はじめに
見出しの写真は、今年(2026年4月17日)行われた春の園遊会に臨まれた天皇・皇后両陛下と秋篠宮ご夫妻、その他の皇族方(この中に愛子内親王は入っていますが、秋篠宮文仁親王は欠席しています)です。この写真から一見して分かることは、今上天皇(令和天皇)の後継となる男子の皇族が極めて少ないことです
こうした状況を改善するために、今年7月24日に新しい皇室典範が施行されました。これまでの皇室典範(2019年4月30日施行)からの改正内容概略については以下の表をご覧ください;
| 条文 | 2019年4月30日制定 | 2026年7月24日公布後 |
| 第9条 | 養子禁止 | 原則禁止+第38条例外 |
| 第10条 | 皇族男子の婚姻 | 皇族(女子を含む)の婚姻 |
| 第12条 | 女性皇族は婚姻で離脱 | 削除 |
| 第13条 | 親王・王の離脱に伴う家族の離脱 | 削除 |
| 第14条 | 親王妃・王妃等の離脱 | 大幅変更(下記<補足>参照) |
| 第15条 | 皇族となれる者 | 第38条を追加 |
| 第38条 | 新設:養子皇族男子 |
<補足>
旧14条;
① 夫を失った場合、自分の意思で皇族を離脱できる
② やむを得ない特別な事由があれば皇室会議により離脱できる
③ 離婚すれば皇族を離脱
④ 一定の条件を満たせば他の皇族と婚姻した女性にも準用
新14条;
①、②は維持 ③、④に替わり以下を追加する
* 夫を失った元親王妃・元王妃が一般男性と再婚した場合には皇族の身分を離れる
* 離婚した場合には皇族の身分を離れる
尚、この改正に伴い、これに関連する戸籍に関する法律(昭和22年法律第111号)、民法、住民基本台帳法、も同時に改正されます。またこれに係る経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は政令で定めることになっています
この改正のポイントは、男系の皇統を維持する為に;
① 旧宮家の男系男子を養子に迎えることを可能にする
② 女性皇族が結婚後も皇室に残ることを可能にする
ことです。勿論、対象となる人が同意することが前提です
この改正については、国会での議論が行われましたが、各党の賛否の状況は以下の表のとおりです;
概ね賛成多数と見做せると思いますが、衆議院では立憲民主党と公明党が合体して結成された中道が賛成しているのに対し、両党が合体をしていない参議院では、公明党は賛成しているものの、立憲民主党は反対に回っていることです。恐らくこの原因は、新しい皇室典範でも「男系天皇」による皇統(天皇の戸籍簿の様なもの)を維持することが前提になっていること、及び欧米先進国の皇室では長子相続を原則としていることが多いことから近世から現代にいたるまで女性が王位につくことが一般的になっており、皇室典範は男女平等の原則に反するのではないかという疑念に由来しているものと考えられます
戦後教育を受けた筆者自身、学生時代に日本の皇統についてしっかりした教育を受けていないことから、勉強し直してみました。その結果を以下にご紹介したいと思います
<参考>皇族方の呼び名
皇室典範には、天皇・皇后、皇太子・皇太子妃以外、我々庶民が使わない呼び名が沢山出てきます。生成AIを使って、以下に整理してみました;
① 天皇:皇室の中心
② 皇后:天皇の配偶者
③ 皇太子:皇位継承順位第1位の皇族であるたる皇子
④ 皇太子妃:皇太子の配偶者
③ 皇子・皇孫:天皇の子・孫(男女)
④ 親王/内親王:天皇の子・孫で男系嫡出(次節参照)の皇族
⑤ 親王妃/王妃:親王・王の配偶者
⑥ 王/女王:天皇の曾孫以下で男系嫡出の皇族
男系天皇とは
男系天皇・女系天皇と男性天皇・女性天皇の区別がつかない人が多いと思いますので、この違いについて以下に説明します
まず、これまでの日本の歴史において天皇は男性に限るのかという議論には、以下の歴史をご覧になれば明快になると思います;
日本には歴史上以下の女性天皇が存在しています;
