春たけなわです!

花見方々

先週、荒れた天気のあとで拙宅から徒歩10分程度の所を流れる「柳瀬川」に花見に出かけて参りました。この川は、江戸と川越を結ぶ水運で有名な「新河岸川」の支流になります。桜の花は上記の写真の様に既に満開を過ぎ、花びらが遊歩道に散り敷いていて、これもまた中々風情がありました。この川は、ここ10年ほど浄化が進んで各種の魚が戻ってきています;

釣風景
釣風景

上の写真の左側、親子で釣っている魚は

」です。20年以上前だと思いますが、川の浄化状況の確認の為に放流されたものですが、今では大きいものは50㎝位に育っています
真ん中の写真は「フライ・キャスティング」をやっている釣り人ですが、マス類は生息していないので、キャスティングの練習をしているのだと思います。でも間違って?鯉が釣れることがあるかもしれません
右の写真の釣り人は、川に立ちこんで釣っていましたが、聞いてみると「ゴリ」(ハゼの様な姿をした川魚)を釣っているとのことで結構間を置かずに釣れていました。恐らく唐揚げにして酒のつまみになるのではないでしょうか
ここ数年の観察によれば、4月の下旬には「アユ」の遡上が始まります。これは「新河岸川」が下流で「荒川」に繋がっていますので、天然アユが遡上するのだと思われます(⇔従って入漁料は取られない!)。川底が浅いので、友釣りは無理で、寄餌(アミ)を使った毛ばり釣りとなります、秋の落ちアユの時期には転がし釣りを行っていました。また、 以前は、ボラの幼魚が大量に遡上していましたが、最近は見かけません

川の両岸は、草地になっており山菜取りの人が、そこここに見られました。何を採っているかと聞いたところ相手は中国人であり、意思疎通ができませんでしたが、これだけ多くの山菜取りが居るという事は、豊富に自生しているに違いないということで、道具持参で再び訪れることにしました

昨日、園芸用シャベル、レジ袋持参でワイフと二人で山菜取りに出かけてきました。花見の時と同様に山菜取りの方が多く入っておりましたので、収穫物を覗いてみると「からし菜の菜の花」、「クコの新芽」、など、などでした
ネット情報によれば、最近どこの川でも「アブラナ科」の類が群生しており;

菜の花の群生
菜の花の群生

菜の花を採集することも可能と思われましたが、我が家の屋上菜園でもずっと採れ続けておりましたので私の狙いは、「のびろ」(昔、父が採ってきて酒の肴にしていました)と「よもぎ」(これは草餅の材料とするほか、天然の殺虫剤を作るために必要な材料となります)に絞りました。15分ほどで目標としていた量の収穫を終わりました
よもぎ」については、採集した後コンテナに植え付けて屋上で栽培することにしました;

よもぎ
よもぎ

また、「のびろ」は大・小に分類し、

のびろ
のびろ

小の「のびろ」は、コンテナに植え付けて屋上で栽培することにしました;

のびろ
のびろの植付

また、大の「のびろ」はワイフにお願いして、以下の2種の料理に変わりました;

"のびろ"と料理2種
“のびろ”と料理2種

大変美味しく頂きました

柳瀬川の川べりで出合った多くの中国人は、恐らく残留孤児(昨年までこの近くに日本に帰国した残留孤児の支援センターがありました)か、あるいは出稼ぎの中国人(この近辺の集合住宅は家賃が相当安くなっている)かと思われます。豊かになった日本人、特に都会人は山菜などを採る習慣が無くなってしまいましたが、長生きすればするほど貧しくなってくると予想されている我々の世代はもっと注目してもいい食材だと思いましたが、如何でしょうか?

屋上菜園の状況

気温が上がってきた3月末から4月にかけて種を蒔いた葉物野菜が順次芽吹き始めています;

葉物野菜
葉物野菜

今年は、サニーレタス、ホウレン草、水菜、小松菜、チンゲンサイ、野沢菜、などの定番の他に、息子が徳島県で手に入れた「みよし菜」(小松菜・水菜・白菜の交配種)と友人たちからの情報で入手したイタリアの野菜、「プンタレッラ」を試験栽培してみました;

プンタレッラ
プンタレッラ

この二つの野菜は、秋蒔きを推奨していますので、春蒔きをすると恐らく虫との戦いが待っていると思われます

我が家でネギ類は一年中必需の野菜なのですが、前回「春が来た!」でご報告した通り、栽培していた100本のネギは冬の3ヶ月で食べ尽してしまいました。前回ご報告した通りアサツキや行者ニンニクは栽培しておりますが、ほんの薬味程度しか採れないので、現在市販のネギ購入のやむなきに至っています
今年は、普通の「太ネギ」の他、関西でよく食べられている「九条ネギ」、鍋に使うネギとして有名な「下仁田ネギ」、薬味として使う「細ネギ」の種を蒔きました。一番早く種まきをした太ネギの発芽状況は下の写真の通りです;

太ネギの発芽状況
太ネギの発芽状況

ネギは一般に栽培に時間がかかります。このネギは夏場になってから植え替えて秋から冬にかけて食卓に上ることになります。近くでネギ栽培をしているプロの農家に聞いてみたところ、今頃出回っているネギは冬を越したネギだそうです。また一つ勉強しました!

根菜類は、定番のジャガイモ(キタアカリ、男爵)、タマネギ(2種);

ジャガイモ、タマネギ
ジャガイモ、タマネギ

を栽培しておりますが、順調に育っています。恐らくゴ-ルデンウィーク明けあたりから収穫できると思っています
大根、カブ類としては、普通の「青首大根」とエストニアで種を購入した「ビーツ」を蒔きました。これから暖かくなると虫との戦いが始まります

夏野菜は、いつも通り「キュウリ」、「トマト」、「ナス」を、種から苗を育て、数日前に屋上のコンテナに植え付けました;

キュウリ・トマト・ナス
キュウリ・トマト・ナス

これ等の野菜について、今年は以下の三つの工夫を行うことにしました;
苗をいっぺんに作って一斉に育てるのをやめ、3回程度時期をずらして栽培すること(現在2回目に植える苗を育てています)
根の張り方の違い(キュウリは根が浅いのに対し、トマト、ナスは根が深い)を考慮し、キュウリは平たいコンテナトマト、ナスは大根類を育てる深いコンテナを使うこと
深いコンテナは、底まで水が行き届かずに高温が続くと苗が弱る傾向にあるという経験を活かし、トマト、ナスには深い所に水が届く工夫(次回に現物を紹介する予定)を加えること

私の両親が満州で長く生活したせいでしょうか、拙宅ではネギと並んでニラを多く消費します。繁殖力が旺盛なので、昨年までは三つほどのコンテナに密植していました(これで量的には十分!)が、葉がやや貧相になるので、今年からは肥料がよく行き届くように栽培するコンテナの数を増やし、プロに負けない立派な葉に育つよう頑張ってみたいと思います;

ニラ
ニラ

いま、吃驚していることが二つあります。一つは、ブロッコリーの花芽が際限なく出てくることです。八百屋で売っているブロッコリーは、最初に中心部付近にできる大きな花芽ですが、これを収穫してから暫く放っておくと際限なく!脇に花芽が出てきます。現在もなお出続けているので、毎日これを食べています。他の野菜より相当なお得感?があります;

ブロッコリーの脇芽
ブロッコリーの脇芽

二つ目は、キャベツを収穫したあと暫く放っておいたら、再び芽が出てきたことです;

キャベツの新芽
キャベツの新芽

これがどれくらい育つか分かりませんが、暫く様子を見てみたいと思います。とにかくこの類の野菜の生命力には驚かされます

最後になりますが、例年ハナミズキと同じ頃に咲き出すブルーベリーの花が美しく咲き乱れています。花は相当多いのですが、例年鳥に食べられてブルーベリーの収穫量はそれ程多くはありません。ワイフの趣味で餌場を設けて鳥を集めているのでやむを得ないか、といったところです;

ブルーベリーの花
ブルーベリーの花

以上

「100年時代の人生戦略」を読んで

-はじめに-

本書を読むきっかけになったのは、2017年2月18日にNHK・BS1スペシャルで放映された「ダボス会議2017どう生きる?人生100年時代」を観たことです。このパネルディスカッションには、以下のメンバーが参加していました;
司会者:河野憲治、NHK社員(今年3月まで”ニュースウォッチ9”のメインキャスターをやっていた)
パネリスト
1.デイビッド・B・エイガス:南カルフォルニア大学・医学部教授(ガンの権威、最先端医療の知識が豊富)
2.リンダ・グラットン:ロンドン・ビジネススクール教授(下記)
3.佐藤康博:みずほフィナンシャル・グループ CEO
4.ウィリアム・フランシス・モルノー:カナダ財務大臣(年金システムに詳しい)

ディスカッションは、概ね今回紹介する本の内容に沿って行われましたが、上記エイガス教授から、今回紹介する本の中では触れられていない以下の興味深いトピックが提供されました;
* 人間は120歳まで生きることが可能 ←(最近細胞が老化することを防ぐタンパプ質の存在が発見された)
ビッグデータの活用で、今後多くの新薬の発見が期待できる ←(最近、ビッグデータの解析から安い血圧の薬が卵巣がんに効くことが判明した ⇒ 4.5年の延命効果が期待できる)
* 退職を1年遅らせると、アルツハイマー病のリスクが3%低下する →(頭脳を使い続けることがアルツハイマー型認知症の予防になる)

著者の経歴、その他
1.Linda Gratton:ロンドン・ビジネススクール教授、人材論、組織論の世界的権威、二年に一度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング(50人)では2003年以降毎回ランキング入りを果たしている。また英タイムズ紙「世界のトップ15ビジネス思想家」に選出されている
2.Andrew Scott:ロンドン・ビジネススクール経済学教授、前副学長、オックスフォード大学のフェロー、欧州の主要な研究機関であるCEPRフェローを務めてい居る
本書の発行日は
原本“The 100-Year Life”初版発行:2016年6月2日
邦訳初版発行:2016年11月3日

以下は、この本の大まかな内容のご紹介です;

-この本のベースになっているデータ-

この本では、「人間の寿命が今後どう変わってゆくか」が最も重要なデータ(結論を左右する)になっていますが、これは以下のグラフで説明されています

ベストプラクティス平均寿命

“ベストプラクティス平均寿命”とは、平均寿命世界第一位となる国(先進国のみが対象)の平均寿命のことです。これを時系列で並べたものが上のグラフになります
上のグラフを見れば明らかな様に、過去100年近く、ほぼ一直線に平均寿命が伸びてきたことが分かります

次に重要になるのは、このグラフの傾向のままに寿命は本当に伸びていくのか?、また限界があるとすればそれは何歳か?、ということになります;
1.過去の平均寿命上昇の理由
* 1920年代の平均寿命の改善は子供の死亡率低下が大きい。結核、天然痘、ジフテリア、チフスなどの子供の命を奪った感染症の多くが抑え込まれた為
* 次に、中高年の疾患、特に心臓血管系の病気とがんの対策が大きい。また、病気の早期発見、治療と処置の改善、禁煙などの啓蒙活動の強化により、次第に健康水準が向上した
2.人間の寿命に上限はあるか?;
人間の寿命の上限については以下の三つの考え方がある;
悲観論者は、栄養状況の改善や乳幼児死亡率の低下はこれ以上見込めず、逆に歩かないライフスタイルや肥満によって平均寿命の上昇は足を引っ張られる
楽観論者は、啓蒙キャンペーンの効果は今後も大きく、それがテクノロジーのイノベーションと組み合わせることによって、平均寿命はまだ上昇し続ける
超楽観論者(レイ・カーツワイル/グーグルの人工頭脳チームのリーダー;テリー・グロスマン/医師)は、医学的アドバイスに従い、好ましい生活習慣を実践、バイオテクノロジーによる医療革命の恩恵に浴す、ナノテクノロジーのイノベーション(人工頭脳とロボットが老いた体を分子レベルで修復する)、の3ステップを経て数百年の寿命を手にすることができる
3.本書の著者は寿命の上限をどう考えているか?;
ベストプラクティス平均寿命の延びが鈍化していないことから、平均寿命は110~120歳まで上昇し続け、その後伸びが減速する、という楽観論者に近い考え方を持っています

次に上記の推論を前提にして、「現在生きている人は何歳まで生きられるか?という問いに応えなければなりません。その為には、平均寿命に関し以下の二つの理論を知っている必要があります;
ピリオド平均寿命:各年齢に現在までの実績に基づく平均余命を加えて平均寿命を算定したもの
コーホート平均寿命:各年齢に今後の平均余命が伸びるという前提で平均寿命を算定したもの
本書では、コーホート型の平均寿命を採用しています。平均余命は、あくまで現在までの実績をベースのしていますので、上で述べた平均寿命の延びが計算に入らないことになります
尚、年金制度の設計など、経済分野で平均寿命の推計を行なう時には、現在ピリオド平均寿命を使っており、結果として平均寿命を大幅に過小評価することになります。これが、年を追うごとに年金原資が足りなくなっていくという日本の現状をよく説明しています

こうした基本データを基に、本書でケーススタディー(ジャック、ジミー、ジェーン)を行っている3世代の平均余命を算出すると以下の様な驚くべき結果になります;
① ジャックの世代:1945年生まれ平均寿命が70歳前後
② ジミーの世代:1971年生まれ、平均寿命は85歳前後
③ ジェーンの世代:1998年生まれ、100年以上生きる可能性が高い

これを見て驚いたことは、ジャックは私と同じ年齢ジミーは私の子供達と同世代ジェーンは私の孫たちとほぼ同世代になります

―我々の世代はどんな人生なのか-

人生を考えるに当たって、本書では「ステージstage”」という言葉を使っています。ステージの意味を辞書で調べれば、あるプロセスの”段階、局面、時期”、となっています。例えば、地球の歴史でいえば「氷河期」の“期”に相当すると考えていいと思います

我々の世代の人生を、この“ステージ”で表現すると;
1.生まれてから就職する迄の時代(教育の期間):20年前後
2.職に就いている時代(労働の期間):40年前後
3.退職後死ぬまでの無職の時代(余暇の期間):?年間
の様な、3ステージの人生”と呼ぶことができます。我々は、この3ステージの人生をなんの疑いもなく送ってきた訳ですが、最近寿命が伸びたお陰で、退職後の時代が、職に就いている時代に匹敵するほど長くなってきた結果、年金システム(公的年金、企業年金)の破綻が叫ばれるようになりました

年金のシステムは、大まかに言って、確定給付年金確定拠出年金に分けられますが、以下の様にいずれも退職時期を固定し、退職後の期間が長くなれば破綻するのは当たり前の事です;
確定給付年金:給付額を固定し、給付のための原資は、受給者の退職前に積み立てたお金と現在働いている人が積み立てているお金(企業の補助金、税制優遇措置を含む)が充当されます。基本的に公的年金(国民年金、厚生年金、など)や一部大企業の企業年金がこれに相当します ⇒ 退職者が増加し、労働人口が減りつつある日本などは破綻することが明白です
因みに、老齢従属人口指数(労働人口に対する引退人口の割合)の実績及び今後の予想によれば、1960年、日本は10%(引退人口1人に対し10人の勤労人口が支える)だったのに対し、2050年ではこの数字が70%(引退人口1人に対し1.4人の労働人口が支える)に達すると予想されており、持続可能性が危ぶまれています
確定拠出年金:給付のための原資は、受給者が退職前に積み立てたお金(企業の補助金、税制優遇措置を含む)であり、退職後の期間が長くなれば受給額が目減りしてゆきます

こうした矛盾に対応するため、先進諸国では“定年延長”や年金原資に充当するための増税(日本では”消費税”の増税)などの対応を取っておりますが、上記を勘案すれば長寿化の流れに追いつくとは到底思えません

本書では、ジャック、ジミー、ジェニー、それぞれの世代が、3ステージの人生を送った場合、どのような結果になるかをケーススタディーしています;
シミュレーションの前提は以下の通りです;
1.老後の生活資金を、最終所得の50%とする
2.長期の投資利益率をインフレ率を除いて3%する(リスクの殆ど無い投資と、リスクの高い投資を組み合わせる。税・手数料引き前)
3.所得上昇のペースを年平均4%とする
4.ジャックは62歳で引退、ジミーとジェニーは65歳で引退する

ケーススタディーの結果は;
ジャックの世代:妻は専業主婦(一時パートで働いた時もあった)、主たる稼ぎ手は常にジャック、62歳で引退、70歳で死去。老後の生活資金は3種類(公的年金、企業年金、個人の貯え)、現役時代に老後のために所得の4%あまりを蓄えることは難しい事ではなかった

ジミーの世代:65歳まで働いて引退する積り。企業年金は受給できない。年金改革は進められるものの、公的年金は最終所得の10%程度にとどまる。退職後、最終所得の50%確保するためには、毎年所得の17%を貯蓄に回さねばならず非常に難しい

ジェニーの世代:65歳での引退を前提に3ステージの人生を送るという生き方は最早不可能。何故なら、最終所得の50%の老後生活資金を確保するには、労働期間に毎年所得の25%も貯蓄しなければならず、しかも、ここには住宅ローンの返済や子供の学費が入っていない。また、公的年金の10%も受給できる蓋然性は低い

このケーススタディーの結果から得られる結論は、ジャックの世代は3ステージの人生が適していたのに対し、長寿時代のジミーやジェニーの世代では、3ステージの人生は経済的に成立しないことになります
言い換えれば、何の対応もせずにこのまま推移すれば、私たちの子供や孫の老後には、惨めな貧困が待っていることになります。勿論、幸運にも億万長者になれた人や莫大な遺産が転がり込んだ人は別ですが、、、 こうした幸運に恵まれない一般の人は、働く期間を延長するしか対応しようがないということになります

なお、上記ケーススタディーでは、私と同い年のジャックは70歳で死去しています。現在の日本では、このケーススタディー以上に長寿化が進んでおり、不肖私も70歳を超えて生き続けて!おります。日本では、私の世代でも3ステージの人生は現実に合わなくなっているのかもしれません

-子や孫の世代はどんな人生になるのか-

前段で述べたように、子や孫の世代は、好むと好まざるとに関わらず多くの人が人生の長い期間働くことになります。しかし、我々の世代でも40年は長い労働人生でしたが、これが70年、80年間働くことになればどの様な問題が考えられるでしょうか?
本書では、以下の様な問題点を指摘しています;
1.人生の最初に選択した職業が自身の適性に合っていなければ、長い労働生活に耐えられないのではないか?
2.近年の人工頭脳(AI)やロボットの進化の速度を考えれば、業種によっては働き続けることが難しくなるのではないか?
3.同じ仕事を一生涯続けていくことの単調さに耐えられるかどうか?

