断、非常救難訓練なども、追加パイロットを確保しなくてもい実施可能であることが分かります

また、この路線便数計画は19機の航空機とパイロットは66組で運営できることから、航空機1機当たり約3.5組のパイロットで運営できることになります。国内線の中期計画で路線便数が決まっていない場合でも、国内線配置機数が決まっていれば、パイロットの凡その必要数が計算できることになります

< CA の必要人員>
パイロットとの違いは乗務回数の上限が乗務時間制限でなくルール_Ⅳで決まるので必要となる CA の組数は;

国内線のCAの編成と必要組数
国内線のCAの編成と必要組数

B737-800客席数は176席、50席当たり配置するCA は4名(内1名は専任客室乗務員を配置する必要があります。従って、4名x59組=236名のCA(内59名は専任客室乗務員)を配置する必要があります

尚、国内線CAの場合、乗務回数がルール_Ⅳで決まるため、乗務以外の余裕日数は出ないので、非常救難訓練(1回/年)を行うために236人日分の非常救難訓練の為に人員引当が必要になります。これは更に2名(236人日 ÷ 18.5日x12ヶ月)の追加配置が必要になることになります

B.国際線の必要人員
<パイロットの必要人員
国内線とほぼ同じような方法で必要となるパイロットの組数を計算すると;

国際線のパイロットの編成と必要組数
国際線のパイロットの編成と必要組数

上表を見ると、国際線パイロットの場合もルール_Ⅱで月間の乗務回数の限界が来ることが分かります。この路線便数計画を実行するには、機長42名、副操縦士32名のパイロットが必要でありことが分かります

また、上表の「乗務以外の一編成当たりの月間出勤可能日」をご覧になれば、乗務員の定期審査6Month Check Flight)、健康診断、非常救難訓練なども、追加パイロットを確保しなくてもい実施可能であることが分かります

< CA の必要人員>
パイロットの違いは乗務時間制限(月間の基準があるのみ)と編成数だけで、乗務パターンはパイロットと同じなので;

国際線のCAの編成と必要組数
国際線のCAの編成と必要組数

上表を見ると、国際線 CA 場合は、路線によってルール_Ⅱで決まる場合と、ルール_Ⅳで決まる場合があることが分かります。ルール_Ⅳで決まる路線では乗務以外の勤務を行う余裕が無いことに注意する必要があります

上表における編成数の考え方は以下の通りです;
東京=ソウル線:配置機材はB767-300ERで、エグゼキュティブクラス/30席、エコノミークラス/207席、提供サービスは1.0食、免税品販売を行うという前提で編成数は7名内1名は専任客室乗務員を配置)
*東京=大連線:配置機材はB767-300ERで、エグゼキュティブクラス/30席、エコノミークラス/207席、提供サービスは1.0食、免税品販売を行うという前提で編成数は7名内1名は専任客室乗務員を配置)
東京=バンコック線:
配置機材はB777-200ERで、エグゼキュティブクラス/63席、エコノミークラス/239席、提供サービスは1.5食、免税品販売を行うという前提で編成数は10名内1名は専任客室乗務員を配置)
* 東京=ホノルル線:配置機材はB767-300ERで、エグゼキュティブクラス/30席、エコノミー・クラス/207席、提供サービスは1.5食、免税品販売を行うという前提で編成数は8名内1名は専任客室乗務員を配置)
 東京=ロサンゼルス線:配置機材はB777-300ERで、ファーストクラス/9席、エグゼキュティブ・クラス/63席、プレミアムエコノミークラス/44席、エコノミー・クラス/156席、提供サービスは1食、免税品販売を行うという前提で編成数は13名内1名は専任客室乗務員を配置)
* 東京=ニューヨーク線:配置機材はB777-300ERで、ファーストクラス/9席、エグゼキュティブ・クラス/63席、プレミアムエコノミークラス/44席、エコノミー・クラス/156席、提供サービスは2.5食、免税品販売を行うという前提で編成数は14名内1名は専任客室乗務員を配置)

従って、上表より305名(内27名は専任客客室乗務員)のCAの配置が必要となります

また、上表の「乗務以外の一編成当たりの月間出勤可能日」をご覧になると、東京=大連線で、一編成当たり月間2.1日東京=バンコック線ロで、同1.3日東京=サンゼルス線で、同1.4日の出勤可能日数がることが分かります。これらの路線の配置人員、及び12ヶ月をかけ合わせれば;
(13人x2.1+39人X1.3人+84人X1.4人)x12ヶ月
2,347人・日
の出勤が可能であり、これは305名の CA が、健康診断、及び非常救難訓練をそれぞれ年間一回、追加人員の配置なしに実施可能であることが分かります

C.その他の必要人員
A 及び B で計算した必要人員は、路線運営で直接必要とされる人員数と、法律で実施が義務付けられている定期審査、健康診断、非常救難訓練の実施ができる人員だけです
しかし、長期、安定的、且つ成長を見込んで路線運営を行うには、以下の様な増員要素を見込んで計画を立てなければなりません;
① 追加的な技術教育
② 機種更新に伴う限定変更の訓練
③ 機長昇格訓練
④ 定年退職、死亡退職、等に伴う欠員引き当て
⑤ 臨時便、チャーター便に対する引き当て
⑦ エアラインによっては、組織運営を円滑に行うための管理を担当するパイロットを置くケースもあります。こうしたパイロットは乗務時間をある程度犠牲にして地上勤務を行う必要が発生しますので、その為の引き当て要員が必要になります

以上

パイロットの養成

はじめに

航空機以外の船舶、鉄道、自動車などの公共交通機関では、危険な状態に陥った時、船長や運転手は停止することに全力を傾ければいいという意味で、そのミッションは比較的シンプルです。一方、航空機の場合は、飛行中に危険が迫ってきても着陸するまでは飛行を停止させるわけにはいきません。正常な飛行ができない状態の航空機を、安全に着陸させなければならないという極めて難しいミッションが課せられていることから、パイロットの技量を維持・向上させ、適正な労働環境を整えることがエアラインビジネスの最重要の経営課題であることはお判りいただけると思います
以下に、これらの具体的な内容についてできるだけ分かり易い説明をしていきたいと思います

パイロットに起因する深刻な事故

100年以上にわたる航空機の歴史の中で、パイロットの技能や労働環境に起因する数多くの事故を経験し、パイロットのミスを防ぐための操縦室の設計やパイロットの訓練に係る規制が強化(詳しくは8_Humanwareに係る信頼性管理を参照してください)されてきましたが、未だにパイロットに起因する深刻な事故をゼロにすることが出来ていません。因みに、21世紀に入ってからも、パイロットに起因する深刻な事故が起きていますので、以下にご紹介いたします;

1.2001年11月12日、 アメリカン航空のエアバス社製の A300B-600は、ニューヨーク州・ケネディー空港離陸直後、近郊の住宅地に墜落・炎上し、乗員・乗客260人全員が死亡、更に地上で巻き添えとなった5人も死亡しました

2001年AA・A300事故
2001年AA・A300事故

事故原因:離陸直後、前方を飛行するボーイング747の後方乱気流に遭遇した。この時操縦していた副操縦士が不必要且つ過度な方向舵操作を行ったため、方向舵に設計荷重を超える空気力がかかり、尾翼が分離脱落し操縦不能となって墜落

2.2006年年8月27日、米国のコムエアー( COMAIR/デルタ航空のローカル線を運航)のボンバルディア社製の CRJ-100は、ケンタッキー州・ブルーグラス空港から離陸滑走を開始したものの、離陸する前に滑走路の終端に至り大破しました。乗員・乗客50人中、49人が死亡しました

コムエアー・CRJ100の事故
コムエアー・CRJ100の事故

事故原因機長と副操縦士が、離陸操作と関係のない会話を交わしていた為、進入する滑走路を間違えて短い滑走路に進入し離陸できずに滑走路の先に突っ込んでしまった

3.2009年6月1日、エールフランスのエアバス社製 A330ー200は、リオデジャネイロ空港離陸後、4時間後に最後の交信を行ったあと消息を絶ちました。翌日大西洋上で残骸の浮遊物を発見し墜落が確認されました。乗員・乗客228人は全員死亡したもの思われます。その後、事故調査の為に墜落したと思われる場所周辺の広大な海域の海底探索を行っていましたが、2011年になって4000メートルの海底にあったフライトレコーダー、コックピット・ボイスレコーダーが回収されました

AF・A330墜落事故
AF・A330型機の墜落事故

事故原因:回収されたフライトレコーダーの解析から、事故は以下の様なシーケンスで起こったことが分かりました;
① 悪天候で飛行中に3本のピトー管(飛行中の航空機の高度、速度を検出する重要な装備品であらゆる航空機に装備されています。高空で高度、速度の情報が得られなくなると操縦が非常に難しくなります)が凍結し機能を果たさなくなった為、自動操縦が自動的にオフとなった

777型機のピトー管_装着位置と原理
777型機のピトー管_装着位置と原理

② 休憩中だった機長に替わって操縦していた副操縦士は手動で操縦を始めると同時に失速警報が鳴り始めた
失速の際は本来“機首下げ”の操作を行うべきところ、この副操縦士は、“機首上げ”の操作を行いつつエンジンの推力を上げた
機長が戻って来て「機首を上げるな」と指示したものの間に合わず完全に失速して海面に激突した

4.2013年7月6日、アシアナ航空のボーイング社製777-300型は、サンフランシスコ国際空港での着陸に失敗。乗客3名死亡 ⇒ 動画:アシアナ航空214便着陸失敗事故

事故原因:この日は天候が良く、風もほとんどありませんでした。ただ、操縦桿を握っていた副操縦士はボーイング777型機の飛行時間はまだ43時間で慣熟訓練中であり、訓練教官役となっていた機長も事故の20日前に教官としての資格を取得したばかりであり、本便が資格取得後初の訓練教官役としての搭乗でした

5.2015年2月4日、復興航空(トランスアジア航空)のATR社製ATR72-600型機は、松山空港離陸直後にエンジントラブルを起こして墜落。乗員・乗客58名中43名死亡 ⇒ 動画:中華民国・復興航空ATR72-600型機墜落

事故原因:離陸直後、第2エンジンがフレームアウト(エンジンの燃焼が停止した状態)していることを示す画面が表示されると共に、主警報装置が鳴り響いた。ところが、パイロットは第1エンジンのスロットルをアイドリング位置まで引き、更にエンジンを停止させてしまった。その後、第1エンジンを再起動したものの操縦を正常に戻せず、左翼端が高速道路の側壁に激突し墜落した

6.2015年3月24日、ジャーマンウィングス(ルフトハンザ航空のLCC子会社)/A320型、フランス南東部の山岳地帯に墜落。乗員・乗客150人全員死亡

ジャーマンウィングスA320型機墜落
ジャーマンウィングスA320型機墜落

事故原因副操縦士の自殺。事故直前、急降下前に機長が操縦室外に出て、戻ったところ、暗証番号(9.11のテロ事件以降、操縦室のドアは常時施錠され客室側から開けられない様になっている)ではドアが開かず、何度ドアを叩いてもインターフォンで呼びかけても操縦席から反応がなく、しまいにはドアを斧で破壊しようとしていた思われる痕跡があった。回収されたコックピット・ボイスレコーダーの音声記録にはドア施錠後から墜落に至るまで会話や発声が一切なかったという

<パイロットの高度な技量により着水して乗員・乗客を全員救助できた事例>
2009年1月15日、ニューヨーク・ラガーディア空港を離陸したエアバス社のA320型機は、離陸直後に大型のカナダガンの群れの遭遇し、二つのエンジンが同時にフレームアウトしてしまった。機長は冷静な判断でハドソン川に着水することを決断し、航空機は全損となったものの乗員・乗客全員(155人)が救助されました
クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演で制作された映画、「ハドソン川の奇跡」は、この事実を基につくられました。尚、こうした鳥衝突に係る種々の問題について詳しいことを知りたい方は「航空機の鳥衝突による安全性について」をご覧になってみて下さい

パイロットの養成について

多くのお客様を乗せて航空機を安全に飛行させることが出来る優秀なパイロットを養成するためには、何等かの法的な規制が必要となることは言うまでもありません。第二次大戦後、大型旅客機が登場し、国境を越えて安全な運航を保証するためのルール作りが必要となりシカゴ条約(詳しくは条約・航空協定の歴史をご覧ください)として結実しました。この中で、パイロットの資格に係る基本的なルールについては、ICAO_Annex 1_Personal Licensingの中で定められています。また、日本に於いては、航空法の中でシカゴ条約のルールが具現化されています

パイロットに安全な運航を行わしめるための航空法の仕組み;
* パイロットの操縦技能に関し国による認定を行うこと
* パイロットの健康状態に関し国による認定を行うこと
機長の役割につき国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
* パイロットと地上の運航支援を行う人との間で適切なコミュニケーションを図ることに関し国による認定を行うこと
* パイロットが適切な労働条件のもとで働けるように国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
の様に分類することが出来ます。以下にその具体的な内容をご紹介します。尚、下記の説明には航空法や航空施行規則(附則及び付表等を含む)を頻繁に参照していますが、条文の内容を直接ご覧になりたい場合は、必要に応じそれぞれ次のリンクをご覧になってください:(航空法)、(航空法施行規則

また、米国においても実質的に同等の認定の仕組みを持っています。詳しく米国航空法と上記日本の航空法との対応関係を知りたい方はをパイロットに関わる米国の法規制ご覧になってください。また、この資料の中に引用されている「§ xxx」は、米国航空法のセクション番号です。ここに記述されている内容を詳しくご覧になりたい方はCode of Federal Regulationを参照してください

1.パイロットの操縦技能に関する国による認定
A. 操縦技能の認定方法については、航空法第26条、28条、29条、航空法施行規則第42条、43条で以下が定められています;
① 操縦に必要な経験(年齢、資格別の必要飛行経歴
② 操縦に必要な知識レベルの認定(筆記試験の例:定期運送用操縦士の学科試験
③ 操縦技術のレベルの認定(実機、シミュレーターによる実技試験

B. 国が認定する資格の種類は航空法第24条に以下の様に区分されています;
① 自家用操縦士、② 事業用操縦士、③ 準定期運送用操縦士(注)定期運送用操縦士、⑤ 航空機関士、⑥ 他
また、上記以外に航空法第34条で以下の証明の取得を義務付けています;
① 計器飛行証明:計器飛行、計器航法による飛行(計器飛行以外の航空機の位置、及び進路の測定を計器のみによって行うこと)を行う場合に必要となります
操縦教育証明:機長がその業務を遂行しつつ、同乗するパイロットに対して資格取得訓練、限定変更訓練を行う場合に必要となります

(注)準定期運送用操縦士MPL/Multi-crew Pilot License):これまでのパイロット養成ではまず小型機を単独で操縦するための訓練期間を長く行うことになっていました。しかし、最新の大型旅客機を運航するエアラインでは、副操縦士は機長と業務を分担してミッションを行うことが求められるようになりました。2013年、こうした状況に鑑み、航空法24条が改正され標記 MPL の資格が創設されました。MPL 養成訓練では、訓練の初期段階から機長と副操縦士の二人での運航を前提として行なわれますので、従来の訓練方式に比べ訓練期間が約6カ月以上短縮され、しかもより安全な運航を行なえる優れた副操縦士を養成ができるようになりました。尚、MPLの養成は、現在JAL及びANAの航空従事者指定養成施設(後段に説明があります)にのみ認められています。詳しい内容を知りたい方は国土交通省が作成したMPL技能証明制度についてをご覧になってみて下さい

LAL・MPL第一期生初フライト_2017年2月27日
LAL・MPL第一期生(右席)初フライト_2017年2月27日

C. 航空機の種類、等級、型式別の資格の認定については国土交通省令で以下の様に更に細かく区分されています(資格の「限定」とは、自動車の運転免許が自動二輪、普通、大型二種、等々など種類が分かれているのと同じ様な理由です);
① プロペラ機タービン機回転翼機、他、の区分
② 航空機の使用目的による区分
 最大離陸重量による区分

D. その他;
* パイロットが航空運送事業の業務を行う場合に、最近の飛行経験夜間飛行経験などに関し最低限の基準を設けています(航空法第69条 & 国土交通省令で定められています)

2.パイロットの健康状態に関し国による認定を行うこと
パイロットが操縦を行うには航空身体検査証明を取得しなければならないことが航空法第31条、航空法施行規則第61条の二で定められています
A. 航空身体検査証明の種別
第一種定期運送用操縦士準定期運送用操縦士事業用操縦士、航空機関士、他
② 第二種:自家用航空操縦士、他
B. 国が指定した病院において定期的に健康診断を受けること
C. 航空身体検査証明の有効期間は航空法第32条、及び航空法施行規則第61条の三で、原則1年と定められています。但し、60歳以上(加齢乗員ともいいます)の定期運送用操縦士は6ヶ月に一度と定められています
上記 A~C の詳細について知りたい方は、(財)航空医学研究センターのサイト(航空身体検査証明とは)をご覧になってください

D. 健康診断においてチェックすべき項目と、合否の判定基準については、航空法施行規則第61条の二に定められています。具体的な検査項目をご覧になりたい方は、最も厳しい検査内容となっている(第一種航空身体検査証明書の検査基準)をご覧になってください。恐らく、中年以上の方は、この基準を満たす為には健康状態維持に相当努力しなければならないことがわかると思います!
また、米国の規定をご覧になりたい方は(米国の身体検査証明書の検査基準)をご覧になってみて下さい。概ね日本の航空法と考え方は同じなのですが、昨今米国において社会的な問題となっている薬物依存症に係る規定は、極めて具体的に判断基準が明示されていることが分かります

3.機長の役割につき国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
航空運送事業の用に供する航空機を操縦するパイロットの内、安全運航に最終責任を負う機長については、航空法第72条において、その知識及び能力の審査を行うこととしています。また、航空法施行規則第163条で、その知識及び能力の具体的な基準を定めています;
機長の知識及び能力の審査
審査の対象:5.7トン以上の航空機、または9.7トン以上の回転翼機(ヘリコプターなど)を使って航空運送事業を行う機長
② 審査は口述審査(所謂“口頭試問”に相当)と実地審査(認定に係る航空機と同じ型式のシミュレーターを使用)で行います;
<運航に係る審査の具体的な内容>
* パイロットが行う航空法第73条の二に基づく飛行前点検(Pre Flight Check)について
* 出発・飛行計画変更に係る運航管理者(Dispatcher)の承認事項について
* 他の乗務員(含むCA/客室乗務員)に対する指揮・監督について
* 安全阻害行為の抑止危難の場合の措置他の安全管理事項について
* 通常状態、及び異常状態での航空機の操作及び措置について

③ 上記審査は、航空法施行規則第164条の二に基づき、年一回実施することになっています。但し“通常状態、及び異常状態での航空機の操作及び措置”については年2回の審査を実施する必要があります ⇒ 6Month Check Flight

4.パイロットと地上の運航支援を行う人との間で適切なコミュニケーションを図ることに関し国による認定を行うこと
① 通信機器の知識、取り扱いに関わる電波法に基づく航空級無線通信士の資格取得を義務付けています
② 外国での運航を行う場合、航空法第33条に基づき、国土交通大臣が行う航空英語能力証明の取得を義務付けています

5.パイロットが適切な労働条件のもとで働けるように国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
航空法第68条、及び航空法施行規則第214条に基づき、エアラインに乗務割の基準を定めることを義務付けています
① 運航規程に乗務割の基準を定めることを義務付け運航規程を認可項目としています。運航規程に関する詳しい説明は(2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像)の「4.運用段階、(8)」をご覧になってみてください

② 航空法施行規則第175条で、乗務割の基準には以下の項目が含まれていなければならないとしています;
*乗務時間の制限は、1暦日又は24時間(国際線など時差がある運航を行う場合)、1歴月3ヶ月1暦年当たりそれぞれの限界時間を設定しなければならない。
*疲労により航行の安全を阻害しないような乗務時間その他の労働時間が配分されていること
尚、それぞれの限界時間の具体例(エアラインによって異なる)については、乗員計画(パイロット、CA/客室乗務員)をご覧になってください

X. 外国人パイロットに係る例外措置
昨今、パイロットの絶対数の不足、パイロットに係る諸経費の削減、パイロット養成期間の短縮事業計画の変動に対する迅速な対応、などの目的で外国人パイロットが多く導入さています。彼らの保有している資格は欧米先進国で発行されたものであり、この資格では日本の航空法の下では飛行できないことになります。従って、これを短時間で日本の資格に切り替えるために、以下の様な例外措置を設けています;
国際民間航空条約(ICAO)締約国の政府が発行した資格を有する者は、国内航空法規に関わるものを除く学科試験、及び実地試験の全部又は一部を行わない
② 取得できる日本の資格:技能証明技能証明の限定の変更計器飛行証明航空英語能力証明