① 第33代 推古天皇 ← 父:第29代 欽明天皇
② 第35代 皇極天皇 ← 父:第30代 敏達天皇
第37代 斉明天皇(皇極天皇と同一人物 ⇔ 父:第30代 敏達天皇)
③ 第41代 持統天皇 ← 父:第38代 天智天皇
④ 第43代 元明天皇 ← 父:第38代 天智天皇
⑤ 第44代 元正天皇 ← 父:第40代 天武天皇
⑥ 第46代 孝謙天皇 ← 父:第45代 聖武天皇
第48代 称徳天皇(孝謙天皇と同一人物 ⇔ 父:第45代 聖武天皇)
⑦ 第109代 明正天皇 ← 父:第108代 後水尾天皇
⑧ 第117代 後桜町天皇 ← 父:第115代 桜町天皇
これまでの女性天皇8人の父親は全て男性天皇であることが分かります。これが女性天皇はすべて男系であるという意味です
女性天皇が引き継がれていく女系天皇が、何故日本の皇統を維持できないかについては次節(男系天皇の遺伝学的な意味)をご覧ください
<参考> 宮内庁ホームページ(https://www.kunaicho.go.jp/index.html)に載せられていた神武天皇から現在の令和天皇までの256代続いている皇統は以下の通りです;

因みに、皇統上の女性天皇は赤色の四角で囲ってあります
男系天皇の遺伝学的な意味
高校時代の生物の授業で遺伝学の初歩を学びましたが、性別が分かれる理由を理解するには染色体について理解する必要があります
*染色体とは:DNA(デオキシリボ核酸)+ヒストン(下記参照)でできた巨大な“情報パッケージ”で、細胞の中にあって複数の遺伝子が記録されている構造体です
*ヒストンとは、染色体内にあるタンパク質で生命の設計図である DNAは非常に長いため、このタンパク質に巻きつき折りたたまれて収納されています
遺伝子は染色体の中にあり、染色体は細胞核の中にあります。 1本の染色体に数百から数千の遺伝子が含まれており、 人間のすべての正常細胞には23対(計46本)の染色体が入っています。この内、22対は常染色体といい、残りの1対は性染色体といいます
この性染色体が受精するプロセスは以下のようになります;
① 性染色体は、女性の場合 X染色体と X染色体の対になっており、男性の場合 X染色体と Y染色体が対になっています
② この染色体は、女性が卵子を作り出すとき、X染色体と X染色体の二つに分かれます。男性が精子を作るとき、X染色体と Y染色体に分かれます(これらの分岐を「減数分裂」といいます)
③ この卵子と精子が子宮内で出会うとき、女性の X染色体と男性の X染色体が結びついて受精が完成すると女性となって生れ出ます。一方、女性の X染色体と男性のY染色体が結びついて受精が完成すると男性となって生れ出ます。必ず卵子と精子が結びつくことから、女性となる確率と男性となる確率は50%となり、生れ出た子供の男女比はほぼ50%となる訳です
④ また、男性の Y染色体は、他の染色体と組み換えを起こさないので、突然変異を除けばほぼそのまま次世代へコピーされます。「血統の連続性」を追跡するのに最適な遺伝的マーカーになることになります
これが万世一系の天皇として、皇統の遺伝子の連続性が重視されてきた理由です。
因みに天皇直系の女性皇族であって、女性天皇になっても天皇直系の男性(天皇のY遺伝子を持っている)と結婚しない限り、生れた男子は天皇のY遺伝子を受けつぐことはできません
女性天皇が天皇のY遺伝子を持たない男性と結婚した場合、生まれた男性は天皇のY遺伝子を引き継ぐことはできず、また女性が生まれても天皇のX遺伝子を受け継いでいるかは、現代のDNA分析技術で解明しない限り分かりません。仮に引き継いでいたとしても、その天皇の X遺伝子を引き続き次代以降に引き継がれる確率は極めて低くなるはずです。これが、女性天皇は一代限り許されても、女系天皇は許されない所以です
現在、皇族として存在する宮家は、宮内庁によれば 秋篠宮・常陸宮・三笠宮・高円宮の4宮家です。一方、現在は皇族ではなく「旧宮家」として存続している家系は、1947年(昭和22年)10月に皇籍を離脱した以下の11宮家です;
