原子力の安全_放射能の恐怖?

新元素の発見_ニホニウムと命名

-はじめに-

今年3月11日で、福島事故が起きてから5年が経ちました。事故当時、私は独立行政法人・原子力安全基盤機構に居た為、事故の生々しい経過を体験いたしました。当時の状況を思い出すと、今でも身の毛がよだちますが、関係者の懸命な努力とは別に、マスメディアを含め不正確な情報、デマが飛び交い、謂わば論理や正論が通らなくなる“怖い時間”も体験致しました。
あのような時間には何を語っても無駄であるような気がして黙っていましたが、事故後5年目となる今年は、福島県の幾つかの村で“避難指示”の解除が始まり、少しは自分が貯めた知識も開陳しても許されるのではないかと思い、このブログを書きました

上の写真は理化学研究所が発見した新しい元素が、“ニホニウム”という名前で正式に登録されたことを祝っているところです。私共理科系の人間にとって、周期律表(後述)を初めて学んだ時、余りに美しい自然の法則に感動すると同時に、そこに書かれている元素の名前によって、科学技術の歴史が西洋で築かれてきたことを実感させられた瞬間でもありました。勿論日本にも、仁科芳雄、湯川秀樹、に始まる原子物理学の先人たちから、昨年のノーベル物理学賞受賞者である梶田隆章さんに続く原子物理学者の系譜があり、日本人として誇らしく思っていますが、この“ニホニウム”によって世界の子供たちが原子物理学を最初に学ぶ時に、日本の貢献を知ってもらえることは理科系の人間にとってこの上ない喜びです。

さて、原子力の安全を語りはじめるには、2400年以上前のギリシャの哲学者“デモクリトス”が、物質の究極の構成要素として存在を予言した“原子(アトム/Atom)”の話から始めるのが適切であると思います。
まず、上記新聞で取り上げられている元素と原子の違いは何でしょうか?
最近は中学の理科で原子物理学の初歩を教えていることもあって、現場の先生がこの違いを理解できず、ネット上に沢山の“Q&A”が載っています。しかし、どれも極めて分かり難い表現(先生が理科系で、日本人だからでしょうか)となっていますので、私なりにこの違いを以下に説明しておきたいと思います;

元素の英訳名は“Element(要素)”です。「地球上には沢山の種類の“物質”が存在していますが、これらの物質をこれ以上分けられない位の基本的な物質(要素)に分解してみると約100位に分けることができます(勿論19世紀頃の人が知っていた知識で、現在存在が確認されつつある色々な素粒子はこの数に入っていません)。これらの基本的な物質を“元素(Element/要素)”と呼びます。元素は、それぞれ固有の“原子(アトム/Atom)”から成っています。言い換えれば、各元素はそれぞれ“固有名詞”(例えば、水素、鉄、ニホニウム、etc)を持っており、原子は、それに共通する“集合名詞”という事が出来ます。(例えば、「水素原子、鉄原子、ニホニウム原子、など ⇔ 米国民、ロシア国民、日本国民、など」の対応を考えてみれば、原子というのは、国民という集合名詞に相当することになります)
尚、元素、原子以外に“分子”という分類まで中学の理科で教えるようですが、これは複数の「原子が結合した状態」のことを言います。例えば“水という分子”は、“水素原子2ヶと酸素原子1ヶ”が結合した物質ということになります。

原子の姿(“原子がひらく世紀”日本原子力学会編)
原子の姿(“原子がひらく世紀”日本原子力学会編)

原子は“原子核”と原子核の周りをまわっている“電子”で構成されています。原子核は電気的にプラスの性質を持った“陽子”と、電気的に中性で陽子と同じ質量の“中性子”から成っており(軽水素のみは、陽子1ヶの原子で成り立っています)。電子は陽子の数だけ存在し、質量は陽子や中性子の約1800分の一の小さな粒子です。尚、導線中を流れる電流の正体はこの電子です。また色々な元素の原子核を構成している陽子の数を、その元素の“原子番号”と言います

化学反応”とは、分子の結合状態が変わることを意味します。例えば、水素と酸素の“燃焼”という化学反応は、水素原子2個と酸素原子1個が結合し水に変わると共に、熱が発生する反応のことを言います。この反応では原子核には何の変化も起こりません。所謂化学実験や、薬品、肥料、などの合成は、人間がこの化学反応を使って意図する分子を作っているということになります