国に代わって認可行為の一部を代行する仕組み

これまで説明してきた安全運航に係る重要事項について“国による認可や審査”があるのは、航空行政の公平性、厳格性を保つために必須の事ですが、これらを全て国家によって行うには、必要となる専門性、人件費の効率性設備投資、などの面で実質的に不可能です。そこで、パイロット養成に係る施設(例えば航空機やシミュレーターなど)、訓練に必要となる教官(実技指導を行うパイロット、操縦に必要となる知識に係る訓練を行う地上職の教官)、などを保有している組織(下記参照)を指定し、国による認可行為の一部を委嘱することが出来るようになっています。これを定航空従事者養成施設制度(自動車の運転免許取得の際通った自動車運転教習所を想像すればいいと思います)といいます。この仕組みについて詳しく知りたい方は(2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像)の「規制当局による審査、認可等の合理化」(2)をご覧になってみてください。以下に具体的な「定航空従事者養成施設」を例示します;

1.独立行政法人航空大学校
航空大学校は、航空法施行規則第50条の二で、国に替わって以下の資格を付与することができることになっています。尚、この学校は独立行政法人となっていることから分かるように、1954年に国策で設立され、訓練学生の授業料負担の軽減、エアラインのパイロット養成費用負担の軽減、その他のパイロット・ソースの確保、などの役割を果たしています。現在の募集定員は108名訓練期間は2年間となっています;
自家用操縦士事業用操縦士の技能証明
② 技能証明の限定
計器飛行証明の実地試験
航空英語能力証明に関わる学科試験

2.航空従事者指定養成施設
エアラインのパイロット訓練部門民間のパイロット養成施設大学のパイロット養成コース、などを対象としています。航空法施行規則第50条に当該施設の認可に関わる国のチェック項目は以下の様に具体的に示されています;
① 教育・訓練に必要となる教官(実技指導を行うパイロット、操縦に必要となる知識に係る教官)、及び技能審査員の履歴航空従事者としての資格が適正かどうか
教育・訓練のための施設教育・訓練の内容・方法技能審査の方法が適正かどうか
教官が必要数以上配置されているかどうか
④ 技能審査に必要な技能審査員、訓練に必要となる航空機、シミュレーター、その他の機材、設備を利用できる状態になっているかどうか
訓練・教育施設としての適確な運営の為の制度が定められているかどうか

上記を踏まえたうえで、以下の認可行為を行うことを施設ごとに指定します;
自家用操縦士事業用操縦士準定期運送用操縦士定期運送用操縦士、航空機関士の資格付与
航空機種の限定は、実地試験に使われる航空機の機種で決まります
計器飛行証明の付与

3.指定本邦航空運送事業者、査察運航乗務員
航空法第72条に基づき、国は航空運送事業を行う機長の知識及び能力を審査することになっていますが、「指定本邦航空運送事業者」の認可を得たエアラインについては、エアラインが自社の機長の審査を行う者を指定し、国がその者の適格性について審査を行った上で「査察運航乗務員」として指名し、国が行う審査をその者に代行させることが出来ます
この査察運航乗務員の適格性についての審査は、航空法施行規則第164条、165条に基づき以下の項目のチェックを行うことになっています。審査は年一回行われます;
① 書面審査、口述審査、実地審査
② 組織、訓練体制、訓練方法、訓練施設が適切であること
③ 査察操縦士の審査に関わる権限の独立性が確保されていること(⇔審査される機長の合否判断は、あくまで国土交通大臣に替わって行っている)

4.指定航空英語能力判定航空運送事業者;
航空英語能力証明に関わる試験を行います

エアラインのパイロットになるまで

エアラインのパイロットとして乗務する為には、副操縦士であっても事業用操縦士の資格航空無線通信士の資格、計器証明、(国際線を乗務するのであれば航空英語英語能力証明も必要)を保有していなければなりません。また、機長として乗務する為には、上記の資格と併せ、「定期運送用操縦士」の資格を持っていなければなりません
これらの資格を取得してエアラインパイロットになる為には以下の様な選択肢があります;
1.資格を何も持たないままにエアラインのパイロット要員として入社するケース;
資格取得するまでのコストは全てエアラインが負担し、更に資格を取得するまでの間も相応の賃金が支払われるので人気が高く応募者も多いために、競争環境は非常に高いといえます。尚、一定期間内に資格を取得できなかった場合、エアラインパイロットとしての適格性が無いと判定され、地上職に職変してエアラインにとどまるか、退職するかの選択を迫られます

2.航空大学校に入学し、自家用操縦士、事業用操縦士、航空無線通信士、計器証明、航空英語英語能力証明、などの資格を取得しエアラインに入社するケース;
資格取得するまでのコストは原則国費で賄われますが、入学料、授業料、寮費などの自己負担分は二年間で350万円以上となります(詳しくは2020年度航空大学校募集要領を参照してください)。エアラインにとってパイロットの養成が低コストで済むので、エアラインに採用される可能性は高いものの、その分航空大学校への入学の敷居は非常に高い状況です。エアラインに採用されなかった人は、民間の使用事業(少人数の観光客をターゲットにした遊覧飛行やチャーター飛行)その他の組織でパイロットとして働く道も残されています

3.パイロット・コースを設けている大学に入学し、自家用操縦士、事業用操縦士、航空無線通信士、計器証明、航空英語英語能力証明、などの資格を取得しエアラインに入社するケース;
近年、LCCの隆盛と共にエアライン・パイロットの需要が高まり、パイロットを養成するコースを設ける大学が増加しつつあります。ただ、日本国内で大学単独で資格取得の為の航空機やシミュレーターを購入するには高額な投資が必要となること、国内では飛行訓練のための空港や空域の確保が難しく、更に着陸料、航行援助施設利用料の負担も大きいことから、殆どの大学は、実機訓練を外国の飛行学校に委嘱しているのが実情です。また、学費も2000万円以上掛かると言われており、経済的な面で入学の敷居は高いと言えます
しかし最近は、エアラインとしてもこうしたパイロットソースを通じて優秀なパイロットを確保する必要性から大学との協力関係を築いているケースもあります。因みに現在、桜美林大学の航空コースはJALと東海大学の航空コースはANAと協力関係を持っています
尚、エアラインに採用されなかった人は、航空大学校卒業生と同じように民間の使用事業、その他の組織でパイロットとして働く道も残されています

4.個人で外国の飛行学校、等に入学し必要な資格を取得するケース;
パイロットの資格は学歴には関係ないので、自費で必要な資格を取得することは可能です。このケースでも一般に経済的な理由で外国の飛行学校で資格を取得するケースがほとんどです
<参考>
1996年 JALエクスプレス(1997年設立、2014年JALに統合)を立ち上げたときは、このケースのパイロットも採用しました

5.自衛隊に入隊し、ある程度の年齢になってから自衛隊を退職し、エアラインに入社するケース;
自衛隊が保有する戦闘機や輸送機、その他、数多くの航空機を操縦するパイロットは100%国費で養成されています。また飛行経験自体も通常の業務の遂行のなかで積み上げていくことが可能です。ただ、自衛隊のパイロットの操縦資格は航空法で決めらている民間機の操縦資格とは異なります。また、自衛隊のパイロットの機種ごとの配置数は運用する各種の航空機別に定員が決まっており、その人件費・経費は国費で賄われております。従って、自分の意思だけで自衛隊を退職しエアラインのパイロットになることが出来ないことはご理解いただけると思います
しかし、自衛隊のパイロットは部隊運用上ピラミッド型のシンプルな組織を形成することが必要であると同時に、肉体的に過酷な任務を求められる航空機については高齢になれば任務遂行が困難になるため、定期的な若返りを図っていく必要もあります。こうしたことから、自衛隊とエアラインとの間で「割愛」という制度が設けられており、必要によりエアラインは防衛相と合意の上で自衛隊パイロットを受け入れることを行っています
<参考>
先進国を中心として、大規模な航空戦力を保有している国では、軍のパイロット出身のエアラインパイロットが多いと言われています

機長養成について

安全運航に最終責任を負う機長については、既に述べた様に航空法に基づく重要な任務を遂行する必要があり、大手エアラインでは、法で定められた飛行経験(資格別の必要飛行経歴)、定期運送用操縦士資格の取得(参考:定期運送用操縦士の学科試験)の他に以下の様な要素を加味して機長養成を行っています;
① 機長業務に相応しい人格・識見を有していること
② 機長業務に相応しい操縦技能、知識を有していること
③ “Senioroty”の基準を満たしていること
“Senioroty”の基準とは:入社順、資格取得順、などで機長になる機会を与えること。一般に労働組合などとの間で労務上の問題を起こさないようにするための基準であり、法に基づく厳格な基準ではありません

機長養成をエアライン自ら行うことは法的には義務付けられていませんが(⇔航空会社設立時などでは機長資格を持った人を採用します)、路線運営には必ず一定数の機長が必要(具体例ついては、乗員計画(パイロット、CA/客室乗務員)をご覧になってください)であり、長期的な事業計画の伸び、及び機種更新の計画に合わせて新しい型式の航空機の機長も確保しなければならないことから、大手のエアラインでは副操縦士から機長への昇格、機長の「限定」変更(操縦する機種の変更)などを長期的な視野で行っています

副操縦士が機長養成コースに入ると、シミュレーター訓練や座学の他に、教官となる機長と定期便に同乗して訓練(“路線訓練”といいます;副操縦士席での訓練 、 機長席での訓練)を行う必要があります。また、離着陸時の機長のミッションを習得する為には、離着陸の経験(馬術用語の“鞍数”ともいいます)を多く積まねばなりません

<参考>
1.事故統計によれば航空機事故の殆どは、離陸時の3分間着陸時の8分間に集中していることから、この合計11分間を「Critical Eleven Minutes/魔の11分間」と呼んでいます。機長養成で離着陸の訓練を重視するのはこうした背景があるからです
2.前述(パイロットに起因する深刻な事故)の、アシアナ航空のサンフランシスコ国際空港における着陸失敗事故は、長距離路線で慣熟飛行を行ったことが問題であった可能性も考えられるのではないでしょうか

こうしたことから、大手のエアラインには機長養成に、短距離路線(国内線、短距離国際線)に投入し、保有機数も多い機種を機長養成用の機種として指定し、養成の効率化を図っているところもあります。
具体的な運用としては、機長候補者を予めこの機種に移行(“限定”の変更)させ、機長昇格後も相応の期間その機種で慣熟を図っていきます。結果としてその機種で余剰となる他の機長は、事業計画上増機していかねばならない機種に移行させていく、などの対応を行って機長マンニングのバランスを取ることになります

パイロット養成コスト(試算)

これまで述べてきたことからパイロットを養成するには、訓練のための高額な費用が掛かることはある程度想像できると思いますが、もう少し正確なイメージを持っていただくために、以下のケースに分けて必要となる費用の試算をしてみたいと思います;
1.航空大学校における訓練生一人当たりの訓練費用
この試算を行うためには、航空大学校の収支データが必要になります。本来は独立行政法人なので公表を義務付けられているはずの財務諸表及び事業報告書を入手できれば一番いいのですが、今回サイトから見つけることが出来ませんでしたので、航空大学校のサイトから航空大学校2018年度業務実績報告書を入手し、ここから収支計画・実績のデータを取り出して計算してみました(下表の単位は“円”);

航空大学校訓練生の訓練費用(試算)
航空大学校訓練生の訓練費用(試算)

訓練生の自己負担分は2年間で350万円程度ですが、国費で負担する金額が一人当たり3千万円以上かかっていることが分かります。エアラインに優秀なパイロットを供給する為に国も相応の負担をしているということでしょうか

2.米国の飛行学校で自家用操縦士、事業用操縦士、計器飛行証明の資格を取得する場合の訓練費用
米国のEpic Flight Academyで資格を取得するための授業料を計算してみました。ここでは、米国における滞在費、その他の費用は入っていません;

外国の飛行学校で資格を取得する場合の訓練費用
外国の飛行学校で資格を取得する場合の訓練費用

3.エアラインが自社のパイロットを養成する時の費用
エアラインが採用したパイロットに各種の資格を取らせるためには、掛かる費用は全て自社で賄わねばなりません。基礎となるデータ類は5年ほど前のもの(但し、大きな費用項目となる航空機の減価償却費については減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表_航空機関連を反映しています)ですが、訓練費用の内訳や費用総額の概算値としてはそれほど外れていないと思いますので参考のために以下の表をご覧になってみてください;

パイロットを自社養成する場合の訓練費用
パイロットを自社養成する場合の訓練費用

米国の飛行学校で資格を取るのに比べてかなり費用が大きいことが分かると思います。これは資格取得する際に使う航空機の価格の差、日本の空港を使用することに伴う公租公課の差、訓練シラバスの差、などによって違いが生まれています。従って、エアラインであっても訓練費用を削減する為に、海外の飛行学校に訓練を委嘱したり、海外に訓練施設を設けるなどの対応も行われています。
JALでは、新しくできたMPL資格取得訓練をCAE Phoenix – Aviation Academyで行っています

機長養成訓練や、航空機の型式限定の変更訓練などは、大手のエアラインは事業計画の柔軟性を確保する為に自社で行うことが普通です。これらに係る費用の試算値は以下の通りです;

機長養成・機種限定変更訓練コスト(試算)
機長養成・機種限定変更訓練コスト(試算)

上記二つの表の基礎的なデータについてご興味のある方は自社乗員養成コスト_基礎データをご覧になってみて下さい

以上から、エアラインビジネスにとってパイロット養成に係るマネージメントは、経営面で極めて重要であることはご理解いただけると思います

以上

航空機の運用

はじめに

上の写真は、上越新幹線の通称『ダイヤグラム』と言われている発着ダイヤを表すグラフです。このグラフで新幹線全便の一日の運航状況が全て読み取れます
因みに、縦軸は停車駅、横軸は時刻を表しています。斜めの線が列車の進行を表し、この線の上に書かれている『1301C』などの番号がその列車に付けられたいわば「便名」に相当することになります。その列車の駅間の隙間がやや不揃いなのは、駅間の平均速度を勘案して駅間の斜めの線の傾きがある程度揃うように工夫してあるようです
停車する駅ではこの斜めの線が少しズレていますが、このズレがその駅の停車時間に相当します(恐らく上越新幹線では途中駅での停車時間は1~2分、終点の新潟駅での折り返し東京行き出発までの時間は15分程度に設定されていると思われます)
列車の乗務員、駅員、全体のスケジュールを調整している担当者などはこの『ダイヤグラム』で仕事をしていると言っても過言ではないと思います。例えば、どこかの駅でトラブルによる遅延が発生した場合、この『ダイヤグラム』を見て後続の列車をどこの駅で停車させればいいか直ぐに分かります。勿論、復旧する場合も同様に、各列車の運休計画、遅延時間も迅速に判断が可能です。いわばプロ仕様のダイヤと言えるかもしれません。参考までに、興味のある方は、最も過密なダイヤで運行しているJR東海道新幹線ダイヤグラム_2015年ダイヤ改正をご覧になってみてください。プロの凄さ!が理解できると思います

エアラインビジネスにおける各航空機の運用も、基本的には列車やバスなどの陸上輸送や、船舶による海上輸送と全く同じです。航空機の運用のプロも、お客様が日頃見慣れている発着ダイヤではなく、こうした『ダイヤグラム』をもとに仕事をしていると言っても過言ではありません

エアラインビジネスの場合、航空機の購入価格が桁違いに高額である為、航空機の稼働を極限まで高めないとビジネスとして成立しないことになります。因みに、日本航空が最近デリバリーを受けたエアバス製のA350XWBという航空機のカタログ価格は、シリーズによって違いはありおますが、約3億ドル(日本円で約325億円:108円/USD)⇒ 機体の償却費だけで1日約1千万円弱を見込まなければならないことになります。また、鉄道の場合、駅のホームは鉄道会社が所有しているのが普通であるのに対し、エアラインが使用する空港や空港内のターミナルは、通常エアラインとは別の事業体(国の所有を含む)が所有しており、エアラインが自由に使えるものではありません
従って、以下の様な各種の制約条件を如何に上手に?クリアーし、航空機の運用を効率的行うことが、エアラインビジネスの『肝』になると言えると思います

航空機の運用に係る各種制約条件

1.使用する空港の制約
発着枠:空港の滑走路の数、管制官の人数、空域の制約(近傍の空港が使用する空域の制約、軍の訓練空域の制約)などにより、空港ごとに最大の発着回数が決められています。混雑空港については各エアライン間で公平さが要求されるために必ずしも要求通りの発着枠を取得できるとは限りません。お客様の利便性を考慮し、既に運航している定期便の発着枠の既得権は原則守られますが、1990年代に政策的に規制緩和が行われた時代には、新規航空会社の参入を進めるために、新規枠の配分を新規参入エアラインに優先的に配布されました。尚、規制緩和にについて詳しく知りたい方は(航空規制緩和の歴史)をご覧ください。また最近話題になっている羽田空港の発着枠の政策的な方向性について詳しいことを知りたい方は(羽田空港発着枠の検討課題と現状_国土交通省)をご覧ください。尚、発着が特定の時間帯に集中しない様に1時間あたり、場合によっては3時間当たりの最大の発着回数にも制限が加えられることもあります

羽田空港_夜間
羽田空港_夜間

② 運用時間帯:日本では、地方空港は概ね夜間は使用できません。また主要空港である成田空港、大阪国際空港(伊丹空港)では周辺住民の騒音対策として夜間の発着が禁止されています(日本の各空港の運用時間帯の情報については国交通省の(空港情報一覧)をご覧ください
駐機スポット:航空機を駐機させるにはかなり広い面積が必要であり、ランプエリアを十分に確保できない空港は、駐機スポットの数の制約から他に乗り入れているエアラインとの発着時刻の調整が必要になることがあります
④ CIQ:国際線を運航する場合は、空港に於いて税関Customs/財務省管轄)、出入国管理Immigration/法務省管轄)、検疫Quarantine/人間の検疫は厚生労働省管轄;動植物の検疫は農林水産省管轄)を行う必要があります。管轄する部署の配置人員が十分に確保できない場合、遅延が発生する可能性があります(繁忙期における臨時便の運航、など)

出入国管理
出入国管理

セキュリティー管理:空港ターミナルの「制限区域」に入る場合は危険物の持ち込みを排除する為のチェックが義務付けられています。日本にあっては、この要員の確保に係るコストは、空港に乗り入れているエアライン間でシェアすることになっています

上記③~⑤の制限によって、空港への乗入れに際し時間帯の制約を受ける可能性があります

2.航空機の地上停留中の作業に係る制約
① 機内清掃とシートポケット内容物の補充する作業:航空機がスポットに入ったあと、お客様が降機を終わってから作業を開始し、次の出発便のお客様が乗機を始める迄に作業を終わらなくてはなりません

Cabine Cleaning
Cabin Cleaning

② ケータリング作業(飲食材料の補充):飛行中にお客様に提供される飲み物や食事を搭載します。国内線にあっては飲み物を中心とする補充で済みますが、15時間程度の飛行時間となる長距離路線を運航する場合には、各種飲み物の他に、メインとなる食事2食分と朝食などの軽食を搭載することとなり、かなりの量になります(⇒機内のスペースの確保⇒旅客席数の減)

Catering・Cargo Handoling
Catering・Cargo Handling

③ 貨物の取り卸し・搭載作業:現在エアラインで使われている大型の航空機には相当量の貨物搭載が可能であるため、お客様の手荷物以外にも多くの郵便物や貨物が搭載されており、発着毎にこれらの貨物の取り卸し・搭載作業が行われています

④ 燃料の補給:出発前に目的地到着までに必要となる燃料を補給します。この燃料には目的地までに消費する燃料以外に、もしもの場合(悪天候や航空機のトラブルなど)に備えて目的地ごとに指定される代替空港までの飛行に必要な燃料(場合によっては出発空港に戻るまでの燃料)、その他の予備燃料(空港混雑により待機する場合など)が含まれます

Fueling
Fueling

⑤ トイレの汚物回収、洗浄水の補充:この目的のための特殊車両で行います
⑥ 飲料水の補充:この目的のための特殊車両で行います

Lavatory Service ・Water Service Car
Lavatory Service Car・Water Service Car

⑦ 整備作業:航空機の運用に際し、航空法に基づき整備作業を実施する必要があります。(詳しくは(整備プログラム)をご覧になってください
毎日運航している航空機に対して行う整備作業(航空業界内では運航整備作業/Line Maintenanceと呼んでいます)の具体的な内容や必要人員数については、到着便作業・配置人員出発便作業・配置人員折返し便作業・配置人員をご覧になってイメージアップしてください(実際の作業時間、配置人員については必ずしも正確ではありません)

