-はじめに-
“2_航空機の安全を守る仕組み_全体像”の中で述べましたように、航空機を運用する段階で航空会社は、認可された整備規程と業務規程に沿って整備作業を間違いなく実施しなければなりません。ここでは、整備規程、及びその付属書に明確に記述されている、“作業を実施する人の技量の管理”について出来るだけ分かり易く説明していきたいと思います。但し以下は、私がかつて所属していた会社の体制がベースになっていますので、会社によっては若干の違いがあると思います
-整備士のキャリアパスと教育・訓練の必要性-
A. 整備士のプロモーションパターン
入社してから退職(60歳前後)するまでの約40年間、整備士は、必要な教育・訓練を受けつつ、徐々に高度な業務を経験し、より技術レベルの高い整備士として育っていきます。
下記①、②、③に対しては、社内に資格制度を設け、技量を厳格に管理する仕組みが取り入れられています
⓪ 入社教育期間:法的にも、実態としても航空機の整備は実施できません
① 初級整備士(補助作業者):
* 作業リーダーの指示のもとで共同作業ができる
* 実施した作業は作業リーダーが完了確認のサインを実施する
② 一般整備士:
* 簡単な作業が単独でできる
* 作業に必要な技術マニュアルを理解できる
* 自身が実施した作業のサインができる
③ 作業リーダー、検査員、国家資格整備士:
* 個人またはグループで実施する全ての作業が自分の責任でできる
* 検査が出来る
④ 技術管理:
* メーカーから大量に発行される英文の技術資料を迅速に読みこなせる
* 改修仕様書を的確に作成出来る能力がある
⑤ 一般管理職(係長、課長):
* 品質管理体制に責任が持てる(人、仕組み)
* 人材の継続的な育成に責任が持てる
⑥ 部長、経営者
* 安全文化に責任を持てる
* 品質とコストのバランスが取れる
B. 技術革新(⇔機種更新)への対応
整備士が入社した後退社するまでの約40年間、新しい機種が次々と登場し、整備に必要な知識・技術は常にリフレッシュしていく必要があります。因みに、1960年代以降の技術革新には、以下様なものがありました;
① 1960年代;
この年代で多くの大手航空会社は、プロペラ機(DC-6B、DC-7C、他)から、第一世代のジェット旅客機(DC-8、B-707、B-727、B-737、他)への機種更新を行いました。従ってこの年代では、プロペラ機とジェット機が混在した状態で整備が行われていました。この時代の整備作業の特徴は;
* 電子部品として、真空管とトランジスターが混在しており、ベテラン作業者が半導体に関わる知識の習得に苦労しました
* マニュアルが充分に揃っていなかったため、修理には経験と勘が必要とされました
② 1970年代;
以降ジェット時代になりますが、航空機の見かけはあまり変わらないものの、第二世代の大型ジェット旅客機(B747、DC-10、トライスター、B767、A-300、他)が登場し、航空機の装備などが革命的と言える程変わったために、ベテラン作業者は、知識の習得の他、仕事のやり方を変えるのに大変苦労をしました;
* 整備方式の近代化(MSG-3/詳しくは知りたい方は“4_整備プログラム”をご覧ください)が行われました。結果として、オーバーホール(Overhaul)という整備機会が無くなったことで分かる様に、A整備、B整備、C整備(従来の点検整備)、M整備(大型改修、機体構造の検査、大型装備品の交換)などの整備の段階は、それぞれ論理的に定義された整備要目や改修作業を実施する機会としての自由度の高い定期整備という概念に替わりました。「オーバーホールが終わったからこの飛行機は新品同様になった」という考え方は通用しなくなりました
* 電子部品は集積回路(IC/Integrated Circuit)が主体となり、修理作業はカード・ユニット単位の交換に変わりました(所謂“ブラックボックス”化)。結果として、それまでの回路を追ってトラブルの原因を突き止め、半田ごてを使って修理を行なうなどの仕事が殆ど無くなりました
* 二次構造部分(機体強度の面でそれ程重要でない部分)に軽量化のために複合材料(FRP/Fiber Reinforced Plastic)が多用されるようになり、修理には接着技術が必要になりました
