5_航空整備に関わる人の技量の管理

-はじめに-

2_航空機の安全を守る仕組み_全体像”の中で述べましたように、航空機を運用する段階で航空会社は、認可された整備規程と業務規程に沿って整備作業を間違いなく実施しなければなりません。ここでは、整備規程、及びその付属書に明確に記述されている、“作業を実施する人の技量の管理”について出来るだけ分かり易く説明していきたいと思います。但し以下は、私がかつて所属していた会社の体制がベースになっていますので、会社によっては若干の違いがあると思います

-整備士のキャリアパスと教育・訓練の必要性-

A. 整備士のプロモーションパターン
入社してから退職(60歳前後)するまでの約40年間、整備士は、必要な教育・訓練を受けつつ、徐々に高度な業務を経験し、より技術レベルの高い整備士として育っていきます。
下記①、②、③に対しては、社内に資格制度を設け、技量を厳格に管理する仕組みが取り入れられています
入社教育期間:法的にも、実態としても航空機の整備は実施できません
初級整備士(補助作業者):
* 作業リーダーの指示のもとで共同作業ができる
* 実施した作業は作業リーダーが完了確認のサインを実施する
一般整備士
* 簡単な作業が単独でできる
* 作業に必要な技術マニュアルを理解できる
* 自身が実施した作業のサインができる
作業リーダー検査員国家資格整備士
* 個人またはグループで実施する全ての作業が自分の責任でできる
* 検査が出来る
技術管理
* メーカーから大量に発行される英文の技術資料を迅速に読みこなせる
* 改修仕様書を的確に作成出来る能力がある
一般管理職(係長、課長):
* 品質管理体制に責任が持てる(人、仕組み)
* 人材の継続的な育成に責任が持てる
部長経営者
* 安全文化に責任を持てる
* 品質とコストのバランスが取れる

B. 技術革新(⇔機種更新)への対応
整備士が入社した後退社するまでの約40年間、新しい機種が次々と登場し、整備に必要な知識・技術は常にリフレッシュしていく必要があります。因みに、1960年代以降の技術革新には、以下様なものがありました;
① 1960年代;
この年代で多くの大手航空会社は、プロペラ機(DC-6B、DC-7C、他)から、第一世代のジェット旅客機(DC-8、B-707、B-727、B-737、他)への機種更新を行いました。従ってこの年代では、プロペラ機とジェット機が混在した状態で整備が行われていました。この時代の整備作業の特徴は;
* 電子部品として、真空管とトランジスターが混在しており、ベテラン作業者が半導体に関わる知識の習得に苦労しました
* マニュアルが充分に揃っていなかったため、修理には経験と勘が必要とされました

② 1970年代;
以降ジェット時代になりますが、航空機の見かけはあまり変わらないものの、第二世代の大型ジェット旅客機(B747、DC-10、トライスター、B767、A-300、他)が登場し、航空機の装備などが革命的と言える程変わったために、ベテラン作業者は、知識の習得の他、仕事のやり方を変えるのに大変苦労をしました;
* 整備方式の近代化(MSG-3/詳しくは知りたい方は“4_整備プログラム”をご覧ください)が行われました。結果として、オーバーホール(Overhaul)という整備機会が無くなったことで分かる様に、A整備、B整備、C整備(従来の点検整備)、M整備(大型改修、機体構造の検査、大型装備品の交換)などの整備の段階は、それぞれ論理的に定義された整備要目や改修作業を実施する機会としての自由度の高い定期整備という概念に替わりました。「オーバーホールが終わったからこの飛行機は新品同様になった」という考え方は通用しなくなりました
* 電子部品は集積回路(IC/Integrated Circuit)が主体となり、修理作業はカード・ユニット単位の交換に変わりました(所謂“ブラックボックス”化)。結果として、それまでの回路を追ってトラブルの原因を突き止め、半田ごてを使って修理を行なうなどの仕事が殆ど無くなりました
* 二次構造部分(機体強度の面でそれ程重要でない部分)に軽量化のために複合材料(FRP/Fiber Reinforced Plastic)が多用されるようになり、修理には接着技術が必要になりました
* 慣性航法装置(Inertia Navigation System)が登場しました
* 従来ケーブル等を使用して直接操作を行っていた操縦系統が、油圧、気圧(Pneumatic)機器による間接的な操作に変わり、油圧・気圧機器の多重化による信頼性の確保が行われるようになりました
* 修理方法がマニュアルで厳密に規制されるようになり、経験に基づく自己流の整備、改造が禁止となりました

③ 1980年代;
現在も使われている第三世代ののジェット旅客機(B-747-400、A-320、A-330、B737-400)が登場し、航空機の制御関連の装備には本格的なデジタル技術が取り入れられるようになりました
* 操縦室における計器類が液晶画面に集約された、所謂“グラスコックピット”が登場しました。これは、全ての操縦に必要な情報が視認性に優れた液晶画面に表示されるメリットは大きいものの、操縦に関わる各種の重要な情報が相互にリンクしている為に、トラブルが発生した場合の原因探求が極めて難しくなるというデメリットもありました。特にアナログ時代に育った整備士にとってデジタル技術は習得する上での高いハードルとなりました
尚、トラブルの原因が特定しにくいことはパイロットにとっても同じなので、液晶画面で表示された情報が信頼できなくなった場合に備え、操縦に最小限必要の情報(航空機の進路姿勢対気速度気圧高度)に関しては従来のアナログ機器も装備するように義務付られています
* エンジンの制御が完全に電子化(FADEC/Full Automatic Digital Engine Control)されました
* 上記の様な技術革新に伴い、整備士が経験や勘に頼って整備することが困難となり、整備に必要なマニュアル類は急速に充実してゆきました。これは、航空機メーカーが、熟練整備士が期待できない開発途上国に最新の航空機を販売していく為にも必要なことでもありました
一方、マニュアル類は内容の充実と併せ、頻繁な改定が行われる様になり、それまで行われてきたマニュアル類の日本語化が困難となりました。その結果、整備士は英語のマニュアルを日本語化せずに英語のまま読みこなす読解能力を身に着けることが必須となりました

④ 1990年代;
この年代は原油高に伴う燃費性能の大幅な向上が技術革新の主なテーマとなりました。この技術革新の核となる部分は、エンジンの燃費性能向上と信頼性向上による長距離機の双発機化、及び機体の大幅な軽量化です。この年代でこれらを実現した最初の機種はB-777であり、すぐさまベストセラー機となりました
エンジンの主要メーカーであるジェネラルエレクトリック(GE)社、プラットアンドホイットニー(P&W)社、ロールスロイス(RR)社は、それぞれ高出力、低燃費、高信頼性を実現した新エンジンを開発しました
機体の主要メーカーであるボーイング社、エアバス社は、炭素繊維をベースとする複合材料(CFRP/Carbon Fiber Reinforced Plastic)の使用比率を高めた機体を開発しました
* 最短距離のルートを飛行すると、故障が起きた時に緊急に着陸できる空港が設定できない長距離洋上飛行に使用される航空機にも、燃費性能の優れた双発機が使われるようになりました。しかし、この運航を行うためには、エンジンの信頼性や整備のやり方などに対する厳しい基準が新たに設定されました。(詳しく知りたい方は“ETOPS承認審査基準の要旨”をご覧下さい)
* 電子装備品のデジタル化、データリンク化が更に進むと共に、操縦そのものがケーブルなどを介しないで電子信号(デジタル)によって伝達される、所謂“Fly-by-Wire”が導入され始めました
* 整備トラブルの中でAvionics(“Aviation”と“Electronics”を合せた造語)関連の割合が増加し、原因究明に時間がかかるようになりました

⑤ 2000年代以降;
第四世代ジェット旅客機と言われる、A-380、B787、A350XWBが登場しました。これらの航空機は基本的に1990年代からの流れにあるものですが、更に上記機種によっては以下の様な革新的技術が盛り込まれています
* 一次構造部分(機体強度の面で非常に重要な部分)にCFRPが導入されました
* エンジンは更なる技術革新(低燃費、高信頼性)が盛り込まれました
* 油圧を高圧(約200気圧⇒約340気圧)化することにより、油圧部品の軽量化を実現しました
* 近年、電気自動車の開発などで急速に技術革新が進んだ高出力の電動モーターが、油圧部品の替わりに使われるようになりました
* 一次構造部分に使われているCFRPの修理が今後の課題になると思われます