Line Maintenance
Line Maintenance

これらの作業以外に、定期的に行う整備作業とその機会に行う改修作業があります。これらは、夜間に長時間(5~10時間程度)駐機する機会に実施する作業(通常数百飛行時間ごとに計画的に設定)と、航空機を1週間から1ヵ月程度駐機させて格納庫内で大人数をかけて行う作業があります(詳しくは整備プログラムをご覧になってください)。私の経験ですが、これらの格納庫内で行う大きな整備作業・改修作業は、1機について年間平均18日程度引当ておくことが必要となります。これは即ち、20機保有しているエアラインは、そのうち1機相当分はこうした大きな整備作業・改修作業(航空業界内では重整備作業/Heavy Maintenanceと呼んでいます)を行っていることとなり、実際に毎日稼働できる航空機は平均して19機になることを意味します。こうした大きな整備作業・改修作業に引き当てる予備の航空機を保有していない場合、作業に必要な日数分 定期便を運休する必要が発生します

Heavy Maintenance
Heavy Maintenance

⑧ パイロットの業務:出発前に航空機を地上から点検すること(Walk_around Check)、操縦室内でチェックリストに基づいて計器や各種操縦に必要な機能が正常であることを確認すること、整備士から整備作業に係る報告を受けること、などの業務を行います

パイロットの飛行前の準備作業
パイロットの飛行前の準備作業

⑨ CA(客室乗務員)の業務:お客様が乗機する前に客室内の飛行前点検、機内の収納エリアに危険物が隠されていないかなどのチェックなどを行います
⑩ ランプ・コーディネイターの業務:地上に居て到着・出発作業に携わる人達の作業の進捗管理を行います(必要により出発遅延の決定も行う)。作業が順調に進めば出発5分前という情報を関係者全員に周知することなどを行います

上述の、航空機の到着から出発に至る迄の各担当部門が行う作業の相関関係を図示したものが「標準作業工程表」と言い、ここで示された地上停留時間は航空機の運用を行う際の最小限の地上停留時間DGT/Standard Ground Timeといいます)となります(これより短い折り返し便の設定は特別の場合以外は行いません)。以下は国内線の標準的なケースです(エアラインや航空機の型式によって異なることが普通です)

航空機の到着・出発における標準作業工程表
航空機の到着・出発における標準作業工程表(国内線)

尚、国際線については、①~⑨の業務量が増加するため、一般にもう少し長い停留時間が必要となります

3.航空機の型式、客室仕様
航空機を路線に投入する場合、まずその航空機の航続性能がその路線の飛行距離より長い事が必要です。また競合する他社との競争上の観点から、その路線の旅客需要に見合った客席数(First Class、Executive Class、Premium Economy Class、Economy Class)であることと併せ、旅客サービスの為の飲食類が提供できる客室内の装備が必要となります。
① 航空機の航続性能と最大離陸重量
航空機の航続性能は、航空機の空気力学的な抵抗(一般に新しい型式の航空機ほど性能が良い)、エンジンの燃費性能、燃料の搭載量、などによって決まります。また、長距離路線は飛行時間は長いものの着陸回数はそれほど多くはないのに対し、短距離路線は逆に飛行時間は短いものの、発着回数が多くなります
航空機の用途によって要求される性能を実現するには、航空機の設計の段階で取り入れなければ実現することはできません。要求される設計基準について詳しいことを知りたい方は(3_耐空証明制度・型式証明制度の概要)をご覧になってください。参考の為に、現在日本航空で保有している機種の中で、長距離国際線の路線と国内路線の両方に使用されているボーイング社製の777という機種の性能の違いを日本航空のサイトにある情報を拝借してみました;

777・長距離型と短距離型の比較
777・長距離型と短距離型の比較

上記の二機種は、777という型式名から想像できるように航空機の基本構造は変わりませんが、長距離用と短距離用という用途の違いから相応の設計の違いが見て取れます;

777-300ER(長距離型) 777-300(短距離型)

* 最大離陸重量 : 340.2 ton          237.0 ton
* 航続距離   : 14,340 km           3,550 km
* 機体の長さ/幅:    73.9m/64.8m         73.9m/60.9m

上表から分かる通り、長距離型は航続距離を延ばすために燃料を多く搭載できるように最大離陸重量がかなり大きくなっています。また幅が大きいということは、翼が長くなっている為ですが、これは長距離を効率的に飛行する際の空気抵抗を減らすためです。また、短距離型については上表の数字からは分かりませんが、離着陸回数が多くなることから、頻繁に使う主脚(Landing Gear)や高揚力装置(Flapなど)が強化されています

航空機が運用される時に徴収される着陸料、及び航空路を飛行する際に徴収される航行援助施設料、駐機料などは、一般にこの最大離陸重量を基に計算されます(⇔ 運航コストに大きな影響があります)。これは日本の高速道路料金がその建設費や車体の重量によって道路の傷み具合が違うことから決められている理屈と同じですね!

尚、着陸料の計算式については、最大離陸重量の他に、空港周辺の騒音を低減させる為に機種別にICAO基準に基づいて測定された離陸測定点と着陸進入測定点での騒音値をもとに高騒音機(古い機種)程付加料金が高くなる体系になっています。また離島の空港、あるいは利用状況が芳しくない空港で路線開設、増便を促すためのインセンティブとして着陸料の割引を行うことも行っています。現在の着陸料などの状況については、国土交通省が発行している(着陸料等告示_AIP)をご覧になってみてください

昨今オリンピックに向けての増枠で話題となっている羽田空港の着陸料、及びあまり馴染みのない航行援助施設利用料の設定については、国土交通省が一元的に行っていますので、同省の政策的な方向性について興味のある方は以下の資料をご覧になってください;
羽田空港の着陸料:羽田空港発着枠の検討課題と現状
航行援助施設利用料:今後の航行援助施設利用料のあり方_国土交通省

② 客室仕様
客席と旅客サービスに必要となる装備は「客室仕様」と呼んでいます。長距離型の客室仕様の場合、席数を減らして飲食物提供に必要なスペースを設けるため、座席数がかなり減ってしまいます。777の長距離型と短距離型の客室仕様の違いを日本航空のサイトからコピーしたものが下図です。長距離型は、飲食物の収納、飲食物提供の準備作業のための大きなスペース(Galleyと呼んでいます)が設けられていることが分かります;

777・長距離型と短距離型の座席配置の比較
777・長距離型と短距離型の客室仕様の比較

席数については、以下の様に大きな違いがあります;
777-300ER(長距離型):244席(First Class/8席、Executive Class/49席、Premium Economy Class/40隻、Economy Class/147席)
777-300(短距離型):500席(J  Class/78席、Economy Class/500席)

以上より、長距離国際線用の航空機を国内線に使用することはコスト面からも収入面からも適切でないことが分かります

航空機の稼働を上げるには?

1.「標準作業工程表」を変更し、DGTを短縮する
国土がそれほど広くない日本にあっては、国内線の飛行時間は数十分から4時間未満と考えてよいと思います。また、国内の地方空港の大半は夜間の発着ができないことがあり一日の稼働可能時間はせいぜい8時~22時の14時間程度しか期待できません。こうした状況で稼働を上げるにはDGTを短縮するしか方法はありません
DGTを短縮するには「標準作業工程表」の各部門の作業時間を短縮する(あるいは省略する)こと、作業の重なりを許すこと、などが考えられます。このための具体的な工夫の例は以下の通りです;
「機内清掃とシートポケット内容物の補充」作業を、お客様が降機するペースに合わせ、後部担当のCA(客室乗務員)に担当してもらう(機内清掃は粗ゴミ拾い程度 ⇒ 旅客サービス水準の低下!)
「燃料の補給」作業をお客様が降機中から始める(⇔ 火災発生時に備え、CAのDoor side配置が必要になります)

<具体的な事例>
* 米国で数百機のB737を運航しているサウスウェスト航空ではDGT15分を実現しています。ただ、実際のスポット周辺でのサービス状況の観察、サウスウェスト航空担当者のインタビュー等を通じてわかったことは、日本とは違い米国では飛行ルートの選択に係るパイロットの自由度が高く、遅延した場合でも飛行ルートを変えて飛行時間を短縮することが可能な場合があること、また到着・出発に係る地上作業者がマルチタスク(色々な作業ができる)に対応し、かつ動線が短い(駐機スポットの直ぐ傍で待機している)こと、更に数百機の保有機が全てB737シリーズで全ての作業者が作業を熟知しておりミスが少ないこと、などがこの様な短いDGTで運用できている背景にあると思われます

* 1996年、B737-400を使ってJAL100%子会社のLCC(JAL Express)を立ち上げたとき、JALで使われていたDGT35分を10分間短縮して25分でダイヤを組みました。特に遅延が目立ったということはありませんでした

*正確な時期は覚えていませんが1990年代、、タイのLCCが運航するバンコック=チェンマイ間の路線を視察する機会がありました。1機を使ったシャトル運航でしたが、早朝から満席に近い運航を繰り返して(予約上の確認のみ)おり、私が搭乗した最終便は2時間以上の遅延で運航されていました。安い運賃であった為か、あるいは定時性にはあまりセンシティブでない国民性の故か、待たされている満員の旅客は全く平静であったことが印象的でした

2.航空機の運用の仕方に着目した稼働の向上策
国内線については夜間帯は空港の制約から概ねどこかの空港に駐機しています。一方、国際線については、主としてお客様の利便性(目的地に到着してからすぐにビジネスや観光ができること、あるいは外国空港での乗継が便利であること、など)を優先したダイヤが作られるために昼間帯に空きが発生することがあります。以下はこうした航空機が使われない空きを使って稼働を上げることができる例です;

日本航空の羽田発着のサンフランシスコ線のJL002便は、出発時刻は19時50分、サンフランシスコ到着は現地時間13時10分になります。その後2時間40分サンフランシスコ空港に駐機して、帰りのJL001便は現地時間15時50分にサンフランシスコを出発し、翌日の19時に羽田に到着いたします。つまりサンフランシスコを往復するのに足掛け2日かかります(飛行時間は20時間30分)。従って、このサンフランシスコ線を毎日飛ばすためには航空機が2機必要になります。一方、この路線引き当ての2機の航空機のうち1機は、毎日朝から19時50分まではこの航空機には空き発生しています。この空きを使って羽田=上海線(JL81便/羽田発09時20分⇒JL82便/羽田到着16時45分:往復飛行時間は6時間)を運航させることができます。サンフランシスコ線だけを2機で運航した場合、航空機1機・1日当たりの稼働時間は10時間15分にとどまりますが、これに上海線を組み合わせることによって13時間15分に向上させることが可能となります( ⇒ 更に上海線引き当ての航空機はいらなくなります)
ただ、注意しなければならないことは、客室仕様は、当然基幹路線であるサンフランシスコ線が優先されますので4クラス仕様、一方上海線(通常2クラス(Executive Class、Economy Classで販売している)は販売可能な客席数が少なくなります。また最大離陸重量が大きいので着陸料、航行援助施設利用料が高くなりコスト面でもややマイナスになります

航空機の稼働向上策
航空機の稼働向上策

羽田に駐機する国内線は、地方空港の運用時間帯の制約で、概ね22時頃までに到着しています。翌日の羽田出発便も地方空港の運用時間帯の制約、お客様の利便性の関係で8時過ぎまで空いている航空機もあります。私が航空機運用の担当だった時代、この空きを使って国内線機材によるグアム線(往復飛行時間:7時間30分)の運航を行っていました。この夜行便の対象は学生さんなど若い人が往復とも機中泊とすることで滞在費を節約できるメリットがあり、結構利用されていました
ただ、注意しなければならないことは、客室仕様の他に、国内で使われる航空機の燃油費には燃料税(26円/1リットル;沖縄、離島路線などでは減額されています)が掛かっているのに対し、国際線で使われる航空機の燃料は無税となっております(ICAO CHAPTER 4:詳しくは条約・航空協定の歴史参照)ので、この燃料の課税処理の為に税関当局の承認が必要となることです

3.整備作業実施に係る航空機の稼働向上策
整備作業については、「2.航空機の地上停留中の作業に係る制約;⑦ 整備作業」で述べた様に、発着に係る整備作業以外に「定期的に行う整備作業とその機会に行う改修作業」があります。定期的に行う整備作業とは、一定の飛行時間や飛行サイクル(発着回数)、経過日数によって実施が義務付けられている個々の作業(「整備要目」といいます)を実施しやすさを考えてまとめたもの(⇔整備要目の集合)を意味しますが、これを「整備パッケージ」と呼んでいます(詳しくは4_整備プログラムをご覧ください)。整備パッケージと整備要目との関係についてイメージしていただくには下記の表が分かり易いと思います;

整備要目と整備パッケージの関係
整備要目と整備パッケージの関係

上表で「C整備」と呼ばれている整備パッケージは作業量が非常に大きい整備パッケージで格納庫内で1週間から2週間かけて行うことが普通です(4から5年に一度計画される大きな改修を実施するための整備パッケージは1ヶ月位の期間が必要です)。「A整備」やそれより短い間隔で行われる整備パッケージは、通常数時間から15時間くらいの短い停留時間で実施されることを想定しています。つまり、航空の稼働を下げることなく、定期便が到着して次の出発までに作業を終えるのが原則です
① A整備を実施するための航空機の運用
A整備は定期便の間の夜間の駐機中に行うと言っても、抱き合わせに行われる改修作業や、検査中に発見されたトラブルを処理するためにある程度余裕を持った停留時間を予め確保しておく必要も発生します。この場合、「A整備を予定している航空機については、早めに到着する便を割当て、翌日の出発便についても、できる限り遅く出発する便を割り当てることなどが考えられます
以下の図は、とある航空会社の過去のダイアグラムから作成した「機材パターン」と呼ばれるものです。整備を主に行う空港(整備基地とも呼びます;下図の各行の下の線が羽田駐機を表します)で整備計画を立てるときに使われるものです(CASE_Aの場合は8時間50分、CASE_Bの場合は15時間50分の整備機会が確保できることが分かります);

整備機会の検証
整備機会の検証

尚、「A整備」の実施時期は、前回「A整備」からの累積飛行時間が実施期限(整備パッケージの表の場合、仮に500飛行時間にしています)を超えることは航空法上許されませんが、余りに余裕をもって計画すると、A整備の実施回数が増えることとなり、できるだけ実施期限近くで実施することが整備コストの面で有利になります。因みに[実際に「A整備」を実施した時の累積飛行時間]÷[実施期限]を「Check in Rate」と言います。例えば400飛行時間で「A整備」を実施したとすれば、この時ので「Check in Rate」は0.8となります(←航空機の運用を行っているプロから見れば「計画が甘い!」と言われるかもしれません!)

尚、運航している航空機に大きな故障が発生した場合、考え方は「A整備」の実施体制と同じと考えてよいと思います。大きな故障と言えばエンジン・トラブルが代表的ですが、この場合も「A整備」との違いは突発的に発生するか、予め計画できるかの違いであって、欠航や遅延を最小限にする為の航空機の運用方法は変わりません

② 「C整備大きな改修作業」を実施するための航空機の運用
こうした大きな作業は、航空機を1週間から1ヵ月程度停留させて格納庫内で大人数をかけて行う作業となります。自社で整備を行う場合、格納庫を必要数持っている必要があると同時に、この作業に必要となる多数の整備士を確保していなければなりません。従って、航空機の稼働を高めると同時に、格納庫と多数の整備士の稼働を高める必要が同時に発生します
このやや複雑な問題を解くには、問題自体をシンプルにして考えるのが分かり易いと思います。仮にこのエアラインが20機保有していたとすれば、既に述べた通り、その内の19機が毎日稼働し、残り1機分は入れ代わり立ち代り「C整備や大きな改修作業」を実施していると考えてよいということになります。その場合格納庫は1棟あればよく、この種の大きな作業に必要な人員も1機分で良いことになります(これを「C整備や大きな改修作業」の「生産ライン」といいいます)。従って、航空機の運用で考えておくべきことは、それぞれの「C整備」の実施時期をできるだけ高い「Check in Rate」を守りつつ、2機が重ならない様に計画することになります

「C整備や大きな改修作業」を整備会社に委託しているエアライン(LCCはこういうケースが多い)は、自社の都合の良いタイミングで整備を実施することは難しくなりますが、考え方は自社整備の場合と一緒です。整備の実施タイミングでイニシアティブを持つためには複数の委託先を選定して置くなどの対応が必要となります

③ その他の稼働向上の方策
整備要目と整備パッケージの関係は、「整備要目と整備パッケージの関係」の表をよく見れば分かるように、整備期限(飛行時間、飛行サイクル、飛行日数)を守らなければならないならないのは、それぞれの整備要目です。整備パッケージは、エアラインが自社の航空機の運用に便利なように組み合わせを考え、航空当局に申請し認可を得たものに過ぎません。それぞれの整備要目を期限内に確実に実施する体制さえ構築できれば大きな整備パッケージで整備を行う必要はありません
*事例1:私が日本航空の航空機運用の担当であった時代、B767の「C整備」要目を二分割して運用したことがあります。このケースでは目立った効率向上が得られなかったため、数年で運用を止めてしまいました
*事例2:サウスウェスト航空では、1990年代に私が同社を視察した時には、「C整備」を4分割した整備パッケージを作り、それぞれのパッケージを1日プラスアルファで自社で実施していました。B737という小さな航空機であり、且つ数百機の単位で保有していた為と考えられます

必ずしも航空機の稼働向上に結び付くとは言えませんが、日本の様に旅客繁忙期がある程度限定的(年末年始、ゴールデンウィーク、夏季繁忙期)である場合、この期間のみC整備や大きな改修作業を計画せず、ここに引き当てている航空機を定期便の増便や臨時便設定に引き当てることがあります。この時期は需要が大きい為に旅客単価、及び搭乗率が高くなっていることがあって、営業収入の増に大きく貢献することになります。ただ、増便することによって、パイロットやCAの必要数も増えることとなるので、限界はあります

以上

B737MAXの墜落事故について

はじめに

昨年10月29日、インドネシアのLCCであるライオン航空のB737MAXが離陸後すぐに墜落しました。また、今年3月10日にはエチオピア航空の同型機がやはり離陸後すぐに墜落いたしました。この二つの事故の原因に類似性があることが分かり、3月13日には全世界で飛行中の約370機が、各国の航空当局から飛行禁止の命令が下されるという、近年には稀な事態となりました
このB737MAXという航空機は、2017年5月に引き渡しを開始した後、既にデリバリーされている機体を含め百社以上から約5,000機の発注を受けているベストセラー機であり、現在ボーイング社で月産52機のペース(⇒今年末には月産57機となる予定)で生産されています。因みに、この最新鋭機の技術的な仕様は以下の通りです;

737MAX Technical Specs
737MAX Technical Specs

多くの航空会社が導入しつつあり、導入する各社は今後の路線便数、航空機材計画の中心的な役割を果たすことが予定されており、今回の飛行禁止命令は全世界で注目されています。また、日本国内でも2020年からANAが30機の導入を計画しています。新聞等での報道もありますが、最近入手したAviation Weekの記事に現在までの事故の解析及びボーイング社が考えている対策が載っていましたので概略ご紹介をいたします(詳しく知りたい方は”B737MAX Accidento Chaos_25MAR’2019 Aviqtion Week & Space TechnologyB737MAX Accidento Chaos_25MAR’2019 Aviqtion Week & Space Technology”をご覧ください。尚、上表”Technical Specs”を含め、ボーイング社のウェッブサイトからも必要な情報を転載しています

事故の概要

1.ライオンエア610便墜落事故;

http://toboe.onenote.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/Lion-Airの事故機と墜落までの飛行ルート
ライオンエアの事故機と墜落までの飛行ルート

2018年10月29日午前6時20分、ジャカルタ郊外のスカルノ・ハッタ空港を離陸したB737MAX(2018年8月受領)は、離陸後約10分で消息を絶ちジャカルタ北部の海上に墜落、乗員・乗客189名全員が死亡しました。墜落付近の海域で、Flight Data Recorder(パイロットによる航空機の操作や機体の位置、気圧高度、速度、など機体の運動状態、その他多くのデータを記録しています)Cockpit Voice Recorder (操縦室内の会話を記録しています)が回収されています。インドネシア航空当局から、「Flight Data Recorder からの情報で機体のAOA(迎え角:以下 AOAと表記します;Angle of Attack)センサーのデータが左右で20度食い違っていたこと、副操縦士から管制官に飛行高度を確認するように要請があり、飛行制御に問題があるとの報告があったこと」が発表されています

AOA(迎え角)とは・センサーの位置
AOA(迎え角)とは・センサーの位置

2.エチオピア航空302便墜落事故;

エチオピア航空機と事故現場
エチオピア航空機と事故現場

2019年3月10日午前8時38分、アジスアベバのボレ国際空港を離陸したB737MAX(2018年11月受領)は約6分後に墜落し、乗員・乗客157名全員が死亡しました。墜落機のパイロットは、墜落数分前に管制官に対して運航上のトラブルを報告し、空港に引き返す許可を求めていました。墜落現場付近で、Flight Data Recorder と Cockpit Voice Recorder が回収されており、エチオピア航空当局からの依頼でフランスが解析を実施しています

事故機の飛行記録から事故原因を推定する
両事故機の対地速度と上昇・沈下速度の比較
両事故機の対地速度と上昇・沈下速度の比較

上表は、ライオンエアの事故については、回収されたFlight Data Recorder から得られたデータを使用していますが、右のエチオピア航空の事故については、ADS-B(下記”参考1”参照)というシステムから得られるデータを使用しています。尚、上表で比較を行う場合、縦軸のスケールが違うことに注意してください
上表で明らかなように、墜落前の両機の飛行状況は非常に似通っています。また離陸直後の速度が低い状況下で短周期で上昇・沈下を繰り返しており、極めて不安定な飛行状態であったことが分かります

<参考1> ADS-Bとは
ADS-Bという名称は、”Automatic Dependent Surveillance-Broadcast”の頭文字を取っています。このシステムを使って、ATC Transponder(航空機に対して質問電波を発信すると航空機が持っている今の情報を返信してきます)を装備した航空機について以下の様な情報が入手できます;
①飛行機の登録番号、②飛行機の位置情報(経度、緯度)、③飛行機の速度(水平速度、上昇・下降速度)、④飛行機の高度(GPSからの情報と気圧高度計情報)、⑤飛行機の進行方向、⑥その他

FAAのADS-Bシステム概念図
FAAのADS-Bシステム概念図

また、ライオンエアのFlight Data Recorder から、事故前日と、事故当日(⇒墜落)の機体の水平尾翼の操作状況と水平尾翼のPositionの記録を読み取ったものが以下のグラフです;

水平尾翼の操作、動きの記録
水平尾翼の操作、Positionの記録(Aviation Week 2018年12月10-23 Editionから転載)

ライオンエアでは事故前日に、同じ機体で水平尾翼の異常な動きが一時的に発生し、すぐに正常な飛行に戻ったことが読み取れます。この情報はパイロットから地上整備士に報告され、事故当日出発前に点検・整備が行なわれたことがエチオピア航空から発表されています。ただ、適切な整備が行われたかどうかは現在までのところ分かりません
事故機は出発後すぐに、水平尾翼が MCAS(下記”参考2”参照)というシステムで自動的に小刻みに”Nose Up”側に動かされているのに対し、パイロットは適宜手動で”Nose Down、Nose Up”側に動かしています。その後、MCASが自動的に”Nose Down”側のみの動きを続けパイロットはその動きを止めようと”Nose Up”側にトリムを行っていますが、最終的に墜落前には水平尾翼の”Nose Down”側のトリム量は相当大きな値になっています(⇒地上に向かって急降下?)