一方“核反応”とは、原子核自体に変化が起こる反応を意味します。大きな原子核が分裂することを“核分裂反応”といい、小さな原子核が合体することを“核融合反応”と言います。どちらの核反応においても、反応前と反応後の質量を比較して質量が減っていた場合(質量欠損)、巨大なエネルギーが発生します;
*発生エネルギー=(質量欠損) x (光の速度)² ←アインシュタインの特殊相対性理論
*核分裂反応の利用:原子爆弾、現在の原子炉
*核融合反応の利用:水素爆弾、核融合反応の実験炉(研究段階)
尚、“核分裂反応”や“核融合反応”とは別に放射性同位体(下記参照)が放射線を出して別の物質に変わっていくことも“核反応”の一つです

放射線を出して別の物質に変る(“原子力がひらく世紀”日本原子力学会編)
放射線を出して別の物質に変る(“原子力がひらく世紀”日本原子力学会編)

-放射性同位体-

1869年にロシアの化学者であるメンデレーエフ(1834年~1907年)が、各元素を原子量(原子の質量)の順番に並べると、元素の化学的な性質に規則性があり、グループ化することが可能であることを発表しました。これを“周期表”といいます(我々の世代ではこれを“周期律表”と呼んでいました!)。この発表があってから後、周期表で空欄となっている部分に該当する新物質(既知の元素である“ケイ素”に化学的性質が類似する“ガリウム”や“ゲルマニウム”)が発見され周期表の有用性が認められることとなりました。
現在の周期表は原子番号順に整理されています ⇒ 周期表

この周期表の左下に表の見方が載っています。
原子番号はその元素の陽子の数であるのに対し、原子量は“陽子の数+中性子の数”を意味します。この数が整数になっていない元素は、陽子の数は同じ(⇔原子番号は同じ)でも中性子の数が違う元素が混じって存在していることを意味します。これをその元素の“同位体”といいます。同位体は、化学反応の面では全く違いがありませんが、 “質量”が異なっていることとは別に、原子核としての安定性に違いが出てくるものがあります。例えば同位元素の中には放射線を出して(“放射性同位体”または“放射性同位元素”)別の元素に変わっていくものがあります。放射性同位体が放射線を出して半分の量が別の物質に変わる期間を“半減期”と言いますが、放射線の被曝の影響を評価する場合、この半減期が重要な要素になります