-作業リーダー、検査員、国家資格整備士までの教育・訓練-

⓪ 入社教育;
入社時年齢には幅(18歳~24歳)がありますが、航空会社が運用している航空機の整備に関する知識・技能のレベルはほぼゼロの状態です。従って、数週間~数か月をかけて以下の様な教育・訓練を行う必要があります。訓練が終了した段階で「初級整備士」としての実力(資格)が得られます;
航空会社社員としての常識:職業倫理、労働者としての権利・義務、航空会社の特殊な勤務体制、など
* 整備作業に必要な基本知識:航空に関わる特殊用語、航空法及びその関連法規、各種整備マニュアルの使い方、航空力学・飛行力学・材料力学の基礎、など
基本作業の習得:板金作業、接着作業、ネジのトルクのかけ方、など

初級整備士としての知識・技能を習得した整備士は、以下の様に専門化された整備現場(職種)に、適性、定員・配員バランスなどを考慮して配属されます。従って、配属後はその職種に関わる専門性を身に着けていくことになります(勿論、配属後の職種間の異動もあります);
(a)運航整備(発着整備、A整備など)/3職種:①General, ②Radio & Electrical Instrument, ③Cabin
(b)機体重整備(C整備、M整備など)/5職種:①System, ②Structure, ③Aircraft & Engine, ④Radio & Electrical Instrument, ⑤Cabin
(c)エンジン整備/5職種:①分解・組立、②溶接、③メッキ、④機械加工、⑤補器(エンジンに取り付けられる装備品)修理
(d)装備品整備/4職種:①油圧機器、②気圧機器、③電気・電子機器、④降着装置・他
(注) この職種区分は、あくまで私がかつて所属していた会社の体制がベースになっていますので、それぞれの航空会社や整備会社によって異なります。また、委託業務の範囲によっても大きく変わってきます

① 補助作業者として必要な教育・訓練
各職種に配属された初級整備士は、一般整備士や作業リーダーの下で、補助作業者として実際の航空機の整備作業を実施しつつ、一般整備士として必要になる以下の様な知識・経験を習得します。こうした教育・訓練の仕方をOJT(On the Job Training)と言います;
作業を開始する前に、その作業の手順、必要となる部品・材料などを予めマニュアル類(AMMPOMCOMSRM材料シート/ 詳しくは知りたい方は“4_整備プログラム”をご覧下さい)を読み込んで実作業に備えます
* 作業リーダーの指導を受けながら実作業を実施します
作業終了後、疑問に思った点をマニュアル類で確認するとともに、それでもわからない点は作業リーダーに質問し実施した作業に関わる知識、経験を確実なものとします
* 通常この訓練は半年~一年程度で終了しますが、知識、経験のレベルが「一般整備士」として相応しいかどうかの判定は、その整備士の教育・訓練担当が行ないます

②  一般整備士として必要な教育・訓練
一般整備士となった整備士は、一人前の整備士として単独作業や、多人数で実施する大きな作業の一員として作業の経験を積んでいきます。また、より高度な作業をこなす為、あるいは新機種に対する知識を得るために、職種毎に専門化された技術教育を順次受けていくことになります
数年から十年程度一般整備士として知識、技能を積み上げてきた後、作業リーダー、検査員、国家資格整備士の道に進むことになりますが、これらの道は下記の様に高いハードルが設定されており、配置必要数も限定的なため、一般整備士のまま退職する人も少なからずあります

作業リーダー検査員国家資格整備士として必要な教育・訓練
作業リーダーや国家資格整備士については、あくまで会社が必要とする人材、人数を相応のコストをかけて養成することになります;
A.作業リーダーの養成
* 作業リーダーの必要性 ⇒ 数名~数十名のチームで業務を行う場合、作業工程の管理、技量レベルに応じた作業要員の配置、作業全体としての品質管理が出来る人材が必要となります
* 作業リ-ダーとして必要とされる資質 ⇒ 知識・経験が豊富であること、管理能力がある(人望がある)ことが求められます
* 作業リーダーとして必要となる教育・訓練 ⇒ 機種別専門訓練(一般整備士よりレベルの高いもの)、品質管理関連の教育、ヒューマンファクター関連の教育を優先的に受けることになります

B.検査員の養成
* 検査員の必要性 ⇒ 整備要目や改修作業の中には、非破壊検査など習得が難しい検査が含まれていること、また修理作業や改修作業の中には終了後の判定に長い経験が必要なものがあり、そうした検査、判定業務を専門化することにより、安全性と効率性を両立させることができます
* 検査員として必要とされる資質 ⇒ 知識・経験が豊富であること、緻密な仕事を根気よく実施できる能力があることが求められます
* 検査員として必要となる教育・訓練 ⇒ 非破壊検査資格の取得のための教育・訓練、機種別専門訓練(一般整備士よりレベルの高いもの)、品質管理関連の教育を優先的に受けることになります

C. 国家資格整備士の養成
航空機の整備は多くの整備士が分担して作業を行うことから、一人のミスが大きな事故を招く可能性があります。従って、整備作業の各プロセスで知識、経験共に優れた人が耐空性の確認を行うことが必要なことは言うまでもありません。中でも整備作業や改修作業が終了した後、国土交通大臣に代わって耐空性の確認を行う整備士については、個人としての知識・技量のレベルを国が判定する為の航空従事者技能証明制度と、その資格取得者がベースとなって航空会社や整備会社が組織としての耐空性の確認を行う確認主任者の制度が整えられています;

(a) 航空従事者技能証明制度に基づく整備士の養成;
一等航空整備士資格;
この資格は、航空機の日常の運航を維持するため、言い換えれば整備が終わった航空機をパイロットに引き渡すために必須となる国家資格です。また、この資格は航空機の仕組みを全体として理解していることが必要なので、パイロットと同じ様に資格が機種別に分かれており(“型式による限定”)、新しい機種が導入された時の資格者の養成は、資格獲得を命じられた整備士本人はもとより、実作業を外して自習時間を確保させる必要があるなど航空会社にとっても大きな負担になります
受験資格;
航空法施行規則第四十三条に、「20歳以上」で「6ヶ月以上の整備の経験を含む4年以上の航空機整備の経験」が必要と規定されています
* 要求される知識・技能;
㋑ 航空機整備に必要な基礎的な技能(板金工作、機械加工、等)、
㋺ 航空法規、航空技術に関わる基礎的な知識(航空局による筆記試験があります)、
㋩ 機種固有のシステム、エンジン、装備品に関わる全般的な知識(航空局による口頭試問でもチェックされます)、
㋥ トラブル発生時の対応能力(航空局による口頭試問でもチェックされます)
尚、指定航空従事者養成施設制度(制度の概要については“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”をご覧下さい)の認可を得ている航空会社や整備会社にあっては、上記㋑、㋩、㋥に関わる教育・訓練を自社の訓練部門で概ね代行できるようになっています(民間の自動車教習所をイメージして頂けるといいと思います)
* 資格取得に要する期間 ⇒ 受験者の能力にもよりますが、最初に一等航空整備士を取得する場合は、通常1~2年の間、私生活を犠牲にして勉強に没頭する必要があります。尚、他機種への資格の拡張を行うためには、上記㋑、㋺は不要で、㋩、㋥のための勉強が必要になります

一等航空整備士以外の運航整備関連資格
一等航空運航整備士、二航空整備士、二等航空運航整備士の資格があり、航空専門学校などでも資格取得が可能です。しかし、これらの資格は必要とされる知識、技能のレベルが低い為、大手の航空会社では直接一等航空整備士の養成を行うことが普通です