| № | 宮家 | 現在の状況 |
|---|---|---|
| 1 | 伏見宮 | 旧宮家 |
| 閑院宮 | 旧宮家・男系は断絶 | |
| 山階宮 | 旧宮家・男系は断絶 | |
| 北白川宮 | 旧宮家・男系は断絶 | |
| 梨本宮 | 旧宮家・男系は断絶 | |
| 2 | 久邇宮 | 旧宮家 |
| 3 | 賀陽宮 | 旧宮家 |
| 4 | 東伏見宮 | 旧宮家・宮家としては断絶 |
| 5 | 朝香宮 | 旧宮家 |
| 6 | 竹田宮 | 旧宮家 |
| 7 | 東久邇宮 | 旧宮家 |
この11宮家は、1947年に皇籍を離脱したことから「旧皇族」「旧宮家」と呼ばれており、全て伏見宮系につながります。今回皇族として復帰させる可能性があるのは男系を維持している上表の赤字の7宮家となります。勿論、夫々の宮家の対象者が皇族になることを受け入れることが前提となります
尚、「現在の皇室」と「伏見宮家」は、どちらも歴代天皇の男系子孫ですが、伏見宮家は崇光天皇(スコウ天皇/在位1348~1351年)の子孫として分かれた系統であり、その後、伏見宮家から後花園天皇(在位1428年~1464年)が即位しております
欧米先進国における女性君主の状況
女性天皇の問題を論ずるには、王室を維持している欧州先進国での状況を知る必要があります。王室を維持している国の現況は以下の通りです;

上表の国では、いずれも立憲君主制を取っており、日本とほぼ同じ政治形態と思われ、主な政治権力は選挙によって選ばれた政治家が行使する仕組みになっていますが、リヒテンシュタインだけは王権がなり強くなっています。
男女を問わず生れた順で君主の継承が行われる政治制度は、スウェーデンが1980年に世界で初めて導入し、その後オランダ、ノルウェー、ベルギー、デンマーク、ルクセンブルク、英国などが続き、2016年6月18日、リヒテンシュタイン王位継承権を女性にも開放しました
現在、実際に次の君主が女性になることが確定的なのは、以下のヴィクトリア王太女(スウェーデン )、カタリナ=アマリア王女(オランダ )、エリザベート王女 (ベルギー)です。一方、ノルウェー、デンマーク、英国などは、長子継承制度ではあるものの、現在の第1位は男性です
おわりに
日本の君主制度は、神話に登場する神武天皇(前660年~前585年)から始まって2600年以上の歴史がありますが、男系を保ってきたとされています。この間8人の女性天皇が誕生したものの男系天皇の皇統は維持されてきました
一方、ヨーロッパ諸国の王室は、ジェンダー平等の潮流に乗って、1980年以降男女を問わず長子が君主を継承する仕組みを導入し現在に至っています。しかし、ヨーロッパ諸国の王室はリヒテンシュタイン(17世紀~)を除き18世紀以降の比較的新しい王室であり、日本の皇統と比較することは、そもそも無理があると筆者は思っています
今年2月に日本語版が発刊された小泉八雲(ラフカディオハーン)の著作「神国日本」によれば、日本に仏教やキリスト教が入ってきても、未だに津々浦々に神社があり、日本の民の祭祀は何らかの形で皇統とつながっていると書かれています。私もこれには同感せざるを得ません
本書に記載されているエピソード;
小泉八雲作品の熱心な愛読者であるボナーフェラーズ(米陸軍准将・マッカーサーの副官)は、1945年8月30日、マッカーサーの最も信頼する副官として来日しました。フェラーズは小泉八雲の遺族を探し出し、八雲の長男・一雄をGHQに就職させました。一方、マッカーサーはフェラーズに天皇が真珠湾攻撃を計画した証拠を見つける様指示しましたが、既に調査をしていたフェラーズは「天皇はそのような命令など出していません」と答え、この本をお読みになったらと「神国日本(勿論英語版!」を手渡しました。数日後、マッカーサーは「わかった、天皇に会う、手配してくれ」と言いました ⇒ 太平洋戦争の無条件降伏後、極東国際軍事裁判で天皇は罪を問われず天皇制が護持されました
