豪州産“大男”と日本産“老人”が衝突した時に何が起こるか

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小金持ちの高齢者スキーヤーが好むスキー場に、ニセコやルスツのスキー場があります。これらのスキー場で共通しているのは、中斜面(急斜面でもなく緩斜面でもない)の長いコースが沢山あり、しかも雪質が良好なことです。一方、豪州製“大男”のボーダーもこうした斜面が大好きです。何故ならあまり転倒のリスクを感じずにスピードを上げて滑ることができるからです。

スキーヤーは、基本的に斜面下方を注視しながら大回り(斜面横方向に進む)や、小回り(斜面縦方向に進む)で滑降します。

一方ボーダーは横方向の滑り(大回り)の連続で、体が斜面下方を向いている時の視界はスキーヤーと一緒ですが、体が斜面上方を向いている時は、いくら首を捻じ曲げても斜面下方及び進行方向の反対側の視界は得られません(つまりターンした先の状況を予め予測できない)。また、ボーダーの進行方向の操作は、両足が一つのボードに固定されている為、重心の移動を先行させなければターンの始動は出来ません。一方、スキーヤーのターンの操作は膝下のスキー操作で瞬時にターンの始動を行うことができます。

こうした特徴を踏まえると、ボーダーとスキーヤーの衝突は以下のパターンで発生すると考えられます:ボーダーが斜面上方を向いた姿勢で、スキーヤーより後方から高速で滑って来て背中側にターンした時に以下の状況が生まれ、衝突に発展すると考えられます;

① ボーダーからはスキーヤーが背中側に居るため認識できない
② スキーヤーの視界は斜面下方に向かっており、後方からくるボーダーを認識できない

こうした状態で起こる衝突の典型的なパターンは以下の三つのケースになります;

A.双方曲がった直後に正面衝突するケース
B.スキーヤーが下を向いて滑っている時に横からボーダーが突っ込むケース
C.同じ方向に曲がったものの、スキーヤーよりボーダーのスピードが速い為に追突してしまうケース

ケース_C の衝撃は、ケース_A、Bよりも当然小さいので、ケースA、Bについて、簡単な衝撃の程度を見積もってみたいと思います。

<簡単な衝突のシミュレーション>

私の数多くの目撃経験を参考に、以下の仮定を置いて簡単なシミュレーションをしてみたいと思います;

1.豪州産“大男”ボーダー:体重/M:100キログラム、滑走速度/V:時速36キロ(斜面横向き) ⇒ 秒速10メートル
2.日本産“老人”スキーヤー:体重/m:50キログラム、滑走速度/ⅴ/時速20キロ (斜面横向きに滑走/ケースA ; 斜面下向きに滑走/ケースB)⇒ 秒速5.56メートル
3.衝突した後は二人が団子状になってぶっ飛ぶ!(⇔ 跳ね返らない。例えてみれば粘土の団子がぶつかって一体となるイメージ)
4.ぶつかる瞬間の過渡的な経過時間 :Δt ⇒ 勝手に0.1秒と仮定

使用する物理法則:運動量保存の法則

衝突後の豪州産“大男”ボーダーの速度:、衝突後の日本産“老人”スキーヤーの速度:v´とすれば;

MxV + v = M x V´+ x  v´

仮定_3から ⇒ V ´= v´(衝突後一体となる)

従って ⇒ V´ =( MxV + mxv)÷(M + m)

 

ケースAの場合( V と v の進行方向が逆であることに注意);

V´= (100 x 10 - 50 x 5.56)÷(100 + 50)= 4.81メートル/秒(ボーダーの進行方向)

豪州産“大男”ボーダーが感ずる加速度

(V - V´)÷ Δt = (10 - 4.81)÷ 0.1 = 51.9メートル/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向は変わらない)

⇒ これを重力加速度で割れば;  51.9 ÷ 9.8 = 5.3G(重力の5.3倍

 

*日本産“老人”スキーヤーが感ずる加速度

(v + V´)÷ Δt = (5.56 + 4.81)÷ 0.1 = 103.7/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向が逆になる)

⇒ これを重力加速度で割れば、103.7 ÷ 9.8 = 10.6G(重力の10.6

 

ケースBの場合(横方向の速度はゼロ ⇒ v= 0 )

V´= (100 x 10 - 50 x 0 )÷(100 + 50)= 6.67メートル/秒(ボーダーの進行方向)

*豪州産“大男”ボーダーが感ずる加速度

(V - V´)÷ Δt = (10 - 6.67)÷ 0.1 =33.3/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向は変わらない)

⇒ これを重力加速度で割れば、33.3 ÷ 9.8 = 3.4G(重力の3.4倍

 

*日本産“老人”スキーヤーが感ずる加速度

(v + V´)÷ Δt = (0 + 6.67)÷ 0.1 = 66.7/秒(1秒当たりの速度の変化率;衝突後進行方向はボーダーの進行方向で斜め下向き)

⇒ これを重力加速度で割れば、66.7 ÷ 9.8 = 6.8G(重力の6.8

 

ケースA、B共に日本産“老人”スキーヤーは相当なダメージを受ける(骨粗しょう症の人は骨折してもおかしくない加速度;またこの高い加速度で頭が振られると、脳出血を起こす可能性もある)のに対し、ボーダーはあまり大きなダメージを受けないことが分かります。これは体重の差がダメージに大きく関係することを意味します。自動車と人間が衝突した時のことを想像すれば割と簡単に納得できますかね!

 

<衝突による怪我のリスクを避けるには>

本来ボーダーとスキーヤーは一緒の斜面で滑らないことがベストですが、最近のスキー場は殆どボーダーを制限すると若者から嫌われることから、ボーダーとスキーヤーが同じ斜面で滑らざるを得ない状況になっています。また、私の周りには高齢になってもスキーを楽しむ輩が多く、この人達はテストステロン(男性ホルモン)の分泌が多く、女性ボーダーと一緒に滑ることを好む様です(困ったもんです!)

従って、こうした現実を踏まえつつ、高齢スキーヤーの衝突による怪我のリスクを下げるには、以下のことを常に意識して滑ることが肝要かと思われます;

① ボーダーを追い越す方が追い越されるよりリスクが少ない
② ボーダーを追い越す時には、ボーダーの視界に入ってから追い越す
③ ボーダーに追い越される速度でゆっくり滑る時は、できるだけゲレンデの端っこを滑る(真ん中をゆっくり滑る場合に比べリスクを1/2にできる)
④ 体重のありそうなボーダー、スピードを追及しているボーダーには絶対近づかない

以上