航空工場整備士資格;
この資格は、機種別ではなく“限定された業務”に関わる耐空性の確認に必要となる資格です。限定された業務の種類は、航空法施行規則第55条に規定されており、
(ⅰ) 機体構造関係、(ⅱ) 機体装備品関係、(ⅲ) ピストン発動機関係、(ⅳ) タービン発動機関係、(ⅴ) プロペラ関係、(ⅵ) 計器関係、(ⅶ) 電子装備品関係、(ⅷ) 電気装備品関係、(ⅸ) 無線通信機器関係
と細かく分類されています。これは、一等航空整備士資格が、“航空機全体を広く、浅く知っている”ことが求められているのに対し、航空工場整備士は、“業務分野ごとに狭く、深く知っている”ことが求められていると理解することができます
受験資格;
航空法施行規則に、「18歳以上」で「技能証明を受けようとする業務の種類について2年以上の整備及び改造の経験」が必要と規定されています
* 要求される知識・技能;
㋑ 航空機整備に必要な基礎的な技能(板金工作、機械加工、等)、
㋺ 航空法規、航空技術に関わる基礎的な知識(航空局による筆記試験があります)、
㋩ 限定された業務の種類に関わる全般的な知識(航空局による口頭試問でもチェックされます)
また、指定航空従事者養成施設の制度については一等航空整備士の仕組みと同じです
* 資格取得に要する期間

概ね一等航空整備士と同程度です

(b) 確認主任者の養成
確認主任者の資格は、認定事業場(詳しくは“6_認定事業場制度”で説明します)において、航空機、及び重要な装備品の修理、改造を行った後、国土交通大臣に代わって耐空検査を行う為の資格です(詳しくお知りにおなりたい方は、引用が多く、且つ独特な文体で分かり難くなっている航空法の条文を、出来る限り分かり易く書き直した、航空法の耐空性確認に関わる条文をご覧ください)。

* 資格要件、配置必要数;
認定事業場という仕組みは、多くの整備士が関与する航空機や重要な装備品の整備・改造作業を、最終工程における耐空性の確認を含め、組織自らの責任で行ことと言い換える事が出来ます。従って、確認主任者としての資格要件として求められることを要約すると以下の様になります;
整備・改造作業に於いて組織として間違いのない作業を遂行できる社内体制について充分に理解していることが必要になります。具体的には、現場以外で整備作業、改修作業を行うためにサポートを行なって組織の機能 
施設の維持管理人員の教育・訓練技術管理材料・部品管理領収検査工程管理委託管理監査制度、など、
についてきちんとした教育(品質管理教育など)を受け,理解している必要があります。また、
自身の組織で行われる作業全般について十分な経験、知識を持っていることが必要となります。従って、作業リーダーとして十分な経験を積んでいることの他に、その確認主任者の認定区分に関わる航空従事者技能証明を受けた資格整備士が対象となります(重要な装備品に関わる確認主任者については、以下の様に一部例外もあります)。資格区分別の具体的な要件は以下の通りです;

航空機の整備後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認を行う型式(機種)の一等航空整備士(二等航空整備士、二等航空運航整備士、航空工場整備士も可能ですが、耐空検査ができる範囲が限定されてきます)、及びその型式(機種)に関わる3年以上の経験が必要になります。
尚、この確認主任者は、航空機の発着作業で耐空性の確認を行う必要があるため多くの便数を運航している航空会社ではその必要数がかなり多くなります

地上での整備・ログブック記入・パイロットへの引き渡し
地上での整備・ログブック記入・パイロットへの引き渡し

航空機の改修作業後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認を行う型式(機種)の一等航空整備士(二等航空整備士も可能ですが、耐空検査ができる範囲が限定されてきます)の資格、改造に関わる教育・訓練を終了していること、及び改造に関わる型式(機種)の航空機の改造について3年以上の経験が必要になります。
尚、この確認主任者は、主として機体重整備を行った後の耐空性確認を行うことになりますので、交替制勤務の組数、同時に重整備に入る機数、等に応じた確認主任者の配置があれば十分なので、配置必要数は上記の航空機の整備後の耐空性確認を行う確認主任者に比べれば少なくて済みます

構造整備・エンジン整備・装備品整備
構造整備・エンジン整備・装備品整備

重要な装備品の修理・改造作業後の耐空性確認を行う確認主任者;
確認主任者になるためには、原則として航空工場整備士資格の、その装備品が属する限定(限定については既述の通り航空法施行規則第55条に規定されています)を持っていること、及びその業務に関わる年以上の経験が必要になります。
ただ、航空工場整備士の資格を持っていない場合でも、大学、又は高専の工学に関わる所定の課程を修めて卒業していること、及び、認定業務について大卒者にあっては3年以上、高専卒者にあっては5年以上の経験があれば確認主任者になることが可能です
尚、この資格は、航空機から取り外した重要な装備品の作業が対象となりますので、修理・改造を行っている装備品の種類に応じた配置が必要となりますが、航空機関連の確認主任者に比べ配置必要数はそれほど多くはありません

<参考> 海外の制度との比較
海外の制度は、日本の制度と異なります。海外の航空会社から整備作業や改修作業を受託する場合、耐空性確認を行う場合には、教育・訓練を受けた上で海外の以下の資格を取得する必要があります;
米国機の場合
FAR/Federal Aviation Regulation のルールでは以下の資格があります;
Mechanic:整備又は改造(大修理又は大改造を除く)の実施及び監督(機体構造とエンジンの限定がある)
Mechanic with Inspection Authorization:大修理又は大改造実施後の確認行為
RepairmanRepair Station(日本における“認定事業場”に似た仕組み)又はAirlineにおける整備又は改造の実施及び確認

EU
JAR/Joint Aviation Regulation のルールでは以下の資格があります;
Category A Mechanic:軽微なライン整備作業及び単純な調整作業後の確認行為(型式の限定がない)
Category B1 Mechanic:以下に掲げる作業分野のライン整備における確認行為、及び重整備におけるサポート業務(型式の限定がある)/機体構造、エンジン、機械システム、電気システムの整備、Avionicsの単純な点検作業(不具合処理を除く)
Category B2 Mechanic:以下に掲げる作業分野のライン整備における確認行為、及び重整備におけるサポート業務(型式の限定がある)/Avionics及び電気システムの整備の整備、エンジン及び機械システムの中の電気、Avionicsに関する作業(但し単純な点検に限る)
Category C:重整備後の確認行為(型式の限定がある)

ICAO附属書における資格の表現>
Aircraft Maintenance Technician又はEngineer又はMechanic:整備又は改造後の航空機又は部品について確認行為を行う

-その他の資格を持つ整備士の養成-

航空級無線通信士;
運航整備作業を実施する過程で、航空機の無線機で管制官との交信を必要とする場合(航空機の地上の移動の許可を得るとき、エンジンの試運転をする時、など)があり、運航整備部門に配置された人員は基本的に資格取得を目指します(管制官との交信業務を切り分ければ、必ずしも全員の取得は必要ありません)

放射線取扱い主任者;
機体重整備作業を実施する過程で、放射性同位元素を使った非破壊検査を行う必要があり、事業所に1名以上「放射線取扱い主任者」の資格を有する者を配置しなくてはなりません。理工学系の学卒者の中から少数選任し資格を取得させます

航空会社、整備会社が整備作業を行う場合に必要となるその他の資格
* 非破壊検査資格:検査員/検査の種類別に資格があります
* 溶接技能者資格:溶接を行う整備士/溶接の種類別に資格があります
* 毒物劇物取扱責任者資格:メッキ作業を行う整備士

-技術以外の教育-

品質保証教育;
整備士のキャリアパスに合わせ、初級、中級、上級訓練コースを設定します

Human Factor 教育;
最近の
進歩した設計の航空機では、設計の欠陥による事故よりもHuman Error(人間の犯すミス)による事故が圧倒的に多いことが分かっており、整備士のキャリアパスに合わせて以下の様な訓練を行っています
MRM/Maintenance Resource Management(詳しくは“8_Humanwareに係る信頼性管理”をご覧ください) ⇔ パイロットが法的に義務付けられている“CRM/Crew Resource Management”に相当します