以下に、周期表の中で、よくメディアに取り上げられる放射性同位体を持つ元素を選んで簡単に説明しておきたいと思いますす;
*水素(原子番号1):原子量が1の軽水素の他に、同位体である重水素(陽子1+中性子1;核融合反応炉の燃料となります)、三重水素(“トリチウム”/陽子1+中性子2;放射性同位体)があります。今回の福島の事故では、微量の“トリチウム”が含まれている汚染水を海に排出するかどうかで議論になりました
*炭素(原子番号6):原子量が12の炭素の他に、自然界には宇宙線の作用で生まれた2種類の同位体がありますが、注目すべきは原子量が14の炭素(“炭素14”;放射性同位体)です。この炭素14の放射線の半減期が長い(5740年)ことを使って、古代の遺跡など気の遠くなるような長い年代の判定に使われています
* カリウム(原子番号19):カリウムの同位体は多数存在(24種類)しますが、自然界に存在するのは3種類のみです。このうち注目すべきは原子量40(“カリウム40”;放射性同位体)の同位体で、半減期は12億5千万年です。カリウム40は自然界には微量(0.0117%)しか存在しないものの、カリウム自体が人体には極めて多く含まれており(8番目か9番目に多い元素;神経伝達に重要な役割を演じています)、注目しておく必要があります。
*ストロンチウム(原子番号38):ストロンチウムの同位体は多数存在(33種類)していますが、特に問題となるのは原子爆弾や原子炉の核分裂反応で生成される原子量90のストロンチウム(“ストロンチウム90”;放射性同位体)です。
*ヨウ素(原子番号53):自然界にはヨウ素の同位体が多数存在(37種類)していますが、特に問題となるのは原子爆弾や原子炉の核分裂反応で生成される原子量が131のヨウ素(“ヨウ素131”;放射線同位体)です。
*セシウム(原子番号55):セシウムの同位体は多数存在(40種類))していますが、特に問題となるのは原子爆弾や原子炉の核分裂反応で生成される原子量137のセシウム(“セシウム137”;放射線同位体)です。原爆実験や、チェルノブイリ事故、今回の福島事故などで大気中に大量に放出され問題となりました。
*ポロニウム(原子番号84):ポロニウムは自然界に僅かに存在する放射性元素で、原子量210です。ロシアの情報組織が暗殺に使ったとして有名になりました
*ラドン(原子番号86):ラドンは自然界に存在する放射性の元素で、同位元素は多数存在(34種類)するものの、注目すべき同位体は原子量222のラドン(“ラドン222”;放射性同位体)です。
*ラジウム(原子番号88):ラジウムは放射能を持つ元素として1898年キューリー夫妻によってはじめて発見されたものです。同位体は多数存在(33種類)しますが、注目すべきは過去に被ばく事故を起こした原子量226の同位体(“ラジウム226”;放射線同位体)です。
*ウラン(原子番号92):ウランは自然界に存在する放射性の元素で、同位元素は多数(28種類)存在し、そのすべてが放射性同位体です。ただ、注目すべき同位体は以下の二種です。原子量238の同位体(“ウラン238”)は全ウランの99%以上を占め、原子量235の同位体(“ウラン235”)は全ウランの0.7%程度含まれています。ウラン235は容易に核分裂反応を起こしますので、原子爆弾や原子炉の燃料として使われています。ただウラン235は微量なので分離抽出するには高い技術(“ウラン濃縮”技術/原子量の違い⇒重さの違いを利用します)が必要になります。ウラン235を分離した後のウラン(ウラン238が主成分)を“劣化ウラン”といい、比重が大きい(約19で鉄の2.5倍)ことを利用して貫通性を要求される砲弾に現在も使われています
*プルトニウム(原子番号94):プルトニウムは自然界には非常に微量しか存在せず、殆どは人工的な核分裂反応の結果生まれてきた元素です。同位元素は多数(20種類)存在し、そのすべてが放射性同位体です。ただ、注目すべき同位体は以下の二種です。原子量239の同位体(“プルトニウム239”)で、原子爆弾(プルトニウム爆弾)や原子炉の燃料(ウラニウム燃料と混合して作られる所謂“MOX”燃料、及び高速増殖炉の燃料)として使われています。原子量238の同位体(“プルトニウム238”)は半減期が約87年で、放射線を出すと同時に発熱する為、長期間交換不要な原子力電池として宇宙船や、心臓のペースメーカーの電源として使われたことがあります

-放射線の種類とその特徴-

我々の身近にある放射線には沢山の種類があります。以下に三つのカテゴリーに分けてその特徴を説明いたします;

1.主として同位元素の核反応によって生まれる放射線;
① アルファー線:正体は“ヘリウムの原子核”(原子番号2;原子量4)
質量の大きい粒子である為、衝突によって与えるダメージは大きい(粒子の速度の2乗に比例)のですが、プラスの電荷を持っていること(原子核はプラスの電荷を持っているので反発力が働く)と、粒子が大きいことで遮蔽物によって被曝を防げる放射線です。
② ベータ線:正体は原子の構成要素である“電子
電子は軽い粒子(陽子や中性子の1800分の一の質量)である為、衝突によって与えるダメージは比較的小さいです(粒子の速度の2乗に比例)。また粒子が小さい分がアルファー線より透過しやすいのですが、マイナスの電荷を持っている為、アルファー線ほどではありませんが遮蔽物によって被曝を防げる放射線です。
③ ガンマ線:正体は“電磁波
ガンマ線は電磁波であることから、基本的な性質は携帯電話、放送局などから発する電波や光と同じ性質を持っています。電磁波のエネルギーが周波数(振動数)に比例することから、周波数の高いガンマ線は透過力が非常に高い放射線です
④ 中性子線:正体は原子の構成要素である“中性子
中性子の質量はアルファー線(ヘリウムの原子核)の四分の一、ベータ線(電子)の1800倍である為、衝突によって与えるダメージはかなり大きく、更にアルファー線やベータ線と違って電荷が無いので透過力も非常に高い放射線です。従ってこの放射線を防ぐには、原子同士の衝突によって運動エネルギーを奪うことが有効です。衝突によって運動エネルギーを奪うには水素原子など質量の小さい原子を多く含む材料(例えば水など)が有効になります。
放射線の透過能力の比較;

