パイロットの養成


はじめに

航空機以外の船舶、鉄道、自動車などの公共交通機関では、危険な状態に陥った時、船長や運転手は停止することに全力を傾ければいいという意味で、そのミッションは比較的シンプルです。一方、航空機の場合は、飛行中に危険が迫ってきても着陸するまでは飛行を停止させるわけにはいきません。正常な飛行ができない状態の航空機を、安全に着陸させなければならないという極めて難しいミッションが課せられていることから、パイロットの技量を維持・向上させ、適正な労働環境を整えることがエアラインビジネスの最重要の経営課題であることはお判りいただけると思います
以下に、これらの具体的な内容についてできるだけ分かり易い説明をしていきたいと思います

パイロットに起因する深刻な事故

100年以上にわたる航空機の歴史の中で、パイロットの技能や労働環境に起因する数多くの事故を経験し、パイロットのミスを防ぐための操縦室の設計やパイロットの訓練に係る規制が強化(詳しくは8_Humanwareに係る信頼性管理を参照してください)されてきましたが、未だにパイロットに起因する深刻な事故をゼロにすることが出来ていません。因みに、21世紀に入ってからも、パイロットに起因する深刻な事故が起きていますので、以下にご紹介いたします;

1.2001年11月12日、 アメリカン航空のエアバス社製の A300B-600は、ニューヨーク州・ケネディー空港離陸直後、近郊の住宅地に墜落・炎上し、乗員・乗客260人全員が死亡、更に地上で巻き添えとなった5人も死亡しました

2001年AA・A300事故
2001年AA・A300事故

事故原因:離陸直後、前方を飛行するボーイング747の後方乱気流に遭遇した。この時操縦していた副操縦士が不必要且つ過度な方向舵操作を行ったため、方向舵に設計荷重を超える空気力がかかり、尾翼が分離脱落し操縦不能となって墜落

2.2006年年8月27日、米国のコムエアー( COMAIR/デルタ航空のローカル線を運航)のボンバルディア社製の CRJ-100は、ケンタッキー州・ブルーグラス空港から離陸滑走を開始したものの、離陸する前に滑走路の終端に至り大破しました。乗員・乗客50人中、49人が死亡しました

コムエアー・CRJ100の事故
コムエアー・CRJ100の事故

事故原因機長と副操縦士が、離陸操作と関係のない会話を交わしていた為、進入する滑走路を間違えて短い滑走路に進入し離陸できずに滑走路の先に突っ込んでしまった

3.2009年6月1日、エールフランスのエアバス社製 A330ー200は、リオデジャネイロ空港離陸後、4時間後に最後の交信を行ったあと消息を絶ちました。翌日大西洋上で残骸の浮遊物を発見し墜落が確認されました。乗員・乗客228人は全員死亡したもの思われます。その後、事故調査の為に墜落したと思われる場所周辺の広大な海域の海底探索を行っていましたが、2011年になって4000メートルの海底にあったフライトレコーダー、コックピット・ボイスレコーダーが回収されました

AF・A330墜落事故
AF・A330型機の墜落事故

事故原因:回収されたフライトレコーダーの解析から、事故は以下の様なシーケンスで起こったことが分かりました;
① 悪天候で飛行中に3本のピトー管(飛行中の航空機の高度、速度を検出する重要な装備品であらゆる航空機に装備されています。高空で高度、速度の情報が得られなくなると操縦が非常に難しくなります)が凍結し機能を果たさなくなった為、自動操縦が自動的にオフとなった

777型機のピトー管_装着位置と原理
777型機のピトー管_装着位置と原理

② 休憩中だった機長に替わって操縦していた副操縦士は手動で操縦を始めると同時に失速警報が鳴り始めた
失速の際は本来“機首下げ”の操作を行うべきところ、この副操縦士は、“機首上げ”の操作を行いつつエンジンの推力を上げた
機長が戻って来て「機首を上げるな」と指示したものの間に合わず完全に失速して海面に激突した

4.2013年7月6日、アシアナ航空のボーイング社製777-300型は、サンフランシスコ国際空港での着陸に失敗。乗客3名死亡 ⇒ 動画:アシアナ航空214便着陸失敗事故