管理教育;
作業リーダー、管理職は、人を適切に管理するための知識が必要とされますので、労務管理健康管理経営管理、等に関わる教育が行われています

以上

各党の憲法改正草案をチェックする

-はじめに-

7月に行なわれた参議院議員選挙に於いて野党側(及び一部のマスメディア)は、あたかも憲法改正の是非を問う最後の戦いの様な熱狂ぶりでしたが、結果は与党の圧勝に終わりました。当たり前の事ですが、衆参両院で三分の二の絶対多数を得て憲法改正の発議はできても、国民投票で有効投票数の二分の一以上の賛成が得られなければ改正は出来ません。
仮に今回の選挙の結果、衆参両院での審議を経て憲法改正の手続きに入ったとしても、国民が憲法改正の内容を十分に理解し、憲法改正に相応しい高い投票率を実現して、国民主権の究極的な手段である有権者一人一人の投票による多数決で憲法改正の是非を問うことが悪い事とは決して思えません

考えてみれば、今の憲法は明治憲法を修正する形で帝国議会の承認を得て1946年11月3日に公布されており、国民投票による是非の判断を行っていません。色々な事情があったと思いますが連合国による占領下にあり、国民も生きるのに精一杯で憲法の是非を判断する状況になかったことは確かです。ただ戦争の惨禍を身に染みて体験している当時の国民にとって、この憲法の“理想の平和主義”に明るい未来を感じていたことは想像に難くありません。
その後70年を経て世界情勢も大きく変わり(当ブログの「憲法についての私の見解」参照)、日本の経済力の伸展に合わせ、国際的な立場も大きく変わりました。また、国民の方も世代交代が進み、現在日本の国を支えている大多数の人々は、未だに現憲法の是非を直接判断する機会に恵まれていません

憲法改正の発議すら阻止したいと考える人々(一部のマスメディアを含む)は何を恐れているのでしょうか?
改正を発議されれば国民投票で負ける可能性が高いと思っているのかもしれません。その考え方の中には国民を“愚民”と考える思い上がった思想が隠されているとすれば大きな問題です。野党側の一部応援団が掲げた過激なスローガンには、“愚民”を教導するには“嘘でも分かり易い方がいい”という考え方のものが散見されました。確かに、国民一人一人をみれば、憲法を読んだことも無い人、全く関心の無い人も多く居ることは事実だと思います。しかし民主主義はこれらの人々を含めて民意を問い、民意に従うのが大原則のはずです。

政治家は国会に於いて憲法改正案を真剣に議論し、マスメディアはその議論の内容を正確に分かり易く報道することが憲法改正の民意を問う為に絶対必要なことと思います。マスメディアによっては“社説”に代表されるようなメディア自身の意見を入れたがりますが、これらは所詮一部の論説委員の考え方に過ぎません。ましてや、テレビの報道番組のMCなどは自身の意見を述べるなど僭越なことは厳に慎むべきだと思います。憲法の様に大切な案件の民意を問う時は、出来るだけ多くに人々が自身の意見を持てるように国会議員、マスメディアは努力すべきと思います。

2007年に成立した「国民投票法」により、憲法改正を発議するにはその前に衆参両院の「憲法審査会」での審議が必要になります。既に幾つかの政党では「憲法改正草案」が出ていますので、これから始まるかもしれない憲法審議会での議論の前に、現憲法との比較により、各政党の憲法改正草案を考えてみようと思います

-比較する改正案と主たる争点について-

改正案を比較する政党は、衆参両院への選出議員数を考慮して、自民党民主党(民進党としては未だ改正案を作っていない。また改正条項を明示するのではなく、憲法全体の考え方や枠組みをまとめた“提言”という形をとっている)、共産党公明党おおさか維新の会としました。尚、共産党については最新の「日本共産党綱領」で憲法について言及している部分、公明党については、ネット上に公開されている憲法に関わる党としての考え方を比較の対象としました。

比較した結果、大きな争点として考えられることは以下の通りです(私見);
1.現憲法の“前文”について:① 変更するか否か、② 先の戦争に対する反省を入れるか否か、③ “平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、、”の取り扱い、など
2.天皇を“元首”として位置づけることの是非
3.憲法9条について:① 変更するか否か、② “戦争の放棄”を謳うか否か、③ 自衛隊(国防軍)の存在を明記するか否か、④ “国防軍”の審判所(軍事裁判)の設置
4.憲法に、国民に対する倫理的な義務を課すことの是非。例えば、① 国と郷土に誇りと気概を持つこと、② 国旗、国歌を敬うこと、③ 家族は互いに助け合うこと、④ 憲法を尊重すること
5.基本的人権に新しい権利(環境権個人情報知的財産権、犯罪被害者及びその家族の人権、など)を加えることの是非
6.地方自治制度の改革:道州制の導入、など
7.緊急事態について:① 導入すべきか否か、② 統制の有り方(内閣総理大臣の権限)、③ 基本的人権の制限、など
8.憲法裁判所の設置について
9.憲法改正発議の手続きについて

更に詳しい検討を行う方は、以下の各党の考え方をご覧ください

自民党憲法改正草案(2012年4月27日)-

前文
<改正草案>
「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴いただく国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。」

<現憲法>
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
国民主権を謳っている点は同じ
改正草案では、国民主権とは別に「国家元首」として天皇を位置付けているのに対し、現憲法では天皇の位置付けには言及していない
③ 改正草案では先の戦争に対しての評価は無いが、現憲法では“政府が主導した戦争”に対する反省が書かれており、他の国の憲法に照らしても大変ユニークな部分と考えられる。また、国民の間で先の戦争に対する歴史的な評価が分かれており重要な争点の一つになると考えられます
④ 改正草案では「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守」ということがはっきり書かれているのに対し、現憲法では「諸国民の公正と信義に信頼して、、、」との表現になっており、国際的な安全保障体制が機能していない現在、軍事的な強国、あるいはこれらの国が支援している他の国の侵略にどう対応するかが判断できないと考えられます
⑤ 改正草案では現憲法に無い「環境の保護」、「教育・文化の振興」という先進国としての役割が書かれている
⑥ 文章の格調は圧倒的に!現憲法の方が高い

第一章 天皇
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
* 第一条(天皇) :改正草案では天皇を「元首」として明確に位置付けている。象徴天皇である位置づけは変わらない
* 第三条(改正草案では“国旗及び国家”となっている): 改正草案では現憲法に無い「国旗」を“日章旗”、「国歌」を“君が代”と指定し、国民に尊重することを求めている
⇒ 改正草案・第24条、第102条のコメント参照
* 第四条( 改正草案では“元号”となっている):改正草案では、現憲法に無い皇位継承の時点での「元号」の制定を定めている
⇒ 既成事実になっている
* 第六条(天皇の国事行為等):改正草案では、天皇の行う国事行為に「国、地方自治体、その他公共団体主催の式典への出席、及びその他の公的な行為」を加えている
⇒ 既成事実になっている

第二章 安全保障(現憲法では“戦争の放棄”)
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
第二章のタイトルが現憲法では「戦争の放棄」となっており、大きな変更点と捉えることも可能であるものの、以下の第9条の変更を前提とすればやむを得ないものと考えらます
第9条は以下の様に大幅な変更となっています;
 実質的に変更の無い部分は、条件付きの“戦争の放棄”」を謳った部分です
イ) 改正草案:「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない」;
この規定は、「自衛権の発動を妨げるものではない
⇒ 今まで憲法解釈で許してきた「自衛権」を明確に記述しています

ロ) 現憲法:「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争と、武力による威嚇又は国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」;
この目的を達成する為、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない国の交戦権は、これを認めない
⇒  このままでは、自衛の為の軍隊を持つこと、自衛のための交戦も認められないという解釈が自然

現憲法には無く、自衛権を認めたことにより憲法草案に新たに追加された項目は
イ) 「わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」
ロ) 「国防軍は、前項の任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する
ハ) 「国防軍は、前項の任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、または国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」
⇒ 昨年制定された「新安保法制」、及び“国内の治安出動での国防軍の出動をイメージしていると思われ、議論を呼ぶ可能性が高いと考えられます