放射線の透過能力(“原子力がひらく世紀”日本原子力学会編より)
放射線の透過能力(“原子力がひらく世紀”日本原子力学会編より)

2.粒子加速器、その他の機器で人工的に生み出される放射線
① 加速器から作り出される放射線:電荷のある粒子であれば電気的に加速し放射線にすることが可能です
電子線/通常の電子だけでなく陽電子(プラスの電荷を持った電子)線も作られています;重粒子線(陽子、その他の重粒子)は難治性のガンの治療に使われています
② エックス線:エックス線は1895年にドイツの物理学者レントゲンによって発見されました。通常エックス線管(真空管に近い構造を持っている)によって発生させ、その高い透過能力を使って身体を透視し、病気の診断に広く使われています。尚、病気の高度な診断に使われる“CTスキャン”は、エックス線を使った断層写真撮影機のことで、身体を立体的に再現することができます。また周波数の高いエックス線は透過力が強いので、金属構造内部の亀裂の発見など、工業的にも多く使われています
エックス線は電磁波である為、電波や光、ガンマ線と基本的に同じですが、通常放射線として扱われるのはガンマ線とエックス線です

3.宇宙線
宇宙線(Cosmic Ray)とは、文字通り宇宙を飛び交っている高エネルギーの放射線です。宇宙線は銀河系宇宙内の超新星や太陽活動を主な起源とし、主な成分は陽子の他、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、鉄などの重粒子も含まれています。高速で地球に突入した宇宙線は大気と衝突し二次宇宙線(主としてμ粒子)を発生させています。宇宙飛行士やジェット旅客機に搭乗している人の被曝はこれらの宇宙線が原因です。

―放射線の被曝による身体への影響-

人間の体が放射線被曝することによって、体の細胞内の“DNA”(デオキシリボ核酸;遺伝子情報を持っている)の一部が破壊され、細胞を死滅させたり、細胞の“がん化”を招いたりします

放射線によるDNA損傷のメカニズム(日経新聞記事より)
放射線によるDNA損傷のメカニズム(日経新聞記事より)

放射線被ばくによる細胞のダメージの大きさは、放射線の種類や強度(粒子の放射線であれば、その質量や速度、電磁波の放射線であればその強度や周波数)によって異なります。従って、放射線被ばくに伴うリスクを管理を行う為に、放射線の強度を表すいくつかの客観的な単位を決めています

1.放射能とは
放射能とは文字通り元素の「放射線を出す能力」のことです。
この能力の大きさを比較する為に作られた物差しが“べクレル”という単位です

ベクレルの定義:“1秒間に1個の原子核が壊れて放射線を出すとき、この元素の放射能を1ベクレルとする

この定義で理解できるように、この単位は放射線の種類やエネルギーとは無関係で、人体への影響度を測る物差しに適していません
因みに、日常食べている食料に含まれている“カリウム40”による放射能は以下の通りです(出典:“原子力がひらく世紀”日本原子力学会編);
* :20~70ベクレル/1キログラム
* :40~190べクレル/1キログラム
* ホウレンソウ:70~370べクレル/1キログラム
* 海藻:40~370べクレル/1キログラム
* 牛乳:40~70べクレル/1キログラム
また、体内に常に存在している放射性同位体の放射能は以下の通りです(出典:“原子力がひらく世紀”日本原子力学会編);
* カリウム40:4000ベクレル
* 炭素14:2500ベクレル
* その他の放射性同位体:数百ベクレル

このブログのタイトルにある「放射能の恐怖」という表現はマスメディアに多く登場していますが、多くの人々の誤解を生む原因になっています。上記の説明でお分かりの様に、我々は日常的に放射能を持つ物質に取り巻かれています。安易に“放射能は怖い”などとは言うべきではなく、どういう形の放射線被ばくが怖いのかを理解しておかねばばらないと思います

2.放射線の被曝による身体への影響を測る“物差し”
放射線はエネルギーをもっています。このエネルギーが身体に吸収された時に身体がダメージを受けることになります。例えて言えば、「火傷をするということは、火(⇔赤外線)のエネルギーが身体に吸収された」ということですね。
放射線の被曝による身体への影響を測る“物差し”は放射線の“吸収線量”を表す“グレイ”という単位で表現します