この様な問題点を克服するために、本書では3ステージの人生をではなく、マルチステージの人生が必然になる時代が来ると予測しています

一方、長寿となった人生を実りあるもの(生きがいのある人生とするために、企業で働くというステージの他に、以下の様なステージの選択肢を用意する必要性を説いています;
1.エクスプローラー:エクスプローラーという言葉は、一般に”探検家”と訳しますが、本書では、「興奮、好奇心、冒険、探査、不安、一か所に腰を落ち着けるのではなく、身軽に、機敏に動き続ける」活動というイメージになります。敢えて言えば、戦中世代を代表する作家である小田実が、「何でも見てやろう」という本の基になった、若い時代の世界放浪の旅のイメージでしょうか
このステージは、発見の日々となります。旅をすることにより世界について新しい発見をし、併せて自分についても新しい発見ができるステージになります
また、このステージは、自分を日常の活動から切り離すことから始まります。ただ、観光客が旅先の町を見物する様な態度では、大きな成果は得られません。望ましいのはこのステージで多くの人との係わりを持つことです
私とって何が重要なのか?」、「私が大切にするものはなにか?」、「私はどういう人間なのか?」など、具体的な問いをもって探索に出る場合もあれば、「はしゃいで跳ね回ること」が目的であってもいい。こうした冒険(何を見て、誰と出会い、何を学ぶか)を通じて得られるストーリーが未来の人生の指針になります

2.インディペンダント・プロデューサー:普通に翻訳すれば”起業家”ということになりますが、ここでは今までの起業家とは性格の異なる新しいタイプの起業家になったり、企業と新しいタイプのパートナー関係を結んで経済活動に加わることも含めています
旧来のキャリアの道筋から外れて、自分のビジネスを始めた人たちがこのステージに入ります
また、インディペンダント・プロデューサーは、自分の職を生み出す人であり、人生のどの段階にある人でも実践できます

3.ポートフォリオ・ワーカー異なる仕事を同時並行的に行うステージです
ポートフォリオ・ワーカーを、様々な可能性を探索し、実験するために積極的に選択する人もいれば、やり甲斐のある仕事に就けないために、不本意ながらそれを選ぶ人もいます
企業幹部などに100年ライフを説明した後でアンケートをとると、以下の様な活動を組み合わせたポートフォリオ・ワーカー型の生き方を選ぶ人が多い様です;① 所得の獲得を主たる目的とする活動、地域コミュニティとの係わりを主たる目的とする活動、親戚の力になるための活動、趣味を極めるための活動、など
スキルと人的ネットワークの土台が確立できている人は、高い価値を生み出せるポートフォリオ・ワーカーになることができます
ポートフォリオ・ワーカーの核になるのは、有給の仕事です。企業のCEOであった人は、どこかの取締役に名を連ねることなどの選択肢を採ることができます
一方、過酷な労働人生を送ってきた人は、楽しく過ごしたり、社会に貢献したり、友人と過ごす時間を選択肢に加えることができます
ポートフォリオ・ワーカーは、以下の三つの側面のバランスを取ることになります;支出をまかない貯蓄を増やすこと、過去の経歴とのつながりがあり、評判とスキルと知的刺激を維持できるパートタイムの役割を担うこと、新しい事を学び、やり甲斐を感じられるような役割を新たに担うこと

上記のような仕事のステージを組み合わせて、自分に適したマルチステージの人生を設計するにあたって、本書では、貯蓄などの“有形の資産”だけでなく、下記の様な”無形の資産“の構築を自身のステージに適切に組み込んでいかなければ、長寿がもたらす恩恵を享受することはできないと言っています;
1.生産性資産:仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素で、スキル知識が主たる構成要素になります
2.活力資産:肉体的・精神的な健康幸福感(友人関係、パートナーやその他の家族との良好な関係、など)
3.変身資産:“自分についてよく知っていること”、“多様性に富んだ人的ネットワークを持っていること”“新しい経験に対して開かれた姿勢を持っていること”。このタイプの資産は、旧来の3ステージの人生ではあまり必要とされませんでしたが、マルチステージの人生では、あるステージから次のステージに移行する時に必要な資産になります

<ケーススタディー(マルチステージへのチャレンジ)>

ジミー(我々の子供たちの世代)のマルチステージの人生
途中まで3.0ステージの人生を送ってきた
が、50歳になって変化の速いテクノロジーの世界で、自身のスキルが時代遅れになり職場で脇役に追いやられてしまった。有形の資産をチェックすると65歳で引退するには貯えが足りないことに気づいた
1.3.5ステージの人生
ケース1:会社時代の古い友人が近所の社会人大学で学長をやっており、彼に誘われて、週一回夜間の講義を行う生活に入る。給料は減るものの、自分の能力は生かせるという実感が生まれると共に、仕事と家庭のバランスも生まれる。しかし、お金にゆとりはなく、多くの友人達ほどには夫婦での旅行は楽しめない。大学ではよき同僚と評価されてはいるが、1年たつごとに自分の知識と経験が古びていくことを痛感し、71歳で寂しい引退となる
ケース:夫婦の古い友人の紹介で、隣町の店の手伝いと他のスタッフの監督を行うことを頼まれる。給料は大したことは無いが、社交的な生活なので仕事そのものはそれなりにたのしい

3.5ステージのシナリオは、資金計画を成り立たせる助けにはなり、活力資産をはぐくむための時間がたっぷり確保できる。しかし、生産性資産を充実させたり、変身資産を活用したりすることはほとんど無い。追加の0.5ステージは3ステージの人生の付録程度の意味しか持たない

2.4.0ステージの人生
ケース1ポートフォリオ型の新ステージを選択)
45歳の時、立ち止まって自身の人生とまわりの世界を考えてみたところ、このままでは、資金計画が成立しないことと、自身のスキルがいずれ陳腐化することに気づく。しかし、新しいスキルを習得すれば、業界内の高成長分野に転身できる可能性が高まることが分かり、妻と相談してチャレンジすることを決心する
週末、休暇を使って研修プログラムに参加し、最終的に業界でよく知られた証明書を受け取り、この資格を有効に使って条件のいい会社に転職した。一方、妻もフルタイムで働ける職場で働きはじめた
新しい会社は、ジミーに有給の研修の受講を認めてくれたため、仕事の傍ら、3年間かけてマネージメント能力、アウトソーシング手法、ロボット工学などを学んだ
更に、上級レベルのプロジェクト・マネージメントと研修プログラムに参加し、プロジェクトマネージャーの世界規模の人的ネットワークを築いた
*65歳になったジミーは、二つめの企業も退職し、望み通りポートフォリオ型ライフを始めた。価値の高いスキルを持っているおかげで、刺激を味わえる仕事を得られ、70代後半になっても、まだ仕事の依頼がある

ケースインディペンデント・プロデューサー型の新ステージを選択)
45歳の時、会社の仕事は過酷で、家庭の負担も大きいことに耐えられなくなってきた。家計の維持と住宅ローンの返済で、現在のままでは70歳で老後資金が必要なだけたまらない事が分かった。そこで、余暇時間の一部をレクレーション(=娯楽)ではなく、リ・クリエーション(=創造)にするために使い、起業に向けた準備を始める
起業の為の準備として、仕事の傍らサイド・プロジェクトを行い、起業後の仕事の感触を探り始める。また、地元の企業家クラブに加わると共に、会計とマーケティングのオンライン講座も受講する
現在住んでいる町は規模が小さく、起業後の顧客があまり存在しないことが分かった為、会社の上司に掛け合って、大都市の拠点に異動を願い、叶えられる。大都市の拠点には、中小企業が多く集まりビジネスが盛んだ。新しい町に引っ越すと、早速これらの人との人脈づくりを始めた
*48歳の時、企業設立の準備が整うと同時に、夫婦で支出を細かく見直し、出費の少ないライフスタイルに変更し、質素な生活を心掛けるようになった。これにより、いざという時の貯えを少し増やすことができ、倹約生活にも慣れることができた
*49歳になって、友人と一緒に会社を設立。二人の地元のコネを通じて最初に二つの顧客を獲得し、人的ネットワークを利用して海外の提携企業と緊密に協力することにより、低コストで高いサービスの提供を始めた

二つのシナリオのまとめ
ポートフォリオ型にしろ、起業家型にせよ、4.0シナリオを実践するためには、現在の状況にしっかり目を開き、待ち受けている未来をじっくり検討しなくてはならない
いずれのシナリオでも、ジミーは勇気をもって大きな変身を遂げ、自分を「再創造」させたが、簡単な道ではない。また、目指す人すべてが成功するわけではない
成功を収める人たちにとっても、変化はストレスを伴う試練と感じられるだろう。こうした局面で重要になるのは変身資産である
二つのシナリオは、いずれも有形の資産と無形の資産を構築・増強でき、更に老後の生活資金を増やし、生産性資産と活力資産も増やすことができる
二つのシナリオの重要な違いは、起業家型の新ステージは、お金の面でも無形の資産の面でもよりリスクが大きく、ストレスも大きい。一方、ポートフォリオ型の新ステージは、夫婦が一緒に過ごせる時間を多く確保できる。どちらを選ぶかは、本人の嗜好と状況次第だ

ジェーン(我々の孫たちの世代)のマルチステージの人生
ジェーンの人生は非常に長いので、有形の資産と無形の資産の両方で問題が持ち上がり、3.0シナリオや3.5シナリオは実践不可能になる。従って、ジェーンは、4.0シナリオ、か5.0シナリオを生きるしかないことになる。長い年数働き続けるためには、無形の資産への大々的な再投資を行い、自らを再創造して変身を遂げなくてはならない

5.0ステージの人生
*21歳の時、自分が100年以上生きる可能性が高いことを前提に人生の選択を行う。そこで人生の進路について大きな決定を下すことを避け、さまざまな選択肢を模索することが必要と考えた。現代史を専攻して大学を卒業した後、旅に出る。その間、各種資産を築かないままに、不安定な雇用形態で働くことも厭わない。つまり、エクスプローラーとしての日々を送ることになる
アルゼンチンとチリへの旅行の途中、ブエノスアイレスに3ヶ月滞在し、スペイン語の集中講座を学び、技能検定試験にも合格する
料理好きなジェーンは、ラテンアメリカの期間限定の屋台に強い興味を抱く。自身もフィエスタ(お祭り)の日だけの屋台を始められないかと考え、流ちょうになったスペイン語を駆使して、他の都市のフィエスタ主催者と連絡を取り、実際の屋台ビジネスの経験を積む。収入は僅かだが、滞在費用をまかなうには十分である
この時期、ジェーンは楽しみながら、組織づくりのスキル予算策定の基礎、ラテンアメリカ各地のフィエスタ主催者とのコネも築く。帰国した後も、知り合った人たちとの人的ネットワークを維持する
*28歳になって、数人の友人とフィエスタ・ビジネスの会社を立ち上げ、インディペンデント・プロデューサーとして、組織に属さずに働く。初期の仕事は、幾つかのストリート・フィエスタの企画と運営であった。事業を立ち上げる人の多くと同様に、ジェーンは資金繰りに苦労するが、経験豊かなサムという人物と知り合い、イベントを手掛ける多くの起業家を紹介してもらったほか、資金調達に関して視野を広げるよう促された。オンライン上で不特定多数の人から資金を調達するクラウド・ファンディングで出資を募る
オンライン上での評判を確立する必要性に気づき、サムから“元気で面白い人物”というイメージ作りのコツを教わった。毎週ブログを更新し、フィエスタ主催者たちの間に熱心なファンを獲得してゆく。ジェーンは、自分についての知識を深め、人生の選択を間違えない様に有形の資産よりもむしろ、無形の資産(人的ネットワークの充実、評判の確立)の形成に多くの投資を行う

*35歳になった時、今後10年ほどで金銭的資産を築かなければならないと自覚した。オンライン上の存在感が高まったいたジェーンは、大企業の幹部たちの目にとまり、数社から入社を誘われる。食とエンターテインメントの分野での経験、質の高い人脈、新しい取り組みと顧客ニーズを取り込んできた実績が買われた。そこで、世界中の食関係のイベントを紹介したいと思っていた食品会社選んで入社、それなりの給料と地位を得た
*30代半ばで大企業に加わったジェーンは、意思決定が遅く、アプローチが官僚的である企業文化にすぐにはなじめなかった。しかし、いくつかの国際的な役割を歴任し、その都度給料が大幅に上昇すると共に、職業上のアイデンティティーは「ベンチャーの人」から「大企業の世界で活躍できる人」へと変貌した
ラテンアメリカで過ごした経験により、持続可能なサプライチェーンの構築という難題について、深い理解が得られたことに気づき、このテーマに関する知識を更に増やすために、専門のセミナーに参加。それを通じて、他の企業関係者やNGO関係者など接点がなかった人たちと人的ネットワークを築く
*37歳を迎えた時、人的ネットワークを土台に、アマゾン地方やルワンダのクループから、食品フレーバーの原料を購入するプロジェクトを立ち上げた。ジェーンはこのプロジェクトを通じて、ビジネスの実態を知り忙しい毎日を過ごす。持続可能なサプライチェーンに関する記事などで、頻繁にブログを更新したり、講演を行なったりして、職業上の評判を確立することにも腐心する

平均寿命が伸びても、出産に適した年齢は伸びないので、出産時期という大きな問題に直面するし、ブラジル旅行中に地元のNGOで働く男性と知り合い結婚する。ジェーンは37歳で長女を39歳で長男を出産する。ベビーシッターの力を借りつつ、夫婦で家事を分担して生活する
*43歳の時、新しい経営陣に代わり、今後の昇進は難しいと気づき、新しい選択肢の模索を始める
厳しい決断だったが、45歳の時に退職する。一家の所得は夫からのみとなり大きく落ち込むが、厳しいながらも破綻せずに済む
時間に余裕ができたジェーンは、学校に通う子供の世話、高齢の両親との時間を過ごしたりできるようになったが、数年先には仕事を再開すべきだと思うようになる。夫はジェーンが仕事を再開したら仕事を辞めて、自分の進む道を検討しようと計画している
ジェーンは、自身のアイデンティティーを見つめなおし、様々な選択肢について友人や知人の話を聞き、進むべき道を検討する。これは変身資産を強化するプロセスといえる
ジェーンは、所得を最大限増やすために人材採用の仕事を目指すことに決めた。必要となる生産性資産は、人間の心理に関する知識であることが分かり、2年間かけてオンライン講座で学び、大学で職業心理学の学位も取得する。
その後、ホテル、旅行、食品分野を専門とする人材会社に入社し、人材採用コンサルタントの道を歩み始める