* 慣性航法装置(Inertia Navigation System)が登場しました
* 従来ケーブル等を使用して直接操作を行っていた操縦系統が、油圧、気圧(Pneumatic)機器による間接的な操作に変わり、油圧・気圧機器の多重化による信頼性の確保が行われるようになりました
* 修理方法がマニュアルで厳密に規制されるようになり、経験に基づく自己流の整備、改造が禁止となりました
③ 1980年代;
現在も使われている第三世代ののジェット旅客機(B-747-400、A-320、A-330、B737-400)が登場し、航空機の制御関連の装備には本格的なデジタル技術が取り入れられるようになりました
* 操縦室における計器類が液晶画面に集約された、所謂“グラスコックピット”が登場しました。これは、全ての操縦に必要な情報が視認性に優れた液晶画面に表示されるメリットは大きいものの、操縦に関わる各種の重要な情報が相互にリンクしている為に、トラブルが発生した場合の原因探求が極めて難しくなるというデメリットもありました。特にアナログ時代に育った整備士にとってデジタル技術は習得する上での高いハードルとなりました
尚、トラブルの原因が特定しにくいことはパイロットにとっても同じなので、液晶画面で表示された情報が信頼できなくなった場合に備え、操縦に最小限必要の情報(航空機の進路、姿勢、対気速度、気圧高度)に関しては従来のアナログ機器も装備するように義務付られています
* エンジンの制御が完全に電子化(FADEC/Full Automatic Digital Engine Control)されました
* 上記の様な技術革新に伴い、整備士が経験や勘に頼って整備することが困難となり、整備に必要なマニュアル類は急速に充実してゆきました。これは、航空機メーカーが、熟練整備士が期待できない開発途上国に最新の航空機を販売していく為にも必要なことでもありました
一方、マニュアル類は内容の充実と併せ、頻繁な改定が行われる様になり、それまで行われてきたマニュアル類の日本語化が困難となりました。その結果、整備士は英語のマニュアルを日本語化せずに英語のまま読みこなす読解能力を身に着けることが必須となりました
④ 1990年代;
この年代は原油高に伴う燃費性能の大幅な向上が技術革新の主なテーマとなりました。この技術革新の核となる部分は、エンジンの燃費性能向上と信頼性向上による長距離機の双発機化、及び機体の大幅な軽量化です。この年代でこれらを実現した最初の機種はB-777であり、すぐさまベストセラー機となりました
* エンジンの主要メーカーであるジェネラルエレクトリック(GE)社、プラットアンドホイットニー(P&W)社、ロールスロイス(RR)社は、それぞれ高出力、低燃費、高信頼性を実現した新エンジンを開発しました
* 機体の主要メーカーであるボーイング社、エアバス社は、炭素繊維をベースとする複合材料(CFRP/Carbon Fiber Reinforced Plastic)の使用比率を高めた機体を開発しました
* 最短距離のルートを飛行すると、故障が起きた時に緊急に着陸できる空港が設定できない長距離洋上飛行に使用される航空機にも、燃費性能の優れた双発機が使われるようになりました。しかし、この運航を行うためには、エンジンの信頼性や整備のやり方などに対する厳しい基準が新たに設定されました。(詳しく知りたい方は“ETOPS承認審査基準の要旨”をご覧下さい)
* 電子装備品のデジタル化、データリンク化が更に進むと共に、操縦そのものがケーブルなどを介しないで電子信号(デジタル)によって伝達される、所謂“Fly-by-Wire”が導入され始めました
* 整備トラブルの中でAvionics(“Aviation”と“Electronics”を合せた造語)関連の割合が増加し、原因究明に時間がかかるようになりました
⑤ 2000年代以降;
第四世代ジェット旅客機と言われる、A-380、B787、A350XWBが登場しました。これらの航空機は基本的に1990年代からの流れにあるものですが、更に上記機種によっては以下の様な革新的技術が盛り込まれています
* 一次構造部分(機体強度の面で非常に重要な部分)にCFRPが導入されました
* エンジンは更なる技術革新(低燃費、高信頼性)が盛り込まれました
* 油圧を高圧(約200気圧⇒約340気圧)化することにより、油圧部品の軽量化を実現しました