グレイ(Gy)の定義1キログラムあたり1ジュール(エネルギーの単位)の放射線エネルギーの吸収がある時の放射線量を1グレイとする

この“物差し”はエネルギーで表現しているので、放射線の種類は関係ありません。しかし、人体への放射線被ばくによるダメージを測る場合、放射線の種類によってかなり差が出ます。従って、人体への影響が同じ尺度で表せる様に補正した物差しが“実効線量”であり、その単位が“シーベルト”です。

シーベルト(Sv)の定義グレイの値に以下の加重係数を掛けた値
加重係数(出典:“原子力がひらく世紀”日本原子力学会編);
 X線、ガンマ線:1
 ベータ線:1
 陽子線:5
 アルファ線、その他の重粒子線:20
 中性子線:5~20(中性子の速度に依存)

尚、シーベルトという単位は大きいので、通常その千分の一、百万分の一の単位を使用しています;
1シーベルト(Sv)=1000ミリシーベルト(mSv)
1ミリシーベルト(mSv)=1000マイクロシーベルト(μSv)

また、シーベルトという物差しは、吸収したエネルギーの総量に比例しますので、必ず時間の単位が入ってきます。マスメディアの報道にはこれをきちんと表現していない場合が多いので注意が必要です。例えば;
1ミリシーベルト/1時間 = 1 x 24時間 x 365日 = 8.76シーベルト/年
1マイクロシーベルト/1日 = 1 x 365日 = 0.365ミリシーベルト/年

3.実効線量と人体への影響について
既に述べてきたように、我々は地球に住んでいる以上誰でも放射線に晒されています。従って、日常生活の中でどの程度の放射線を浴びているか実効線量(シーベルト)で比較してみましょう;
何もしなくても、誰でも浴びている自然放射線の実効線量(全国平均値):1.1ミリシーベルト/年
これは、宇宙線、地面、食物などから受けている放射線なので、当然のことながら住んでいる場所によって異なります;

日本全国の自然放射線の分泌(“原子力の世紀”日本原子力学会編)
日本全国の自然放射線の分泌(“原子力の世紀”日本原子力学会編)

ブラジルのグァラパリ市では、自然放射線量が10ミリシーベルト/年に達していますが、住民の健康被害は報告されていません

医療行為で被曝する時の実効線量
*胃のX線集団検診で被曝する時の実効線量:3.3ミリシーベルト/1回(世界平均)
*胸部CTスキャンで被曝する時の実効線量:4.6~10.8ミリシーベルト/1回
*ガンの放射線治療で受ける時の実効線量:1桁~2桁のシーベルト/一連の放射線治療期間 — 通常急性の副作用が出ます

航空機利用に伴い被曝する時の実効線量
*東京=ニューヨークを1往復する時の実効線量:0.19ミリシーベルト/1回

<参考_1> 福島原子力事故における「避難指示解除」の基準について
現在福島第一原子力発電所近くの避難指示が行われた地域で、行政単位ごとに「避難指示解除」が行なわれつつありますが、この時の基準は、20ミリシーベルト/年以下とされています。また、長期的な目標として、1ミリシーベルト/年 以下を掲げています
上記数値は、国際放射線防護委員会(ICRP/International Commission on Radiological Protection)の2007年勧告から取っている数値ですが、低線量領域での被曝の影響について特に根拠が示されている訳ではありません

<参考_2> 被曝総量と被曝期間について
これまでの人体に対する被曝線量の基準は、年間の累積線量を基準としています。しかし、同じ累積線量でも短時間の被曝と、長時間の被曝には人体に対する影響が異なることが分かっています
また、基準値そのものが、特に低線量領域において疫学的な根拠が得られないままに、高線量領域に於けるリスクを直線的に敷衍させて決められています。これを“LNT/Linear Non Threshold”仮説と言います
これらについては、別途解説を試みる積りです

-外部被曝と内部被曝-

マスメディアの報道だけを頼りにしていると、環境の放射線レベルだけが問題の様に思ってしまいますが、実は放射線を身体の外から浴びる「外部被曝」と、放射性同位体を体に取り込んで、体の内部から放射線を浴びる「内部被曝」との間に大きな違いがあることを知っておかねばなりません

