乗員計画(パイロット、CA/客室乗務員)

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はじめに

乗員計画とは、エアラインの事業計画の根幹をなす路線便数計画(どの路線に、どの型式の航空機を、どれだけの便数を飛ばすか、という計画)に基づき、パイロットや CA(Cabin Attendant/客室乗務員)の必要数を計算し、それを満たす人数を用意する計画ということができます

乗員計画は、経営側の立場に立てば、エアラインの貴重な人的資源であるパイロットや CA を、規制が要求する各種の制限事項を守りつつ、最も効率よく運航路線に配置することと言うことができます。一方、パイロットや CA の側の立場に立てば、自身の労働条件(労働時間、賃金等の収入、その他)の基本になる計画であるということもできます。また視点を変えて、乗員計画がパイロットや CA の労働密度に直接関係することから、それがひいては安全運航」にも関連することとも考えられ、経営者、パイロット、飛行機を利用されるお客様全てにとっても適切な計画を求められているという、エアラインビジネスにとって極めて重要な計画であると言えます

乗務割

乗務割については、前回発行のブログ「パイロットの養成」の中で、エアラインに乗務割の基準を定めることを法律で義務付けている(航空法第68条、及び航空法施行規則第214条)と書きました。実は、乗員計画の基礎となるルールの大切な部分は全てこの乗務割」の基準に含まれています。このルールは一般の人にはやや難解であると思われますので、以下にできるだけ分かり易くその説明を行いたいと思います

1.定義:勤務時間、乗務時間、他
パイロットや CA の業務は、一般の労働者と違って特殊な労働環境で働くため、以下の様な厳密な区分とその定義が定められています(以下、見出しの写真を見ながら読んでください);
① 勤務時間とは:乗務の為に出勤して業務が始まる時刻(例えばフライト前のブリーフィングが始まる時刻)から、業務が終了する時刻(例えばフライト後のデブリーフィングが終了する時刻)までの時間
② 乗務時間とは:ブロックアウト時刻(航空機がスポットを出る時刻/タイムテーブル上の出発時刻)からブロックイン時刻(航空機がスポットで停止する時刻/タイムテーブル上の到着時刻)までの時間
 就業時間:会社業務に従事する時間。上記の勤務時間には不測の事態に備えるため自宅で待機(スタンバイ)し、乗務に備える時間が含まれていません
④ 休養時間:全ての会社業務から開放される時間
⑤ 休養施設:自宅、ホテル、等
⑥ 仮眠設備乗務中交替で仰臥して休息が取れる設備(Crew Bunk、客室内の仕切られた客席、など)

B787_Crew Bunk(左:パイロット用;右:CA用)
B787_Crew Bunk(左:パイロット用;右:CA用)

⑦ 地上輸送時間:空港と予め指定された休養施設との間の輸送時間(実際にかかる時間でなく、別に定める時間)で、勤務時間、休養時間には含めない

2、パイロットの編成数と乗務割
大型旅客機に乗り組む乗務員は、長い間パイロット二人(機長と副操縦士)に加え、航空機関士(Flight Engineer)が乗り組んでいました。航空機関士は、エンジン状態の監視やその調整を行うこと、及び搭載している燃料のマネージメント(航空機の燃料は幾つかの燃料タンクに分けて搭載されており、これを原則として内側のタンクから消費していく必要があります)を行うことが主たる任務になっていました。ところが、1989年になって操縦室が大幅に近代化された(Glass Cockpit/操縦室内の計器が液晶画面に統一されたためにこの様に名付けられました)B747-400が登場し、航空機関士が行っていた任務の大半を二人のパイロットに分散させることが出来るようになりました。これ以降開発された大型旅客機はほぼ全てこの Glass Cockpit が装備されており、原則として二人のパイロットだけで運航が行われています。勿論、B747-400以前に開発されている旅客機も未だに運航されており、これらの航空機を区別する為に航空機関士が乗り組む必要のある航空機を「3MAN機」、航空機関士が乗り組む必要のない航空機を「2MAN機」と呼んでいます
① シングル編成;2MAN機/機長1名+副操縦士1名;3MAN機/機長1名+副操縦士1名+航空機関士1名

航空機の性能が向上するとともに、お客様にとっての利便性向上の観点から長距離路線においても中継地を経由しない直行路線が増えてきました。こうした長距離路線における長時間の勤務に対応する為に、乗務中の適切な休息が可能となるように以下の編成が設定されています
② マルチ編成:2MAN機/シングル編成+機長(又は副操縦士)1名;3MAN機/シングル編成+機長(又は副操縦士)1名+航空機関士1名
③ ダブル編成:2MAN機/シングル編成の倍;3MAN機/シングル編成の倍