737MAX Cockpit内の水平尾翼マニュアル・トリム関連装備
737MAX Cockpit内の水平尾翼マニュアル・トリム関連装備

こうした情報から、MCASによって水平尾翼が”Nose Down”側へ異常なトリムを繰り返し、パイロットの手動操作(水平尾翼の手動トリム+昇降舵)ではこれをコントロールできなかったことが事故の一つの原因ではなかったかと推測できます

<参考2> MCASとは
MCASという名称は、”the Maneuvering Characteristics Augmentation System “の頭文字をとっています。B737MAXから装備されているソフトウェア(B737NG以前のB737シリーズには装備されていません)で、名称の意味から判断すると、パイロットの操縦操作をサポートするシステムの様です
MCASは、フラップを出していない状態でマニュアル操縦で上昇を行っている(自動操縦を行っていない)時に、ピッチングの安定性を向上させるためのシステムです。因みに、機体のAOAの情報は、機体の両サイドにあるAOAセンサーの一つから得ており、一フライト毎に信号を受け取るセンサーを左右入れ替えています。

ボーイング社は多くの737シリーズを販売しており、これらのシリーズ間でパイロットが同じ様な感覚で操縦できるようにするため(例えば、航空会社によっては、B737NGを操縦した人が、翌日B737MAXを操縦することは頻繁に起こると考えられます)であり、B737MAXの型式証明(型式証明に係る詳しいことは「3_耐空証明制度・型式証明制度の概要」を参照してください)を取得するときにFAAからも要求されていたものです
同じB737シリーズでこの様な追加的なシステムが必要になった原因は、B737MAXから装備されることになった新しい高性能エンジン(CFM Leatp1)が、迎え角が大きい時にそれまでのエンジン(CFM56シリーズ)より大きな”Nose Up”のモーメントを発生させるからであると説明しています

737NGと737MAXのエンジン位置比較
737NGと737MAXのエンジン位置比較

こういう新しいシステムを導入しているからには、このシステムに誤動作が発生した場合、パイロットがどの様な操作を行えば正常な飛行状態に戻せるかに関して十分な訓練を行なう必要があると考えられます

現在検討されている対策

ライオンエアの事故以降、ボーイング社は事故の解析を行い、以下の様な対策を行う準備を進めています;
1.MCASの改修について
新しいソフトウェア・パッケージ(EDFCS:Enhanced Digital Flight-Control System)を開発し、B737-7をテストベッド機としてテストを行っています。従前のシステムからの変更のポイントは以下の3点です;①MCASを自動起動するときのロジックの変更、②AOA情報の入力方法改善、③水平尾翼のトリム・コマンドの制限
この変更によって;㋑システム全体の冗長性(Redundancy/想定外事象に対する対応力)の向上、㋺AOAセンサーからの間違った信号入力に対する水平尾翼トリム量の制限、㋩MCASによるトリム量を制限することによって水平尾翼の本来の機能を維持することが可能になると説明しています

ボーイング社としては方針は定まったものの、上記方針全体を完全に具体化するに至っていません。例えば、上記㋺のAOAセンサーの件については、追加的なセンサーを設ける方法以外に、現有の2台のFlight Control Computerに入力されている左右のAOAセンサーの信号をMCASに入力する方法も検討されています
また、上記㋩の水平尾翼のトリム量については、MCASからの新しいトリム入力に対して、水平尾翼のトリム量は1ユニットのみに制限すること、などを考えています。因みに現在のMCAS(事故機に装備)では、AOAセンサーが決められた”Nose Up”の範囲(専門用語で”閾値”といいます)を超えると、1秒当たり0.27° “Nose Down”方向に動かし、9.3秒間で、最大トリム量は2.5ユニットまで動かせるように設計されています

2.パイロット、整備士が使用するマニュアルの変更について
ボーイング社は、現在以下のマニュアル類の変更を検討しています;
①Flight Crew Training Manual(パイロットの訓練に使用するマニュアル)
②Airplane Flight Manual(パイロットが操縦するときに何時でも参照できるようにしている操縦時必携のマニュアル)
③Flight Crew Operation Manual(パイロットが操縦するときに何時でも参照できるようにしている操縦時必携のマニュアル)
④Quick Reference Handbookのspeed trim check list に新しい”注”を加える(出発時、飛行中のトラブル発生時にパイロットが参照するマニュアル)
⑤Airplane Maintenance Manual(整備士が整備を行う際に使用するマニュアル)
⑥Interactive Fault Isolation Manual(トラブルの修理を行う際、トラブルの原因を迅速に特定する為に使用するマニュアル)

3.AOAセンサーの不具合に対する対策
左右のAOAセンサーの情報が食い違っていた場合に、コックピットの最も重要な計器にその表示を行うこと( DISAGREE primary flight-display alert:参考3)
尚、この機能はB737NGでは標準装備になっていましたが、B737MAXではオプションとなっており、事故を起こしたライオンエアのB737MAXでは、このオプションは採用されていませんでした

<参考3> この警告表示を表示する条件
左右のAOAセンサーの値が10°以上ズレて、且つそれが10秒以上続いた場合に警告が表示されます

今後の推移

“はじめに”でも述べた様に、既に370機のB737MAXが航空会社に引き渡され、3月10日までは飛行を行っていた訳ですから、航空会社によってはこの機材が支えていた航空路線を維持するのは大変な負担になっていいるはずです。また、パイロットの資格は殆どの国で型式限定になっているため、他の型式の航空機で路線運営を代替することは簡単にはできません
一方ボーイング社としても、今のところ月産52機の生産を維持していますので、次々と完成していく機体を置いておく場所にいずれ困ってしまうはずです

こうしたことから、この原稿を書いている時点で、ボーイング社は可能な範囲で既に改修の提案(SB:Service Bulletine/SBに関する詳しい説明は7_Hardware に係る信頼性管理をご覧ください)を始めています(MCASの改修提案 by Boing
また、B737MAXの型式証明を行った米国のFAA(Federal Aviation Administration:連邦航空局)も面子にかけて運航許可に向けてボーイング社と協力作業を行っていると思われます

従って、かなり早期(1~3ヶ月?)にボーイング社のSBがFAAによってAD化(改修命令)され、この改修が済み次第、米国での運航が再開されるのではないかと思われます。続いてFAAとの協力関連が強いカナダ(ボンバルディア社がある為)、やEU諸国(エアバス社がある為)でも運航許可を出すものと思われますが、中国や事故のあった国であるインドネシアやエチオピアは、そう簡単にはいかないような気がします

また、今回の事故によって痛手を受けた航空会社は、B737MAXのオプション契約分をエアバス機(A320neoなど)に切り替える動きが出てくる可能性は高いものと思われ、今後の航空機商戦は予断を許さない状況が続くと思われます

A320neo vs B737MAX
A320neo vs B737MAX

今後、AD(Airworthiness Directives@米国;耐空性改善通報@日本)が発行され次第このブログに追加的に情報を記載していきたいと思っています。また、運航再開以降になると思われますが、ライオンエアの事故機に関してはインドネシア航空当局から、エチオピア航空の事故機に関してはエチオピア航空当局から正式な「事故報告書」が発行されるはずです。これらの事故報告書の内容についても適宜追加的にブログに記載していこうと思っています

Follow-Up:2019年4月6日、737MAXを2割減産発表 ⻑期停⽌に備え

Follow-Up:2019年4月12日、190412_737 MAX SOFTWARE UPDATE

・・・その後の進展状況_①・・・

2019年4月15日、Aviation Week_April08-21_Fixing the MAXにエチオピア航空、ET302便のFlight Data Recorderの解析が出ていましたので、その要約を報告します;

ET302 Preliminary FDR Data_説明用
ET302 Preliminary FDR Data_説明用(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

上のデータには19個のパラメータ(①~⑲)について、出発から墜落に至るまでの時系列の推移がグラフになっています。尚、時系列の単位は、UTC(世界標準時/日本はUTC+9時間)で表示されています;
凡例:05:37:00:5時37分:0秒;横軸1目盛で3秒の間隔

ET302便のFlight Data Recorder の解析;

05:37:45:正常に出発;10秒後位からエンジンンの出力UP(②参照)
05:38:39:離陸(⑨参照)
05:38:45:左右のAOAセンサーの値が乖離(⑫参照/左74.5°Nose Up、右15.0°Nose Up)
<参考> エチオピア航空当局による事故後の調査で異物が当った形跡は無かった
05:38:45:左のAOAの過大なNose Upの信号により、左の操縦桿のStick Shakerが起動(③参照;その後ずっと起動したまま)
<参考> 起動したStick Shakerの動画(ネット情報):https://youtu.be/NtQqb7rstrQ

05:38:49~05:39:18:手動によるNose Up、Nose Dowmのトリムを繰り返す(④参照)
05:39:21:Auto Pilot “ON”(⑯参照)
05:39:24~:Auto Pilotによる自動トリム(⑬参照;ほぼNose Down側)
05:39:45:離陸を継続しフラップ引き込み開始、15秒後に引き込み完了(⑲参照)

05:39:57:Auto Pilot “OFF”(⑯参照)⇒ MCASが自動的に起動し、MCASによるトリムがが始まる(⑬参照)
05:40:00~05:40:09:左のAOAセンサーの誤った入力信号によりNose Down方向にトリムが行われ、水平尾翼のPitch角が4.6ユニットから2.1ユニットに変化し(⑭参照)、機体は上昇から降下に変わった(①参照)
 05:40:09:パイロットの操縦桿にあるトリムスイッチによりNose Up側に操作され(④参照)、水平尾翼のPitch角が2.4ユニットに戻した
05:40:20:左のAOAセンサーの誤った入力信号(⑫参照)で、再びMCASによりNose Down方向にトリムが行われ(⑬参照)、水平尾翼のPitch角が0.4ユニットまでNose Downまで下がった(⑭参照)
05:40:27~05:40:37:パイロットの操縦桿にあるトリムスイッチによりNose Up側に操作され(④参照)、再び水平尾翼のPitch角が2.4ユニットに戻った(⑭参照)
05:40:42~15:40:51:MCASによりNose Down方向にトリムが行われ(⑬参照)たものの、Pitch角は変わらなかった(⑭参照)

15:40:51:パイロットがMCASの電源を切った(MCAS電源のON/OFFは上表のパラメーターには入っていません。記事後半にON/OFFした事が書いてありますので、④のデータの推移から筆者がタイミングを判断しました)

05:41:46:Voice Recorderより)機長が副操縦士に対してマニュアル操作でNose Upにできるか?」と聞いたところ、副操縦士はできない」と答えた
05:41:46:この時点の左の対気速度は340kt(ノット;時速630キロ)、右はそれより20~25kt速かった(⑪参照)。(Voice Recorderより)Over Speed Warning が鳴り、パイロットは管制官に空港への引き返しを要請し、許可を得た
05:43:11:水平尾翼のPitch角が2.1ユニットまでNose Down方向に下がり(⑭参照)、パイロットが2度トリムスイッチによりNose Up側に操作した(⑬参照)結果、水平尾翼のPitch角が2.3ユニットに戻った(⑭参照)

05:43:21:再びMCASの電源を入れた(MCAS電源のON/OFFは上表のパラメーターには入っていません。記事後半にON/OFFした事が書いてありますので、④のデータの推移から筆者がタイミングを判断しました)

05:43:22:水平尾翼が自動的にNose Down方向に動き、5秒でPitch角が1.0ユニットに下がった。その後急激に速度を上げつつ(⑪参照)、高度が下がり(⑩参照)、約25秒後に地上に激突

関係者の現時点でのコメント抜粋;

1.Flight Data Recorder、Voice Recorder の解析を担当しているエチオピア航空当局(ボーイング社、FAA/連邦航空局、NTSB/連邦事故調査委員会、EUの航空当局、フランスの航空当局も協力して事故調査を行っています)は、事故機のパイロットはボーイング社のマニュアル通りの操作を行っていたと述べています(⇔この件は、ボーイング社による事故の賠償金額に大きく影響するはず)

2.ボーイング社では;
A)パイロットがMCASの異常事態に際し、操縦桿にある手動トリムでの対応を継続し、迅速なMCASの停止操作を行わなかったために事故に至ったと考えている
B)ボーイング社の「水平尾翼が暴走した時に行うべきチェックリスト(「Runaway Stabilizer Procedure」/B737NGと同じ!)」では、「MCASの電源」を切ってからマニュアルトリムを行うことになっている

3.FAAは、一連のB737MAXの事故のケースを見ると、Part121エアライン(大型の商用機を運航するエアライン)のパイロットは異常な飛行状態失速、背面飛行からの回復、対気速度の計器が信頼できなくなった時、など)から回復する訓練をシミュレーターで行う必要があると考えている。しかし、現在ではエアラインが保有しているシミュレーターの能力には問題があると考えている。因みに、米国のエアラインは、こうした異常飛行の訓練に対応できるB737MAXのシミュレーターを持っていない

Follow-Up:2019年4月25日、ボーイング機運航停⽌の影響広がる 再開めど⽴たず

Follow-Up:2019年4月27日、⽶航空⼤⼿、ボーイング機運航停⽌で⽋航コストかさむ

Follow-Up:2019年5月4日、ボーイング、開発でパイロットの意見求めず_米紙報道

・・・その後の進展状況_②・・・

2019年5月5日、Aviation Week_April22-May05に以下の様な記事が出ていましたのでご紹介します;

MCAS改修の内容がかなり明確になってきました

MCASのソフトウェアの新旧を比較したものが以下の図になります;

MCASソフトウェア_新旧比較
MCASソフトウェア_新旧比較(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

改修のポイントは;
1.左右のAOAセンサーの、① 左右の迎え角にで5.5°以上の乖離があった場合、② 突然迎え角の値が跳ね上がった(spike)場合、③ 迎え角の変化が尋常でなかった(unreasonable)場合、MCASによるコントロールを停止する
2.パイロットによるピッチ・コントロール(Nose-Up、Nose-Down の操作)は、MCASのコントロールに優先する。またMCASによる水平尾翼のコントロールは、閾値(しきい値:予め設定された値)を超えれば停止する
3. MCASは、AOAの迎え角が変わった時、一回だけ水平尾翼のコントロールを行う。また、パイロットが手動でトリムを行った場合、5秒後にMCASがコントロールを再開する最初のソフトウェアのルールを廃止した

4.パイロットが操縦する際、最も重要な表示装置であるPFD(Primary Flight Display)のイメージは、改修実施後に以下の様になります;

New PFD Image
New PFD Image(画面をクリックすれば拡大画面が見られます

上記のイメージの説明;
* 左側のPFDのイメージはノーマルなケース、右側のPFDのイメージはAOAの情報が異常であった場合の表示です
* 両方のイメージで、左の帯状のスケールは対気速度(kt:マイル/時間)を表し、右側の帯状のスケールは気圧高度を表しています。対気速度の帯の右側にある赤と白のまだらの細い帯状の表示は失速の警告が出る大気速度の範囲を表しています
* AOAの迎え角が大きく乖離した場合(右側のPFDイメージを参照)、右下に「AOA Disgree」の表示が出ていることが見て取れます。また、機体の速度は169ktで失速速度145ktよりも十分速いにも拘わらず、左の失速の警告が出る範囲になっているのが分かります(⇔失速の警告が出ても失速する心配が無いのが分かる)

5.FAAの当局者によれば、上記改修は5月下旬~6月初旬に承認される見込みとのこと。ただし、この承認後米国のエアラインは早期に運航再開することが考えられますが、米国外のエアラインの運航再開は見通せません(←各国の航空当局の判断)

ボーイング社の今後の新機種開発計画に対する影響(識者の意見)

ボーイング社は、米国で多く使われているB757/B767の後継機種の開発計画(NMA:New Midmarket Airplane)を持っていましたが、今回のB737MAXの事故によって、計画の進捗は明らかに遅れています
今回の事故で明らかになったように、B737MAXの機体設計は明らかに新しい高性能のエンジンを搭載する条件を満たしていません(バイパス比の大きいエンジンを搭載するには機体と地上とのクリアランスが小さすぎる)。また、既にこのクラスの受注競争においてもA320NEOに遅れを取っていることも明らかになっています。従って、ボーイング社としては、2025年~26年にはNMBの投入が是非とも必要となると思われます(⇔B737MAX8、9、10の差し換え需要を含めて/筆者の意見)

Follow-Up:2019年7月15日、ボーイング機の運航再開、20年に延びる可能性 米報道

Follow-Up:2019年7月19日、ボーイング、運航停止で補償費用5200億円 年間利益の約半分

Follow-Up:2023年3月23日、JAL、ボーイング737-8型機 21機の購入契約を締結

以上

 

条約・航空協定の歴史

はじめに

20世紀初頭に登場した航空機が、第一次世界大戦を経てその有用性(主として高速性)が広く認識されるようになり、軍事用のみならず商用にも広く利用されるようになってきました。その後、第二次世界大戦前後の急速な技術的進歩(高速性+大量輸送能力)によって国境を越えた商用目的の輸送にも極めて有用であることが一般的な認識となりました(詳しくは「1_航空機の発達と規制の歴史」参照)

しかし、国境を越えた旅客・貨物の輸送を行うには、まず主権(裁判権、関税自主権、国内法の適用、etc)の及ぶ範囲外国機が自国の領土内で飛行することに伴う安全性の担保(航空機本体の安全性、操縦する人の技量、etc)、自国機が外国の領土を飛行することに伴う安全性の担保(飛行ルートの安全性、使用する飛行場の安全性、各種飛行援助施設の整備、etc)、などについてしっかりした取り決めが必須となります。従って、国際間の航空輸送を行うには、他の輸送システムとは違って、上記に係る共通の取り決めを多国間の条約によって保障する必要があります

また、航空輸送をビジネスの面で捉えた場合、ビジネスの機会は基本的に国家間で平等であるべきことは自明のことです。しかし航空輸送を行うためのインフラ(航空輸送ビジネスの規模、国自体の経済規模、etc)は、国により格段の差があり平等なビジネスの機会を保証するには自由競争に任せることは必ずしも適切ではありません。特に第二次世界大戦が終わった時点では、航空輸送ビジネスの主役になるべき先進国は、米国を除き戦災で経済が破綻状態になっていました。こうした背景から、国際間の航空輸送ビジネスは、他の輸送ビジネスとは違って、二国間の条約や国際協定によって幾つかの規制を行ってバランスを取る必要がありました

以下に、航空に係る条約や国際協定について、具体的な事例を基に説明をしていきたいと思います

シカゴ条約

1944年11月、シカゴで第二次大戦の戦勝国を中心として、52ヶ国が参加して開催された国際民間航空会議(Convention on International Civil Aviation)で合意に至った多国間の民間航空輸送の基本的な取り決めを「シカゴ条約」と呼んでいます。正式名称は「国際民間航空条約」といいます