1.外部被曝について
放射線を身体の外から受ける場合、遮蔽物に対する“透過性”と“放射線の強度”が問題になります。以下に外部被曝による被害について、過去の事例をひも解いてみたいと思います;
① 1945年、広島、長崎の原爆
原子爆弾の被害者の大半は、急激な核分裂反応によって生まれた強烈な衝撃波(音波)、熱線(赤外線)、放射線によるものです。特に高速で大量の中性子線は建物の壁を透過して内部に居る人も殺傷いたしました。
爆弾がさく裂した後、上空に噴き上げられた核分裂生成物(“死の灰”)は放射性同位体を多く含み、地上に降り注いだあとも暫くは強い放射線を出します。広島、長崎で爆弾炸裂後に救助に当たった人や、調査に入った人が、この“死の灰”による外部被曝で亡くなられたり、放射線の後遺症に悩んだ方が多くいます。

② 1954年、第五福竜丸事件
ビキニ環礁でマグロはえ縄漁を行っていた第五福竜丸の23名の船員は、水爆実験による“死の灰”を浴びた結果、帰港後全員が“急性放射線症”(下記参照)に罹患しました。22名は数か月で治癒、造血細胞や生殖細胞の異常などの後遺症も数年後には正常に戻りました。唯一、無線長の久保山愛吉さんが半年後に亡くなりましたが、死因は重度の肝機能障害であり、被曝が原因であるか否かについては意見が分かれています
急性放射線症:この事故の場合、死の灰を浴びた後、2週間船上生活を続けた為、数シーベルト程度のベータ線被曝をしたと考えられ、火傷、頭痛、嘔吐、目の痛み、脱毛、その他の皮膚障害(紅斑、水泡、びらん、潰瘍など)の症状がでました

③ 1986年、チェルノブイリ原子力発電所事故
事故処理の為に高線量下で働いた運転員、消防士併せて33名が亡くなりました(実際は事故処理に加わった軍人、炭鉱労働者などにも多数の死亡者が出たと言われています)。尚、福島原子力発電所事故では外部被曝による死者は報告されていません

④ 1999年、東海村JCO臨界事故
核燃料の加工を行っている時に、作業工程の不備により燃料が“臨界”(核分裂反応が連鎖的に起きている状態)に達し、作業員3人が核分裂反応による強い放射線を浴びました。このうち2人が亡くなり、一人が生還しました;
* Aさん:推定被曝量/16~20シーベルト、DNAが多数破壊された為に細胞の再生ができなくなり、造血幹細胞移植を行ったものの多臓器不全で被爆81日後に亡くなりました
* Bさん:推定被曝量/6~10シーベルト、Aさんと同じ経過をたどり多臓器不全で被爆211日後に亡くなりました
* Cさん:推定被曝量/1~4.5シーベルト、Aさん、Bさんと同じ治療を行った結果、健康を取り戻しました

2.内部被曝について
放射性同位体をを身体に取り込み、身体の細胞が直接放射線を浴びる場合、遮蔽物が無い為に被曝に伴う身体へのダメージが相当大きい事は容易に想像できることと思います。また、①放射線の強度の他に、遮蔽物がない為に②放射線の種類によってダメージの程度が相当違うことも重要な要素となります。
一方、身体に取り込まれた放射性同位体が③放射線を出し続ける時間と、④体外に排泄されるまでの時間も、内部被曝の程度に大きく影響することになります。内部被曝のダメージの深刻度合いについては、以下の尺度で比較することが可能となります;
① 放射線の強度:シーベルトという単位で比較
② 放射線の種類:シーベルトという単位にも反映されていますが、深刻さは“アルファー線⇒中性子線⇒ベータ線⇒ガンマ線”の順になります
③ 放射性同位体が放射線を出し続ける時間:半減期が指標になります
④ 放射性同位体が体外に排泄されるまでの時間:生物学的半減期(摂取量の二分の一が排泄される時間)が指標になります

マスメディアでよく取り上げられる放射性同位体について、内部被曝の深刻度について比較してみたいと思います;
 三重水素(“トリチウム”);
ベータ線を出し、半減期が12.3年生物学的半減期が12日なので、微量であれば内部被曝は殆ど問題にならないと思います

* ストロンチウム90
ベータ線を出してイットリウム90となり、イットリウム90もベータ線を出します。半減期は29年生物学的半減期は49年に達します。この元素が周期表のカルシウムのすぐ下にあることから分かる様に、化学的性質がカルシウムに似ており人間の骨に取り込まれ骨髄にダメージを与えることから、白血病の発症や白血球・血小板の減少による免疫力の低下などに繋がる可能性があります。特に骨の代謝が盛んな30才以前の人はリスクが高くなります。