ニ) 上記に定めるもののほか、「国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める」
ホ) 「国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍の審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保証されなければならない」
⇒ 戦前、戦中の所謂“軍事裁判に関わる暗いイメージ”を彷彿とさせる部分であり、議論を呼び起こす可能性が高いと考えられます。ただ、国防軍による交戦を認める前提に立てば、戦争状態にある国及び軍人を危機に陥れる可能性のある“反逆の行為”に対する何らかの処罰は必要になると考えられます。裁判所への上訴の権利を保障しているのは、この規定が拡大解釈されて、「反戦論者」や「政治犯」が国防軍の審判所に於いて一方的に裁かれるリスクを回避する為と考えられます

ヘ) 「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」
⇒ 一見当たり前の様に見えるこの条項は、“諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した”としている現憲法に於いて曖昧であった、領土、領海及び領空の侵犯に対して、国及び国民に反撃する義務を与えている点で、領土紛争の存在している近隣諸国との緊張状態を加速する可能性がある事を十分に議論する必要があると考えられます

第三章 国民の権利及び義務
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
以下の部分以外は、若干の文言の追加、訂正であり、論点にはならないと思われます
* 第12条(国民の権利);
現憲法では、国民の自由及び権利認めると共に「これを乱用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」としているのに対し、憲法草案ではこの部分を「これを乱用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公に秩序に反してはならない」と変更してあります
⇒ 戦後、言論の自由を根拠として大衆を巻き込んだ政治運動が盛んになりましたが、これらの活動が治安維持の責任を持つ警察との暴力的な衝突に発展したことを受けて、1952年には破壊活動防止法が制定されましたが、戦前・戦中の治安維持法を想起させたこともあって当時国会内外で大変な議論が巻き起こりました。また60年代以降 安保闘争や反戦デモが過激化し、これを予防的にを封じ込めるために刑法に、「凶器準備集合罪」や「凶器準備結集罪」という罪名が追加されました。憲法草案はこうした法律に憲法上の根拠を与える意味を持っていると考えられます

* 第13条(人としての尊重等):この中でも、憲法草案では現憲法に無い「、、公益及び公の秩序に反しない限り、、」の文言を付加しています

第14条(法の下の平等):現憲法に無い「障害の有無による差別」を禁止する文言を付加しています。尚、第44条(議員及び選挙人の資格)の条文にも同じ文言が追加されています
第15条(公務員の選定及び罷免に関する権利等):現憲法では選挙権を「成年者による」としか書いてありませんが、憲法草案では「日本国籍を有する成年者による」と選挙権を限定しています。尚、改正草案の第94条で地方自治体の議員・首長の選挙権についても同様の国籍条項を付加しています
⇒ 約50万人の永住を認められている韓国・朝鮮籍の人達には選挙権を認めないことを憲法上明確にする意味があります

* 第19条(思想及び良心の自由):憲法草案では現憲法に無い「何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない」の文言を付加しています
第20条(信教の自由):現憲法でも国及びその機関が宗教活動を行うことを禁じていますが、憲法草案では「ただし、社会的儀礼又は習俗的範囲を越えないものについては、この限りでない」の文言を付加しています
⇒ 既に総理大臣の他、国務大臣、国会議員の一部が行っている“靖国神社”、“伊勢神宮”、“出雲大社”などの恒例行事への参拝を憲法違反でないことを明確にする意味があります

第21条(表現の自由):現憲法で「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を保証していますが、憲法草案では、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」の文言を付加しています
⇒ “公益及び公の秩序”という判断基準は極めて曖昧であり、これも戦前・戦中の治安維持法を想起させることから、十分に議論する必要があると考えられます。ただ、戦後の歴史に於いて“赤軍派による破壊活動”や“オウム真理教による大量殺人事件”を抑止できなかったこと、及び今後心配される“テロ活動”をどの様に抑止するかを考えると、必要ないと断ずることは難しいと考えられます

また、この21条には「国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う」の文言を付加しています
⇒ 一見当たり前の様に見えますが、勘ぐればこの文言を付加することによって、マスメディアを通じて、国政上の諸問題について(マスメディアによる取捨選択や歪曲無しに)国民に直接伝える手段を持ちたいという意図があるかもしれません。例えば、有名な“フランクリン・ルーズベルト大統領の炉辺談話”などと同じような政治的効果を狙っているのかもしれません

* 第24条(家族、婚姻等に関する基本原則):憲法草案では冒頭に「家族は、社会の自然且つ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わねばならない」という文言を付加しています
⇒ この様ないわば倫理的な問題を憲法に持ち込むことは、議論を呼ぶこと可能性があります。また、現憲法にも改正草案にも「婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、、」となっており、この部分の変更はありませんが、近年先進国ではマイノリティーである“LGBT”の権利も認める方向にあり、同性間の婚姻の問題も議論になる可能性があると考えられます

* 第25条(生存権等):改正草案には以下の条文が付加されています;
「国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することが出来る様にその保全に努めなければならない」
「国は、国外に於いて緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない」
⇒ 新安保法制でも議論された在外邦人の保護に憲法上の根拠を与える条文になります。現在在外邦人の数は130万人以上であり、戦争状態、あるいは治安のコントロールを失った国に滞在している邦人に対して救援の手を差し伸べることは人道的な観点からも必要と考えられます

「国は、犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮しなければならない」

* 第28条(勤労者の団結権等):改正草案には以下の条文が付加されています;
「公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、“団結権、団体交渉権”の権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない」
⇒ 戦後労働争議が盛んだった頃、公務員の労働基本権の制限については度々裁判で争われており、この条文に近い判例が出ています
* 第29条(財産権):改正草案には「知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない」という文言が付加されています
⇒ 現憲法が成立する頃と違い、現在では当然のことと考えられます

第四章 国会 
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
以下の部分以外は、若干の文言の追加、訂正であり、論点にはならないと思われます
* 第47条(選挙に関する事項):改正草案には「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」という文言が付加されています
⇒ 人口の大都市集中が加速化する中で、各選挙区の人口当たりの議員定数の不平等について憲法違反である旨の最高裁判決が何度も出ており、この規定は必要と考えられます
* 第54条(衆議院の解散と衆議院議員の総選挙、特別国会及び参議院の緊急集会):冒頭に「衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する」という文言が付加されています
* 第56条(表決及び定足数):「両議院の議決は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければすることができない」という文言が付加されています
* 第63条(内閣総理大臣等の議院出席の権利及び義務):出席義務に、「職務上の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない」という但し書きが付加されている
⇒ 重要な外交日程と国会での審議日程が重なる場合、その重要度に応じてどちらを優先するか決められるようにする根拠を提供することになります
* 第64条の二(政党):憲法草案では第54条に、第二項として以下を加えました;
「国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない」
「政党の政治活動の自由は、保障する」
①、②に定めるもののほか、「政党に関する事項は、法律で定める」

第五章 内閣 
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
以下の部分以外は、若干の文言の追加、訂正であり、論点にはならないと思われます
* 第66条(内閣の構成及び国会に対する責任):現憲法で内閣総理大臣及びすべての国務大臣は「文民」でなければならないとしていますが、改正草案では「現役の軍人であってはならない」と文言を変更している
⇒ 敗戦前の日本では、陸軍大臣、海軍大臣は現役軍人が勤めており、これが軍主導の政治運営を導いたという考え方もあり、現憲法の「文民」の解釈については紆余曲折がありましたが、現在では現役の自衛官でなければよいという事になっています

* 第70条(内閣総理大臣が欠けた時の内閣の総辞職等):現憲法にはない「内閣総理大臣が欠けたとき、その他これに準ずる場合として法律で定めるときは、内閣総理大臣があらかじめ指定した国務大臣が、臨時に、その職務を行う」という文言が付加されています
⇒ 第72条に国防軍の最高指揮官と決められており、有事にあってはこの職務を瞬時に代行することが必要となるため、当然の条文と考えられます
* 第72条(内閣総理大臣の職務):改正草案に新たに「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する」という文言が付加されています
⇒ いずれの国も国防軍を統括するのは国の最高権力を握っている人となっているので、当然の条文と考えられます

第六章 司法 
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
若干の文言の追加、訂正であり、論点にはならないと思われます