* 近年、電気自動車の開発などで急速に技術革新が進んだ高出力の電動モーターが、油圧部品の替わりに使われるようになりました
* 一次構造部分に使われているCFRPの修理が今後の課題になると思われます
-作業リーダー、検査員、国家資格整備士までの教育・訓練-
⓪ 入社教育;
入社時年齢には幅(18歳~24歳)がありますが、航空会社が運用している航空機の整備に関する知識・技能のレベルはほぼゼロの状態です。従って、数週間~数か月をかけて以下の様な教育・訓練を行う必要があります。訓練が終了した段階で「初級整備士」としての実力(資格)が得られます;
* 航空会社社員としての常識:職業倫理、労働者としての権利・義務、航空会社の特殊な勤務体制、など
* 整備作業に必要な基本知識:航空に関わる特殊用語、航空法及びその関連法規、各種整備マニュアルの使い方、航空力学・飛行力学・材料力学の基礎、など
* 基本作業の習得:板金作業、接着作業、ネジのトルクのかけ方、など
初級整備士としての知識・技能を習得した整備士は、以下の様に専門化された整備現場(職種)に、適性、定員・配員バランスなどを考慮して配属されます。従って、配属後はその職種に関わる専門性を身に着けていくことになります(勿論、配属後の職種間の異動もあります);
(a)運航整備(発着整備、A整備など)/3職種:①General, ②Radio & Electrical Instrument, ③Cabin
(b)機体重整備(C整備、M整備など)/5職種:①System, ②Structure, ③Aircraft & Engine, ④Radio & Electrical Instrument, ⑤Cabin
(c)エンジン整備/5職種:①分解・組立、②溶接、③メッキ、④機械加工、⑤補器(エンジンに取り付けられる装備品)修理
(d)装備品整備/4職種:①油圧機器、②気圧機器、③電気・電子機器、④降着装置・他
(注) この職種区分は、あくまで私がかつて所属していた会社の体制がベースになっていますので、それぞれの航空会社や整備会社によって異なります。また、委託業務の範囲によっても大きく変わってきます
① 補助作業者として必要な教育・訓練
各職種に配属された初級整備士は、一般整備士や作業リーダーの下で、補助作業者として実際の航空機の整備作業を実施しつつ、一般整備士として必要になる以下の様な知識・経験を習得します。こうした教育・訓練の仕方をOJT(On the Job Training)と言います;
* 作業を開始する前に、その作業の手順、必要となる部品・材料などを予めマニュアル類(AMM、POM、COM、SRM、材料シート/ 詳しくは知りたい方は“4_整備プログラム”をご覧下さい)を読み込んで実作業に備えます
* 作業リーダーの指導を受けながら実作業を実施します
* 作業終了後、疑問に思った点をマニュアル類で確認するとともに、それでもわからない点は作業リーダーに質問し実施した作業に関わる知識、経験を確実なものとします
* 通常この訓練は半年~一年程度で終了しますが、知識、経験のレベルが「一般整備士」として相応しいかどうかの判定は、その整備士の教育・訓練担当が行ないます
② 一般整備士として必要な教育・訓練
一般整備士となった整備士は、一人前の整備士として単独作業や、多人数で実施する大きな作業の一員として作業の経験を積んでいきます。また、より高度な作業をこなす為、あるいは新機種に対する知識を得るために、職種毎に専門化された技術教育を順次受けていくことになります
数年から十年程度一般整備士として知識、技能を積み上げてきた後、作業リーダー、検査員、国家資格整備士の道に進むことになりますが、これらの道は下記の様に高いハードルが設定されており、配置必要数も限定的なため、一般整備士のまま退職する人も少なからずあります
③ 作業リーダー、検査員、国家資格整備士として必要な教育・訓練:
作業リーダーや国家資格整備士については、あくまで会社が必要とする人材、人数を相応のコストをかけて養成することになります;
A.作業リーダーの養成
* 作業リーダーの必要性 ⇒ 数名~数十名のチームで業務を行う場合、作業工程の管理、技量レベルに応じた作業要員の配置、作業全体としての品質管理が出来る人材が必要となります