条約の骨子
輸送権領空主権空港使用関税航空機の国籍事故調査、などに係る国際間の共通ルールの設定
* 上記を管理・運用する国連の専門機関として「国際民間航空機関ICAO/International Civil Aviation Organization)の設立 ⇒ 1947年4月に設立されました
日本は、サンフランシスコ条約で独立を果たした後、1953年10月に加盟しました。現在192ヶ国がこの条約の締約国(1918年4月19日現在のICAO締約国リスト)となっています。ICAOの中心的な意思決定・執行機関は理事会で、選挙で選ばれた36の加盟国から構成され、現在日本は理事国として活動しています

条約の狙い
航空機の管理システムを確立し、運航の安全確保、航空機の技術的な問題に関する締約国家間の協力を図ること
② 航空運送に関わる以下の2種類の協定の制定を締約国に促すこと
国際航空運送協定路線、輸送力に関する協定の締結)
国際航空業務通過協定(上空通過と技術着陸のみを行う場合の協定 ⇒ この協定を選択する場合は別途二国間協定が必要

条約の効果
締約国の航空法は基本的にほぼ同じ内容となり、自国の航空法で規制できない外国航空機の領空内の運航(領空通過、離着陸)について安全が保障されることになりました。因みに、日本の航空法には以下の通りこの条約を遵守する義務が掛かれています;
航空法・第一条:この法律は、国際民間航空条約の規定、並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め、並びに航空機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して輸送の安全を確保するとともにその利用者の利便の増進を図ること等により、航空の発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする

シカゴ条約の主な内容
Chapter-1一般原則と条約の適用範囲);
① 条約締約国の領空の主権を認める
② 条約締約国の領空通過、着陸は協定の締結、又は許可取得が必要
<参考>
第一の自由:他の当事国の領域を無着陸で横断飛行する特権
第二の自由:運輸以外の目的のため、他の当事国の領域に着陸する特権
第三の自由:航空機の国籍のある国の領域で積み込んだ旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み卸す特権
第四の自由:航空機の国籍のある国の領域に向かう旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み込む特権
2国間の旅客・貨物の輸送を行うには上記の第三、第四の自由が必要になります

第五の自由:第三国の領域に向かう旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み込み、または第三国の領域からの旅客、郵便物及び貨物を、他の当事国の領域で積み降ろす特権(以遠権例えば、日米間の航空協定の中で、日本の航空企業が、ニューヨークからサンパウロ(ブラジル)間の運航を行い、米国からの旅客、郵便物及び貨物をニューヨークからサンパウロに運ぶこと、また逆に、ブラジルからの旅客、郵便物及び貨物をサンパウロからニューヨークに運ぶ権利のことを以遠権といいます

Chapter-2条約締約国の領空における飛行);
条約締約国同士では定期便以外の領空通過、技術着陸を事前の許可無く行うことができます
定期便については、「国際航空運送協定」、あるいは「2国間協定」がない限り領空通過、着陸を行うことができません
*国際航空業務通過協定:第1及び第2の自由についての取り決め
*国際航空運送協定:第1~第5の自由についての取り決め
③ 各条約締約国は、他の締約国による自国内地点間の運航、運送(カボタージュ/Cabotage ⇔ 国内運航の権利を行うことを拒否することができます。但し、全ての締約国に対し等しい例外許可条件を設ければ許可することが可能
使用する空港を指定することができます
⑤ 貨物・旅客の出入国管理・通関・権益に関する法規は当該国のものを遵守しなければなりません
⑥ 航空に適用される法規も、航空機の国籍の如何に関わらず当該国のものを遵守しなければなりません
⑦ 料金については自国機と差別することはできません

Chapter-3航空機の国籍);
航空機は登録国の法規に従って登録を受けた国の国籍をもっています
② 締約国全てに対して、航空機の登録情報の開示、及び航空機に登録国の表示を義務付けています
<参考> 航空機登録番号の割当て

航空機登録番号
航空機登録番号

Chapter-4航空輸送を促進する手段);
① 締約国は、航空機で使用する燃料、潤滑油、予備部品、貯蔵品、装備品については免税措置を行う義務があります
② 締約国は、航空機の国籍に係らず、遭難した航空機の救援措置を行う義務があります。また、遭難したと思われる航空機の捜索活動に協力する義務があります
③ 締約国は、重大事故(死傷者を伴うもの、航空機、施設に欠陥を示唆するものがあるもの)が発生した場合、ICAOが勧告する方式(ICAO Annex 13:Accident and Incident Investigation)に従って事故の調査を行う義務があります
尚、重大事故が発生した場合、航空機の登録国にも調査に立ち会う権利を付与されると共に、随時調査内容の報告を受ける権利があります
④ 締約国は、ICAOの勧告に従って、国内に空港・無線施設・気象施設・他、の航空施設を作る義務があります
⑤ 締約国は、通信手段・符号・信号・証明、その他運航上の実施方式や規則に関わるICAOの標準様式を採用する義務があります
⑥ 締約国は、航空地図、チャート(例:Aeronautical Charts_USAICAO EN-ROUTE CHART_日本の刊行に際し、国際的な取り決めに協力する義務があります

Chapter-5航空機が備えるべき要件);
締約国は、航空機を運航する際、以下の書類を常に搭載している義務があります;
① 航空機の登録証明書、② 航空機の耐空証明書、③ 各乗務員のライセンス、④ 航空日誌(ログブック)、⑤ 航空機局免許状
② 搭乗している旅客の氏名乗機地目的地を記載したもの
③ 搭載している貨物の積荷目録及び細目申告書(軍需品、軍用機材は搭載してはなりません)
Chapter-6国際標準
① 航空運送を容易にする為に統一が有用と考えられる事項は最大限の協力を図ること(例:航空機、航空従事者、航空路、等)
耐空証明については国際標準に一致しない場合は、その差異の詳細が裏書されること
航空従事者についても国際標準に一致しない場合は、その差異の詳細が裏書されること
Chapter-7 ~22 省略

国際民間航空条約・付属書(ICAO ANNEX) の構成
以下は、ICAO理事会で採択された基準や推奨手順のタイトルです。それぞれのタイトルの意味に係る詳しい説明は「ICAO ANNEX_各タイトルの説明」(英語)をご覧ください。尚、それぞれのタイトル毎の内容は相当量あり、ICAOのサイトで出版されています(下記①の例:ICAO ANNEX1 Personal Licensing  );
Personnel Licensing(航空従事者技能証明)
Rules of the Air(運航上の規則)
Meteorological Service for International Air Navigation(航空気象)
Aeronautical Chart(航空地図、チャート)
Units of Measurement to be used in Air and Ground Operation(航空機の運航に必要となる情報の単位)
Operation of Aircraft(航空機の運航:商業輸送、ジェネラルエイヴィエイション、ヘリコプター)
Aircraft Nationality and Registration Marks(航空機の国籍及び登録記号)
Airworthiness of Aircraft(航空機の耐空性)
Facilitation(国際空港に必要とされる施設、機能)
Aeronautical Telecommunications(航空通信)
Air Traffic Service(航空管制)
Search and Rescue(行方不明機の捜索・救難業務)
Aircraft Accident and Incident Investigation(航空機事故調査)
Aerodromes(飛行場)
Aeronautical Information Services(航空情報業務)
Environmental Protection(環境保護)
Security-Safeguarding International Civil Aviation Against Acts of   Unlawful Interference(セキュリティー対策)
Safety Management(安全管理)

二国間航空協定_一般

「はじめに」で述べた通り、国によって航空輸送を行うためのインフラに大きな差があり、結果として全ての国が同じ条件で協定を結ぶには無理があります。因みに;
商用航空輸送の先進国では、巨大な航空会社が既に存在し、高いビジネス上の競争力を持っているため自由化を求めます(例:米国)
中継貿易を国策としている国は一般に、自由化によってのみ他の政策との調和が図れるため自由化を求めます(例:シンガポール、アラブ首長国連邦、など)
* 一方、空輸送の後進国では、自国の航空会社が発展途上にあり、ビジネス上の競争力が脆弱であるため、自由化には消極的になるのが普通です

バミューダ協定
第二次世界大戦終了後の1946年、戦勝国であるものの戦災で経済が破綻状態となってしまったイギリスと、戦勝国で唯一実質的に戦災が無く、経済が絶好調であった米国との間で、シカゴ条約の下で最初の航空交渉が行われ、両国の間で二国間航空協定が締結されました。交渉が大西洋上のイギリス領バミューダで行われた為、通称「バミューダ協定」呼ばれています
この協定は、以下の基本的な権利関係をベースとしているため、以後の二国間航空協定の見本となりました;
互恵平等の原則
運航路線、便数の相互指定
運航する航空企業の特定(指定航空企業)

協定の中で取り決めが行われる主な内容;
参入路線、便数:経済力や国土の大小、人口の多寡に関わりなく均衡が図られることが普通です
運賃:両国の認可が必要な場合が多い(基本的に発地国建てであるため、為替の変動により内外価格差ができます)。また、IATAの協定運賃(詳しくは「エアラインの営業とは」をご覧ください)を採用する場合もあります
路線運営を行う航空会社:両国で同数の航空会社を指定する(“指定航空企業”)ことが多い
 航空自由化(オープンスカイとは、上記の参入路線・便数、運賃、路線運営を行う航空会社、などの制限を撤廃することです

以下、日本に係る典型的な二国間航空協定を取り上げ、それぞれの協定の特徴、歴史的変遷について概略を述べてみたいと思います

日米航空協定

1951年にサンフランシスコ平和条約が締結された後、日本も国際線の運航が可能となり、まず最初に最も重要な日米間の運航を行うために日米間の航空交渉が行われました。その結果、1953年に日米航空協定(正式名称:日本とアメリカ合衆国との間の民間航空運送協定)が締結されました。主な内容は以下の通りです;
第1条:シカゴ条約の遵守
第4条:1又は2以上の指定航空企業の指定
第5条:相互に第1~第4の自由を認める(一部路線で以遠権を認めている)
第7条:相互に運航する航空機の耐空証明を認める
第13条:運賃は両国の認可が必要

付表(参入路線・便数)
<日本側の権益>
日本=(中部太平洋の中間地点)=ホノルル=サンフランシスコ=以遠地点
日本=(北太平洋及びカナダの中間地点)=シアトル
日本=沖縄=以遠地点 ⇔ 敗戦後施政権は米国にあった
<米国側の権益>
米国=(カナダ、アラスカ、及び千島列島の中間地点)=東京=以遠地点
米国(属領を含む)=(中部太平洋の中間地点)=東京=以遠地点
那覇=東京(←沖縄は米国の施政権下にありました)

1954年国際線初就航時のタイムテーブル

上記を見ればわかる通り、敗戦国日本の実力を反映して、以遠権(第5の自由)について米国に有利な協定になっています。その後、日本経済の成長に合わせ11回の修正(詳しくは日米航空交渉の歴史(1959年~1998年)参照)が行われた後、2009年12月に至り、オープンスカイ協定日米オープンスカイ合意の概要参照)が結ばれました

内容を要約すると以下の通りです;
1.自国内地点、中間地点、相手国内地点及び以遠地点 のいずれについても制限なく選択が可能であり、自由 にルートを設定することができる
2.便数の制限は行わない(ただし、航空企業は通常の 手続きにより希望する空港の発着枠を確保する必要があります
3.参入企業数の制限は行わない
4.コードシェア同一国・相手国・第三国の航空企業とコードシェア 等の企業間協力を行うことができる
5.航空運賃の設定については、差別的運賃等一定の要 件に該当するものを除き、企業の商業上の判断を最大 限尊重するとともに、可能な限り迅速な審査を行う

日露(日ソ)航空協定

日本にとってロシアとの航空交渉(ソ連邦崩壊前はソ連との航空交渉)は、2国間の輸送量の取り決めと言うよりは、大圏コース(最短距離の空路)に近いロシア領空(シベリア上空~モスクワ上空)を通過して日本とヨーロッパ各国との間の路線運営を行う権益の取り決めを行うということでした。
ロシア領空を通らないルートは、アンカレッジを経由して北極上空を通過することとなりますが、このルートは距離が長くなるため、時間がかかり(片道数時間の差がでます)燃料費も増加することになります。また、飛行時間が延びるということは高価な航空機の路線占有時間が長くなるために航空機材効率が悪くなります。戦後、日本とヨーロッパ諸国との経済関係は飛躍的に発展し、それに伴って旅客・貨物需要も急速に増加してゆきました。こうした背景から、日露間(ソ連邦崩壊前は日ソ間)の航空交渉は以下の通り頻繁に改正を繰り返しました

尚、日露(日ソ)航空協定で特徴的なことの一つに、通常の航空協定で外国航空会社に課せられる着陸料、駐機料、航行援助施設使用料、等の他に、シベリア上空通過に高額の料金が課せられることです。これは上記の飛行時間の短縮に伴う燃料費減等のコスト削減、旅客利便性の向上、航空機材効率の向上、などに見合うものと考えられますが、シカゴ条約の精神に反するとも考えられます。尚、この上空通過料金は、航空協定とは別の商務協定で決められています

日本とソ連との間で最初に日ソ航空協定が締結されたのは1967年3月3日です。この航空協定の主な内容は以下の通りです
第2条:第1~第4の自由を相互に認める
第3条:日ソ間の運航を行う航空企業の指定
第7条:運航回数、機種、輸送力に係る合意の必要性
第8条:米ドルによる送金の自由
第9条:航空施設利用に関わる互恵主義、燃油費等の非課税
第12条:駐在員数の合意の必要性
* 運賃に関わる取り決めは、この協定に含まれていません

付属書 Ⅰ ;
*日本の就航路線:東京=モスクワ=第三国内の諸地点
*ソ連の就航路線:モスクワ=東京=第三国内の諸地点
*指定航空企業:(日本/日本航空ソ連/アエロフロート
付属書 Ⅱ ;
*安全運航に必要な情報の提供義務
*ICAO、WMO(世界気象機関)の標準方式、手続きを出来る限り採用すること(但し、ソ連邦内の航空管制に使われる高度の指示はメートル法を使用)
*情報の提供、機長との情報交換、等における英語使用の義務

以後、1969年~1994年の間、主として「付属書Ⅰ」に関して多くの交渉と改正が行われました。また、ソ連邦崩壊に伴い、1994年からは名称が日露航空協定に変わっています。詳しくは日露(日ソ)航空協定の歴史(1969年~1994年)をご覧ください

その後、2011年12月1日に、翌年3月末日からの夏季スケジュール以降、以下の内容で合意し、大幅な自由化が図られました;
1.日本側企業に係る運航の枠組み;
シベリア上空通過便に係る制約の大幅緩和通過便数の大幅拡大など)
コードシェアの大幅拡大(あらゆる種類のコードシェアを可能とする;コードシェア便数の上限撤廃)
③ 日本・ロシア間の中間地点の設定(ロシア内の経由地)
2.ロシア側企業に係る運航の枠組み;
① 成田路線のロシア側輸送力の拡大
② 日本側の①~③をロシア側にも設定

日中航空協定

日本と中国との航空協定は、第二次大戦後中国を代表することとなった中華民国(台湾)と1949年に台湾を除く中国全土を掌握して誕生した中華人民共和国(以下“中国”と呼びます)との間の国際政治における地位の変遷によって大きな影響を受けました
日本と中華民国は、1955年3月15日に航空業務に関する日本国と中華民国との間の交換公文を交わし、日本と台湾、香港、ベトナム、韓国などの都市を結ぶ路線運営について協定を結び、相互に運航を開始しました。この路線を運営する航空企業として日本側は日本航空、 中華民国(台湾)側は中華航空が指定されました

1971年10月、国連総会で、アルバニア(当時は共産圏)が提案した「中華人民共和国に中国代表権を認め、中華民国(台湾)を国連から追放する決議」が採択されました
また、1972年2月21日のニクソン大統領の電撃的中国訪問に始まる米中国交回復の流れに沿って、日本も1972年9月29日に田中角栄首相が中国を訪問し、日中共同声明(日中戦争の戦後処理についても言及していますのでちょっとご覧になることをお勧めします)に調印しました。この声明の中で、日本は中華人民共和国を中国の唯一の合法政府であることを認めています。また、貿易、海運、航空、漁業等の事項に関する協定の締結を目的として、交渉を行うことに合意しています

1974年4月20日、日中共同声明を受けて概略下記内容の日中航空協定が締結されました;
第2条:第1~第4の自由を相互に認める
第3条:日中間の運航を行う航空企業の指定(1~2社)
第10条:運賃の認可制
第11条:日本円、人民元による送金を認める

付属書;
*日本の就航路線:東京=上海 AND/OR 北京=(南回りヨーロッパ線の寄港地)
*中国の就航路線:北京=東京=太平洋線

この条約発効に伴い日本航空による日本=台湾路線は運休。替わって日本アジア航空(日本航空の100%出資子会社;乗員を含む主だった社員は日本航空から移籍しました)により、1975年8月から日台路線の運営が行われるようになりました。また、中国民航(中国側の指定航空企業)と中華航空が主要空港(成田空港)で“鉢合わせ”をすることが無いように、日本アジア航空と中華航空は、例外的に羽田空港を使用することになりました

その後、日中間の経済関係が強まることに合わせて、寄港地点の増加、指定航空企業にANAを追加(1992年、福岡=大連線就航)が行われました。また、日台路線にはANAの子会社エアニッポンが参入(1994年、福岡=台北線就航)しました。

2007年になって、日本航空による日台路線の直接運航が認められることとなり、2008年4月に日本アジア航空は日本航空に統合され、日本航空が日台路線の運営を継承しました。尚、エアニッポンは2012年4月にANAに吸収合併され、路線運営もANAが継承しています

日中路線については、その後数次にわたる付属書の改正を行った結果、2012年8月8日の国土交通省の報道発表によれば、以下の内容で日中が合意しています;

【合意の概要】
1.日中間の段階的なオープンスカイの実現
① 北京及び上海、成田及び羽田を除く、日中間輸送のオープンスカイ(航空自由化)の実現(合意時に直ちに実施)。
② 上記4空港に係る航空自由化については引き続き検討。
③ 北京、上海、成田関連路線の増便に適切に対応できるよう枠組みを拡大(合意後直ちに実施)する。

2.羽田路線の増便
(1)羽田空港の昼間時間帯
① 2013年3月末から下記を実施
・羽田=上海(浦東空港/上海中心部に近い空港):日中双方2便/日ずつ。但し、将来的に上海(虹橋空港)の国際枠が増加する場合には、上海(浦東空港)から上海(虹橋空港)への振替が可能
・羽田=広州:日中双方2便/日ずつ

② 国際線の発着枠が3万回から6万回に増加する段階から下記を実施
・羽田=北京:日中双方2便/日ずつ

(2)羽田空港の深夜早朝時間帯
2013年3月末から下記を実現
・羽田=中国内地点:日中双方2便/日ずつ

尚、2012年 年7 月30 日時点における日中双方の乗入れ地点、参入している航空企業についてはを日中路線の運航状況ご覧ください。日中両国にとって巨大な市場に育っていることが分かると思います

日本サウジアラビア航空協定

サウジアラビアは、日本にとって最大の原油供給国であり、また政治・宗教面で中東地域の盟主的存在でもあるものの、航空需要の観点からはそれ程重要な路線では無い為、極めて標準的な航空協定となっています
協定の交渉は、2006年11月に第1回交渉を行い、2007年2月に第2回交渉で概要が固まり、その後文言調整等を経て2008年年8月には協定が署名されました。協定の重要なポイントは以下の通りです;

航空協定の主な内容;
第3条:航空企業の指定(企業の名称は協定、付属書には明記されていません)
第4条:第1~第4の自由
第12条:運賃の認可制;運賃調整に関わる国際的な仕組の利用(IATA運賃:詳しくはエアラインの営業とはを参照)
第14条:送金の自由(交換可能な通貨で)
第16条:ICAO標準の遵守義務

付属書の内容;
日本の路線
日本国内の地点=中間地点=ジェッダ(イスラム教の聖地)、リヤド(首都)、ダンマン
サウジアラビアの路線
サウジアラビア王国内の地点=中間地点=大阪、名古屋
両国の指定航空企業は路線運営に当り、起点は自国内、他の地点は省略することが可能

おわりに

これまで述べてきたように航空協定とは、安全運航互恵平等の原則を基に国際間の商用航空輸送を円滑に行うために考え出された仕組みです。經濟先進国と発展途上国との間では、自ずと自由競争を制限する幾つかの制約(乗入れ地点、運航便数、運賃、第1~第5の自由、他)を設ける必要があります。国際商用航空輸送のルールの起点となったシカゴ条約の締結から70年以上が経過し、多くの先進国間では程度の差はありますが既にオープンスカイ協定が結ばれ(オープンスカイ協定の進捗について_国土交通省)、制約の多くが撤廃されました。しかし、二国間の航空需要が未成熟である国と日本との間では、未だに航空協定が結ばれていない国も少なからず存在します
* 参考:2018年11月19日・20日、 外務省において,日本・クロアチア航空協定に関する第1回政府間交渉が開催されました