<パイロットの乗務割基準
運航規程審査要領、および同細則に定められている具体的な審査基準は以下の通りです。各エアラインは運航規程に以下を下回る基準を設定することはできません
国内運航
① 連続する24時間の乗務時間が8時間を超えないこと。また乗務時間が8時間を越えた場合は、勤務終了後、乗務時間を勘案した適切な休養を与えること
1暦月100時間を超えないこと
3暦月270時間を超えないこと
1暦年1000時間を越えないこと
⑤ 連続する7日間のうち1暦日以上の休養を与えること

国際運航(国内運航と違って路線によっては時差があります)
編成により乗務時間の制限が異なります
 シングル編成:連続する24時間の乗務時間が12時間以下
㋺ マルチ編成:連続する24時間の乗務時間が12時間を超える場合。この場合、航空機内に適切な仮眠設備を設けること
㋩ ダブル編成基準はなく航空会社に任されている
乗務時間が上記制限時間を越えた場合は、勤務終了後、乗務時間を勘案した適切な休養を与えること
上記以外の乗務時間の制限は国内線の②~⑤と同じです

米国においても日本と同様の基準があります。詳しく知りたい方はをパイロットの務割に関わる米国の基準をご覧になってみて下さい。日本の基準に比べると詳細、且つ複雑な基準になっていますが、これは航空輸送に係る長い歴史及び ALPAと呼ばれる交渉力の強い産別組合の存在の故であると考えられます

3.CA の編成数と乗務割
CA の一番大切な任務は、非常時に於いてお客様を機外に安全に脱出させることです。これを受けて運航規程審査要領には、CA の編成数について以下のルールが定められています;
① 非常時の指揮統括者として「専任客室乗務員」の配置が必要
② 非常脱出時の誘導の為に必要とされる最低編成数は、旅客50名に対して1名以上の配置が必要

CAには、お客様に対する飲食のサービスを提供する任務もあります。サービスの程度によりますが;
③ 一般に短距離路線では上記①、②で決まる編成とし、長距離路線では、飲食のサービスの内容、回数、飛行途中での休憩の必要性、などを勘案して編成人数を増やします

CAの乗務割
運航規程審査要領には、CAの乗務割について以下が定められています;
乗務時間1暦月100時間を超えて予定しないこと(3歴月、1年の別の制限は無い)
休養時間連続する7日間のうち1暦日(外国においては連続する24時間)以上の休養を与えること

4.勤務協定
パイロットや CA は当然のことながら労働者であり、労働基準法で保障された以下の権利があります(詳しくは労働基準法の関連する条文を参照してください);
団結権の補償 ⇒ パイロットもCAも組合を作って労働条件について会社側と交渉する権利とストライキを行う権利が保障されています
労働条件の基準 ⇒ 労働時間(1日時間以内)、休日(1週間に1日以上)、時間外手当の支給、など

一方、パイロットや CA は、上述の通り、航空法により乗務時間の制限、休養時間の確保などが義務付けられています。従って、基本的には両方の基準を満たすように乗務割の基準を定め乗務計画を行うことになります
一般に LCC や立ち上げたばかりのエアラインは労働基準法と航空法の基準に近い厳しい乗務割で乗員計画を行いますが、歴史のある大手のエアラインは労使交渉の結果、これよりやや緩い乗務割基準で乗員計画を立てているのが実情であると考えられます
参考:勤務協定の例

乗員計画シミュレーション_前提条件

乗員計画がどの様に立てられているかを理解していただくために、パイロットと CA の乗員計画シミュレーションを行ってみたいと思います

シミュレーション行う際の順序としては、路線便数計画を決める乗務割基準を決める③便ごとに必要となる編成数から、その路線で必要となる乗員の組数を乗務割基準(勤務基準)を基に計算する、④路線毎に必要となる組数から余裕(パイロットの場合は機種別になります)があれば計算しておく、⑤技量審査(パイロットの6Month Check Flight、など)、非常救難訓練健康診断、などの実行可能性を確認する

1.国内線路線便数計画
JXエア(仮称)の国内線路線便数計画に基づく発着ダイヤを以下と致します(実はシミュレーションを行うために、大分前の、とある航空会社の発着時刻表を拝借しました)。尚、機種はB737-800とします;