* 作業リ-ダーとして必要とされる資質 ⇒ 知識・経験が豊富であること、管理能力がある(人望がある)ことが求められます
* 作業リーダーとして必要となる教育・訓練 ⇒ 機種別専門訓練(一般整備士よりレベルの高いもの)、品質管理関連の教育、ヒューマンファクター関連の教育を優先的に受けることになります
B.検査員の養成
* 検査員の必要性 ⇒ 整備要目や改修作業の中には、非破壊検査など習得が難しい検査が含まれていること、また修理作業や改修作業の中には終了後の判定に長い経験が必要なものがあり、そうした検査、判定業務を専門化することにより、安全性と効率性を両立させることができます
* 検査員として必要とされる資質 ⇒ 知識・経験が豊富であること、緻密な仕事を根気よく実施できる能力があることが求められます
* 検査員として必要となる教育・訓練 ⇒ 非破壊検査資格の取得のための教育・訓練、機種別専門訓練(一般整備士よりレベルの高いもの)、品質管理関連の教育を優先的に受けることになります
C. 国家資格整備士の養成
航空機の整備は多くの整備士が分担して作業を行うことから、一人のミスが大きな事故を招く可能性があります。従って、整備作業の各プロセスで知識、経験共に優れた人が耐空性の確認を行うことが必要なことは言うまでもありません。中でも整備作業や改修作業が終了した後、国土交通大臣に代わって耐空性の確認を行う整備士については、個人としての知識・技量のレベルを国が判定する為の航空従事者技能証明制度と、その資格取得者がベースとなって航空会社や整備会社が組織としての耐空性の確認を行う確認主任者の制度が整えられています;
(a) 航空従事者技能証明制度に基づく整備士の養成;
一等航空整備士資格;
この資格は、航空機の日常の運航を維持するため、言い換えれば整備が終わった航空機をパイロットに引き渡すために必須となる国家資格です。また、この資格は航空機の仕組みを全体として理解していることが必要なので、パイロットと同じ様に資格が機種別に分かれており(“型式による限定”)、新しい機種が導入された時の資格者の養成は、資格獲得を命じられた整備士本人はもとより、実作業を外して自習時間を確保させる必要があるなど航空会社にとっても大きな負担になります
* 受験資格;
航空法施行規則第四十三条に、「20歳以上」で「6ヶ月以上の整備の経験を含む4年以上の航空機整備の経験」が必要と規定されています
* 要求される知識・技能;
㋑ 航空機整備に必要な基礎的な技能(板金工作、機械加工、等)、
㋺ 航空法規、航空技術に関わる基礎的な知識(航空局による筆記試験があります)、
㋩ 機種固有のシステム、エンジン、装備品に関わる全般的な知識(航空局による口頭試問でもチェックされます)、
㋥ トラブル発生時の対応能力(航空局による口頭試問でもチェックされます)
尚、指定航空従事者養成施設制度(制度の概要については“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”をご覧下さい)の認可を得ている航空会社や整備会社にあっては、上記㋑、㋩、㋥に関わる教育・訓練を自社の訓練部門で概ね代行できるようになっています(民間の自動車教習所をイメージして頂けるといいと思います)
* 資格取得に要する期間 ⇒ 受験者の能力にもよりますが、最初に一等航空整備士を取得する場合は、通常1~2年の間、私生活を犠牲にして勉強に没頭する必要があります。尚、他機種への資格の拡張を行うためには、上記㋑、㋺は不要で、㋩、㋥のための勉強が必要になります
一等航空整備士以外の運航整備関連資格;
一等航空運航整備士、二等航空整備士、二等航空運航整備士の資格があり、航空専門学校などでも資格取得が可能です。しかし、これらの資格は必要とされる知識、技能のレベルが低い為、大手の航空会社では直接一等航空整備士の養成を行うことが普通です
航空工場整備士資格;
この資格は、機種別ではなく“限定された業務”に関わる耐空性の確認に必要となる資格です。限定された業務の種類は、航空法施行規則第55条に規定されており、
(ⅰ) 機体構造関係、(ⅱ) 機体装備品関係、(ⅲ) ピストン発動機関係、(ⅳ) タービン発動機関係、(ⅴ) プロペラ関係、(ⅵ) 計器関係、(ⅶ) 電子装備品関係、(ⅷ) 電気装備品関係、(ⅸ) 無線通信機器関係