一方、オープンスカイ協定を結んだ国同士でも、第5の自由(以遠権)については、自国の航空企業を守るためにある程度制限があることが普通です。また、カボタージュを認めている国はEU域内の国同士を除き殆どありません。因みに、EU域内の国々の国内線はカボタージュを認めたために弱肉強食の世界となり、Ryan Airや easyJetという大規模なLCCに国内線の輸送がとって代わられました。ただ、外国からの旅客の国内区間の輸送に関してはコードシェアを活用することにより国内航空企業を生かした運送が可能となっています

日本の航空企業にとっては、多くの旅客・貨物需要のある国々とはオープンスカイ協定によって国際線の運営が経営上極めて厳しい状況になってきつつあります。これまで空港発着枠の制約から外国社の乗り入れを謂わば合法的?に制限することができましたが、関西空港、中部空港の24時間運用、成田空港の運用時間帯の拡大(早朝、深夜)、羽田空港の新たな着陸ルートの運用開始、などにより受け入れ便数枠が年々拡大してきています(参考:国際線直行便運航状況_2018年冬ダイア)。日本の航空企業の国際線運営にとって、「High Yield(高単価)旅客の積み取りを優先」し、「搭乗率を高めるためのLow  Yield(低単価)旅客の積み取り」という単純なイールド・マネージメント(詳しくはエアラインの営業とは参照)だけでは、供給シェアがじり貧となり外国社を含めた相対的な地位の低下が避けられません。こうした経営環境の中で、日本航空の新たな国際線LCC(ZIPAIR Tokyo/ジップエア・トーキョー;2021年運航開始)設立という戦略が生まれたのではないかと推測しています。日本航空のOBとして密かに?応援したいと思っています

以上

エアラインの営業とは

エアラインビジネスと旅行業の違い

一般の人にとって、エアラインビジネスと旅行業の区別はつきにくいと思われます。航空機を使って旅行をするという意味では、エアラインのチケッティング・カウンターに行っても、旅行会社のカウンターに行っても航空券を買うことは可能です。しかし、法的な責任については以下の通り厳格に区分されています;

<法規制上の位置付け>
エアラインビジネスは主として航空法(詳しくは“航空法抜粋”参照)の適用を受け、航空運送事業として、以下が義務付けられています;
輸送の安全確保の責任
運賃、及び料金の設定と国土交通大臣への届け出(認可ではない!)
③ お客様とエアラインの権利・義務関係に係る運送約款(例:ジャル国内線運送約款ジャル国際線運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けること
④ 国土交通大臣への事業計画の届け出と実行の責任

旅行業とは、報酬を得て、
* 運送又は宿泊のサービス
* 旅行者のため代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等のサービスを行うことであり、旅行業法(詳しくは“旅行業法抜粋”参照)の適用を受けます。旅行業を行う者は、国土交通省の外局である観光庁に登録を行う必要があり、且つ、旅行業務の取扱いに関し旅行者と締結する旅行業約款(例:ジャルパック旅行業約款を定め、観光庁長官の認可を受けなければなりません

尚、大手のエアラインは、自社グループの中に旅行業を行う子会社を持っているところが多く、両者の区別が分かりにくくなる原因になっているものと思われます

航空券販売の歴史

航空券販売の歴史は、航空会社の競争環境と深い関係があります。従って、1980年代後半から国策として行われた「規制緩和」が、航空券の販売方法の変遷に大きな影響を及ぼしたことは言うまでもありません。規制緩和に係る詳しい説明は“航空規制緩和の歴史”をご覧ください

1.DC8/B707/B727の時代(1960年代まで)
① この頃、航空券の販売は航空会社自らが実施していました。従って、お客様の利便性を確保するため、日本国内や海外の主要都市、主要ホテルには大きなコストをかけてエアラインのチケッティング・カウンターを設置していました
② クラス別の正規運賃が主流であったため、 実収単価は非常に高く、搭乗率(Load Factor)は多少低くても採算がとれる環境にありました
③ 国際線の運賃は、多くの主要な航空会社が加盟する国際民間航空連盟(IATA“International Air-Transport Association”)の協定運賃であり、航空会社間の価格競争はそれほど厳しいものではありませんでした
④ この時代、ビジネスのお客様が主流であって、観光は限られた人の贅沢なものとされていました

2.B747の登場(1970年代)
1970年に登場したB747によって、提供可能な座席数の飛躍的な増加(1機当たり2倍以上!)が図られたことで、席当りコストが低下したものの、ビジネスのお客様や贅沢な観光目的のお客様では席が埋まらない事態が起こりました
この状況を打開する為に考え出された販売方法が安価なパック旅行」です。実収単価が多少下がっても席当たりコストが低いために航空会社として利益が出せることから、観光需要の掘り起こしに大きな効果をあげました。B747の導入を積極的に行ったJALが開発したジャルパックが特に有名です

大量販売の為にエアラインは旅行会社に大量の席を安くまとめて卸し、旅行会社は、宿泊、その他の地上サービスをこれに付加することによって、実質的に自身で値決めを行って販売することが可能になりました

3.大競争の時代(1980年代)
日本経済の飛躍的な発展に合わせ、各エアラインは先を競って大型航空機(B747、DC10、L1011)の導入を行った結果、提供座席数の急増に伴うエアライン間の競争が激しくなりました
一方、国民全体の可処分所得の急速な増加に伴い、旅行費用の大幅な低下と相俟って、国内、海外を問わず観光が庶民の身近なレジャーとして定着することになりました。国内線や近距離国際線だけでなく、戦争直後にヒットした歌謡曲「憧れのハワイ航路」が、庶民の手の届く旅行の対象になりました。しかも飛行機で、、、この時期は私がダイヤ関係業務の担当であった時代に重なりますが、臨時便と併せ、一日当たり7機のB747がハワイ向けに飛ぶ日があったことを思い出します

旅行会社は、膨大な観光需要に支えられて全国各都市に支店を展開した結果、その利便性から個人のお客様の航空券販売の取り扱いも一般的になっていきました。旅行会社は、個人のお客様に販売した航空券の券面額の9%程度の手数料が手に入ることから、単価の高いビジネスのお客様の獲得にも本腰を入れるという、本末転倒の事態も起こってきました

更に、エアラインが団体旅行用として旅行会社に卸した大量の席の売れ残りを、個人のお客様に安価に提供するという、所謂“エアオンリーが市場に出回ることとなりました。これは明らかに航空法がエアラインに課している認可運賃の仕組みを壊す脱法行為ではあるものの、安い運賃を求めるお客様の支持があり取締りは難しいものでした。一方において、航空券の“定価販売”は有名無実となり、エアラインが直販を行っていた日本国内や海外の主要都市、主要ホテルのチケッティング・カウンターはその存在意義を失うこととなりました。因みに、私が赴任した台湾では、1995年に広い面積を占めていたチケッティング・カウンターを閉鎖し、当時人気の高かった「本間ゴルフ」の店舗として貸し出したことを思い出します

4.厳しいリストラの時代(1990~2,000年代)
1990年代、日本経済はバブルが崩壊し未曾有の危機に直面しました。航空需要も低迷し、航空ビジネスは以下の様な対応策で再構築を行うことを迫られることとなりました;
航空機の “ダウンサイジング/Down Sizing
B747、MD11サイズの航空機を運航している路線を、より小さなサイズの航空機(B767/200~250人)で運航することを意味します
この時期に経営企画室にいた私は、既に大量に購入契約を結んでいたB747-400をより小さい新機種の777に契約を切り替えることに苦労していたことを思い出します
② 人件費コストを削減する為に、外人パイロットの導入有期雇用CA(客室乗務員)の採用を行う
③ お客様の“囲い込み”を狙ったFFP(Frequent Flyer Program/マイレージ・プログラムとも言います)の導入を行う(⇒ご利用の多いお客様に実質的な値引きを行うことになるので、実収単価の低下を齎すことになります)

④ 運賃に係る規制緩和が行われたことで、下記の様なLCC(Low Cost Carrier/格安航空会社) が登場しました;
* ジャパン・エアチャーター(Japan Air Charter):日本航空100%保有のチャーター専門子会社で、DC10を使用し、外人パイロットの採用タイ人CAの採用を行いました
* ジャル・エクスプレス(JAL Express/JEX):日本航空100%保有の国内線子会社で、B737-400を使用し、外人パイロットの採用有期雇用CAの採用を行いました
* スカイマーク(Skymark):新しく生まれた航空会社で、B767を使用し、外人パイロットの採用有期雇用CAの採用を行いました
* エア・ドゥ-(AirDo):北海道を中心とした路線に特化する新しく生まれた航空会社で、B767を使用し、外人パイロットの採用有期雇用CAの採用を行いました

⑤ エアラインが価格決定権を取り戻す為に以下の対応を始めました;
* 旅行会社による航空券販売に支払う手数料を廃止し、代わりにエアライン自身によるネット販売(ウェッブ販売に重点を置く
* 運賃に係る規制緩和を積極的に活用することにより、各種の割引運賃を設定する

2010年の日本航空の破綻、新しく生まれたLCCが破綻し、大手エアラインの資本系列に入るなどの爪痕を残しつつ、再びエアライン・ビジネスが活況を取り戻しつつあります

運賃戦略

航空運賃に関する戦略を論ずる場合、まず以下の様な基本的な事項を押さえておく必要があります;
1. 運賃に関わる規制
国内線の航空運賃に関しては、1990年代に行われた大幅な規制緩和(詳しくは航空規制緩和の歴史を参照してください)の結果、運賃そのものについての規制は殆ど無くなったと言えますが、国土交通大臣への事前の運賃の届け出義務は残っています。また、差別不当な競争を齎す恐れがある運賃設定に関しては国土交通大臣が変更命令を出すことができるようになっています
国際線の航空運賃に関しては、国家同士の条約、協定などが必要となるため、国土交通大臣に認可権を残してあります
詳しくは航空法105条、及び航空法施行規則215条、216条をご覧ください(運賃関連の法規制

2.価格弾力性(Price Elasticity)
運賃を決める場合に、その路線の需要の動向を見極めなければ利益を極大化させることはできません。運賃を下げれば需要は増え、運賃を上げれば需要は減るという一般則だけでは運賃を決めることはできません。ここで登場するのが以下に示す「価格弾力性」という指標です;

価格弾力性 = -(需要の変化率 ÷価格の変化率)

計算例:価格を10%下げた時、需要が15%増加した場合;
価格弾力性=-{+15÷(-10)}=1.5

価格弾力性が“1”以下である場合、価格を下げると損をすることになります
価格弾力性 が“1”だった場合、価格を下げても意味がないことになります
価格弾力性 が“1”以上であった場合、価格を下げるとそれ以上に需要が増加することになります。言い換えれば、運賃を下げることによって下げた割合以上に総収入が上がることになります。LCCの低価格戦略はこれを狙っていることが分かります。一方、高コストの航空会社は価格を下げる余力がない為、「運賃を下げると客数は増えても赤字」になり、運賃を下げないと「お客様が競合他社に取られ赤字」になるというジレンマに陥ります
従って、LCCと比べ高コストのエアラインは、運賃以外のサービス(客室の快適性向上、CAのホスピタリティー、定時性、など)で競争力を高める必要があります
一方、繁忙期にあっては、供給を増やしても価格を下げる必要が無い(価格弾力性が“1”)ので、供給余力のあるエアラインが断然有利になります

3.運賃戦略の実際
価格弾力性という指標は、あくまでマーケットの状況を価格を変数として定性的に説明するものでしかありません
実際の各種運賃(次項参照)の設定や、それらの運賃種別ごとの予約コントロールは;
路線毎の需要状況:ゴールデンウィーク、夏休み期間、年末年始などの繁忙期、閑散期、各種のイベント、キャンペーンなどの実施計画、などで大きく変動します
② 路線ごとの供給計画:競合他社の供給計画(想定)と自社の供給計画(臨時便を含む)のバランスにより需給状況は大きく変動します
③ 過去の路線運営に係る経験(暗黙知)

などをもとに最適化しています。これが所謂“イールド・マネージメント”です。搭乗率と実収単価の二兎を追う、ある意味“虫のいい話”なので、それだけ一筋縄ではいかない難しいマネージメントとも言えるかもしれません
最近起こしたJALのオーバー・ブッキングによるフライト・キャンセルの事例(181122_予約超過で福岡⾏き⽋航 ⽇航、400⼈影響)も、イールド・マネージメントのリスクの一つとして、オーバー・ブッキングによるフライト・キャンセルがあり得ることの認識と、これに対応する適切な対策を準備しておく必要があることを示唆しています
<参考> JALは1967年から長い間使っていた旅客系基幹システムの「JALCOM」をAI機能が強化されているクラウドベースのシステム「Altea」に変更し、収入増加を実現しています(詳しくは、日経クロステック記事参照:181101_JAL旅客系システム刷新で「半期で130億円増収」

運賃の種類

1.エアラインが提供する国内線運賃
① クラス別普通運賃;
有効期間が長く、予約の変更やキャンセルの自由度が高いという特徴があります。また、緊急に利用エアラインの変更をしたい場合でも、追加的な費用なしに空港での簡単な手続き(“Endorsement”/裏書)で可能なので、ビジネスのお客様などには便利な運賃です

② 割引運賃:
割引率の違いにより、売り出し開始時期、有効期間、予約キャンセルの自由度により大きな差を設けています。エアラインは単価の高い普通運賃に、こうした各種の割引運賃を組み合わせてイールドマネージメントを行っています
<参考>現在の国内線各社の運賃は、以下のように驚くほど多様になっています
*JAL国内線運賃一覧
*ANA国内線運賃一覧
*Skymark国内線運賃一覧
*Airdo国内線割引運賃

各種運賃を組み合わせてエアラインが利益を上げる仕組みを、わかりやすく説明すれば以下の図の様な構図になります(簡単の為それぞれの運賃を購入するお客様の人数の要素を省いてあります);

運賃の種類と実収単価
運賃の種類と実収単価

2.エアラインが提供する国際線運賃
① クラス別普通運賃:国際民間航空連盟の協定に基づいた運賃(別名“IATA運賃”);
運賃に関わる自由化の協定を国家間で結んでいる場合を除き、未だに国際線運賃のベースとなってる運賃です。その理由は;
国際線のビジネス旅客は、他エアラインとの連帯運送(乗り継ぎ、利用航空会社の変更に伴う“Endorsement”)が頻繁にあることからエアライン間の清算をスムースに行う必要があり、エアライン間で共通の運賃協定は非常に有用性が高いこと、また現在殆どの国際線を運航するエアラインがIATAに加盟(現在290社)しており、ここでは、特定国・特定エアラインの利益に偏らない全会一致主義が貫かれているためです。因みに、IATAでは以下の様な機能を果たしています;
* IATAの運賃調整会議の主催
* IATA加盟エアライン間の運賃清算を行うクリアリング・ハウスの運営
* 主要な混雑空港における発着枠調整会議の主催

<参考> 独占禁止法との関係;
運賃協定は、明らかに独占禁止法が原則禁止する価格カルテルに相当します。利便性が高い点を考慮し、従来世界レベルで独占禁止法適用除外とされてきましたが、近年、EU、オーストラリアは適用除外を止めており、代わりに“Flex Fare”という自由度の高い料金設定を可能にしています
一方、米国はオープンスカイ政策(詳しくは航空規制緩和の歴史をご覧ください)とセットで反トラスト法(米国の独占禁止法)適用除外を認める政策を取っています。尚、オープンスカイ協定を結んでいる国とはIATA運賃の適用も可能となっています

クラス別普通運賃:アライアンス内協定運賃
アライアンス内のエアライン間で協議の上設定される(勿論、二国間の条約、協定で認められることが前提)もので、航空会社独自の多種多様な運賃(キャリア運賃)の設定が可能になっています。ただこの運賃では、アライアンス内のエアライン同士以外の連帯運送は簡単にはできません

③ クラス別普通運賃:二国間協定運賃
二国間の条約、航空協定等で指定された航空会社間が対象となる運賃です。この指定されている航空会社間で協議の上決定される運賃です。勿論、IATA協定運賃の採用も可能となっています

3.チャーター便の運賃
チャーター便とは航空機1機丸ごと貸切ることですが、運賃について航空規制の対象にはならず、航空会社の貸切に係るコスト(航空機の減価償却費、パイロット・CAの人件費、整備費、燃料費、着陸料、駐機料、空港関連人件費、その他間接費)を基に用機者との間の交渉で運賃が決まります。昔、DC8型機が機種更新される時期に、余剰となったDC8型機を使ってスリランカに宝石の買い付けを行うチャーター便が何度も催行されたことを思い出します。また皇室、政府要人などのVIP輸送に関してもチャーター便が使われていましたが、1992年に政府専用機としてB747-400が2機導入されてからは殆ど催行されていません

4.旅行会社が提供する運賃;
航空会社は、旅行会社にホテル、等の地上手配を組み合わせることを前提とした包括旅行運賃を設定(航空会社による国土交通大臣への届け出が必要)し、一定席数まとめて提供しています
かつては団体での旅行を前提とした「団体包括旅行運賃」として旅行会社に売られていましたが、個人旅行が主流となってきたことから、1994年に個人包括旅行割引運賃(Individual Inclusive Tour Fare/IIT/)の導入が行われ、団体包括旅行運賃は廃止されました
<狙い>
航空会社は安い運賃の席を卸すかわりに、お客様を集めるのが難しい閑散期にまとまった席数分の収入が保障されます
一方、閑散期に多くの席を販売してくれる旅行会社には、以下の様なインセンティブ(販売奨励施策)を付加することも行っています;
① 販売席数に応じたキックバック(⇔実収単価が多少下がります)
② 繁忙期の席数割り当て増(⇔繁忙期におけるエアラインの実収入が多少下がります)
このインセンティブによって、旅行会社は席を安い料金で仕入れ、新たな需要を生み出す安い旅行商品を作ることが可能になります。ただこの仕組みは、エアラインにとっては、ある意味航空券の“先物取引”の性格を持っており、実収単価の高い普通運賃のお客様を取りこぼすリスクも孕んでいます。従って、前項で説明した“イールド・マネージメント”を精度高く行うことがが不可欠となります

最近は、国内、国際ともに多くのエアラインが路線ごとに鎬を削っており、旅行会社は複数の航空会社間で競合させたうえで仕入れを行うため、繁忙期を除けば、旅行会社にとって「買い手市場」となる場合もあり、大手のエアラインにとっても中々厳しい値決めが必要(仕入れ価格は航空会社によって異なる)となる場面もあります
大手エアラインの子会社の旅行会社はエアライン選択の自由度が無い為、こうした買い手市場には参加できないものの、エアラインのブランド力を背景に単価の高い旅行商品を売り込めるというプラス面もあります

旅行社は、エアラインが提供する包括旅行運賃、インセンティブの他に、③ 地上手配から得られる各種のキックバック(下図の“KB”)を併せて、普通運賃からは説明できない程の安いパック料金の設定を行うことがあります。その仕組みを、わかりやすく説明すれば以下の図の様な構図になります(簡単の為、それぞれのエアライン、ホテル、お土産屋などの利用人数の要素を省いてあります);

旅行会社の運賃の構造
旅行会社の運賃の構造

共同運送

コードシェア(Code Share)
航空会社同士が、それぞれの便名を付けて共同で運航を行う形態のことをコードシェアといいます。これを日本語では“共同運航”または“共同運送”と呼んでいますが、法規制上の区別はありません。
ただ、航空会社によっては、航空機とパイロットを提供する側の便を“共同運航便”、提供を受ける側の便を“共同運送便”と使い分けているケースもあります。いずれの場合も、航空機の運航責任は航空機とパイロットを提供する側にあります

ニューヨーク線・コードシェア状況_2018年12月3日
ニューヨーク線・コードシェア状況_2018年12月3日

上の羽田空港・ニューヨーク線の出発便案内で、ANAが777で運航するNH0110便は、シンガポール航空、タイ国際航空、ユナイテッド航空と、それぞれのエアラインの便名でコードシェアを行っています。同じように、JALが777で運航するJL0006便は、アメリカン航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、マレーシア航空、ラタム航空、ラタム航空ブラジルと、それぞれのエアラインの便名でコードシャアを行っています
アライアンスを組むエアライン同士で行われているこうしたコードシェアは、搭乗率の向上や実収単価の向上に大きく寄与しており、LCCに対する極めて有効な対抗策として、近年大手のエアライン同士で大々的に実施されるようになりました

国内線についても、JAL、ANA、それぞれのグループ内子会社や提携エアラインとの間で、路線需要に合わせること、運航頻度を確保すること、などの目的でコードシェアを行っています。また、アライアンスを同じくする外国エアラインの国内区間のコードシェアも外人観光需要の増加に合わせ最近は増えてきました