JXエアの国内線ダイア
JXエアの国内線ダイヤ

上記の発着時刻表で空港名がアルファベット3文字で書かれていますが、具体的な空港名は空港コードをご覧になってください

この発着ダイアは、実は航空機の運用を行っているプロが以下の様なダイアグラムで検証した上で作成されることは、私のブログ航空機の運用をご覧になればお判りになることと思いますが、ここでは逆に発着時刻表から以下のダイヤグラムを作成してみました;

JXエアのダイアグラム
JXエアのダイアグラム

ここでパイロット、CA は羽田を基地として乗務し、交代は羽田で行うことを原則とすれば、航空機が羽田に帰って来るタイミングが分かるパターンが乗務計画を検討するのに便利なことがご理解いただけると思います

上記ダイヤグラムを、それぞれの路線を運航する航空機のパターンとして書き換えます(イメージとしては、私のブログ航空機の運用の列車番号でパターンを引き直すということと同じです)。例えば、上記のダイヤグラムを標準作業工程(DGT:航空機の運用を参照してください)を35分として、各空港に到着する便をDGTを守った上で最短時間で出発便に繋げると(下図参照:赤字で1機分のみ表示);

航空機の当て嵌め
航空機の当て嵌め

この作業を全てのダイヤグラムについて実施すると、この路線便数計画を実行するのに必要な全ての航空機のパターンが作成できます(下表参照)。下の航空機のパターンを見ると、この路線便数計画を運航するには19機必要となることも分かります。因みにこの図の最下段にある20機目は予備機として考えています。尚、予備機は乗員計画には関係ありませんが、その必要性について知りたい方は、私のブログ航空機の運用の整備関連の部分ををご覧になってください;

JXエアの航空機のパターン
JXエア国内線の航空機パターン

この機材パターンを使用して国内線のパイロット、CA の乗務計画を行うこととします

2.国際線路線便数計画
国際線路線便数計画に基づく発着時刻表(ブロックタイム、時差を含む)を以下とします(とある航空会社の発着時刻表から一部路線を拝借しました!);

JXエアの国際線ダイヤ
JXエアの国際線ダイヤ

路線に書かれているアルファベットの都市コードは;
TYO/東京、NYC/ニューヨーク、LAX/ロサンゼルス、HNL/ホノルル、BKK/バンコック、DLC/大連、SEL/ソウル
機種コードは以下の通りです;
773/B777-300;767/B767-300ER;772/B777-200、尚、B777-300と同-200とはパイロットの機種限定は同じです
UTCとは:協定世界時(Coordinated Universal Time)のことで、時差によらない時刻表示になるので、時差のある場所を行き来する国際線のブロックタイムなどを計算するときに便利です

これを、国内線の様に機材のパターンで表示すると;

JXエア国際線の航空機のパターン
JXエア国際線の航空機パターン

3.乗務割基準
JXエアの乗務割基準を以下の通りとします;
A. 乗務時間制限
①1暦月100時間を超えないこと
② 3暦月270時間を超えないこと(CAにはこの制限はありません)
③ 1暦年1000時間を越えないこと(CAにはこの制限はありません)
B. 編成による乗務時間の制限
シングル編成:連続する24時間の乗務時間が12時間を超えないこと。但し、国内線では原則1日に8時間を越えないこと
マルチ編成:連続する24時間の乗務時間が12時間を超える場合。この場合、航空機内に適切な仮眠設備を設けること
③ ダブル編成:基準を設けない

C. 休養時間の原則
連続の勤務の前の休養時間は、前の乗務時間により以下を予定する;
① 8時間以下の場合:6時間以上の休養
② 8時間を越え12時間以内の場合:12時間以上の休養
③ 12時間を越える場合:24時間以上の休養
D. 着陸回数の制限一連続の勤務で8回以内
E. 勤務時間の制限月間平均して週40時間を越えないこと

F_1. 勤務時間の開始
① 国内線:ブロックアウト時刻の1時間前
② 国際線:ブロックアウト時刻の1時間30分前
F_2. 勤務時間の終了時刻
① 国内線:ブロックイン時刻の1時間後
② 国際線:ブロックイン時刻の2時間後