と細かく分類されています。これは、一等航空整備士資格が、“航空機全体を広く、浅く知っている”ことが求められているのに対し、航空工場整備士は、“業務分野ごとに狭く、深く知っている”ことが求められていると理解することができます
* 受験資格;
航空法施行規則に、「18歳以上」で「技能証明を受けようとする業務の種類について2年以上の整備及び改造の経験」が必要と規定されています
* 要求される知識・技能;
㋑ 航空機整備に必要な基礎的な技能(板金工作、機械加工、等)、
㋺ 航空法規、航空技術に関わる基礎的な知識(航空局による筆記試験があります)、
㋩ 限定された業務の種類に関わる全般的な知識(航空局による口頭試問でもチェックされます)
また、指定航空従事者養成施設の制度については一等航空整備士の仕組みと同じです
* 資格取得に要する期間;
概ね一等航空整備士と同程度です
(b) 確認主任者の養成
確認主任者の資格は、認定事業場(詳しくは“6_認定事業場制度”で説明します)において、航空機、及び重要な装備品の修理、改造を行った後、国土交通大臣に代わって耐空検査を行う為の資格です(詳しくお知りにおなりたい方は、引用が多く、且つ独特な文体で分かり難くなっている航空法の条文を、出来る限り分かり易く書き直した、航空法の耐空性確認に関わる条文をご覧ください)。
* 資格要件、配置必要数;
認定事業場という仕組みは、多くの整備士が関与する航空機や重要な装備品の整備・改造作業を、最終工程における耐空性の確認を含め、組織自らの責任で行ことと言い換える事が出来ます。従って、確認主任者としての資格要件として求められることを要約すると以下の様になります;
整備・改造作業に於いて組織として間違いのない作業を遂行できる社内体制について充分に理解していることが必要になります。具体的には、現場以外で整備作業、改修作業を行うためにサポートを行なって組織の機能 ;
施設の維持管理、人員の教育・訓練、技術管理、材料・部品管理、領収検査、工程管理、委託管理、監査制度、など、
についてきちんとした教育(品質管理教育など)を受け,理解している必要があります。また、
自身の組織で行われる作業全般について十分な経験、知識を持っていることが必要となります。従って、作業リーダーとして十分な経験を積んでいることの他に、その確認主任者の認定区分に関わる航空従事者技能証明を受けた資格整備士が対象となります(重要な装備品に関わる確認主任者については、以下の様に一部例外もあります)。資格区分別の具体的な要件は以下の通りです;
航空機の整備後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認を行う型式(機種)の一等航空整備士(二等航空整備士、二等航空運航整備士、航空工場整備士も可能ですが、耐空検査ができる範囲が限定されてきます)、及びその型式(機種)に関わる3年以上の経験が必要になります。
尚、この確認主任者は、航空機の発着作業で耐空性の確認を行う必要があるため多くの便数を運航している航空会社ではその必要数がかなり多くなります
航空機の改修作業後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認を行う型式(機種)の一等航空整備士(二等航空整備士も可能ですが、耐空検査ができる範囲が限定されてきます)の資格、改造に関わる教育・訓練を終了していること、及び改造に関わる型式(機種)の航空機の改造について3年以上の経験が必要になります。
尚、この確認主任者は、主として機体重整備を行った後の耐空性確認を行うことになりますので、交替制勤務の組数、同時に重整備に入る機数、等に応じた確認主任者の配置があれば十分なので、配置必要数は上記の航空機の整備後の耐空性確認を行う確認主任者に比べれば少なくて済みます
重要な装備品の修理・改造作業後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認主任者になるためには、原則として航空工場整備士資格の、その装備品が属する限定(限定については既述の通り航空法施行規則第55条に規定されています)を持っていること、及びその業務に関わる3年以上の経験が必要になります。