*48歳の時、有形の資産の形成に力を入れる日々を送るが、この後15年間、同じ業界内で数回の転職を重ねたうえで、60歳の時にヘッド・ハンティングされて、業界屈指の大手企業の取締役に就く。これを機に、生産性資産を構成する要素が変わり始めた。社内の他のメンバーのメンタリングやコーチングの機会は増えると共に、その人たちの人的ネットワークの一員としての役割が大きくなる。一方、仕事は過酷で、出張も多く、家族のために避ける時間が無く、活力資産が底をつきつつある
*70歳の時、金の面ではうまくいくものの、友人達とは疎遠になり、夫との関係も緊張し、健康も悪化し始めた。そこで、活力資産を最優先にした生活に転換することを決める。子供たちにはもう手がかからず、夫婦で一緒に旅に出る
*72歳の時、リフレッシュしたジェーンは、キャリアの次の段階に移行することを望む。ただ、過酷な仕事や大幅に時間を制約される仕事にはつきたくない。それまで築いてきた変身資産でプロジェクトを計画する。様々な要素で構成されるポートフォリオ型の生き方を実践する;1年に30週は、週に1日ラテンアメリカのストリートチルドレンを支援する国際組織で働く、週に1日、ローカルな中規模の小売企業で非常勤取締役の仕事をする、2週間に1日は、地元の治安判事も務める
*85歳のとき、ジェーンは本当に引退する。これ以降は、孫やひ孫と過ごす時間を大切にし、毎年1回は、彼らを連れてアマゾン地方に出かけ、自分の人生で大切な意味を持った土地を訪ねる

-長寿化によって人間関係が変わる?-

本書が予測するところによれば、長寿社会が到来すれば、人生のあらゆる側面が変わると考えられます。ジェーンの5ステージのケースをご覧になれば分かる様に、夫婦やパートナー同士の関係はより長期のものになり、その間多くの変化を経験することになります。
また、子供の数は減るものの、孫やひ孫の家族が増え、高齢者と若者との関係が今より緊密になる機会が増えると思われます。仕事の世界も変わってゆきます。家族の多くのメンバーが職を持ち、70歳代や80歳代で働き続ける人も増えることになります。
また、職に就く女性が増えれば、伝統的な家族の在り方が崩れ、家族のメンバーが担う役割も大きく様変わりすると考えられます

<家庭>
長寿化の進行とマルチステージの生き方が一般化した結果、選択肢を残しておくために結婚の時期を遅らせること子育て期間の割合が縮小することが起こります。因みに、1880年には全世帯の75%に子供がいましたが、2005年にはその割合が41%%まで下がっています
子育てせずに人生のかなりの期間を過ごすことは、ジャックの世代(我々の世代)の夫婦の役割分担は説得力が大幅に低下します。性別役割分担が変わってきた要因には、家電用品・調理済み食品の普及により家事の負担が軽くなったこと、男女の賃金格差が縮小してきたことなども考えられます。パートナー同士で生産の補完性(夫婦の固定的な役割分担)が重要でなくなると、二人の間に純粋な関係が生まれと思われます。それは、不変の関係でもなければ、惰性で継続されるような関係でもなく、二人の間で調整を重ねていく関係となるはずで、相手と深く関わろうという意思が重要になります

経済的な面では、生産の補完性から「消費の補完性」の重要性が高まります。つまり二人の人間が、別々に大きな家を買ったり、休暇を楽しんだり、生活に必要なものを調達したりするより、二人で一緒の方が安く済むことは当然の事です
リスク分散の効果も見逃せません。何らかの理由で所得が途絶えた時、経済的に互いを支えることができます。これは近年、同類婚(自分と教育・所得レベルが近い人を結婚相手に選ぶ)の傾向がみられる一因かもしれません
本書では、多くの人が結婚を選択することを前提に話を進めてきましたが、事実婚やシングルファーザー、シングルマザーなど、様々な結婚の在り方が出現する可能性を否定する訳ではありません。しかし法律上の婚姻関係が、長期的であり、権利が法的に強く保護されており、離婚時の財産分与の仕組みなどが確立されていることなどを勘案すると、夫婦間で多くの調整が必要とされるマルチステージの人生では、むしろ結婚の重要性は大きくなると著者たちは考えています

<仕事と家庭>
仕事の世界で経済的な役割やキャリアの選択が変われば、家庭でのパートナーとの関係も変わってきます。OECDの調査では、1980年、25~54歳の女性で職に就いているか、職を探している人の割合はOECD加盟国平均で54%でしたが、2010年にはこの割合が71%まで上昇しています
*働く女性の割合は、未だに国による違いは大きい。男女の労働参加率の格差は、日本、イタリア、韓国などでは20%前後に達するのに対し、格差の少ないノルウェー、スウェーデンなどの国は5%未満となっています。この格差が大きい国は、女性が100年ライフの設計する際の選択肢が乏しいことになります
*現状では家事と育児をほとんどを女性が担っている国が多いものの、将来男女が家庭に等しく関わる様になれば、伝統的な性別役割分担の在り方が変革を迫られることは確実になります。マルチステージの人生では、家事と育児を主に担う役割をステージごとに交替してもいいと著者たちは考えています
*問題は、労働参加率の格差こそ縮小しつつありますが、賃金の格差が残っていることにあります。その原因の一つは、高い地位についている女性の数が少ないことにあります。多くの大企業で中級管理職の約30%を女性が占めていますが、全体としてみれば15%程度に過ぎません。ILOの報告書によれば、男女の賃金格差がなくなるまで、少なくとも70年かかると言っています

現状で柔軟な働き方を実践しているのは、もっぱら女性です。幼い子供の世話や、高齢の親や親族の介護をしたりする必要上そのような選択をすることが多いと考えられます
*自由裁量で仕事を進めやすい職(「融通性」の高い職)は、テクノロジーとサイエンスの分野であり、この種の職では男女の賃金格差が小さい
*今後こうした状況は、柔軟な働き方に対する人々の考え方、バーチャルテクノロジーが進歩するペース、業務が標準化される程度、高い地位にある男性が子供と多くの時間を過ごすロールモデルになる、などの度合いにより影響を受けると思われますます

ジェーンの5.0シナリオでは、夫婦が両方ともフルタイムで働く時期だけでなく、片方がフルタイムの仕事を離れて、育児や、知識の習得、ステージの移行への準備を行っていました
*マルチステージの人生の下、男性たちが柔軟な働き方を選択し始めた時、何が起こるか?;【悲観論】柔軟な働き方をする人が、男女とも低所得に甘んじ、結果として男女の賃金格差が縮小する、【楽観論】柔軟な働き方が企業や個人に課すコストを減らすために、仕事の在り方自体が根本から変わる。つまり、企業が仕事と年齢とジェンダーについて大きく発想を転換し、キャリア全体としては男女の生涯所得の格差が縮小に向かう
*いずれにしても、夫婦が役割を交替しながら、複雑に入り組んだマルチステージの人生を送るためには、夫婦の間で徹底的なする合わせを行うことと、強い信頼関係と協力関係を築いていることが不可欠であると著者たちは考えています

*現在、65歳以上の人の内結婚している人の割合は歴史上最も高くなっています。その割合は16~65歳の層と肩を並べるまでになっています。この背景には、寿命が伸びていること、夫婦の年齢差が縮小していること、再婚する人が増えているという要因があります(再婚に対する社会的偏見も薄らいでいるという事情もある)
*現在は、結婚年齢が上がり、離婚の割合が減り、再婚の割合も減っています。これは、結婚生活の土台が「生産の補完性」から「消費の補完性」に変わったため、結婚相手を選ぶ基準が変わって結婚が長続きするようになったこと、及び、結婚年齢が上昇し、人々が自分についての知識を多くもって結婚するようになったためと著者は考えています

<多世代が一緒に暮らす時代へ>
これまでの3ステージの人生では、同世代の人たちが一斉行進をする様に人生のステージを進むため、年齢層ごとに人々が隔離されて生きる欧米型の社会が出現しました。しかし、マルチステージの人生では、エイジ(年齢)とステージが一致しなくなり、大人が若々しく生きるようになる結果、世代間の関係に大きな変化が生まれます
*インドの様なアジアの国を訪れると、欧米ではめっきり見なくなった家族の在り方に目を見張らされます。子供と祖父母が一緒に暮らしている家庭が多く、子供たちは祖父母と多くの時間を過ごし、勤労世帯は親の支えを頼もしく感じられ、高齢者は自らが役割をもって貢献できると実感できている
高齢での孤独は寿命を縮めます。高齢者が家族の中で生きることには、確かなメリットがありますが、一方、多世代の同居は、プライバシーを確保できないことや、世代間で衝突が起きるなどの弊害もあります。
*40~50年前は欧米でもアジアの様に多世代同居型の家族が当たり前でしたが、現在では小規模な家族が一般的になっています。例えばデンマークでは、家族の構成員の数は平均してわずか2.1人過ぎません
*家族が多世代で構成されるようになれば、異なる世代が理解を深め合う素晴らしい機会が生まれます。また世代を超えた人間関係が築かれれば、年齢に関する固定観念や偏見も弱まるはずです。恐らく重要なのは、互いに親しみを抱き、世代間の触れ合いを長期的、安定的に続けることが重要になります

人類の長い歴史を通じて、人生の最大のイベントは出産と子育てでした。この時代、長生きすることの進化上のメリットは無かったと考えられます。寿命が延びれば、人生の中で子育てに費やされない時間が長くなる。その結果、友達付き合いが生活の中心になる時代が新たに出現するかもしれません
*最近の学生は、主たる人間関係として友達を重んずる傾向が強く、昔であれば家族に求めた様な温かみのある関係を友達に求めたいと思っています。このように、年齢的に均質な人的ネットワークの中でメンバー同士が付き合えば、その集団のアイデンティティが強化されます。その結果、生き方についてみんなが同じ考え方をしてしますことになります。
*問題は、年齢による分断が高齢者差別につながることです。異なる年齢層の人と交わらなければ、「我々対彼ら」という発想にはまり込み、固定観念と偏見を抱きがちになることになります ← (萩本欽一が70代で駒沢大学に入学し、そこでの経験を”週刊文春”に寄稿していますが、若い学生たちとの交流で、見事に年齢の壁を越えているのに驚きます)
*マルチステージの人生が一般的になれば、異なる年齢層の人たちが同じ経験をする機会が生まれます。心理学者のゴードン・オルポートの古典的な研究が明らかにしたことは、「固定観念と偏見を打破する手立ての一つは、集団間の接触を増やすこと」である
*年齢層の異なる人たちが触れ合う機会が増えれば、人的ネットワークの均質性が崩れはじめます。こうして高齢者が「別世界」の住人という状況は変わり始めるに違いありません

-本書を読んだ感想、その他-

本書は、引用文献のページだけで15ページに達することでご理解して頂けると思いますが、ビジネス分野における論文に近いものと思われます。論文であるが故に、出所の確かな文献を引用しながら、論理的な完璧性を目指していることは確かで、ぐうの音が出ないほどに筋が通っています
しかし、人生の選択は極めて個人的な問題であり、本書が勧めているマルチステージの人生が、すべての人に当てはまることはあり得ません。本書の著者も強調している通り、マルチステージの人生を送るためには、本人自身の覚悟と厳しい決断、不断の努力が必要となります。
従って、働かずとも十分に豊かで、余生を快適に!過ごしている人や、豊かではないものの、思索にふける孤高の人生を求めている人達には、本書が提供する”人生100年時代の人生戦略”は、全く役に立たない理論だと思います

いつの時代にあっても、大きな変革期には、私共の様な”普通の人々”が荒波に揉まれ、取り戻せない過去を悔やむことになります。
戦後70年を経て、人工頭脳(AI)、ロボット、クラウドサービスなどの先端科学が急速な進歩を遂げつつあり、産業構造が大きく変わろうとしています(本書ではこれを「スキルの価値が瞬く間に変わる時代」と表現しています)。また、生命科学・医療の進歩に伴い、着実に寿命が延びてきています。時代の大きな変革期にあって、我々の世代の人生設計の継続では、少なくとも子供や孫たちには、輝かしい未来は待っていないということは確かであると思います

振り返ってわが身を見れば、私自身が、突然の企業年金の大幅減額に慌てふためいて!いる現実がある一方、我が子3人の内2人は既に、苦しみながらではありますが、本書の定義による、エクスプローラーのステージ、インディペンダント・プロデューサーのステージ、ポートフォリオ・ワーカーのステージを経験しつつあり、更に、本人たちが意識しているかどうかは別にして、同類婚結婚の時期を遅らせることを実践している様であります

ところで、本ブログでは、終章で扱っている「自己意識」、「教育機関の課題」、「起業の課題」、「政府の課題」などは、敢えて本ブログでは触れていません。何故なら、ここでの提言はほとんどすべてが、それ以前の章で述べられているからです。ご興味のある方は下記の方法で添付のレジュメをご覧ください。尚、最近、安倍政権で取り組んでいる”働き方改革(働き方改革・実行計画要旨)”が、この流れにある事は間違いないようです

本書は、目次を見た時から内容が豊富で、ざっと読んだだけでは頭の中で内容が整理できないと思い、講義を受ける時の様にレジュメを並行して作りながら読み進みました。最初は、大学での半年の講義分の10ページ程度を予想していましたが、最終的には70ページになってしまいました。読み終わってから、レジュメの内容をチェックしてみると各章、各テーマで既述内容の重複が多いことに気が付きます。これは恐らく、著者たちが行ったロンドン・ビジネススクールでの講義をベースにして執筆された為ではないかと想像しています。逆にいえば、必要な章のみ(あるいは興味のあるテーマのみ)を読んでも、ある程度内容が理解できるようになっています。従って、このブログの内容をもっと深く知りたいという方のために、私の拙いレジュメ(Life Shift_読書メモ)も添付しました。ワードで作成してありますので、ダウンロードした後、最初の目次から、ご覧になりたいトピックにマウスを移動させ、”コントロール・ボタン”(キーボードの通常最下段の両端にあります)を押しながらマウスの左ボタンを押せば、そのページにジャンプすることができます

以上

 

 

春が来た!

長い冬が峠を越え、我が家の屋上にも春の息吹が感じられる頃になってきました。上の写真は、友人から頂いたフキの苗を裏の狭い路地に植えたものです。毎年2月頃にフキノトウ、春以降は葉を佃煮などにして楽しんでおります。ことしも2月中頃にフキノトウの初物を食べ、沢山出てきたらフキみそを作ろうと話していたのですが、すっかり忘れてしまい、今日チェックしたところ、上の写真の様に全て花が咲いていました。残念!

春の息吹_行者ニンニク・アサツキ
春の息吹_行者ニンニク・アサツキ

昨年秋、春の野草を楽しみたいと購入した「行者ニンニク」と「アサツキ」が目を出してきました。恐らく収穫は4月後半になると思いますが、楽しみです

ブルーベリー・ラズベリー・ブラックベリー
ブルーベリー・ラズベリー・ブラックベリー

ブルーベリー・ラズベリー・ブラックベリーなどのつぼみが膨らんできましたが、若葉がでるまでにはまだ時間がかかりそうです

メインの冬野菜として白菜、ネギ、キャベツ、ブロッコリーを栽培しましたが、白菜12ヶ、ネギ100本は3ヶ月で食べ尽し、やや出来損ないのキャベツとブロッコリーが、鳥の食害(冬は野鳥にとっても過酷な季節なので許してあげないといけませんね!)を受けつつ少々残っているばかりです;

キャベツ・ブロッコリー
キャベツ・ブロッコリー

一方、たび重なる寒波に耐え、冬のあいだ我が家に貴重なビタミンを補給してくれた“けなげな野菜”である野沢菜、水菜は、寒さで葉がやや黄ばんでいるものの、下記写真の様に未だ頑張っています;

冬の寒さを耐え忍び、春を迎えた野菜
冬の寒さを耐え忍び、春を迎えた野菜

これらの野菜からは、現在以下の写真の様な普通の八百屋さんでは買えない“菜の花”が収穫できます;

野沢菜と水菜の菜の花
野沢菜と水菜の菜の花

また、玄関へのアクセスの脇に、魚を飼うために作った10メートル程の水路(勝手に“ビオトープ”と称しています)には、クレソンが自生しています。下記写真の様に今が食べ頃です。因みに、春から夏にかけては虫がついて食べられてしまい、食用にはなりません(この水路には、金魚以外に各種生物が住み込んで!いますので、殺虫剤は使えません);

クレソン
クレソン

昨年11月に植えた“タマネギ”は、寒い冬を耐え、下記写真の様にようやく成長を始めました。写真左のタマネギは、大きく育てますが、右のタマネギは小さいうちに収穫し、シチューの具などに使う予定です;

タマネギ
タマネギ

白菜を収穫した後のコンテナは、土を再生した後、ジャガイモを植えました。今年は、「キタアカリ」の他に「男爵」も植えつけました。今年の工夫は1ヶのコンテナに種イモ2ヶを植えつけましたが、昨年(コンテナ1ヶに種イモ1ヶ)との収量の差を確認するのが楽しみです;

ジャガイモの植付
ジャガイモの植付

本格的な春に植え付けを行う予定の苗は、3月初旬から苗の育成を始めています。まず30度程度の温度を確保できる自作の“発芽装置”(詳しくは夏野菜の発芽・育苗の工夫_①を参照してください)を使って発芽させ;

発芽装置
発芽装置

発芽後は、居間のベランダに設置した自作の“育苗装置”(詳しくは夏野菜の発芽・育苗の工夫_②を参照してください)で苗に育てます;