国内線のコードシェア便
国内線のコードシェア便

上記の通り、国際線、国内線ともに、現在の共同運送の形態は、コードシェアが主流になっていますが、これまでのエアライン・ビジネスの歴史の中で以下の様な共同運送の形態も存在していました;
ウェットリース(日本における定義):日本の航空会社同士で、航空機・乗員を借りて自社便として運航する形態航空機の運航責任は借りる側にあります(⇒運航責任を果たすために、借りる側が貸す側と同じ機種を運航していることが必要となります)。現在でも国内線のグループ会社、提携会社同士で行われることがあります
運航委託(日本における定義):外国エアラインの航空機・乗員を借りて自社便として運航する形態。航空機の運航責任は航空機・乗員を提供する外国エアライン側にあります。現在では行われていません
スペース・ブロック:他社便の一部の席をブロックし、他社便名のままで自社の旅客を運送する形態で営業協力便ともいいます。ウェットリース、運航委託、コードシェアなどが一般化する前はこの形態が普通に行われていました。米国や欧州への乗り入れ空港が限られていたため、乗り入れしていない空港への乗り継ぎ客の席を確保する為に国際線では屡々行われていました

アライアンス

現在、多くのフラッグ・キャリア(National Flag Carrier/国を代表するエアライン)や大手のエアラインが参加しているアライアンスは、国際線エアライン・ビジネスのやり方を大きく変えたといってもいいと思います。一方、LCCは低価格によってお客様を獲得する戦略なので、通常アライアンスには加盟しません
1.アライアンスの目的
エアライン同士が、以下の様な高品質で共通なサービスの提供を行うことにより、コストを下げ、実収単価の高いビジネス旅客の囲い込みを行う
① FFP(Frequent Flyer Program/マイレージ・プログラム)におけるマイルの共通化(FFP協定)
② 空港での高品質のサービスの提供とコストダウン:空港のVIPラウンジの共有、 空港でのチェックイン・カウンターの相互利用
③ コードシェア便の相互提供による路線網の拡充と自社路線集約によるコストダウン
④ 運賃協定による価格競争力の強化(運賃のプール制、など)

2.メガ・アライアンス
現在、以下の三つのメガ・アライアンスには、それぞれ多くのエアラインが加盟しており、それぞれのアライアンス内の加盟エアラインだけで世界中の都市をほぼカバーしています。尚、アライアンス加盟に伴い、エアラインは共通“Logo”の表示が義務付けられます
スターアライアンスStar Alliance
発足:1997年5月
加盟航空会社:28社
主な加盟エアライン:ルフトハンザ航空、ユナイテッド航空、ANA、シンガポール航空、タイ国際航空
就航地(ウィキペディアより):192ヶ国、1330空港
保有機材数(ウィキペディアより) :4657機
年間輸送旅客数(ウィキペディアより):6億4千万人

ANA StarAliance Logo
ANA Star Aliance Logo

② ワンワールドOne World
発足:1999年2月
加盟航空会社 :13社
主な航空会社;ブリティッシュエアウェイズ、アメリカン航空、JAL、カンタス航空、キャセイ航空、カタール航空
就航地 (ウィキペディアより):152ヶ国、992空港
保有機材数(ウィキペディアより) :3324機
年間輸送旅客(ウィキペディアより)数:5億7千万人

JAL OneWorld Logo
JAL One World Logo

スカイチームSky Team
発足:2000年6月
加盟航空会社 :20社
主な航空会社:エールフランス、KLMオランダ航空、デルタ航空、大韓航空
就航地 (ウィキペディアより):187ヶ国、1064空港
保有機材数(ウィキペディアより) :2819機
年間輸送旅客数(ウィキペディアより):5億5千万人

3.アライアンスの枠を越えたエアライン同士の提携
最近、アライアンスの枠を肥えた提携が始まっています
ワンワールドに加盟しているJALと、スカイチームに加盟している中国東方航空が提携しました。詳しくは以下の日経新聞の記事をご覧ください:180727_中国東方航空と共同事業
ワンワールドに加盟しているJALと、スカイチームに加盟しているガルーダ・インドネシア航空が提携しました。詳しくは以下の日経新聞の記事をご覧ください:180906_日航とガルーダ、共同運航など包括提携を発表

スターアライアンスに加盟しているANAとスカイチームに加盟しているアリタリア航空が提携しました。詳しくは以下の日経新聞の記事をご覧ください:180322_ANA・アリタリアと共同運航

以上

航空規制緩和の歴史

航空規制とは

「航空規制の緩和」というと競争が盛んになって「運賃が安くなるんだろう」程度の認識しかないのが一般的です。しかし、規制緩和が企業間の競争原理を働かせるという意味では正しいのですが、エアラインにとって安全の確保が何よりも大切であることや、空港整備、航空管制システムの構築、などのインフラが国家レベルの巨額の投資を必要とすることから、他の事業の様な自由競争に任せれば適正な競争が行われてゆくという訳にはいきません
また、国際線に関しては上記に加え、自由競争に任せれば、国力の差によって弱小国のエアラインなどは生き残れなる可能性が高くなります
こうしたことから、各国の規制当局(日本の場合は国土交通大臣)は以下の分野毎に規制緩和を慎重に行ってきました

航空規制の分類
1.参入規制:就航路線に対して国による規制を行うこと(航空会社は就航したい路線に参入できないことがあります)
2.需給調整規制:路線ごとの供給量(便数x席数)に対して国による規制を行うこと(航空会社は路線毎の供給量を勝手に増やすことができません)
3.運賃規制:路線毎の運賃に対して国による規制を行うこと(航空会社は需要、及び競争環境に応じた運賃の自由な設定が出来ません)
4.混雑空港における発着枠の規制:空港の時間帯別の発着可能便数以内に収まる様、発着時刻に制限を課すこと(競争制限にはなるものの安全上容認される規制ですが、定期便に関しては、お客様の利便性を勘案し、過去保有している発着枠の権利がある程度認められます)
5.技術規制:航空機の安全確保のために規制を行うこと(過度の規制でない限り、安全最優先の観点から容認されます)
6.航空会社設立認可:航空会社設立に一定の条件を課すこと(航空会社に運送責任を全うさせる為に必要と考えられる規制は容認されます)。また、外国資本による航空会社設立については、国家間の互恵平等の原則が適用され、少なくとも出資率の制限が加わる(日本の場合、外資は3分の1未満)ことはどこの国でも行われています(⇔国益優先)

航空規制緩和とは、こうした規制項目毎に、企業間の競争状況(著しく競争が歪められないように)、空港、航空管制のシステムの整備状況、などを勘案しつつ徐々に自由競争に近づけていくことです

米国の航空規制緩和

第二次世界大戦終了後、米国は圧倒的な経済力と航空機開発・生産能力を背景に、民間航空輸送の最先端を走っていました。従って、国内線だけでなく国際線においても、以下のように航空規制緩和を先導してきました

国内線における規制緩和の流れ
1.1940年代から“CAB/Civil Aviation Bureau”によって行われていた規制;
路線参入は1930年代に免許を受けた者に限る( “祖父条項/Grandfather Clause”と言います)
② 1969年以降は、既存会社の新規路線参入も事実上不可能であったと言われています(“ルート・モラトリアム/Route Moratorium”と言います)

2.1978年、航空会社規制緩和法が成立し、参入規制、運賃規制が撤廃され、同時にこれらを行ってきたCABという組織が消滅しました。この結果、沢山の新規航空会社が誕生しました

3.1979年~82年のオイルショックにより、燃油費が高騰し他結果、多数の航空会社が合併、乃至倒産によって消滅しました

4.オイルショックから立ち直った米国は1980年代前半は好景気に恵まれ、競争による実質運賃の低下が実現しました

5.1980年代後半から、1990年の湾岸戦争にかけて景気が後退していった結果、航空会社は再寡占化の方向に向かい、アメリカン航空、ユナイテッド航空、デルタ航空の3メガキャリア体制が確立しました規制緩和政策後の米国航空会社数の推移

国際線における規制緩和の流れ
1.バミューダ協定:1946年に米英間で結ばれた二国間協定で、その後の二国間協定の雛形 となりました。英国は第二次世界大戦の戦勝国であるものの、経済力及び航空事業の規模では米国との間で雲泥の差があり、対等の競争を実現するために、米国側の輸送量を制限することになる「二国間の輸送量均衡の原則」で協定が結ばれました

2.ケネディ大統領により、反規制主義を謳った「国際航空運輸政策に関する声明」が出されました。また、1978年、アルフレッド・カーンにより「合衆国が国際航空交渉に関して取るべき態度声明(規制緩和推進)」が出されました

3.1980年、「国際航空運送法」が成立しました。この中で、参入規制、運賃規制を大幅に緩和、②規制緩和の海外輸出(包囲理論)、③規制反対の国とは二国間協定を締結(規制撤廃)、などの原則が謳われました

4.大型M&A(Mergers & Acquisitions)ブームの到来:1985年、カール・アイカーン(米国の億万長者;乗っ取り屋)によるトランスワールド航空の買収、1989年年 チェッキー・グループによるノースウェスト航空の買収、などが行われました。しかし、英国航空によるユナイテッド航空の買収計画は米国政府の承認が得られずに失敗しました(⇔国益優先)

5.1990年1月、米国との自由型の航空協定締結を条件に外国航空会社に国際線未就航の米国都市乗り入れを解放しました

6.クリントン政権では、再び規制の方向へ転換しました。1993年、ユナイテッド航空によるロンドン線運航計画が却下され、ノースウェスト航空による同線の運航計画も却下されました

大手エアライン、生き残りの足跡
米国は、上記のように可能な限り自由競争を原則とする政策をとってきたため、コスト競争に敗れれば、“即破産!”の道を歩むことになります。尚、各社共通で被った強烈な経済的なインパクトは;
A.2001年の同時多発テロ以降の航空需要の低迷と燃油費の高騰
でありまた、これを乗り切るために殆どの会社が;
B. チャプター11(通称“破産法”;日本では“会社更生法”、“民事再生法”がこれに相当しますが、内容は日本と同じではありません)基づく再建を米連邦政府に申請しました。米国ではパイロット、CA(客室乗務員)、整備士は極めて強力な職種別組合に加盟しており、労働条件の変更は極めて難しく、これがチャプター11による再建(⇔コスト削減)を目指す原因になっています
また、利益性の高い路線権の獲得、重複する路線の整理統合などの目的で;
C. 企業の買収、経営統合を行うケースも目立ちます

1.デルタ航空
Aにより業績が急速に悪化し、2005年に「Bを申請しました。この結果2006年以降は業績を回復させています
ノースウェスト航空は、Aにより業績が急速に悪化し、2005年に「Bを申請しました。この結果2007年以降業績を回復させましたが、2010年にはデルタ航空に買収Cされています(買収金額:177億ドル)

3.ユナイテッド航空
1985年、経営難にあえいでいたパンアメリカン航空の太平洋路線を買収(C)しました(1991年にパンアメリカン航空は倒産しました)。Aにより業績が急速に悪化し、2002年に「Bを申請しました。一旦再建したものの、2009年には再び「Bを申請し、再建を行いました
2010年にはコンチネンタル航空との経営統合C」を行っています

4.アメリカン航空
Aのインパクトに関しては、コスト削減を徹底する中で乗り切ることに成功しましたが、2011年には遂に 「Bを申請し再建を果たしました
2012年に、USエアとの合併交渉を開始しましたが、米司法省が反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで提訴し交渉は一旦頓挫しましたが、その後、ニューヨーク、ワシントン等の混雑空港で LCC (格安航空)に二社の発着枠を譲ることで司法省との和解が成立したため、2013年に合併完了Cしました

5.サウスウェスト航空
1971年に創業。Aのインパクトに対しても社員のレイオフを行っていません。従業員の給与水準は大手エアラインと比べ高い水準を維持しており、また事故率の極めて低い会社として有名です。路線網の拡大の為に「Cも行っています

欧州の航空規制緩和

欧州の航空規制緩和は、欧州共同体の統合の深度(EC/European Community⇒EU/European Union)に合わせて以下のように行われました;

1.ローマ条約(1958年)で 欧州委員会による「欧州共通の航空政策の提言」が行われたものの、 航空、海運は当面除外されました

2.1979年の第一次メモランダム、1984年の第二次メモランダム、1988年のパッケージ-Ⅰ、1990年のパッケージ-Ⅱ、によって二国間協定下での規制の柔軟化、競争の促進が徐々に行われてゆきました

3.1993年のパッケージ-Ⅲによって、①二国間の輸送力割り当ての完全自由化、②運賃規制は二重不承認主義(double disapproval/少なくともどちらかの国が承認すれば申請された運賃は認められる)、③参入規制が完全に撤廃、が実現しました

4.1997年より、④国内路線参入規制(カボタージュ)が撤廃され、これによってEU域内の完全自由化が完了しました。また同時に、共通免許規定(パイロット資格、航空機の型式証明、等)が制定され、技術規制に関してもEU域内では完全に一国と同じ扱いになりました
⇒ この結果、EU内の国同士の路線は“国内線と同じ扱い”となり、EU内の中・小の航空会社の生き残りは非常に難しくなりました

最近の欧州航空会社の状況
航空規制に関してEU域内の統合が図られたことにより、厳しい競争が始まりましたが、現在までの大手エアラインの状況は以下の通りです;

1.ブリティッシュエアウェイズ:1987年に民営化
2.ルフトハンザ航空:規制緩和、航空不況、等の厳しい経営環境の中で競争力を強化し、破綻に瀕した航空会社を吸収し現在に至っています

3.スイス航空:2001年の同時多発テロ以降の航空需要の低迷と燃油費の高騰で業績が急速に悪化し、2002年に倒産。スイス航空の子会社だったクロスエアが、スイス政府などの援助により、スイス航空の資産を受け継ぎました
4.サベナ・ベルギー航空:2001年の同時多発テロ以降の航空需要の低迷と燃油費の高騰で業績が急速に悪化し、同年に倒産しました
5.オーストリア航空:2009年9月、ルフトハンザ航空が株式の90%を取得しその傘下にはいりました

6.エールフランス・KLMオランダ航空:2004年に両社の間で持株会社方式で経営統合が実現しました
7.ライアン航空:1985年に設立し、“激安”運賃で欧州航空界を席巻しました(例えば、ロンドン-パリ間の料金“0.99ユーロ”など)。ヨーロッパのLCCの中では最大の路線ネットワークを展開しています

8.アリタリア航空:2008年3月、一旦エールフランス・KLMによる買収を受け入れたものの、4月になって労働組合の強い反対により振り出しに戻りました。2008年8月、イタリア政府による収益を見込める航空事業会社と清算対象会社に分割する提案に同意し、約1,800億円の負債を抱えて会社更生手続きに入りました。2009年1月アリタリア・イタリア航空(完全民営化)として発足しましたが、その後も経営難が続きました
2013年8月、中東のエティハド航空が49%の株式取得しました
しかし、その後もLCCにシェアを奪われたことなどにより、2017年5月に再び経営破綻に陥り、売却手続きを開始しましたが、人員整理・賃金削減を従業員組合が拒否していること、ルフトハンザ航空など出資に興味を示す航空会社との条件の折り合いがつかないことなどにより、2018年現在、未だ決着していません。また、2018年3月の総選挙で第一党に躍進したポピュリズム政党「五つ星運動」の党首が、外国企業への売却に対して反対の立場を表明しており2018年現在再建の行方は混沌としています

日本の航空規制緩和

45-47体制:1970年代
45-47体制とは以下の政府方針を意味しており、一般にどの航空会社も犯すことができないという意味で「航空憲法」と言われてきました。以下をご覧になるとわかると思いますが、実質的に厳しく競争を制限する内容となっており、まだ歩き始めたばかりのエアラインの健全な育成を政府として強力にバックアップする内容となっています;

日本航空・東亜国内航空・全日空
日本航空・東亜国内航空・全日空

1.昭和45年閣議了解(1972年7月1日/主に参入規制
① 日本国内航空と東亜航空を合併させ、東亜国内航空を発足させる。この会社には当面ローカル線のみの運航を認める
② 需要の多いローカル線は2社で運航させるが、過当競争は排除する
国際線定期便は日本航空が一元的に運航する
④ 近距離国際線チャーター便は日本航空と全日空が運航する

2.昭和47年運輸大臣通達(1972年7月1日)
[事業分野]
① 日本航空:国際線国内幹線(札幌、東京、大阪、福岡、那覇)
② 全日空:国内線近距離国際チャーター便
③ 東亜国内航空:国内ローカルル線、一部路線のジェット化の認可
[輸送力の調整(共存・共栄の為の競争の制限)]
増便の認可基準を以下の通りとする
④ 国内幹線: 搭乗率65%以上
⑤ 国内ローカル線:搭乗率70%以上
⑥ 国内幹線への大型ジェット機の投入制限(日本航空と全日空の大型ジェット機の投入は1974年以降とする。但し沖縄線は1972年から投入する)
[協力関係]
幹線に於ける運賃のプール制と先発企業による後発企業(東亜国内航空)の育成

45-47体制の修正の動き:1983年~85年
45-47体制の中で力を蓄えてきた全日空が、国際線への進出を強力に要請していく中で、以下のように徐々に規制緩和の動きが始まりました。ただ、全日空の国際線進出については、航空大国である米国との条約、航空協定などの厳しい交渉(⇔交渉は常に“Give & Take”)が必要となると同時に、国際線の権益をほぼ独占してきた日本航空の反対があった為、そう簡単ではありませんでした;
* 1983年8月 日本貨物航空株式会社の設立認可(出資会社:全日空、川崎汽船、山下新日本汽船、日本通運、昭和海運、ジャパンライン)
* 1984年6月 全日空ハワイチャーター便の認可(ハワイ路線は日本航空のドル箱路線であった)
* 1985年4月 日米暫定協定締結
* 1985年5月 日本貨物航空、東京=サンフランシスコ線開設
* 1985年6月 国内線新規旅客割引運賃の導入
* 1985年7月 臨時行政改革推進審議会で事業分野の見直しを含め、競争政策導入を答申
* 1985年9月 運輸大臣は「今後の航空企業の運営体制のあり方について運輸政策審議会に諮問

45-47体制の崩壊:1980年代後半
運輸政策審議会「今後の航空企業の運営体制のあり方についての審議経過に合わせ、以下の様に規制緩和⇒競争促進に政策の転換が始まりました;

[運輸政策審議会中間答申](1985年12月)
昭和45年閣議了解と昭和47年運輸大臣通達の廃止
* 1986年3月 全日空東京=グアム線定期便開設認可

[運輸政策審議会答申“今後の航空企業の運営体制のあり方について”](1986年6月)
国際線の複数社制
日本航空の完全民営化(日本航空株式会社法の廃止、政府保有株の放出)JAL_民営化国内線に於ける競争促進施策の推進
④ 航空交通容量の増大
*1986年7月 日本航空の羽田=鹿児島線開設認可

[航空局長通達(航空企業の運営体制について)]
国内線における新参入基準の設定(新たに2社参入路線、3社参入路線の旅客需要基準を設定した)
*1986年7月 日本エアシステムの羽田=那覇線、東京=ソウル線開設認可

規制の原則撤廃への道:1990年代
米国や欧州に於ける大幅な航空規制緩和の流れを受けて、日本の航空政策も規制全般に当たって規制緩和の方向に大きく舵を切りました。また、羽田空港、成田空港、関西空港など基幹空港の整備が進み、発着枠の余裕が生まれてきたことも規制緩和の動きに拍車をかけました;

[運輸政策審議会答申“今後の国際航空政策のあり方について”](1991年)
新運賃制度の導入:新Yクラス運賃(Y2);国際乗り継ぎ運賃;ゾーン運賃;基準運賃改定方式;国際貨物運賃につき包括的に幅を持って認可する制度の導入
多様な運航形態の導入:外国人パイロットの導入促進;運航委託;ウェットリース;コードシェア;チェンジ・オブ・ゲージ

航空審議会答申“我が国航空企業に於ける競争促進政策の推進について](1994年)
③ 技術規制の見直し:定例整備の海外委託;パイロット訓練のシミュレーター化促進)
運航形態規制の見直し:ウェットリース、共同運送、コードシェア
国内線競争促進施策の推進:後発企業への一定の便数の確保
運賃規制の緩和:一定の範囲内の営業割引運賃の届け出制

JEX・Skymark・Airdo
JEX・Skymark・Airdo

[運輸省見解発表(1996年12月)
⑦ 交通分野に於ける需給調整規制を原則廃止
* 国内航空路線の需給調整規制は、生活路線の維持方策、空港制約のある空港に於ける発着枠配分ルール等の方策を確立した上で1999年度に廃止