ただ、航空工場整備士の資格を持っていない場合でも、大学、又は高専の工学に関わる所定の課程を修めて卒業していること、及び、認定業務について大卒者にあっては3年以上、高専卒者にあっては5年以上の経験があれば確認主任者になることが可能です
尚、この資格は、航空機から取り外した重要な装備品の作業が対象となりますので、修理・改造を行っている装備品の種類に応じた配置が必要となりますが、航空機関連の確認主任者に比べ配置必要数はそれほど多くはありません
<参考> 海外の制度との比較
海外の制度は、日本の制度と異なります。海外の航空会社から整備作業や改修作業を受託する場合、耐空性確認を行う場合には、教育・訓練を受けた上で海外の以下の資格を取得する必要があります;
<米国機の場合>
FAR/Federal Aviation Regulation のルールでは以下の資格があります;
Mechanic:整備又は改造(大修理又は大改造を除く)の実施及び監督(機体構造とエンジンの限定がある)
Mechanic with Inspection Authorization:大修理又は大改造実施後の確認行為
Repairman:Repair Station(日本における“認定事業場”に似た仕組み)又はAirlineにおける整備又は改造の実施及び確認
<EU>
JAR/Joint Aviation Regulation のルールでは以下の資格があります;
Category A Mechanic:軽微なライン整備作業及び単純な調整作業後の確認行為(型式の限定がない)
Category B1 Mechanic:以下に掲げる作業分野のライン整備における確認行為、及び重整備におけるサポート業務(型式の限定がある)/機体構造、エンジン、機械システム、電気システムの整備、Avionicsの単純な点検作業(不具合処理を除く)
Category B2 Mechanic:以下に掲げる作業分野のライン整備における確認行為、及び重整備におけるサポート業務(型式の限定がある)/Avionics及び電気システムの整備の整備、エンジン及び機械システムの中の電気、Avionicsに関する作業(但し単純な点検に限る)
Category C:重整備後の確認行為(型式の限定がある)
<ICAO附属書における資格の表現>
Aircraft Maintenance Technician又はEngineer又はMechanic:整備又は改造後の航空機又は部品について確認行為を行う
-その他の資格を持つ整備士の養成-
航空級無線通信士;
運航整備作業を実施する過程で、航空機の無線機で管制官との交信を必要とする場合(航空機の地上の移動の許可を得るとき、エンジンの試運転をする時、など)があり、運航整備部門に配置された人員は基本的に資格取得を目指します(管制官との交信業務を切り分ければ、必ずしも全員の取得は必要ありません)
放射線取扱い主任者;
機体重整備作業を実施する過程で、放射性同位元素を使った非破壊検査を行う必要があり、事業所に1名以上「放射線取扱い主任者」の資格を有する者を配置しなくてはなりません。理工学系の学卒者の中から少数選任し資格を取得させます
航空会社、整備会社が整備作業を行う場合に必要となるその他の資格;
* 非破壊検査資格:検査員/検査の種類別に資格があります
* 溶接技能者資格:溶接を行う整備士/溶接の種類別に資格があります
* 毒物劇物取扱責任者資格:メッキ作業を行う整備士
-技術以外の教育-
品質保証教育;
整備士のキャリアパスに合わせ、初級、中級、上級訓練コースを設定します
Human Factor 教育;
最近の進歩した設計の航空機では、設計の欠陥による事故よりもHuman Error(人間の犯すミス)による事故が圧倒的に多いことが分かっており、整備士のキャリアパスに合わせて以下の様な訓練を行っています
* MRM/Maintenance Resource Management(詳しくは“8_Humanwareに係る信頼性管理”をご覧ください) ⇔ パイロットが法的に義務付けられている“CRM/Crew Resource Management”に相当します
管理教育;
作業リーダー、管理職は、人を適切に管理するための知識が必要とされますので、労務管理、健康管理、経営管理、等に関わる教育が行われています
以上