G. 地上輸送時間の原則
① 勤務開始・終了の前後30分
② 地上輸送時間:空港と予め指定された休養施設との間の輸送時間(実輸送時間でなく、別に定める時間)で、勤務時間、休養時間には含めない

H. 所定の休日(常日勤者の土曜日、日曜日、祝日に相当します)
① 1週間に1日以上
② 1暦月8日以上
③ 1暦年119日以上
I. 有給休暇
① 年次有給休暇:20日
② 夏休:3日
③ 特別休暇:年間平均1日程度を想定

乗員計画シミュレーション_必要人員の計算

1.乗務員が乗務する路線毎に1組当たりの平均乗務時間、勤務時間を計算する

A.国内線の場合;
国内線の航空機パターン(下図)の右端にあるデータの意味は;
CNX:Connectionの略で、羽田空港以外の空港に到着し、翌日出発する場合の航空機の番号(左端の数字)を表しています
BT:Block Timeの略で、その航空機の一日の乗務時間の合計に相当します
FC:Flight Cicleの略で、その航空機の一日発着回数
まず、乗務時間の制限を勘案して航空機のパターンに、乗務員の交替する所に「」を入れてみると;

JXエアの航空機のパターン_乗員交代のタイミング入り
JXエアの航空機のパターン_乗員交代のタイミング()入り

上表で「」が入った航空機パターンのでは、その路線を別の乗員グループが乗務することを意味します。勿論一日のブロックタイム合計の時間(乗務時間)が短い場合(例えば9番の機材)は「」がありません。これは合計した乗務時間が乗務時間制限を超えないので一組の乗員グループで乗務を完結できるからです。こうして一日に全便を運航するのに必要となる乗員グループを表にまとめると(縦軸は航空機の番号と同じ);

乗務パターン毎の乗務時間・勤務時間_JXエアの航空機のパターン
乗務パターン毎の乗務時間勤務時間_JXエアの航空機のパターン

上表の左側の表の黄色で塗りつぶした部分が、一日で乗務しなければならない乗務の組の名称を表します。この国内線では、A~JJまでの36組が必要になることが分かります。尚、乗務員はいつも同じ乗務パターンを勤務するのではなく、月間、年間の乗務時間や勤務時間が均等となるよう最適な組合せを考えることになりますので、必要な組数を計算するときは平均値が重要な指標になります
上表の右側には乗務時間と勤務時間の合計欄が黄色で塗りつぶしてありますのでこれらの数値から以下の様に平均値を計算します;
合計値から全乗務時間は:104.3時間+75.8時間 =180.1時間/1日
これを一組当たりの平均では:108.1時間  ÷ 36組 = 5.0 時間/1組 
また、同様に全勤務時間は:189.3時間+127.9時間 = 317.3時間/1日
これを一組当たりの平均では 317.3時間  ÷ 36組 = 8.8時間/1組
ということになります

因みに、パイロット、CA の国内線36組の乗務パターンは下表の様になります(表の右側の欄には、基地である羽田空港以外の空港で1日の乗務が終わった場合、翌日はその空港からの乗務を行うこととなり、乗務を通じて基地に戻るまでの乗務パターンの繋がりが分かるようにしてあります);

パイロット、CAの国内線乗務パターン
パイロット、CAの国内線乗務パターン

B.国際線の場合
国際線の乗務パターンは発着時刻表を使って計画します。国際線の場合は乗務時間、勤務時間、休養時間、乗務編成、などのルールが複雑なので、分かり易い路線から説明致します。尚、1往復の乗務が完結する(次の往路便に乗務できる状態)までに要する日数を「x日パターン」と表記しています;
① 東京=ソウル線;

東京=ソウル線の基本乗務パターン
東京=ソウル線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:4時間55分 ⇒ 4.9時間
* 乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:9時間25分 ⇒ 9.4時間
* 復路到着日から6時間以上の休養時間を取っても翌日から乗務が可能となるので ⇒ 1日パターン

② 東京=大連線;

東京=大連線の基本乗務パターン
東京=大連線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:6時間10分 ⇒ 6.2時間
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:10時間50分 ⇒ 10.8時間
* 復路到着日から6時間以上の休養時間を取っても翌日から乗務が可能となるので ⇒ 日パターン

③ 東京=バンコック線;

東京=バンコック線の基本乗務パターン
東京=バンコック線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:12時間50分 ⇒ 12.8時間
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:19時間50分 ⇒ 19.8時間 
* 復路到着日から12時間以上の休養時間を取っても3日目から乗務が可能となるので ⇒ 日パターン

④ 東京=ホノルル線;