育苗装置
育苗装置

現在、育苗段階に入っているのは、“サニーレタス”(←我が家の朝食のサラダに不可欠な野菜)と“プンタレッラ”です。プンタレッラは、私の親しい友人たちが2月にイタリアにスキー旅行を敢行し、市場で手に入れて食べた野菜で、食味を絶賛していたものです。さっそくネット経由で種を取り寄せ、実験的に栽培を始めたものです。日本では秋に栽培するのがいいようですが、春作が可能か確かめてみたいとおもいます

私の住んでいる埼玉県は、首都圏に出荷する野菜の産地として有名です。ちょっと散歩をすれば、真冬であってもプロの農家は、ビニールの覆いをしただけで見事な葉物野菜を育てているのを見ることができます。
昨年、天候不順のために冬野菜の栽培に苦労した経験(詳しくは冬野菜の収穫を参照してください)から、保温の効果を確認することができましたので、今年からは、以下の様にビニールの覆い(勿論!透明なゴミ袋使用)を使って3月初めから種まきをしてみました。成功するかどうかおなぐさみ!です;

大根・人参
大根・人参
大根・人参
大根・人参

以上

 

 

 

 

高齢者スキー技術の実践_その2

前回の投稿(高齢者の為のスキー技術を実践してみました!)で、生意気な理論を振りかざし、“ほぼ理論通りの滑りが出来た!”かの様な報告を致しましたが、証拠になるものは何も提示できませんでした
今回、私のスキー仲間(上の写真:ほぼ全員が私よりスキー歴が長く、技術レベルも遥かに上を行っているスキーヤーです)と一緒に北海道のルスツスキー場で滑ることができ、私の滑降中の動画を撮ってもらうことができました。以下の連続写真は、動画から起こした写真をターンに合わせて並べてみたものです;

谷回りターンの分解写真
谷回りターンの分解写真

これまでの投稿で申し上げてきた通り、この滑降スタイルの狙いは、筋力が無くバランス感覚が衰えた高齢スキーヤーが、安全にスキーを楽しむ為のものです。このスタイルのポイントとして挙げたことは;
 腿を立てて滑ることによって脚部の負担を減らすこと( ⇔ 歩くときの姿勢に近く、比較的高い姿勢になります)
スキーをズラすことによって、スキーの速度を一定に保つこと
でした

また、この滑りを実現するためには、以下のポイントが重要になります;
回転を始める前に必ずニュートラル・ポジション(斜面に垂直に立つ)をとること
回転は山側にスキーをズラすことから始めること
最大傾斜線を越える前後は、しっかりとスキーをズラし、速度をコントロールすること
山回りの回転に入ったあとは、徐々にスキーをズラす量を減らし、一定速度を維持すること

上記のポイントを分解写真と比べていただくと、ほぼ狙い通りの滑りになっており、また結果としてターンしている間は“外向・外傾”の姿勢が保たれていると思いますが、如何でしょうか?

名残惜しいのですが、今シーズンの私のスキーはこれで終わりになります。来シーズンの課題としては、ターン後半の山回りの部分をもう少し美しく見せる為に、ターン前半部で軸となっていた山足を、山回りになって軸としての役割を終えた後、どう操作すればいいのかについて研究してみたいと思っています

以上

MRJの開発、また遅れるんですか?

-はじめに-

世界の航空関係者で購読している人が多い“Aviation Week & Space Technology”の最新号(2月6~19日号)の表紙に上記写真の様な衝撃的なタイトル!が踊りました。“YS-11”が1964年に初飛行して以来絶えて無かった国産旅客機の再登場で航空関係者のみならず、国民の多くが期待をかけている“MRJ” が2015年に初飛行してから既に一年以上が経過しているにも関わらず先が見通せない状況に陥っているのでしょうか、航空ファンとしては心配なところです
国内の新聞報道(“また延期・引き渡し20年に”;“導入延期・パイロット採用にも影”)では引き渡しが遅れる理由はよく分からなかったのですが、上記雑誌の記事(“A&W記事”)には過去の遅延(今回が5回目)も含め、遅延の理由とその評価が解説してありましたので、本件に興味を持っている皆様にご紹介したいと思います

-MRJとは-

“MRJ”という名称は“Mitsubishi Regional Jet”の頭文字を取っています。読んで字の如く、大型機を飛ばすだけの需要が期待できないものの旅客単価の高い相応の需要が期待できる路線に特化することを狙った60席~100席クラスの小型ジェット機です。今後20年間の世界の需要は5千機にも上ると言われており、カナダのボンバルディア社、ブラジルのエンブラエル社などこのクラスの航空機製造に実績のある航空機メーカーも経済性の高い新型機の開発にしのぎを削っています。中国も開発を進めておりますが、米国で耐空証明を取る気配が見えないので、当面は国内需要が狙いであると思われます

“MRJ”の最大のセールスポイントは、その高い経済性にありますが、これはプラットアンドホイットニー社が新しく開発した燃費の良い新型エンジンを装備していること、日本の得意分野であるCFRP(炭素繊維複合材料)をふんだん使った軽量化を行うこと、などによって実現しようとしています
現在開発している機種は、76席の“MRJ70”と90席の“MRJ90”です。この2機種に加え、近い将来100席の“MRJ100”の開発も視野に入れています

また、最先端技術の粋を集めている航空機の開発は、産業の裾野も広く“技術立国”日本としてはどうしても実現したい夢でもあります。因みに、国の規制機関である経済産業省や国土交通省も、補助金の交付や開発環境の整備などで開発当初からバックアップを行っています
国産機とは言っても、使用する部品の約7割が外国製であると言われており“どうして国産機と言えるんだ!”という意見もありますが、実は民間航空機の製造で一番ノーハウが詰まっている部分は、耐空証明取得のプロセス(詳しくは“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”をご覧ください)です。因みにボーイング社の最新鋭機である787は日本で約3分の1が製造されていますが、米国産の航空機であるということに異議をとなえる人はいないと思います。最新の航空機は、航空機メーカーが世界の優良企業を選んで国境を越えたサプライチェーンを作って製造しているのが実態で、エアバス機も例外ではありません
<参考> “MRJ”の主要なサプライヤー:“Parker Aerospace”、“UTC Aerospace Systems”、“Rockwell Collins”、“ナブテスコ”、“住友精密工業(株)”

“MRJ”は現在まで航空会社や、航空機リース会社から約400機の契約(オプション契約も含む)を取得しており、日本においてもANAは25機、JALは32機導入の契約を結んでいます

“MRJ”についてさらに詳しく知りたい方は、“MRJ”開発の主体となっている三菱航空機(三菱重工の100%子会社)の2014年のプレゼンテーション資料(“MRJの開発状況”)をご覧ください

-これまでの開発の足どり-

開発の足どり
開発の足どり

1.開発開始:2008年
“MRJ”の本格的な開発が始まった(業界用語で“ローンチ/launch”といいます)のは2008年です。この時、顧客への引き渡し時期は2013年に設定されていました。つまり開発期間は5年間だったことになります。航空機の開発には莫大な投資が伴いますので、通常ペーパープランの段階で確定契約を行って開発リスクをシェアしてくれる顧客が必要になりますが、“MRJ”ではANAがその役割を担いました。この顧客の事を“ローンチ・カスタマー/Launch Customer”といいます

2.1回目の遅延:2009年
最初の遅延は開発開始後17ヶ月後の2009年に行われました。これは主翼の構造をCFRP(炭素繊維製)から金属製に変更すること、胴体の断面積を増加させること、及び電子装備品と貨物のスペース配分の変更することという大きな設計変更になりましたが、これに伴う開発期間の延伸は僅か3ヶ月であったため大きな議論は呼びませんでした。

3.2回目の遅延:2012年
2012年に三菱航空機は、“製造過程、及び技術的な解析に係る書類が規則通りに揃っていなかった”という理由で引き渡しを2年遅らせるという発表を行いました。ここで三菱航空機は、“この遅延は技術的な問題ではない”と説明しておりますが、実は遅延の本当の理由は“型式証明取得に係る経験の不足”であり、ここから“型式証明取得という“困難で不愉快な挑戦”が始りました。型式証明取得とはどんなことを行うのかについては、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”をご覧になれば概要を理解することができると思います

4.3回目の遅延:2013年
2013年には、型式証明を取得するのに必要となる新しい組織監視の仕組みである“ODA/Organization Delegation Authorityを導入するために1年の遅延が必要になった”と発表致しました。ただ、この発表のタイミングはやや奇異なことでした。何故ならODA導入の義務化については2009年に既に公となっており、本来なら2012年の遅延に反映されているべきものだったからです
私は、“ODA”の仕組みについて詳しくはありませんが、考え方としては、規制当局が人的なリソースに限界があるために規制作業の一部(と言っても業務量の90%程度:“FAA’s ODA Program Announcement Lette”)を被験者に行わせ、且つ責任を持たせる仕組みであり、パイロットの技量管理の仕組みや認定事業場の仕組みなど(“2_航空機の安全運航を守る仕組み_全体像”)にも取り入れられています。“ODA”の仕組みを全体として俯瞰してみたい方は“ODAに係るルール_Order 8100-15”の目次だけでもざっとご覧いただくことをお勧めします。このルールに適合させることがいかに大変か分かるのではないでしょうか

5.4回目の遅延:2015年
2015年末には、“試験飛行を実施する為に更なる時間が必要”となり、引き渡し時期が更に1年延期されました
試験飛行に関しては、開始時期が半年ほど遅れていたことと、試験飛行計画のプロセスで地上での準備作業の時間をもっと確保すべきであったこと(この件は、米国の専門家/“U.S. expert”が三菱航空機に対して既にサジェスチョンしていたことでした)が原因があったようです

6.今回の遅延(5回目):2017年
今回の遅延の理由は、“異常事態/extreme events(例えば床下への水漏れ、爆発/explosionなど)が発生した時の電子・電気機器類/the avionics and electrics)の回復性/resiliencyの問題”であり、この問題を解決するには、“ワイヤリングのルートを変更し、電子・電気装備品収納スペース/avionics bay内の装備品の再配置が必要”となったことです。この設計変更を行うために更に2年の引き渡し時期の延伸が必要になると発表されました

また、発表の際の追加的な説明は以下の通りです;
今回の遅延は新しい要求項目(certification requirement)が出てきた為でなく、これまでの要求項目(“Electrical Wiring Interconnection Systemsに係る耐空性要求項目”)理解不足にあった
<参考>  通常航空機の開発期間は極めて長期に亘る為、新型式の耐空証明を取得する際に適用される耐空性基準(certification basis)は5年以上前のものが使われることになっています。2008年に開発が始まった“MRJ”については、2013年以前に型式証明を受けるとすれば、2008年の“certification basis”に従えばいいのですが、引き渡しが2020年(耐空証明の取得は2019年)になった場合、“certification basis”は2014年のものが適用されることになります。しかし、2008年と2014年の耐空性基準の違いは全体として僅かであり、且つ今回の設計変更に係る基準は2008年以前に既に存在していたものでした

今回の設計変更の準備は既に始めており、今後数ヶ月の内に詳細設計に入る予定
今回の設計変更に伴って1~2回の追加試験飛行が必要と想定
製作された5機のプロトタイプの内4機は今回の設計変更をしない機体のままで試験飛行を継続する
2015年11月の初飛行から、日本の航空当局の監督下で実施してきた400時間の試験飛行は型式証明試験として有効
今回の設計変更に伴う耐空性の検証は、主として熱や電磁的な評価を行うことになり、これまで行ってきた検証作業と重複は無い
今回の設計変更に伴う構造設計の変更は不要。機体の構造強度に関わる検証は既に完了している
静強度試験に投入されている2機の内の1機で実施された主翼の究極荷重試験で運用上の最大荷重の150%で破壊が起こらないことは昨年11月に確認されている(今後この試験は破壊が起こるまで継続)

この遅延によって、ANAの初号機の引き渡しは2020年の後半となり当初5年を想定していた開発期間は12年以上となりました。これに伴って開発に必要な資金は膨大(“開発費5000億円に”)となりますが、三菱航空機は、“苦労して手に入れた経験は次の航空機開発に役立てたい思っている。また投資回収期間は伸びるかもしれないが、各会計年度の収支へのインパクトは極小化できる”と語っています
また併せて、“商用航空機生産のビジネスは参入障壁が高く長期間に亘る取り組みが必要であるものの、三菱重工はこれに適した企業であり、今後“MRJ”を越える優れた航空機の生産を目指し、MRJプロジェクトとは別に“Future Advanced Technology Development Team”を立ち上げ、次世代航空機のコンセプトに係る戦略とこれに不可欠な先端技術の開発を行うことにしている”とも語っています

-Aviation Week & Space Technologyのコメント-

2016年8月31に“Aerolease Aviation” と2018年に引き渡す契約を結んでいたにもかかわらず、その後4週間もたたないうちに購入契約を結んだ全ての顧客に対して引渡し遅延の可能性(2018年には引き渡しが無く、引き渡しは1年以上遅れる旨の内容)を通告していることを勘案すると。この設計変更の問題は突然発生したのではないかと考えられる。その後、4ヶ月に亘って技術的な分析が行なわれ今回の発表になったものと考えられる
設計変更作業を行った最初の機体は、恐らく2018年の第二四半期までに完成し、その後新しく追加された試験飛行が始まると考えられる
発表された新しいスケジュールから判断すると、少なくとも試験飛行用に2機目の設計変更作業済みの機体が準備されると思われる
追加的に必要となる試験飛行の機体は、恐らく顧客に引き渡す予定の機材から流用されると思われるが、これらが最終的にどの顧客に引き渡される機体になるかは決まっていない
三菱航空機が発表した新しいスケジュールでは、型式証明の取得から顧客への最初の引渡しまでに6ヶ月のバッファーを設けており、他の航空機メーカーのバッファー(せいぜい数週間しか設けない)に比べると余裕があると考えられる

“MRJ”の最大市場と考えられている米国の顧客は、これらの引渡し遅延に対してそれ程苛立ってはいない。何故なら、パイロット組合(ALPA:日本と違って職種別の組合であり、米国大手航空会社のパイロットはこの組合に加盟している)と航空会社との労働協約(“scope clause”)によりパイロットをアウトソース(委託)できる航空機は、76席以下最大離陸重量が86,020ポンド以下となっており、“MRJ90”の運航には賃金の高い自社のパイロットを配置せざるを得ず、経済性に欠ける機材となるからです。因みに、“MRJ90”の強力なライバルであるエンブラエル社の新型機“E175-E2”は、この労働協約を念頭に引き渡し時期を2021年に延伸している
MRJ”の顧客である“SkyWest Airlines”と“Trans States Airlines”は、それぞれ100機と50機の発注を行っているが、これらの航空会社は米国大手の航空会社と運航の委託契約を行っていることがあり、“MRJ70”か、は“MRJ90”かの選択を未だ行っていない

Follow_Up:2023年2月:スペースジェット撤退に関わる泉沢清次・三菱重工業社長の記者会見

以上

高齢者の為のスキー技術を実践してみました!