運輸政策審議会に“需給調整廃止に伴う環境整備方策について”諮問(1997年4月)
[運輸政策審議会・航空部会答申](1998年4月)
参入制度:路線毎の認可制から事業毎の認可制(路線設定は原則自由)
運賃制度:現行の許可制から事前届出制(上限、下限運賃撤廃)
⑩ 政策的に維持すべき路線の維持方策
⑪ 生活路線の運航費補助
⑫ 継続的に競争させる為のあり方を公開で検討
発着枠の回収・再配分 ⇒ 後発の航空会社にも一定程度発着枠を配分することができるようになりました

第二世代LCC
第二世代LCC

<チャーター便規制関連>
1982年に制定されたルールでは、以下の3種類のみが認可の対象となっていました;
① 団体貸切(Own Use ):団体が一括して費用負担(⇔単一用機者要件)
② 団体貸切(Affinity):団体構成員が費用負担(⇔単一用機者要件)
③ 包括旅行(Inclusive Tour):地上手配を含め旅行会社などが航空機を貸し切りにすること

2007年年5月16日に閣議決定された「アジアゲートウェイ構想」を受け、包括旅行について以下のルールの撤廃を行いました(⇒定期便以外にチャーター便を設定することにより、より柔軟に旅客需要の積み取りが可能となりました);
* 外国社による複数国の包括旅行を催行する場合、その外国社の所属国で50%以上の日程を消化すること(50%ルール
* 同じ曜日の運航が連続3週を越えないこと(定期ダイヤルール
第三国による包括旅行の催行を禁止するルール

以上により、路線参入基準が撤廃され、運賃の設定も実質的に自由となったため航空会社間の自由競争が可能となり、LCCなど新規航空会社の参入が相次ぐ結果となりました。現在は、大手航空会社も含め厳しい競争が行われており、お客様にとって大幅な利便性向上が実現していると思われます

以上

 

エアラインというビジネス

はじめに

エアラインというビジネスは、言うまでもなく「航空機」という輸送手段を使って、「お客さま(貨物も含む)」を A地点からB地点に運んで収入を得るビジネスです。また別の言い方をすれば、上の写真にある航空機の座席(または、貨物スペース)をお客様に売るビジネスということもできます
輸送業という意味では、このビジネスは鉄道事業やバス事業と同じで;
 商品の貯蔵ができないということが最大の特徴です。つまり、お客様(または貨物)を搭載しないで輸送したばあい、収入はゼロでコストが確実にかかります。これはある意味「生鮮食料品」など、貯蔵すると腐って価値を失う商品(Perishable Commodity)の販売と同じと考えられます。運賃に「定価」が無いと言われるのも、この特徴からきています

また、公共交通機関であるということから、
 極めて大きな社会的な責任を負うこととなります。従って、
安全輸送の責任;事故を起こした場合、刑事処罰(過失傷害、過失致死、等)、損害賠償責任、行政処分(免許停止、事業改善命令、等)の対象になることに止まらず、社会的な制裁(マスコミの追求、被害者の罵詈雑言!、など)も甘受しなければなりません。事故防止の為の巨額な安全投資が必要となることも、このビジネスの特徴です。尚、エアラインの安全投資について詳しく知りたい方は「安全運航を守る仕組み」をご覧ください
定時性確保の責任:定時性を維持するための予備の人員、予備の航空機、予備の部品、などが必要となります
事業継続の責任:会社都合による路線からの撤退や運航便のキャンセルが簡単には出来ません

一方、エアライン・ビジネスと他の運送事業との決定的な違いは;
③ 安全性に対するお客様の関心が非常に高いということが言えます(事故率から見ると一番安全な乗り物であると言われてるにもかかわらず、、、)
事故率については、航空機メーカーが構造設計・システム設計を行う場合、深刻な事故(Fatal Accident)を起こす確率を10億分の1以下とすることを義務付けられています。ただ、現実の深刻な事故の確率は年々改善されてはいますが、ヒューマンエラー、その他想定外の事象によりもっと高くなります(参考:事故統計
お客様が空中を飛ぶことに対し、漠然とした不安感を持っています。事故に結びつかないような軽いトラブルに対しても、その対応を誤まればお客様を失うことに繋がる、こうしたことから技術的なトラブルに対する PR活動が必須となります。また、近距離路線の場合、地上輸送にお客様を奪われることもある程度覚悟しなければなりません(新幹線の路線が開設されると、競合する近距離路線ではお客様の航空会社離れが必ず発生します)
国内・外の航空機事故が大々的に報道され、事故の悲惨さに接する機会が多いことも特徴の一つです。特に、事故現場の悲惨な光景や、被害者家族の悲嘆にくれる映像が繰り返し報道され、事故の悲惨さが一層強調されることで、他社(国内、国外)の事故であっても確実にお客様の減少に結びつきます。従って、エアライン各社は事故抑止に関しては運命共同体とも言えます

ジャーマンウィングA320墜落事故_2015年3月
ジャーマンウィングA320墜落事故_2015年3月(乗員・乗客全員死亡)

また、エアライン・ビジネスは、他のビジネスと比べ、
需要の変化に機敏に対応できないことが、経営のかじ取りを非常に難しくしており、厳しい競争環境の中で一歩間違えれば倒産の危機に瀕することにもなります。その主な理由は;
航空機の調達はリードタイムが非常に長い(新造機の場合、通常3~5年のリードタイムが必要です)。従って、急激な需要の増加というビジネスチャンスに対応するためにはリース機や中古機の活用が必要となりますが、遊休の航空機がいつも市場にあるとは限りません
パイロットの確保が簡単ではありません。パイロットの養成には長い時間が掛かるため、自社パイロットの養成は長期計画に基づいて行われており、急に増・減させることは困難です。また、資格が機種別になっており、機種の限定変更には相応の時間が必要になります。パイロットをリースに頼ることも行われていますが、求める人数、技量のパイロットを確保することは、そう簡単ではありません(参考:140429_つまずいたピーチ航空_パイロット不足が成長の足かせに
空港の容量には限界があります。空港の容量とは、発着枠(総量及び時間帯別)、駐機スポット数、旅客ターミナル面積、などを意味します。特に国際線においては混雑空港における増便は非常に難しく、また、一旦減便すると、今まで持っていた発着枠の権利(Grandfather’s Right/既得権条項)を失うリスクが発生します。その他、
空港のCurfew(飛行禁止時間帯)、国際線においては、CIQ(税関、出入国検査、検疫)の受け入れ容量などに関する制限もあります

運送事業に関しては、安全を第一とする事業運営や交通インフラの健全な競争環境を整えるために、国土交通省は、
各種の規制を行っています。航空自由化の流れの中で、安全にかかわる規制を除き緩和されつつあります

国際線の運航に関しては、
⑥ 相手国との間で条約や航空協定を結ぶ必要があります。国力の違いによってエアラインの実力に大きな差が生ずるので、輸送量(就航便数、航空機のサイズ)の均衡を図る必要があるためです。最近は、航空自由化の流れの中で先進国間では輸送量の制限を設けない、あるいは緩めた条約・協定を結ぶ国が多くなりました

経営上の重要な指標

通常のビジネス同様、最終的には貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)に代表される財務諸表から導かれる各種の経営指標が、経営の舵取りに必須であることは言うまでもありません。しかし、エアライン・ビジネスにとっては、以下の様なエアライン・ビジネス特有の経営指標が経営の舵取りには必須となっています;

A.営業活動に係る経営指標(収入面)

営業として当たり前のことですが、できるだけ高い運賃で、できるだけ沢山のお客さまにご利用いただければ儲かることは当たり前ですが、当局に認可された運賃(コストに相応の利益を上乗せした運賃)があった長閑な時代と違って、現在は国内・国際を問わず強力なライバル・エアラインが存在し、運賃やサービスで厳しい競争が当たり前になっています。従って、以下の経営指標を日常的にチェックし、経営の舵取りを行うことが必須となっています;

① 搭乗率:(搭乗者数)÷(供給座席数) --- 「%」表示が普通
極めて簡単な指標ですが、メディアなどではこの搭乗率だけで経営の良し悪しを判断していることが多いようですが、この数値は運賃を下げれば簡単に上昇するので、以下の指標と併せて検討しなければ意味がありません

② シェア(Share);競合するエアライン間で、お客様の摘み取りの状況を比較をするときの指標です
シェアには以下の二つの指標があります;
需要シェア:路線全体の旅客需要(搭乗者数;参入している全社が対象)と各社の旅客需要(搭乗者数)との比;
需要シェア(A社)=旅客需要(A社)÷  旅客需要(路線全体)

供給シェア:路線全体の供給座席数(当該路線に参入している全社が対象)と各社の供給座席数との比;
供給シェア(A社)=供給席数(A社)÷  供給席数(路線全体)

③ 競争力:競合するエアライン間で、お客様の摘み取りの効率を比較をするときの指標です
競争力(A社)=搭乗率(A社)÷ 搭乗率(路線平均)
例えば、A社の搭乗率が75%、競合する他社を含む路線平均搭乗率を80%とすれば;、
A社の競争力:75% ÷ 80% = 0.94 ⇒ A社の競争力は低い

参考:競争力とシェアとの関係
競争力(A社)= 搭乗率(A社)÷ 搭乗率(路線平均)
={旅客需要(A社)÷ 供給席数(A社)}
÷ {旅客需要(路線全体)÷ 供給席数(路線全体)}
={旅客需要(A社)÷ 旅客需要(路線全体)}      ⇒需要シェア(A社)
÷ {供給席数(A社)÷ 供給席数(路線全体)}   ⇒供給シェア(A社)
つまり、
競争力(A社)= 需要シェア(A社)÷ 供給シェア(A社)

④ 実収単価:航空券には正規運賃の他、各種割引運賃、団体運賃、等があります。これらを加重平均して計算した搭乗旅客一人当りの平均運賃のことを実収単価といいます。つまり、
各種の航空券の価格:Pn
航空券の種類別の搭乗者数:Nn
とすれば、
実収単価: Pa=Σ(Pn x Nn) ÷  ΣNn
例えば、普通運賃(20,000円)の年間旅客数が300,000人、割引運賃(12,000円)の年間旅客数が100,000人であったとすれば;
実収単価=(20,000x300,000+12,000x100,000)
÷(300,000+100,000)=18,000円

⑤ 路線収入:路線毎の全収入を意味します。この路線収入を全路線について合計をとったものが、そのエアラインの収入になります。エアラインは、この路線収入を極大化することが経営の最大の目標となることは言うまでもありません
路線収入は路線毎の実収単価と搭乗旅客数(旅客需要)の“積”となります;
例えば、実収単価:18,000円、旅客需要:400,000人の場合とすれば;
旅客収入=18,000x400,000=72億円

路線収入を極大化させるには、競争力を上げ、且つ実収単価を上げることがベストであることは明らかですが、例えば運賃を下げるか、あるいは割引運賃の提供座席数を多くすれば競争力を上げることは簡単ですが、必然的に実収単価は下がってしまいます。従って、競争力と実収単価とは相反する関係にあります
この相反関係の中で、最適な組み合わせを見つけ出すことをイールド・マネージメント(Yield Management)といいます。具体的には、路線ごとの需要特性(季節変動、鉄道・バスとの競合状況、他エアラインとの競合状況、過去の実績、他)を把握して運賃の種類別の最適な組み合わせを見つけ出すことと定義することができます

昔は、営業のスペシャリストが長い経験と知恵でこの判断を行っていましたが、エアラインの規模が大きくなるにつれ人間の能力では追いつかなくなってきつつあります。最近大手のエアラインでは、このイールド・マネージメントをコンピューターを使って行うようになってきました
日本航空でも、2017年に約50年使った営業の基幹システムをハードとソフトの両面で刷新しました。最新のAIを使った新システムの導入には約7年間の期間と800億円の投資が必要だったといわれています

B.Break Even Point(損益分岐点)

収入と費用が等しくなるところは、 Break Even Point(損益分離点)といいます。
損益分岐点以上の収入があれば利益、以下となれば損失が発生することになり、経営上最も重要な指標となります。なかでも、損益分岐搭乗率(Break Even Load Factor)は、日々の営業活動で営業の第一線で働いている人が最も意識する指標であり、また経営者にとっても収支の健全性をチェックする意味で、常に意識していなければならない経営指標です

損益分岐点:収入(実収単価x搭乗者数)=費用(席当り費用x全席数)
両辺を(実収単価x全席数)で割ると、
搭乗者数÷全席数=席当り費用÷実収単価
Break Even Load Factor

C.コスト管理に係る経営指標(支出面)

1.航空機の稼働に係る経営指標:航空機の稼働率
航空機はエアライン・ビジネスにとっては必須であるものの、非常に高価な資産です。因みに、ボーイング社の最新の旅客機である787 Dreamliner であれば約230億円、エアバス社の最新のA350XWB であれば約300億円もします(参考:Airbus and Boeing Average List Prices 2017)。勿論、為替レートによって円表示価格は変わります。また、航空会社の交渉力(発注機数やエアラインの規模が大きな力を発揮します)が大きければ一般に開示されない値引きもあります。新規開発機種を最初に発注するエアライン(「launch Customer」といいます)は、更に大幅な値引きがあることが普通ですが、これは発注した新機種が、必ずしも人気機種になるとは限らないからです。大手エアラインはこうした「launch Customer」になることが多く、相当安い価格で入手しているといわれています。因みに、三菱航空機が新しく開発しているMRJの「launch Customer」はANAです

こうした高額の資産(航空機)を使ってビジネスを行う場合、その保有に係るコストを常に意識しておかねばなりません。保有に関わるコストの代表的なものは「減価償却費」です。減価償却費とは、使用を続けることにより経済的な価値が低下する(減価)ことを考慮し、その資産の購入費を資産の寿命をもとにした期間に亘って分散して計上することが認められている費用のことです(減価償却費は実際の支出を伴わないことから企業の内部に留保されれば、旧式となった資産を更新する財務的な裏付けとなるものです)

減価償却費の償却期間は、収支状況の悪い年に期間を延長して費用を減らし、逆に収支状況のいい時に期間を短縮して利益を圧縮するといった会計操作を防ぐために、資産の種類毎に経済的寿命を考慮して国の基準が決められています
航空機の場合「減価償却資産の耐用年数等に関する財務省令別表_航空機関連」によれば、787 Dreamliner、A350XWBの場合、最大離陸重量が200トン以上であるため、償却期間は10年、定額償却を行うとすれば、

787 Dreamliner;
230億円 ÷ 10年 = 23億円/1年 ⇒ 630万円/1日
A350XWB;
300億円 ÷ 10年 = 30億円/1年 ⇒ 820万円/1日

となります(尚、平成19年税制改正で、残存価額という概念が撤廃されています)。保有しているだけで、これだけ巨額の費用を負担することとなれば、当然航空機は可能な限り高い稼働を達成しなければならないことは明白です。エアライン・のビジネスの経営状況を評価するときに、航空機の稼働状況を重視する所以はここにあります

尚、冒頭でも述べたように、エアライン・ビジネスは、お客様に客席を提供するビジネスでもあります。従って、客室仕様が旧式になり、競合他社の客室快適性に劣後する状況になった時は、航空機を最新鋭機材に更新するか、客室仕様を最新のものに改修する必要が出てきます。客室仕様の全面的な改修は極めて高額の投資を伴い、改修実施後の減価償却費の負担も考慮して経営判断をしなければなりません

 

2.パイロットの効率に係る経営指標パイロットの平均稼働時間
パイロットの計画が経営にとって何故重要かについては、以下のポイントに要約することが可能です;
コストの側面
パイロットの人件費が極めて高いこと。因みに、パイロットのリース会社として有名な PARC Aviation に届いているエアラインの求人情報(PARC Aviation)を見ると、給与はかなり高いことがわかります(注:求人内容詳細に給与が入ってない場合もあります)
パイロットの養成費用が極めて高いこと(養成途中で非稼働となる部分の人件費;シミュレーター、その他訓練施設;地上教官の人件費;運航技術要員、運航管理要員、労務管理要員人件費、経費など)

事業計画とパイロットの計画を整合させることの難しさ
パイロットの養成は長期計画にならざるを得ない(新人の採用→パイロット資格取得→副操縦士資格取得→機長資格取得)にも拘らず、
*航空需要は景気の動向に敏感であり極めて短周期で変動する
*自社需要は競合他社の動向の影響を受けるものの予測が困難である
*航空機の導入・退役計画があると機種限定の変更訓練による非稼働のパイロットが増加する、など計画には変動要素が沢山あります
事業計画とパイロットの計画の整合が取れないと、パイロットの不足(→事業計画の縮小、または外人乗員の採用)、またはパイロットの過剰(→非稼働部分人件費増)を招くことになります

労務問題の難しさ;
以下の理由により、一般にパイロット組合の交渉力が非常に強くなります(←欧米先進エアラインでも同じ状況)
*パイロットのストライキは、直ちに定期便のキャンセルにつながること
*経営側が権利として認められているロックアウトは、公共輸送を担う立場から実質的に行使できないこと
*パイロットの要求事項のうち、乗務手当・パーディアム等の諸手当は世間の理解を得るのが難しい要求項目のため、経営側が世論のバックアップを得ることが難しいこと
安全運航に絡むパイロット組合の要求事項は、世論の支持が得やすいこと
安全運航に絡めて要求される乗務割基準は乗員の疲労に関わることから、重要な労働条件であるものの、譲歩すれば大幅なパイロット必要数の増加に繋がるため、経営側としては中々譲歩できない要求事項となります(過去、訴訟に発展する事例も多い)

上記 ①~③ 全てが集約される経営指標がパイロットの平均稼働時間であり、これを規制が要求する上限の稼働時間(飛行時間制限、勤務時間制限)に近づけることが経営にとって死活的な目標となります

3.その他の大きなコスト要因に係る経営指標
第1項、第2項に比べ、コストをマネージできる部分が少ないのですが、以下のコスト要因も経営として間違いのない判断をしていかねばなりません;
(1)整備関連費用
航空機は、安全運航を達成する為に必須の作業項目(整備要目)が法的に決められており、これを着実に実施していく必要があります(詳しくは“4_整備プログラム”をご覧ください)。この作業を着実に実施するために必要なものは;
整備を実施する整備士の確保(資格、等詳しいことは“5_航空整備に関わる人の技量の管理”をご覧ください)が必要となりますが、必ずしも全て自社で行う必要は無く、委託するという選択肢があります(委託の条件、等詳しいことは“6_認定事業場制度”をご覧ください)。自社で整備する場合は整備士の人件費・経費、整備施設に係る減価償却費がかかります。また、委託する場合は委託費としてカウントされます。選択に係る経営判断のポイントは、整備品質とコストとなります

実施しなければならない作業項目のうち、運航に供されている航空機の駐機中に行われる作業は、特に整備のために運航を止める必要はありませんが、運航を長期間止めて整備する項目(重整備と呼びます)については、この整備のための引当機が必要になります(イメージとしてはマイカー車検整備中の代車のようなもの)。古い航空機、新しい航空機、機種、などで違いがありますが、これらを取り混ぜて、約5%の引当機が必要(⇔1年間365日の内、365日x5%→1機当たり年間18日は重整備のために運航できないことを意味します)というのが私の経験です。これは、航空機を20機保有していれば、その内1機は重整備引当機として確保する必要があることになります(→稼働できる航空機は19機となります)。これはとりもなおさず航空機の保有に係るコストの内5%は整備のために必要となることを意味します。極めて巨額ではありますが、必要不可欠であるということから、経営の舵取りとはあまり関係のない費用となります

航空機は多くの部品で構成されており、定期的に交換される部品、故障のために交換される部品、等があり、エアラインとして部品交換のために航空機を運航から外すことは極力避けなければなりません。従って、こうした部品はスペア部品として保有しなければならないことになりますが、どの程度のスペアを持つか(スペア・レベルといいます)は、定時性整備の持越し基準(整備によるキャンセル率と関連)をどうするかという経営判断の範疇に入ります。エンジンや降着装置など高額な部品の保有は高額な保有コストを招きますが、同じ機種を多く持つことでスペア部品の保有コストは相対的に低くすることができ、大手のエアラインに有利になる傾向があります

(2)間接費
エアラインでは、パイロット、CA(客室乗務員)、整備士、などが航空機を飛行させる為に直接必要となりますが、これらの仕事をサポートする要員(一般に、人事、企画・計画、総務、など)も大変重要です。また、コンピューター・システムの導入・運用に係るコストもエアライン・ビジネスにとって極めて重要、且つ金がかかるものですが、これらの分野は近年アウトソース化が進んでおり、LCCが容易に創業できる要因になっています

(3)空港でのハンドリングに係るコスト
空港における旅客ハンドリングや、空港における航空機のハンドリングは、既にエアラインにとっては自前で行う業務ではなく、委託が第一の選択肢になります。ただ、お客様に直接コンタクトする業務については、コストとサービス品質のバランスを見極めることがエアラインの経営にとって重要になります。近年、主要航空会社がアライアンス(ワンワールド、スターアライアンス、スカイチーム)を構成し、レベルの高いサービスをお客様に提供しようとしているのもこうした理由によるものです

以上