ヨウ素131
ベータ線を出して安定なキセノンになります。半減期は8日生物学的半減期は138日です。ヨウ素が成長過程にある子供の甲状腺に取り込まれる可能性があることから、内部被曝による甲状腺がんの発症や甲状腺機能障害に関与することがわかっています。しかし、成人についてのリスクはそれ程高くはないと考えられます

* セシウム137
ベータ線を出してバリウム137に変ります。半減期は30年生物学的半減期は70日です。水溶性であり、主として人間の筋肉内に取込まれ内部被曝を起こす可能性がありますが、大量に摂取しない限りそれ程リスクが高いとは言えません。ただ、原子力事故などで大量に汚染されてた場合、水溶性なので大量に摂取してしまう可能性があり充分に残留量のチェックが必要です

* ラドン222
アルファ線を出して他の放射性同位体に変ります。半減期は92時間で、生物学的半減期は不明です。ラドン222は気体で、別の元素に変わってもそれらが放射性同位体なので、呼吸器に取り込まれると内部被曝を起こす恐れがあります。ラドン222は地下の岩石から気体として出てくるため地球上何処にでも存在します(日本人の内部被曝線量は平均値で0.4ミリシーベルト/年)。石造りの家や地下室は室内のラドン濃度をチェックする必要があると言われています。一方、ラドン温泉はラドン222が出す放射線の治療効果を狙ったものです

* ラジウム226
アルファー線を出してラドン222に変ります。半減期は1601年で、生物学的半減期は44年です。1990年代以前、ラジウムは時計の夜光塗料として使われていた為、時計工場の多数の女性労働者などが経口摂取により被曝事故を起こしました。また日本においても、人形峠におけるウラン鉱床採掘の結果として、周辺住民の被曝事故(ラジウム226がアルファー線を出した後に出来るラドン222による被曝と考えられる)が起きた事例があります

* ウラン238
アルファ線とガンマ線を出してトリウム234に変ります。半減期は45億年で、生物学的半減期は15日です。ウラン235の濃縮の副産物としての劣化ウラン(殆どウラン238)は砲弾として使われていますが、目標に命中した後、粉末の酸化ウランになって飛散し経口摂取の可能性があると言われており、欧州の一部の国や日本では同じ程度の比重を持っているタングステンを砲弾に使っています

-終わりに-

これまで述べてきた様に、放射線被曝にともなうリスクについては研究が進んでおり、むやみに恐れる必要がない状況にあると思います。研究機関や関係省庁の出すデータを参考に、自身で判断することにより、マスメディアの誇張された報道やデマに踊らされることを回避することが可能であると思っています

また、福島原発事故の処理に当たっている数千人の作業員の方々は、当然厳しい放射線環境下で作業を行っていますが、彼らは放射線防護服(市販品)で放射線被曝を極力避けることは勿論、これとは別に外部被曝に関しては、身に着けている線量計(ポケット線量計、フィルム・バッジ、アラーム・メーター、など)で作業中の積算被曝量を基準内に収める様管理すると共に、内部被曝についても防塵マスクで体内に取り込まないようにするほか、ホールボディーカウンターで作業期間中に取り込んでしまった放射線源の量を基準内に収まるよう管理しています。
因みに、こうした管理をすることが前提ですが、作業員の被ばく限度は50ミリシーベルト/年以下((電離放射線障害防止規則4条)、非常時にあっては100ミリシーベルト/年以下(電離放射線障害防止規則7条)と定めています

最後に、誇張された報道として有名な例を紹介します(社会部の記者が執筆したせいか、噂の類の情報を寄せ集め、刺激的な写真を満載!しています);

AERA_2011年3月28日号_放射能が来る
AERA_2011年3月28日号_放射能が来る

このAERAについては、のだ・ひでき氏(劇作家、演出家、役者)が、同じ号の中の連載コラム(110328_野田秀樹AERAコラム)で冷静に対応することの必要性を述べていました。しかし、後でこの号の表紙とメインの記事を知った時、直ちに同氏がこの連載を打ち切った(110329_野田秀樹・AERA連載打ち切り)ことでも有名になりました

以上