事故原因:この日は天候が良く、風もほとんどありませんでした。ただ、操縦桿を握っていた副操縦士はボーイング777型機の飛行時間はまだ43時間で慣熟訓練中であり、訓練教官役となっていた機長も事故の20日前に教官としての資格を取得したばかりであり、本便が資格取得後初の訓練教官役としての搭乗でした

5.2015年2月4日、復興航空(トランスアジア航空)のATR社製ATR72-600型機は、松山空港離陸直後にエンジントラブルを起こして墜落。乗員・乗客58名中43名死亡 ⇒ 動画:中華民国・復興航空ATR72-600型機墜落

事故原因:離陸直後、第2エンジンがフレームアウト(エンジンの燃焼が停止した状態)していることを示す画面が表示されると共に、主警報装置が鳴り響いた。ところが、パイロットは第1エンジンのスロットルをアイドリング位置まで引き、更にエンジンを停止させてしまった。その後、第1エンジンを再起動したものの操縦を正常に戻せず、左翼端が高速道路の側壁に激突し墜落した

6.2015年3月24日、ジャーマンウィングス(ルフトハンザ航空のLCC子会社)/A320型、フランス南東部の山岳地帯に墜落。乗員・乗客150人全員死亡

ジャーマンウィングスA320型機墜落
ジャーマンウィングスA320型機墜落

事故原因副操縦士の自殺。事故直前、急降下前に機長が操縦室外に出て、戻ったところ、暗証番号(9.11のテロ事件以降、操縦室のドアは常時施錠され客室側から開けられない様になっている)ではドアが開かず、何度ドアを叩いてもインターフォンで呼びかけても操縦席から反応がなく、しまいにはドアを斧で破壊しようとしていた思われる痕跡があった。回収されたコックピット・ボイスレコーダーの音声記録にはドア施錠後から墜落に至るまで会話や発声が一切なかったという

<パイロットの高度な技量により着水して乗員・乗客を全員救助できた事例>
2009年1月15日、ニューヨーク・ラガーディア空港を離陸したエアバス社のA320型機は、離陸直後に大型のカナダガンの群れの遭遇し、二つのエンジンが同時にフレームアウトしてしまった。機長は冷静な判断でハドソン川に着水することを決断し、航空機は全損となったものの乗員・乗客全員(155人)が救助されました
クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演で制作された映画、「ハドソン川の奇跡」は、この事実を基につくられました。尚、こうした鳥衝突に係る種々の問題について詳しいことを知りたい方は「航空機の鳥衝突による安全性について」をご覧になってみて下さい

パイロットの養成について

多くのお客様を乗せて航空機を安全に飛行させることが出来る優秀なパイロットを養成するためには、何等かの法的な規制が必要となることは言うまでもありません。第二次大戦後、大型旅客機が登場し、国境を越えて安全な運航を保証するためのルール作りが必要となりシカゴ条約(詳しくは条約・航空協定の歴史をご覧ください)として結実しました。この中で、パイロットの資格に係る基本的なルールについては、ICAO_Annex 1_Personal Licensingの中で定められています。また、日本に於いては、航空法の中でシカゴ条約のルールが具現化されています

パイロットに安全な運航を行わしめるための航空法の仕組み;
* パイロットの操縦技能に関し国による認定を行うこと
* パイロットの健康状態に関し国による認定を行うこと
機長の役割につき国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
* パイロットと地上の運航支援を行う人との間で適切なコミュニケーションを図ることに関し国による認定を行うこと
* パイロットが適切な労働条件のもとで働けるように国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
の様に分類することが出来ます。以下にその具体的な内容をご紹介します。尚、下記の説明には航空法や航空施行規則(附則及び付表等を含む)を頻繁に参照していますが、条文の内容を直接ご覧になりたい場合は、必要に応じそれぞれ次のリンクをご覧になってください:(航空法)、(航空法施行規則

また、米国においても実質的に同等の認定の仕組みを持っています。詳しく米国航空法と上記日本の航空法との対応関係を知りたい方はをパイロットに関わる米国の法規制ご覧になってください。また、この資料の中に引用されている「§ xxx」は、米国航空法のセクション番号です。ここに記述されている内容を詳しくご覧になりたい方はCode of Federal Regulationを参照してください