-はじめに-

昨年はスキーの下手な私が、無謀にも!高齢スキーヤーの為の技術の解説をしてしまいました(→“高齢スキーヤーが安全なターンを行うには”;“高齢スキーヤーが疲れないスキーを行うには”)。語ってしまった手前、自身でその有効性を確認しなければ全くの空論に終わってしまうと思い、とにかく実践を試みてみました
実践に選んだスキー場は長い歴史を持つ「菅平スキー場」です。長いコースは取れませんが、リフト1本分の色々なコースを選ぶことができ、コース整備も毎日完璧に行われていますので高齢スキーヤーにとっては格好のスキー場だと思います
4泊5日のスキー行の前半は昔全日本のデモンストレーターに選ばれたことのあるコーチによる最新技術の指導(“スキー指導員”を対象とした本格的なものです)があり、後半はポール(柔軟なプラスティック製の筒を使った当たっても痛くないポール)で制限されたコースを滑るという、正にスキー技術の実践(実験?)には願ってもないスキー行となりました。 以下はその報告です;

-安全な谷回りターンの実践について-

高齢スキーヤーにとって最も大切な技術は、「腿を立てて滑ること」、「スキーをズラせて一定の速度で滑ること」であること、またこの技術が試されるのは「谷回りターン」である事は既に前2回の投稿で説明したところです
「谷回りターン」が難しいのは ①進行方向がほぼ逆になる(⇒進行方向の“慣性力”をどう手なずけるか!)、最大傾斜線を越えるために何もしないと重力で加速する(⇒“重力加速度”ををどう手なずけるか!)ためであると思います。指導員クラスの名人は、この技術の壁を自動化された重心の前後左右の巧みな移動で難無く、美しく!乗り越えてしまいます。我々高齢スキーヤーは、この技術の壁を“頼りない筋力”と“衰えたバランス感覚”で乗り越えなければなりません

今回の実践で、高齢スキーヤーにとって最も難しい「谷回りターン」でカギとなる部分はターン直前の「ニュートラル・ポジション」にあることが実感できました。「ニュートラル・ポジション」とは、ターンを終えた後、次のターンに入る前の「斜面に対して垂直に立つ」ポジションのことです。このポジション前後のスキー操作で大切に感じたポイントは;
. ニュートラル・ポジションに入る前にスキーが急に加速しない程度まで十分にスキーを回し込むこと(⇒落ち着いて以下のやや難しいターンの操作に入ることができる)
.回し始める前にしっかりと2本の足で雪面を踏みしめること(⇔“加速防止”の意味もあると実感できました)
.その後内足を軸にして(⇒回転の軸にできる程度に内足に荷重を残す)外足を回し込むこと(⇒回し込む時のズレの量でターンのスピードをコントロール出来る感覚が得られました)

.回し込む外足は、内足より必ず後ろ(⇔ターンを押しズラしてリードするということは必然的に押す外足が後ろになる)になり、この時にできた内足と外足の前後の位置関係が身体の向き(骨盤の向きと同じ)を決定します。この向きが“外向姿勢”になります。また、回転中に横のバランスを取るために下半身をターンのやや内側に置き、これとバランスするように上半身をターンの外側に倒す姿勢を取れば、これが“外傾姿勢”になります。外傾姿勢を作らない場合、横のバランスを取るために手やストックを広げる姿勢を取る人もゲレンデで見受けられましたが、どちらを選択するかはその人個人の美意識によると言えるのかもしれません!
.上記 1~4 のプロセスで、“腿は常に立てた状態”でスキーを操作し、上半身は過度に前に倒さず、腿の上でできるだけ安定させるようにします。こうすることで上下方向の擾乱に対して可動できるのは足首だけになりますので、高速で大きなこぶに遭遇すると上下の高低差を吸収できずに“飛んで”しまいますが、高齢者はそういう斜面には行かないということで整理したい?と思います

元デモンストレーターのご指導では、「ターンの後半はやや“かかと荷重”、次のターンの始動期以降は“重心をやや前方に移す”」ことが美しい回転弧を作るということでしたが、私の様に筋力の無い高齢スキーヤーには前後方向の意識的な重心の移動は、急斜面になると「後傾→暴走」のリスクを高めるのではないかと感じました。また;
ニュートラル・ポジションからターンを始動する方法として、「伸ばし押し出し」と「曲げ押し出し」を練習しましたが、初心者の頃に習った「抜重」の要素が入ってしまうと、斜度がきつくなった時に“スキーが走り出し”てしまう感覚があること、また“曲げ”や“伸ばし”の動作を必要以上に大きく取ることは、筋力の無駄遣いに通じる様に感じました

今回のスキーツアーの後半では、ポールで制限されたコースを自身が安全だと思う速度で滑り降りる練習が思う存分できました。ここで得られた技術のポイントは;
.先の状況を把握し、ポールに入るかなり手前からズレを使った方向と速度の制御を行うことにより、高齢者でもポール近傍に出来た不整地を安全に滑ることができる感覚を得ることができました

また、今回は寒波の襲来と重なった為、せっかく整地された斜面も午後には10~20センチ程度積もった新雪が荒らされた斜面となりました。こうした荒れた斜面では、開脚で滑るとスキーが取られてバランスを崩してしまう場面が度々あり、元デモンストレーターのコーチのご指導では;
.新雪や荒れた雪には“密脚”(2本のスキーを密着させて滑るという意味の造語!のようです)で滑り、内足を遊ばせない(内足の加重をゼロにすると雪に取られる)ことが必要とのことでした。実践の結果うまくいったとは言えませんでしたが、“密脚”させる為には内足の加重が重要であることはある程度体感することができました。高齢スキーヤーにとってはちょっとハードルが高いのですが、適切な斜面(急斜面でも緩斜面でもない)を選べば、恰好なチャレンジ目標になるのではないでしょうか。ただ、整地された斜面に比べバランスのズレが大きい事は否めないので、相応の疲労があることは言うまでもありません!

-話は脇道にそれますが!-

技術論からちょっと離れて、今シーズン滑った朝里温泉スキー場(北海道)と菅平スキー場で、高齢スキーヤーが感じているストレス(ひょっとして私だけかもしれませんが)についていくつか勝手な意見を開陳したいと思います;
スキー場へのアクセスについて
高齢スキーヤーにとって、凍え死なない!様に目一杯厚着をして、重いスキー靴を履き、重いスキーを担ぐのは相当な重労働です。できればリフトのそばまで車で行けたら幸せなのに、というのが本音だと思います。菅平スキー場では宿がスキー場のすぐそばにあるのであまりストレスを感じなかったのですが、浅利温泉スキー場では酷い目にあいました;

駐車場からスキー場へのアクセス
駐車場からスキー場へのアクセス

上の写真でお分かりの様に、駐車場からスキー場までは車道を長い距離歩かされ、更に急な階段を昇って行かねば到達できません。70歳を超えた私の様な高齢スキーヤーにとっては地獄!の様なアクセスです

従業員用の駐車場とスキー場下部のデッドスペース
従業員用の駐車場とスキー場下部のデッドスペース

一方、このスキー場の従業員用の駐車場は上の左の写真の様に、スキー場との高低差があまり無いように作られています。スキー客を“お客様”とは思っていないのかもしれませんね!
また、右の写真で想像できると思いますが、スキー場の下部にはかなり広いデッドスペース(滑走エリアではない)があります。このスペースに、車が一時停止して人、スキー用具を降せるロータリーを作れば、運転手を除き駐車場との距離や高低差は問題にならなくなります。また、駐車場には車を整列駐車させるための要員が数人居ました。この内の一人がマイクロバスで人員輸送を担当すれば全ての問題をクリアーできると思ったのですが、、、

2.スキー場の施設
殆どの高齢者は“頻尿”という重荷を背負っています。トイレの回数を減らすために水を控えれば恐ろしい脳梗塞のリスクが高まりますのでそれは絶対にできません!その結果、トイレ探しと、一緒に滑る仲間との暫しの“別離”とが、スキーを快適に楽しむ為の障害になっています。通常休憩を取る時にトイレを済ませますが、吹雪の時などはもっと簡単に用が足せればというのが高齢スキーヤーの切なる願いです
以前、どこかのスキー場でケーブルか高速リフトの乗り場(降り場?)にトイレを利用できるところがありました。ケーブルや高速リフトは施設が大掛かりなのでトイレを作るのが容易であるということでしょうか。考えてみればリフト要員は何処でトイレを使用するのでしょうか? もしリフト要員用のトイレがあるならスキー客にも使わせることを考えてみたら如何でしょうか

若いスキーヤーはあまり感じないかもしれませんが、リフトの座席の高さが低いと脚力が衰えた高齢スキーヤーには結構厳しいものがあります。リフトの座席で足をさらわれた後、座面にドシンとおしりをぶつける結果となり、貧弱となった尻筋肉のクッションなしに尾骶骨に衝撃が加わることになります
勿論、緩斜面に設置された幼児・小学校低学年用のリフトであれば低い座席はやむを得ないと思いますが、大人用のリフトで雪掻きをサボった結果、座席の実質的な高さが低くなっているケースなどは、思わずリフトの介助要員を睨みつけてしまいます!

3.宿の食事
菅平に限らず最近の民宿を利用して感じるのは、旅館や会席料理の真似をしているのではないかと思える程におかずの種類が多いことです。ただ、宿泊料金から考えて旅館や料亭の様に腕利きの料理人が沢山いる訳でもなく、また材料も吟味されているとは思われませんので、恐らくは冷凍食品を多用しているものと想像しています。結果として料理を残す人も多く、昨今話題となっている“食品ロス”の観点からも好ましいとは思えません。品数を揃える為にコストをかけてしまった結果として和食のベースとなる御飯みそ汁漬け物などには余りお金をかけていない様に感じます。スキーを始めた頃の民宿では、御飯、みそ汁、漬け物(例えば食べ放題の野沢菜など)の三点セットは頗る美味しく、それだけで十分に食欲を満たしてくれたことを思い出します

外人スキーヤーの方が多くなったニセコなどでは、夕食はスキー場地域に進出してきた各種レストランで取ることが多く、宿は所謂“B & B”(Bed とBreakfast/朝食を提供するだけ)に変化しつつあるとか。宿泊客にとっても自分の好きな食事を選ぶことができ、また若いスキーヤーなどはそこでの出会いを楽しんでいるようでもあります。菅平の宿でそんな話をしたら、菅平は国立公園内にあるので、そうしたレストランは開業できないのだそうです。残念!
であれば、民宿は民宿らしく自家栽培、あるいは地元のおいしい御飯、みそ汁、漬け物の三点セットと、手間のかからない大皿料理いくつかで勝負したらと思いますが、如何でしょうか。これに持ち込み酒を許可して貰えれば完璧だと思います

以上

8_Humanwareに係る信頼性管理

―はじめに-

航空機の事故発生率は航空機、エンジン、その他の装備品などのHardwareの信頼性向上(設計の高度化、材料の進歩、Hardware に関わる信頼性管理技術の進歩、など)と法規制の高度化によって飛躍的に低下してきました。しかし1970年代半ばを境に事故発生率は横ばいとなり、このまま放置すると経済の急成長に伴う運航機数の増加に比例して事故数の増加は避けられなくなることが予見されました。そこで、事故の原因として相対的に大きな要素を占めるようになった人間が犯すミス(以下“ヒューマンエラー”/Human Error と呼びます)を抑止する為に官民一体となった取り組みが始まりました
航空機を運航するという事は、航空機という高度な機械システムを、人間が維持管理(整備など)を行い、人間が操縦することと言い換えることができます。ここでは、この高度な機械システムに人間がかかわる部分の信頼性管理の在り方を総称して“Humanware に係る信頼性管理”と呼ぶことに致します
この取り組みが始まってから40年以上が経過しておりますが、現在までの足取りについて以下に説明をしたいと思います

-Humanware に係る信頼性管理システムの歴史-

戦後、物作り日本が高度成長を続けている時期、生産現場では不良品が発生する主な原因となるミス作業を減らすために“ZD(Zero Defect)運動”が導入されました。その後、更に製品品質の向上と生産性の向上とを同時に達成するために、現場での自発的改善活動に重きを置いた“小集団活動”が盛んになり、目覚しい成果を挙げました
航空ビジネスの分野でも現場を中心とする多くの部門にいち早くこの小集団活動が導入され、ミス作業の防止による安全性の向上生産性の向上に大きく寄与することになりました。

その後、高品質の製品を生み出し続ける日本に倣って欧米先進国の優良企業が、それまで現場中心であった小集団活動に目を付け、これを現場以外の部門にも広げ、更にこの活動に経営が積極的に関与するという、謂わば“経営改善活動”として進化を遂げるに至りました。“TQC(Total Quality Control)活動”、“QMS(Quality Management System)活動”、“シックス・シグマ(6σ)活動等は、個々に手法の違いはあれ全てこの範疇に入る取り組みと考えられます
シックス・シグマ(6σ:注)活動については、米国の電子機器・通信機メーカーであるモトローラ社が1980年代に初めて開発致しましたが、これをジェネラル・エレクトリック社が全社的に導入し成果を上げたことから、日本航空の整備部門などにも取り入れられることとなりました
(注)シックスシグマのシグマ(σとは、統計用語で標準偏差(バラツキの度合い)を意味します。シックスシグマ活動とは、品質のバラツキを標準偏差で測定し、分布の平均からプラス・マイナス6シグマ(σ)を上限・下限の管理限界として不良品の率を減らしていく経営手法です。シグマの数が大きくなるほど(6σ > σ )指数関数的にバラツキが減少してゆきます

また、技術的に高度な製品を生み出す企業は、国境を超えた “Supply Chain(連鎖的な供給体制:必要なタイミングで必要な部品を供給する仕組み、例えばトヨタの“かんばん方式”など)”を築くことが一般的となり、結果として末端の部品供給を担う企業に対しても高度なレベルの品質管理を導入する必要性に迫られました。こうした環境の中で生まれたのが“ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)”という組織です。ISOでは国際的に共通な基準を設定すると共に、この基準を満たしているかどうかを認証する中立的な専門機関を設ける仕組を構築しました。そして部品供給を担う企業に対しても、ISOの認証を受けることを求める様になりました。

ISOが要求する基準とは、極言すれば“業務を行う為のルールの可視化”、“PDCA(Plan Do Check Action)サイクルの徹底”、“記録の保持”であるということができます。航空ビジネスの分野でも、国際分業が定着した航空機、エンジン、その他の装備品の製造の受託を行う為には、ISOの認証(ISO9000)を受けることが必須となっています。また、航空機の保守整備の分野に関しても、基準やマニュアルの整備が急速に進み、ISO基準と実質的に同等な業務の仕組みが無ければ自律的で効率的な業務が実施できない状況になっています(“6_認定事業場制度”参照)

-ヒューマンエラーを抑止するための規制-

ヒューマンエラーに焦点を当て、これを科学的に分析して極限まで減らす試みは、ミスが死に直結する航空宇宙の分野が先行していたことは言うまでもありません
航空宇宙の分野では軽量化が経済性に直結するため、Hardware を設計する際に基準となる安全率が低く(一般に1.5程度)設定されています。従ってパイロットの操縦室における操作や、機体の構造やシステムに対する整備作業において、ヒューマンエラーを抑止するために極めて厳格なルールが定められました。一方、単にルール厳守という掛け声だけではミスを抑止することは困難であることが分り、人間工学行動科学の側面から研究を進め、操作ミスや判断ミス、手順や作業のミス、等を防ぐための設計手法の開発や教育・訓練システムが考案され、積極的に導入されるようになってきました

1.パイロットのヒューマンエラーを抑止する為の操縦室設計に係る基準
操縦室の設計に関するヒューマンエラーを防止する為の基準は航空法施行規則・附属書に具体的に規定されています
先行する米国においては法規制全般に係るヒューマンファクターの方針(FAA Order 9550.8A)を受け、極めて具体的、且つ詳細にわたるガイド“Human Factors Design Guide”が設定されています。また同時に、米軍の規格(MILSTD1472F)も並行して存在しており、米国での航空機の設計・製造の審査の際はこれらの基準が厳格に適用されています。また、外国製の航空機に米国の耐空証明を付与する場合でもこの基準が適用されており、日本の民間航空機の設計・製造に当たっては、欧米先進国への輸出を前提とする場合、実質的に世界で最も厳しい米国の基準がデファクトスタンダードとなっています

2.パイロットのヒューマンエラーを抑止するための訓練基準
航空分野において日米欧は、ほぼ“CRM/Crew Resource(注) Management”訓練に統一されています。パイロットとしての資格取得や資格維持の為の必須要件としてこのCRM訓練が規制の中に明確に位置付けられています
米国の規制では、CRM訓練で実施すべき標準的な内容を“AC120-51e”で提示しておりますが、この通り実施する義務は課していません(⇔“This AC presents one way, but not necessarily the only way”)が、大手の航空会社はこの訓練内容に自社の経験を付加するなどを行って積極的に実施しています。更に、最近ではヒューマンエラーを起こしやすい状況を模した訓練(LOFT/Line Oriented Flight Training、Threat & Error Management Training<参考-1>)なども積極的に取り入れています

(注)“Resource”の意味:通常“資源”とか“源”と翻訳しますが、ヒューマンエラー関連の文脈では、“情報源”という翻訳が一番合っていると思われます。上記CRM訓練では、“Resource”となるものは“パイロット自身の五感”、“操縦室内の各種計器の表示”、“他の乗務員からの情報”、“デスパッチャーや整備士など地上要員からの情報”、“管制官からの情報”、その他利用し得るあらゆる情報源です
従ってCRM訓練とは、「パイロットが利用し得るあらゆる情報を総合して安全運航の為の判断を行っていく」為の訓練ということになるかと思います

3.整備要員のヒューマンエラーを抑止するための訓練基準
日本においては、整備規程審査要領細則の中で「他の整備従事者及び航空機乗員との連携を含むヒューマン・パフォーマンスに関する知識及び技能について教育訓練がなされることになっていること」と規定されています。事業者はパイロットのCRM訓練と概ね同等の内容を持つMRM(Maintenance Resource Management<参考-2>)訓練を、委託先事業者を含む全整備要員に対して定期的に実施してます

米国においても、法規制全般に係るヒューマンファクターの方針(FAA Order 9550.8A)を受けて“AC 120-72”でMRM訓練で実施すべき標準的な内容を提示しおり、事業者もこの訓練を積極的に取り入れています

<参考-1> Threat & Error Management Training

運航乗務員を取り巻くスレット
パイロットを取り巻くスレット_友人から入手した資料

パイロットは常に上表の様なスレット(“threat”/安全運航にとって脅威となるもの)に晒されていますが、以下の“”を守ることによって安全な運航を実現しています;
掟1:どんなに優秀な人間でも時には最悪のエラーをおこすことがある ⇔ 進んで自身のエラーを報告する
掟2多重防御を心がける ⇔ 一人のパイロットが監視を怠ることは多重防護ができなくなることを意味する
掟3SOP(Standard Operation Procedure/一般にはマニュアルという理解でいいと思います)を遵守する ⇔ SOPを遵守することによって共通の認識ができ、エラーを容易に検知することができる
掟4コミュニケーションの活用で脅威を共有し予防策を立てる ⇔ 全ての情報を総合して、予想できる脅威を特定する
掟5PDCAのサイクルを意識する ⇔ 計画を実行し、それが状況に相応いかどうか絶えず自分に問い掛け確認する