東京=ホノルル線の基本乗務パターン
東京=ホノルル線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:15時間55分 ⇒ 15.9時間
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはマルチ編成 
*1往復の勤務時間:22時間55分 ⇒ 22.9時間 
* 復路到着日から12時間以上の休養時間を取っても4日目から乗務が可能となるので ⇒ 日パターン

⑤ 東京=ロサンゼルス線;

東京=ロサンゼルス線の基本乗務パターン
東京=ロサンゼルス線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:21時間20分 ⇒ 21.3時間 
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:28時間20分 ⇒ 28.3時間 
* 復路到着日から12時間以上の休養時間を取っても4日目から乗務が可能となるので ⇒ 3日パターン

⑥ 東京=ニューヨーク線;

東京=ニューヨーク線の基本乗務パターン
東京=ニューヨーク線の基本乗務パターン

*1往復の乗務時間:27時間05分 ⇒ 27.1時間 
* 片道の乗務時間から ⇒ パイロットはシングル編成
*1往復の勤務時間:34時間05分 ⇒ 34.1時間 
* 復路到着日から24時間以上以上の休養時間が確保出来るので1往復で5日間がが必要 ⇒ 5日パターン

これらのパターンは分かり難いようですが、よく見るとパイロットの編成の種類は片道の乗務時間(ブロックタイム)が12時間を超えるか否かで決まり、休養時間(上表の“REST”)は乗務時間によって時間が変わります。また、往路到着した海外の空港から適切な休養を経て復路の乗務を行うこと、基地である東京に戻った後、適切な休養時間を取った上で次の便に乗務できる時刻が表示されていることが読み取れると思います

2.必要人員の計算
計算する際に必要となるルールを整理すると以下の様になります。尚、ここでパイロットや CA の生活が実感できるように月間単位のルールで統一することとします;

ルール_Ⅰ月平均日数30.4日 ⇔ 4年に一度「閏年」が有ることを勘案すると年間日数の平均は365.25日となります。これを12ヶ月で割った日数です 
ルール_Ⅱ( パイロットの月間平均乗務時間制限): 83.3時間 ⇔ 年間乗務時間制限は1000時間ですから、これを12ヶ月で割った数字です
<注> 勿論、夏季繁忙期などは月間乗務時間制限ギリギリの100時間近く乗務するのですが、これを続ければ年間1200時間となってしまうので、繁忙期以外は100時間未満で路線便数計画を立てます

ルール_Ⅲ( CAの乗務時間制限):100時間
ルール_Ⅳ月間の勤務可能な平均日数): 18.5日 ⇔ 年間平均日数から所定の休日(119日)、有給休暇(20日)、夏季休暇(3日)、特別休暇(忌引きなどの平均:1日)を控除したあと12ヶ月で割った日数

A.国内線の必要人員
<パイロットの必要人員>
上記ルールを適用すると、必要となるパイロットの組数は;

国内線のパイロットの編成と必要組数
国内線のパイロットの編成と必要組数

上表を見ると、国内線の場合ルール_Ⅱで月間の乗務回数の限界が来ることが分かります。シングル編成は機長1名と副操縦士1名なので、この路線便数計画を実行するには、機長66名、副操縦士66名のパイロットが必要となります

また、上表から、乗務しなければ勤務できる日数が年間21.6日(12ヶ月x〔D―C〕)確保できることとなり、パイロットの定期審査6Month Check Flight)、健康診断、非常救難訓練なども、追加パイロットを確保しなくてもい実施可能であることが分かります

また、この路線便数計画は19機の航空機とパイロットは66組で運営できることから、航空機1機当たり約3.5組のパイロットで運営できることになります。国内線の中期計画で路線便数が決まっていない場合でも、国内線配置機数が決まっていれば、パイロットの凡その必要数が計算できることになります

< CA の必要人員>
パイロットとの違いは乗務回数の上限が乗務時間制限でなくルール_Ⅳで決まるので必要となる CA の組数は;

国内線のCAの編成と必要組数
国内線のCAの編成と必要組数

B737-800客席数は176席、50席当たり配置するCA は4名(内1名は専任客室乗務員を配置する必要があります。従って、4名x59組=236名のCA(内59名は専任客室乗務員)を配置する必要があります

尚、国内線CAの場合、乗務回数がルール_Ⅳで決まるため、乗務以外の余裕日数は出ないので、非常救難訓練(1回/年)を行うために236人日分の非常救難訓練の為に人員引当が必要になります。これは更に2名(236人日 ÷ 18.5日x12ヶ月)の追加配置が必要になることになります