1.パイロットの操縦技能に関する国による認定
A. 操縦技能の認定方法については、航空法第26条、28条、29条、航空法施行規則第42条、43条で以下が定められています;
① 操縦に必要な経験(年齢、資格別の必要飛行経歴
② 操縦に必要な知識レベルの認定(筆記試験の例:定期運送用操縦士の学科試験
③ 操縦技術のレベルの認定(実機、シミュレーターによる実技試験

B. 国が認定する資格の種類は航空法第24条に以下の様に区分されています;
① 自家用操縦士、② 事業用操縦士、③ 準定期運送用操縦士(注)定期運送用操縦士、⑤ 航空機関士、⑥ 他
また、上記以外に航空法第34条で以下の証明の取得を義務付けています;
① 計器飛行証明:計器飛行、計器航法による飛行(計器飛行以外の航空機の位置、及び進路の測定を計器のみによって行うこと)を行う場合に必要となります
操縦教育証明:機長がその業務を遂行しつつ、同乗するパイロットに対して資格取得訓練、限定変更訓練を行う場合に必要となります

(注)準定期運送用操縦士MPL/Multi-crew Pilot License):これまでのパイロット養成ではまず小型機を単独で操縦するための訓練期間を長く行うことになっていました。しかし、最新の大型旅客機を運航するエアラインでは、副操縦士は機長と業務を分担してミッションを行うことが求められるようになりました。2013年、こうした状況に鑑み、航空法24条が改正され標記 MPL の資格が創設されました。MPL 養成訓練では、訓練の初期段階から機長と副操縦士の二人での運航を前提として行なわれますので、従来の訓練方式に比べ訓練期間が約6カ月以上短縮され、しかもより安全な運航を行なえる優れた副操縦士を養成ができるようになりました。尚、MPLの養成は、現在JAL及びANAの航空従事者指定養成施設(後段に説明があります)にのみ認められています。詳しい内容を知りたい方は国土交通省が作成したMPL技能証明制度についてをご覧になってみて下さい

LAL・MPL第一期生初フライト_2017年2月27日
LAL・MPL第一期生(右席)初フライト_2017年2月27日

C. 航空機の種類、等級、型式別の資格の認定については国土交通省令で以下の様に更に細かく区分されています(資格の「限定」とは、自動車の運転免許が自動二輪、普通、大型二種、等々など種類が分かれているのと同じ様な理由です);
① プロペラ機タービン機回転翼機、他、の区分
② 航空機の使用目的による区分
 最大離陸重量による区分

D. その他;
* パイロットが航空運送事業の業務を行う場合に、最近の飛行経験夜間飛行経験などに関し最低限の基準を設けています(航空法第69条 & 国土交通省令で定められています)

2.パイロットの健康状態に関し国による認定を行うこと
パイロットが操縦を行うには航空身体検査証明を取得しなければならないことが航空法第31条、航空法施行規則第61条の二で定められています
A. 航空身体検査証明の種別
第一種定期運送用操縦士準定期運送用操縦士事業用操縦士、航空機関士、他
② 第二種:自家用航空操縦士、他
B. 国が指定した病院において定期的に健康診断を受けること
C. 航空身体検査証明の有効期間は航空法第32条、及び航空法施行規則第61条の三で、原則1年と定められています。但し、60歳以上(加齢乗員ともいいます)の定期運送用操縦士は6ヶ月に一度と定められています
上記 A~C の詳細について知りたい方は、(財)航空医学研究センターのサイト(航空身体検査証明とは)をご覧になってください

D. 健康診断においてチェックすべき項目と、合否の判定基準については、航空法施行規則第61条の二に定められています。具体的な検査項目をご覧になりたい方は、最も厳しい検査内容となっている(第一種航空身体検査証明書の検査基準)をご覧になってください。恐らく、中年以上の方は、この基準を満たす為には健康状態維持に相当努力しなければならないことがわかると思います!
また、米国の規定をご覧になりたい方は(米国の身体検査証明書の検査基準)をご覧になってみて下さい。概ね日本の航空法と考え方は同じなのですが、昨今米国において社会的な問題となっている薬物依存症に係る規定は、極めて具体的に判断基準が明示されていることが分かります