<参考-2> MRM訓練
MRMにほぼ共通して取り入れられている“Dirty Dozen”という言葉がありますが、これは多くの事故事例を研究した結果として得られた以下の「12の事故を起こす要因」のことを意味しています。全ての整備要員は、こうしたヒューマンエラーの引き金となる要因を熟知した上で作業に当たることで、ミスのない整備を実現しています;
① コミュニケーションの不足(Lack of Communication)
② 警戒心の低下(Complacency)
③ 知識不足(Lack of Knowledge)
④ 作業の中断(Distraction)
⑤ チームワークの欠如(Lack of Teamwork)
⑥ 疲労(Fatigue)
⑦ リソースの欠如(Lack of Resource)
⑧ プレッシャー(Pressure)
⑨ 自己主張の欠如(Lack of Assertiveness)
⑩ ストレス(Stress)
⑪ 認識不足(Lack of Awareness)
⑫ 職場風土や慣習(Norms)

<参考-3> ヒューマンエラーを防止する為に規制当局、メーカー、事業者、国際機関は、以下の様に役割を分担しています
a) 規制当局の役割
①   法律、基準、等の制定;専門の統括組織の設置(Human Factors Coordinatorの設置など )
②   試験・研究の実施、支援、統制 (FAA Human Factors Research & Engineering Division /  Reportを公表しています)
③   事業者の防止体制に係る審査、認可(マネージメント、組織、訓練、規定、マニュアル類)
④   事業者に対する指針の設定(CRM/AC120-51e、MRM/ AC 120-72
⑤   中・小事業者に対するバックアップ(例: HF Operation Manual_Maintenance
⑥   事故発生後の原因の究明と対策の立案(事故調査委員会/NTSB)

b) メーカー(航空機メーカー、エンジンメーカー)の役割
① ヒューマンエラーに強い設計“Human Error Tolerant Design”、改修の実施(例:“Fool Safe Design”)
②   販売している航空機に係わる Human Error 関連情報の発信
③   ヒューマンファクターに関する試験・研究の実施、及び事業者へのフィードバック(例:MEDA_form/Maintenance Error Decision Aid;MEDA_guide)
④   事故調査委員会(NTSB)への協力

c) 事業者(航空会社、整備会社、パイロットリース会社、他)の役割
①   ヒューマンエラー防止体制の整備(マネージメント、組織、訓練、規定、マニュアル類)
②   現場要員に対する継続的な訓練の実施(CRM、MRM)
③   事故発生後の原因の究明に対する協力
④   事故、及び事故に繋がる可能性のある軽微なミスの当事者に対するインタビューの実施、及び規制当局、メーカーへの情報提供

d) 国際機関(ICAO/International Civil Aviation Organization)の役割
①   国際間の情報の共有化
②   加盟国に対する情報(ベストプラクティス)の発信

以上

7_Hardware に係る信頼性管理

-はじめに-

航空機を運用する段階で、航空機の機体やエンジン、その他の装備品などの機械装置(以下“Hardware”と呼びます)の耐空性のレベルを維持・向上させるためには、メーカー、航空会社、及び規制当局がそれぞれの役割を完璧に果たしていく必要があります
メーカー及び航空会社は、航空機の運航状況を常にモニターし、何らかのトラブルが発生した場合、航空機、エンジン、その他の装備品に対し必要な対策を自主的、且つ迅速に行える体制(“信頼性管理体制”)を取ることが義務付けられています
また規制当局は、航空会社及びメーカーの取り組み状況を常時監視すると共に、トラブルの発生状況に応じ、以下の対応を行う仕組みになっています;

事故、及び重大なインシデントが発生した場合、事故調査委員会(米国:NTSB/National Transportation Safety Board)が調査、原因究明と対策の勧告を行います。規制当局の役割は、規制当局自らに対する勧告(法改正、規制基準の変更や改修指示などの要求)があればこれを速やかに実施すると共に、メーカー、航空会社に対する勧告の実行状況を監視し適宜必要な指導を行うと共に、必要に応じAD(Airworthiness Directives/耐空性改善通報)を発行して実施を強制する義務があります
例:787就航開始直後のバッテリー火災に対する措置(耐空性改善通報・AD

日常運航において安全上重要な事象が発生した場合、メーカー、航空会社から報告( 6_認定事業場制度の「10.認定事業場の国への報告義務」の項を参照)を受けることになっており、規制当局の役割はその対策の実施状況をフォローし、必要により指導を行うことにあります

メーカー及び航空会社が行う“信頼性管理体制”については、以下に詳述致します

-メーカーが行う信頼性管理-

メーカーは Hardware の信頼性管理に係る最も重要な役割を担うことになりますが、それはメーカーが設計、製造、及び型式証明等(追加型型式証明、仕様承認)の取得に係る唯一の主体であることに起因致します。 尚、型式証明、追加型型式証明、仕様承認については、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”を参照してください
何故なら;
設計、製造、型式証明取得、等を行うには Hardware の信頼性に係る膨大なデータの裏付けが必要であり、その殆どは航空機を購入した航空会社に対しても公表されません(これらのデータはメーカーの存立にかかわる知的財産になっています)。従って、Hardware に起因するトラブルを設計レベルで検証し、対策を立てることはメーカー以外ではほぼ不可能になっています
メーカーは型式証明取得に際し、CMR(Certification Maintenance Requirement)による整備要目、MSG(Maintenance Steering Group)による整備要目、等を決定する際に裏づけに必要な膨大なデータを管理しています。従って品質を維持向上させる為にこれらの要目の変更(実施内容の変更、実施期限の変更、等)あるいは新設を主導し、管理していくことはメーカー以外では実質的に不可能と思われます。尚、CMR、MSGについての詳しい説明は、“4_整備プログラム”の項を参照してください
一般に商用航空機の場合、航空機を購入する顧客は多くの国、多くの航空会社にまたがっており、型式等に固有で頻度の少ないトラブルの原因を把握するのは航空会社単独では非常に難しいと思われます。ただ、例えば1機種で100機以上保有しているような大手で、且つ技術部門の人材を多く抱えている航空会社は、トラブルの自主的な原因究明もある程度可能であり、メーカーに対して多くのデータの提供が可能となります。この結果、トラブル対応に関してメーカーへの発言権が強くなる事は当然の事と言えます

航空会社は、自社の運航中に得られた Hardware の信頼性に係る多くの情報をメーカーに対して提供しています。またメーカーは上記で述べた通り、当該型式に係る全ユーザーの信頼性に係るデータを分析し、型式固有の問題点とその解決策を迅速に提供する義務があります。この情報はSB(Service Bulletin)やSI(Service Information)というかたちで航空会社、及び当該型式機材が登録されている各国の規制当局にも日々提供されています
また、安全上重要で緊急を要する情報は“Alert SB”というかたちで提供され、規制当局は必要によりこのSBの実施を強制するAD(Airworthiness Directives/米国;耐空性改善通報/日本)を発行することになります

事故、及び重大なインシデントが発生した場合には、事故調査委員会が調査及び原因究明と対策の勧告を行うことになりますが、調査・原因究明にはメーカーに蓄積された膨大な信頼性に係る情報と、設計・製造、型式証明取得、等に係る詳細なデータが不可欠となります。また、原因究明が終わって再発防止対策を勧告する(⇒ 規制当局やメーカー、航空会社に実施を強制する)際、経済性を含めた実行可能性の検証が不可欠であり、メーカーの果たす役割はきわめて大きいという事が出来ます。一方、メーカーにとっても再発防止対策を確実に実施することで顧客に対する信頼が得られるというメリットがあり、事故調査委員会による調査、原因究明活動には極めて協力的であることが普通です。30年以上に亘るベストセラーの機種は、ある意味数多くの事故、重大なインシデントによって信頼性を向上させてきた結果であるとも言うこともできるのではないでしょうか

メーカーと航空会社が連携して行う情報収集には以下の様なものがあります;
航空機メーカーは一次構造部材の信頼性をその機種が世界のどこかで運航している限り確認し、必要な対策を講ずる義務があり、設計時に予期していなかった故障の兆しが発見された場合には予防的な改修や検査等の整備プログラムを即座に発動できるようにしておかねばなりません。こうした仕組みの代表的なものとして以下があります。その機種を運用している航空会社は収集したデータを全て航空機メーカーに送ることになっています;
*Structure Sampling Inspection Program:販売した航空機の一部(Sampling)に適用する機体構造の検査プログラム
*SSI(Significant Structure Inspection):重要構造物に対する全機体を対照にした検査プログラム

エンジンメーカーは、Redundancy(冗長性)が無く一部の破損がエンジンの全損(航空会社に大きな経済的負担を強いる結果となります)に繋がるようなディスク類(注1)、及びタービンブレード・コンプレッサーブレード類(注2)などの重要な部品について、その型式のエンジンを採用している全世界の航空会社から検査結果や整備記録を入手すると共に、型式証明取得後も続けているエンジンの耐久試験のデータと併せて、その型式のエンジンのライフタイムに亘っての信頼性管理を行っています。これらの信頼性管理の結果として、優れた型式のエンジンは使い込まれるうちに種々の改修が実施され、徐々にディスクやブレード、等の検査間隔が延長され整備負担も軽減されてゆきます。逆に設計が良くないエンジンは短期間で姿を消していく結果になります(例えばジェネラル・エレクトリック社のCJ805というエンジン:/コンベア880という飛行機に装着されていました)。
(注1)タービンブレードやコンプレッサーブレードを取付けるディスクは極めて重く、且つ高速で回転するため、破壊が起こると破片がエンジンのケースを突き破り(“Uncontained Fracture”)、燃料タンクのある翼や旅客の乗っている胴体を破壊し、深刻な事故に繋がる恐れがあります

A380・TRENTエンジンの-“Uncontained-Fracture”とタービンの破片
A380・TRENTエンジンの-“Uncontained-Fracture”とタービン・ディスクの破片

(注2)タービンやコンプレッサーのブレードが一枚欠損すると、その欠損したブレードが下流にある全てのブレードを破壊してしまいます。因みにこれらのブレードは1枚数十万円から百万円を超える高価な部品です

-航空会社が行う信頼性管理-

航空会社は、自社の運航に係る安全性経済性定時性快適性を高める為に日常の運航を通じて得られる故障情報を分析し、必要な対策を実施しています;
安全性に係る情報収集、分析、対策立案
自社の安全性に係る情報は、パイロットからのレポート(機長報告)及び日常の整備記録から得られます。これらの情報は全て品質管理部門のスクリーンを経て技術部門で検討されます。トラブルの発生頻度が高いもの、及びトラブルの安全運航に与える影響の大きいものはメーカーとのディスカッションを行い、必要な場合改修が計画・実施されます。通常安全に係る改修はメーカーから発行されるSB(Service Bulletin)、SI(Service Information)を基にして作成されます
また、メーカーは安全に係る情報を、その機種を販売した全ての航空会社から得ており、それらを基にメーカーは安全性向上の為の改修をSBまたはSIのかたちで提案を行っています。航空会社の技術部門は、これらの情報を常にウォッチし、自社に経験の無いトラブルに対しても予防的に改修等で対応できる仕組みになっています

経済性に係る情報収集、分析、対策立案
一般に航空機は極めて高額であり、出来るだけその稼動を高めることが航空会社経営の必須条件であることは言うまでもありません。航空機の稼動を高めるには、突発的な整備によって航空機が運航に供せなくなる事態を出来るだけ回避することが重要です。 “Accidental Damage”(注)の様な予測不能なトラブルを除けば、下記に様に信頼性管理を適切に行うことにより概ね管理可能な状態にすることが出来ます
エンジン及びその他の重要な装備品の故障による突発的な整備を回避する為には、個別に故障原因を特定し、改修による品質の向上、検査間隔の短縮による故障発見確率の向上、定期交換の実施、等を行うことが有効となります(→下記の“ エンジンの信頼性向上”、“エンジンの劣化監視活動”を参照)
(注)Accidental Damage:偶発的な損傷(詳しくは“4_整備プログラム”を参照してください)
機体構造や配管(油圧、気圧)類、配線類の故障による突発的な整備を回避するには、機体重整備(C整備:1回/年程度、M整備:1回/4~5年程度)の際の整備要目を適切にすること(点検を行う箇所、点検の基準、等)が有効です。
自社による故障情報の収集、分析(次項以降で述べます)のほかに、メーカーによって提供される情報(SB、SI)を検討することも重要です

一方、突発的な整備を回避する為に過剰な整備を行うことは徒に整備コストを押し上げることとなり経済性の面で得策とは言えません。従って、故障頻度の低いものは交換頻度を下げるか、又は“On Conditionによる交換”(チェックをして不具合が無ければそのまま使用を継続する)に切り替えるとともに、点検しても不具合が無いものは、その整備要目の実施間隔を延長することなどを適時、適切に行うことが必要になります。このため、航空会社では部品毎の信頼性管理と併せ、整備要目毎の故障情報の収集、分析も行っています

定時性に係る情報収集、分析、対策立案
定時性に係る指標は、旅客の航空会社選好の極めて重要な項目であるため、殆どの航空会社は主要な指標である遅延実績を記録し、その改善に取り組んでいます。通常これらの遅延記録は理由別にコード化され、それぞれ関連部門で検討され改善が行われる仕組みが作られています
遅延理由のうち“Technical Trouble”(技術的な原因によるトラブル)に分類されるもの、及び潜在的な遅延と看做される“MEL適用”(注)による修理持ち越しの情報については、品質管理部門のスクリーンを経て技術部門で検討されます。技術部門では、遅延等の原因となった部品の信頼性向上策(改修の実施、代替品の使用、整備プログラムの変更、等)、スペア部品の買い増し、等々を経済性を勘案しつつ行っています
(注)MEL(Minimum Equipment List)については、“3_耐空証明制度・型式証明制度の概要”及び“4_整備プログラム”を参照してください

快適性に係る情報収集、分析、対策立案
快適性に関しても、最近は旅客の航空会社選好の極めて重要な項目となります。この情報は、主に旅客からのクレームと客室乗務員からのレポートを基に収集し、技術部門を中心に経済性を加味しつつ改善策の検討が行われる仕組みになっています

エンジンの信頼性向上;
エンジンは交換可能な装備品の中では格段に高額(数十億円/1台)であり、且つ整備にかかるコストも航空機全体のコストの半分近くを占めます。従ってその信頼性の向上は航空会社の経営にとって常に極めて重要なテーマとなります。
エンジンの信頼性を表す最も重要な指標は、“1,000飛行時間当りの飛行中でのエンジン停止の確率です。この指標の数値を航空会社間で比較することでエンジンの信頼性管理の優劣を比較することが可能であるといっても過言ではありません。整備部門のしっかりした大手航空会社では、この数値は、0.01~0.02(5万~10万飛行時間に1回の飛行中でのエンジン停止 ⇔ 1日当り10時間飛行するとして、13年から27年に一回の飛行中でのエンジン停止)のレベルを維持しています。
この数値を高いレベルに維持するには、技術部門だけでなく整備現場も一体になった信頼性管理の取組みが必要となります。具体的には、技術部門における劣化監視活動(下記)に基づく劣化エンジンの故障前の計画的取りおろしや現業における提案活動、ヒューマンエラー防止活動、などの取り組みです
また、この数値が一定以上の水準にない場合、最新の双発機による長距離洋上飛行(3エンジン、4エンジンの航空機よりも経済性に優れています)が出来なくなり、経営上の不利を蒙る事になります

(参考)長距離洋上飛行ETOPS/Extended Range Twin Engine Operation):双発機で洋上飛行を行う場合、非常事態(例えば1台のエンジンが故障で停止するなど)を想定して、航路上に目的空港以外の代替飛行場を準備しなければなりませんが、予定航路からこの代替飛行場までの飛行時間の制限を通常の1時間から緩和することを言います。これが認められれば、結果として双発機が最短距離の航路を飛行することが可能となり、飛行時間の短縮と燃料の節約が実現できます。現在、品質管理活動の優れた大手航空会社では代替飛行場までの飛行時間を4時間まで延長させており、殆どの洋上の長距離路線で大圏コース(最短距離の航路)の飛行が可能となっています。勿論、この方式による洋上飛行を行うには規制当局による厳しい審査と認可が必要になることは言うまでもありません。詳しくは“ETOPS承認審査基準の要旨”を参照してください