B.国際線の必要人員
<パイロットの必要人員
国内線とほぼ同じような方法で必要となるパイロットの組数を計算すると;

国際線のパイロットの編成と必要組数
国際線のパイロットの編成と必要組数

上表を見ると、国際線パイロットの場合もルール_Ⅱで月間の乗務回数の限界が来ることが分かります。この路線便数計画を実行するには、機長42名、副操縦士32名のパイロットが必要でありことが分かります

また、上表の「乗務以外の一編成当たりの月間出勤可能日」をご覧になれば、乗務員の定期審査6Month Check Flight)、健康診断、非常救難訓練なども、追加パイロットを確保しなくてもい実施可能であることが分かります

< CA の必要人員>
パイロットの違いは乗務時間制限(月間の基準があるのみ)と編成数だけで、乗務パターンはパイロットと同じなので;

国際線のCAの編成と必要組数
国際線のCAの編成と必要組数

上表を見ると、国際線 CA 場合は、路線によってルール_Ⅱで決まる場合と、ルール_Ⅳで決まる場合があることが分かります。ルール_Ⅳで決まる路線では乗務以外の勤務を行う余裕が無いことに注意する必要があります

上表における編成数の考え方は以下の通りです;
東京=ソウル線:配置機材はB767-300ERで、エグゼキュティブクラス/30席、エコノミークラス/207席、提供サービスは1.0食、免税品販売を行うという前提で編成数は7名内1名は専任客室乗務員を配置)
*東京=大連線:配置機材はB767-300ERで、エグゼキュティブクラス/30席、エコノミークラス/207席、提供サービスは1.0食、免税品販売を行うという前提で編成数は7名内1名は専任客室乗務員を配置)
東京=バンコック線:
配置機材はB777-200ERで、エグゼキュティブクラス/63席、エコノミークラス/239席、提供サービスは1.5食、免税品販売を行うという前提で編成数は10名内1名は専任客室乗務員を配置)
* 東京=ホノルル線:配置機材はB767-300ERで、エグゼキュティブクラス/30席、エコノミー・クラス/207席、提供サービスは1.5食、免税品販売を行うという前提で編成数は8名内1名は専任客室乗務員を配置)
 東京=ロサンゼルス線:配置機材はB777-300ERで、ファーストクラス/9席、エグゼキュティブ・クラス/63席、プレミアムエコノミークラス/44席、エコノミー・クラス/156席、提供サービスは1食、免税品販売を行うという前提で編成数は13名内1名は専任客室乗務員を配置)
* 東京=ニューヨーク線:配置機材はB777-300ERで、ファーストクラス/9席、エグゼキュティブ・クラス/63席、プレミアムエコノミークラス/44席、エコノミー・クラス/156席、提供サービスは2.5食、免税品販売を行うという前提で編成数は14名内1名は専任客室乗務員を配置)

従って、上表より305名(内27名は専任客客室乗務員)のCAの配置が必要となります

また、上表の「乗務以外の一編成当たりの月間出勤可能日」をご覧になると、東京=大連線で、一編成当たり月間2.1日東京=バンコック線ロで、同1.3日東京=サンゼルス線で、同1.4日の出勤可能日数がることが分かります。これらの路線の配置人員、及び12ヶ月をかけ合わせれば;
(13人x2.1+39人X1.3人+84人X1.4人)x12ヶ月
2,347人・日
の出勤が可能であり、これは305名の CA が、健康診断、及び非常救難訓練をそれぞれ年間一回、追加人員の配置なしに実施可能であることが分かります

C.その他の必要人員
A 及び B で計算した必要人員は、路線運営で直接必要とされる人員数と、法律で実施が義務付けられている定期審査、健康診断、非常救難訓練の実施ができる人員だけです
しかし、長期、安定的、且つ成長を見込んで路線運営を行うには、以下の様な増員要素を見込んで計画を立てなければなりません;
① 追加的な技術教育
② 機種更新に伴う限定変更の訓練
③ 機長昇格訓練
④ 定年退職、死亡退職、等に伴う欠員引き当て
⑤ 臨時便、チャーター便に対する引き当て
⑦ エアラインによっては、組織運営を円滑に行うための管理を担当するパイロットを置くケースもあります。こうしたパイロットは乗務時間をある程度犠牲にして地上勤務を行う必要が発生しますので、その為の引き当て要員が必要になります

以上