第七章 財政 
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
以下の部分以外は、若干の文言の追加、訂正であり、論点にはならないと思われます
* 第83条(財政の基本原則):改正草案には「財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない」という文言が付加されています。尚、この文言については地方自治体財政の基本原則にも加えられています ⇒ 法律で具体的な基準が決められない限り、この条文は精神条項になってしまうのではないかと考えられます
* 第86条(予算):改正草案には以下の条文が付加されていますが、これらは 現在既に運用として行われています;
内閣は、毎会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる
予算案の議決が得られないときは、暫定期間に係る予算案を提出しなければならない
毎会計年度の予算は、法律の定めるところにより、国会の議決を経て、翌年度以降においても支出することができる
* 第91条(決算の承認等):現憲法で、国の収支決算については、会計検査院が検査を行った後に国会に提出することを義務付けているものの、検査結果の取り扱いについてはなにも決められていません。改正草案では、「検査結果の内容を予算案に反映させ、国会に対し、その結果について報告しなければならない」という条項を付加しています
⇒ ビジネスの基本である“PDCA”(Plan→Do→Check→Action)の考え方に立てば、会計検査院の厳しい検査が財政健全化に役立つ可能性も考えられます

第八章 地方自治 
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
* 現憲法の第92条~第95条:改正草案では、新たに以下の条項が付加されています;
① 地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自律的かつ総合的に実施することを旨として行う
② 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う
③ 地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括する広域地方自治体とすることを基本とし、その種類は法律で定める
道州制を全国に導入することを視野に入れていることが窺えます
④ 国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない
⑤ 地方自治体の経費は、条例の定めるところにより課する地方税その他の自主的な財源をもって充てることを基本とする
⑥ 国は、地方自治体の自主的な財源だけでは地方自治体の行うべき役務の提供ができないときは、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じなければならない

第九章 緊急事態 
<改正草案の論点>
* 現憲法にはこの章は存在しません。以下は、憲法草案で新たに加えられた条文となります
* 第98条(緊急事態の宣言)
内閣総理大臣は、わが国に対する外部からの武力攻撃内乱等による社会的秩序の混乱地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる
緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない
内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない
②、③の国会の承認に際して、両院で異なった議決をした場合、法律の定めるところにより、両院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の議決した案を受けた後、国会休会中の期間を除いて5日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする(第60条二項の規定の準用)
* 第99条(緊急事態の宣言の効果)
① 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分をを行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる
② 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない
③ 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に関わる事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても第14条(法の下の平等)、第18条(身体の拘束及び苦役からの自由)、第19条(思想及び良心の自由)、第21条(信教の自由)、その他の基本的人権に関する規定は、最大限尊重されなければならない
④ 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員任期及びその選挙期日の特例を設けることができる
⇒ 緊急事態が発生した時に、国の最高権力者が既存の法律をオーバーライドする命令を発することができる仕組みは、他の国においても“非常事態宣言”、“戒厳令”などの形で取り入れられており、この様な条文を憲法に組み込むことは不自然なことではないと考えられます。ただ、わが国においては戦時下に於ける人権侵害、厳しい統制経済などの暗い歴史があったことから、法律をオーバーライドする命令を発する事態はどのようなことが考慮されるべきか十分に議論を尽くす必要があると考えられます;
* 外部からの武力攻撃:現在考えられるケースは、「中国が一方的に尖閣列島に上陸を試みた場合」、「北朝鮮がミサイル攻撃を仕掛けてきた場合」、「中国が台湾海峡を渡って大規模に侵攻してきた場合」、等ですが、漁船、その他の船舶に対する航行禁止などの強制命令、ミサイル着弾の可能性がある地域住民に対する避難命令、空域・航路の大規模な規制、などは相当の強制力をもって実行する必要があると考えられます
内乱等による社会的秩序の混乱:日本では未だ発生していませんが、大規模なテロ攻撃があった場合、捜査やテロ集団の排除などで一般市民に対して既存の法律の枠を超えた規制を行う可能性が考えられます
地震等による大規模な自然災害:多くの人命が失なわれた“阪神・淡路大震災”、“東日本大震災”の経験を踏まえると、救助活動、消火活動、補給体制、交通網の整備、など既存の謂わば“縄張り”を越えた総合的な取り組みが必要だった考えられます。例えばいつ起きてもおかしくないと言われている東南海大地震に対し、内閣総理大臣を指揮官とする自衛隊の命令系統の積極的な活用など、検討する必要があるのではないでしょうか
その他の法律で定める緊急事態:東日本大震災により発生した“福島原子力事故”の失敗の教訓(内閣総理大臣の役割、事業者の役割、専門家の定義と役割、など)を生かす必要があると思われます

第十章 改正 
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
第百条(現憲法では第96条となっています);
現憲法:各議員の総議員の三分の二以上の賛成で、国会がこれを発議し、国民投票又は国会の定める選挙の際に行われる投票において、過半数の賛成を必要とする
改正草案:衆議院又は参議院の議院の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、法律の定めるところにより行われる国民投票において有効投票数の過半数の賛成を必要とする

第十一章 最高法規(現憲法では“第十章”となっています)
<改正草案と現憲法の比較、及び論点>
以下の部分以外は、若干の文言の追加、訂正であり、論点にはならないと思われます
現憲法の第97条:「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」は憲法草案では削除されています
⇒ 過去に於いて基本的人権が踏みにじられた歴史がある事は事実であるものの、残すととすれば前文の方が相応しいかもしれません

現憲法の99条:「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」に替わって、
改正草案・第102条:「全ての国民は、この憲法を尊重しなければならない」、「国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」
⇒ 13世紀イギリス国王の権利を制限した“マグナカルタ”が憲法の役割の基本とすれば、国民に尊重義務を課すことの是非について議論になることが考えられます

付則(現憲法では“第十一章 補足”となっています) 
論点にはならないと思われます

民主党憲法提言(2005年10月31日)-

民主党が発行した憲法に関する最新の文書は、2013年6月に発効された参議院選挙向けのマニフェストですが、たった半ぺージ程度のものなので、ここでは2005年に出された表記提言を基に検討したいと思います。尚、維新の会との合併を経て生まれた民進党の憲法に関わる文書は現在発行されていません

民主党憲法提言では、自民党憲法草案の様な条文ごとの具体的な条文ごとの改正案は作られていないので、提言の中の重要部分を適宜抽出して分類、記述してみたいと思います。尚、抽象的な表現(例えば“未来志向の憲法”など)は省くこととします

新しい憲法の構成
* 憲法とは、主権者である国民が、国家機構等に公権力を委ねるとともに、その限界を設け、これをミスからの監視下に置き、コントロールするための基本ルール
* 憲法は、世界に対して国のあり方を示す一種の「宣言」としての意味合いを持ち、① 日本国民の「精神」あるいは「意思」を謳った部分と、② 人間の自立を支え、社会の安定を確保する国の活動を律する「枠組み」あるいは「ルール」を謳った部分とで構成される

新しい憲法が目指す五つの基本目標
自立と共生を基礎とする国民が、自ら参画し責任を負う新たな国民主権社会を構築する
② 世界人権宣言及び国際人権規約をはじめとする普遍的な人権保障を確立し、併せて環境権知る権利生命倫理などの「新しい権利」を確立すること
③ 日本から世界対するメッセージとしての「環境国家」への道を示すとともに、国際社会と協働する「平和創造国家」日本を再構築すること
活気に満ち主体性を持った国の統治機構の確立と、民の自立力と協働の力に基礎を置いた「分権国家」を創出すること
⑤ 日本の伝統と文化の尊重とその可能性を追求し、併せて個人、家族、コミュニティー、地方自治体、国家、国際社会の適切な関係の樹立、すなわち重層的な共同体的価値意識の形成を促進すること
これらは憲法前文に入れるイメージかもしれません。全体として定義がはっきりしない言葉が羅列されている印象を受けますが、特にアンダーラインを引いた部分が具体的にどういうことを言わんとしているか分かりません。憲法の条文には誰でも誤解なく理解できる文章とするのが適切なのではないでしょうか