3.機長の役割につき国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
航空運送事業の用に供する航空機を操縦するパイロットの内、安全運航に最終責任を負う機長については、航空法第72条において、その知識及び能力の審査を行うこととしています。また、航空法施行規則第163条で、その知識及び能力の具体的な基準を定めています;
機長の知識及び能力の審査
審査の対象:5.7トン以上の航空機、または9.7トン以上の回転翼機(ヘリコプターなど)を使って航空運送事業を行う機長
② 審査は口述審査(所謂“口頭試問”に相当)と実地審査(認定に係る航空機と同じ型式のシミュレーターを使用)で行います;
<運航に係る審査の具体的な内容>
* パイロットが行う航空法第73条の二に基づく飛行前点検(Pre Flight Check)について
* 出発・飛行計画変更に係る運航管理者(Dispatcher)の承認事項について
* 他の乗務員(含むCA/客室乗務員)に対する指揮・監督について
* 安全阻害行為の抑止危難の場合の措置他の安全管理事項について
* 通常状態、及び異常状態での航空機の操作及び措置について

③ 上記審査は、航空法施行規則第164条の二に基づき、年一回実施することになっています。但し“通常状態、及び異常状態での航空機の操作及び措置”については年2回の審査を実施する必要があります ⇒ 6Month Check Flight

4.パイロットと地上の運航支援を行う人との間で適切なコミュニケーションを図ることに関し国による認定を行うこと
① 通信機器の知識、取り扱いに関わる電波法に基づく航空級無線通信士の資格取得を義務付けています
② 外国での運航を行う場合、航空法第33条に基づき、国土交通大臣が行う航空英語能力証明の取得を義務付けています

5.パイロットが適切な労働条件のもとで働けるように国の基準を定め、エアラインに実行せしめること
航空法第68条、及び航空法施行規則第214条に基づき、エアラインに乗務割の基準を定めることを義務付けています
① 運航規程に乗務割の基準を定めることを義務付け運航規程を認可項目としています。運航規程に関する詳しい説明は(2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像)の「4.運用段階、(8)」をご覧になってみてください

② 航空法施行規則第175条で、乗務割の基準には以下の項目が含まれていなければならないとしています;
*乗務時間の制限は、1暦日又は24時間(国際線など時差がある運航を行う場合)、1歴月3ヶ月1暦年当たりそれぞれの限界時間を設定しなければならない。
*疲労により航行の安全を阻害しないような乗務時間その他の労働時間が配分されていること
尚、それぞれの限界時間の具体例(エアラインによって異なる)については、乗員計画(パイロット、CA/客室乗務員)をご覧になってください

X. 外国人パイロットに係る例外措置
昨今、パイロットの絶対数の不足、パイロットに係る諸経費の削減、パイロット養成期間の短縮事業計画の変動に対する迅速な対応、などの目的で外国人パイロットが多く導入さています。彼らの保有している資格は欧米先進国で発行されたものであり、この資格では日本の航空法の下では飛行できないことになります。従って、これを短時間で日本の資格に切り替えるために、以下の様な例外措置を設けています;
国際民間航空条約(ICAO)締約国の政府が発行した資格を有する者は、国内航空法規に関わるものを除く学科試験、及び実地試験の全部又は一部を行わない
② 取得できる日本の資格:技能証明技能証明の限定の変更計器飛行証明航空英語能力証明

国に代わって認可行為の一部を代行する仕組み

これまで説明してきた安全運航に係る重要事項について“国による認可や審査”があるのは、航空行政の公平性、厳格性を保つために必須の事ですが、これらを全て国家によって行うには、必要となる専門性、人件費の効率性設備投資、などの面で実質的に不可能です。そこで、パイロット養成に係る施設(例えば航空機やシミュレーターなど)、訓練に必要となる教官(実技指導を行うパイロット、操縦に必要となる知識に係る訓練を行う地上職の教官)、などを保有している組織(下記参照)を指定し、国による認可行為の一部を委嘱することが出来るようになっています。これを定航空従事者養成施設制度(自動車の運転免許取得の際通った自動車運転教習所を想像すればいいと思います)といいます。この仕組みについて詳しく知りたい方は(2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像)の「規制当局による審査、認可等の合理化」(2)をご覧になってみてください。以下に具体的な「定航空従事者養成施設」を例示します;