エンジン劣化監視活動;
一般にエンジンの劣化状態は以下の指標を常時モニタリングすることによって把握可能です;
① エンジンの運航中の各種パラメーターの監視振動強度(低圧コンプレッサー部分、高圧コンプレッサー部分)、エンジンオイルの圧力・温度、ローターの回転数、排気ガス温度
② SOAP(Spectrometric Oil Analysis Program)の実施:高速回転体であるエンジンは、ベアリングの磨耗が上記の指標に大きく影響します。この摩耗の程度を把握する為、適切な間隔でエンジンオイルのサンプル採取を行い、オイルに含まれている金属の成分、量を分析します
③ Bore Scope Inspectionの実施タービンやコンプレッサーのブレードの損傷状況を破壊に至る前に把握するため、内視鏡(Bore Scope)を使った直接検査が定期的に行われています。またパイロットから鳥の衝突等の報告があった場合には次の飛行前に損傷の有無の検査を行うことになっています

Bore Scope Inspection
Bore Scope Inspection

④ エンジン分解検査時の検査データの活用:損傷状況(熱変形、磨耗、亀裂、等)の把握を行っています

エンジン以外の装備品の信頼性向上;
エンジン以外の装備品は極めて種類が多く(油圧機器気圧機器電装機器Avionics機器計器類、等々)、またメーカーも多岐に亘っており、自社で整備を実施するよりは、品目ごとのメーカーへの委託が一般化してきています。装備品の信頼性管理体制は概略以下の通りとなっています;
装備品の信頼性を表す最も重要な指標は“MTBF(Mean Time between Failure/装備品の故障取降しまでの平均飛行時間)”です
この指標の数値は航空会社間で大きな違いが出ることが多いと言われています。また、殆どの装備品は“On Condition”(チェックをして不具合が無ければそのまま使用を継続する)で整備、取り卸しが行われているため、この指標の数値が小さい(つまり度々故障取降しが行われる)と、スペアのレベルを上げる必要があり航空会社の財務負担が大きくなります

初期故障に対する対応
一般に、新設計や設計変更のあった装備品は初期故障が必ずといっていいほど発生します。新機種を他航空会社に先駆けて導入すると、装備品の数多くは新設計か在来機種の装備品の設計変更のものであり、就航直後から暫くの間トラブルに悩まされます(787のバッテリー火災は従来機種のニッケルカドミウム電池から、性能の良いリチウムイオン電池の変えたことによる初期故障です)。また最近は装備品に組み込まれているソフトウェアのバグによる初期故障にも悩まされます。 装備品の初期故障への対策は、主としてメーカーからのSBに基づく改修になります。装備品の改修を行う場合には、スペアを購入(但し、メーカーに相当の瑕疵がある場合に限ってスペアを一時的に貸与してもらうこともある)し、順次航空機から取り降ろして改修作業を行うことになりますが、スペアのレベルを上げた後、品質向上による取り卸し減で過剰在庫を抱える結果となることもあります

整備士の熟練度、ミス性向に対する対応
初期故障が収束した後に残る航空会社間のMTBFの違いは、整備士の熟練度、ミス性向が原因であることが多いと考えられます。修理を委託している装備品については、委託先の品質審査を厳格に行い、必要に応じ指導を行いますが、それでも改善されない場合は委託先変更を行うか、自社整備に切り替えることが検討されます。
自社整備は信頼性向上の切札となり得ますが、整備士の人件費、教育・訓練費、等の負担、施設・設備投資の負担が発生するため、最近は MTBF値 が高く故障台数が多い為、スペア部品の財務負担が重い場合、あるいは受託が期待できる場合以外は選択されない傾向となっています。更に最近は、修理方法の“ブラックボックス化”(修理方法の開示がないか、修理に関わるライセンス料が発生する)や修理完了後の最終検査に必要となる試験装置が高額化してきた為にこの傾向に拍車がかかっています

以上

冬野菜の収穫

前回の投稿では、9~10月の悪天候の影響で、冬野菜の種蒔き、苗の育成、植え付けが大幅に遅れ、セロリ、ネギを除く収穫が期待できない事態になってしまった事をご報告しました。11月に入って、あまり効果は期待できぬと承知しつつ、不織布や透明ごみ袋を使った保温措置を行って来ましたが、12月に入って幸運にもやや暖かい日が続き、生育は十分ではないものの上の写真にある様に食べられる程度にまで回復してきました。昨日初めて収穫した白菜は下の写真の通りです;

収穫した白菜
収穫した白菜

冬の鍋や生野菜サラダに使う野菜として、拙宅では寒さに強い水菜を優先的に栽培していますが、この野菜は9~10月の悪天候の影響は少なく、12月に入ってから必要に応じて収穫しています。今年は白菜の保温処置を実施するついでに、この水菜にも一部保温措置を実施し、従来通り保温しないものと比較してみました;

水菜・保温と非保温の比較
水菜・保温と非保温の比較

水菜は寒さに強いといっても、やはり保温した方が生育がいいことが分かります。また、保温しないと葉の先端がやや黄色に変色するという違いがある事が分かりました

鍋の野菜として欠かせないものの一つに春菊がありますが、これも下の写真でわかる様に透明ゴミ袋による保温で立派に生育しました;

ゴミ袋で保温した春菊
ゴミ袋で保温した春菊

冬の漬物、サラダ、煮物などで欠かせない大根については、9月に種まきができたものもありますが、大半が10月下旬にずれ込んでしまいました。一部透明ゴミ袋による保温も試みましたが、生育の面では大きな改善は得られませんでした。昨日9月に種まきした大根を収穫いたしました;

大根
大根

生育の遅れた大根は、今後葉っぱも含めて3月まで有効活用したいと思います;

大根の生育状況
大根の生育状況

冬になると一層美味しくなるほうれん草も9~10月の天候不順の影響を受けましたが、これも透明ゴミ袋による保温で種まき時期の遅れをある程度取り戻すことができました;

ホウレン草
ホウレン草

拙宅の冬野菜で最も重要なネギの栽培については、前のブログでも述べましたように9~10月の天候不順の影響は余り受けませんでした。
一方、ネギ栽培に関わるこの一年の私の課題は、普通サイズのコンテナを使って、如何に白い軸の部分を長くすることができるかということでした。その為に最初に試みた方法は、下の写真の様に牛乳パックとガムテ―プを使ってコンテナの実質的な高さを確保し、軸が伸びるにのに応じてこの中に栽培用土を追加していく方法です;

ネギ栽培法_牛乳パック&ガムテープ
ネギ栽培法_牛乳パック&ガムテープ

この方法で、そこそこうまくいったのですが、なんといってもガムテープの継ぎ足しが面倒くさいのと、栽培用土を追加していく内にテープが伸びてだらしなく膨らむことでした。
そこで、以下の様なポリカーボネートの板を加工した補助器具を自作してみました;

ネギ栽培用補助器具
ネギ栽培用補助器具

ネギがある程度成長した後、コンテナの上にこの補助器具を被せ、ネギの成長に合わせて栽培用土を追加してゆくことになります。この補助器具は透明なので成長途中に日射を十分に確保できることがミソです。この器具を使った11月下旬における生育状況は下の写真の通りです;

ネギの栽培状況
ネギの栽培状況

下の写真は、昨日収穫したネギ(コンテナ1ヶ分)ですが、ほぼ所期の目標は達成できたと思っています;

収穫したネギ
収穫したネギ

また前回のブログで紹介しましたが、サラダ用のレタス類は、居間のベランダ(高い室温)で LED による夜間の補助灯で促成栽培しておりますが、生育は問題ないものの春野菜の最強の害虫であるアブラムシがつき困っております。この害虫をなんとかしないと屋上で保温育成中のレタスの苗を居間のベランダに持ってくることができません!どうしたものか、、、

保温育成中のレタスの苗
保温育成中のレタスの苗

尚、以下の野菜類は、放っておいても健気!に育っています;

野沢菜・セロリ・パセリ・イタリアンパセリ
野沢菜・セロリ・パセリ・イタリアンパセリ

最後に、屋上野菜栽培の宿命である鳥害について一言、キャベツとチンゲンサイは鳥が大好きの様です;

鳥による食害_キャベツ・チンゲンサイ
鳥による食害_キャベツ・チンゲンサイ

以上

 

エネルギーと環境と原子力と暮らし方

、-はじめに-

私はサラリーマン生活の最後の10年間ほどは縁あって原子力業界で仕事をしておりました。2011年には東日本大震災に伴う深刻な原子力事故を内側から体験し、事故後の全原発の停止と、これに伴うエネルギー危機を経験する中で、エネルギー問題が将来の日本の最大の政治課題であることを痛感いたしました

人類はその長い歴史の中で“火”というエネルギーの活用を始めたことで、全生物の頂点に立つことができました。産業革命以降の人類の歴史は、水力という形を変えた太陽エネルギーの活用の他に、化石燃料という有史以前の太陽エネルギーの蓄積を消費しつつ、先進国を中心に経済規模の飛躍的な発展を実現してきました。第二次大戦以降は、これに原子の“火”という巨大なエネルギー源が加わりました

しかし、核分裂反応を利用する現在の原子力発電については、米国に於ける1979年の“スリーマイル島の原子力事故”、欧州に於ける1986年の“チェルノブイリ原子力事故”、また日本に於ける2011年の福島原子力事故があり、原子力発電の安全性にについて疑問を呈する人が増えてきました

一方、こうした現状の中で、本年11月には米中を含む主要先進国が参加したパリ協定が発効し、日本も遅ればせながらこの協定に参加することが決まりました。この協定に参加することにより、今後化石燃料によるエネルギーの使用には厳しい制約が課せられることになります

温暖化の主因が炭酸ガス放出量の増大にあることには多少の議論はあるものの、海水面の上昇により水没の危機に瀕している島嶼国が現実に存在していること、乾燥地帯では砂漠化の進行が早まっていること、また異常気象(スーパー台風、異常高温、異常低温、水害、など)の多発という地球規模の環境の変化の主因が、炭酸ガスを中心とする温暖化ガス放出によるものであることは、多くの国々が認めることとなり、その削減について協力していくことになったという事でしょう

この結果、GDPの規模で世界第3位、炭酸ガスの排出量で世界の4%を占めている日本としては、好むと好まざるとに関わらず温暖化の問題について自国の事だけでなく世界をリードしていく責任があるのではないでしょうか

従って、福島原子力事故以降、原子力発電の停止に伴うエネルギーの不足分を化石燃料による発電に切り替えて凌いできた日本は、今後他の国以上にエネルギー問題に正面から取り組んでいかねばならない状況になっていることは間違いないと思われます(日経記事:震災後LNG輸入量急増

以下に日本が直面するエネルギーの問題を俯瞰してみたいと思います。尚、如上より明らかな様に、原子力発電に関わる議論を抜きにしてこのテーマを扱うことはできませんので、「とにかく原子力は嫌だ」という方は、この辺で読むのを止めた方がいいかもしれません!

―エネルギーと暮らし-

エネルギーの問題は、近・現代史において国家の重大な意思決定に深く関わってきました;
ご承知の方が多いと思いますが、太平洋戦争に突入する直接の引き金になったのは米国の禁油通告でした。石油を絶たれた日本が、日中戦争を継続しつつ生き残るためにはオランダ領インドシナの石油(パレンバン)を確保する必要があり、ハワイ奇襲作戦とインドシナ電撃侵攻作戦によって先の大戦の口火を切ってしまいました

第二次大戦後、英仏に代わって米国が中東政治に深く関わったのは、石油を大量に消費する米国が中東の石油を必要としたためです。最近になって自国のシェール石油産出量が増加し自給できる体制になった途端、中東への関与が抑制的になってきたのはご承知の通りです。

日本が徐々に憲法解釈を変更して自衛隊の海外派遣をする様になった主たる原因は、中東の石油が日本のエネルギー需要の大半を賄っており、その生産維持と輸送ルートの確保を全面的に他国任せにすることができなかったからにあります

エネルギーの問題は、歴史的に日本の産業構造の大きな変革に関わってきました;
戦後の日本は、重厚長大型の産業を育てることによって驚異的な復興を果たしてきました。この間、必要となる膨大なエネルギー需要を賄う為に、最初は水力と石炭という自前のエネルギー源を求めて、日本各地で大規模な電源開発(佐久間ダム、黒部第四ダムなど)と炭鉱開発を行ってきました。

その後、更に成長を継続していく過程で、更なる水力電源や炭鉱の開発が限界を迎えたことから、水力や石炭に代わるエネルギー源として石油輸入を急速に拡大して行きました。こうしたエネルギー革命が進行する中で、効率の悪い石炭産業が衰退して行き、日本各地の炭鉱閉鎖に伴う痛みを伴う労働市場の大変革を余儀なくされてきました。

1973年、第四次中東戦争を契機として石油価格が急騰しました。これを第一次オイルショックといいますが、この時は消費者物価が23%も急上昇(狂乱物価)し、国民の生活に大きな影響を与えることになりました

狂乱物価・トイレットペーパー騒動
狂乱物価・トイレットペーパー騒動

また1979年にはイラン革命を契機として再び石油価格が急騰しました(第二次オイルショック)。特に日本はイランにから相当量の輸入を行っており非常に影響が大きいものでした

こうした厳しい試練を経て、日本の産業は世界最先端の省エネ技術を磨くこととなりましたが、一方に於いて、国策として石油備蓄の充実と、国際情勢に左右されない安定的なエネルギー源となる原子力発電の充実を図っていくことになりました
<Follow-up>
* 2018年7月3日に第5次エネルギー基本計画が閣議決定されました。詳しい内容は第5次エネルギー基本計画(案)をご覧ください。

“モノづくり日本”を続けるには、安定的なエネルギー確保が必要です;
日本人はモノ作りを得意とし、作ったものを海外に売ることによって繁栄してきた国です。如何に省エネ技術に長けたとしても、物を作るにはやはり沢山のエネルギーが必要となります。エネルギー供給の危機は、直ちに工業生産額の減少に繋がります。また、供給不安が無くてもエネルギー価格の上昇は直ちに製品価格の上昇、輸出競争力の減退に繋がります。日本が今後も繫栄していく為には、エネルギーを、量的にも価格的にも安定的に確保する体制が必要なことは言うまでもありません

エネルギーの問題は我々の暮らしに直接関わっています;
照明、冷暖房、炊事・洗濯・掃除などの家事は、今や殆どの家庭で電化製品が使われています。
エピソード:戦後10年位までは、殆どの家庭で蝋燭を買い置きしていたのではないでしょうか。当時、停電は日常的に経験できることでした。停電しても照明以外は電気を必要としていなかったということもできます!

輸送機関(航空機、鉄道、バス、自家用車、等)は殆ど全て(徒歩の移動や昔ながらのリアカーによる輸送は別ですが!)エネルギー無くして稼働させることはできません。またこれら輸送機関は人の移動だけでなく、毎日の生活に直結している物流を担っており、エネルギー不足により物流が滞れば毎日の生活が、即危機に見舞われます
これらは何となくエネルギーに依存していることは実感できますが、これ以外にも、温室栽培の農産物利用、水産品の利用(漁船は石油無くして動かせません)、加工食品の利用、プラスティック等の石油由来の加工品利用、これらは全てエネルギーが途切れれば利用はできません。

今や、交通安全のインフラの一つである交差点の信号機やスマホで代表されるネットワークのシステムもエネルギー無くして利用は不可能です(災害発生時の一時的な停電で実感は出来ますが!)

こうしてみると、所謂文化的な生活や都市での生活は、好むと好まざるとに関わらず多くのエネルギーを消費することが前提となっている事がわかると思います。従って、エネルギー需給の問題は、誰かに任せておいてよい問題ではなく、国民一人一人が自分の問題として考えるべき問題ではないでしょうか

-エネルギーと温暖化-

パリ協定の内容は概略以下の通りとなっています;
目標:産業革命前からの気温情報を2℃よりも十分低く抑える(努力目標は1.5℃以内)
② 21世紀後半に人為的な温暖化ガスの排出量と森林などの吸収量を均衡させる
③ 全ての国に温暖化ガスの削減目標の作成と国連への提出、5年毎の見直しを義務付けると共に、世界全体で進捗を5年毎に検証する
④ 被害を軽減させる為に世界全体の目標を設定する
⑤ 先進国には途上国への資金の拠出を義務付けると共に、それ以外の国には自主的な拠出を推奨する
⑥ 日本はEUや、島嶼国、アフリカなど約百ヶ国からなる「野心連合」に加わりました。同連合は産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えることを協定に盛り込むよう働きかけました

日本の目標;
2015年6月:サミットに於いて「国内の温暖化ガス排出量を2030年までに2013年対比26%削減する」という目標を表明(日経記事:サミットで温暖化ガス26%削減を表明)しました
目標値の内訳:電源構成の見直しと省エネルギーの強化で21.9%削減、二酸化炭素を吸収する森林整備などで2.6%削減、代替フロン対策で1.5%削減
2030年度の望ましい電源構成;
①古くなった原発の活用を延伸し、原子力の比率を20~22%とする
②再生可能エネルギーの比率:22%~24%
③石炭火力発電の比率:30% ⇒ 26%
③LNG火力発電の比率:43% ⇒ 26%

2016年5月:閣議で「2050年までに温暖化ガスの排出量を、現在に比べ80%とする」と決定

日本は、他の国々に比べ足元で既に省エネ技術が織り込まれているエネルギー消費量であり、省エネによる削減の余地が少ないという事に注意をする必要があります。また、日本が国際的に約束した削減量を実現する為に、国としては原子力発電の比率を20%以上としていますので、原子力発電を認めない人々はこれをどう捉えればいいのでしょうか?