昭和天皇には、1889年に公布された大日本帝国憲法により、以下の様な大権が与えられていました;
天皇の統治権を定めた基本条文
第1条 「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」: 天皇による統治を明記
第3条 「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」:天皇の不可侵性
第4条 「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」 :天皇が統治権を総攬すると規定(天皇が国を統合し掌握する)
しかし実際の統治は、首相や軍事部門のトップたちに任されていました(←立憲君主制)。しかし、日露戦争や太平洋戦争など国家の危機に際しては、2600年続いてきた皇統を守る(国づくりをした「皇祖皇宗、、、」に言及)為に発言することを厭いませんでした。以下はその記録です
1.NHKアーカイブにある太平洋戦争開始までの昭和天皇の戦争回避への努力;
* 戦争回避への苦闘」(1)
* 戦争回避への苦闘」(2)
* 戦争回避への苦闘」(3)
2.1945年8月11日、ポツダム宣言を受諾して戦争を終結させる決定をした御前会議での昭和天皇の発言;
* 8月10日午前2時を回ったところで、鈴木貫太郎首相が以下の様に昭和天皇の意見を求めました:「まことに異例で畏多いことでございまするが、ご聖断を拝しまして、聖慮をもって本会議の結論といたしたいと存じます」
*促された昭和天皇は以下の様に言明しました:「それならば自分の意見を言おう。自分の意見は外務大臣の意見に同意である」この瞬間、ポツダム宣言受諾が決まりました(「聖断」が下された)。同席していた迫水久常・内閣書記官長によれば、昭和天皇は続けて以下のように語ったといいます;
「大東亜戦争が初まってから陸海軍のして来たことを見ると、どうも予定と結果が大変に違う場合が多い。今陸軍、海軍では先程も大臣、総長が申したように本土決戦の準備をして居り、勝つ自信があると申して居るが、自分はその点について心配している。先日参謀総長から九十九里浜の防備について話を聞いたが、実はその後侍従武官が実地に見て来ての話では、参謀総長の話とは非常に違っていて、防備は殆んど出来ていないようである。又先日編成を終った或る師団の装備については、参謀総長から完了の旨の話を聞いたが、実は兵士に銃剣さえ行き渡って居らない有様である事が判った。このような状態で本土決戦に突入したらどうなるか、自分は非常に心配である。或は日本民族は皆死んでしまわなければならなくなるのではなかろうかと思う。そうなったらどうしてこの日本という国を子孫に伝えることが出来るか。自分の任務は祖先から受けついだこの日本を子孫に伝えることである。今日となっては一人でも多くの日本人に生き残っていて貰って、その人達が将来再び起ち上って貰う外に、この日本を子孫に伝える方法はないと思う。それにこのまゝ戦を続けることは世界人類にとっても不幸なことである。自分は明治天皇の三国干渉の時のお心持も考え、自分のことはどうなっても構わない。堪え難きこと忍び難きことであるが、この戦争をやめる決心をした次第である
* 1945年8月5日の終戦の詔勅
こうした天皇の行動により、太平洋戦争では沖縄以外の本土決戦は回避できましたが、同盟国ドイツにおいては連合国(米・英・ソ連)軍に国土を蹂躙され、無責任にもヒトラーは自殺、敗戦直前に動員された多くの若者が戦死する事態となりました
以上を踏まえ、今回の皇室典範改正に係る筆者の見解は以下の通り;
① 第二次大戦後、天皇の大権は無くなり「象徴天皇」となりましたが、世界に類例のない男系の皇統を維持する上で皇族を増やす為の改正は必要
② 男系を維持する前提のもとで、将来有能な男系女性天皇が実現するよう新しいルールを検討すべき
以上