1.独立行政法人航空大学校
航空大学校は、航空法施行規則第50条の二で、国に替わって以下の資格を付与することができることになっています。尚、この学校は独立行政法人となっていることから分かるように、1954年に国策で設立され、訓練学生の授業料負担の軽減、エアラインのパイロット養成費用負担の軽減、その他のパイロット・ソースの確保、などの役割を果たしています。現在の募集定員は108名訓練期間は2年間となっています;
自家用操縦士事業用操縦士の技能証明
② 技能証明の限定
計器飛行証明の実地試験
航空英語能力証明に関わる学科試験

2.航空従事者指定養成施設
エアラインのパイロット訓練部門民間のパイロット養成施設大学のパイロット養成コース、などを対象としています。航空法施行規則第50条に当該施設の認可に関わる国のチェック項目は以下の様に具体的に示されています;
① 教育・訓練に必要となる教官(実技指導を行うパイロット、操縦に必要となる知識に係る教官)、及び技能審査員の履歴航空従事者としての資格が適正かどうか
教育・訓練のための施設教育・訓練の内容・方法技能審査の方法が適正かどうか
教官が必要数以上配置されているかどうか
④ 技能審査に必要な技能審査員、訓練に必要となる航空機、シミュレーター、その他の機材、設備を利用できる状態になっているかどうか
訓練・教育施設としての適確な運営の為の制度が定められているかどうか

上記を踏まえたうえで、以下の認可行為を行うことを施設ごとに指定します;
自家用操縦士事業用操縦士準定期運送用操縦士定期運送用操縦士、航空機関士の資格付与
航空機種の限定は、実地試験に使われる航空機の機種で決まります
計器飛行証明の付与

3.指定本邦航空運送事業者、査察運航乗務員
航空法第72条に基づき、国は航空運送事業を行う機長の知識及び能力を審査することになっていますが、「指定本邦航空運送事業者」の認可を得たエアラインについては、エアラインが自社の機長の審査を行う者を指定し、国がその者の適格性について審査を行った上で「査察運航乗務員」として指名し、国が行う審査をその者に代行させることが出来ます
この査察運航乗務員の適格性についての審査は、航空法施行規則第164条、165条に基づき以下の項目のチェックを行うことになっています。審査は年一回行われます;
① 書面審査、口述審査、実地審査
② 組織、訓練体制、訓練方法、訓練施設が適切であること
③ 査察操縦士の審査に関わる権限の独立性が確保されていること(⇔審査される機長の合否判断は、あくまで国土交通大臣に替わって行っている)

4.指定航空英語能力判定航空運送事業者;
航空英語能力証明に関わる試験を行います

エアラインのパイロットになるまで

エアラインのパイロットとして乗務する為には、副操縦士であっても事業用操縦士の資格航空無線通信士の資格、計器証明、(国際線を乗務するのであれば航空英語英語能力証明も必要)を保有していなければなりません。また、機長として乗務する為には、上記の資格と併せ、「定期運送用操縦士」の資格を持っていなければなりません
これらの資格を取得してエアラインパイロットになる為には以下の様な選択肢があります;
1.資格を何も持たないままにエアラインのパイロット要員として入社するケース;
資格取得するまでのコストは全てエアラインが負担し、更に資格を取得するまでの間も相応の賃金が支払われるので人気が高く応募者も多いために、競争環境は非常に高いといえます。尚、一定期間内に資格を取得できなかった場合、エアラインパイロットとしての適格性が無いと判定され、地上職に職変してエアラインにとどまるか、退職するかの選択を迫られます

2.航空大学校に入学し、自家用操縦士、事業用操縦士、航空無線通信士、計器証明、航空英語英語能力証明、などの資格を取得しエアラインに入社するケース;
資格取得するまでのコストは原則国費で賄われますが、入学料、授業料、寮費などの自己負担分は二年間で350万円以上となります(詳しくは2020年度航空大学校募集要領を参照してください)。エアラインにとってパイロットの養成が低コストで済むので、エアラインに採用される可能性は高いものの、その分航空大学校への入学の敷居は非常に高い状況です。エアラインに採用されなかった人は、民間の使用事業(少人数の観光客をターゲットにした遊覧飛行やチャーター飛行)その他の組織でパイロットとして働く道も残されています