<参考>
*米国の目標:「2025年までに2005年対比26%~28%削減」
*EUの目標:「2030年までに1990年対比40%削減」
*温暖化についてはアメリカ元副大統領の“アル・ゴア”の著書「不都合な真実」(2007年日本語翻訳版出版)と、これを基にした映画で生々しい現状が世界的に知られるようになりました。現在最新の温暖化に関する情報をご覧になりたい方はWWFジャパンのサイトをご覧ください

-日本における再生可能エネルギー利用の現状-

経産省・資源エネルギー庁の「エネルギー白書2016」をご覧になると分かるのですが、2011年の福島原子力事故以降、再生可能エネルギーに転換すべく補助金や、電力料金・燃料料金などの上乗せなどの施策を取ってきましたが、未だエネルギー供給に占める割合は水力発電を除けば微々たるものです(2014年度時点で4.4%)。2030年までに達成しなければならない再生可能エネルギーの比率(22%~24%)を達成するには、以下の様な問題点を着実に克服していかねばなりません(日経記事:経産省が想定した電源構成);

Follow_Up;2022年9月_再生エネ廃棄・砂上の送電網_停電リスク軽視のツケ
*太陽光発電・風力発電の開発が急ピッチで進められる一方で、地域電力会社で発生した余剰電力を、電力不足が発生した他地域電力会社に融通できないで廃棄する事態が発生する様になってきました。地域電力会社間の送電網の整備を加速する必要が出てきました
Follow_Up;2022年9月_カリフォルニア州の熱波・再生エネ拡大の限界露呈

1.水力発電;
既に適地は開発済みであること、地質調査、環境調査、用地買収、水没地域住民に対する保証、長期に亘る工事期間、膨大な投資額、などを勘案すると新しい立地はほぼ不可能な状況にあります
因みに、発電用ダムの建設は1963年に完成した黒部第四ダムが最後となりました。また、八ッ場ダム(発電用ではない)に至っては1967年に建設を決定してから現在に至る(50年経過!)も完成していません
Follow_Up:八ッ場ダムは、2020年4月1日より運用を開始しました

八ッ場ダム

ただ、農業用水路などを利用する小規模の発電は、地産地消のレベルで今後導入が進む可能性があり、地方創生などの施策を進める中で着実に浸透を図っていく必要があると思われます(日経記事:安積疎水で水車発電

2.地熱発電;
地熱発電は火山国である我が国にとって地の利を得たエネルギー資源です。水力発電と同じく規模が大きく24時間一定の電力を発生させることができ、ベース電源として可能な範囲で開発を進める必要があります

地熱発電の仕組み
八丁原地熱発電所と地熱発電の仕組み

ただ、立地地域が国立公園や温泉地などに偏るため、規制緩和と併せ、景観維持や温泉湧出量への影響の評価が必要であり、建設開始までにかなりの時間がかかることを考慮しなければなりません

地熱発電立地地域
地熱発電立地地域

因みに、我が国における地熱資源量は約2000万KWと言われておりますが、そのうち80%以上(1600万KW)が国立公園の特別保護区域・特別地域内にあり、現在は開発出来ないことになっています。残りの400万KWの資源量の内53万KWは既に開発済みになっています

Follow_Up:2020年2月16日の日経新聞の記事/開発進まぬ日本の地熱 発電能力、10年で1%増 長期の環境アセスなど壁

3.風力発電;
風力発電は欧州などでは急速に開発が進んでいます。これに刺激されたものか、わが国でも近頃開発計画が目白押しです(日経記事:風力増強・原発10基分に

風力発電・石油備蓄@青森県
風力発電・石油備蓄@青森県

しかし、風力発電が我が国においてベース電源になり得るかどうかについては私は疑問に思っています。高校時代の地理で学んだことですが、西ヨーロッパは“西岸海洋性気候帯”に属しています。この気候帯では海からの穏やかな偏西風が地上付近で常に吹いており、風力の利用に適しています(オランダなどは昔からこの風を使って沢山の風車で干拓地の排水などを行っていました)。一方、日本ではアジア大陸の山岳地帯を越えた偏西風は高空のジェット気流となる為に地上近くの安定した西風にはなりません、また日本は“モンスーン気候帯”に属しており、台風の襲来など気象の変動が激しく風も一定しません。従って、発電機の数や能力を増強させても、利用可能な電力量は欧州などと比べて少なくなり、経済性も劣る可能性が考えられます
Follow_Up:2022年1月17日_日経新聞:洋上風力入札・三菱商事が圧勝_AmazonやGEが後押し
⇒ その後、風力発電事業の撤退相次ぐ
Follow_Up:2022年8月29日_風力発電「中止ドミノ」 関西電力に続きオリックスも
Follow_Up:2023年6月16日_230616_北海道知事、小樽の風力計画「地域の理解進んでいない」
Follow_Up:2023年6月17日_双日、北海道の風力発電計画中止 住民反対や資材高騰で
Follow_Up:2025年8月27日_三菱商事、洋上風力撤退を発表 中西社長「事業計画実現が困難」

また、風力発電の立地が増えるにつれ、超低周波の音波(耳では聞こえないものの、ガラス窓の振動や健康への影響が考えられる)の被害や、野性鳥類の衝突といった環境問題も無視できくなる可能性があります。また、風車が林立する景観は自然景観の保護の観点から如何か、という考え方もあります

発電量の変動が大きい問題については、“エネルギーを溜めることの問題点”の項で詳しく説明します

4.太陽エネルギーの直接利用
①太陽光発電
大規模太陽光発電の立地を促進するためには、電力事業者の買取価格を高く設定する必要があります。しかし先行するドイツなどで問題となっている様に、買取価格を高くすると発電量が大きくなるにつれて国民負担の増大と、産業競争力の低下を招くことになります。現在日本でも一時ほど普及が進まないのは、電力会社の買取価格が下がっている為です(日経記事:太陽光パネル底なし不況);

大規模な太陽光発電
大規模な太陽光発電

また、太陽光エネルギーはエネルギー密度が低い為に広大な面積を必要とします。緑豊かな日本の景観にマッチするかどうかに疑問がのこります。因みに、1キロワットの発電能力を持つ太陽光発電素子を設置するために必要となる土地面積は約10㎡と言われておりますので、1万キロワットの太陽光発電を行うには約千㎡の土地面積が必要となります。この発電能力は晴れた日の日中の発電能力ですから、実際に利用できる電力量はもっとずっと小さくなります(一般に太陽光発電の稼働率は年間千時間程度であり、24時間常に稼働できるベース電源に比べれば10%程度の稼働しか達成できないことになります)
日本は中緯度にあって水も豊かであり植物の生育には適しているものの、晴天率はそれほど高くはありません。肥沃な農地や豊かな森林を伐採してまで事業用として太陽光発電設備の設置を推進することには私は疑問を持っています

発電量の変動が大きい問題については、、“エネルギーを溜めることの問題点”の項で詳しく説明しますが、個人の住居で太陽光発電を導入し、冷暖房や温水のエネルギー源として使用することの他、電力余剰がある時にエネルギー使用を集中させるなど、個人個人のエネルギーマネージメントを促す効果があることを勘案すると、今後も補助金等により普及を促進することは理にかなっていると思われます
また、企業単位で導入しエネルギーマネージメントを行なえば、事業用電力の効率的利用に繋がる可能性があります
Follow_Up:2019年11月18日日経記事:太陽光発電買い取り終了、通知遅れ家庭混乱 大手電力に批判の声

②人工光合成
植物の行う光合成は極めて効率がいいことは確かですが、光を人間が利用できるエネルギー生産のみに着目すると1%程度の効率といわれています。最近研究が進んでいる“人工光合成”は未だ実験室レベルではありますが技術開発が進みつつあり、植物の光合成よりも効率よくエネルギーに変換できる物質を作り出すことに成功しています(日経記事:人工光合成の研究)。この技術が、政府が約束している温暖化対策に間に合うかと言えば、もうちょっと先の話の様に思われます

5.バイオマスの活用
①バイオマス発電、等
既に日本各地の主として森林地帯で林業の副産物である間伐材、廃材、などを燃焼させて発電や地域暖房に活用され始めておりますが、大規模化を測ろうとすると製紙業との競合が起こりうまくいきません。地方創生との関連で林業との調和を図っていくことが理に適っていると思われます
最近、薪ストーブやおがくずチップによる暖房が、豊かで快適な生活のシンボルとしてメディアにも登場しますが、これも林業との調和を図ってこそ意味のあるエネルギー活用の方法なのかなと思われます
Follow_Up:北海道河東郡鹿追町・バイオマスタウン構想

②バイオマス燃料(アルコール発酵)
既にトウモロコシなどの穀物のアルコール発酵で量的にも価格面でも実用化されており、環境問題が大きく取り沙汰された時期にガソリンやジェット燃料に混ぜての利用が進みました。しかし食物生産との競合関係が明らかとなり(トウモロコシを主食とする貧しい国々の食費の高騰、結果としての飢餓の発生)、大規模化には限界があると考えられています

③藻類、微生物などの活用
倫理的な問題が発生する可能性のある食用穀物のエネルギー利用に代わって、最近は成長が早く、高密度の生産が可能な藻類や微生物などによるエネルギー生産の研究が盛んになっています。未だ実験段階で生産コストもかなり高いのですが、温暖化に関わる企業責任を果たす為、航空機メーカー、航空会社などはこうした燃料の導入(現在のままで推移すると、2050年には航空機のエンジンが排出する炭酸ガスが、全世界の排出量の3%に達すると言われています)に積極的に関わっています;
航空機メーカー:航空機メーカー3社・バイオ燃料開発協力
日本航空:ゴミ由来の燃料実用化へ実証設備
全日空:バイオ燃料を実用化_ユーグレナ
Jパワー:藻から燃料油一貫生産

―エネルギーを溜めることの問題点-

既に述べてきた様に、水力発電、地熱発電、火力発電、原子力発電などは24時間稼働が可能であり、極めて安定的な電力供給が可能ですが、これから再生可能エネルギーの主役となるべき風力発電、太陽光発電は、電力供給能力が大きく変動します。一方、電力需要も季節により、時間帯により大きく変動します;

1日の電力需要_概念図
1日の電力需要_概念図

上図を見れば、現在はベース電力にもなり得る化石燃料によって発電の出力を調整して需要の変動に対応していることが分かります。この部分を供給側で変動の大きい風力発電、太陽光発電に振り替えると、どの様な事が起こるか想像できると思います。化石燃料の設備稼働を極端に犠牲にして余力を持たせるか、あるいは風力発電、太陽光発電の電気を一時的に溜めておくか、しか方法がありません

<Follow-up>
* 2018年10月13日の日経新聞に以下の様な記事が出ていました:181013_九電・きょう太陽光制御_発電業者に停止要請181013_太陽光普及・壁浮き彫り 送電網や蓄電池_対策急務

揚水発電とその仕組み
揚水発電とその仕組み

現在ピーク供給力の一部を担っている“揚水式発電”、“調整池式水力発電”、“貯水池式水力発電”の能力を拡充することも考えられますが、これが可能であれば現在でも化石燃料による供給調整にとって代わることができるはずですが、発電効率が極めて低いこと(約10%程度にしかならない←発電ロスに加え、揚水時のエネルギーロスが大きい)、立地に適した場所が少ないこと(調整池、貯水池の為に広大な面積が必要)、漏水等の環境破壊の恐れがあること、などの問題があり現在以上の立地は相当困難であると考えられています

Follow_Up:2023年1月:揚水発電維持へ経産省が投資支援_再エネ安定供給狙う

蓄電器で電気を溜める方法
しからば、リチウムイオン電池など最新のバッテリー技術を使えば大量の電力を保存できるのではないかと考え付きますが、実は大量の電気エネルギーを溜めるという事は性能が良ければよい程危険が大きいものです。最近突然発火して発売停止になったサムスンの最新スマホを例にとると、内蔵されているリチウムイオン電池の電気容量は3.5アンペア・アワー(3.5アンペアの電流を1時間流すことができる能力があります)、出力電圧は3.7ボルト程度のものでした。しかし、リチウムイオン電池は内部抵抗が低い(性能がいい!と同義です)のでプラスとマイナスの電極が短絡すると、この電気エネルギーが一気に放出されて熱に代わることになります。このエネルギーの大きさは;

3.5アンペア x 3.7ボルト = 約13ワット・アワー ⇒ 約11キロカロリー

となります。これは1リットルの水を沸騰させることができるエネルギーで、金属などであれば比熱が小さいので、一瞬の内に高温になり発火することになります

現在、最も大きい電力量を溜めることができる事業用のバッテリーは、日本ガイシ(株)が開発したNAS電池です。この電池の容量は300万キロワット・アワーに達します(NAS電池の性能)。このエネルギーの大きさを、ちょっと例えは悪いのですが、TNT火薬の発生するエネルギーに換算してみると、なんと2581トンに相当します。勿論火薬ではないので爆発的にはならないとは思いますが、何らかの理由でプラス極とマイナス極が短絡すると、大きなエネルギーが一気に放出され災害に結びつく可能性を否定できません

いずれにしても大規模な電池で、大きな需要の変動を埋めることは当面可能性が低いと考えねばなりません。勿論家庭で太陽光発電と併せて使う電池として、また企業単位で風力発電や太陽光発電と組み合わせて使う分には十分実用に足る性能が実現しており、多くのメーカーが参入しています(日経記事:企業の温暖化対策

Follow_Up:2022年になって、再生エネルギーを貯める手段については色々なアイデアが出てきました;詳しくは以下の日経記事をご覧になって下さい:再エネ蓄電を低コストに_住友重機出資の英新興など実用化へ、空気や重力使い半減

-原子力エネルギーの未来―

現在原子力発電の安全性に疑問を持っている国民が多い中で、国として原子力発電の稼働を前提としてパリ条約に対応していくことを決断した理由は理解して頂けたと思いますが、可能であればできるだけ早く将来持続可能なエネルギーに切り替えていく必要があることは言うまでもありまません。40年を超える原発の再稼働は、新しい持続可能なエネルギーが実用可能になるまでの時間稼ぎという事もできると私は思っています

一方、膨大な温暖化ガスの排出国である中国インドがパリ条約に参加しましたが、この国々は目標達成の為に多くの原子力発電所の建設を計画していることはご承知の通りです。日本は米国やフランスと並んで原子力発電所の建設や運用に関しては間違いなく先進国です。先進国の責任として事故の教訓を生かし、これらの国々の技術面のリーダーとして活躍することはむしろ義務であると考えられます。事故が起これば放射線の被害は軽々と国境を越えてゆきます。日本だけが脱原発を実現すればよいという考えは間違いだと思います

尚、当面原子力発電を継続することとなれば、放射性廃棄物処理の問題が気になると思っておられる方が多いと思います。現在、高レベル放射性廃棄物を地下深く埋設することを、場所を含めて決めている国はフィンランドのみです。フランスは実験段階ですが取り組みを強化しているようです。米国では一旦ユッカマウンテンに埋設することに決めたのですが、住民の反対により取り止めとなりました。日本も北海道で研究は進めているものの、埋設実現までは未だ長い道のりがあると思われます。また、六ヶ所村の廃棄物処理施設でのガラス固化の技術も未だ確立されていません。お先真っ暗の様ですが原子力発電所の再稼働が、持続可能なエネルギーが実用可能になるまでの時間稼ぎという位置づけであれば、当面現在の技術で原子炉施設内に廃棄物を格納することも可能だと考えられます。近い将来の実現は難しいのですが、私個人としては高速炉などを使って半減期の長い放射性廃棄物を減らす研究に期待することにしたいと思っています

持続可能なエネルギーの本命は、核融合炉の開発だと思いますが、これは今世紀中に実現することは難しいと言われています。既存の技術の延長で比較的近い将来可能と考えられるものに、高温ガス炉活用による水素社会の実現があります。水素をエネルギー源とする社会はすぐそこまで来ていますが、現在は水素を作り出すには炭酸ガスも発生させてしまいます。高温ガス炉が実用化すれば、温暖化ガスの発生無しに直接水素を取り出すことが可能になります

原子力発電に依存しない社会を築くためには、国家や企業だけでなく個人個人のレベルでも省エネ化の取り組みを強化することも大変重要なことです。太陽光発電と電池の組み合わせによる電力の自給化は、お金はかかるものの、技術上のハードルは殆どありません。私はお金がないのでこのシステムは、多分死ぬまで導入できませんが、せめて自分が輩出している温暖化ガスを把握しその排出量の削減に地道に取り組んでみたいと思っています。因みに、拙宅での昨年一年間の炭酸ガス排出量を計算してみました;

ガソリン消費量:810リットル、都市ガス:1,654㎥、電気:11,633KWH ⇒ なんと拙宅の炭酸ガス放出量は11.9トンでした!

以上