憲法の「空洞化」を阻止し、「法の支配」を取り戻す
憲法解釈が時の政権によって平然として変更され、「憲法の空洞化」が叫ばれるようになっている。この傾向に歯止めをかけて、憲法を鍛えなおし「法の支配」を取り戻す
⇒ 憲法解釈が変更されたところは、具体的には第9条の自衛権に関わる部分と思われますが、これは空洞化ではなく憲法違反、又は憲法の拡大解釈と表現すべきであって、空洞化とは言わないのではないでしょうか、また憲法を鍛えなおすとどうして法の支配が取り戻せるのか理解に苦しむところです

内閣総理大臣主導の政府運営の実現
① 憲法第5章(内閣)における主体を「内閣総理大臣」とするとともに、第65条における「行政権」を「執政権」に切り替え、首長としての内閣総理大臣の地位と行政を指揮監督する首相(内閣総理大臣)の権限を明確にする
⇒ 解釈が難しい文章ですが、言葉の意味としては、「執政権」とは「国家目標を定め、目標を達成するための計画を策定し、計画の実現のためのに政策を決定し、政策を実施するための行政各部へ指揮監督を行うこと」であり、「行政権」とは「法律を具体的に執行したり、政策を実施すること」となるようです。現憲法では両方を区別することなく第5章(内閣)第65条~第75条に両方の権限が網羅されています
②政治主導・内閣主導の政治を実現するため、内閣法や国家行政組織など憲法付属法の見直しを行い、政治任用を柔軟なものにし、首相の行政組織権を明確なものにする
⇒ 憲法を変えなくてもできるのではないか、憲法を変え必要があるあれば何処を変えればよいのか不明確です
③ 現行の政官癒着構造を断ち切り、個々の議員と官僚の接触を禁止するなどの「政官関係のありかた」についてさらに検討し、その規定を明確にする
⇒ ②と同様

議会の機能強化と政府・行政監視機能の充実
① 行政府の活動に関する評価機能をも併せ持った「行政監視院」を設置するなど、専門的な行政監視機構を整備する。政府から独立した第三者機関とするのか、議会の下に設置するかについては、更に検討を要する
② 憲法上の規定があいまいなまま行政府が所管しているいわゆる独立行政委員会(人事院、公正取引委員会、国家公安委員会、公害等調整委員会、司法試験管理委員会など)については、その準司法的機関としての性格を踏まえ、内閣とは別の位置づけを明確にする。その上で、それらに対する議会による同意と監視の機能を整備する。
③ 国政調査権を少数でも行使可能なものにし、議会によるチェック機能を強化する
⇒ 現憲法第62条に両議院に権限があることが謳われており、憲法の改正を行わなくても国会法の改正で対応可能と考えられる
④ 二院制を維持しつつ、その役割を明確にし、議会の活性化につなげる。例えば、予算は衆議院、行政監視は参議院といった役割分担を明確にするとともに、各院の選挙制度についても再検討する
⇒ 憲法第四章(国会)の大規模な改正が必要になります
⑤ 政党については、議会制民主主義を支える重要な役割に鑑み、憲法上に位置付けることを踏まえながら、必要な法整備を図る
⇒ 自民党改正草案に具体的な改正案が入っています
⑥ 選挙制度については、政治家や政党の利害関係に左右されないよう、その基本的枠組みについて憲法上に規定を設ける
⇒ 自民党改正草案に具体的な改正案が入っています

違憲審査機能の強化及び憲法秩序維持機能の拡充
① 新たに憲法裁判所を設置するなど違憲審査機能の拡充を図る
② 行政訴訟法制の大胆な見直しを進めると同時に、憲法に幅広い国民の訴訟権を明示する
国家緊急権を憲法上に明示し、非常事態においても、国民主権や基本的人権の尊重などが犯されることなく、その憲法秩序が確保されるよう、その仕組みを明確にしておく
⇒ 自民党改正草案に具体的な改正案が入っています

公会計、財政に関する諸規定の整備・導入
① 責任の所在があいまいな現行の国の財政処理の権限については、国会の議決の基づいて、内閣総理大臣が行使することを明確にする
⇒ 現在の予算、決算に関わる憲法の規定で何が不足しているのか不明確です
② 内閣総理大臣に、国の財政状況、現在及び将来の国民に与える影響の予測について、国会への報告を義務付ける。また、予算については、複数年度にわたる財政計画を国会に報告し、承認を得る
③ 会計検査院(または新たに設置された行政監視院等)の報告を受けた国会は内閣に対して勧告を行い、内閣はこの勧告に応じて必要な措置を講ずることを明記する
⇒ 自民党改正草案に、前年度決算に関わる会計検査院の検査結果を、次年度の予算に反映させることを義務付ける条文があります

国民投票制度の検討
* 議会政治を補完するものとして、国民の意見を直接問う国民投票制度の拡充を検討する

人間の尊厳を尊重する
① 自分の生命に関わる権利の尊重:人体とその一部の利用は無償に限ること;プライバシー保護、生殖医療・遺伝子技術濫用の禁止自己の生命に関わる自己決定権の検討、など
② あらゆる暴力からの保護:ドメスティックバイオレンス、ハラスメント、人身売買
③ 犯罪被害者の人権保護 ⇒ 自民党改正草案にあります
④ 子どもの権利と発達の保障
⑤ 外国人の人権の保障 ⇒ 自民党改正草案にあります
⑥ 信教の自由、政教分離の原則の厳格な維持 ⇒ 現憲法にあります
⑦ あらゆる差別をなくす規定の検討
⑧ 人権保障のための独立性の高い第三者機関の設置

共同の責務を果たす社会に向かう(国民の義務という概念に変えて「共同の責務」という考え方の導入)
① 地球環境保全・環境優先
② 自然環境の維持向上
③ 未来への責任を果たす
④ 公共のための財産権の制約(土地資源/自然景観、自然エネルギーを正当な補償の下に制約する)
⑤ 曖昧な公共の福祉を再定義する(←公共の福祉の名目で一律に人権を制約すべきでないこと)

情報社会と価値意識の変化に対応する「新しい人権」を確立する
① 情報アクセス権の確立(←国民の知る権利)
② 情報社会に対応するプライバシー権の確立 ⇒ 自民党改正草案にあります
③ 情報リテラシーの確保(←生涯学習)
④ 勤労の権利を再定義し、国や社会の責務を明確にする(←自由な労働市場の確保、職業訓練機会の保障、無償労働参加への保障、など)
⑤ 知的財産権の明確化 ⇒ 自民党改正草案にあります

国際人権保障の確立
① 「国際人権規範」(←国連人権委員会)の尊重を明確に謳う
② 「国際人権規範」に対応する国内措置を義務付ける

多様性に満ちた分権社会の実現
① 「補完性の原理」(公的部門負うべき責務は、もっとも市民に身近な公共団体が執行する/コミュニティー基礎自治体→広域自治体→国)を実現する
中央政府は外交・安全保障、全国的な治安維持、社会保障制度を担当その他は基礎自治体、広域自治体に権限を配分する。自治権侵害の司法的救済は「憲法裁判所」が「補完性の原理」を裁判規範として審査する
③ 自治体の立法権限を強化する
④ 住民自治に根差す多様な自治体のあり方を認める:現在の“二元代表制”(首長と議員が両方とも直接選挙で選出される仕組み)だけでなく、“議院内閣制”、“執行委員会制”、“支配人制”などの多様な組織形態を認めること、及び住民投票制度の積極的活用、など
⑤ 財政自治権・課税自主権・新たな財政調整制度を確立する(現在の地方交付税制度に代えて)

より確かな安全保障の枠組みを形成するために
1.基本的考え
① 平和主義を憲法の根本規範とし、平和を享受する日本から「平和創造国家」へ転換する
② 内閣法制局による憲法解釈に頼ることなく、「制約された自衛権」、「国際貢献のための枠組み」を明確化する。また国際社会が求めている「人間の安全保障」についても積極的な役割を明確化する