3.パイロット・コースを設けている大学に入学し、自家用操縦士、事業用操縦士、航空無線通信士、計器証明、航空英語英語能力証明、などの資格を取得しエアラインに入社するケース;
近年、LCCの隆盛と共にエアライン・パイロットの需要が高まり、パイロットを養成するコースを設ける大学が増加しつつあります。ただ、日本国内で大学単独で資格取得の為の航空機やシミュレーターを購入するには高額な投資が必要となること、国内では飛行訓練のための空港や空域の確保が難しく、更に着陸料、航行援助施設利用料の負担も大きいことから、殆どの大学は、実機訓練を外国の飛行学校に委嘱しているのが実情です。また、学費も2000万円以上掛かると言われており、経済的な面で入学の敷居は高いと言えます
しかし最近は、エアラインとしてもこうしたパイロットソースを通じて優秀なパイロットを確保する必要性から大学との協力関係を築いているケースもあります。因みに現在、桜美林大学の航空コースはJALと東海大学の航空コースはANAと協力関係を持っています
尚、エアラインに採用されなかった人は、航空大学校卒業生と同じように民間の使用事業、その他の組織でパイロットとして働く道も残されています

4.個人で外国の飛行学校、等に入学し必要な資格を取得するケース;
パイロットの資格は学歴には関係ないので、自費で必要な資格を取得することは可能です。このケースでも一般に経済的な理由で外国の飛行学校で資格を取得するケースがほとんどです
<参考>
1996年 JALエクスプレス(1997年設立、2014年JALに統合)を立ち上げたときは、このケースのパイロットも採用しました

5.自衛隊に入隊し、ある程度の年齢になってから自衛隊を退職し、エアラインに入社するケース;
自衛隊が保有する戦闘機や輸送機、その他、数多くの航空機を操縦するパイロットは100%国費で養成されています。また飛行経験自体も通常の業務の遂行のなかで積み上げていくことが可能です。ただ、自衛隊のパイロットの操縦資格は航空法で決めらている民間機の操縦資格とは異なります。また、自衛隊のパイロットの機種ごとの配置数は運用する各種の航空機別に定員が決まっており、その人件費・経費は国費で賄われております。従って、自分の意思だけで自衛隊を退職しエアラインのパイロットになることが出来ないことはご理解いただけると思います
しかし、自衛隊のパイロットは部隊運用上ピラミッド型のシンプルな組織を形成することが必要であると同時に、肉体的に過酷な任務を求められる航空機については高齢になれば任務遂行が困難になるため、定期的な若返りを図っていく必要もあります。こうしたことから、自衛隊とエアラインとの間で「割愛」という制度が設けられており、必要によりエアラインは防衛相と合意の上で自衛隊パイロットを受け入れることを行っています
<参考>
先進国を中心として、大規模な航空戦力を保有している国では、軍のパイロット出身のエアラインパイロットが多いと言われています

機長養成について

安全運航に最終責任を負う機長については、既に述べた様に航空法に基づく重要な任務を遂行する必要があり、大手エアラインでは、法で定められた飛行経験(資格別の必要飛行経歴)、定期運送用操縦士資格の取得(参考:定期運送用操縦士の学科試験)の他に以下の様な要素を加味して機長養成を行っています;
① 機長業務に相応しい人格・識見を有していること
② 機長業務に相応しい操縦技能、知識を有していること
③ “Senioroty”の基準を満たしていること
“Senioroty”の基準とは:入社順、資格取得順、などで機長になる機会を与えること。一般に労働組合などとの間で労務上の問題を起こさないようにするための基準であり、法に基づく厳格な基準ではありません

機長養成をエアライン自ら行うことは法的には義務付けられていませんが(⇔航空会社設立時などでは機長資格を持った人を採用します)、路線運営には必ず一定数の機長が必要(具体例ついては、乗員計画(パイロット、CA/客室乗務員)をご覧になってください)であり、長期的な事業計画の伸び、及び機種更新の計画に合わせて新しい型式の航空機の機長も確保しなければならないことから、大手のエアラインでは副操縦士から機長への昇格、機長の「限定」変更(操縦する機種の変更)などを長期的な視野で行っています

副操縦士が機長養成コースに入ると、シミュレーター訓練や座学の他に、教官となる機長と定期便に同乗して訓練(“路線訓練”といいます;副操縦士席での訓練 、 機長席での訓練)を行う必要があります。また、離着陸時の機長のミッションを習得する為には、離着陸の経験(馬術用語の“鞍数”ともいいます)を多く積まねばなりません

<参考>
1.事故統計によれば航空機事故の殆どは、離陸時の3分間着陸時の8分間に集中していることから、この合計11分間を「Critical Eleven Minutes/魔の11分間」と呼んでいます。機長養成で離着陸の訓練を重視するのはこうした背景があるからです
2.前述(パイロットに起因する深刻な事故)の、アシアナ航空のサンフランシスコ国際空港における着陸失敗事故は、長距離路線で慣熟飛行を行ったことが問題であった可能性も考えられるのではないでしょうか

こうしたことから、大手のエアラインには機長養成に、短距離路線(国内線、短距離国際線)に投入し、保有機数も多い機種を機長養成用の機種として指定し、養成の効率化を図っているところもあります。
具体的な運用としては、機長候補者を予めこの機種に移行(“限定”の変更)させ、機長昇格後も相応の期間その機種で慣熟を図っていきます。結果としてその機種で余剰となる他の機長は、事業計画上増機していかねばならない機種に移行させていく、などの対応を行って機長マンニングのバランスを取ることになります

パイロット養成コスト(試算)

これまで述べてきたことからパイロットを養成するには、訓練のための高額な費用が掛かることはある程度想像できると思いますが、もう少し正確なイメージを持っていただくために、以下のケースに分けて必要となる費用の試算をしてみたいと思います;
1.航空大学校における訓練生一人当たりの訓練費用
この試算を行うためには、航空大学校の収支データが必要になります。本来は独立行政法人なので公表を義務付けられているはずの財務諸表及び事業報告書を入手できれば一番いいのですが、今回サイトから見つけることが出来ませんでしたので、航空大学校のサイトから航空大学校2018年度業務実績報告書を入手し、ここから収支計画・実績のデータを取り出して計算してみました(下表の単位は“円”);

航空大学校訓練生の訓練費用(試算)
航空大学校訓練生の訓練費用(試算)

訓練生の自己負担分は2年間で350万円程度ですが、国費で負担する金額が一人当たり3千万円以上かかっていることが分かります。エアラインに優秀なパイロットを供給する為に国も相応の負担をしているということでしょうか

2.米国の飛行学校で自家用操縦士、事業用操縦士、計器飛行証明の資格を取得する場合の訓練費用
米国のEpic Flight Academyで資格を取得するための授業料を計算してみました。ここでは、米国における滞在費、その他の費用は入っていません;

外国の飛行学校で資格を取得する場合の訓練費用
外国の飛行学校で資格を取得する場合の訓練費用

3.エアラインが自社のパイロットを養成する時の費用
エアラインが採用したパイロットに各種の資格を取らせるためには、掛かる費用は全て自社で賄わねばなりません。基礎となるデータ類は5年ほど前のもの(但し、大きな費用項目となる航空機の減価償却費については減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表_航空機関連を反映しています)ですが、訓練費用の内訳や費用総額の概算値としてはそれほど外れていないと思いますので参考のために以下の表をご覧になってみてください;

パイロットを自社養成する場合の訓練費用
パイロットを自社養成する場合の訓練費用

米国の飛行学校で資格を取るのに比べてかなり費用が大きいことが分かると思います。これは資格取得する際に使う航空機の価格の差、日本の空港を使用することに伴う公租公課の差、訓練シラバスの差、などによって違いが生まれています。従って、エアラインであっても訓練費用を削減する為に、海外の飛行学校に訓練を委嘱したり、海外に訓練施設を設けるなどの対応も行われています。
JALでは、新しくできたMPL資格取得訓練をCAE Phoenix – Aviation Academyで行っています

機長養成訓練や、航空機の型式限定の変更訓練などは、大手のエアラインは事業計画の柔軟性を確保する為に自社で行うことが普通です。これらに係る費用の試算値は以下の通りです;

機長養成・機種限定変更訓練コスト(試算)
機長養成・機種限定変更訓練コスト(試算)

上記二つの表の基礎的なデータについてご興味のある方は自社乗員養成コスト_基礎データをご覧になってみて下さい

以上から、エアラインビジネスにとってパイロット養成に係るマネージメントは、経営面で極めて重要であることはご理解いただけると思います

以上