2.安全保障にかかわる四原則
① 戦後培ってきた「平和主義」に徹する。国際平和を脅かすものに対しては国連主導の国際活動と協調する
② 国連憲章上の「制約された自衛権」について明確にする。自衛権の行使を、国連憲章51条に記された「国連の集団安全保障活動が作動するまでの、緊急避難的な活動」に限定する
⇒ 戦後、国連による集団安全保障活動が殆ど実行できなかった(←常任理事国の拒否権発動)歴史をどう考えるのか明らかにする必要があります
③ 参加すべき国連の集団安全保障を明確にする:国連多国籍軍の活動、国連平和維持活動への参加を可能にする
シビリアンコントロールの考えを明確にする:指揮権、及び緊急時の指揮権発動手続き、国会による承認手続き、などを明確化する
⇒ 自民党改正草案にあります

3.安全保障に関わる二条件
① 武力行使につぃては最大限抑制的であること:国連安全保障活動や武力行使に関わるガイドラインを定める
② 憲法付属法として「安全保障基本法(仮称)」を定める:上記のガイドラインの他、「人間の安全保障」、シビリアンコントロール、国連待機部隊の組織整備、緊急事態に関わる行動原理、などの規定を整備する

日本共産党綱領(2004年1月17日)-

日本共産党には、1946年に出された社会主義革命を前提とした過激な憲法改正草案がありますが、その後、暴力革命の否定など数度にわたる綱領の大幅な変更があり、この改正草案は意味をなさなくなっています。しかし、2004年に漸進的な革命を前提とした現在の綱領が作成され、現在はこの綱領に基づいて政党活動を行っていますので、現在の憲法論議のベースになっている考え方を、この綱領から抜粋してみたいと思います

目指す政治形態について
日本社会が必要としている変革は、社会主義革命ではなく、対米従属、大企業・財界の横暴な支配を打破し真の独立の確保と政治・経済の民主主義的な改革の実現を内容とする「民主主義革命」である。民主主義革命への道は;
① さしあたって、一致できる目標の範囲で統一戦線を形成し、統一戦線の政府を作るために力を尽くす
② 統一戦線の勢力が、国民多数の支持を得て、過半数を占めた時に民主連合政府を作る
③ 最終的には社会主義的変革が課題となる。この変革の中心は、主要な生産手段の社会化(統制経済は否定される)であるが、生活手段については、私有財産が保障される。

安全保障、外交について
日米安保条約を廃棄し、非同盟国の道を歩む
② 自衛隊は海外派兵を止めることなどにより縮減させる。最終的には憲法9条の完全実施により自衛隊は解消する

憲法について
現行憲法の前文を含む全項目を守る
② 国会を最高機関とする議会制民主主義体制を堅持する
③ 18歳選挙権の実現。現在の選挙制度、行政機構、司法制度は改革を行う
④ 住民が主人公の地方自治を確立する
⑤ 基本的人権の抑圧の企ての排除、労働基本権の全面的擁護、思想・信条の違いによる差別の排除を行う
⑥ 男女の平等、女性の社会的進出、法的な地位を高めることを実現する
⑦ 憲法の平和と民主主義の理念を生かした教育制度・行政の改革を行う
⑧ 科学、技術、文化、芸術、スポーツの発展を図る
⑨ 信教の自由、政教分離を徹底する
⑩ 汚職・腐敗・利権の政治を根絶するために企業・団体献金を禁止する
⑪ 天皇の世襲制、国民統合の象徴という部分は、民主主義、人間の平等の原則から受け入れられない。天皇制の存廃は、将来、情勢が熟した時に、国民の総意によって解決すべきである

公明党の憲法改正に関わるスタンス(2016年)-

公明党については、現在は独自の憲法改正案を持っていません。自民党との連立政権の合意事項の中で、国会の「憲法審査会」でしっかり議論をすることとしていますので、ネット上に公開されている幾つかの原則を列記することとします

1.現憲法の枠組みは維持し、時代の進展に伴って提起されている以下の理念を追加する;
環境権
プライバシー権
地方自治の拡充

2.憲法9条について;
戦争放棄を定めた第1項、戦力の不保持を定めた第2項は維持すると同時に、自衛のための最小限度の実力組織としての自衛隊の存在を明記する。国際貢献のあり方についても改正議論の中で検討していく

3.憲法改正手続きを定めた憲法第96条については、この条文単独での改正を目指すのではなく、他の改正案を含めた全体で議論することが望ましい

おおさか維新の会憲法改正原案(2016年3月24日)-

大阪維新の会は、現憲法の条文に沿って改正原案(追加、修正)を作っているので、以下に列記します(→以下の条文以外は現憲法を変えない)

* 憲法第26条(教育を受ける権利、教育の義務及び学校教育の無償)
① 現憲法の「すべての国民は、法律の定めるところにより、その“能力”に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」という条文を、改正原案では、「、、、、その“適性”に応じて、、、、有し、“経済的理由によって教育を受ける機会を奪われない”」と修正しています
② 改正原案では、「法律に定める学校における教育は、すべて公の性質を有するものであり、幼児期の教育から高等教育に至るまで、法律の定めるところにより、無償とする」という条項を追加しています

第五章の二 憲法裁判所(新設)
憲法裁判所は、一切の法律、命令、条例、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する第一審にして終審の裁判所である
内閣総理大臣またはいずれかの議員の総議員の四分の一以上の議員で、憲法に適合するか否かの訴えを提起することができる
通常の裁判所は、取り扱っている事件について、当事者からの申し立て、又は職権により憲法裁判所に判断を求めることができる
憲法により権限を定められている機関は、その権限の存否又はその行使に関する紛争について憲法裁判所に訴えを提起することができる
⑤ 憲法裁判所の判決で憲法に適合しないとされた法律、命令、条例、規則又は処分は、判決により定められた日に、効力を失う
⑥ 憲法裁判所の判決は、すべての公権力を拘束する
⑦ 憲法裁判所の12人の裁判官は、衆議院参議院最高裁判所それぞれ4人を任命する
⑧ 憲法裁判所の裁判官は、識見が高く、法律の素養のある者の中から任命されなければならない
憲法裁判所の長は、12人の裁判官の互選した者について、天皇が任命する
⑩ 憲法裁判所の裁判官の任期は6年とし、再任されることはできない
⑪ 憲法裁判所の裁判官は、良心に従い独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される
⑫ 憲法裁判所の裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることが出来ないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。憲法裁判所の裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことは出来ない
⑬ 憲法裁判所の裁判は、公開法廷で行なう
⑭ 憲法裁判所は、訴訟に関する手続き並びに内部規律及び事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する

第八章 地域主権(現憲法の“第八章 地方自治”に相当する)
① 自治体は、基礎自治体及びこれを包括する広域自治体としての道州とする
② 自治体の組織及び運営については、団体自らの意思と責任の下でなされる(団体自治の原則)
③ 国、道州及び基礎自治体の役割分担は、“補完性の原則(民主党提言参照)”に基づく。国は国家としての存立関わる事務その他の国が本来果たすべき役割を担うものとする
④ 自治体の組織及び運営は、自治体の条例で定める
⑤ 道州内における基礎自治体の種類、区域その他の基本事項は、道州条例で定める
⑥ 自治体には、条例その他重要事項を議決する立法機関として、議会を設置する
⑦ 自治体には、その自治体を代表する執行機関として、道州にあっては知事、基礎自治体にあってはを設置する
⑧ 議会の議員、知事又は長及び自治体の条例で定めるその他の公務員は、その自治体の住民であって日本国籍を有する者が、直接これを選挙する
⑨ 自治体は、その財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能を有し、この憲法に特別の定めがある場合を除き、法律の範囲内で条例を制定することができる
⑩ ③の規定による国が担う役割に関わる事項以外の、法律で定める“道州所管事項”については、法律に優位した条例(優先条例)を制定することができる
⑪ 自治体は、その自治体の地方税の賦課徴収に関する権限を有する
⑫ 自治体が地方税その他の自主的な財源ではその経費を賄えず、財政力に著しい不均衡が生ずる場合には、道州にあっては道州相互間で、自治体にあってはその基礎自治体を包括する道州内で、財政調整を行う
⑬ 国、道州及び基礎自治体の相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟その他法律で定める事項は、憲法裁判所で処理するものとする

以上